説明

臓器の再建および増強のための骨格

【課題】臓器の再建および増強のための骨格の提供。
【解決手段】臓器または組織構造の再建、修復、増強、または置換を必要とする患者におけるそのような治療のための生体適合性の合成または天然の骨格が提供される。骨格は、臓器または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状であり、1つ以上の細胞集団を播種されてもよい。また、管状脈管の新生臓器への取付のためのインサート、レセプタクルおよびポートも提供される。播種された骨格は、治療を必要とする部位で患者に埋め込まれ、組織化された臓器または組織構造を形成する。骨格はまた、膀胱、尿道、弁、および血管などの臓器または組織を形成するために使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織および臓器再建、修復、増強、および置換のための新生臓器構造体および方法を対象とし、具体的には膀胱などの泌尿生殖組織もしくは臓器またはその両方に欠陥を有する患者におけるこれらの新生臓器構造の使用を対象とする。本発明はまた、組織再建、修復、増強および置換のために、容器または他の管状要素を新生臓器構造体へ取り付けるための方法および材料を対象とする。
【背景技術】
【0002】
医学界は、欠陥のある臓器の機能的に有効な代替品との置換に相当の注意と努力を払ってきた。代替品は、人工心臓等の完全に人工のデバイスから、他の哺乳動物ドナーからの完全に天然の臓器にまで及ぶ。心臓移植の分野は、人工心臓の使用および生きたドナーからの天然の心臓の使用の両方において成功を収めてきた。他の多くの臓器の分野、特に膀胱再建の分野では、同等の成功は達成されていない。
【0003】
人間の膀胱は、尿管を通して受け取り尿道を通して排出する尿の貯蔵部として機能する、骨盤腔の前部に位置する筋結織膜嚢(musculomembranous sac)である。人間においては、膀胱は骨盤骨(恥骨結合)の背後の骨盤にあり、体の外に出る尿道と呼ばれる排液管の上方後部に位置する。膀胱、尿管、および尿道は全て、尿の通常の可溶性物質に対し非透過性の粘液で被覆された尿路上皮細胞を含む膜で囲まれた筋肉構造を備えるという点で、同様の構造を有する。膀胱三角(trigonum vesicae)とも呼ばれる膀胱の三角部は、膀胱の基部の粘膜の平滑な三角形部分である。膀胱組織は弾性的で柔軟である。つまり、膀胱は、含有する尿の量に応じて形状およびサイズを変化させる。膀胱は、空のときは空気が抜けた風船に類似しているが、含有する尿の量が増加すると幾分洋ナシ型形状となり、腹腔内に膨らむ。
【0004】
膀胱壁は、粘膜、粘膜下層、および排尿筋という3つの主要な組織層を有する。尿路上皮細胞を含む粘膜は最内層であり、移行上皮細胞より成る。粘膜下層は粘膜およびその基底膜の直下にある。これは、粘膜に栄養素を供給する血管、および老廃物の除去を助けるリンパ節より成る。排尿筋は、拡張して尿を貯蔵し、収縮して尿を排出する平滑筋収縮層である。
【0005】
膀胱は数々の疾患や損傷に曝され、患者の膀胱の悪化を引き起こす。例えば、膀胱の悪化は、感染症、新生物、および発育異常の結果生じる場合がある。さらに、膀胱の悪化は、例えば自動車事故やスポーツ傷害等の外傷の結果生じる場合もある。
【0006】
人工および天然由来ポリマーを含む膨大な数の生体材料が、組織再建または増強に使用されている(例えば非特許文献1およびそれに引用されている文献を参照)が、多くの材料は、膀胱再建における使用では満足のいく結果が得られないことが明らかとなっている。例えば、ポリビニルおよびゼラチンスポンジ、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))フェルト、ならびにシラスティックパッチ等の人工生体材料は、概して異物反応に起因してあまり成功していない(例えばKudish, H. G., J. Urol. 78:232 (1957); Ashkar, L. and Heller, E., J. Urol. 98:91(1967); Kelami, A.
et al., J. Urol. 104:693 (1970)を参照)。他の試みは、機械的、構造的、または生体適合性の問題に起因して概して失敗している。恒久的人工材料は、機械的な不具合および結石形成が付随していた。
【0007】
乾燥凍結硬膜、上皮剥離腸管切片、および小腸粘膜下層(SIS)等の天然由来材料もまた、膀胱置換に提案されている(一般的な検討には、特許文献2を参照)。しかし、硬膜、腹膜、および筋膜で増強した膀胱は時間と共に収縮することが報告されている(Kelami, A. et al., J. Urol. 105:518 (1971))。上皮剥離腸管切片は、膀胱再建における使用のための適正な尿路上皮の被覆を示したが、粘膜再成長、切片の線維化のいずれか、またはその両方によりいまだ困難である。小腸切片の上皮剥離は粘膜再成長につながる場合があり、一方粘膜および粘膜下層の除去は小腸切片の収縮につながる場合があることが示されている(例えば、Atala, A., J. Urol. 156:338 (1996)を参照)。
【0008】
ある胃腸間切片の膀胱手術への使用に関して、結石形成、粘液産生増加、新生組織形成、感染症、代謝障害、長期拘縮、および吸収等を含む、他の問題が報告されている。天然または人工材料を用いたこれらの試みは、膀胱組織は、その特有の筋肉弾性特性および尿路上皮の不透過機能により、容易に置換することはできないことを示している。
【0009】
膀胱再建への胃腸管切片の使用に関連した複数の合併症に起因して、研究者は、代替の解決策を求めてきた。最近の外科的アプローチは、自己増強(auto−augmentation)および尿管膀胱形成(ureterocystoplasty)を含む再建において、生来の泌尿器組織に頼っていた。しかし、自己増強は残念な長期的結果を合併し、尿管膀胱形成は、拡張した尿管がすでに存在する場合に限られていた。尿管および膀胱に対する漸進的な拡張のシステムが提案されているが、臨床段階ではまだ試みられていない。漿膜筋層グラフトおよび上皮剥離腸管切片も、単独または生来の尿路上皮上で試みられている。しかし、グラフトの縮みや、当初は上皮が剥離されていた腸管切片の上皮再形成が再発問題であった。
【0010】
膀胱再建に付随する1つの大きな制限は、ドナー組織の利用可能性に直接関連する。膀胱組織の利用可能性が限られることにより、正常な膀胱組織を使用した膀胱の頻繁な定期的再建が妨げられる。利用可能な、そして使用に適した膀胱組織でも、先天的な欠陥や疾病を含んでいる可能性がある。例えば、膀胱癌に罹患している患者においては、残りの膀胱組織も転移で汚染されている可能性がある。したがって、患者は、完全な膀胱機能は得られないことが運命付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Textbook of Tissue Engineering」,Eds. Lanza, R., Langer, R., and Chick, W, ACM Press, Colorado (1996)
【非特許文献2】Mooney, D. et al., 「Tissue Engineering: Urogenital System」, in 「Textbook of Tissue Engineering」, Eds. Lanza, R., Langer, R., and Chick, W., ACM Press, Colorado (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、臓器または組織構造の再建、修復、増強、または置換を必要とする患者におけるそのような治療のための方法およびデバイスが必要とされている。さらに、生体力学的特性が改善された人工臓器構造体が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
臓器または組織構造の再建、修復、増強、または置換を必要とする患者におけるそのような治療のための、生体適合性の人工または天然骨格が提供される。
【0014】
骨格は、臓器または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状であり、1つ以上の細胞集団で播種されてもよい。播種された骨格は、治療を必要とする部位で患者に埋め込まれ、組織化された臓器または組織構造を形成する。骨格はまた、膀胱などの臓器または組織を形成するために使用することもできる。
【0015】
本明細書で説明される、層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換のための構造体は、少なくとも2つの別個の表面を有し、治療を必要とする内腔器官または組織構造に適合するような形状である、埋込型で生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格と、管状脈管またはインサートを受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートと、ポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、ポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積される少なくとも1つの細胞集団であって、実質的に筋肉細胞集団である少なくとも1つの細胞集団を含む、少なくとも1つの細胞集団と、を含む。筋肉細胞集団は、例えば平滑筋細胞集団である。任意選択で、第2の細胞集団が、ポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、ポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積されてもよく、該第2の細胞集団は尿路上皮細胞集団を含む。
【0016】
本明細書で説明される、層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換のための構造体はまた、少なくとも2つの別個の表面を有する、第1の埋込型で生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格と、少なくとも2つの別個の表面を有する、第2の埋込型で生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格とを備え、これらは、互いに接合するように構成されると共に、接合したときに治療を必要とする内腔器官または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状である。第1および第2のポリマー・マトリクスは、接合するように構成される、2つ以上の異なる部分に細分化された1つの統合ユニットから、または2つ以上の異なる部分から形成されてもよい。
【0017】
ある実施形態では、第1および第2のポリマー・マトリクスは対称的であり、他の実施形態では、第1および第2のポリマー・マトリクスは非対称的である。一実施形態では、第1のポリマー・マトリクスまたは骨格は、閉じたドーム状端部と開いた赤道境界とを有する半球形状または準半球形状を有し、第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、第1のポリマー・マトリクスの赤道境界と接合するように構成されるカラーである。他の実施形態では、第1および第2のポリマー・マトリクスは、それぞれ、閉じたドーム状端部と開いた赤道境界とを有する半球形状または準半球形状である。さらに他の実施形態では、第1および第2のポリマー・マトリクスは、それぞれ、円形または半円形のベースと、各ベースから放射状に延在する少なくとも2つのペタルとを備える。この実施形態では、第1および第2のポリマー・マトリクスのベースおよびペタル形状の部分は、接合して中空の球形または準球形マトリクスまたは骨格を形成し、フランジの付いた縦方向の楕円形開口部が、接合したポリマー・マトリクスの1つの側面に形成され、円形開口部がその縦方向の開口部とは反対側の側面に形成されるようになる。他の実施形態では、第1および第2のポリマー・マトリクスは、接合するように構成されるトップピース、フロントピースおよびサイドピースを備える3つの部分から成る。この実施形態では、3つの異なる部分が、少なくとも3つ、好ましくは4つの垂直シームを使用して接合され、それにより王冠形状の新生膀胱構造体を形成する。王冠形状の構造体は、好ましくは単独で臓器修復または増強用のデバイスとして使用される。
【0018】
該当する場合、第1のポリマー・マトリクスもしくは第2のポリマー・マトリクス、またはその両方は、第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、第2のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積される少なくとも1つの細胞集団を備え、少なくとも1つの細胞集団は、実質的に筋肉細胞集団を含む。筋肉細胞集団は、例えば平滑筋細胞集団である。任意選択で、第2の細胞集団が、第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、または第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積されてもよく、該第2の細胞集団は尿路上皮細胞集団を含む。さらに、第1のポリマー・マトリクス、第2のポリマー・マトリクス、またはその両方は、構造体と生来の脈管や管との接続が必要となる場所に、管状脈管またはインサートを受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有してもよい。
【0019】
これらの構造体に使用される生体適合性の材料は、例えば生体分解性である。ある構造体では、生体適合性の材料はポリグリコール酸である。脈管またはインサート自体は、例えば、円筒状または管状ポリマー・マトリクスであり、それぞれが、円筒状ポリマーの第1の端部に位置する少なくとも1つのフランジを有する。容器またはインサートは、好ましくは、上述の第1または第2のポリマー・マトリクスと同じ生体適合性の材料より成る。ある実施形態では、脈管またはインサートはまた、円筒状または管状の脈管またはインサートポリマー・マトリクスの周囲に合うように構成されるワッシャを含有する。例えば、ワッシャはヒドロゲルである。円筒状または管状の脈管またはインサートは、任意選択でワッシャを含有してもよい。ワッシャはヒドロゲルであってもよい。さらに、円筒状または管状のインサートは、自己安定型であってもよい。
【0020】
これらの構造体は、例えば膀胱、尿管および尿道を含む泌尿生殖臓器等の内腔器官または組織構造の治療、修復、増強または置換に使用される。例えば、内腔器官または組織構造は、膀胱または膀胱部であり、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、マトリクス表面上に堆積された平滑筋細胞を有する。
【0021】
一実施形態では、本明細書で説明される、層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換を必要とする患者におけるそのような治療のための方法は、治療を必要とする内腔器官または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状の生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格を提供するステップと、ポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、ポリマー・マトリクスの第2の表面上または表面内、またはその両方に、少なくとも第1の細胞集団を堆積させるステップであって、該第1の細胞集団は実質的に筋肉細胞集団であるステップと、成形されたポリマー・マトリクス−細胞構造体を、内腔器官または組織構造の再生のために、治療部位で患者に埋め込むステップとを含む。任意選択で、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、管状または円筒状の脈管またはインサートを受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する。任意選択で、本明細書で説明される方法は、ポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、ポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に第2の細胞集団を堆積するステップをさらに含み、該第2の細胞集団は尿路上皮細胞集団を含む。
【0022】
他の実施形態では、本明細書で説明される、層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換を必要とする患者におけるそのような治療のための方法は、少なくとも2つの別個の表面を有する、第1の埋込型で生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格と、少なくとも2つの別個の表面を有する、第2の埋込型で生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格を提供するステップであって、これらは、互いに接合するように構成されると共に、接合したときに治療を必要とする内腔器官または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状であるステップと、第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、第2のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、またはその両方に、少なくとも第1の細胞集団を堆積させるステップであって、該第1の細胞集団は実質的に筋肉細胞集団であるステップと、成形されたポリマー・マトリクスまたは骨格細胞構造体を、内腔器官または組織構造の再生のために、治療部位で患者に埋め込むステップとを含む。任意選択で、第1のポリマー・マトリクスもしくは第2のポリマー・マトリクス、またはその両方は、円筒状または管状脈管またはインサートを受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する。任意選択で、本明細書で説明される方法は、第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、または第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、あるいはその両方に第2の細胞集団を堆積するステップをさらに含み、該第2の細胞集団は尿路上皮細胞集団を含む。
【0023】
他の実施形態では、2つを超える別個の生体適合性ポリマー・マトリクス(その1つ以上が1つ以上の細胞集団で播種されてもよく、またその1つ以上が、円筒状または管状の脈管またはインサートを受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有してもよい)が提供され、内腔器官または組織構造の再生のために、治療部位で患者に埋め込まれてもよい。
【0024】
これらの方法で使用される生体適合性の材料は、例えば生体分解性である。ある方法では、生体適合性の材料はポリグリコール酸である。脈管またはインサートは、例えば、円筒状ポリマーの第1の端部に位置する少なくとも1つのフランジを有する円筒状または管状ポリマー・マトリクスである。脈管またはインサートは、好ましくは、それらが挿入されるマトリクスと同じ生体適合性の材料より成る。ある実施形態では、脈管またはインサートはまた、円筒状ポリマーの周囲に合うように構成されるワッシャを含有する。例えば、ワッシャはヒドロゲルである。
【0025】
これらの方法は、例えば膀胱、尿管および尿道を含む泌尿生殖臓器等の内腔器官または組織構造の治療、修復、置換または増強に使用される。例えば、内腔器官または組織構造は、膀胱または膀胱部であり、ポリマー・マトリクスまたは骨格(または複数のマトリクス)は、その表面上に堆積された平滑筋細胞を有する。これらの方法は、例えば、腎臓、血管、および子宮等の生殖器等、他の臓器および組織構造の治療、修復、置換または増強に使用することもできる。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換のための構造体であって、
