説明

臓器固定具用挿入補助具

【課題】施術を効率良く安全に行うことができるとともに、誤刺を防止できる臓器固定具用挿入補助具を提供する。
【解決手段】臓器固定具用挿入補助具1は、穿刺針2と、穿刺針2の後方位置に固定されたシリンダ3と、穿刺針2とシリンダ3に挿通可能な押出部材4とからなる。使用前は、押出部材4を穿刺針2の前方位置に体内係止部51が収納可能な位置で係止し、使用後は、押出部材4が穿刺針2の針先21よりも前方へ突出させた位置で係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の胃等の臓器内壁を皮膚側壁に固定する臓器固定具を、体内へ挿入する際に用いられる臓器固定具用挿入補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食物を経口摂取できない患者のために、体外から胃内に貫通する孔(瘻孔)を患者に穿設し、瘻孔を介して胃内に胃瘻チューブを挿入し、胃瘻チューブを介して直接胃に栄養物を供給することが行われている。
【0003】
一般的に、体外から瘻孔を形成する際には、予め、患者の胃壁と皮膚側壁とを臓器固定具で固定する。臓器固定具は、胃内に投入される棒状の体内係止部と、体内係止部の中央に連結され胃壁と皮膚側壁とを貫通する縫合糸と、縫合糸の後端に結合され体外から縫合糸を所定の長さで固定する固定部材とを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
臓器固定具は、挿入補助具を用いることによって患者に装着される。挿入補助具は、臓器固定具の体内係止部を先端内側に収納可能な中空の穿刺針と、体内係止部を穿刺針から押し出し可能な押出部材とを有するものが特許文献1に開示されている。
【0005】
挿入補助具の具体的な使用方法は、まず、術者は、穿刺針に押出部材がセットされた状態で、穿刺針の先端内側に臓器固定具の体内係止部を収納し、その状態で、穿刺針を患者の体外から穿刺し、患者の胃壁と皮膚側壁とを貫通させる。次に、押出部材を穿刺針の後方から前方へ移動させ、穿刺針の針先から体内係止部を押し出すことにより、体内係止部を胃内に投入する。さらに、臓器固定具の縫合糸を体外から引っ張ることで、体内係止部が胃壁を皮膚側壁に引き寄せられ、この状態で縫合糸を固定部材で固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−226676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の臓器固定具用挿入補助具では、穿刺針に対して押出部材が常に移動可能な状態であるため、術者による意図しない押出部材の前方又は後方移動が生じるおそれがある。これにより、穿刺針の針先から体内係止部が誤って押し出されたり、穿刺針の後端から押出部材が誤って抜けてしまうことがあり、操作性が悪いものであった。また、使用後に穿刺針の針先が露出して誤刺が発生するおそれがあり、安全性に問題があった。
【0008】
本発明は、上記の不都合を解消して、操作性及び安全性を向上させることができる臓器固定具用挿入補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の臓器固定具用挿入補助具は、棒状の体内係止部と、前記体内係止部の中央に連結された縫合糸とからなる臓器固定具を体内へ挿入するために使用する臓器固定具用挿入補助具であって、患者に穿刺する方向を前方、患者から離れる方向を後方としたときに、前記体内係止部が前方位置に収納された状態で患者の体内へ穿刺可能であり、内部に軸方向に連通する第1通路を有する穿刺針と、前記穿刺針の後方位置に固定され、内部に軸方向に前記第1通路と連通する第2通路を有するシリンダと、前記第1通路及び前記第2通路に挿通され、前記穿刺針に収納された体内係止部を押し出し可能な押出部材とを備えるものにおいて、前記押出部材は、前記体内係止部を前記穿刺針の前方位置に収納可能な第1位置と、前記体内係止部を前記穿刺針から体内へ押し出すとともに、前端部が前記穿刺針の前端部よりも前方へ突出する第2位置とで係止され、外部操作により前記第1位置から第2位置へ移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、穿刺針の前方位置に体内係止部を収納する空間を保持した状態で、押出部材が係止されるので、意図しない押出部材の前方移動が防止される。また、使用後は、押出部材の前端部を穿刺針の針先よりも前方へ突出させた状態で、押出部材が係止されるので、医療従事者や廃棄を行う作業者に誤って針が刺さる誤刺を防止することができる。
【0011】
また、本発明において、前記押出部材には、外周面から突出する方向に突没自在に付勢された係合爪が設けられ、前記シリンダの周壁部には、前記係合爪に係合して前記押圧部材を前記第1位置に係止する第1係合穴と、前記第2位置に係止する第2係合穴が設けられ、前記第1係合穴は、前記押出部材の後方移動を規制するとともに、前記押出部材の前方移動を、前記押出部材の前方へ加わる力が所定値未満であれば規制し、所定値以上であれば許容するように前記係合爪と係合され、前記第2係合穴は、少なくとも前記押出部材の後方移動を規制するように係合爪と係合されていることが好ましい。
【0012】
