説明

自励振動ヒートパイプおよび自励振動ヒートパイプ用基体の製造方法

【課題】注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面との間における接合材による接合を良好に実施できる自励振動ヒートパイプが提供される。
【解決手段】注入管4f,4sの中心軸線PAに対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の変動を抑制させるように,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。注入管4f,4sの嵌合壁面44と,嵌合部3f,3sとの被嵌合壁面34とは互いに接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自励振動ヒートパイプおよび自励振動ヒートパイプ用基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱輸送を行うための作動流体が収容される基体と基体に挿入された注入管とをもつ自励振動ヒートパイプが知られている(特許文献1)。このものによれば,基体は,熱輸送方向において延設され且つ作動流体を収容する流体通路と,流体通路の延設方向の端部に設けられた嵌合部と,流体通路が延びる一端側に設けられ加熱源から加熱される加熱領域と,流体通路が延びる他端側に設けられ外部に放熱させる放熱領域とを有する。作動流体は流体通路が減圧された状態で流体通路に封入されており,作動流体の沸点が低下するため,流体通路の各通路において作動流体は液相および気相(蒸気泡)として存在する。
【0003】
この特許文献によれば,流体通路を構成する各通路において気相柱および液相の液相柱分が交互に配置されており,加熱源から加熱されると,加熱領域において作動流体の核沸騰が発生し,核沸騰により発生した圧力波により,流体通路において気相柱および液相の液相柱分の軸方向振動が発生し,その軸方向振動により熱量が加熱部側の高温部から放熱側の低温部に向けて輸送される旨が記載されている。気相柱および液相柱分の軸方向振動は,複数の流体通路において所定の位相差をもって行われると,性能が向上する旨が解析されている。
【0004】
このように自励振動ヒートパイプによれば,加熱領域と放熱領域との間の温度差を駆動力とし,流体通路を構成する複数の通路のそれぞれにおいて気相柱および液相柱の自励振動を発生させる。このような自励振動により,加熱領域から放熱領域へ熱を輸送させる。このように自励振動ヒートパイプは熱輸送デバイスを低コストで実現できるため,近年着目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−49692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した自励振動ヒートパイプによれば,図22に示すように,基体1Xに形成されている流体通路10Mは,横断面で四角孔状とされている。流体通路10Mの矢印X方向の端部は,端通路12M,13Mとされている。端通路12M,13Mのそれぞれには嵌合部3Mが形成されている。嵌合部3は,注入管4Mを挿入させる嵌合孔33Mを有する。嵌合部3Mの嵌合孔33Mも横断面で四角孔状とされている。
【0007】
このため,注入管4Mを基体1Mに組み付けるにあたり,基体1Mに形成されている横断面で四角形状の嵌合部3Mの嵌合孔33Mに,横断面で円形状の注入管4Mをろう材を介して挿入されている。この場合,図22に示すように,注入管4Mと嵌合部3Mの嵌合孔33Mとの間には,異形状で大きな隙間幅をもつ複数の異形状隙間49Mが必須的に形成される。注入管4Mおよび嵌合部3Mの嵌合部33Mは,両者の境界に存在するろう材7Xにより接合されている。
【0008】
異形状隙間49Mは異形であり,しかも大きな隙間幅を示すため,注入管4Mと嵌合部3Mの嵌合部33Mとの間において,ろう付け不良が発生するおそれがある。更に,異形状隙間49Mを埋めるべく,ろう材7Xが必然的に多めとなるため,ろう材7Xが流体通路10Mの端通路12M,13Mに過剰に流れてしまうおそれがある。更に,過剰に流れたろう材7Xにより端通路12M,13Mが局部的に閉塞するおそれがある。この場合,注入管4Mの接合強度の十分な品質を得るには好ましくない。
【0009】
ところで,自励振動ヒートパイプによれば,熱輸送方向に間隔を隔てて配置された加熱領域と放熱領域との間の温度差が駆動力とされ,流体通路10Mを構成する複数の通路のそれぞれにおいて気相柱および液相柱の自励振動をそれぞれ発生させる。これにより加熱領域から放熱領域に向けて熱が高い伝導率で輸送される。
【0010】