a)第1の生体適合性の合成または天然のポリマー・マトリクスまたは骨格と、第2の生体適合性の合成または天然のポリマー・マトリクスとを備える埋込型構造体であって、前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格および前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、接合するように構成されると共に、接合したときに前記内腔器官または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状であり、前記第1のポリマー・マトリクス、前記第2のポリマー・マトリクス、またはその両方が、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、埋込型構造体と、
b)ポリマー・マトリクスまたは骨格細胞構造体を形成するために、前記第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積される少なくとも第1の細胞集団であって、筋肉細胞集団を含む前記第1の細胞集団と、
を備える、構造体。
(項目2)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格および前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、それぞれ、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目1に記載の構造体。
(項目3)
生体適合性の材料は生体分解性である、項目1に記載の構造体。
(項目4)
生体適合性の材料は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはポリグリコール酸とポリ乳酸のコポリマーである、項目1に記載の構造体。
(項目5)
前記少なくとも1つの細胞集団は、平滑筋細胞集団である、項目1に記載の構造体。
(項目6)
前記第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積された細胞の第2の集団をさらに備える、項目1に記載の構造体。
(項目7)
前記細胞の第2の集団は尿路上皮細胞を含む、項目6に記載の構造体。
(項目8)
前記内腔器官または組織構造は泌尿生殖臓器である、項目1に記載の構造体。
(項目9)
前記内腔器官または組織構造は、膀胱、尿管および尿道より成る群から選択される、項目1に記載の構造体。
(項目10)
前記内腔器官または組織構造は膀胱または膀胱区域である、項目9に記載の構造体。
(項目11)
生体内に形成された前記内腔器官または組織構造は、天然の膀胱組織の伸展性を示す、項目1に記載の構造体。
(項目12)
前記レセプタクルまたはポートは、円筒状または管状のポリマー・マトリクスを備え、該円筒状ポリマーは、その第1の端部に位置する少なくとも1つのフランジを有する、項目1に記載の構造体。
(項目13)
前記レセプタクルまたはポートは、前記円筒状ポリマーの周囲に合うように構成されるワッシャをさらに備える、項目12に記載の構造体。
(項目14)
前記ワッシャは、前記フランジとマトリクスおよび細胞の構造体の第1の表面との間に防水性の封止部を形成するように構成される、項目13に記載の構造体。
(項目15)
前記ワッシャはヒドロゲルを備える、項目14に記載の構造体。
(項目16)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格は、閉じたドーム状端部と開いた赤道境界とを有する半球形状を有し、前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、前記第1のポリマー・マトリクスの前記赤道境界と接合するように構成されるカラーである、項目1に記載の構造体。
(項目17)
前記第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積された細胞の第2の集団をさらに備える、項目16に記載の構造体。
(項目18)
前記細胞の第2の集団は尿路上皮細胞を含む、項目17に記載の構造体。
(項目19)
前記細胞の第1または第2の集団は、前記カラー形状の第2のポリマー・マトリクスの前記第1または第2の表面上または表面内に堆積されていない、項目18に記載の構造体。
(項目20)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格および前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、それぞれ、閉じたドーム状端部と開いた赤道境界とを有する半球形状を有する、項目1に記載の構造体。
(項目21)
前記第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積された細胞の第2の集団をさらに備える、項目20に記載の構造体。
(項目22)
前記細胞の第2の集団は尿路上皮細胞を含む、項目21に記載の構造体。
(項目23)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格は、前記第1のポリマー・マトリクスの少なくとも1つの境界に沿ったフランジ領域をさらに備える、項目1に記載の構造体。
(項目24)
前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、前記第2のポリマー・マトリクスの少なくとも1つの境界に沿ったフランジ領域をさらに備え、前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格の前記フランジ領域は、前記第1のポリマー領域の前記フランジ領域と接合するように構成される、項目23に記載の構造体。
(項目25)
層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換のための構造体であって、
a)第1の生体適合性の合成または天然のポリマー・マトリクスまたは骨格と、第2の生体適合性の合成または天然のポリマー・マトリクスとを備える埋込型構造体であって、前記第1および第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、それぞれ、ベースと、それぞれのベースから放射状に延在する少なくとも2つのペタルとを備え、前記第1および第2のポリマー・マトリクスは、接合するように構成されると共に、接合したときに前記内腔器官または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状である、埋込型構造体と、
b)ポリマー・マトリクスまたは骨格細胞構造体を形成するために、前記第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積される少なくとも第1の細胞集団であって、筋肉細胞集団を含む前記第1の細胞集団と、
を備える、構造体。
(項目26)
前記第1および第2のポリマー・マトリクスは、ベースと少なくとも4つのペタルとを備える1つの統合ユニットから得られ、対向するペタルの対は、他のペタルより長さが短い、項目25に記載の構造体。
(項目27)
前記第1および第2のポリマー・マトリクスは、接合するように構成される2つの異なるユニットである、項目25に記載の構造体。
(項目28)
前記第1および第2のポリマー・マトリクスのベースおよびペタル形状部分が接合し、それにより、接合したマトリクスの一端で縦方向の開口を有し、該縦方向の開口部と反対側に円形の開口部を有する、中空の球形または準球形マトリクスを形成する、項目26に記載の構造体。
(項目29)
前記第1および第2のポリマー・マトリクスの前記ベース中に組み込まれたフラップ、タブ、またはハンドルをさらに備える、項目25に記載の構造体。
(項目30)
前記縦方向の開口部は、該開口部のリップに、フラップ、タブ、またはハンドルを含有する、項目28に記載の構造体。
(項目31)
前記第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積された細胞の第2の集団をさらに備える、項目25に記載の構造体。
(項目32)
前記細胞の第2の集団は尿路上皮細胞を含む、項目31に記載の構造体。
(項目33)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格は、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目25に記載の方法。
(項目34)
前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目25に記載の方法。
(項目35)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格および前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、それぞれ、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目25に記載の方法。
(項目36)
層状に組織化された内腔器官または組織構造の少なくとも一部の再建、修復、増強または置換のための構造体であって、
a)ベースと、前記ベースから放射状に延在する少なくとも2つのペタルとを備える第1の生体適合性の合成または天然のポリマー・マトリクスまたは骨格を備える埋込型な構造体であって、前記第1のポリマー・マトリクスは、組み立てられたときに前記内腔器官または組織構造の少なくとも一部と適合する半形状を形成するように構成される、埋込型な構造体と、
b)ポリマー・マトリクスまたは骨格細胞構造体を形成するために、前記第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上または表面内に堆積される少なくとも第1の細胞集団であって、筋肉細胞集団を含む前記第1の細胞集団と、
を備える、構造体。
(項目37)
第2および第3の生体適合性の合成または天然のポリマー・マトリクスをさらに備え、前記第1、第2、および第3のポリマー・マトリクスは、接合するように構成されると共に、接合したときに前記内腔器官または組織構造の少なくとも一部に適合するような形状であり、少なくとも第1の細胞集団は、前記第1のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、または前記第3のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、あるいはそれら3つの全てに堆積される、項目36に記載の構造体。
(項目38)
前記第1、第2、および第3のポリマー・マトリクスは、3つの部分に細分化された1つの統合テンプレートから得られる、項目37に記載の構造体。
(項目39)
前記第1、第2、および第3のポリマー・マトリクスは3つの異なるテンプレートから得られ、前記第1、第2、および第3のポリマー・マトリクスは、接合するように構成される、項目37に記載の構造体。
(項目40)
前記第1、第2、および第3のポリマー・マトリクスは、少なくとも3つの垂直シームを使用して互いに接合され、それにより第1の王冠形状を形成するトップピース、フロントピース、およびサイドピースを備える、項目37に記載の構造体。
(項目41)
前記トップピース、フロントピース、およびサイドピースを接合させるために4つの垂直シームが使用される、項目40に記載の構造体。
(項目42)
前記サイドピースに組み込まれたフラップ、タブ、またはハンドルをさらに備える、項目40に記載の構造体。
(項目43)
前記第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第3のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはそれら3つの全てに堆積された細胞の第2の集団をさらに備える、項目37に記載の構造体。
(項目44)
前記細胞の第2の集団は尿路上皮細胞を含む、項目33に記載の構造体。
(項目45)
層状に組織化された内腔器官または組織構造の再建、修復、増強または置換を必要とする患者におけるそのような治療のための方法であって、
a)項目1、25または33のいずれか1項に記載の埋込型構造体を提供するステップと、
b)ポリマー・マトリクスまたは骨格細胞構造体を形成するために、前記ポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第1の表面上もしくは表面内、またはその両方に、少なくとも第1の細胞集団を堆積させるステップであって、前記第1の細胞集団は実質的に筋肉細胞集団であるステップと、
c)接合した、成形されたポリマー・マトリクスまたは骨格細胞構造体を、内腔器官または組織構造の再生のために、前記治療の部位で前記患者に埋め込むステップと、
を含む、方法。
(項目46)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格は、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目45に記載の方法。
(項目48)
前記第1のポリマー・マトリクスまたは骨格および前記第2のポリマー・マトリクスまたは骨格は、それぞれ、管状脈管を受けるように構成される少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含有する、項目45に記載の方法。
(項目49)
生体適合性の材料は生体分解性である、項目45に記載の方法。
(項目50)
生体適合性の材料は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはポリグリコール酸とポリ乳酸のコポリマーである、項目45に記載の方法。
(項目51)
前記第1の細胞集団は、実質的に平滑筋細胞集団である、項目45に記載の方法。
(項目52)
前記内腔器官または組織構造は泌尿生殖臓器のものである、項目45に記載の方法。
(項目53)
前記内腔器官または組織構造は、膀胱、尿管および尿道より成る群から選択される、項目45に記載の方法。
(項目54)
生体内に形成された前記内腔器官または組織構造は、天然の膀胱組織の伸展性を示す、項目45に記載の方法。
(項目55)
前記レセプタクルまたはポートは、円筒状または管状のポリマー・マトリクスを備え、該円筒状ポリマーは、その第1の端部に位置する少なくとも1つのフランジを有する、項目46に記載の方法。
(項目56)
前記レセプタクルまたはポートは、前記円筒状ポリマーの周囲に合うように構成されるワッシャをさらに備える、項目46に記載の方法。
(項目57)
前記ワッシャは、前記フランジとマトリクスおよび細胞の構造体の第1の表面との間に防水性の封止部を形成するように構成される、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記ワッシャはヒドロゲルを備える、項目56に記載の方法。
(項目59)
前記第1のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、前記第2のポリマー・マトリクスの第2の表面上もしくは表面内、またはその両方に堆積された細胞の第2の集団をさらに備える、項目45に記載の方法。
(項目60)
前記細胞の第2の集団は尿路上皮細胞を含む、項目59に記載の方法
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、複数ペタル形状の新生臓器マトリクスまたは骨格のテンプレートを描いた図である。ペタルの先端は接合して準球形の中空マトリクスを形成する。
【図2】図2は、臓器増強のための2部構成新生臓器マトリクスまたは骨格を描いた図であり、フラップを有するフランジ付赤道境界を備えるドーム形状ピースを含み、この第1のピースは細胞で播種され、第2の部分は、フラップを有するフランジ付カラーを備えるリングを含み、このフランジ付カラーは、ドーム部分のフランジ付赤道境界と接合するように設計されている。
【図3】図3は、臓器置換のための2部構成新生臓器マトリクスまたは骨格を描いた図であり、それぞれの部分は、半球形状または準半球形状を有し、それぞれ、2つの部分の接合のためのフランジ付赤道境界を備える。
【図4】図4は、図3に示される2部構成骨格の、2部構成新生臓器マトリクスまたは骨格部分を描いた図であり、フランジは溶着の準備が整っている。
【図5】図5は、図4に示される骨格の、溶着された新生臓器マトリクスまたは骨格部分を描いた図であり、フランジはトリミングされている。
【図6】図6は、2分割された臓器置換のための新生臓器マトリクスまたは骨格設計を描いた図であり、新生臓器マトリクスまたは骨格は、2分割されたそれぞれの部分の赤道以外の境界が、尿道管等の取り付けられる管状構造または脈管により近くなるように、赤道以外の軸に沿って2分割されている。
【図7】図7は、2つの部分が接合したときに、フランジの付いた縦方向の楕円形開口部が1つの側面に、円形開口部が縦方向の開口部とは反対側の表面にある、中空の準球形マトリクスまたは骨格を形成するように設計された、2部構成新生臓器マトリクスまたは骨格テンプレートを描いており、両方の開口部は、マトリクスまたは骨格の内部へのアクセスを可能にするためのものであり、また管状脈管をマトリクスに取り付けることを可能にするためのものである。
【図8】図8は、図7に描かれる2部構成中空骨格テンプレートから作製された新生臓器マトリクスまたは骨格の上面図を描いており、開口部のリップにタブまたはフランジを有する、骨格のドームにおける縦方向の楕円形開口部を示している。
【図9】図9は、図7に描かれる2部構成テンプレートから作製された中空新生臓器マトリクスまたは骨格の側面図を描いている。
【図10】図10は、図7に描かれる2部構成骨格テンプレートから作製された中空新生臓器マトリクスまたは骨格の底面図を描いており、図8に描かれる縦方向の楕円形開口部と反対側の円形開口部を示している。
【図11A】図11A〜11Cは、準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を組み立てるように設計された3部構成テンプレートを描いた図である。図11Aは王冠形状骨格のトップピースを描いており、図11Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図11Cは王冠形状骨格のサイドピースを描いている。
【図11B】図11A〜11Cは、準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を組み立てるように設計された3部構成テンプレートを描いた図である。図11Aは王冠形状骨格のトップピースを描いており、図11Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図11Cは王冠形状骨格のサイドピースを描いている。
【図11C】図11A〜11Cは、準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を組み立てるように設計された3部構成テンプレートを描いた図である。図11Aは王冠形状骨格のトップピースを描いており、図11Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図11Cは王冠形状骨格のサイドピースを描いている。
【図12A】図12A〜12Dは、図11A〜11Cに示される3部構成テンプレートから作製された準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を描いている。図12Aは王冠形状骨格の側面図であり、図12Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図12Cは王冠形状骨格の上面図を描いており、図12Dは、王冠形状骨格の底面図を描いている。
