説明

臓器モデル

【課題】生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給してもあまり膨潤せず、例えば、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習、内視鏡による手技練習などに好適に使用することができる臓器モデルを提供すること。
【解決手段】その少なくとも表面層がポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールで構成されていることを特徴とする臓器モデル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器モデルに関する。さらに詳しくは、例えば、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習、内視鏡による手技練習などに好適に使用することができる臓器モデルに関する。本発明の臓器モデルは、さらに、手術用メス、手術用ナイフ、レーザーメスなどの手術用切除具の切れ味を確認するときにも好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
外科医による手術のなかでも手術用メスなどを用いた心臓などの臓器の執刀は、その執刀によって切開したときの深さが深すぎるとそれが致命傷となることから、生死を分かつ慎重で熟練した技術が要求される作業である。したがって、外科医には、高度の熟練した執刀技術が要求されることから、従来、ブタなどの動物の内部臓器を用いて手技練習が行われている。
【0003】
しかし、動物の内部臓器を用いた手技練習では、その内部臓器に鮮度が要求され、手技操作を誤り、練習している者が負傷したとき、その傷口から動物の内部臓器に含まれている病原菌などが感染するおそれがあるとともに、手技練習をする際に使用される器具などの衛生管理や、使用済みの内部臓器の廃棄に多大なコストが必要となる。さらに、手技練習用の動物の内部臓器は、医学生、研修医、開業医などに幅広く普及していないのが現状である。
【0004】
したがって、医師などの手技練習には、その技術向上のため、生体の臓器に類似させた人工臓器モデルが使用されている。従来、人工臓器モデルとして、例えば、シリコーン、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマーなどで製造されたモデル主体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、これらの材料からなる臓器モデルは、その素材が撥水性を有するため、人体のような親水性がなく、しかも切開をしたときに切開部が閉じて広がらず、人体の切削感や感触とはかなり異なることから、医師などが手技練習をするのに適しているとはいえない。
【0006】
また、生体軟組織の模型として、2種類のポリビニルアルコールを溶解させた溶液を生体軟組織の鋳型に注入した後、冷却させることによってゲル化させ、得られた水性ゲル組成物を鋳型から取り出すことによって得られる模型が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかし、この生体軟組織の模型には、その製造段階で、原料として2種類のポリビニルアルコールを必要とするため、その組成の調整が煩雑であり、しかも溶媒として毒性の強いジメチルスルホキシドを必要とするため、ジメチルスルホキシドの除去のためのエタノール置換および水置換という煩雑な操作を必要とするという欠点がある。また、この生体軟組織の模型からジメチルスルホキシドを完全に除去することが困難なため、その生体軟組織の模型を用いた場合、人体に対する悪影響が懸念される。さらに、この生体軟組織の模型には、弾性がほとんどないため生体臓器が有する弾性を有しておらず、その表面がべとつくとともに含水率が高いため、生体臓器とはかなり相違する表面状態を有し、汚れが付着したり、細菌が繁殖しやすく、乾燥したときに水分を補給すると大きく膨潤するという欠点がある。
【0008】
したがって、近年、医師、医学系大学、外科系病院などから、人体のような親水性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、しかも生体臓器と同様の切削感や感触を有し、手技練習をするのに好適に使用することができる臓器モデルの開発が切に望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開2008-241988号公報
【特許文献2】特開2007-316434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給しても膨潤しすぎない臓器モデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、その少なくとも表面層がポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールで構成されていることを特徴とする臓器モデルに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の臓器モデルは、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給しても膨潤しすぎないという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者は、前記した従来の臓器モデルが抱えている永年の技術的課題に着目して鋭意研究を重ねたところ、臓器モデルを構成する材料として、ポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールを用いた場合には、驚くべきことに、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給しても膨潤しすぎないという優れた性質を有し、医師などが手技練習をするのに好適に使用することができる臓器モデルが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
