説明

臓器および細胞の生存能力を維持するための組成物

本発明は、臓器、組織、および細胞が正常な生理的支持体から分離されたときに、それらの生存能力を維持するためのナノ粒子組成物を対象とする。ナノ粒子組成物を含有する組成物、ならびにin vivoおよびex vivoの双方で腎臓などの臓器を保存する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示内容を参照により本明細書に組み込む2003年5月9日出願の米国特許仮出願第60/469,200号からの優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、臓器、組織、および細胞のより長期間の保存、特に移植のために提供された臓器の保存のための組成物、ならびにそれらを製造および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
臓器移植医療の技術分野の進歩により、ドナーから生存可能な臓器、組織、および細胞を得る需要が高まっている。組織および血液型の適合の点で厳密な条件があり、提供の供給源が限られていることから、利用可能な心臓、肝臓、肺、腎臓などの供給量は、延命効果のある移植を待機している患者の数より一般にかなり少ない。したがって、限られた供給量の提供臓器を最適化する必要が引き続き残っている。当技術分野が提供臓器の利用可能性を最大にするために探索した1つの方法は、提供後の臓器保存を改善することによるものである。
【0004】
一般に、現在のドナー臓器の保存プロトコールは、正常な血液供給から切り離された臓器のためにin vivo様の生理状態を再現しようとするものではない。その代わりに、低温(20℃未満、通常約4℃)および等浸透圧のクリスタロイド液中での保存を利用している。心臓保存用の最も一般的な溶液は、ウィスコンシン(Wisconsin)大学溶液(UW)、St Thomas溶液、およびスタンフォード(Stanford)大学溶液(SU)である。
【0005】
通常の栄養供給源、例えば、生きている動物またはヒトの血液循環から切り離された臓器の生存能力を保持するためのこの方法および現在の他の方法は、pH緩衝作用、浸透圧の平衡、および/または、例えば、グルコースおよび僅かな他の基礎栄養物一式の形のいくらかの最低限の栄養維持をもたらすようにデザインされた維持溶液を用いてその臓器を接触および/または灌流させることに依存している。この手法は、通常、水の氷点直前まで臓器温度を低下させることと組み合わせられる。これは、臓器組織の代謝速度を低下させ、それにより、栄養物の消費および不要生成物の産生を遅らせるためのものである。当技術分野で既知のこれらの保存液には、例えば、塩、糖、浸透物質、局所麻酔薬、緩衝剤、および、単なる例に過ぎないが、Berdyaevらによる米国特許第5,432,053号およびBelzerらにより記載されている他の作用物質を様々な比率で含有してよい等張生理食塩水、ならびに、米国特許第4,798,824号、4,879,283号、4,873,230号、Taylorによる米国特許第5,405,742号、Dohiらによる米国特許第5,565,317号、Sternらによる米国特許第5,370,989号および第5,552,267号により記載されている製品ViaSpan(登録商標)が含まれる。製品ViaSpan(登録商標)のデータシートでは、低温洗浄および臓器の保存用のパイロジェンフリー無菌溶液としてこの製品を説明している。この溶液の容量モル浸透圧濃度は概算で320mOsMであり、ナトリウム濃度は29mEq/L、カリウム濃度は125mEq/L、pHは7.4である。
【0006】
ピルビン酸塩、細胞膜電位を維持する無機塩、およびアルブミンまたはウシ胎児血清を含む保存液が米国特許第5,066,578号で記載されている一方で、米国特許第6,495,532号および第6,004,579号は、卵白などの増強物質(enhancer)とともに1種または複数のホスファチジン酸または糖、およびリゾホスホチジン酸または糖を含み、場合によってはリポソーム組成物中で送達される臓器保存組成物を記載している。
【0007】
この方法で低温保存で維持される臓器の保存および輸送は、依然として時間に限りがある。提供臓器の不足が続いていることから、再移植の前に保存または輸送する時間を延長することが長年必要とされており、今なお必要である。再移植のために保存時間を短くする1つの重要な理由は、冷却保存の間に損傷を負い、その後で加温および移植レシピエントの血液による再灌流の間に組織損傷が起こるためであるという仮説が立てられている。
【0008】
例えば、米国特許第6,004,579号および第6,495,532号により記載されているように、保存中の細胞または臓器組織のアポトーシス(プログラム細胞死)を防ぐために、様々なリン脂質を含むリポソーム組成物を使用することによってこの問題を軽減することが提案されている。しかし、この提案の方法では、保存中の臓器の生存能力および寿命において求められている改善は得られていない。この提案方法も、組織中へのリン脂質の望ましくないレベルの取り込みを含めて、いくつかの欠点を抱えている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
容易に理解できるように、任意選択で組織および細胞の生存能力を高く維持するのに適した酸素運搬体と組み合わせられる、in vivoおよびin vitroの双方で、正常な循環支持体から離れた状態でより長い期間、生存可能な臓器、組織、さらには細胞をより良く保存するための組成物および方法が、当技術分野で長年に渡って必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様では、細胞生存能力を維持するための2相組成物が提供される。この組成物は、基本栄養培地(base nutritive medium)を含む第1相と、親油性外被膜および親水性内部コアを有するナノ粒子を含む第2相とを含み、
a)第1相は、生理的に適合する濃度/量の水溶性または水分散性の栄養物、および生理的塩類を含み、
b)第2相のナノ粒子は、以下のもの、すなわち、脂質、脂肪酸、ステロール、遊離脂肪酸、任意の細胞増殖因子のうちの1種または複数を含み、
c)2相組成物の重量モル浸透圧濃度は、少なくとも約300mOsM/kgである。
【0011】
2相組成物のpHは、好ましくは、約7.2〜約7.4である。そのコア部分はオレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、およびその組合せなどの遊離脂肪酸を含んでもよい。あるいは、この親水性内部コアは、ヘムタンパク質など酸素を結合および放出できる成分を有する溶液または懸濁液を含むこともできる。さらに別の態様では、親水性内部コアは、薬物または他の治療薬剤など生物活性成分を含む。好ましくは、本発明の組成物は正常な体液より高い重量モル浸透圧濃度を有し、例えば、好ましくは、少なくとも約300、より好ましくは約385〜425mOsM/kgの範囲である。
【0012】
本発明の代替態様では、親油性外被膜とヘムタンパク質など酸素を結合および放出できる成分または生物活性成分を含む溶液または懸濁液を含む親水性内部コアとを含むナノ粒子を含有する別の組成物と混合された前述の組成物(すなわち2相組成物)を含む3相組成物が提供される。
【0013】
本発明の別の態様では、本明細書に記述する2相組成物および3相組成物を調製する方法、ならびに、本明細書で記述する組成物の有効量中に組織または臓器(organ)が保存または維持される、ex vivoで哺乳動物組織または哺乳動物臓器を保存または維持する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