【図12B】図12A〜12Dは、図11A〜11Cに示される3部構成テンプレートから作製された準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を描いている。図12Aは王冠形状骨格の側面図であり、図12Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図12Cは王冠形状骨格の上面図を描いており、図12Dは、王冠形状骨格の底面図を描いている。
【図12C】図12A〜12Dは、図11A〜11Cに示される3部構成テンプレートから作製された準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を描いている。図12Aは王冠形状骨格の側面図であり、図12Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図12Cは王冠形状骨格の上面図を描いており、図12Dは、王冠形状骨格の底面図を描いている。
【図12D】図12A〜12Dは、図11A〜11Cに示される3部構成テンプレートから作製された準半球形の王冠形状新生臓器マトリクスまたは骨格を描いている。図12Aは王冠形状骨格の側面図であり、図12Bは王冠形状骨格のフロントピースを描いており、図12Cは王冠形状骨格の上面図を描いており、図12Dは、王冠形状骨格の底面図を描いている。
【図13】図13および14は、新生臓器マトリクスまたは骨格の播種および成長における使用のための、最初の播種容器およびバイオリアクタを描いた図である。培地に播種したりそれを交換したりするためには、バイオリアクタを完全に開かなければならないことに留意されたい。
【図14】図13および14は、新生臓器マトリクスまたは骨格の播種および成長における使用のための、最初の播種容器およびバイオリアクタを描いた図である。培地に播種したりそれを交換したりするためには、バイオリアクタを完全に開かなければならないことに留意されたい。
【図15】図15は、新生膀胱骨格のポリマー・マトリクス上または該マトリクス内の平滑筋細胞の存在を示す図である。
【図16】図16は、新生膀胱骨格のポリマー・マトリクス上または該マトリクス内の尿路上皮細胞の存在を示す図である。
【図17】図17〜20は、細胞を播種した新生臓器骨格の包装および輸送用の容器を描いた図である。新生膀胱は播種バイオリアクタから取り除かれ、輸送容器の内側バスケットへの取付のためにヘモスタットおよび鉗子を用いて扱われなければならないことに留意されたい。図17は、細胞を播種した新生臓器構造体の包装および運搬用のねじ込み式の蓋を備えた輸送容器を描いている。
【図18】図17〜20は、細胞を播種した新生臓器骨格の包装および輸送用の容器を描いた図である。新生膀胱は播種バイオリアクタから取り除かれ、輸送容器の内側バスケットへの取付のためにヘモスタットおよび鉗子を用いて扱われなければならないことに留意されたい。図18は、ねじ込み式の蓋を取った図17に描かれる輸送容器を上方から見た図であり、内側のバスケットが細胞を播種した新生臓器構造体を支持している様子を示している。
【図19】図17〜20は、細胞を播種した新生臓器骨格の包装および輸送用の容器を描いた図である。新生膀胱は播種バイオリアクタから取り除かれ、輸送容器の内側バスケットへの取付のためにヘモスタットおよび鉗子を用いて扱われなければならないことに留意されたい。図19は、図18に示される内側の支持バスケットを描いており、細胞を播種した新生臓器構造体がバスケット内に入っている。
【図20】図17〜20は、細胞を播種した新生臓器骨格の包装および輸送用の容器を描いた図である。新生膀胱は播種バイオリアクタから取り除かれ、輸送容器の内側バスケットへの取付のためにヘモスタットおよび鉗子を用いて扱われなければならないことに留意されたい。図20は、図17に描かれる新生臓器構造体輸送容器の輸送に使用される、温度管理された断熱性の箱を描いている。
【図21】図21A〜21Dは、尿管および尿道等の管状脈管またはインサートの取付のためのレセプタクルまたはポートを備えた、臓器置換のための2部構成の溶着された中空新生臓器ポリマー・マトリクスまたは骨格を描いた一連の図である。パネルAおよびCは、組立後の臓器置換のための新生臓器構造体の中実図であり、パネルBおよびDは、組立後の構造体の断面図である。これらのパネルのそれぞれはまた、ポリマーのフランジ付管状脈管またはインサートマトリクスを表しており、溶着された2部構成中空マトリクスのレセプタクルまたはポートに挿入される。
【図22】図22は、新生臓器マトリクスまたは骨格の壁(断面として図示)のレセプタクルまたはポートを通して挿入された後の、端部にフランジを有する管状脈管、およびワッシャを描いている。
【図23】図23は、骨格の壁への挿入前の、新生臓器マトリクスまたは骨格への管状脈管の取付のためのフランジ付管状脈管またはインサートを描いており、フランジに近いワッシャの面に乾燥ヒドロゲルが位置したフランジ付端部の近くのワッシャと共に示されている。
【図24】図24は、フランジ付端部が新生臓器マトリクスまたは骨格の壁を通して挿入された後の、図23に示されるインサートを描いている。インサートの残りは、骨格の壁の他の側面に残る。
【図25】図25は、ヒドロゲルが膨潤することによって外側フランジと新生臓器骨格の壁との間の空間を埋めた後の、図24のインサートを描いている。
【図26】図26は、膀胱置換のための2部構成新生臓器マトリクスまたは骨格を描いた図である。それぞれの骨格部分は、1つ以上の播種していないタブ、フランジ、および、管状脈管の取付のためのフランジ付インサートを受けるための少なくとも1つのレセプタクルまたはポートを含む。
【図27】図27は、2つの半球状新生臓器マトリクスまたは骨格が溶着された後の、図26の骨格を描いた図である。
【図28】図28は、2つの溶着した半球状骨格部分が互いに縫合され、タブが取り除かれた後の図27の骨格を描いた図である。溶着されたフランジ表面は、この段階でトリミングすることができる。
【図29A】図29A〜29Bは、三角部温存膀胱増強手術を描いた一連の図である。図29Aは、以前の新生臓器増強構造体設計を使用した膀胱増強手術を示す図であり、図29Bは、フラップおよび外側リムを備えた修正された新生臓器構造体設計を使用した膀胱増強を示す図である。
【図29B】図29A〜29Bは、三角部温存膀胱増強手術を描いた一連の図である。図29Aは、以前の新生臓器増強構造体設計を使用した膀胱増強手術を示す図であり、図29Bは、フラップおよび外側リムを備えた修正された新生臓器構造体設計を使用した膀胱増強を示す図である。
【図30】図30は、新生臓器置換構造体設計を使用した非三角部温存膀胱置換術を描いた図である。
【図31】図31は、尿管および尿道の取付のための管状脈管またはインサートを受けるように構成されたレセプタクルまたはポートを含む、修正された新生臓器置換構造体設計を使用した非三角部温存膀胱置換術を描いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
臓器または組織構造の再建、修復、増強、または置換に有用な構造体および方法が提供される。
【0028】
最も広い形態において、本発明の構造体および方法は、多層細胞構成を備える臓器または組織構造、具体的には本来層状であるそのような臓器または組織構造の再建、修復、増強または置換に有用である。より具体的には、本発明は、異なる細胞の種類の層状の分離を示し、通常の層形状を維持する必要のある、成形された中空臓器または組織構造の再建、修復、増強、または置換を促進する構造体および方法を提供する。臓器または構造に伸展性または収縮性を与える平滑筋細胞(SMC)層を含む内腔器官または組織構造が、本発明の構造体および方法に特に好適である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態の一例において、内腔器官は、尿路上皮細胞を含む第1の細胞集団の内側層と、平滑筋細胞を含む第2の細胞集団の外側層とを有する膀胱である。この構成はまた、尿管や尿道等の他の泌尿生殖臓器および組織構造に見られる。層状に組織化された臓器または組織は、管組織を含む、層により構成された、または層状に配置したあらゆる臓器を指す。本発明の対象となる他の適した層状に組織化された内腔器官、組織構造または管組織には、輸精管、卵管、涙腺、気管、胃、腸、脈管構造、胆管、射精管、精巣上体管、耳下腺管、および外科的に形成されたシャントが含まれる。他の適した臓器および組織構造には、例えば、腎臓、血管および子宮等の生殖器が含まれる。
【0030】
本発明の新生臓器構造体および方法は、生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格と、マトリクスまたは骨格の1つ以上の表面上に播種された1つ以上の細胞集団とを備える。本発明の方法は、その最も広い態様において、第1ステップとして、修復、再建、増強、または置換される内腔器官または組織構造の一部または全てとしての使用に適合するような形状の、生体適合性の人工または天然ポリマー・マトリクスまたは骨格を提供するステップを含む。以降、マトリクスと骨格という用語は交換可能に使用することができる。生体適合性の材料は、生体機能に対する毒性または傷害作用を持たないあらゆる物質である。成形されたマトリクスまたは骨格は、好ましくは、マトリクス上またはマトリクスの孔内に細胞が堆積できるような多孔質である。したがって成形されたマトリクスまたは骨格は、1つ以上の細胞集団と接触させて細胞集団をマトリクスまたは骨格上またはその中(あるいはその両方)に播種することができる。細胞を播種したマトリクス骨格(すなわち構造体)は、次いで被移植者の体内に埋め込まれ、そこで構造体は新生臓器または組織構造の再生を促進する。構造体は、あらゆる臓器の再建、修復、増強または置換に使用することができ、特に、膀胱等の泌尿生殖組織に欠陥を有する患者に使用することができる。
【0031】
好ましい実施形態では、本発明の材料および方法は、膀胱組織の再建、置換または増強に有用である。したがって、本発明は、神経因性膀胱、膀胱外反症、膀胱容量不足、非柔軟膀胱、部分または全膀胱切除後の膀胱再建、外傷により損傷した膀胱の修復等の症状の治療法を提供する。
【0032】
膀胱、腎臓または血管等の、新生臓器構造体または新生脈管構造体の埋込の間外科医が直面する可能性のある1つの問題は、尿道、尿管、腎血管等の脈管の取付である。現在、これを克服するための1つの方法は、尿道または尿管の切除端を、新生膀胱構造体の壁の穴に導入し、膨張させて構造体の内部に縫合することである。この方法における制限としては、培養液から新生膀胱構造体を取り出すための作業時間が長いこと(これは構造体内に含まれる細胞の生存能力に悪影響を与える)、膨張させて縫合する間の新生膀胱構造体の取り扱いの煩雑さと新生膀胱構造体に対する結果的な損傷、および、外科医が膀胱の「ボール」の底部の小さなスペースで縫合しなければならないこと等が含まれる。
【0033】
本明細書で説明される構造体および方法は、尿道または尿管等の脈管および他の管状構造を新生膀胱構造体等の新生臓器構造体に外科的に接続するのを容易にし、手術時間を短縮するように設計されている。本発明は、この問題に対応するために、フランジ付管状マトリクスの使用を提供する。また、本明細書で説明される方法は、脈管または血管等の他の管状構造を新生臓器、新生脈管構造または他の血管に外科的に接続するのを容易にする。1つの方法によれば、新生臓器構造体は新生膀胱構造体であり、まず、一端がフランジ状となった管状要素(本明細書ではインサートと呼ばれる)に尿道が取り付けられ、次いでインサートのフランジ状端部が新生膀胱の内部に設置される。現行の方法とは対照的に、インサートは最初に新生膀胱構造体に取り付けられない。新生膀胱構造体への縫合の必要性を緩和するインサート設計の種類と、インサートの座りを促進するヒドロゲルの使用も開示される。埋込中の設置を容易にするための骨格上のタブ、天然の膀胱三角の切断端をフランジ付細胞播種新生膀胱構造体に取り付けるのに役立つフランジ付カラー等のマトリクスまたは骨格設計の種類、溶着前に構造体内部の要素により容易にアクセスできるようにする配置を有する2部構成新生臓器構造体の形成のアプローチ、および2つの半分の新生臓器を溶着するアプローチも提示される。
【0034】
本明細書において、膀胱の再建、置換、または増強、および尿道または尿管等の脈管を新生膀胱構造体に取り付ける方法について触れているが、本明細書で説明される方法および材料は、患者における様々な組織および臓器の組織再建、置換、または増強に有用であることが理解される。したがって、例えば、膀胱、尿管、尿道、腎盂等の臓器または組織は、細胞を播種したポリマー・マトリクスを用いて増強または修復することができる。本発明の材料および方法は、さらに、血管組織(例えば、Zdrahala,R.J.,JBiomater.Appl.10(4):309−29(1996))、腸組織、胃(例えばLaurencin,C.T.et al.,J Biomed Mater.Res.30(2):133−8 1996参照)等の再建、置換、または増強にも適用することができる。治療される患者は、組織の再建、修復、置換、または増強を必要とするイヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、またはヒト等のいかなる哺乳類の種であってもよい。
【0035】
(新生臓器マトリクスまたは骨格)
生体適合性、および特に生体分解性の材料が、マトリクスの作製に好ましい材料である。
【0036】
生体適合性とは、生体機能に対する毒性または傷害作用を持たないあらゆる物質を指す。生体分解性とは、患者の体内で吸収または分解され得る材料を指す。生体分解性マトリクスまたは骨格の形成のための代表的な材料としては、天然または人工ポリマー、例えば、コラーゲン、ポリ(乳酸)およびポリ(グリコール酸)等のポリ(αエステル)、ポリオルトエステル、ポリ無水物およびそれらのコポリマー等であり、これらは制御された割合で加水分解により分解し吸収される。これらの材料は、分解性、管理容易性、サイズおよび構成に対する最大限の制御を提供する。好ましい生体分解性ポリマー材料には、吸収性人工材料として開発されたポリグリコール酸およびポリグラクチンが含まれる。ポリグリコール酸およびポリグラクチン繊維は、製造者から供給されているものを使用することができる。他の生体分解性材料としては、セルロースエーテル、セルロース、セルロースエステル、フッ素化ポリエチレン、フェノール性ポリ−4−メチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリベンゾオキサゾール、ポリカーボネート、ポリシアノアリールエーテル、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフルオロオレフィン、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾール、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、ポリサルファイド、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリチオエーテル、ポリトリアゾール、ポリウレタン、ポリビニル、ポリフッ化ビニリデン、再生セルロース、シリコーン、尿素ホルムアルデヒド、またはこれらの材料のコポリマーもしくは物理的ブレンドが含まれる。材料には、適した抗菌剤が含浸されていてもよく、視認性を向上させ外科的処置に役立てるために着色添加剤で着色されていてもよい。
【0037】
他の生体適合性材料には、エシコン社(Ethicon Co.、ニュージャージー州サマービル)により製造されている人工縫合糸材料、例えばMONOCRYL(登録商標)(グリコリドとε−カプロラクトンのコポリマー)、VICRYL(登録商標)またはポリグラクチン910(ポリグラクチン370およびステアリン酸カルシウムで被覆された、ラクチドとグリコリドのコポリマー)、およびPANACRYL(登録商標)(カプロラクトンとグリコリドのポリマーで被覆された、ラクチドとグリコリドのコポリマー)(Craig P. H.,Williams J. A.,Davis K. W.,et al.:A Biological Comparison of Polyglactin 910 and Polyglycolic Acid Synthetic Absorbable Sutures. Surg.141;1010,(1975))およびポリグリコール酸が含まれる。これらの材料は、製造者により供給されているものを使用することができる。
【0038】
さらに他の実施形態では、マトリクスまたは骨格は、天然の細胞消去された臓器の一部を使用して形成することができる。生体構造、または臓器の一部は、臓器から細胞および組織含量全体を除去することにより、細胞消去されることが可能である。細胞消去プロセスは、一連の連続抽出を含む。この抽出プロセスの1つの重要な特色は、生体構造の複雑な下位構造に干渉するあるいは破壊する可能性のある激しい抽出を避けることができるということである。第1のステップは、細胞残屑の除去と細胞膜の可溶化を含む。次に核細胞質成分および核成分の可溶化を行う。
【0039】
好ましくは、生体構造、例えば臓器の一部は、穏やかな機械的破砕法を用いて、臓器の一部の周りの細胞膜および細胞残屑を除去することにより、細胞消去される。穏やかな機械的破砕法は、細胞膜を破砕するのに十分でなければならない。しかし、細胞消去のプロセスは、生体構造の複雑な下位構造へのダメージまたは干渉を避ける必要がある。穏やかな機械的破砕法は、臓器部分の表面を擦り、蒸留水等の適量の液体中で臓器部分をかき混ぜる、あるいは臓器を撹拌することを含む。好ましい一実施形態では、穏やかな機械的破砕法は、細胞膜が破砕され細胞残屑が臓器から除去されるまで、適量の蒸留水中で臓器部分を撹拌することを含む。
【0040】
細胞膜を除去した後、生体構造の核細胞質成分を除去する。これは、下位構造を破砕することなく細胞および核成分を可溶化することにより行われる。核成分を可溶化するために、非イオン性の洗剤または界面活性剤を使用することができる。非イオン性の洗剤または界面活性剤の例としては、トリトンX−100、トリトンN−101、トリトンX−114、トリトンX−405、トリトンX−705、およびトリトンDF−16等の、ペンシルベニア州フィラデルフィアのRohm and Haas社から入手可能なトリトンシリーズ(多くの供給元から市販されている)、モノラウレート(ツイーン20)、モノパルミテート(ツイーン40)、モノオレエート(ツイーン80)等のツイーンシリーズ、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル(ブリッジ35)、ポリオキシエチレンエーテルW−1(ポリオックス)等、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸塩、CHAPS、サポニン、n−デシル−D−グルコピラノシド、n−ヘプチル−D−グルコピラノシド、n−オクチル−D−グルコピラノシド、およびノニデットP−40等が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
当業者は、上述の分類に属する化合物および供給元の説明が、商業的に入手可能であり、“Chemical Classification,Emulsifiers and Detergents”,McCutcheon’s,Emulsifiers and Detergents,1986,North American and International Editions,McCutcheon Division,MC Publishing Co.,Glen Rock, N.J.,U.S.A.およびJudith Neugebauer,A Guide to the Properties and Uses of Detergents in Biology and Biochemistry, Calbiochem. R.,Hoechst Celanese Corp.,1987に見出すことができることを理解するであろう。好ましい一実施形態では、非イオン性界面活性剤はトリトンシリーズであり、好ましくはトリトンX−100である。
【0042】