上記したように自励振動ヒートパイプによれば,図22に示すように,注入管4Mおよび嵌合部3Mの嵌合部33Mがろう材7Xで接合されているものの,異形状で且つ隙間幅が大きい異形状隙間49Mがろう材7Xで完全に塞がっていない場合には,異形状隙間49Mが端通路12M,13Mに局部的に連通するおそれがある。この場合,端通路12M,13Mにおける気相柱および液相柱の流動乱れが誘発されるおそれがある。この場合,気相柱および液相柱の円滑な軸方向振動(振動数等)に微妙に影響することが懸念される。殊に,異形状で隙間幅が大きな異形状隙間49Mが,蛇行状の流体通路10Mの各通路における気相柱および液相柱の軸方向振動の位相差に微妙に影響することが懸念される。この場合,自励振動ヒートパイプの更なる高品質化には好ましくないと考えられる。
【0011】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面との間における接合材による接合を良好に実施でき,注入管の接合強度を確保でき,更には,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面との境界において,異形状で隙間幅が大きな異形状隙間が形成されることを抑制させ,ひいては,流体通路の各通路における気相柱および液相柱の流動乱れを抑制させるのに有利な自励振動ヒートパイプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)様相1に係る本発明に係る自励振動ヒートパイプは,熱輸送方向において熱輸送を行うための作動流体が収容される基体と基体に挿入された注入管とをもつ自励振動ヒートパイプであって,
(i)基体は,熱輸送方向において一端側から他端側にかけて延設され且つ作動流体を収容する流体通路と,流体通路の延設方向の端部に設けられ内壁面または外壁面で形成された被嵌合壁面をもつ嵌合部と,流体通路が延びる一端側に設けられ加熱源から加熱される加熱領域と,流体通路が延びる他端側に設けられ外部に放熱させる放熱領域とを備えており,
(ii)注入管は,基体の嵌合部の嵌合した状態で基体に保持され,嵌合部の被嵌合壁面に対面しつつ嵌合する外壁面または内壁面で形成された嵌合壁面を備えており, (iii)注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,
注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは,両者の境界の隙間幅の変動を抑制させるように,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされており,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは互いに接合されている。
【0013】
本様相によれば,注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは互いに接合されている。相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とは,相手側の輪郭形状と同一または相似する形状であることが好ましい。両者の輪郭形状間には隙間が存在しないか,ほぼ均一の微小隙間が形成されていることが好ましい。
【0014】
本様相によれば,注入管の嵌合壁面および嵌合部の被嵌合壁面は,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。従って,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面との境界において,境界の隙間幅は,注入管の嵌合壁面の周方向においてほぼ同一となる。従って境界の隙間幅の変動が抑制されている。この結果,従来技術とは異なり,注入管と嵌合部との境界において異形状隙間の発生が抑えられる。このため,注入管と嵌合部との間において,ろう付け不良等の接合不良が発生することが抑制される。更に,ろう材等の接合材が流体通路に過剰に流れることが抑制される。このため,流体通路の流路断面積を部分的に変動させたり,流体通路を部分的に閉塞させるおそれが抑制される。従って接合強度の高品質化に貢献できる。
【0015】
上記した本様相によれば,前述したように,注入管と嵌合部との境界において,異形状で且つ隙間幅が大きい異形状隙間の発生が抑えられる。従って,嵌合部に連通する流体通路において,気相柱および液相柱の軸方向振動の振動数に異形状隙間が影響を与えることが抑えられる。従って自励振動ヒートパイプの一層の高品質化が期待できる。
【0016】