したがって、本発明は、in vivo、ex vivo、および/またはin vitroで細胞、組織、および臓器を保存/維持するための組成物、ならびにこれらの組成物の製造方法および使用方法を提供する。広範には、本発明の組成物は、非低温範囲、例えば、約20〜約37℃の範囲の温度で、in vivoおよびex vivoの双方で、細胞、組織および/または臓器の健康および生存能力を維持するための維持用(supportive)および/または保存用の(preservative)栄養物、ならびに他の物質を含むように調製されたリポソームおよび/またはナノ粒子を含み、また、組み込む。本発明の組成物は、当然、20℃未満〜約4℃の範囲である、当技術分野で通常使用される低温範囲で使用することができる。保存されている臓器/標本が保存されている場所の温度に関わらず、本発明の組成物は、従来技術の組成物と比べて、より良い結果をもたらす。これらの望ましい結果は、本発明の2相溶液を使用するときに観察できるが、任意選択の酸素運搬体をこの組成物の一部分として、または場合によっては好ましい3相組成物の一部分として含むとき、さらに有利な結果が得られる。
【0015】
いくつかの任意の実施形態では、本発明の組成物は、酸素運搬体、例えば、ヘム部分を含む酸素運搬体とともに調製される。好ましくは、これは、ヘモグロビン、あるいはリポソームおよび/またはナノ粒子中に組み込まれたヘモグロビンの誘導体である。当技術分野で既知のヘモグロビンベースの酸素運搬体の2、3の代表例は、そのそれぞれの開示を参照により本明細書に組み込む米国特許第5,674,528号、第5,843,024号、第5,895,810号、第5,952,470号、第5,955,581号、第6,506,725号、第6,150,507号、第6,271,351号によって記載されている。含まれるヘモグロビンまたは酸素運搬体の量は、所望の治療結果を実現するのに有効な量として記載されている。これは、選択する組成物および当業者の必要に応じてある程度変わるが、たいていの場合、最終溶液の約0.01%〜約10%の範囲の量で存在する。
【0016】
本発明は、臨床死が起こった後ではあるが目的の臓器または組織が提供のために摘出される前に、動物またはヒトの組織または臓器を処理(treating)または維持する(supporting)方法も含む。最適な保存および輸送のために浸透圧および栄養分の維持を必要とする臓器はどれも、in vivoおよびin vitroの双方で本発明の組成物から恩恵を受ける。
【0017】
本発明の組成物を用いた灌流および/または接触によって保存する臓器および組織には、腎臓、肝臓、肺、心臓、心肺、膵臓、消化管の他の臓器、血管、内分泌系の臓器または組織、皮膚、骨、ならびに、数が多すぎて挙げられないが他の臓器および組織が含まれる。
【0018】
本発明は、このような維持治療(supportive treatment)を必要とする生きている動物またはヒトを治療するための方法も含む。すなわち、例に過ぎないが、本発明の組成物は、外傷が原因で急に正常な血液循環を絶たれた臓器または組織のために局所的もしくは全身的な循環維持(support)または灌流維持(support)をもたらすのに有用である。例えば、部分的に切断された手足、または類似した状態を維持する(support)ために、損傷を受けた血管系を外科的に修復するまで、本発明の組成物を輸注または一時的に循環させる。
【0019】
本発明はさらに、外科的処置の間、例えば、局所の血液循環が遮断されまたは弱められる状況で、無損傷の組織および/または臓器を保存および保護するための方法も含む。このような状況には、例えば、局所的または全身的な循環遮断を必要とする外科的処置の一部として、組織または臓器の灌流が含まれる。本発明の組成物は、疾患または事故によって損傷された解剖学的部位を修復する間または修復する前に使用することも企図されている。例えば、完全な循環を修復する前に、完全にまたは部分的に切断された指または手足を保存するのに役立つ。
【0020】
本発明の組成物が、生存可能な細胞、臓器および他の培養技術が生物医学の基礎研究および応用研究のために必要とされる研究の場ならびに/またはin vitroで組織の生存能力を保持することが必要な診断手順において、ヒトおよび動物の双方の細胞、組織、および臓器を保存するのに有用であることもさらに企図されている。
【0021】
本明細書では、「臓器」という用語は、固形臓器、例えば、腎臓、心臓、肝臓、肺、ならびに臓器の機能部分、例えば、皮膚切片、動脈の一部分、肝臓、腎臓、肺の移植可能な葉などを含む。「組織」という用語は、本明細書では、別段の指定がない限り、骨髄細胞および子孫細胞、血液幹細胞および子孫細胞、ならびに当技術分野で既知の様々な他の血液成分を含めて、凝集した形態の生存可能な細胞性物質、例えば、臓器の小さな部分、ならびに分散した細胞、例えば、心筋、肝臓、または腎臓から分散、分離、および/または増殖させた細胞を意味する。
【0022】
本明細書では、「ナノ粒子」という用語は、好ましくは親油性外層および親水性コアを有し、サイズ(平均直径)が約100nm〜約300nmの範囲、より好ましくはサイズが約100nm〜約200nmの範囲である、2層のエマルジョン粒子と定義される。
【0023】
さらに、説明の便宜上、単数の用語を使用することは、決してそのように限定しようとするものではない。すなわち、例証に過ぎないが、「ナノ粒子(a nanoparticle)」を含む組成物に言及することは、別段の記載がない限り、そのようなナノ粒子のうちの1つまたは複数に言及すること、例えば、所期の目的に対して十分なナノ粒子を用いて調製することに言及することを含む。
【0024】
本発明の組成物
広範には、また、本発明の最も好ましい態様では、本発明の組成物は、2相、すなわち、水性の基本栄養培地およびエマルジョン粒子、例えば、リポソームまたはナノ粒子を含む。基本栄養培地は、アミノ酸、塩、微量元素、ビタミン、単純炭水化物などから選択されるものを含めて、様々な成分の組合せを含む。さらに、この基本栄養培地に、水性培地に溶解または分散した状態で、緩衝剤、抗酸化薬、代用血漿、エネルギー基質、キサンチンオキシダーゼ阻害薬などを含むことができる成分の組合せを補給する。
【0025】
したがって、この基本栄養培地は、それらの一部は天然の血液成分ではないが、血液、血清、血漿、および/または正常体組織中に存在する濃度に類似した濃度の多数の栄養要素およびミネラル要素を含む。例えば、緩衝剤は、血液の緩衝系の代わりをするために存在し、デキストランおよびマンノースは、血液タンパク質などによって通常与えられるよりも高い容量モル浸透圧濃度を与え、グルタチオンは、保護物質であり、ヘパリンは、血液凝固を最小限に抑えるために存在し、イーストライト(Yeastolite)は、ビタミンを補給する。
【0026】
いくつかの任意選択の実施形態では、本発明の組成物は、1種または複数の当技術分野で既知の抗生物質、抗菌薬などの抗菌性物質、特異的抗体ならびに/あるいは臓器、組織および/または細胞における微生物汚染を制御するための当技術分野で既知の他の作用物質をさらに含む。当技術分野で最も知られている抗菌剤は、詳細には、その全体を参照により本明細書に組み込むGoodman&GilmanのTHE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS、第10版、McGraw Hillを、特に43〜51章に注目して参照されたい。
【0027】
いくつかの別の任意選択の実施形態では、本発明の組成物は、以下のもの、すなわち、例えば、ヘパリンおよび関連のグリコサミノグリカン;ジクマロール、フェンプロクモン、アセノクマロール、エチルビスクムアセテート、インダンジオン、およびそれらの誘導体;アスピリンおよびジピリダモールなど、臓器の準備、保存および移植の間の凝固またはフィブリン形成を防止するための抗凝血薬、血栓溶解薬、および抗血小板薬のうちの1つをさらに含む。いくつかの実施形態、例えば、炎症プロセスが、例えば移植用の臓器、組織、または細胞の有用な保存寿命を短縮する原因であると考えられる場合は、非ステロイド系抗炎症薬も、任意選択で含まれる。前述の薬剤のいずれも、参照により組み込むGoodman&Gilmanの同書によって、より詳細に発表されている。これらの化合物の含まれる量は、所望の治療結果を実現するのに有効な量として記載されている。これは、選択する組成物および当業者の必要に応じてある程度変わるが、たいていの場合、最終溶液の約0.01〜約10%の範囲の量で存在する。
【0028】