非イオン性洗剤の濃度は、細胞消去されている生体構造の種類に依存して変更することができる。例えば、血管等の繊細な組織に対しては、洗剤の濃度を下げる必要がある。非イオン性洗剤の好ましい濃度範囲は、約0.001から約2.0%(w/v)となることができる。より好ましくは、約0.05から約1.0%(w/v)である。さらに好ましくは、約0.1%(w/v)から約0.8%(w/v)である。これらの好ましい濃度は約0.001から約0.2%(w/v)の範囲であり、約0.05から約0.1%(w/v)が特に好ましい。
【0043】
高密度細胞質フィラメントネットワーク、細胞間複合体、および頂端微小細胞を含む細胞骨格成分は、水酸化アンモニウム等のアルカリ性溶液を使用して可溶化することができる。アンモニウム塩またはその誘導体より成る他のアルカリ性溶液を使用しても細胞骨格成分を可溶化することができる。他の適したアンモニウム溶液の例には、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、および水酸化アンモニウムが含まれる。好ましい実施形態では、水酸化アンモニウムが使用される。
【0044】
水酸化アンモニウム等のアルカリ性溶液の濃度は、細胞消去されている生体構造の種類に依存して変更することができる。例えば、血管等の繊細な組織に対しては、洗剤の濃度を下げる必要がある。好ましい濃度範囲は、約0.001から約2.0%(w/v)となることができる。より好ましくは、約0.005から約0.1%(w/v)である。さらに好ましくは、約0.01%(w/v)から約0.08%(w/v)である。
【0045】
細胞消去された凍結乾燥構造物は、使用する必要が生じるまで適した温度で保存することができる。使用前に、細胞消去された構造物は、適した等張性緩衝液または細胞培地中で平衡化することができる。適した緩衝液には、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、MOPS、HEPES、ハンク平衡塩溶液(Hank’s Balanced Salt Solution)等が含まれるが、これらに限定されない。適した細胞培地には、RPMI 1640、Fisher培地、Iscove培地、McCoy培地、Dulbecco培地等が含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
さらに他の使用可能な生体適合性の材料には、ステンレススチール、チタン、シリコーン、金およびシラスチックが含まれる。
【0047】
生体適合性ポリマーは、例えば、溶媒キャスト法、圧縮成形法、フィラメント引出法、メッシュ法、浸出法、製織法、および被覆法等の方法を使用して成形することができる。溶媒キャスト法では、塩化メチレン等の適当な溶媒中の1種類以上のポリマーの溶液を、分岐パターンの凹凸構造としてキャストする。溶媒の蒸発後、薄膜が得られる。圧縮成形法では、ポリマーを平方インチあたり30,000ポンド以下の圧力で圧縮して適当なパターンに成形する。フィラメント引出法は、溶融ポリマーからの引出を含み、メッシュ法は、繊維を圧縮してメッシュをフェルト状の材料に形成することを含む。浸出法では、2つの材料を含有する溶液を広げて構造体の最終形態に近い形状にする。次に溶剤を使用して成分の1つを溶解させ、孔を形成させる(Mikos、米国特許第5,514,378号(参照することにより本明細書に組み入れられる)を参照)。核生成では、RUG形状の薄膜を、放射線のダメージを受けた材料の跡を形成する放射性核分裂物質に暴露する。次にポリカーボネートのシートを酸または塩基でエッチングし、放射線のダメージを受けた材料の跡を孔に変える。最後に、レーザーを使用して多くの材料を通して個々の穴を成形および破壊し、均一な孔径を有する構造を形成する。被覆法は、例えば液化コポリマー(ポリ−DL−ラクチドコグリコリド50:50 80mg/ml塩化メチレン)等の材料でポリマー構造を被覆または浸透させ、その機械的性質を変えることを指す。被覆は、1層でも、望ましい機械的性質が達成されるまで複数層でも行うことができる。これらの成形技術は、組み合わせて用いることができ、例えば、ポリマー・マトリクスまたは骨格は製織され、圧縮成形されて互いに接着されてもよい。さらに、異なるプロセスで成形された異なるポリマー材料を互いに溶着して複合形状を形成してもよい。複合形状は、層構造であってもよい。例えば、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、1つ以上のポリマー・マトリクスに取り付けられて多層ポリマー・マトリクスまたは骨格構造を形成してもよい。取付は、液体ポリマーを用いた接着、または縫合により行うことができる。さらに、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、固体ブロックとして形成され、レーザーまたは他の標準的機械加工技術により、その所望の最終形態に成形されてもよい。レーザー成形は、レーザーを用いて材料を除去するプロセスを指す。
【0048】
ポリマー・マトリクスまたは骨格は補強されてもよい。例えば、補強材料は、人工マトリクスまたは骨格の形成中に加えられてもよく、または埋込前に天然または人工マトリクスに取り付けられてもよい。補強形成のための代表的な材料としては、天然または人工ポリマー、例えば、コラーゲン、ポリ(乳酸)およびポリ(グリコール酸)等のポリ(αエステル)、ポリオルトエステル、ポリ無水物およびそれらのコポリマー等であり、これらは制御された割合で加水分解により分解し吸収される。これらの材料は、分解性、管理容易性、サイズおよび構成に対する最大限の制御を提供する。
【0049】
生体分解性ポリマーは、引張強度等の機械的性質に関してはInstronテスターを使用して、ポリマー分子量についてはゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により、ガラス転移温度については示差走査熱量測定法(DSC)により、また結合構造については赤外(IR)分光法により特性決定を行うことができ、毒性に関してはAmesアッセイおよび生体外催奇形性アッセイを含む初期スクリーニング試験により、免疫原性、炎症、リリースおよび分解試験については動物における埋込試験により特性決定を行うことができる。生体外細胞付着および生存能力は、走査型電子顕微鏡、組織学、および放射性同元素を使用した定量分析により評価することができる。また、生体分解性の材料は、患者に埋め込まれた際に材料が分解するまでに要する時間の量に関して特性決定することもできる。例えば厚さやメッシュサイズ等、構造体を変えることにより、生体分解性の材料は、約2年と約2ヶ月の間、好ましくは約18ヶ月と約4ヶ月の間、最も好ましくは約15ヶ月と約8ヶ月の間、最も好ましくは約12ヶ月と約10ヶ月の間で実質的に分解することができる。必要な場合は、生体分解性の材料は、約3年以内、約4年以内もしくは約5年以内またはそれより長い年数以内に実質的に分解しないように作製することができる。
【0050】
ポリマー・マトリクスまたは骨格は、上述したような制御された孔構造をもって製造することができる。孔のサイズを使用して細胞の分布を決定することができる。例えば、ポリマー・マトリクスまたは骨格上の孔は、細胞が1つの表面から反対側の表面に移行することができるように大きくてもよい。あるいは、ポリマー・マトリクスまたは骨格の2つの側面の間で流体は連通しているが細胞は通過できないように、孔は小さくてもよい。この目的を達成するための適した孔のサイズは、直径約0.04ミクロンから約10ミクロン、好ましくは直径約0.4ミクロンから約4ミクロンであってもよい。ある実施形態では、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、細胞の第1の集団の孔への付着および移行を可能にするのに十分大きい孔を備えてもよい。孔のサイズは、細胞がポリマー・マトリクスまたは骨格の1つの側面から反対側に移行するのを防ぐために、ポリマー・マトリクスまたは骨格の内部で減少してもよい。ポリマー・マトリクスの反対側では、細胞の第2の集団の付着および定着を可能とするために、孔は再び広がってもよい。ポリマー・マトリクス内部での孔のサイズの減少により、第1の細胞集団および第2の細胞集団は、最初に混合することはできない。孔のサイズが減少したポリマー・マトリクスまたは骨格の一実施形態は、2つの大径孔材料で挟まれた小径孔材料の積層構造である。あるいは、小径孔材料に積層された大径孔材料も、細胞を全く混ぜることなく両側に細胞の成長を定着させることができる。ポリカーボネート膜は、例えば約0.01ミクロン、約0.05ミクロン、約0.1ミクロン、約0.2ミクロン、約0.45ミクロン、約0.6ミクロン、約1.0ミクロン、約2.0ミクロン、および約4.0ミクロン等、非常に制御された孔のサイズで製造することができるため、ポリカーボネート膜が特に適している。サブミクロンレベルにおいて、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、バクテリア、ウィルス、および他の細菌に対し非透過性であってもよい。
【0051】
それぞれ個別のマトリクス、またはその一部の設計においては、特に、(i)形状、(ii)強度、(iii)剛性および堅さ、および(iv)縫合性(マトリクスまたはその一部が隣接組織に容易に縫合あるいはその他の方法で取り付けることができる程度)といった特徴または基準が考慮される。本明細書で使用される場合、あるマトリクスまたは骨格の剛性は、骨格を変形させるように作用する単位面積あたりの応力と、その結果生じる変形量との間の比率を表現した弾性率で定義される(例えば、Handbook of Biomaterials evaluation,Scientific,Technical,and Clinical Testing of Implant Materials, 2nd edition,edited by Andreas F.
von Recum,(1999);Ratner,et al.,Biomaterials Science: An Introduction to Materials in Medicine, Academic Press(1996)を参照)。骨格の堅さは、ある骨格が示す伸展性(または伸展性のなさ)の程度を指す。
【0052】
これらの基準はそれぞれ、(特に材料や製造プロセスの選択により)マトリクスまたはその一部を、それが意図される医学上の適応および生理学的機能に対応するために最適化し修正することができるように変更可能な変数である。例えば、膀胱の置換、再建、および/または増強のためのマトリクスまたは骨格を備える材料は、変動する尿量に対応できるよう十分柔軟でありながら、断裂しないように縫合を支持するのに十分な強度を備えていなければならない。
【0053】
最適には、マトリクスまたは骨格は、生体分解後、結果的に再建された膀胱が天然の膀胱と同様に空の状態では折り畳まれるように、またドームからの漏出点を残すことなく尿路カテーテルを組織工学的な膀胱から取り除いている間尿管が閉塞されないように、成形される必要がある。生体工学的膀胱構造体は、1つのピースとして製造することができ、または各部分を個々に製造するか、もしくはセクションの組合せを特定部分として製造することもできる。それぞれの特定のマトリクスまたは骨格部分は、特定の機能を有するように製造されてもよい。あるいは、製造上の容易性のために特定部分が製造されてもよい。特定部分は、特定の材料から作製されてもよく、また特定の性質を提供するように設計されてもよい。特定部分の性質としては、天然組織(例えば尿管)と同様の0.5から1.5MPaの引張強度および30から100%の最終伸長率を含めることができ、あるいは、引張強度は0.5から28MPaの範囲、最終伸長率は10〜200%の範囲となることができ、また圧縮強度は<12となることができる。
【0054】
円形、貝殻形状、平坦形状、星型形状であってもよい、単独または他の繊維と撚り合わせた繊維から形成されたメッシュ状構造が好ましい。分岐した繊維の使用は、容積の増加に比例した表面積の増加の問題を自然が解決してきたのと同じ原理に基づく。多細胞生物は、この反復した分岐構造を利用している。分岐システムは、臓器、および個々の臓器の機能単位との間の通信ネットワークを代表するものである。この構成に細胞を播種することにより、多数の細胞を埋め込むことができ、そのそれぞれは宿主の環境に曝され、新血管形成が達成されながら、栄養素と老廃物の自由な交換が提供される。ポリマー・マトリクスまたは骨格は、所望の最終的な形態、構造、および機能に依存して、柔軟であっても堅くてもよい。
【0055】
好ましい一実施形態では、ポリマー・マトリクスまたは骨格は、ポリグリコール酸で形成され、平均繊維径は15μmであり、4−0ポリグラクチン910縫合糸を使用して膀胱形状の型として構成される。得られた構造物は、適正な機械的特徴を達成し、その形状を固定するために、例えばポリ−DL−ラクチド−コ−グリコリド50:50、塩化メチレン1ミリリットルあたり80ミリグラム等の液化コポリマーで被覆される。
【0056】
ポリマー・マトリクスは、例えば埋込後の新組織の再生を促進するために、埋込前に(任意選択の播種細胞を使用する場合は、ポリマー・マトリクスまたは骨格が細胞で播種される前または後に)添加剤または薬剤で処理することができる。したがって、グラフトの治癒および新組織の再生を促進するために、例えば、成長因子、サイトカイン、細胞外基質または骨格成分、および他の生体活性材料をポリマー・マトリクスまたは骨格に加えることができる。そのような添加剤は、一般に、植え込まれた臓器または組織中で適切な新組織が確実に形成されるように、再建、置換、または増強が行われている組織または臓器に従って選択される(骨折治癒の促進における使用のためのそのような添加剤の例については、例えばKirker−Head, C. A. Vet. Surg. 24 (5): 408−19 (1995)を参照)。例えば、ポリマー・マトリクス(任意選択で内皮細胞で播種されている)を使用して血管組織を増強する場合、血管内皮成長因子(VEGF)(例えば米国特許第5,654,273号)を使用して新血管組織の再生を促進することができる。追加の細胞が使用された場合は、成長因子および他の添加剤(例えば上皮成長因子(EGF)、ヘパリン結合上皮様成長因子(HBGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、サイトカイン、遺伝子、タンパク質等)を、ポリマー・マトリクス上に播種された細胞が産生することができるそのような成長因子(該当する場合)のいかなる量をも超える量で加えることができる。そのような添加剤は、好ましくは、(例えば宿主細胞のグラフト内への浸潤をもたらすまたは促進することにより)修復、置換、または増強が行われる組織または臓器に適切な種類の新組織の再生を促進するのに十分な量で提供される。他の有用な添加剤には、抗生物質等の抗菌剤が含まれる。
【0057】
1つの好ましい支持マトリクスまたは骨格は、細胞の支持体が埋め込まれた後の、短い距離にわたる栄養素の拡散による細胞の生存を可能にする交差したフィラメントより成る。細胞支持マトリクスまたは骨格は、埋込後の細胞の塊の拡大に応じて血管が新生される。
【0058】
埋込前に生体外で三次元構造体を構築することにより、生体内への埋込後の最終的な細胞の末端分化が促進され、マトリクスへの炎症反応のリスクが最小化され、したがってグラフトの拘縮および縮みが回避される。
【0059】
ポリマー・マトリクスまたは骨格は、使用前にあらゆる既知の方法を用いて滅菌することができる。使用される方法は、ポリマー・マトリクスに使用される材料に依存する。滅菌方法の例としては、蒸気、乾熱、放射線、エチレンオキサイドガス等のガス、煮沸等が挙げられる。
【0060】
(新生臓器マトリクスまたは骨格の形成方法)
生体適合性骨格は、例えば、溶媒キャスト法、圧縮成形法、フィラメント引出法、メッシュ法、浸出法、製織法、発泡法、エレクトロスピニング法、および被覆法等の方法を使用して成形することができる。溶媒キャスト法では、塩化メチレン等の適当な溶媒中の1種類以上のポリマーの溶液を、分岐パターンの凹凸構造としてキャストする。溶媒の蒸発後、薄膜が得られる。圧縮成形法では、ポリマーを平方インチあたり30,000ポンド以下の圧力で圧縮して適当なパターンに成形する。フィラメント引出法は、溶融ポリマーからの引出を含み、メッシュ法は、繊維を圧縮してメッシュをフェルト状の材料に形成することを含む。浸出法では、2つの材料を含有する溶液を広げて人工臓器の最終形態に近い形状にする。次に溶剤を使用して成分の1つを溶解させ、孔を形成させる(Mikosに対する米国特許第5,514,378号を参照)。
【0061】
核生成では、人工臓器の形状の薄膜を、放射線のダメージを受けた材料の跡を形成する放射性核分裂物質に暴露する。次にポリカーボネートのシートを酸または塩基でエッチングし、放射線のダメージを受けた材料の跡を孔に変える。最後に、レーザーを使用して多くの材料を通して個々の穴を成形および破壊し、均一な孔径を有する骨格構造を形成する。被覆法は、例えば液化コポリマー(ポリ−DL−ラクチドコ−グリコリド50:50 80mg/ml塩化メチレン)等の材料で構造を被覆または浸透させ、その機械的性質を変えることを指す。被覆は、1層でも、望ましい機械的性質が達成されるまで複数層でも行うことができる。これらの成形技術は、組み合わせて用いることができ、例えば、骨格は製織され、圧縮成形されて互いに接着されてもよい。さらに、異なるプロセスで成形された異なる材料を互いに溶着して複合形状を形成してもよい。複合形状は、層構造であってもよい。例えば、マトリクスまたは骨格は、1つ以上のポリマー・マトリクスに取り付けられて多層骨格構造を形成してもよい。取付は、液体ポリマーを用いた接着、または縫合により行うことができる。さらに、マトリクスまたは骨格は、固体ブロックとして形成され、レーザーまたは他の標準的機械加工技術により、その所望の最終形態に成形されてもよい。レーザー成形は、レーザーを用いて材料を除去するプロセスを指す。
【0062】
骨格は、いかなる数の全体的なシステム、配置、または空間の制限をも満たすためのいかなる数の所望の構成にも成形することができる。例えば、膀胱、尿道、弁、または血管の再建のための骨格の使用においては、マトリクスまたは骨格は、組織の全体または一部の形状の寸法に適合するように成形することができる。必然的に、骨格は、異なるサイズの患者の臓器に適合するような異なるサイズおよび形状で成形することができる。膀胱の場合、骨格は、生体分解後、最終的に再建された膀胱が天然の膀胱と同様に空の状態では折り畳まれることが可能なように成形される必要がある。また、マトリクスまたは骨格は、患者の特別な要件に対応するための他の態様で成形されてもよい。
【0063】
(臓器再建のための細胞)
一実施形態では、骨格に細胞の1つ以上の集団を播種して人工臓器構造体を形成する。人工臓器構造体は、細胞集団を患者自身の組織から得た自家のものであってもよく、あるいは、細胞集団を当該患者と同じ種内の他の患者から得た同種のものであってもよい。人工臓器構造体は、異なる細胞集団を患者とは異なる哺乳類種から得た異種のものであってもよい。例えば、細胞は、ヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、およびヒツジ等の哺乳類の臓器から得ることができる。
【0064】
細胞を分離するためのプロセスを本明細書で概説し、後述する実施例で具体的な手順を示す。細胞は、例えば、生きた対象からの生検標本や死体から回収した全臓器等、多くの源から分離することができる。分離された細胞は、好ましくは、非移植者となることが意図される対象からの生検により得られた自己細胞である。例えば、腕、前腕、または下肢からの骨格筋、または、少量のリドカインの皮下注射による局所麻酔で処理された領域からの平滑筋の生検標本が、培養で増量される。生検標本は、処置を迅速かつ簡単にする操作性の高い針である生検針を使用して採取することができる。骨格筋または平滑筋の少量の生検コアは、Atala,et al.,(1992) J. Urol. 148,
658−62;Atala, et al.(1993) J. Urol. 150: 608−12に記載されているように増量および培養することができる。血縁者または同じ種の他のドナーからの細胞もまた、適切な免疫抑制と共に使用することができる。
【0065】
細胞の分離と培養の方法は、Fauza et al.(1998) J. Ped.