(2)様相2に係る本発明に係る自励振動ヒートパイプによれば,上記様相において,注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは,互いに対応する円形状または角形状とされている。角形状は,四角形状,六角形状,八角形状等を例示できる。角部はアールをもつことができる。本様相によれば,注入管の外壁面と嵌合部の内壁面との間において異形状隙間の発生が抑えられる。従って,注入管の接合強度を向上できる。更に,嵌合部に連通する流体通路において,気相柱および液相柱の軸方向振動の振動数に異形状隙間が影響を与えることが抑制される。自励振動ヒートパイプの一層の高品質化が期待できる。
【0017】
(3)様相3に係る本発明に係る自励振動ヒートパイプによれば,上記様相において,注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,嵌合部はこれの径外方向に拡管加工されている。基体の嵌合部をこれの径外方向に拡管できるため,嵌合部に嵌合される注入管の径サイズを増加できる。この場合,注入管の流路断面積と,注入管が嵌合されている嵌合部に連通する端通路の流路断面積とを整合させるのに貢献できる。
【0018】
(4)様相4に係る本発明に係る自励振動ヒートパイプによれば,上記様相において,基体の嵌合部には,嵌合部をこれの径外方向に拡管できる凹状空間が隣接している。凹状空間を利用して,基体の嵌合部をこれの径外方向に拡管できる。このため,嵌合部に嵌合される注入管の径サイズを増加できる。拡管した場合には,注入管の流路断面積と,注入管が嵌合されている嵌合部に連通する端通路の流路断面積とを整合させるのに貢献できる。この場合,注入管の流路断面積と,注入管が嵌合されている嵌合部に連通する端通路の流路断面積とは,同一または近似した大きさとなる。この場合,作動流体の乱流化の抑制に貢献でき,気相柱および液相柱の軸方向振動の円滑化に有利である。
【0019】
(5)様相5に係る本発明に係る自励振動ヒートパイプによれば,上記様相において,
基体の嵌合部は,流体通路の延設方向の一端側または他端側に設けられた第1嵌合部と,流体通路の延設方向の一端側および他端側のうち第1嵌合部と同じ側に第1嵌合部に対向するように設けられた第2嵌合部とで形成されており,注入管は,第1嵌合部に嵌合された第1注入管と第2嵌合部に嵌合され且つ第1注入管に対向する第2注入管とで形成されており,第1嵌合部と第2嵌合部の間には凹状空間が基体に対面するように形成されている。この場合,注入管の流路断面積と,注入管が嵌合されている嵌合部に連通する端通路の流路断面積とは,同一または近似した大きさとなる。この場合,作動流体の乱流化の抑制に貢献でき,気相柱および液相柱の軸方向振動の円滑化に有利である。
【0020】
本様相によれば,第1嵌合部と第2嵌合部の間には凹状空間が基体に形成されている。このため,凹状空間を利用して第1嵌合部および第2嵌合部をこれの径外方向に拡管させ易い。殊に,第1嵌合部および第2嵌合部をこれの全周にわたり拡管させ易い。従って,第1嵌合部に嵌合される第1注入管の径サイズを均一に増加させるのに有利である。同様に,第2嵌合部に嵌合される第2注入管の径サイズを増加できる。
【0021】
(6)様相6に係る本発明に係る自励振動ヒートパイプ用基体の製造方法は,作動流体を収容可能な流体通路を有する基体を用意する工程と,基体の材料部分を基体から除去することにより,流体通路の延設方向の端部において被嵌合壁面をもつ突起状の嵌合部を形成する除去工程と,嵌合部の壁部をこれの径方向において拡管させる拡管工程と,拡管された嵌合部の内側または外側に注入管を挿入させて固定する挿入工程とを順に実施する。
【0022】
本様相方法によれば,拡管工程の前に除去工程を実施する。除去工程により,嵌合部に隣接するように凹状空間を形成できる。このように凹状空間が形成されているため,嵌合部の壁部を拡管させる作業を容易に実施できる。殊に,嵌合部の壁部の周方向にわたり均一に拡管加工させ易く,拡管の品質向上に貢献できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る自励振動ヒートパイプによれば,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面との間における接合材による接合を良好に実施でき,注入管の接合強度を確保できる。更に,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面との間における異形状隙間の形成が抑えられる。このため,異形状隙間が流体通路における軸方向振動に影響を与えることを抑制させるのに有利となる。
【0024】
