説明

臨界用個人線量計

【課題】臨界事故が発生した場合においても、被ばく線量や放射線の人体への入射方向を容易且つ速やかに特定することができる臨界用個人線量計を提供する。
【解決手段】ネックストラップ型の臨界用個人線量計1である。首に掛ける平紐状のストラップ本体2と、このストラップ本体2に内包されたインジウムの薄片からなる複数のしきい検出器3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済燃料再処理施設等で用いて好適な臨界用個人線量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、使用済燃料再処理施設など、放射線を取り扱う施設においては、原子炉等規制法で定められている線量限度を超えないことはもちろん、可能な限り被ばくを低減させるべく、作業者の被ばく管理が行われている。外部被ばく線量の測定には、線量計に一定期間に受けた放射線に応じたエネルギーを蓄積させて定期的に放射線量を測定する積算型線量計や、放射線量をリアルタイムでデジタル表示する電子式線量計など、種々の個人線量計が用いられ(例えば、非特許文献1参照)、管理区域に立ち入る者は、それら個人線量計の着用が義務付けられている(電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)第8条第3項)。
【0003】
上記施設においては、臨界事故を防止するために必要な措置が講じられているが、万一、臨界事故が発生したときは、大人数の退避者の中から迅速に過剰被ばく者を選別して医療機関へ搬送すること、並びに、被ばく線量の推定及び放射線の人体への入射方向の特定を行い、過剰被ばく者の治療方針を速やかに決定することが要求される。放射線の人体への入射方向に関しては、特に中性子線の場合、その入射方向如何によって、ダメージを与える臓器が異なることから、入射方向が分かれば、治療をする際の判断がし易くなる。また、放射線が人体のどの方向から入射するかによって、その人が受ける実効線量も変化することとなるため、線量評価上、放射線の人体入射方向が極めて重要な情報となる。
しかしながら、上記積算型線量計にあっては、ある程度の高線量に対応することが可能であるが被ばく放射線量の測定に時間を要し、一方、上記電子式線量計にあっては、被ばく放射線量をその場で確認できるが高線量率の測定感度が不明であり、また両線量計ともに放射線の人体への入射方向を特定できないため、それら個人線量計では、上述した要求に応えることが困難であった。
【非特許文献1】“個人線量計(09-04-03-03)”、原子力百科事典 ATOMICA、[online]、2005年02月、日本原子力文化振興財団、[2007年10月10日検索]、インターネット<URL: http://atomica.nucpal.gr.jp/atomica/09040303_1.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、臨界事故が発生した場合においても、被ばく線量の推定や放射線の人体への入射方向の特定を容易且つ速やかに実施することができる臨界用個人線量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る臨界用個人線量計は、ネックストラップ型の臨界用個人線量計であって、首に掛ける平紐状のストラップ本体と、このストラップ本体に内包されたインジウムの薄片からなる複数のしきい検出器とを備えることを特徴とするものである。
【0006】
上記臨界用個人線量計においては、上記ストラップ本体を首に掛けた状態において、複数の上記しきい検出器が首の周りにほぼ等間隔に配置されるように、各しきい検出器の取付位置をそれぞれ設定することが可能である。
また、上記臨界用個人線量計においては、首に掛けるループ部分の長さを調節可能な長さ調節部材を上記ストラップ本体に取り付けるとともに、上記しきい検出器の取付位置を示す目印を上記ストラップ本体に付す構成とすることが可能である。
【0007】
ここで、しきい検出器とは、中性子が種々の物質と核反応を起こす特性を利用した検出器である。その物質としては、インジウムの他に、金、銅、硫黄などがあり、それぞれ放射化断面積としきい値が異なる。そのため、上記特性を利用することにより、例えば、一種類のしきい検出器で、被ばく線量を推定することが可能であり、これを複数個使用すれば、後述するように、人体への放射線の入射方向を特定することが可能である。また、インジウム、金、銅、硫黄など、複数種類のしきい検出器を組み合わせることによって、より詳細な被ばく線量、中性子スペクトルを求めることが可能である。
本発明においては、(1)臨界事故時の高線量に対応することができ、着用者の被ばく線量を適切に推定できること、(2)放射線の人体への入射方向が特定できること、(3)やわらかい薄片(ホイル状)に容易に成型することができ、ネックストラップの生地に埋め込んだ状態で違和感なく使用できること、(4)安価に製造できること等の理由により、しきい検出器としてインジウムを採用している。