Surg. 33, 7−12(参照することにより本明細書に組み入れられる)で論じられている。細胞は、当業者には既知の技術を使用して分離されてもよい。例えば、組織または臓器は、機械的に分解され、かつ/または、隣接細胞との結合を弱める消化酵素および/またはキレート剤により処理されて、認め得るほどの細胞の破壊なしに組織を個々の細胞の懸濁液として分散させることができるようになる。酵素による解離は、組織を細かく刻み、多くの消化酵素のいずれかを単独で、または組み合わせて使用して刻まれた組織を処理することにより達成される。これらには、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、および/またはヒアルロニダーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、プロナーゼ、およびディスパーゼ等が含まれるが、これらに限定されない。機械的破砕法もまた、臓器表面の擦過、グラインダ、ブレンダ、篩、ホモジナイザ、圧力セル、または高周波発生器等の使用等、多くの方法により達成することができる。組織分解技術の検討には、Freshney,(1987),Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique, 2d Ed., A. R. Liss, Inc.,New York, Ch. 9, pp. 107−126を参照されたい。
【0066】
好ましい細胞の種類には、尿路上皮細胞、間葉細胞、特に平滑筋または骨格筋細胞、ミオサイト(筋肉幹細胞)、線維芽細胞、軟骨細胞、含脂肪細胞、線維筋芽細胞、および外胚葉細胞(延性のある皮膚細胞を含む)、肝細胞、島細胞、腸に存在する細胞、およびその他の実質細胞、骨芽細胞および他の骨または軟骨を形成する細胞等が含まれるが、これらに限定されない。ある場合には、神経細胞を含むことが望ましい場合もある。
【0067】
組織を個々の細胞の懸濁液にまで細分化したら、懸濁液は、細胞要素を得ることができる部分母集団に分別することができる。これもまた、細胞分離のための標準的技術を使用して達成することができ、当該技術には、クローニングおよび特定の細胞の種類の選択、不要な細胞の選択的破壊(陰性選択)、混合集団における差異的な細胞凝集性に基づく分離、凍結融解法、混合集団における差異的な接着特性、ろ過、従来のゾーン遠心分離法、遠心水簸(対流遠心分離)、単位重量分離、向流分配、電気泳動および蛍光活性化細胞選別等が含まれるが、これらに限定されない。栄養系選抜および細胞分離技術の検討には、Freshney,(1987),Culture of Animal Cells.
A Manual of Basic Technique, 2d Ed.,A. R. Liss, Inc., New York,Ch. 11, pp. and 12, 137−168を参照されたい。例えば、ある細胞の種類は、磁気活性化および蛍光活性化細胞選別により富化することができ、また他の細胞の種類は、特定の細胞の種類を回収するために減らすことができる。
【0068】
細胞の分別は、例えばドナーが所望の組織への癌や他の腫瘍の転移を有している場合にもまた望ましい場合がある。細胞集団は、正常な非癌性細胞から悪性細胞または他の腫瘍細胞を分離するためにも選別することができる。1つ以上の選別技術により分離された正常な非癌性細胞は、次に臓器再建に使用することができる。
【0069】
分離された細胞は、生体外で培養して生体適合性骨格の被覆に利用可能な細胞数を増加させることができる。組織拒絶反応を防止するには、同種細胞の使用、より好ましくは自己細胞が好ましい。しかし、人工臓器埋込後の対象に免疫反応が生じる場合には、対象を例えばシクロスポリンまたはFK506等の免疫抑制剤で処置し、拒絶の可能性を低減することができる。ある実施形態では、キメラ細胞、またはトランスジェニック動物からの細胞を生体適合性骨格上に被覆することができる。
【0070】
分離された細胞は、被覆前に遺伝物質でトランスフェクトされてもよい。有用な遺伝物質は、例えば、宿主内での免疫反応を低減するまたは排除することができる遺伝子配列であってもよい。例えば、クラスIおよびクラスII組織適合抗原等の細胞表面抗原の発現を抑制することができる。これにより、移植細胞が宿主に拒絶される可能性を低めることができる。さらに、遺伝子導入にもトランスフェクションを用いることができる。
【0071】
分離された細胞は、正常のものであっても、追加または正常の機能を提供するために遺伝子操作されたものであってもよい。レトロウィルスベクター、ポリエチレングリコールで細胞を遺伝子操作する方法、または当業者に既知の他の方法を使用することができる。これらの方法には、細胞中に核酸分子を輸送し発現させる発現ベクトルの使用が含まれる(Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185, Academic Press,San Diego, Calif.(1990)を参照)。
【0072】
ベクターDNAは、従来の形質転換またはトランスフェクションの技術により原核細胞または細胞に導入される。宿主細胞の形質転換またはトランスフェクションの適した方法は、Sambrook et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press(1989))、および他の実験教科書に見出すことができる。
【0073】
(新生臓器マトリクスまたは骨格への播種)
マトリクスまたは骨格上への細胞の播種は、標準的方法に従い行うことができる。例えば、組織修復のためのポリマー基材への細胞播種について報告されている(例えばAtala,A. et al.,J. Urol. 148(2 Pt 2):658−62
(1992);Atala, A.,et al.J. Urol. 150(2 Pt 2): 608−12 (1993)を参照)。培地内で増殖させた細胞をトリプシン処理して細胞を分離し、分離された細胞をマトリクス上に播種することができる。あるいは、細胞培地から得た細胞を細胞層として培養皿から剥離し、事前に細胞を分離することなく細胞層を直接骨格上に播種することができる。
【0074】
好ましい実施形態では、100万個から700億5000万個の細胞が培地中に懸濁され、骨格表面の平方センチメートルごとに塗布される。好ましくは、100万個から5000万個の間の細胞、より好ましくは100万個から1000万個の間の細胞が培地中に懸濁され、骨格表面の平方センチメートルごとに塗布される。マトリクスまたは骨格は、細胞が付着するまでの間、例えば37℃、5%CO等、標準的な培養条件でインキュベートされる。しかし、骨格上に播種される細胞の密度は変わり得ることが理解される。例えば、細胞の密度が高いほど、播種された細胞による組織再生がより促進され、密度が低いほど、宿主からグラフトに浸潤する細胞による組織再生を比較的大きくさせることができる。マトリクスまたは骨格と細胞によっては、他の播種技術もまた使用可能である。例えば、真空ろ過により、マトリクスまたは骨格に細胞を塗布してもよい。本明細書の教示に照らして、細胞の種類の選択、および骨格上への細胞の播種は、当業者にとっては日常的な作業であろう。
【0075】
一実施形態では、細胞の1つの集団を骨格に播種して人工臓器構造体を形成する。他の実施形態では、マトリクスまたは骨格の2つの側面に2つの異なる細胞の集団が播種される。これは、まずマトリクスまたは骨格の1つの側面に播種し、次いで別の側面に播種することにより行うことができる。例えば、1つの側面を上にして骨格を置き、播種することができる。次いで、第2の側面が上となるようにマトリクスまたは骨格を配置し直すことができる。そして第2の側面に細胞の第2の集団を播種することができる。あるいは、マトリクスまたは骨格の両側に同時に播種することができる。例えば、2つの細胞チャンバを骨格の両側に配置する(つまり挟み込む)ことができる。2つのチャンバを異なる細胞集団で満たし、マトリクスまたは骨格の両側に同時に播種することができる。挟まれた骨格を回転させるか、または頻繁に反転させ、両方の細胞集団に対し、付着する機会を同程度与えるようにすることができる。マトリクスまたは骨格の孔が、1つの側面から他の側面へ細胞が通過するのに十分大きい場合は、同時播種が好ましい場合がある。骨格の両側への同時播種は、細胞が反対側に移行する可能性を低減する。
【0076】
他の実施形態では、2つの別個の骨格に異なる細胞集団を播種することができる。播種後、2つのマトリクスを結合して、2つの側面に異なる細胞集団を備える単一のマトリクスまたは骨格を形成することができる。互いに骨格を結合することは、フィブリン接着剤、液体コポリマー、縫合糸等の標準的手法を用いて行うことができる。
【0077】
(再建手術)
増強する臓器または組織への骨格の移植は、実施例に記載の方法、または当技術分野で知られた方法に従い行うことができる。マトリクスまたは骨格は、グラフト材料を対象臓器に縫合することにより、対象の臓器または組織に移植することができる。臓器全置換のための新生臓器の埋込は、実施例に記載の方法、または当技術分野で知られた外科的方法に従い行うことができる。
【0078】
説明された技術は、臓器または組織における癌を治療するために使用することもできる。例えば、正常組織サンプルを、癌に罹患した患者から摘出することができる。組織サンプルからの細胞集団を、一定期間体外で培養し増量させることができる。癌性細胞または前癌細胞を除去するために、蛍光活性化細胞選別器を使用して細胞を選別することができる。選別された細胞は、播種された骨格を作製するために使用することができる。同時に、患者に癌の治療を施すことができる。癌治療は、化学療法または放射線療法に加え、臓器の癌性部分の切除が必要となる場合がある。癌治療の後、播種された骨格は、組織または臓器の再建に使用することができる。
【0079】
実施例では膀胱再建のための方法が開示されているが、対象の臓器または組織にグラフトを取り付ける他の方法(例えば、外科用ステープルの使用)も使用可能である。そのような外科的処置は、当業者により既知の手順に従い行うことができる。
【0080】
本発明は、以下の限定されない実施例を参照することによりさらに理解されるであろう。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
膀胱形状ポリマー・マトリクスまたは骨格の形成
ここで説明される新生臓器構造体は、例として新生膀胱構造を用いて示される。ここでは新生膀胱構造について触れているが、ここで説明される方法および材料は、例えば新生腎臓増強構造体等、様々な新生臓器および新生脈管増強構造体の形成に有用であることが理解されるだろう。
【0082】
新生膀胱マトリクスまたは骨格の作製。新生膀胱マトリクスまたは骨格の製造組織の再建、修復、増強、または置換のための新生膀胱マトリクスまたは骨格は、ポリグリコール酸(PGA)不織フェルト(BMS 2.5mm厚、58mg/ccまたは99mg/ml)を使用して作製される。PGA不織フェルトは、平均繊維径が約15μm、繊維間距離が約0から約200μm、寸法が約10cm×10cmである。不織フェルトの作製のための開始材料は、分子量MWが100kDaのPGAもしくはPLGA10:90または15:85である。開始材料は、厚さ2.5mmのフォーム、約95%の孔隙率、約150ミクロンの平均細孔径を有する。
【0083】
新生膀胱パターンをテンプレートとして用い、PGA不織フェルトを切断する。新生膀胱パターンは、例えば、膀胱修復または増強処置には1つの半球形または準半球形の新生膀胱構造体が必要となり、膀胱全再建には1つの球形もしくは準球形の新生膀胱構造体、または、互いに溶着されて球形もしくは準球形の構造体を形成する、2つの半球形もしくは準半球形の新生膀胱構造が必要となるように、球形、準球形、半球形、または準半球形の形状である。
【0084】
修復、増強、または置換のための、球形、準球形、半球形、または準半球形の新生膀胱構造を形成するために、新生膀胱テンプレートを使用してPGA不織フェルトを切断する。新生膀胱テンプレートは、PGA不織フェルトの単一ピース、または、例えば2つ以上のピース、3つ以上のピース、もしくは4つ以上のピース等、互いに溶着される複数のピースである。次いで、例えば単一テンプレートの異なる領域を溶着するか、または複数ピースからなるテンプレートの2つ以上のピースを互いに溶着することにより、テンプレートを組み立てる。一実施形態では、単一の独立したテンプレートを使用して球形または準球形の新生膀胱構造体を形成する。他の実施形態では、まず2部構成構造体を1つの一体部分から形成するように、単一の独立したテンプレートを使用して2つの半球形または準半球形の新生膀胱構造を形成する。他の実施形態では、新生膀胱構造体のそれぞれの半分の部分を、2つ以上の異なる部分から形成するように、2つ以上の異なるテンプレートを使用して、互いに接合するように構成される半球形または準半球形の新生膀胱構造を形成する。ある実施形態では、接合するように構成される半球形または準半球形部分を形成するために使用される2つ以上の異なるテンプレートは対称的であり、また他の実施形態では、2つ以上の異なるテンプレートまたは部分は非対称的である。
【0085】
(増強構造体の設計)
単一の新生膀胱テンプレート設計は、組み立てられると、膀胱増強に使用するための球形または準球形の構造体を生成する。使用されるテンプレートに関わらず、組み立てられた構造体は、例えば人間の対象内等の意図される埋込部位の構造内に適合するように設計される。
【0086】
準球形の新生膀胱構造体を形成するために使用される最初の単一の新生膀胱テンプレートの例を図1に示す。図1の新生膀胱テンプレートは、組み立てられると、球形または準球形の単一構造体を形成する。ダイプレスを使用して、または手で図1に示すパターンを切断した後、ペタル部分を互いに接合する。ペタル部分は、接着剤、ステープル、縫合糸、または当業者には既知の他の手法で接合することができる。好ましくは、ペタル部分は、各ペタルの少なくとも一部が隣接したペタルの少なくとも一部と重なり、チューリップの形状またはチューリップに類似した形状を形成するように組み立てられる。例えば、4−0ビクリル(vicryl)縫合糸を使用して、3つ目または4つ目のステッチごとに結び目を作る単純な連続ステッチまたは「ブランケットステッチ」により、各ペタルを互いに完全に縫合する。2つのペタルを互いに縫合したら、縫合糸の輪、例えば1.5インチの輪または3インチの輪を、各ペタルの端部に作る。好ましくは、各ペタルの端部に1つずつ、骨格ごとに6つの輪がある。縫合糸の別の輪、例えば3インチの輪を骨格の頂部に作り、縫合を完了する。これらの輪は、本明細書で説明される新生膀胱構造の操作および埋込の容易性を向上するためのハンドルを形成する。例えば、外科医はこれらの輪をハンドルとして利用して、埋込中新生膀胱構造体を抑える。
【0087】
他の実施形態において、新生膀胱マトリクスまたは骨格は、当技術分野で知られた様々な技術のいずれかを使用して形成される。新生膀胱マトリクスまたは骨格は、例えば、成形、発泡、またはエレクトロスピニングされる。
【0088】
増強のための新生膀胱構造は、2部構成設計または3部構成設計等、複数部分構成設計として形成することもできる。複数部分構成構造体は、接合して単一の半球形または準半球形の構造体を形成するように構成される異なる骨格部分を使用する。本明細書で使用される場合、半形状は、あらゆる幾何学的形状の半分を指す。接合するように構成される半形状は、対称でも非対称でもよい。まず異なる骨格部分を単一のテンプレートから一体部分として形成するか、または、2つ以上のテンプレートから互いに接合するように構成される異なる部分として形成することができる。
【0089】
新生臓器の作製において、構造体の内部にアクセスすることが望ましい場合がある。例えば、骨格の内部表面上に細胞を播種するために、または手術中に脈管を臓器の内部に取り付ける、もしくは他の操作を行うために、内部へのアクセスが必要となる可能性がある。そのような操作の後、骨格部分を溶着して新生膀胱構造体を形成しなければならない。本明細書で説明される構造体の設計および方法は、迅速で再現性のある、骨格部分の無菌溶着を可能にする。
【0090】
準球形の新生膀胱構造体を形成するために使用される最初の非対称的な2部構成設計の例を図2に示す。一実施形態では、2部構成新生膀胱構造体設計は、図2に示すように、操作の容易性向上のための播種されていないフラップと、縫合糸および接着剤を使用して頂端ドームおよびフランジ付カラーを封止することができる外側リムまたは縁とを含む。フラップは、新生膀胱構造体と一体的に形成することができ、あるいは、適所にステープルで留められた異なる部分として作ることができる。
【0091】