本発明の組成物の第2相は、容易に細胞膜を通過する親油性外層および細胞内で送達される親水性内層を有する粒子中に、例えば、脂質、脂肪酸、ステロール、および、任意選択で血管内皮細胞を含めた生細胞の生存能力にとって重要と考えられる増殖因子または他の物質を組み込んだ脂質-水性エマルジョンを含む。
【0029】
不明のタンパク質も動物血清も含まない多くの市販の細胞または組織培養用培地製品は、それらの培地が本発明の組成物の特定の条件に適合することを条件として、本発明の組成物を調製するための基本栄養培地または開始点として役立つように適合させることができる。例えば、本発明の組成物は、前述の細胞用基本栄養培地に加えて、以下の特徴および成分を有することが好ましい。すなわち、
細胞内ATPエネルギープールを補給し、灌流および保存プロセスの間の好気的代謝に供給するためのエネルギー基質と、
遊離酸素基による再灌流損傷を軽減するための抗酸化薬および/またはキサンチンオキシダーゼ阻害薬である。
【0030】
親油性外層および親水性内部コアを有する「ナノ粒子」脂質エマルジョンまたはリポソーム成分。これは、脂質および/またはステロールの外膜、必須脂肪酸、および親水性内部コアを含む。この親水性内部コアは、タンパク質由来増殖因子などの必須物質、および任意選択でATPなどの追加物質などを含む。
【0031】
いくつかの任意選択の実施形態では、この内部コアは、例えば、2、3のタイプの酸素運搬体の名前を挙げると、天然由来のヘム、摘出された臓器もしくは組織中で酸素を輸送および送達し、二酸化炭素を除去するのに有効な酸素飽和曲線を有するように任意選択で変異させまたは化学的に修飾した組換え型ヘム、ならびに/あるいは人工の水溶性ヘムを含めて、適切な酸素運搬体、例えば、ヘムタンパク質またはヘムタンパク質の溶液もしくは懸濁液を含むことができ、あるいは、それらで置き換えることができる。
【0032】
有利には、本発明の組成物は、最も好ましい実施形態では、動物血清も不明のタンパク質も含まない。
【0033】
本発明の組成物がどのように機能し得るかということに関してどの理論や仮説にも拘泥するものではないが、処理された細胞の細胞膜と接触すると、疎水性外層が細胞膜と融合し、本発明のナノ粒子の親水性コアがそれらの細胞によって細胞質中へと取り込まれることが可能となり、それにより、生存能力を高める補給的エネルギー化合物および重要な増殖因子を送達すると考えられている。また、正常体液の重量モル浸透圧濃度と比べて高い重量モル浸透圧濃度が、細胞膨潤を軽減し、血管細胞の完全性の保持を容易にするように機能するとも考えられている。
【0034】
好ましい実施形態では、この基本栄養培地は、塩、水溶性ビタミン、アミノ酸、およびヌクレオチドを生理的に適切な濃度で含む。これらには、単なる例に過ぎずそれだけには限らないが、アデノシンとそのリン酸塩、ウリジンとそのリン酸塩、他のヌクレオチドおよびデオキシヌクレオチド;ビタミンB群、例えば、B1、B2、B6、B12、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸塩など;ビタミン系コエンザイムおよびコファクター、例えば、ニコチンアミドおよびフラビンアデニンジヌクレオチド、ならびにそれらのそれぞれのリン酸塩、およびコエンザイムAなど;様々な生理的塩類および微量元素、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、銅塩、亜鉛塩、および鉄塩;20種すべての天然アミノ酸および/またはそれらの誘導体が任意選択で含まれるが、必須アミノ酸が含まれる。この基本栄養培地は、例えば、リン酸緩衝液やN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸)(「HEPES」)緩衝液などのpH緩衝液;単糖、例えば、グルコース;任意の適切なデキストラン、マンノースなど浸透圧上昇物質(enhancer);ならびに、アロプリノール、コンドロチン、コカルボキシラーゼ、生理的有機酸、例えば、ピルビン酸など任意選択の多種多様な成分、および任意選択で、天然供給源から得た栄養抽出物、例えば、酵母ビタミン抽出物も含む。
【0035】
1つの代替実施形態では、ビタミンC(アスコルビン酸)が、生理的濃度または生理的濃度より高い濃度で任意選択で含まれる。
【0036】
この組成物の第2相は、親油性外層および親水性コアを有するリポソームまたはナノスケール粒子を含む脂質-水性エマルジョンである。通常、この第2相は、例えば、コレステロール、ホスファチジルコリン、ビタミンE、タラ肝油などを含めて、外側の親油性の層を形成および安定化することができる親油性成分を含む。追加成分には、生理的に適合する量のリノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの遊離脂肪酸および機能的等価物を含めて、脂質ベースのエネルギー供給源が含まれる。
【0037】
別の好ましい実施形態では、この第2相は、ヒドロコルチゾン、チロキシンなど親水性の維持用(supportive)内分泌因子またはその誘導体なども含む。さらなる維持用(supportive)成分として、例えば、細胞増殖因子、例えば、生理的に適合する量の血管内皮増殖因子、血小板由来内皮増殖因子、上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、血小板由来内皮増殖因子などを含めて、上皮および内皮の増殖因子を挙げることができる。任意選択で第2相に含むことを企図される他の因子には、プロスタグランジン、例えば、プロスタグランジンE1などの細胞間伝達物質が含まれる。好ましくは、生理的に適合する界面活性物質および界面活性剤、例えば、1種または複数の水溶性界面活性剤、好ましくは、ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体界面活性剤(例えば、BASF社のプルロニックF-68)など分子量数千ダルトンの両親媒性ブロック共重合体、ならびに/あるいは非イオン界面活性剤も含まれる。適切な非イオン界面活性剤には、例えば、ソルビトールエステルのポリオキシエチレン誘導体、例えば、TWEEN(登録商標)(Atlas Chemical社)として市販されているモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン界面活性剤が含まれる。TWEEN80(登録商標)が特に好ましい。本発明の2相組成物のコア部分は、好ましくは、薬学的に有意な量のホスファチジン酸および糖、ならびにリゾホスホチジン酸および糖を含まない。
【0038】
本発明の組成物の調製
本発明の組成物は、通常、2ステップの方法によって調製する。第1ステップは、最終生成物のための構成単位として使用する必要成分の特定の組合せを調製することである。第1ステップの1つの重要な役割は、前述の基本栄養培地であり本明細書ではPremix-Iと呼ぶ、第1相用のプレミックスを調製することである。この第1ステップの最終の役割は、所望の成分が水中でプレミックス、溶解、および/または懸濁された、本明細書でPremix-IIと呼ぶ第2相用のプレミックスを調製することである。次に、微細エマルジョン、例えば、上述の約100nm〜約200nmの平均直径を有するナノ粒子を含むナノ粒子スケールのエマルジョンを得るのに有効な条件下で、マイクロフルイダイザーまたは類似したそのような装置にこのPremix-II組成物を通して加工する。次に、得られるPremix-IIベースのエマルジョン組成物を様々な微量栄養物および他の成分を提供するPremix-Iと混合して、本発明の組成物の製造を完了させる。
【0039】
プレミックス組成物の調製
調製物I:以下の表1〜4は、本明細書でPremix Iと呼ぶ第1相とPremix IIから製造したナノ粒子を含有する第2相とを含む、1つの好ましい実施形態で存在する成分のための好ましい成分のうちのいくつかおよび重量範囲を要約するものである。表に記載した成分は、すべての加工の完了後に、好ましくは最終組成物1リットル中に存在する量である。本明細書の以下で論じる実施例によって臓器保存組成物を調製する方法により成分を分類するために、説明の便宜上、成分をこれらの表に分類する。別段の定めがない限り、以下の表に示す量はすべて、最終組成物、すなわち、水相とエマルジョン相の双方を含む組成物1リットル当たりのグラムである。
【表1】