本発明の臓器モデルは、その少なくとも表面層がポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールで構成されている点に、1つの大きな特徴を有する。なお、前記表面層とは、臓器モデルにおける外表面層を意味する。
【0015】
ポリビニルアルコールの粘度法で求められた平均重合度は、本発明の臓器モデルの機械的強度を高める観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上であり、本発明の臓器モデルに適度な弾性を付与する観点から、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下である。
【0016】
また、ポリビニルアルコールのケン化度は、本発明の臓器モデルの機械的強度および弾性率を高める観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコールのケン化度の上限値には限定がなく、高ければ高いほど好ましく、完全ケン化のポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0017】
ポリビニルアルコールは、通常、水溶液として用いることができる。ポリビニルアルコールを水に溶解させるとき、ポリビニルアルコールの溶解性を高める観点から、ポリビニルアルコールまたは水を加温しておくことが好ましい。ポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコールの濃度は、本発明の臓器モデルの機械的強度を高める観点から、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上であり、ポリビニルアルコールを水に十分に溶解させるとともに成形性を向上させる観点から、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。
【0018】
ポリビニルアルコールには、表面層の機械的強度を高める観点から、シリカ粒子を添加することが好ましい。シリカ粒子の大きさは、分散安定性などの観点から、3〜100nm程度であることが好ましい。シリカ粒子の量は、ポリビニルアルコール100重量部あたり、表面層の機械的強度を高める観点から、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上であり、表面層が硬くなるのを防止する観点から、好ましくは100重量部以下、より好ましくは80重量部以下、さらに好ましくは70重量部以下である。
【0019】
シリカ粒子は、例えば、コロイダルシリカとして用いることが好ましい。コロイダルシリカにおけるシリカ粒子の含有量は、分散安定性などの観点から、5〜40重量%程度であることが好ましい。コロイダルシリカは、例えば、日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスなどとして商業的に容易に入手することができる。
【0020】
また、ポリビニルアルコールには、表面層の乾燥を防止する観点から、キトサンを添加することが好ましい。キトサンは、例えば、エビ、カニ、イカなどの甲殻類に由来のキチンを脱アセチル化させたものなどが挙げられる。キトサンは、市場において容易に入手することができる。キトサンは、通常、粉末の形態で使用することができる。キトサンの分子量は、特に限定されないが、通常、好ましくは10000〜200000、より好ましくは10000〜40000である。
【0021】
キトサンは、分散性の観点から、通常、水溶液として用いることが好ましい。キトサン水溶液は、例えば、酢酸、塩酸、乳酸などの酸の水溶液に濃度が0.5〜5重量%程度となるように溶解させることによって得ることができる。なお、この水溶液は、必要により、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質で中性〜塩基性に調整してもよい。
【0022】
なお、ポリビニルアルコールには、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、顔料、染料などの着色剤、香料、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤などの添加剤を適量で添加してもよい。これらの添加剤は、通常、ポリビニルアルコールの水溶液に添加することができる。本発明の臓器モデルを、例えば、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習用の臓器モデルとして用いる場合、その臓器と近似させるために、ポリビニルアルコールは、所望の色に着色剤で着色されていることが好ましい。
【0023】
ホウ酸化合物は、ホウ酸イオンを生成するものであればよい。ホウ酸化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。ホウ酸化合物のなかでは、ポリビニルアルコール水溶液との相溶性の観点から、ホウ酸およびホウ酸塩が好ましく、ホウ酸およびホウ酸の無機塩がより好ましく、架橋性の観点から、ホウ酸がより一層好ましい。なお、ホウ酸塩としては、例えば、メタホウ酸、四ホウ酸などのホウ酸金属塩、ホウ酸アンモニウム塩などが挙げられるが、これらのなかでは、水溶性に優れていることから、メタホウ酸のアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属としては、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。