このしきい検出器にあっては、中性子により放射化した物質から放出される放射線を可搬型の放射線測定器(サーベイメータ)等で測定して、その測定した放射化量から、予め導き出した被ばく線量と放射化量との相関を利用して、着用者のおおまかな被ばく線量を導き出すことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、臨界事故が発生した場合においても、被ばく者の被ばく線量の推定や放射線の入射方向の特定を容易且つ速やかに実施することができる。
したがって、万一、臨界事故が発生しても、大人数の退避者の中から迅速に過剰被ばく者を選別することができ、それら過剰被ばく者の治療方針を速やかに決定することができる。
また、しきい検出器としてインジウムを用いるようにしたので、本発明に係る臨界用個人線量計を安価に製造することができ、たとえ人数が多くても、対象者全員に当該臨界用個人線量計を配布してその着用を義務付けることができる。すなわち、当該臨界用個人線量計を利用した事故対策システムを導入するにあたり、その導入コストを、施設の設計上起こり得ないと評価している事象の対策であることを踏まえた適切なコストの範囲内に収めることができる。
【0009】
さらに、ネックストラップ型の臨界用個人線量計としたので、当該臨界用個人線量計を通常のネックストラップとして用いることができる。前述したように、管理区域に立ち入る者は、積算型線量計や電子式線量計などの個人線量計(通常作業時における外部被ばく線量を測定するための個人線量計:以下、“通常時個人線量計”と称する。)の着用が義務付けられているため、それら通常時個人線量計用のネックストラップとして当該臨界用個人線量計を用いることにより、作業者に負担を掛けずに、当該臨界用個人線量計の着用を徹底することができる。また、ネックストラップ型としたので、その着用の有無を容易に確認することができ、不注意による付け忘れや、故意に付けない等、当該臨界用個人線量計の未着用を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係るネックストラップ型の臨界用個人線量計の一実施形態を示す斜視図である。この臨界用個人線量計1は、首に掛ける平紐状のストラップ本体2を有し、このストラップ本体2に、インジウムの薄片からなる複数のしきい検出器3を内包したものとなっている。
【0011】
ストラップ本体2は、例えばナイロンなど、水分を吸収し難い材料からなる平紐状の生地の両端を繋げて輪状に形成したもので、通常のネックストラップと同様、肌触りなど、着用者の負担にならないよう配慮した縫製・加工が施されている。本実施形態では、幅0.5〜1cm、厚さ0.1〜0.3cmで、長さ100cmの生地を用いたものと、これと同じ幅および厚さ寸法で、長さ120cmの生地を用いたものが用意されている。
【0012】
このストラップ本体2には、通常時個人線量計10を着脱自在な着脱アダプタ4が取り付けられるとともに、首に掛けるループ部分の長さを調節可能な長さ調節部材5が取り付けられている。これら着脱アダプタ4および長さ調節部材5は何れも硬質ゴム等からなり、着脱アダプタ4は取付リング6を介してストラップ本体2に取り付けられ、長さ調節部材5は、この着脱アダプタ4の取付位置からその他端の折り返し位置に至る範囲に亘って、上記ループ部分の長さを変えるべくスライド自在な状態でストラップ本体2に取り付けられている。着脱アダプタ4は、雄部4aと雌部4bとからなるバックル式のもので、雄部4aの被係止片を雌部4bの係止孔に差し込むことにより両者が係合して互いに結合した状態になるとともに、この状態から、雄部4aの被係止片を内側に弾性変形させることにより、上記係合が解除されて両者が分離可能な状態に変換されるように構成されている。雄部4aと雌部4bの一方は取付リング6を介してストラップ本体2に取り付けられ、他方はループ状の取付紐7を介して通常時個人線量計10に取り付けられている。
【0013】
また、ストラップ本体2には、その長さ方向に沿って所定間隔(例えば3〜4cm)を空けて、且つ上記折り返し位置(着脱アダプタ4の取付位置の他端)から左右対称となるように、インジウムの薄片(しきい検出器3)がその生地内に埋め込まれている。また、それぞれの埋設位置には目印(図示省略)が付されている。本実施形態では、図2に示すように、少なくとも4以上のインジウムの薄片がストラップ本体2の生地内に埋め込まれ、ストラップ本体2を首に掛けた状態において、インジウムの薄片が首の周りにほぼ等間隔に配置されるように(つまり、各インジウム片の面が互いに異なる方向を向くように)、各々の位置が設定されている。インジウムには、純度99.99%以上(公差は品質表示タグ等に明示)のものが用いられ、それぞれの質量が350mg(公差10%以内:品質表示タグ等に明示)、上記長さ方向の寸法が、放射線測定器の検出部の直径(6.18cm)以下とされている。