図2に示す最初の2部構成新生膀胱構造体設計は、外科医が細胞播種領域に触れることなく構造体を取り扱うことができるようにするタブを組み込んでいる。この設計はまた、天然の膀胱三角の切断端をフランジ付細胞播種新生膀胱骨格に取り付けるのに役立つフランジ付カラーを含む。フランジ付カラーは、同じ骨格材料から作製されるが、細胞は播種されない。この手法は、埋込手術時間を短縮するのに役立つ。端的には、外科医はまず角度の付いたカラーを残りの膀胱の三角部に縫合することができ、次いで輸送容器から新生膀胱構造体を取り出して2つのフランジ付端部を縫合して処置を完了することができる。この2部構成システムは、播種された新生膀胱構造体が露出される時間を減少させるはずであり、患者への負担を軽減する。フランジ付端部は、フランジのない新生膀胱構造体に三角部を直接接続するための複数のステッチではなく、途切れのない単純な連続ステッチを使用して互いに縫合することができる。さらに、外科医は、三角部への取付の間、タブを使用して播種されていないカラーを取り扱い操作することができ、2つの半分部分が溶着された後にタブを取り外すことができる。
【0092】
複数部分構成新生膀胱構造体の設計は、最終的に埋込が意図される部位特有の構造に適応するように変更される。特に、複数部分構成増強テンプレートは、組み立てられると構造体が王冠形状または略王冠形状となって埋込部位の構造に対応するように変更される。これは、3部構成設計を使用して異なる準半球形のマトリクスまたは骨格部分を形成することにより達成される。1つの3部構成準半球形状を膀胱増強または修復に使用してもよい。あるいは、2つの3部構成準半球形状を接合して、膀胱全置換のための準球形状を形成してもよい。埋込部位の構造に対応することができる準半球形の新生膀胱構造体を形成するために使用される3つの異なるテンプレートの例を、図11A〜11Cに示す。一実施形態では、準半球形の新生膀胱構造を形成するために使用される3部構成設計は、操作の容易性向上のための播種されていないフラップと、縫合糸および接着剤を使用して3つの部分を互いに接合することができる外側リムまたは縁とを含む。フラップは、新生膀胱構造体と一体的に形成することができ、あるいは、適所にステープルで留められたまたは縫着された異なる部分として作ることができる。
【0093】
3つのテンプレートの設計を使用して異なる準半球形の骨格部分を形成する1つの利点は、拡張性である。当業者ならば、増強または置換される臓器の所望の容積に依存してパターンを拡大または縮小するために、3つのテンプレートのそれぞれの適切な長さ、幅、および高さを計算することができる。一実施形態では、図11A〜11Cに示す3つのパターンのテンプレートは、赤道長さが8.6cm、赤道幅が8.4cm、および高さが7.2cmのものを使用して250mLの新生膀胱骨格が形成される。他の実施形態では、赤道長さ9.6cm、赤道幅8.7cm、および高さ7.3cmを使用して350mLの新生膀胱骨格が形成される。さらに他の実施形態では、赤道長さ10.9cm、赤道幅10.5cm、および高さ8.3cmを使用して450mLの骨格が形成される。
【0094】
図11A〜11Cに示される3部構成新生膀胱テンプレートを使用してPGA不織フェルトを切断する。次に、3つの、好ましくは4つの、または4つを超える垂直シームを使用して3つの部分をそれぞれ互いに縫合し、王冠形状の構造体を形成する。4つの垂直シームを使用して互いに縫合される3つの異なる骨格部分の例を、図12A〜12Dに示す。好ましくは、シームは、解くことなく切断するように縫合される。例えば、垂直シームでステッチごとに結び目を作ることにより、シームを解くことなく切断し縫着することができる。したがって、拡張性に加え、この3部構成新生膀胱構造体設計は、外科医が手術時に患者各自の生体構造に合わせて新生膀胱構造体の形状をカスタマイズできる伸展性も提供するという点で、従来設計よりも有利である。
【0095】
(置換構造体の設計)
膀胱置換のための2部構成構造体は、接合して単一の球状または半球状の構造体を形成する異なる骨格部分、好ましくは2つの半形状を使用する。本明細書で使用される場合、半形状は、あらゆる幾何学的形状の半分を指す。接合するよう構成される半形状は、対称でも非対称でもよい。まず異なる骨格部分を単一のテンプレートから一体部分として形成するか、または、2つ以上のテンプレートから互いに接合するように構成される異なる部分として形成することができる。
【0096】
膀胱の置換に使用するための球形の新生膀胱構造体を形成するために使用される最初の対称的な2部構成設計の例を図3〜5に示す。一実施形態では、半球状の異なる骨格部分は、溶着されるべきシーム上に外側フランジを備えるように製造される(図3〜5)。播種されていないフランジは、手術前または手術中の操作のためにハンドルとして使用される。フランジは、操作の後、半分部分を互いに封止するために使用される。例えば、フランジにより半球を支えるリング上に下半球を置く。次いで下半球の上に上半球を置き、フランジを他のリングで覆う。リングを互いに圧搾する。熱、RF、および/または超音波等のエネルギーをフランジに加え、互いに溶着させて封止する。エネルギーおよび圧力は界面で分子を軟化させる(移動性を増加させる、一時的にガラス転移温度(Tg)より高くする)。これにより、異なるフランジからの分子に相互に貫入するネットワークを形成させることができ、これにより、分子がガラス状態に戻る時に強固な封止が形成される。リングは金属であっても、殺菌可能ないかなる材料であってもよい。
【0097】
さらに、余分なフランジ材料をトリミングするために装置を作製することができる。好ましくは、構成には、外科医が構造体を操作する上で使用するための構造体上のタブまたはハンドルが残される。この種の構造体は、細胞播種後すぐに構造体を封止するために層流フードにおいて無菌的に組み上げることができ、また持ち運び可能で手術において外科医が構造体を溶着するために手術室に持ち込むことができる。
【0098】
最初の非対称的な2部構成新生膀胱構造体設計の他の例を図6に示す。この代替設計では、尿道取付領域から長い距離にある赤道面に沿って新生膀胱を2つの部分に分割する代わりに、尿道取付を可能にする構造の隣で新生膀胱が2分割される。これにより、外科医は容易に接続点にアクセスすることができる。これは、より球面性の低い、すなわちより細長い形状が使用された場合には特に有用である。この構成では、半分部分は、接合するように構成される、骨格材料の少なくとも2つの別個のピースで作ることができる。あるいは、半分部分のそれぞれが、溶着される必要のある複数のペタルを有するピースの代わりに、骨格材料の1つの継ぎ目のないピースから作られてもよい。このシステムはまた、播種されていないフラップまたはハンドルを提供するために使用することもでき、これらは手術前および手術中の操作を可能にし、また外科医により取り除かれるか、またはそこに設置されたままでもよい(図6参照)。
【0099】
最終的に、置換用膀胱構造体設計は修正される。特に、2部構成新生膀胱構造物は、構造体の1つの側面にフランジの付いた縦方向の楕円形開口部を含有し、該縦方向の楕円形開口部とは反対側に円形または準円形開口部を含有し、それぞれ構造体内部へのアクセスを可能にするよう設計される。円形および縦方向の楕円形開口部は、構造体内部へのアクセスを提供し、構造体−管接点の再生と適正な機能を最適化する、尿管および尿道等の泌尿生殖管の取付点を提供する。
【0100】
楕円形の縦方向開口部とは反対側に円形または準円形開口部を有する2部構成新生膀胱構造体のテンプレート設計は、ベースと、該ベースから放射状に延在するペタルとを備える。骨格材料の1つの連続ピースであって、次いで切断されて2つの異なる部分を形成する連続部分から、2つの異なる骨格部分を作ることができる。この構成では、テンプレートは、ベースと、該ベースから放射状に延在する、少なくとも4つのペタル、好ましくは5つのペタル、より好ましくは6つのペタル、または6つを超えるペタルとを備える。切断後、任意選択で追加の骨格材料が各半分部分のベースに加えられて、播種されていないフラップ、タブ、またはハンドルを形成し、これらは手術前または手術中の操作を可能にし、また外科医により取り除かれるか、またはそこに設置されたままでもよい。例えば、新生膀胱テンプレートは、対向するペタルの少なくとも1つの組が、他のペタルよりも長さが短くなるように設計される。この設計では、テンプレートが組み立てられたときに形成される構造体は、構造体の1つの端部に開口部を含有する。
【0101】
あるいは、2つの異なる骨格部分を、骨格材料の複数ピースから作ることができる。好ましい実施形態では、2つの半分部分は、接合するように構成された、骨格材料の2つの別個のピースから作られる。この構成では、各半分部分のテンプレートは、ベースと、該ベースから放射状に延在する2つのペタルとを備える。手術前および手術中の操作を容易にするために、同じ骨格材料から切り出したフラップ、タブ、またはハンドルをベース設計に統合してもよく、これにより、図7に示すように、追加の材料をベースに取り付けてフラップ、タブ、またはハンドルを形成する必要性を排除することができる。
【0102】
当業者ならば、修復、置換、または増強される臓器の形状およびサイズに依存して、ベースの適当な外周または直径、各ペタルの適当な形状、幅、および長さ、ならびに適当なペタル数を決定することができるだろう。ペタルのサイズ、形状、および数は、骨格部分が互いに縫合または他の方法で接合されると埋込の幾何学的部位に対応するように、また楕円形の縦方向のフランジ付開口部、および縦方向の開口部とは反対側の開口部の領域の長さを制御するように、拡大または縮小することができる。好ましい実施形態では、テンプレートの各半分部分は3つのペタルを備え、接合された時にペタルの先端が合わさる場所に円形または半円形の開口部が形成されるように、各半分のテンプレート上の第1および第3のペタルは第2のペタルよりも長い。
【0103】
例えば、円形開口部と、該円形開口部とは反対側の縦方向の開口部とを備える2部構成新生膀胱構造体を作製するには、PGA不織フェルト等の骨格またはマトリクス材料を、図7に示すテンプレート等の新生膀胱テンプレートを使用してダイプレスするか手で切断する。さらなる切断を必要とせずに2つの異なる骨格部分を形成するように、PGA不織フェルト等の骨格またはマトリクス材料をダイプレスするかまたは手で切断する。
【0104】
骨格テンプレートを切断したら、ペタル部分を互いに接合することにより骨格を作製する。ペタル部分は、接着剤、ステープル、縫合糸、または当業者には既知の他の手法で接合することができる。例えば、4−0ビクリル(vicryl)縫合糸、および3つ目または4つ目のステッチごとに結び目を作る単純な連続ステッチまたは「ブランケットステッチ」を使用して、各ペタルを互いに完全に縫合する。ペタルを互いに縫合すると、一端にフランジのついた縦方向の開口部(図8)、および該縦方向の開口部とは反対側に円形または準円形開口部(図10)を備えた、6つの垂直シームを有する準半球形状が得られる。使用するテンプレート設計に依存して、縦方向の開口部は、該開口部のリップに、フラップ、タブ、またはハンドルを含有してもよい。例えば、図7に示すテンプレート設計では、骨格部分の2つの半分部分が接合されると、図7において互いに対向する2つの半円形ベースが、フランジの付いた楕円形の縦方向開口部(図8および図9に示される)となり、接合したペタルの先端が円形開口部(図10に示される)を形成する。次いで骨格をPLGAで被覆し、細胞で播種して培養し、梱包して外科医に輸送する。
【0105】
この2部構成新生膀胱設計により、外科医は尿道開口部を使用して骨格を尿道に取り付けることができ、骨格のドーム上にある縦方向の開口部を使用して、また縦方向の開口部のリップ上のフラップ、タブ、またはハンドル(組み込まれている場合)を使用して尿管を取り付けるために構造体の内部にアクセスすることができるようになる。次いで構造体を縫合して閉じ、フラップ、タブ、またはハンドルを取り除くと、本質的に図1に示される一体ユニットと等しい、尿道からの細胞移行に干渉する縦方向のシームのない新生膀胱が得られる。
【0106】
一端に第1の開口部、および該第1の開口部とは反対側に縦方向の開口部を含有する2部構成新生膀胱構造体は、尿管のそれぞれを縦方向の開口部のそれぞれの遠位端に取り付けることもできるという点で、従来設計よりも有利である。底部の開口部(三角部様構造の再現)から、または構造体の頂部により近い開口部から尿管を取り付けなければならない従来の新生膀胱骨格設計は、膀胱の再生と共に2つの尿管が尿道に癒着もしくは互いに癒着するリスクがある。このリスクは、尿管が縦方向の開口部のそれぞれの遠位端で取り付けられ、新生膀胱構造体の構造内でできる限り互いに離れていれば回避される。さらに、縦方向の開口部により、尿管はある角度をもって取り付けられ、膀胱の再生と共に尿管弁を再現することが可能となる。
【0107】
ある実施形態では、本明細書で説明される2部構成新生膀胱置換構造体は、実施例9で説明されるように、新生膀胱構造体への泌尿生殖管の取付を容易化するために、異なる骨格部分のうち1つ以上が、1つ以上のフランジ付管インサートを受けるように構成される穴、レセプタクル、またはポートを、ワッシャと共にまたはワッシャなしで含有する。ある実施形態では、本明細書で説明される2部構成新生臓器構造体は、実施例9で後述される1つ以上の自己安定型インサートを受けるように構成される穴、ポート、またはレセプタクルを含有する。
【0108】
置換、増強、および/または修復のための2部構成新生膀胱構造は、様々な利点を提供する。例えば、継ぎ目のないピースから本明細書で説明される2部構成新生臓器構造体の半分部分を製造することにより、製造ステップおよび複雑性が削減される。最も外科的処置が多い場所の近くに分割面を設け、かつ/または縦方向の開口部を形成することにより、外科医は、方向またはその他の操作が必要な構造へより容易にアクセスすることができる。構造体と一体となった播種されていないフラップまたはハンドルは、構造体を容易に操作できるもう1つの方法を外科医に提供する。半分部分が事前に溶着される実施形態では、無傷の球体が外科医に送られ、それにより、手術中に半分部分を互いに縫合する必要性が排除され、ひいては手術時間が短縮され、より一貫性のある製品が提供される。例えば、半分部分を事前に溶着することにより、脈管を構造体内部に縫合した後、手術中に各部分を迅速に溶着することが可能となる。半分部分が被覆および成形の後、かつ播種前に溶着される他の実施形態では、被覆プロセス中に内部を検査し操作することができる。フランジ材料の存在により、封止プロセス中にトリミングすることができるハンドルが形成される。あるいは、さらなる操作のための小さいハンドルを残すようにフランジ材料をトリミングすることができる。
【0109】
新生膀胱マトリクスまたは骨格の事前湿潤、被覆および滅菌。ポリ−DL−ラクチド−グリコリド50:50ビーズ5gを量り取り、500mlガラス瓶にビーズを入れてポリ−DL−ラクチド−グリコリドの5%溶液(5%PLGA)を調製する。ジクロロメタン100mlを瓶に加え、溶液を室温で少なくとも1時間撹拌し、ビーズを溶解させる。5%PLGAが溶解したら、ジクロロメタン100mlを250mlビーカーに加えて事前湿潤溶液を調製する。骨格を操作するためにヘモスタットまたは鉗子を使用して、また骨格縫合ハンドルを使用して、ジクロロメタン100mlを含有する250mlビーカーに骨格を浸すことにより成形骨格を事前湿潤させる。骨格が完全に湿潤したら、ビーカーから取り出して余分な液体を切る。5%PLGAを含有する250mlビーカーに骨格を2秒間浸すことにより、骨格を被覆する。被覆された骨格を溶液から取り出し、ヘモスタットまたは鉗子を用いて縫合ハンドルを押さえながら、冷たい気流を用いて骨格を乾かす、例えば「冷」に設定したドライヤーの気流に骨格を曝すことにより、パラシュート形状に成形する。乾いたら、骨格をドラフト内にさらに2時間静置し、溶媒をさらに蒸発させる。上記プロセスを第2の被覆のために繰り返す。次いで被覆された骨格を2日間真空下に置く。この時の終わりに、被覆された骨格をホイルバッグに入れ、封止し、エチレンオキサイドを使用して30℃で滅菌する。被覆された骨格の滅菌前に、縫合材料を用いた物理的な取付、または、強化材料を膀胱ポリマーに取り付けるための他の物理的および/もしくは化学的手段を介して、強化天然または人工材料を被覆されたポリマー構造体に加える。
【0110】
細胞採取前の新生膀胱マトリクスまたは骨格の事前湿潤。細胞採取前、例えば細胞採取の1日前に、滅菌された骨格に事前湿潤処置を施す。例えば、平滑筋細胞および尿路上皮細胞で播種した新生膀胱構造では、平滑筋細胞(SMC)採取の1日前に被覆された骨格に事前湿潤を施す。500mlのSMC成長培地(後述)を、ねじ込み式の蓋を備えテフロン(登録商標)シールされた滅菌後のナルゲン製1リットルポリプロピレン瓶等の事前湿潤用容器に加えて、骨格を事前湿潤させる。事前湿潤用容器を真空チャンバ内に置き、チャンバ内を真空にする。気泡が見られなくなって骨格が完全に湿潤したら、真空チャンバから事前湿潤用容器を取り出す。事前湿潤用容器を閉めて一晩静置する。
【0111】
防水性の構造体に関しては、骨格のライニングは壊れやすく、大きな機械的力に耐えることができない。したがって、エタノールによる事前湿潤が好ましい方法である(Ishaug et al.,J Biomed Mater Res.;36(1):17−28 (1997)参照)。湿潤剤としてエタノールを使用すると、従来用いられてきたような、適正な湿潤性を確保するために骨格に培地を滴下しなければならなかった方法とは対照的に、構造体に加えられる機械的な応力が最小限で済む。