【0024】
ホウ酸化合物は、例えば、粉末などの状態で、そのままポリビニルアルコール水溶液と混合することができるが、ホウ酸化合物とポリビニルアルコール水溶液とを均一に混合する観点から、あらかじめホウ酸化合物を水に溶解させたホウ酸化合物水溶液として用いることが好ましい。
【0025】
ホウ酸化合物水溶液におけるホウ酸化合物の濃度は、架橋効率を高める観点から、好ましくは1g/L(リットル)以上、より好ましくは5g/L以上、さらに好ましくは10g/L以上である。ホウ酸化合物水溶液におけるホウ酸化合物の濃度の上限値は、そのホウ酸化合物水溶液の液温によって異なるが、そのホウ酸化合物水溶液におけるホウ酸化合物の飽和濃度である。本発明においては、ホウ酸化合物水溶液は、ホウ酸化合物の飽和水溶液であることが好ましい。ホウ酸化合物の飽和水溶液は、例えば、ホウ酸化合物の溶解度を高めるために加熱された温水に十分に溶解させた後、得られたホウ酸化合物水溶液をホウ酸化合物の結晶が析出するまで冷却することによって容易に調製することができる。ホウ酸化合物水溶液の液温は、特に限定されないが、通常、室温〜40℃程度であることが好ましい。
【0026】
ポリビニルアルコール100重量部あたりのホウ酸化合物の量は、そのポリビニルアルコールの平均重合度にもよるが、ポリビニルアルコールを十分に架橋させる観点から、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上、さらに好ましくは5重量部以上であり、未反応のホウ酸化合物が残存しがたくする観点から、好ましくは60重量部以下、より好ましくは55重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下である。
【0027】
ポリビニルアルコールは、ホウ酸化合物と接触したとき、架橋するのでゲル化する。ポリビニルアルコールとホウ酸化合物とを接触させるとき、ポリビニルアルコールおよびホウ酸化合物は、前述したように、いずれも水溶液として用いることが好ましい。ポリビニルアルコールとホウ酸化合物とを接触させるときの温度は、特に限定されないが、通常、ポリビニルアルコールの架橋を促進させ、生産効率を高める観点から、室温〜40℃程度であることが好ましい。
【0028】
ポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させる方法としては、例えば、ポリビニルアルコール水溶液にホウ酸化合物水溶液を添加する方法、ホウ酸化合物水溶液にポリビニルアルコール水溶液を添加する方法などが挙げられる。ポリビニルアルコール水溶液にホウ酸化合物水溶液を添加した場合、ポリビニルアルコールが架橋することによって生成した架橋ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコール水溶液の水面付近に存在するので、この架橋ポリビニルアルコールを回収すればよい。
【0029】
回収された架橋ポリビニルアルコールは、ホウ酸化合物によって架橋されているので、ポリビニルアルコール水溶液を冷解凍することによって架橋された架橋ポリビニルアルコールと対比して、弾性に優れ、含水量が少なく、べとつきが小さく、さらに乾燥したときに水分を補給してもあまり膨潤しないなどの利点を有する。
【0030】
この架橋ポリビニルアルコールは、本発明の臓器モデルの少なくとも表面層を形成する。表面層の厚さは、生体臓器の種類によって異なるため、一概には決定することができないことから、その生体臓器の種類に応じて適宜決定することが好ましい。通常、表面層の厚さは、生体臓器に近似した臓器モデルを製造する観点から、0.1〜20mm程度である。
【0031】
なお、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層の下面には、樹脂フイルムや樹脂製のネットなどが設けられていてもよい。この樹脂フイルムおよび樹脂製のネットは、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を保持する役割やメスなどによる切削感を向上させるという役割などを担う。
【0032】
樹脂フイルムとしては、例えば、ポリビニルアルコールフイルム、塩化ビニル樹脂フイルム、ポリ塩化ビニリデンフイルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂からなる樹脂フイルム、ポリエステルフイルムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの樹脂フイルムのなかでは、ポリビニルアルコールフイルムは、表面層との接着性に優れていることから好ましい。商業的に容易に入手しうるポリビニルアルコールフイルムとしては、例えば、日本合成化学工業(株)製、商品名:ボブロンなどの二軸延伸ポリビニルアルコールフイルムなどが挙げられる。樹脂フイルムの厚さは、その樹脂フイルムを構成している樹脂の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.03〜2mm程度である。
【0033】
樹脂製のネットとしては、例えば、ポリウレタン、ナイロンなどの樹脂からなるネットが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。樹脂製のネットの目開きは、特に限定されないが、通常、0.5〜3mm程度であればよい。
【0034】