【表2A】

【表2B】

【表2C】

【表3】

【表4】

【0040】
表1〜4に示す成分の量は、1リットルの全バッチ体積に基づいている。本明細書で例示するように、1リットルのバッチ体積は、Premix-IIをマイクロスケールまたはナノスケールのエマルジョンに加工してから、Premix-IとPremix-IIの双方を組み合わせた後の最終体積である。記述する方法は、必要に応じて、より小さなまたはより大きなバッチサイズに容易に、スケールアップまたはスケールダウンされることが当業者には理解されよう。
【0041】
本発明の組成物の調製で使用するすべての化学物質は、ほぼ純粋なものであり、生化学物質の多数の供給企業から入手可能である。好ましくは、これらは、USPグレードのものまたは等価物である。同じ純度および活性を示すほぼ等価な化学物質を使用する化学物質の代わりに任意選択で使用することが当業者には理解されよう。
【表5】

【0042】
他の様々な試薬には、pH滴定に使用する5N NaOH、5N HCl、および95%純粋エタノール(「EtOH」)が含まれる。
【0043】
Premix-Iの製造方法
望ましくない反応を回避しつつ均一かつ清澄な水性組成物を得るのに、または不溶性の複合体を形成するのに有効な順番で、成分を溶解または分散させることによって、Premix-Iを調製する。このため、Premix-Iの成分は、すべてが水に完全に溶解または分散されるまでは、一緒に混合しないことが好ましい。本明細書で例示するように、表1、2A〜2C、および表3により記載した成分を3種の異なる出発溶液にそれぞれ加工することが好ましいが、当業者には、この基本組成物は、例示したスキームの変形法によって場合によっては調製されることが理解されよう。次に、表1、2A、2B、2Cおよび3の個々の成分の溶液をベースとする出発物質を組み合わせて、非エマルジョンの基本栄養培地を構成するPremix-Iを調製する。
【0044】
Premix-IIの製造方法
Premix-IIは、本発明の組成物のエマルジョン形成成分を含む。広範には、これらは、得られるエマルジョン粒子の親水性層、例えば、本発明に従って治療する臓器、組織、または細胞において細胞内で送達されることが望まれる成分を含む。Premix-IIは、得られるエマルジョン粒子の疎水性層、例えば、維持用内分泌因子、乳化を助けるのに適切な薬剤、例えば、湿潤剤および/またはブロック共重合体界面活性剤、ならびに、コレステロールおよび/またはリン酸誘導脂質などの疎水性の相成分を含めて、親水性コア内容物を送達するための生細胞膜との融合を可能にする親油性外層を形成する成分も含む。好ましくは、これらは上記の表4に挙げたものであり、以下の実施例で記述するように組み合わせる。
【0045】
II.マイクロフルイド化
5000psi以上の圧力での高圧均質化の技術は、当技術分野では「マイクロフルイド化(microfluidation)」として知られている。好ましくは約100nm〜約300nm、より好ましくは約100nm〜約200nmの平均直径を有するサイズ分布が均一なリポソームまたはナノ粒子を作るのにこの方法を使用した。本発明の代替態様では、この粒子の平均直径は200nm未満である。マイクロフルイド化の他に、他の標準の乳化法、例えば、音波処理、バルブを用いた均質化[Thornberg, EおよびLundh, G (1978年) J. Food Sci. 43:1553頁]、ブレード撹拌などを任意選択で使用する。望ましくは、被覆粒子が形成するときに凝集しないようにそれらを安定化するために、水溶性界面活性剤、好ましくは、ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体界面活性剤(例えば、BASF社から市販されているプルロニックF-68)および/またはTWEEN80など分子量数千ダルトンの両親媒性ブロック共重合体を水溶液に加える。界面活性剤は、(超)音波処理法を使用する場合は、その効果を高めるのにも役立つ。
【0046】
本明細書で例示するマイクロフルイド化に好ましい装置は、密閉型の空気圧縮機、例えば、Sullair Solutions社(Michigan City、Indiana州)製のNo. ES-6によって供給される圧縮空気を用いるマイクロフルイダイザー No. HC5000V(Microfluidics社、Newton、Massachusetts州)である。前述の装置は、Premix-II組成物の処理および乳化のために高圧および高剪断力の均質化を行い、所望のサイズ範囲内のナノ粒子を提供する。
【0047】
簡単に言うと、マイクロフルイダイザーを用いる高圧均質化によって、Premix-II組成物を加工した。Premix-IIをマイクロフルイダイザー槽に連続的に加え、特別に設計されたキャビテーションまたはインターラクションチャンバーに押し込み、そこで、高剪断応力およびキャビテーション力によって、細かく分割されたエマルジョンを形成させた。このサイクルを複数回繰り返し、液滴またはリポソームの平均サイズ、分布、および成分の組合せにより、所望の最終生成物、例えば、好ましいナノ粒子を得た。
【0048】
マイクロフルイダイザー モデルNo. HC5000Vの操作に関するさらに詳細な内容は、カタログNo. 85.0112としてMicrofluidics社から入手可能な製造業者の操作マニュアルによって提供されており、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0049】
本発明による第2の調製物(式II)は、以下の表6〜10に示す材料をベースとする。この調製物を調製するための方針は、以下および実施例に示す。
【表6】