国際原子力機関(IAEA)発行のレポート(「ドジメトリー・フォー・クリティカリティ・アクシデンツ:マニュアル(DOSIMETRY FOR CRITICALITY ACCIDENTS:A Manual)」、テクニカル・レポート・シリーズ(Technical Reports Series) No.211、 国際原子力機関(International Atomic Energy Agency)、オーストリア、1982年2月、p.58,86)には、インジウム350mgに対する吸収線量と被ばく線量の相関を示すデータが開示されているため、上記のような質量および寸法としたことにより、かかるデータを容易に利用することができ、本実施形態の臨界用個人線量計1で得たデータと比較することにより、当該臨界用個人線量計1の性能確認を行うことができる。なお、インジウムの薄片は、圧延加工機により圧延後、所定の寸法に切断することにより成形することができる。また、このインジウムの薄片は、例えば、2枚のストラップ生地の間に挟んで、それら生地の対向面と、当該インジウム薄片の両面にそれぞれ両面テープを貼り付けることにより、ストラップ本体2内に埋め込むことができる。
【0014】
上記構成からなる臨界用個人線量計1にあっては、通常時個人線量計10を取り付けた着脱アダプタ4側が下端となるようにストラップ本体2を首に掛けて、図3に示すように、長さ調節部材5を喉頭付近まで引き上げることにより、簡単に着用することができる。このとき、ストラップ本体2が首にフィットして容易に動かない状態となるとともに、インジウムの薄片が首の周りにほぼ等間隔に配置されて、各々の面が互いに異なる方向を向いた状態となる。
この状態において、臨界事故が発生した場合には、その事故により発生した中性子線が各しきい検出器3(インジウムの薄片)に照射されて、その吸収線量に応じた放射化が各しきい検出器3で起こることとなる。
したがって、各しきい検出器3から放出される放射線を放射線測定器(サーベイメータ等)で測定することで、着用者の被ばく線量を推定することができるとともに、インジウム薄片の放射化量の分布から、放射線の人体への入射方向を特定することもできる。例えば、喉頭近傍に配置されたしきい検出器3の値が相対的に大きい場合、または頸椎近傍に配置されたしきい検出器3の値が相対的に小さい場合には、被ばく者の前方から放射線が入射したと推定することができる。
【0015】
このため、万一、臨界事故が発生しても、大人数の退避者の中から迅速に過剰被ばく者を選別することができ、それら過剰被ばく者の治療方針を速やかに決定することができる。
また、しきい検出器3としてインジウムを用いるようにしたので、臨界用個人線量計1を安価に製造することができ、たとえ人数が多くても、対象者全員に当該臨界用個人線量計1を配布してその着用を義務付けることができる。
また、ネックストラップ型としたので、臨界用個人線量計1を通常時個人線量計10用のネックストラップとして用いることができ、これにより、当該臨界用個人線量計1の付け忘れ等を防止して、当該臨界用個人線量計1の着用を徹底することができる。また、管理区域に立ち入る際の装備がこれまでと変わらないため、作業者に新たな負担を掛けることも無い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るネックストラップ型の臨界用個人線量計の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】しきい検出器の取付位置を説明するための模式図である。
【図3】図1の臨界用個人線量計の使用状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0017】
1 臨界用個人線量計
2 ストラップ本体
3 しきい検出器
4 着脱アダプタ
5 長さ調節部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネックストラップ型の臨界用個人線量計であって、
首に掛ける平紐状のストラップ本体と、このストラップ本体に内包されたインジウムの薄片からなる複数のしきい検出器とを備えることを特徴とする臨界用個人線量計。
【請求項2】
上記ストラップ本体を首に掛けた状態において、複数の上記しきい検出器が首の周りにほぼ等間隔に配置されるように、各しきい検出器の取付位置がそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項1に記載の臨界用個人線量計。
【請求項3】
上記ストラップ本体には、首に掛けるループ部分の長さを調節することにより、当該ストラップ本体を首にフィットさせて容易に動かないようにするための長さ調節部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の臨界用個人線量計。
【請求項4】
上記ストラップ本体には、上記しきい検出器の取付位置を示す目印が付されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の臨界用個人線量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−128008(P2009−128008A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299564(P2007−299564)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(597006470)日本原燃株式会社 (21)