表面層の下面に樹脂フイルムや樹脂製のネットなどが設けられている臓器モデルは、その内部の空洞部分に、後述する液体またはゲルが充填されている場合、充填されている液体またはゲルと、その表面層を形成している架橋ポリビニルアルコールとが直接接触することを防止することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、樹脂フイルムまたは樹脂製のネットが切り裂かれ、その内部に充填されている液体やゲルが創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行われているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0035】
本発明の臓器モデルは、実際の臓器に近似させる観点から、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を有し、その内部が空洞であることが好ましい。
【0036】
架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を有し、その内部が空洞である臓器モデルは、例えば、その内部が空洞であるバルーンの表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を形成させることによって製造することができる。
【0037】
このバルーンは、臓器モデルの原型をなすものである。バルーンの大きさおよびその形状は、臓器の種類によって異なるので一概には決定することができないため、その臓器の種類などに応じて適宜決定することが好ましい。
【0038】
バルーンは、目的とする臓器の形状を有する臓器モデルを製造する観点から、容易に変形させることができる内部が空洞のバルーンであることが好ましい。バルーンとしては、例えば、容易に変形させることができる樹脂製のバルーン、天然ゴム、シリコーンゴムなどに代表されるゴム製のバルーンなどが挙げられる。これらのなかでは、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムなどからなるゴム風船に代表されるゴム製のバルーンは、伸縮性を有することから好適に使用することができる。バルーンの厚さは、特に限定がなく、所望の臓器形状に形づくることができるとともに、容易にその形状を変形させることができる厚さであればよい。
【0039】
バルーンの大きさは、その外周に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成されることから、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層の厚さなどを考慮して、目的とする臓器よりも小さくし、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成されたときに、目的とする臓器モデルの大きさとなるように調整することが好ましい。
【0040】
架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を有し、その内部が空洞である臓器モデルは、例えば、その内部が空洞であるバルーンを架橋ポリビニルアルコールシートで包み込み、必要により余剰の架橋ポリビニルアルコールシートを削除し、そのシートの端部同士を接着することにより、製造することができる。
【0041】
架橋ポリビニルアルコールシートは、例えば、ローラーなどを用いて架橋ポリビニルアルコールを圧延することにより、容易に製造することができる。この架橋ポリビニルアルコールシートの厚さは、特に限定されないが、通常、1〜20mm、好ましくは1〜10mm程度であることが好ましい。この圧延操作により、架橋ポリビニルアルコールシートに含まれている余分な水分を容易に除去することができる。
【0042】
架橋ポリビニルアルコールシートの大きさおよび形状は、特に限定されないが、通常、バルーンを包み込むことができる大きさおよび形状であればよい。
【0043】
バルーンを架橋ポリビニルアルコールシートで包み込み、そのシートの端部同士を接着させる方法としては、例えば、熱融着によって接着させる方法、接着剤によって接着させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、接着剤を必要とせず、生産効率が高められることから、熱融着によって接着させる方法が好ましい。
【0044】
なお、架橋ポリビニルアルコールシートの端部を接着する前に、臓器モデルからその内部に含まれているバルーンを除去した場合には、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層のみで形成され、その内部が空洞である臓器モデルを製造することができる。また、臓器モデルからその内部に含まれているバルーンを除去しない場合には、内部が空洞であるバルーンの表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成された臓器モデルを製造することができる。この場合、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層の形状を保持する観点から、その表面層の下面に樹脂フイルムや樹脂製のネットなどが設けられていることが好ましい。
【0045】
内部に空洞を有する臓器モデルにおいて、その内部は、臓器の種類によっては空洞のままであってもよいが、必要により、液体やゲルをその内部に充填することができる。
【0046】
例えば、液体として、血液と同様の色彩を有する液体を臓器モデルの内部の空洞に充填した場合には、その臓器モデル内に血液状の液体が充填された臓器モデルを製造することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、その内部に充填されている液体が創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行われているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0047】