【0112】
エタノールを用いた湿潤の手順は次の通りである。バイオセーフティキャビネット(BSC)内で、骨格を覆うのに十分な量の100%エタノールを滅菌容器に入れる。75%エタノールおよび25%PBS、50%エタノールおよび50%PBS、25%エタノールおよび75%PBS、ならびに100%PBSを、同量ずつ順次容器に入れる。BSC内で、鉗子を用いて滅菌骨格を梱包から取り出し、第1の容器に入れる。あるいは、インサートに取り付けられた骨格を滅菌容器から取り出してエタノール中に入れる。20分後、骨格を75%エタノール容器に移す。20分ごとに、次に高いPBS濃度に骨格を移していく。100%PBS中で20後、ゲンタマイシン(最終濃度50μg/ml)を添加したDMEM培地中に一晩置く。湿潤を促進するためにプロセスの任意の段階において真空を適用するか、または、撹拌棒またはロッカーを使用して容器中で溶液を穏やかに撹拌することができる。
【0113】
(実施例2)
細胞の採取および培養
生検標本の調達。組織を切離するためにメスを用いて1×1cmの生検標本を膀胱の側部から採取する従来の試験とは対照的に、本実施例で説明される新生膀胱構造を形成するために使用される組織サンプルは、ステープル法を用いて、膀胱頂部から1×1cmの生検標本を採取することにより得られた。Atalaらによる米国特許第6,576,019号に記載の方法等の従来の生検手順は、概して、膀胱ドームから組織を取り出していた。一方、本明細書において使用される生検手順は、膀胱頂部という膀胱ドームの特定部分から組織を取り出す。膀胱頂部から組織を取り出すと、有用な細胞をより多く得ることができることが示されている。有用な細胞とは、増量することができ、本明細書に記載の新生膀胱骨格上に播種することができる生存細胞を指す。
【0114】
本明細書で使用されるステープル法は、膀胱頂部での輪の形成、輪の基部のステープル留め、および輪の切除を含む。ステープル法による生検は、例えば、安全に取り出せる組織の量の増加や、付随する動物への有害効果の減少等、メスによる生検に勝るいくつかの利点がある。このようにして調達された生検標本から分離された細胞は、メスを用いて膀胱側部から得た生検標本から分離された細胞と比較して、より優れた生体外での付着性および増殖性を示した。標準的抗生物質であるペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM等の標準的な培養培地中で生検材料が運搬される従来の試験とは異なり、本明細書で説明される新生膀胱構造を形成するために使用される生検サンプルは、汚染された生検標本を受ける発生率を低減するために、より広域の抗生物質であるゲンタマイシン(最終濃度50ug/ml)がDMEM培地に添加された運搬用培地中で運搬される。このより広域の抗生物質ゲンタマイシンは、人間を含む様々な対象での使用が認可されている。生検サンプルに対する後の全ての操作は、例えばバイオセーフティキャビネット(BSC)の閉鎖環境など、無菌条件下で行われる。膀胱生検標本から切り離された尿路上皮細胞および平滑筋細胞の集団は、後述のように、所定の方法で増量され、継代培養される。
【0115】
尿路上皮細胞の抽出および平板培養:ウシ下垂体抽出物(BPE)25μg/ml、組替え上皮成長因子(rEGF)0.1〜0.2ng/ml、およびゲンタマイシン5μg/mlを添加した500ml KSFMを含有する培地(本明細書では尿路上皮細胞(UC)培地と呼ぶ)3mlを含有する滅菌プラスチック組織培養皿に、生検標本を入れる。顕微鏡手術用鉗子およびメスを使用して、生検標本の尿路上皮表面を繰り返し培地中に掻き出す。この方法により、タンパク質分解酵素での長時間の生検標本のインキュベーションが必要であった従来使用されていた方法に比べて、より高い生存能力および生命力を有するより多くの細胞が単体分離される。次に尿路上皮細胞(UC)をピペット操作により収集し、血球計数器を用いた顕微鏡での計数により、生存能力および総細胞数を決定する。次いで適当な希釈を行い、細胞を平板培養する。培養物を、加湿された37℃、5% COのインキュベータ内で維持する。
【0116】
尿路上皮細胞の増量。細胞がほぼコンフルエントとなったら(つまり、培養容器の表面の75〜90%が細胞で覆われたら)、0.5mm EDTAを含有するPBS(PBS/EDTA)で、皿を洗浄する。BSC内で、室温で5〜15分間、PBS/EDTA中で細胞をインキュベートする。PBS/EDTAを培養皿から吸引する。0.25%トリプシン/EDTAを皿に加えた後、これをBSC内で、5〜10分間室温でインキュベートする。PBS/EDTAインキュベーションステップは、より厳しい0.25%トリプシン/EDTA溶液中で細胞をインキュベートするのに必要な時間を短縮する。これによって、細胞膜へのダメージがより少なくなり、後の継代において培養皿に付着することができる生存細胞の集団がより多くなる結果となる。次いで細胞を平板から収集し、滅菌50mlコニカルチューブまたは225mlコニカル瓶に入れる。FBSを最終濃度0.5%まで添加することによりトリプシンを中和する。細胞懸濁液を室温で5分間、300gで遠心分離する。細胞の沈殿物から水相を吸引する。次いで細胞計数のために沈殿物をUC成長培地中に再懸濁させる。生存細胞および非生存細胞を計数する。平板培養密度が4,000〜10,000生存細胞数/cmの間となるように、細胞を平板培養する。培養皿、例えばP150培養皿を、加湿された37℃、5% COのインキュベータ内に置く。4代〜6代(P4〜P6)で迎える最終の細胞採取まで、このプロセスを繰り返す。
【0117】
平滑筋細胞の抽出および平板培養。UC抽出後、生検サンプルをP100皿に置き、顕微鏡手術用の鋏、鉗子、および/またはメスを使用して粘膜層を約直径1mmの片に切り取る。細かく刻んだ組織をラベル付きの滅菌組織培養皿の底に均一に分布させる。10ml(P100の場合)または25ml(P150の場合)のSMC成長培地(10% FBSおよび5μg/mlゲンタマイシン添加DMEM)を加え、組織培養皿から取り除かれないように組織片を穏やかに湿らせ含浸させ、皿を加湿された37℃、5% COのインキュベータ内に置く。
【0118】
平滑筋細胞の増量。平滑筋細胞(SMC)がほぼコンフルエントとなったら(つまり、培養容器の表面の75〜90%が細胞で覆われたら)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で.皿を洗浄する。BSC内で、室温で2〜5分間、PBS中で細胞をインキュベートする。PBSを培養皿から吸引する。0.05%トリプシン/EDTAを皿に加えた後、これをBSC内で、5〜10分間室温でインキュベートする。細胞を平板から収集し、滅菌50mlコニカルチューブまたは225mlコニカル瓶に入れる。回収された細胞分散体容量の約10〜20%に等しい容量のSMC成長培地を添加することにより、トリプシンを中和する。細胞懸濁液を室温で5分間、300gで遠心分離する。細胞の沈殿物から水相を吸引し、細胞計数のために沈殿物をSMC成長培地中に再び懸濁させる。生存細胞および非生存細胞を計数する。平板培養密度が4,000〜10,000生存細胞数/cmとなるように、細胞を平板培養する。フラスコまたは細胞工場を、加湿された37℃、5% COのインキュベータ内に置く。4代〜6代(P4〜P6)での最終の細胞採取まで、このプロセスを繰り返す。
【0119】
(実施例3)
ポリマー・マトリクスまたは骨格への細胞播種
新生膀胱マトリクスまたは骨格のSMC播種。上記実施例2で説明したように平滑筋収縮(SMC)を採取して増量した後、細胞沈殿物を6mlのSMC成長培地に再懸濁させる。鉗子を用いてマトリクスまたは骨格を事前湿潤用容器から取り出し、空の滅菌細胞播種容器(図13および14を参照。当初Tengion Inc.により設計および製造された)。一実施形態では、細胞播種容器は、輸送前の培養期間の播種容器およびバイオリアクタとして、ラバーメイド製プラスチック3クオート容器を使用している。容器は、高さよりも幅のあるもので、マトリクスまたは骨格を細胞で播種する際に有用である。容器の蓋は、新生膀胱の播種を行う際には取り外すことができる。次いで、ガス交換にPALLアクロ−0.2μm PTFEフィルタディスクを使用して、蓋を閉めて封止することができる。この播種容器は、輸送前に6日間毎日交換される2リットルまでの培地を収容することができる。培養培地の容積は、培養期間の間細胞を維持するのに十分な量である。封止された容器は、培養液の交換と膀胱細胞播種のためにBSCとインキュベータの間で移動させることができる。播種容器/バイオリアクタの設計は、膀胱細胞をより良好に均一に分布させるためのあらゆる方向における骨格の操作を容易化する。
【0120】
本発明の方法の一実施形態では、図1に描かれるテンプレートにより形成される新生膀胱マトリクスまたは骨格は、次のように播種される。50mlピペットを使用して、SMC成長培地を、乾燥していると見られる任意の骨格表面に滴下する。次いで全ての培地を細胞播種容器から取り除く。可能な場合は、10mlピペットを使用して、約6〜7mlの培地をマトリクスまたは骨格から吸引する。この吸引ステップは、骨格に取り込まれる細胞懸濁液の明確な最小容積を提供する。あるいは、滅菌ガーゼで吸い取ることにより骨格から培地を吸い上げる。P1000ピペッタを使用して、細胞分散液の1/6を採り、骨格の1つのペタルの外側表面上に播種する。細胞はペタル上に均一に分布される。細胞の損失を防ぐため、マトリクスまたは骨格からいかなる液体も滴下させないように注意する。残りの5つのペタルも上述の手順を使用して播種する。滴下により細胞分散液を各ペタルに加えることにより、骨格表面上でのより一貫した、また均一な細胞の分布が確保され、それにより新生膀胱構造体の再生プロセスおよび機能が促進される。滴下による添加は、骨格表面を細胞懸濁液で洗うか、あるいは骨格が細胞分散液に含浸される従来の方法に勝る改良点である。ペタルの播種が完了したら、10〜15mlのSMC成長培地を細胞播種容器の外縁に加え、播種された構造体に培地を接触させずに湿度チャンバを形成する。細胞播種容器を封止してインキュベータ内に置く。2〜4時間後、細胞播種容器を取り出してBSC内に置く。細胞播種容器を慎重に開け、150mlのSMC成長培地を細胞播種容器に加える。細胞播種容器を再び閉じてインキュベータ内に一晩置く。2日目(すなわち骨格に播種した次の日)、細胞播種容器を取り出してBSC内に置く。細胞播種容器を慎重に開け、1.5LのSMC成長培地を容器(または容器の最上部)に加える。細胞播種容器を再び閉じてインキュベータ内に置く。
【0121】
顕微鏡明視野像(図15)では、上述の手順を用いて播種された骨格内にはSMCが確かに留まっていることが確認された。
【0122】
尿路上皮細胞で播種された新生膀胱骨格。上記実施例2で説明したように尿路上皮細胞(UC)を採取して増量した後、細胞沈殿物を6mlの成長培地(DMEM/10% FBS:KSFMの1:1混合物)に再懸濁させる。3日目(すなわちSMC播種骨格に培地を注ぎ足した次の日)、SMC播種骨格がSMC栄養培地に入った細胞播種容器をインキュベータから取り出す。培地を細胞播種容器から取り除く。10mlピペットを使用して骨格から6mlの培地を吸引する。上述のように、このステップは、図1に描かれるテンプレート設計から形成される新生膀胱骨格により取り込まれる細胞懸濁液の明確な最小容積を提供する。滅菌5mlピペットを使用して、細胞懸濁液の1/6を採り、内側表面上の骨格の沈殿物上に細胞懸濁液を播種する。細胞は沈殿物上に均一に分布され、細胞の損失を防ぐため、骨格から液体が滴下しないようにする。残りの5つのペタルも上述の手順を使用して播種する。各ペタル上への滴下による細胞懸濁液の添加することにより、骨格表面上でのより一貫した、また均一な細胞の分布が確保されるが、これは骨格表面を細胞懸濁液で洗うか、あるいは骨格が細胞分散液に含浸される従来の方法に勝る改良点である。完了したら、10〜15mlの構造体成長培地を細胞播種容器の外縁に加え、構造体に培地を接触させずに湿度チャンバを形成する。細胞播種容器を封止してインキュベータ内に置く。2時間後、細胞播種容器を取り出してBSC内に置く。細胞播種容器を慎重に開け、150mlの構造体成長培地を容器に加える。細胞播種容器を再びインキュベータ内に一晩置く。4日目(すなわちUC細胞を播種した次の日)、インキュベータから細胞播種容器を取り出してBSC内に置く。構造体成長培地を細胞播種容器に添加する(〜1.5L)。細胞播種容器を封止してインキュベータ内に置く。5日目(翌日)、インキュベータから容器を取り出してBSC内に置く。細胞播種容器から培地を吸引し、構造体成長培地を添加して細胞播種容器を満たす(〜1.5L)。細胞播種容器を封止してインキュベータ内に置く。6日間のインキュベーション後、電子顕微鏡(図16)では、ここで説明された手順を用いてUCで播種された骨格内には確かに細胞が留まっていることが確認された。
【0123】
(実施例4)
細胞播種新生膀胱構造の梱包および輸送
新生膀胱をバイオリアクタ内で6日間インキュベートしたら、輸送容器に移す。本明細書で説明される試験では、輸送容器は、ねじ込み式の蓋を備えテフロン(登録商標)シールされた1リットルNALGENE(登録商標)ポリプロピレン瓶である(図17)。NALGENE(登録商標)瓶は、移す間新生膀胱を支持する内側のプラスチック製バスケットを含む(図18)。新生膀胱は、輸送プロセスの間に動くのを防ぐために、内側の支持バスケットに固定することができる(図19)。内側のバスケットは、手術時に取り外すこともできる。これにより、手術チームは新生膀胱を外側容器から取り出し、培地を切り、滅菌新生臓器バスケットを手術野に置くことができる。この輸送容器は、当初Tengion Inc.により設計および製造されたものである。NALGENE(登録商標)輸送容器は、輸送に必要なサイズおよび容積の要件に合わせて選択された。輸送中、容器は封止され、漏れを防ぐために蓋の縁辺にパラフィルムを2重に巻く。輸送容器は、ラベルが付され、温度制御された断熱性の箱に入れられて輸送される(図20)。
【0124】
(実施例5)
膀胱再建
体重1キログラムあたり0.1mgのアセプロマジンの筋肉注射による前処理後、体重1キログラムあたり約25から約35mgの気管内エアレーションによる吸入麻酔下(フルロタン(flurothane))で手術を行う。術前および術中両方で約500mgのセファゾリンナトリウムを静脈内投与する。1日に体重1キログラムあたり約30ミリグラムの投与量で、術後5日間、セファゾリンナトリウムの皮下投与による追加の処置を行う。術後の鎮痛療法は、体重1キログラムあたり約0.1から約0.6ミリグラムのブトルファノールの皮下投与により行う。
【0125】
正中開腹を行い、膀胱を露出して両方の尿管を特定する。膀胱壁を腹側に切開し、両方の尿管接合部を視覚化して4Fステントを一時的に挿管する。膀胱亜全摘を行い、尿道および尿管接合部を支えている三角部領域を残す。動物は、膀胱形状ポリマーのみ、または細胞を被覆した膀胱形状ポリマーを受け入れることができる。10Fシリコンカテーテルを逆行的に三角部から尿道に挿入する。三角部領域の短い粘膜下層トンネルを通過する膀胱内腔に8F恥骨上カテーテルを導入する。恥骨上カテーテルを、4−0クロミックの巾着縫合糸を用いて膀胱漿膜に固定する。後のグラフト部位の識別のために、三角部とグラフトの間の吻合を、ポリプロピレン製永久縫合で各四分円でマークする。埋込部位における細胞播種新生膀胱構造体と周囲の網組織との間の接着を確実にするため、また網そのものの内部の接着性を確実にするために、フィブリン接着剤を周囲の網に塗布する。代替として、またはそれに追加して、新生膀胱をフィブリン接着剤(Vitex Technologies Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク)で覆う。網を新生貯蔵部の周囲に巻き、固定する。3層の3−0ビクリルで腹部を閉じる。麻酔からの回復後、術後期間の初期に傷およびカテーテルに触れないようにするために全ての動物に拘束カラーを付ける。経尿道カテーテルを術後4日目と7日目の間取り外す。手術から約4週間後、恥骨上カテーテル抜去の直前に膀胱X線造影を行う。手術から約1ヶ月後、約2ヶ月後、約3ヶ月後、約4ヶ月後、約6ヶ月後、および約11ヶ月後に膀胱X線造影および尿流動態検査を順次行う。
【0126】
(実施例6)
再建膀胱の分析
尿流動態検査およびX線膀胱造影を、手術前、および手術から約1ヶ月後、約2ヶ月後、約3ヶ月後、約4ヶ月後、約6ヶ月後、および約11ヶ月後に行う。動物を手術から約1ヶ月後、約2ヶ月後、約3ヶ月後、約4ヶ月後、約6ヶ月後、および約11ヶ月後に屠殺する。全体分析、組織学的分析、および免疫細胞化学的分析のために膀胱を採取する。
【0127】
尿流動態検査は7F二管式経尿道カテーテルを使用して行う。膀胱を空にし、一定速度での予熱した生理食塩水の点滴の間膀胱内圧を記録する。尿漏出圧(LPP)に達するまで記録を継続する。最大膀胱容量(Volmax)、LPPおよび膀胱コンプライアンス(Volmax/LPP)を記録する。膀胱エラスタンスとも呼ばれる膀胱コンプライアンスは、破壊されることなく圧力または力に応じて変形する質を指す。膀胱コンプライアンスはまた、膀胱の膨張性の表現としての、破壊されることなく圧力または力に応じて変形する能力の程度の表現である。これは通常、単位圧力変化あたりの体積変化の単位で測定される。次に、X線膀胱造影を行う。膀胱を空にし、蛍光透視鏡制御下で造影剤を膀胱内に注入する。