【0050】
表6の場合の調製指示
1. 1を計量し、WFI水中で混ぜながら溶解させる。
【0051】
2. 2を計量し、95%ETOH中に溶解させる。
【0052】
3. WFI中に溶かした成分3の1000倍濃縮物を調製する。
【0053】
4. グループ1および2を一緒に混合し、最終バッチ体積1リットル当たり1mlのグループ3をこの溶液に加える。
【表7A】

【表7B】

表7の場合の調製指示:
1. すべての化学物質を計量し、混ぜながらWFI中に溶解させる。
【0054】
2. 表6の溶液に加える。
【表7C】

表8の場合の調製指示
1. すべての化学物質を計量し、混ぜながらWFI中に溶解させる。
【0055】
2. 表6の溶液に加える。
【表8】

【0056】
表8の場合の調製指示:
1. グループ1を計量し、少量の5NAOHおよびWFI中に溶解させる。
【0057】
2. 残りの成分を計量し、混ぜながらWFI中に溶解させる。
【0058】
3. ステップ2の溶液にグループ1を加え、混合する。
【0059】
4. この溶液を表6の溶液に加える。
【表9】

【0060】
表9の場合の調製指示
1. 表9の内容物を調製物IおよびPremixIIについて前述した同じマイクロフルイド化ステップにかけた。
【0061】
2. 混ぜながら表6の溶液に混ぜながら混合する。
【表10】