また、臓器モデルの内部の空洞にゲルを充填した場合には、その臓器モデル内に、その臓器を構成している臓器の組織物と同様の色彩や硬さなどを有する臓器の組織物状のゲルが充填された臓器モデルを製造することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、その内部に充填されているゲルが創傷口から漏出するので、実践に即して適切な手技練習が行われているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0048】
臓器モデルの内部に充填されるゲルには特に限定がなく、流動性を有するものから寒天状の高いゲル強度を有するものまで、生体臓器の種類に応じて幅広いゲル強度を有するゲルを臓器モデルの内部の空洞部分に充填することができる。ゲルとしては、例えば、ポリビニルアルコール水溶液を冷解凍することによって得られるゲル、吸水性樹脂に水を吸収させたゲル、寒天、ゼリーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、ゲルには、その臓器の種類に応じ、その臓器内の組織に近似した性状を有するゲルを用いることが好ましい。また、ゲルには、必要により、例えば、顔料、染料などの着色剤、香料、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤などの添加剤が適量で添加されていてもよい。
【0049】
内部が空洞であるバルーンの表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成された臓器モデルは、その内部の空洞部分に液体またはゲルが充填されている場合、バルーンにより、充填されている液体またはゲルと、その表面層を形成している架橋ポリビニルアルコールとが直接接触することを防止することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、バルーンが切り裂かれ、その内部に充填されている液体やゲルが創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行われているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。
【0050】
本発明の臓器モデルは、内部が空洞であるバルーン内に、内部が空洞である他のバルーンが挿入され、その外側のバルーンと内側のバルーンとの間隙に液体またはゲルが充填され、外側のバルーンの外表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成されているものであってもよい。この臓器モデルは、内側のバルーンの内部を空洞にすることができるので、軽量化やコストの低減を図ることができる。この臓器モデルにおいて、外側のバルーンおよび内側のバルーンならびに充填される液体またはゲルは、いずれも、前記と同様であればよい。
【0051】
前記外側のバルーンと内側のバルーンとの間隙に液体またはゲルが充填された臓器モデルは、例えば、内部が空洞であるバルーン内に、内部が空洞である他のバルーンを挿入し、両者の間隙に液体またはゲルを所定量で充填した後、内側のバルーン内に気体や液体を充填することによって内側のバルーンを膨らませ、外側のバルーンおよび内側のバルーンの開口部を縛るなどの手段によって密封し、次いで、外側のバルーンの外表面に前記と同様にして、表面層を形成することによって製造することができる。この表面層は、前記と同様にして、このバルーンを架橋ポリビニルアルコールシートで包み込み、必要により余剰の架橋ポリビニルアルコールシートを削除し、そのシートの端部同士を接着することにより、製造することができる。
【0052】
また、本発明の臓器モデルは、より一層実際の臓器に近似させる観点から、内部に臓器に対応した形状を有する基体の表面に、表面層が形成されたものであることが好ましい。
【0053】
内部に臓器に対応した形状を有する基体は、例えば、ポジトロン断層法、核磁気共鳴画像法などのコンピュータ断層撮影法(CT)により、罹患した臓器の形状や大きさを測定し、そのデータに基づいてコンピュータで三次元化処理し、そのデータに基づいて、基材を加工することにより、罹患した臓器と同様の大きさおよび形状を有する基体を製造する方法などによって製造することができる。前記基材としては、例えば、放射線や熱線の照射によって硬化する性質を有するエポキシ樹脂、切削加工が容易な発泡スチロール樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0054】
形成される基体は、臓器と同様の形状を有する。基体の大きさは、その臓器の表面層と同様の厚さの架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を基体表面に形成したときに、実物の臓器と同様の大きさとなるように設定することが、実物の臓器に近似させる観点から好ましい。
【0055】
臓器に対応した形状を有する基体の表面に表面層が形成された臓器モデルは、前記バルーンの表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を形成させることによって得られる臓器モデルの製造方法と同様の方法で、例えば、基体を架橋ポリビニルアルコールシートで包み込み、必要により余剰の架橋ポリビニルアルコールシートを削除し、そのシートの端部同士を接着することにより、製造することができる。
【0056】