これによれば、押出部材は、第1位置において後方への移動が規制されるので、穿刺針の後方から押出部材が誤って抜けることはない。また、押出部材は、押出部材に所定値以上の力が加わるまで、第1位置において前方への移動が規制されるので、意図しない押出部材の前方移動が防止される共に、押出部材を第1位置から第2位置へ移動させる際には、所定値以上の力を加えるだけで、第1位置における前方への移動規制を解除できる。さらに、押出部材は、第2位置において後方への移動が規制されるので、誤って穿刺針の針先が露出することはない。
【0013】
また、本発明において、前記シリンダには、外周面を周回するように溝が形成され、前記溝には、輪状に形成された弾性部材が嵌合され、前記体内係止部が前記穿刺針の前方位置に収納された状態で、前記穿刺針の前端部から引き出された前記縫合糸が、前記溝と前記弾性部材との間に挟まれて留められていることが好ましい。
【0014】
これによれば、体内係止部を刺針の前方位置に収納した状態で縫合糸を留めて置くことができる。即ち、本発明に臓器固定具をセットした状態を長期間維持できるので、臓器固定具をセットした状態で保管することが可能となり、また、臓器固定具をセットした状態で販売に供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の臓器固定具用挿入補助具を示す正面図。
【図2】図1のII−II線で切断した断面図。
【図3】臓器固定具用挿入補助具に臓器固定具を取り付けた状態を示す説明図。
【図4】本実施形態の使用方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して詳しく説明する。まずは、図1、図2を参照して、本実施形態の臓器固定具用挿入補助具1の構成について説明する。
【0017】
本実施形態の臓器固定具用挿入補助具1は、穿刺針2と、穿刺針2の後方位置に固定されたシリンダ3と、穿刺針2とシリンダ3に挿通可能な押出部材4とからなる。
【0018】
穿刺針2は、ステンレス製の円筒からなる注射針であって、穿刺針2の内部は、押出部材4が軸方向に挿通自在な内部通路22となっている。穿刺針2の針先21には、針先21から後方に向かってスリット23が形成され、スリット23付近の内部通路22は、後述の体内係止部51が収納される収納部24となっている。また、穿刺針2の後方位置には、内部通路22と連通するようにシリンダ3が固定されている。
【0019】
シリンダ3は、合成樹脂製の円筒であって、シリンダ3の内部は、押出部材4が軸方向に挿通自在な内部通路31となっている。内部通路31の径は、押出部材4の外径よりもやや大きくなっている。また、シリンダ3の周壁部には、軸方向に所定の間隔をおいて貫通する係合穴32、33が設けられている。さらに、シリンダ3の中心軸を境に左右両対称に指掛部34, 34が設けられている。
【0020】
押出部材4は、穿刺針2の内部通路22に挿通自在なロッド41と、ロッド41の後方位置に固定されたプランジャ42とを備えている。
ロッド41は、ステンレス製の芯棒である。ロッド41の前端部411は、術者等の皮膚に誤って刺さらないように丸く面取りされている。
【0021】
プランジャ42は、合成樹脂製の芯棒であって、後端部には正面視でT字状に形成されたレバー421を備えている。また、プランジャ42の本体422の外周面には、コ字状に切り欠かれた凹部423を有し、この凹部423の下部424には、係合爪425が斜め上方に突出するように接続されている。この係合爪425の先端部426は、係合爪425の板バネ作用によって本体422の外周面から突出する方向に付勢されている。
【0022】
次に、本実施形態の臓器固定具5の構成について説明する。図3、図4に示すように、臓器固定具5は、棒状の体内係止部51と、体内係止部51の中央に連結された縫合糸52と、板状の固定部材53とを備えている。この固定部材53の中心には、縫合糸52を通す糸通孔54が設けられ、縫合糸52の後端は、固定部材53の裏から糸通孔54へ挿通されている。
【0023】
次に、図3、図4を参照して、本実施形態の臓器固定具用挿入補助具1の使用方法について説明する。
【0024】
まず、図3に示すように、体内係止部51を穿刺針2の針先21から収納部24に挿入し、体内係止部51に連結された縫合糸52を穿刺針2のスリット23から引き出し、引き出された縫合糸52を、シリコーンバンド6でシリンダ3の外周面に留めて置く。
【0025】
このとき、係合爪425の先端部426が後端側係合穴32に係合され、ロッド41の前端部411は、体内係止部51の収納スペース(穿刺針2の収納部24)に突入しない位置で係止されている。これにより、意図しない押出部材4の前方移動によって、体内係止部51が穿刺針2の針先21から飛び出すことはない。
【0026】
また、この位置では、係合爪425の先端部426が後端側係合孔32の上部321に当接され、押出部材4の後方移動が規制されているので、仮に、術者がレバー421を後方へ引っ張った場合であっても、押出部材4がシリンダ3の後端部から抜けることはない。
【0027】
次に、図4(a)に示すように、臓器固定具5が取り付けられた穿刺針2を、患者の体外から皮膚側壁7及び胃壁8を貫通するまで穿刺し、胃内に穿刺針2の針先21を露出させる。このとき、針先21が胃内に露出されたか否かは、例えば、患者の口から挿入された内視鏡等により確認する。
【0028】