【0062】
表10の場合の調製指示
1. 化学物質を計量し、完全に溶解するまでWFI中で溶解させる。
【0063】
2. 表6の溶液に加える。
【0064】
3. WFIを加えて最終バッチ体積に調整し、混合する。
【0065】
5N NAOHまたは5N HClを用いてpH7.0〜7.2に調整する。
【0066】
実施例
以下の実施例は、本発明をさらに理解するのに役立つ。これらの実施例は、決して本発明の有効範囲を制限しようとするものではない。溶液を調製した各事例において、含めた各成分の量は、参照先の各表に示した範囲の中点値とした。
【実施例1】
【0067】
PREMIX-Iの調製
溶液1の調製:適切な天秤を用いて、上記の表1に記載した各成分(記載範囲の中点値を使用)の10,000倍濃縮物を調製した。含めた各成分の量は、表に示した範囲の中点値とした。便宜上、これらの成分のうちのいくつかについては原液を以下のように前もって調製し、適切な量の原液を溶液1中に混合した。
【0068】
100,000倍濃度の硫酸銅原液
0.130グラムの硫酸銅を計量し、1000mlのWFIグレード水中に混合した。必要なら、完全に溶解するまで、混ぜながら5N HClを滴加した。溶解するまでこれを混合し、-20℃で保存した。
【0069】
10,000倍濃度の硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、および硫酸亜鉛の原液
5.0グラムの硫酸第二鉄、0.5グラムの硝酸第二鉄、および4.3グラムの硫酸亜鉛を計量し、1000mlのWFIグレード水に溶かすことにより、この原液を調製した。必要なら、完全に溶解するまで5N HClを滴加することによりpHを低下させて溶解を促進した。この溶液を-20℃で保存した。バッチ(最終生成物の最終体積)1リットル当たり0.1mlを使用した。
【0070】
100,000倍濃度のビオチン原液
0.040グラムのビオチンを計量し、5mlのWFIグレード水に溶かすことにより、ビオチン原液を調製した。必要に応じて、完全に溶解するまで混合している間、5N HClを滴加した。1000mlに調整し、-20℃で保存した。最終溶液1リットル当たり0.01mlを使用した。
【0071】
1000倍濃度のビタミンB-12およびチミジン原液
0.670グラムのビタミンB-12および0.370グラムのチミジンを計量して1000mlのWFIグレード水中に溶かし、完全に溶解するまで混合することにより、この原液を調製し、-20℃で保存した。最終溶液1リットル当たり1mlを使用した。
【0072】
すべての濃縮原液を作った後、それらの濃度と整合性のある体積で、例えば、1000倍の場合は1リットル当たり1mlなどの割合で、溶液2にそれらを加えた。次に、追加成分を1000mlのWFIグレード水に加え、完全に溶解するまでマグネチックスターラープレートを用いて混合した。以下に記述するように、最終バッチ体積(最終生成物)1リットル当たり0.1mlの比率で、得られた溶液を溶液2に加えた。
【0073】
溶液2の調製:適切な天秤を用いて、表2A、2Bおよび2Cに記載した各成分(記載範囲の中点値の量を計量)を計量し、最終バッチ体積におけるWFIグレード水の最終体積の約50%に加えた。すなわち、1リットルの最終バッチの場合は、約500mlのWFIグレード水に溶液2を調製した。完全に溶解するまでこれを混合した。
【0074】
溶液3の調製:適切な天秤を用いて、表3に記載した各成分(記載範囲の中点値を使用)を計量し、全バッチ体積の5%のWFIグレード水を含有する適切なサイズの混合容器に加えた。混合物が清澄になり、完全な溶解を示すまで、混ぜながら、5N NaOHを滴加した。
【0075】
次に、溶液1を取り出し、最終バッチ体積(最終生成物)1リットル当たり0.1mlの比率で混ぜながら溶液2と混合して混合(1+2)溶液を形成させることによって、Premix-Iを調製した。次に、溶液3の全バッチを(1+2)溶液と混合して直ちに使用しても保存してもよいPremix-Iを得た。
【実施例2】
【0076】
PREMIX-IIの調製
Premix-IIのための成分の量は、上記の表4に示す記載範囲の中点値を用いる。便宜上、Premix-2のいくつかの成分を最初に原液として調製し、次に、Premix-IIの調製に適切な体積で使用した。原液は以下の通りであった。
【0077】
10,000倍濃度の内分泌因子原液
0.052グラムのHGF、0.050グラムのトリヨード-L-チロキシン、0.050グラムのVEGF、および0.030グラムのEGFを計量して1000mlのWFIグレード水中に溶かし、完全に溶解するまで混合することにより、この原液を調製した。バッチサイズは0.1mlで計算し、ステップ4/処理4の溶液に加えた。-20℃で保存した。最終溶液1リットル当たり0.1mlを使用した。
【0078】
1000倍濃度のヒドロコルチゾン原液
0.95グラムのヒドロコルチゾンを計量して10mlの95%EtOHに溶かし、完全に溶解するまで混合することにより、この原液を調製した。バッチサイズは1mlで計算し、この原液を以下のステップ2の溶液に加えた。2〜8℃で保存した。最終溶液1リットル当たり1mlを使用した。
【0079】
1000倍濃度のプロスタグランジンE1原液(「PGE1」)
0.034グラムのPGE1を計量して1000mlのWFIグレード水に溶かすことにより調製し、完全に溶解するまで混合した。バッチサイズは1mlで計算し、以下のステップ4の溶液に加えた。-20℃で保存した。最終溶液1リットル当たり1mlを使用した。
【0080】
100,000倍濃度のPDGF原液
0.095グラムのPDGFを計量して1000mlのWFIグレード水に溶かし、完全に溶解するまで混合することによりこの原液を調製した。バッチサイズは0.01mlで計算し、以下のステップ4の溶液に加えた。-20℃で保存した。最終溶液1リットル当たり0.01mlを使用した。
【0081】
次に、以下のステップにより、上記の表4に示す記載範囲の中点値の量だけ計量した成分を用いてPremix-IIを調製した。
【0082】
(1)1グラムを計量し、全バッチ体積の50%未満(最終生成物のバッチ1リットルに基づく場合、これは500ml未満であった)のWFIグレード水に溶かすことにより、プルロニックF-68溶液を調製した。低温(100℃未満)で約1時間これを混合した。完全に溶解するまで混合し続けた。得られた水溶性組成物を使用前に約35〜40℃に冷却した。
【0083】
(2)10mlの95%EtOHを計量してガラス製の混合容器に入れ、マグネチックスターラープレート上に置いた。表4に従ってホスファチジルコリンを計量し(範囲の中点値)、この溶液に加え、続いて1時間混合した。
【0084】
(3)コレステロール、リノール酸、リノレン酸、ビタミンE、TWEEN80、タラ肝油、ヒドロコルチゾン、およびオレイン酸を表4に記載した範囲の中点値の量だけ計量した。好ましくは、所望の使用濃度を得るために、10,000倍濃縮物または原液としてこれらを最初に調製できる。ステップ2の溶液にこれらを加え、1時間混合した。
【0085】
(4)ステップ2および3の溶液をステップ1の溶液に加え、1時間混合した。得られた組成物は不透明で曇っていた。
【0086】
(5)肝細胞増殖因子(「HGF」)、トリヨード-L-チロキシン、プロスタグランジンE1、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、上皮増殖因子(「EGF」)、血小板由来内皮増殖因子(「PDGF」)を示された表示範囲の中点値の量だけ計量した。これらは、これらの化学物質の使用原液として調製することが好ましい。
【0087】
(6)ステップ5の成分をステップ4の溶液に加え、1時間混合してPremix-II液体組成物を得た。
【実施例3】
【0088】
調製物-I:マイクロフルイド化によるコレステロールベースのナノ粒子
以下のようにして、上記の実施例1および2のPremix-I組成物およびPremix-II組成物から調製物Iを調製した。
【0089】
(1)空気圧縮機をつけ、ゲージ圧を100CFMで120PSIに調整した。圧縮空気によりマイクロフルイダイザーの圧縮チャンバーを自動的に満たした。
【0090】
(2)マイクロフルイダイザーの圧力を5000PSIに調整した。
【0091】
(3)実施例2で調製したPremix-IIを機械のタンクに加え、マイクロフルイダイザーのコントロールを最大の設定に合わせた。
【0092】
(4)動作中のキャビテーションチャンバーにPremix-IIを通し、回収容器に出した。
【0093】
(5)Premix-IIのすべてが加工され回収されると、1回のサイクルが完了した。
【0094】
(6)ステップ(1)〜(5)を4回、および/または回収容器に出てくる加工された液体組成物の見かけが透明になるまで繰り返した。
【0095】
(7)次に、0.2ミクロンのろ過膜を用いてこの液体組成物を滅菌ろ過し、使用するまで4〜8℃で保存した。
【0096】
(8)発泡および化学成分の解離を避けるように、上記のステップ(7)の生成物を上記の実施例1で調製したPremix-Iと緩徐に混合した。2種のPremixの最終配合量は約1:1とした。
【0097】
(9)表1〜4に基づき、WFIグレード水を用いて所望のバッチ体積に最終溶液を調整した。最終バッチ体積は1リットルであり、pHを7.2+/-0.2に調整した。
【0098】
次に、0.2ミクロンの膜を用いて最終の発明組成物を滅菌ろ過して、保存用の無菌容器に入れた。これは、粒子性の物質が全くない不透明な乳白色の溶液のように見えた。ベシクルサイズは、ナノ粒子分散物の光学的外観に大きな影響を及ぼす。粒子が小さいほど、この溶液はより透明に見えるようになる。
【実施例4】
【0099】
臓器保存
VIASPAN(登録商標)との比較
実施例3で調製した調製物Iの腎臓保存に対する有効性を、これまでの「最も標準的な(gold standard)」VIASPAN(登録商標)(Barr Laboratories社)の保存特性と比べて確認および評価した。
【0100】
材料および方法
全身麻酔下で、1〜2歳の非近交系の雄の猟犬1匹から両側の腎臓を摘出し、続いて直ちに安楽死させた。
【0101】
左の腎臓をVIASPAN(登録商標)で洗浄し、右の腎臓を調製物Iで洗浄した。洗浄液が透明になり、100%洗浄液として血液や他の不要物質の痕跡が無くなるまで、各腎臓を洗浄した。体重1kg当たり50mlの溶液を用いて各腎臓を洗浄した。溶液で洗浄した直後に各腎臓の生検材料を取った。生検はすべて、腎臓の外側の皮質および大弯のくさび状生検であった。
【0102】
次に、洗浄に使用したのと同一の溶液(VIASPAN(登録商標)または調製物Iのいずれか)を含む容器中に各腎臓を入れた。生検のときしか開けない冷却箱中に個々の容器を入れた。
【0103】
VIASPAN(登録商標)または本発明の試験溶液中に浸漬してから1、4、8および24時間後に引き続き生検を行った。組織病理学的評価のために、10%ホルマリン中で保存した腎臓の生検材料をCharles River Laboratories社のPathology Associates事業部に送った。
【0104】
結果
様々な時点における生検材料の顕微鏡的評価の結果を以下の表6に示す。
【表11】