臓器に対応した形状を有する基体の表面に表面層が形成された臓器モデルは、罹患している臓器を体外に取り出さなくても、その臓器に近い表面層を有し、その臓器と同様の大きさおよび形状を有する臓器モデルを肉眼で把握することができる。したがって、この臓器モデルは、外科的手術を施す前の手術計画用の臓器モデルとして有用であるのみならず、患者などに事前に手術に関する説明をする際の説明用の臓器モデルとしても有用である。
【0057】
なお、臓器モデルの表面、その内部や内面には、より実物の臓器に近似させるために、必要により、前記架橋ポリビニルアルコールのシートや塊状物などを用いて、襞、皺、血管に見立てた管などを形成させてもよい。
【0058】
以上説明したように、本発明の臓器モデルは、その表面層がポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールで形成されているので、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給してもあまり膨潤しないという優れた性質を有する。したがって、本発明の臓器モデルは、手術練習用臓器モデル、手術用切除具の切れ味の確認用臓器モデルなどとして好適に使用することができる。
【0059】
なお、前記臓器モデルとしては、例えば、脳、心臓、食道、胃、膀胱、小腸、大腸、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、子宮などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
製造例1(粘性ゲルの製造)
25℃の10%ポリビニルアルコール〔ケン化度:98〜99モル%、平均重合度:1700、(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕水溶液300mLを1L容のビーカー内に入れた後、このビーカー内に25℃の飽和ホウ砂水溶液300mLを添加し、攪拌した後、得られた流動性のあるゲルを得た。
【0062】
得られた流動性のゲルを含む混合物約600mLを、あらかじめ25℃の飽和ホウ酸水溶液600mLを入れておいた2L容のビーカー内に添加し、十分に攪拌することにより、粘性ゲルを得た。得られた粘性ゲルに着色剤としてアクリル系水溶性塗料(デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート)を添加し、血液に近似した色に着色し、着色された粘性ゲルを得た。
【0063】
実施例1(ゴムバルーンを含む臓器モデル)
粘度平均重合度が1700であり、ケン化度が約98〜99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA−117〕を濃度が10重量%となるように水に溶解させ、得られたポリビニルアルコール水溶液500mLを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷した。
【0064】
次に、人体の胃腸の色彩に近い栗色のアクリル系水溶性塗料(デルタ社製、商品名:デルタ・セラムコート)5mLを前記ビーカー内に添加し、ビーカー内の内容物を均一な組成となるように攪拌し、着色されたポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0065】
一方、500mL容のビーカー内に30〜40℃の温水250mLを入れ、これにホウ酸粉末20gを入れ、ホウ酸粉末を十分に溶解させ、ホウ酸水溶液を得た。
【0066】
前記着色されたポリビニルアルコール水溶液(液温:20℃)に、前記ホウ酸水溶液(液温:30℃)全量を徐々に円を描くように添加し、ポリビニルアルコール水溶液の液面で生成した架橋ポリビニルアルコールを回収した。
【0067】
得られた架橋ポリビニルアルコールを平坦な台上に載置されたポリ塩化ビニリデン製の樹脂フイルム(45cm×45cm、厚さ:約10μm)上に置き、円筒形ローラーで圧延し、厚さが2〜4mm程度の架橋ポリビニルアルコールシートを得た。このとき、この架橋ポリビニルアルコールから滲出した水分を除去した。この架橋ポリビニルアルコールシートをB5の大きさに裁断し、表面層用シートを得た。
【0068】
次に、空気を吹き込むことにより、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させた天然ゴム製のゴムバルーン(容量:約0.8L)を用意し、その開口部を閉じた。このゴムバルーンの閉じ口を上方に向けた状態で、前記で得られた表面層用シート上に載置した後、その表面層用シートの四隅を指でつまんで持ち上げ、ゴムバルーン包み込み、その四隅を纏め、紐で縛り、表面層用シートの余剰部分を鋏で切断し、洋梨状を有する胃袋形状に近似した形状を有する臓器モデルの原形を作製した。
【0069】
この臓器モデルの原形の四隅を縛った部分をはんだごて(100V、30W)で融着し、密閉された袋状に成形した。その後、この成形された臓器モデルの原形に前記と同様にして製造された架橋ポリビニルアルコールシートを重ね合わせることにより、より胃袋形状に近似した洋梨状の臓器モデルを作製した。
【0070】
実施例2(ゴムバルーンを含まない臓器モデル)
実施例1と同様にして、洋梨状を有する臓器モデルの原形を作製した後、実施例1と同様にして製造された架橋ポリビニルアルコールシートを重ね合わせ、胃袋形状に近似した洋梨状の臓器モデルを作製した。
【0071】
次に、得られた洋梨状の臓器モデルの任意の箇所に針を刺し、内蔵されているゴムバルーンを破裂させて収縮させ、この臓器モデルの縛られた部分をほどき、ゴムバルーンを取り出すことにより、ゴムバルーンを含まない臓器モデルを得た。
【0072】
実施例3(粘性ゲルが充填されたゴムバルーンを含む臓器モデル)
実施例1において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに、製造例1で得られた粘性ゲル150mLをゴムバルーン内に充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0073】