次に、レバー421を所定値以上の力で前方へ押し込むと、係合爪425の傾斜面427は、後端側係合孔32の下部322に当接され、係合爪425の付勢力に抗して径方向内方に押し下げられる。これにより、係合爪425の先端部426は、後端側係合孔32の上部321から外れてシリンダ3の内部通路31へと移動し、シリンダ3と押出部材4との係止状態が解除され、押出部材4は前方移動が可能となる。
【0029】
さらにレバー421を前方へ押し込むと、図4(b)に示すように、ロッド41の前端部411は、穿刺針2の針先21よりも前方へ突出され、体内係止部51は、穿刺針2の針先21から押し出されて患者の胃内に投入される。
【0030】
このとき、前端側係合穴33が係合爪425の先端部426に係合され、ロッド41の前端部411は、穿刺針2の針先21よりも前方へ突出した位置で係止されている。さらに、この位置では、係合爪425の先端部426が前端側係合孔33の上部331に当接され、押出部材4の後方移動が規制されているので、ロッド41の前端部411が穿刺針2の針先21よりも後方へ移動し、誤って針先21が露出される心配がない。これにより、医療従事者や廃棄を行う作業者に誤って穿刺針2の針先21が刺さる誤刺を防止することができる。
【0031】
また、この位置では、シリンダ3の底部34がプランジャ42の前端部428に当接され、押出部材4の前方移動が規制されているので、ロッド41の前端部411が突出しすぎることはない。
【0032】
次に、縫合糸52をシリコーンバンド6から取り外し、患者から臓器固定具用挿入補助具1を離脱させる。そして、縫合糸52を体外から引っ張ることで、体内係止部51が胃壁7を皮膚側壁8に引き寄せ、図4(c)に示すように、縫合糸52を固定部材53で係止し胃壁7を皮膚側壁8に固定する。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、縫合糸52をシリンジ3に留めて置くためにシリコーンバンド6を用いたが、サージカルテープなどの粘着テープを用いてもよい。また、上記実施形態では、係合穴32、33は、シリンダ3の周壁部を貫通する貫通孔であるが、貫通孔でなくてもよい。具体的には、係合穴32、33は、シリンジ3の内周面を切り欠いた凹部であってもよい。これによれば、手動でシリンジ3の外周面から係合爪425を操作して、シリンジ3と押出部材4との係止状態を解除することが不可能なので、本発明の再使用を避けることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…臓器固定具用挿入補助具、 2…穿刺針、 3…シリンダ、 32…後端側係合孔、 33…前端側係合孔、 4…押出部材、 41…ロッド、 42…プランジャ、 5…臓器固定具、 425…係合爪。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の体内係止部と、前記体内係止部の中央に連結された縫合糸とからなる臓器固定具を体内へ挿入するために使用する臓器固定具用挿入補助具であって、
患者に穿刺する方向を前方、患者から離れる方向を後方としたときに、
前記体内係止部が前方位置に収納された状態で患者の体内へ穿刺可能であり、内部に軸方向に連通する第1通路を有する穿刺針と、前記穿刺針の後方位置に固定され、内部に軸方向に前記第1通路と連通する第2通路を有するシリンダと、前記第1通路及び前記第2通路に挿通され、前記穿刺針に収納された体内係止部を押し出し可能な押出部材とを備えるものにおいて、
前記押出部材は、前記体内係止部を前記穿刺針の前方位置に収納可能な第1位置と、前記体内係止部を前記穿刺針から体内へ押し出すとともに、前端部が前記穿刺針の前端部よりも前方へ突出する第2位置とで係止され、
外部操作により前記第1位置から前記第2位置へ移動可能に設けられていることを特徴とする臓器固定具用挿入補助具。
【請求項2】
前記押出部材には、外周面から突出する方向に突没自在に付勢された係合爪が設けられ、前記シリンダの周壁部には、前記係合爪に係合して前記押圧部材を前記第1位置に係止する第1係合穴と、前記第2位置に係止する第2係合穴が設けられ、
前記第1係合穴は、前記押出部材の後方移動を規制するとともに、前記押出部材の前方移動を、前記押出部材の前方へ加わる力が所定値未満であれば規制し、所定値以上であれば許容するように前記係合爪と係合され、
前記第2係合穴は、少なくとも前記押出部材の後方移動を規制するように係合爪と係合されていることを特徴とする請求項1記載の臓器固定具用挿入補助具。
【請求項3】
前記シリンダには、外周面を周回するように溝が形成され、前記溝には、輪状に形成された弾性部材が嵌合され、
前記体内係止部が前記穿刺針の前方位置に収納された状態で、前記穿刺針の前端部から引き出された前記縫合糸が、前記溝と前記弾性部材との間に挟まれて留められていることを特徴とする請求項1又は2に記載の臓器固定具用挿入補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−182986(P2011−182986A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52102(P2010−52102)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(510020815)医療法人永眞会永田外科内科医院 (2)
【出願人】(390029676)株式会社トップ (106)
【Fターム(参考)】