【0105】
生検標本のすべては、皮質由来の組織からなるものとした。さらに、ボーマン腔の拡張や尿細管拡張など灌流によるアーチファクトが、右の腎臓から得た8時間時点および24時間時点の生検標本において中程度存在していた。灌流によるアーチファクトは、右の腎臓から得た4時間時点の生検標本においても存在していたが、同じ腎臓から得た前述の標本ほど著しくはなかった。生検標本のうちのいくつかで認められた退行性および炎症性の小さな変化は、取るに足らないものであった。ごく僅かな急性炎症が4時間時点および8時間時点のサンプルから得た左の腎被膜中に存在した。
【0106】
要約
ベースラインおよび1時間時点のサンプルから得た両方の腎臓の標本を同様に保存した。(本発明の組成物を用いて保存された)右の腎臓から取り出した生検標本の方が、4、8、および24時間の時点で保存状態が優れていた。
【実施例5】
【0107】
調製物IIを用いたPREMIX Iの調製
溶液1の調製:アスコルビン酸、カタラーゼ、SOD、L-システイン、タウリン、およびメチオニンを計量し、WFI水中で混ぜながら溶解した。次に、ビタミンEおよびメルカプトエタノールを95%ETOH中に溶解した。硫酸亜鉛、セレン、および硫酸銅成分の1000倍濃縮物を作った。材料の最初の2グループを混合し、濃縮物の最終バッチ体積1リットル当たり1mlをこの溶液に加えた。25グラム/リットルのデキストラン70およびHSAをこの溶液に加えた。使用した各成分は、表6に示す範囲の中点値の量を計量した。
【0108】
溶液2の調製:適切な天秤を用いて、表7A、7Bおよび7Cに記載した各成分(記載範囲の中点値の量を計量)を計量し、各表の下に記載の指示に従い混合した。
【0109】
溶液3の調製:適切な天秤を用いて、表8に記載した各成分を計量し(記載範囲の中点値の量を使用)、各表の下に記載の指示に従い混合した。
【0110】
次に、最終バッチ体積(最終生成物)1リットル当たり0.1mlの比率で、混ぜながら溶液1を溶液2と混合して混合(1+2)溶液を形成させることによってPremix-Iを調製した。次に、溶液3の全バッチをその(1+2)溶液と混合してPremix-Iを得た。
【実施例6】
【0111】
PREMIX-IIの調製
表4の代わりに表9の成分を使用した点以外は、実施例2の方法を繰り返した。
【実施例7】
【0112】
調製物II:マイクロフルイド化によるコレステロールベースのナノ粒子
実施例3の方法に従って、上記の実施例4〜6のPremix-I組成物およびPremix-II組成物から調製物IIを調製した。
【実施例8】
【0113】
調製物IIによる腎臓保存の評価
この研究では、本明細書では調製物IIと呼ぶ実施例7の溶液(組成物)を、静的な保存環境において2〜8℃で、新鮮なヒツジ腎臓を使用し、摘出後+/-時間の虚血性損傷を指標としてVIASPANと比較した。新しく屠殺したヒツジから腎臓を取り出し、直ちに氷上に置いた。研究室に戻した後、それらを無菌的に解剖して脂肪組織をすべて取り除き、腎動脈を単離した。時間=0で両方の腎臓を計量した。腎臓の色、質感、および密度は正常のようであった。洗浄液が透明になり、100%洗浄液として血液や他の不要物質の痕跡が無くなるまで、各腎臓を洗浄した。溶液で洗浄した直後(T=0)に各腎臓の生検材料を取った。生検はすべて、腎臓の外側の皮質および大弯のくさび状生検であった。次に、洗浄に使用したのと同一の溶液(VIASPAN(登録商標)(腎臓A)または調製物II(腎臓B)のいずれか)を含む容器中に各腎臓(A&B)を入れた。生検のときしか開けない冷却箱中に個々の容器を入れた。VIASPAN(登録商標)または本発明の調製物IIの溶液で保存後12、24、36、48、60、72、および96時間に引き続き生検を取った。組織病理学的評価まで、腎臓の生検材料を10%ホルマリン中で保存した。
【0114】
結果:2つの腎臓の間に有意な組織学的差があった。VIASPANで処理した腎臓において、保存後12〜96時間から徐々に自己分解(リジンにより引き起こされる細胞の破壊)変化が現れた。本発明の調製物IIで処理した腎臓においては、保存後36時間まで組織学的変化はなかった。前記のことから、本発明の溶液は、低温保存技術で使用すると従来技術よりも有意に有利であることが分かる。
【実施例9】
【0115】
調製物III:ヘム含有ナノ粒子
無間質ヘモグロビンを市販の供給源から得、または例えば参照により本明細書に組み込む米国特許第5,674,528号により記載されているように、当技術分野で既知の方法によって、濃縮赤血球から単離し、濃度50%(w/v)に標準化する。
【0116】
β-NAD(1mM、133mg)、D-グルコース、(100mM、3.6g)、ATP-Na(1mM、110mg)、塩化マグネシウム六水化物(1mM、40mg)、リン酸水素二カリウム(9mM、247mg)、リン酸水素二ナトリウム(11mM、310mg)、およびフィチン酸(3mM、396mg)を200mlの無間質ヘモグロビンに加え、試料が完全に混合されて補充ヘモグロビン溶液を形成するまでこの混合物を攪拌する。
【0117】
水素添加率が90%の精製ホスファチジルコリン、コレステロール、ミリスチン酸、およびビタミンEをそれぞれ、7:7:2:0.28のモル比で均一に混合した粉末45グラムに、45mlのWFIを加え、この混合物を60〜約80℃の範囲の温度まで加熱して膨張させる。上記の補充ヘモグロビン溶液を得られる脂質性物質に加え、この混合物を15秒間攪拌する。得られる脂質-SFH混合溶液をマイクロフルイダイザー5000(Microfluidics社)に通して加工し、12,000psiの圧力のもと、氷浴中で加工する。
【0118】
得られるカプセル化ヘモグロビンをデキストラン生理食塩水(3%(w/v))と混合し、得られる懸濁液を4℃、10,000rpm(13,000g)で30分間遠心分離する。次に、カプセル化ヘモグロビンを含むリポソームまたはナノ粒子を回収する。カプセル化されていない残留した遊離ヘモグロビンを含む、かつ/または出発原料の脂質成分を残している上清をデカンテーションまたは吸引によって除去する。残っている遊離ヘモグロビンが見えなくなるまで前述の洗浄プロセスを繰り返す。所望の生成物の粒径範囲に応じて、0.2〜0.45ミクロンの範囲の孔径を有するろ過膜を用いて、得られる生成物をろ過する。例えば、濃縮用の中空糸型透析器を用いる限外ろ過によって、このろ液を濃縮して、ヘモグロビン濃度が約5%(w/v)のヘモグロビンカプセル化リポソームまたはナノ粒子の精製懸濁液600mlを得る。
【0119】
得られるリポソームまたはナノ粒子をエマルジョンの約10部〜約500部の範囲の比率でPremix-Iと混合し、Premix-Iと合わせて総体積を1000部にして、調製物IIIを提供する。
【0120】
次に、調製物IIIを所望の比率で調製物Iと混合して、酸素を運搬する性質を有する臓器保存組成物を提供する。
【実施例10】
【0121】
細胞培養培地
この実施例では、調製物Iとして特定する実施例3の組成物を、細胞培養培地として機能するその能力を証明するために試験した。ヒト腎臓細胞を十分な量の調製物Iを含む容器中に蒔き、4℃および37℃で細胞培養培地としてこの物質を用いて細胞増殖および生存能力を実証した。72時間後に、生細胞が正常な形態および生存能力を示す健康な細胞集団に増殖できることが実証された。
【0122】
前述のすべての米国特許および出版文書の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本栄養培地を含む第1相と、
親油性外被膜および親水性内部コアを含むナノ粒子を含む第2相と
を含む細胞生存能力を維持するための2相組成物であって、
a)前記第1相は、生理的に適合する濃度の水溶性または水分散性の栄養物、および生理的塩類を含み、
b)前記第2相の前記ナノ粒子は、脂質、脂肪酸、ステロール、および遊離脂肪酸を含み、
c)前記2相組成物の重量モル浸透圧濃度は、少なくとも約300mOsM/kgである、
組成物。
【請求項2】
前記2相組成物の重量モル浸透圧濃度が約385〜425mOsM/kgの範囲である、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項3】
pHが約7.2〜約7.4である、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子の平均直径が約100nm〜約300nmである、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項5】
前記ナノ粒子の平均直径が約100nm〜約200nmである、請求項4に記載の2相組成物。
【請求項6】
細胞増殖因子をさらに含む、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項7】
前記細胞増殖因子が、上皮および内皮の増殖因子、血管内皮増殖因子、血小板由来内皮増殖因子、上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の2相組成物。調製物Iである、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項8】
前記第1相および前記第2相をほぼ同量含む、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項9】
前記コアが、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される遊離脂肪酸を含む、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子の粒径が約100nm〜約200nmである、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項11】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表1】