実施例4(ゲルが充填されたゴムバルーンを含む臓器モデル)
実施例1において、ゴムバルーン内に空気を吹き込む代わりに、製造例1で得られた粘性ゲル150mLをゴムバルーン内に充填し、人体の胃の大きさよりもひとまわり小さく膨張させたゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0074】
実施例5(液体が充填された2重ゴムバルーンを含む臓器モデル)
実施例1において、天然ゴム製のゴムバルーン内に、このゴムバルーンと同様の他の天然ゴム製のゴムバルーンを挿入することにより、ゴムバルーンを2重に重ね合わせた。この外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンとの間隙に、製造例1で得られた粘性ゲル150mLを充填し、内側のゴムバルーン内に空気を吹き込むことにより、外側のゴムバルーンと内側のゴムバルーンを膨らませた後、これらのゴムバルーンの開口部を封鎖したゴムバルーンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。この臓器モデルは、胃袋形状に近似していた。
【0075】
比較例1
ポリビニルアルコール粉末(平均重合度:1700、ケン化度:99.0モル%)80gと、ポリビニルアルコール粉末(平均重合度:1800、ケン化度:86〜90モル%)20gとを混合し、ポリビニルアルコール混合物を得た。
【0076】
得られたポリビニルアルコール混合物をジメチルスルホキシドと水との混合溶媒〔ジメチルスルホキシド/水(重量比):80/20〕に120℃に加熱しながら溶解させ、含水率が80重量%のポリビニルアルコール溶液を調製した。
【0077】
得られたポリビニルアルコール溶液を容量が200mLのポリプロピレン製の樹脂容器内に注入した後、この樹脂容器を室温まで冷却した。
【0078】
この樹脂容器の内容物を室温下でエタノール200mL中に2時間浸漬することにより、ジメチルスルホキシドをエタノールに置換して除去した後、樹脂容器内の内容物を水中に浸漬した後、その内容物を樹脂容器から取り出した。
【0079】
この内容物を観察したところ、十分にゲル化しておらず、弾力性がほとんどなく、流動性を有し、しかもその表面がべとつくため、この内容物を用いて臓器モデルを製造することができなかった。
【0080】
したがって、平均重合度が1700であり、ケン化度が99.0モル%であるポリビニルアルコールと、平均重合度が1800であり、ケン化度が86〜90モル%であるポリビニルアルコールを80/20の重量比で混合し、水とジメチルスルホキシドとの混合溶媒に溶解させ、得られたポリビニルアルコールを室温に冷却させても、弾性を有するゲルが得られないことがわかる。
【0081】
比較例2
比較例1において、ポリビニルアルコール溶液を容量が200mLのポリプロピレン製の樹脂容器内に注入した後、この樹脂容器を冷却する温度を室温から−20℃に変更し、この温度で24時間冷凍し、次いで室温に戻して解凍したこと以外は、比較例1と同様にしてゲルを調製した。その結果、比較例1と相違してゲルが得られたが、得られたゲルは、弾力性が小さく、その表面がべとつくことが確認された。
【0082】
比較例3
従来の臓器モデルとして、実施例1において、架橋ポリビニルアルコールシートの代わりに、厚さが4mmの市販のシリコーンゴムシートを用いたこと以外は、実施例1と同様にして臓器モデルを作製した。
【0083】
実験例1
各実施例および各比較例で得られた臓器モデルの物性として、外観、水濡れ性(親水性)、切り心地、切開性、べとつき感、弾性、含水率および乾燥後の吸水性を以下の方法にしたがって調べた。その結果を表1に示す。
【0084】
(1)外観
大学の医学研究科の外科を専攻している学生および教官10名に臓器モデルの外観を観察してもらい、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、Dの評価を下した者がひとりもいないことが合格基準となる。
〔評価基準〕
A:生体臓器と区別がつかない。
B:生体臓器と非常に近似している。
C:生体臓器に十分に近似している。
D:生体臓器と近似していない。
【0085】
(2)水濡れ性
各臓器モデルの表面層を構成している樹脂の平板を用意し、その水触れ性の評価として、水との接触角を接触角計〔協和界面科学(株)製、品番:CA−X〕を用いて25℃の大気中にて測定した。
【0086】
(3)切り心地
大学の医学研究科の外科を専攻している学生および教官10名に手術用メス〔フェザー安全剃刀(株)製、ステンレス鋼製の外科手術用替刃メスNo.10〕を用いて実際に臓器モデルに執刀して切り心地を調べてもらい、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、Dの評価を下した者がひとりもいないことが合格基準となる。
〔評価基準〕
A:生体臓器と区別がつかない。
B:生体臓器と非常に近似している。
C:生体臓器に十分に近似している。
D:生体臓器と近似していない。
【0087】
(4)切開性
大学の医学研究科の外科を専攻している学生および教官10名に手術用メス〔フェザー安全剃刀(株)製、ステンレス鋼製の外科手術用替刃メスNo.10〕を用いて実際に臓器モデルに執刀して切開部の創傷が生体臓器と同様に広がるかどうかを観察してもらい、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、Dの評価を下した者がひとりもいないことが合格基準となる。
〔評価基準〕
A:生体臓器と区別がつかない。
B:生体臓器と非常に近似している。
C:生体臓器に十分に近似している。