【0128】
(実施例7)
全体所見
所定の時点において、ペントバルビタールの静脈内投与により動物を安楽死させる。全体的な異常について内蔵および尿生殖路を検査する。膀胱を取り出し、天然三角部とグラフトとの間の移行部分を特定するマーキング縫合を露出する。天然三角部、概説した移行部分、および近接して位置する新生膀胱の中からの断面を取る。
【0129】
(実施例8)
組織学的および免疫細胞化学的所見
標本を10%緩衝ホルマリンで固定し処理する。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにマッソン・トリクロームによる所定の染色法のために、組織切片を約4ミクロンから約6ミクロンに切断する。取り出した膀胱の尿路上皮および平滑筋細胞分化の特性決定を行うために、いくつかの特異的な一次抗体を使用した免疫細胞化学的染色法を用いる。中間フィラメント筋肉細胞タンパク質デスミンの一部と反応する抗デスミン抗体(モノクローナルNCL−DES−DERII、クローンDE−R−11、Novocastra(登録商標)、英国ニューキャッスル)、および膀胱平滑筋アクチンを標識化する抗α平滑筋アクチン抗体(モノクローナルNCL−SMA、クローンasm−1、Novocastra(登録商標)、英国ニューキャッスル)は、平滑筋分化の一般的マーカーとして使用される。尿路上皮を特定するために、上皮組織における細胞骨格複合体の一部を形成する中間フィラメントに対して反応する、抗パンサイトケラチンAE1/AE3抗体(モノクローナル、カタログ番号1124 161、Boehringer Mannheim(登録商標))および抗サイトケラチン7抗体(NCL−CK7、クローンLP5K、IgG2b、Novocastra(登録商標)、英国ニューキャッスル)が使用される。哺乳類ウロプラキンを調査するために、哺乳類尿路上皮で頂端プラークを形成し、尿路上皮分化の末期で重要な機能上の役割を果たす、ポリクローナル抗体を使用した抗非対称ユニット膜(Anti−Asymmetric Unit Membrane:AUM)染色が使用される。神経組織を特定するために、シュワン細胞およびグリア要素に主に存在する酸性プロテイン結合タンパク質S−100と反応する抗S−100抗体(Sigma(登録商標)、ミズーリ州セントルイス、No.IMMH−9)が使用される。
【0130】
免疫組織化学染色のために、標本をカルノイ溶液(Carnoy’s solution)溶液または他の許容される固定液中で固定し、免疫染色のための所定の処理を施す。製造者の奨励(Sigma(登録商標)、ミズーリ州セントルイス、T−8 128)に従い、市販のキットを使用して約0.1%トリプシンによる高温抗原脱マスキング前処理を行う。抗原特異的な一次抗体を、脱パラフィン化し水和した組織切片に適用する。陰性対照を一次抗体の代わりに通常の血清で処理する。陽性対照は、正常膀胱組織から成る。リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、組織切片をビオチン化二次抗体でインキュベートして再び洗浄する。ペルオキシターゼ試薬を加えて基材を添加すると、抗体沈着部位が茶褐色沈殿物として可視化される。ギルヘマトキシリンで対比染色を行う。
【0131】
(実施例9)
新生臓器骨格への脈管取付用インサート
新生臓器への脈管取付用フランジ付管インサート。新生臓器骨格もしくは構造体への管状脈管の取付、または新生脈管骨格もしくは構造体の新生臓器骨格もしくは構造体もしくは他の管状構造(例えば血管または他の新生脈管骨格もしくは構造体)への取付を容易化するために、骨格材料は1つ以上のフランジ付管の形状で形成される。例えば、新生膀胱構造体の一実施形態では、尿道を管の内部に導入し、膨張させ、フランジの先端表面に縫合される。インサートは、被覆されていないか、部分的に被覆されているか、または被覆され、織メッシュまたは縫合糸または他の一般的な強化法で強化されていてもよい。インサートは新生膀胱骨格設計を使用して以下に例示される。しかし、本明細書で説明されるインサートは、例えば新生腎臓骨格、新生脈管骨格および新生子宮骨格等、様々な新生臓器および新生脈管骨格と併せて有用であることが理解されるだろう。
【0132】
脈管、例えば尿道をインサートに取り付けたら、管状脈管またはインサートを受けるように構成される穴、レセプタクル、またはポートを通して(例えば、図21、26および27に示す種類の新生膀胱構造体)または楕円の縦方向開口部の遠位端で(例えば、図8〜10に示す種類の新生膀胱構造体)、フランジ付端部を臓器または新生臓器構造体、例えば膀胱または新生膀胱の内部に挿入するが、インサートの管状部は臓器または新生臓器構造体の外側に残る。新生膀胱構造体表面(例えば図21に示す種類の新生膀胱構造体)における穴、レセプタクル、またはポートの端部は、切り込まれてフラップを形成し、より大きいフランジ部が入り、インサート周囲の穴を閉じることができる。一実施形態では、穴、レセプタクル、またはポートは、正確にインサートの管状セクションの外径であるため、インサートが設置されると、閉じられたフラップはフランジ側部に重なる。図21A〜21Dは、管状インサートを受けるように構成されるポートと、その中に位置したフランジ付インサートとを有する組み立てられた2部構成新生膀胱構造体を描いている。
【0133】
他の実施形態では、フラップを持ち上げて新生膀胱構造体から引き出し、インサートを設置し、フラップがインサートの側部管セクションに立て掛けられるようにすることができる。次いでフラップを縫合して閉じる。新生膀胱構造体は、外科医が縫合糸をきつく引っ張り、フラップを閉じて締め付けることだけで済むように、フラップが緩く縫合されている状態で輸送される。さらに、インサート−尿道要素の安定性を増すために、フラップはインサートの管セクションに縫合されてもよい。
【0134】
本明細書で説明されるインサートは、脈管を組織工学的な細胞マトリクス構造体に取り付ける現行の方法に勝るいくつかの利点を有する。例えば、膀胱の場合、インサートが使用される時に、外科医は、尿道または尿管を、直接新生膀胱構造体にではなく、インサートに縫合する(あるいは他の方法で取り付ける)だけでよい。インサートは新生膀胱構造体よりも大幅に小さく操作しやすいため、手術時間が短縮される。また、インサートに細胞が播種されていない場合は、細胞へのダメージを危惧することなく広範に取り扱うことができる。
【0135】
さらに、インサートの使用により、新生膀胱構造体上の細胞は、培地中に残ることができ、露出時間を大幅に短縮することができる。インサートがない場合、新生膀胱構造体は、通常、培地から取り出されて、脈管の全てがそれに縫合される間大気中に露出されたままとなる。このシステムでは、新生膀胱構造体は、インサートへの脈管の縫合が全て完了するまで、液体培地中で維持される。
【0136】
さらに、インサートの使用により、管状脈管またはインサートを受けるように構成される穴、レセプタクル、またはポート、および脈管またはインサート用のフラップを備えた無傷の球体、準球体、半球、準半球として、新生膀胱構造体を外科医に輸送することができる。この場合、外科医は新生膀胱構造体の2つの半分部分を手術室で溶着する必要がなくなる。さらに、埋込時の前にフランジ付管が新生膀胱構造体に取り付けられないため、培養および輸送の間、構造体に対するトルクまたはひずみを生成しない。加えて、患者間のばらつきに対応するために、一連のサイズのいくつかのインサートを外科医に供給することができる。
【0137】
フランジ付管インサートおよびワッシャ。本実施形態で説明される新生臓器骨格および構造体は、管状脈管またはインサートを受けるように構成される予成形された嵌合物、穴、レセプタクル、またはポートを使用し、これらには、管状脈管またはインサートが、新生臓器骨格または構造体の埋込前に、新生膀胱構造体の準備が整ったら取り付けられる。このインサートは、新生膀胱骨格または構造体および最も近い端部に位置するフランジと、ワッシャとを有する(図22)。ワッシャは、埋込部位に適したいかなる形状またはサイズであってもよい。ワッシャは、埋込部位での使用に適したいかなる材料でできていてもよい。脈管は、フランジ近位のインサート管上に位置するワッシャを有するインサートを通る。脈管の前端は広がっており、主フランジ面上に縫合または接着される。フランジ付管状脈管構造体は、新生膀胱骨格または構造体がフランジとワッシャとの間に位置するように、インサートを受けるように構成される穴、レセプタクル、またはポートを通して新生膀胱骨格または構造体に挿入される。次いでフランジを骨格または構造体の壁の内側表面に接触させると共にワッシャを骨格または構造体の壁の外側表面に接触させることにより、フランジおよびワッシャが骨格または構造体の壁を「挟み込む」。次いで挟み込まれた領域をワッシャに縫合し、この結合点を強化する。
【0138】
新生臓器構造体への脈管取付のための自己安定型インサート。ここで説明されるインサートは、インサートを中空新生臓器骨格または構造体の中にしっかりと取り付けるために、膨潤性の生体分解性材料(ヒドロゲル)の「ガスケット」を使用する。このインサートは、新生臓器に最も近い端部に1つではなく2つのフランジを有する。そのフランジの間に乾燥ヒドロゲルが位置する。フランジ付管状インサート構造体は、骨格または構造体の壁が2つのフランジの間に位置するように新生臓器骨格または構造体に挿入される。次にヒドロゲルが膨潤して密封を形成し、それによりインサートが新生臓器骨格または構造体に付着してインサート周囲の漏れが防止され、ひいては縫合の必要性が排除されて手術時間が短縮される。図23〜25に描かれるように、インサートは一端に2つのフランジを有し、その間に乾燥ヒドロゲルがある。ヒドロゲルは、1つのワッシャ、2つ以上のワッシャ、1つのフランジ上の被覆、または両方のフランジ上の被覆の形態であってもよい。上述のように脈管をインサートに取り付けた後、第1のフランジを新生臓器骨格または構造体の壁を通して挿入する。壁が2つのフランジの間にある状態で、ヒドロゲルが膨潤し、フランジ間の隙間を満たし、それらを新生臓器骨格または構造体の壁にしっかりと押し付ける。これにより、壁に対する内側フランジの移動が防止され、それらの間の細胞移行、および境界にわたる組織再生が可能になる。さらに、膨潤したヒドロゲルは管の外側周囲の壁の穴からの漏れを防止する。したがって、膨潤したヒドロゲルは、壁を縫合して閉じる必要性、およびインサートを適所に縫合または他の方法で固定する必要性を排除する。時間と共に組織が再生して脈管が新生臓器構造体に付着するに従い、ヒドロゲルは他の骨格材料と同様に分解する。
【0139】
膨潤性の生体分解性ヒドロゲルは、セルロース誘導体、スターチ、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、架橋タンパク質、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)、PEOと他の生体分解性ポリマー、例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、アクリレート、ポリエステル等のコポリマー、生体分解性の相互貫入ネットワークおよび半相互貫入ネットワークとなるよう改質されたアクリレート等、様々な材料より成ることができる。ある実施形態では、ヒドロゲルは、単に体液の水分に曝されることにより膨潤する。代替として、またはそれに追加して、ヒドロゲルは、特定のイオン濃度、pH、浸透圧、または温度変化等の刺激に反応して膨潤してもよい。ヒドロゲルの膨潤速度は、化学組成、現在の水和状態、イオン濃度、および他の手段によって制御することができる。ヒドロゲルは、強度、堅牢性、および伸展性等の適切な材料特性を有する非ヒドロゲル膜中に含有されてもよい。
【0140】
インサートを備えた組立後の2部構成新生膀胱置換インプラント。図26〜28に示す2部構成の中空新生膀胱置換骨格または構造体は、フランジ付インサート、播種されていないタブ、および上述のフランジ付リムを組み込んでおり、さらに、各半分部分はそれぞれ単一ピースより成る。別個のピースまたは半球は、被覆および細胞播種の前または後に、縫合されて単一の球形新生臓器骨格を形成することができる。播種されていないタブは、埋込中の構造体部分の操作に使用され、播種されていないフランジは、2つの半分部分の相互の固定をより容易にするために使用される。脈管は、骨格または構造体の埋込の前にインサートに取り付けられる。新生臓器骨格または構造体が固定されたら、脈管が適所に「差し込まれる」ことにより、新生膀胱構造体が生体内で完成する。
【0141】
(実施例10)
三角部温存増強における2部構成新生膀胱構造体の使用
図29Aに示す図は、三角部温存外科増強時における実験的手術操作中の、フランジのない一体型の構造体設計より成る最初の増強構造体設計の使用を描いている。一方、図29Bは、実施例1で上述され、また図2に描かれるような、細胞を播種したドーム形状フランジ付構造体、および別個のフランジ付カラーより成る、2部構成構造体の使用を描いている。
【0142】
新生膀胱構造体の埋込のための手術プロトコルでは、患者の大綱組織を使用する必要がある。大綱組織の質量および容積は個体差を反映し、疾病プロセスにより影響される。したがって、新生膀胱構造体の埋込における早期ではあるが重大な外科的処置は、腹部腸間膜大綱の摘出である。新生膀胱構造体を運搬用培地から取り出したら、細胞を保護するために、外科医は埋め込まれる新生膀胱表面に触れないようにすることが重要である。したがって、図29Aに示す当初の新生膀胱設計は、追加の手術道具および手術時間を必要とするという点で、外科医に問題をもたらす(図29C参照)。図29Bに示す2部構成新生膀胱増強構造体はこれらの問題を軽減する。上述のように、2部構成増強設計は、操作の容易性のための播種されていないフラップまたはタブ、および外側リングまたは縁を含む。図7〜10に示す2部構成新生膀胱増強構造体は、これらの問題をさらに軽減するように設計されている。
【0143】
(実施例11)
非三角部温存増強における2部構成新生膀胱構造体の使用(膀胱全置換)
試験的膀胱全置換結果。図30に示す図は、非三角部温存置換術の時の、スパチュラ操作のために尿管および尿道を適所に導くためのトンネルを使用した当初の新生膀胱構造体による実験的な外科的処置を描いている。
【0144】
図30に示す当初の2部構成構造体設計を使用した膀胱置換術に関する従来の試験は成功しなかった。したがって、図21、26および27に示すような尿管取付のためのトンネルの代わりに管を含むように、新生膀胱置換インプラント設計を修正した。図31は、修正された新生膀胱置換インプラント設計を描いており、非三角部温存置換術に使用されるステントが含まれていることを示している。
【0145】
さらなる膀胱置換試験も成功しなかった。しかし、新生膀胱への修正された尿管の取付、およびステントの使用により、腎臓から新生膀胱への流出のいかなるブロックも防がれた。次いで、図8〜10に示す組立後の構造体のような骨格を生成するように置換構造体を再設計した。
【0146】
説明してきた特定の方法論、プロトコル、および試薬は変化する可能性があるため、開示された方法はこれらに限定されないことが理解される。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、添付の請求項によってのみ制限される本発明の範囲を制限することを意図しないことが理解される。
【0147】
別段に定義されない限り、本明細書で使用される技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0148】
そのような当業者は、本明細書で説明される本発明の特定の実施形態の多くの等価物を認識し、単なる日常的な実験により確認することができるだろう。そのような等価物は、付随する特許請求の範囲に包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29A】
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【図29B】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−139598(P2012−139598A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−103954(P2012−103954)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2008−554417(P2008−554417)の分割
【原出願日】平成19年2月12日(2007.2.12)
【出願人】(508240926)テンジオン, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】