【請求項12】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表2】

【請求項13】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表3】

【請求項14】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表4】

【請求項15】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表5】

【請求項16】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表6】

【請求項17】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表7】

【請求項18】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表8】

【請求項19】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表9】

【請求項20】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表10】

【請求項21】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表11】

【請求項22】
以下のものを含む、請求項1に記載の2相組成物。
【表12】

【請求項23】
前記親水性内部コアが、酸素を結合および放出できる成分を含む溶液または懸濁液を含む、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項24】
前記酸素を結合および放出できる成分がヘムタンパク質である、請求項10に記載の2相組成物。
【請求項25】
前記親水性内部コアが生物活性成分を含む、請求項1に記載の2相組成物。
【請求項26】
前記生物活性成分が、化学療法薬、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、酵素、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項25に記載の2相組成物。
【請求項27】
前記生物活性成分がランピルナーゼである、請求項25に記載の2相組成物。
【請求項26】
親油性外被膜と酸素を結合および放出できる成分を含む溶液または懸濁液を含む親水性内部コアとを有するナノ粒子を含む組成物と混合された請求項1の組成物を含む3相組成物。
【請求項27】
前記酸素を結合および放出できる成分がヘムタンパク質である、請求項26に記載の3相組成物。
【請求項28】
親油性外被膜と生物活性成分を含む親水性内部コアとを有するナノ粒子を含む組成物と混合された請求項1に記載の組成物を含む3相組成物。
【請求項29】
請求項1に記載の2相組成物を調製するための方法であって、少なくとも約300mOsM/kgの重量モル浸透圧濃度を有する最終の2相組成物を調製するのに十分な条件下で、生理的に適合する濃度の水溶性または水分散性の栄養物、および生理的塩類を含有する基本栄養培地を含む液状の第1相を、親油性外被膜と親水性内部コアとを含むナノ粒子を含む液状の第2相と混合することを含む方法。
【請求項30】
哺乳動物の細胞または組織を保存する方法であって、前記細胞または組織を十分な量の請求項1に記載の組成物中に置くことを含む方法。
【請求項31】
ex vivoで哺乳動物臓器を保存する方法であって、臓器を有効量の請求項1に記載の組成物中に置くことを含む方法。
【請求項32】
前記臓器が腎臓、心臓、肝臓、肺、皮膚、動脈、およびそれらの機能部分からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。

【公表番号】特表2007−502130(P2007−502130A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532912(P2006−532912)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014551
【国際公開番号】WO2004/101758
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505413440)ライフブラッド メディカル インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】