D:生体臓器と近似していない。
【0088】
(5)べとつき感
大学の医学研究科の外科を専攻している学生および教官10名に臓器モデルを指触してそのべとつき感を調べてもらい、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、Dの評価を下した者がひとりもいないことが合格基準となる。
〔評価基準〕
A:生体臓器と区別がつかない。
B:生体臓器と非常に近似している。
C:生体臓器に十分に近似している。
D:生体臓器と近似していない。
【0089】
(6)弾性
大学の医学研究科の外科を専攻している学生および教官10名に臓器モデルを指触してその弾性を調べてもらい、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、Dの評価を下した者がひとりもいないことが合格基準となる。
〔評価基準〕
A:生体臓器と区別がつかない。
B:生体臓器と非常に近似している。
C:生体臓器に十分に近似している。
D:生体臓器と近似していない。
【0090】
(7)含水率
臓器モデルの質量を測定した後、40℃の乾燥機内に入れて乾燥させ、その質量変化がほとんどなくなるまで乾燥させた後、式:
〔含水率〕
=〔(乾燥前の臓器モデルの質量)−(乾燥後の臓器モデルの質量)〕
÷(乾燥前の臓器モデルの質量)×100
に基づいて、含水率を求めた。
【0091】
(8)乾燥後の吸水性
前記「(7)含水率」で乾燥させた臓器モデルを25℃の水中に10分間浸漬した後、取り出し、乾燥前の臓器モデルと対比して、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
A:乾燥前の臓器モデルと同様の表面層を有する。
B:乾燥前の臓器モデルと比べて、表面層が膨潤していない。
C:乾燥前の臓器モデルと比べて、表面層がやや膨潤している。
D:乾燥前の臓器モデルと比べて、表面層がかなり膨潤している。
【0092】
なお、比較例1では、ゲルを製造することができなかったため、臓器モデルの物性の測定ができなかった。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示された結果から、各実施例で得られた臓器モデルは、いずれも、ポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールが用いられているので、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給してもあまり膨潤しないという優れた効果を奏するものであることがわかる。
【0095】
実験例2
実施例1で得られた表面層および比較例2で得られた表面層のみを別途作製しておいたシート(厚さ:2mm)を幅5mmのダンベル型に切り抜き、それぞれ3個のサンプルを作製し、引張験機〔(株)島津製作所製、商品名:オートグラフAGS−5kNG〕で1mm/minの速度で引っ張り、破断時における強度(破断強度)を測定し、それぞれ3個の平均値を求めた。
【0096】
その結果、実施例1で得られた表面層の破断強度は0.5N/mm2であるのに対し、比較例2で得られた表面層の破断強度は1.1N/mm2であった。このことから、比較例2で得られた表面層は、非常に強度が高くて硬いのに対し、実施例1で得られた表面層は、適度な強度を有するものであることがわかる。
【0097】
以上のことから、本発明の臓器モデルは、例えば、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習、内視鏡による手技練習などの手術練習用臓器モデル、手術用切除具の切れ味の確認用臓器モデルなどとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面層がポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールで構成されていることを特徴とする臓器モデル。
【請求項2】
ポリビニルアルコールの平均重合度が300〜3500であり、そのケン化度が90モル%以上である請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項3】
ホウ酸化合物がホウ酸またはホウ酸塩である請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項4】
架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を有し、その内部が空洞である請求項1〜3のいずれかに記載の臓器モデル。
【請求項5】
内部が空洞であるバルーンの外表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成されてなる請求項4に記載の臓器モデル。
【請求項6】
その内部の空洞部分に液体またはゲルが充填されてなる請求項4または5に記載の臓器モデル。
【請求項7】
内部が空洞であるバルーン内に、内部が空洞である他のバルーンが挿入され、その外側のバルーンと内側のバルーンとの間隙に液体またはゲルが充填され、外側のバルーンの外表面に架橋ポリビニルアルコールからなる表面層が形成されてなる請求項4に記載の臓器モデル。
【請求項8】
臓器に対応した形状を有する基体の表面に、表面層が形成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の臓器モデル。

【公開番号】特開2010−156894(P2010−156894A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335842(P2008−335842)
【出願日】平成20年12月30日(2008.12.30)
【出願人】(508072659)
【Fターム(参考)】