本発明に係る自励振動ヒートパイプ用基体の製造方法によれば,作動流体を収容可能な流体通路と,流体通路の延設方向の端部に設けられ内壁面または外壁面で形成された被嵌合壁面をもつ嵌合部とを有する基体を用意する工程と,基体のうち嵌合部に隣設する材料部分を基体から除去する除去工程と,除去工程の後に,嵌合部をこれの径方向において拡管させる拡管工程と,拡管された嵌合部に注入管を挿入させて固定する挿入工程とを順に実施する。本方法によれば,自励振動ヒートパイプ用基体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1に係り,自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図2】実施形態1に係り,自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図3】実施形態2に係り,製造初期の基体を示す斜視図である。
【図4】実施形態2に係り,注入管を基体に組み付けた状態を示す斜視図である。
【図5】実施形態2に係り,注入管を組み付けた基体の端部を閉鎖させた状態を示す斜視図である。
【図6】実施形態2に係り,自励振動ヒートパイプを矢印Y方向に沿って切断した断面図である。
【図7】実施形態3に係り,自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図8】実施形態4に係り,自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図9】実施形態5に係り,自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図10】実施形態6に係り,自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図11】実施形態7に係り,製造初期の基体を示す斜視図である。
【図12】実施形態7に係り,基体において主切除部を切除した状態を示す斜視図である。
【図13】実施形態7に係り,基体の嵌合部を拡管させた状態を示す斜視図である。
【図14】実施形態7に係り,基体の拡管させた嵌合部に注入管を挿入させる状態を示す斜視図である。
【図15】実施形態7に係り,基体の拡管させた嵌合部に注入管を挿入させて接合させた状態を示す斜視図である。
【図16】実施形態7に係り,基体の一端および他端を閉鎖させた状態を示す斜視図である。
【図17】実施形態8に係り,自励振動ヒートパイプとなる基体を拡管させる前の状態を示す断面図である。
【図18】実施形態9に係り,自励振動ヒートパイプとなる基体を拡管させる前の状態を示す断面図である。
【図19】実施形態10に係り,基体の嵌合部に注入管を挿入させた状態を示す断面図である。
【図20】実施形態11に係り,作動流体収容前の自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図21】実施形態12に係り,作動流体収容前の自励振動ヒートパイプの内部構造を示す断面図である。
【図22】従来技術に係り,基体の嵌合部に注入管を挿入させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る自励振動ヒートパイプによれば,注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは,両者の境界の隙間幅の変動を抑制させるように,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。この場合,同一または相似する形状が好ましい。注入管の嵌合壁面と嵌合部の被嵌合壁面とは互いに接合されているため,異形状隙間が形成され難い。
【0027】
自励振動ヒートパイプ用基体の製造方法の一例は,前述したように,作動流体を収容可能な流体通路を有する基体を用意する工程と,基体の材料部分を基体から除去することにより,流体通路の延設方向の端部において被嵌合壁面をもつ突起状の嵌合部を形成する除去工程と,嵌合部の壁部をこれの径方向において拡管させる拡管工程と,拡管された嵌合部の内側または外側に注入管を挿入させて固定する挿入工程とを順に実施する。
【0028】
拡管させれば,注入管を嵌合部に挿入させるとき,注入管の肉厚に起因する流路断面積の過剰変動が抑制され,作動流体の流動乱れが抑制され易くなることが期待される。嵌合部は単数でも,複数でも良い。嵌合部に隣接するように凹状空間が形成されていることが好ましい。この場合,嵌合部の拡管に有利である。
【0029】
好ましくは,基体の嵌合部は,流体通路の延設方向の一端側または他端側に設けられた第1嵌合部と,流体通路の延設方向の一端側および他端側のうち第1嵌合部と同じ側に第1嵌合部に対向するように設けられた第2嵌合部とで形成されている。好ましくは,注入管は,第1嵌合部に嵌合された第1注入管と第2嵌合部に嵌合され且つ第1注入管に対向する第2注入管とで形成されている。第1嵌合部と第2嵌合部との間には,凹状空間が基体に対面するように形成されていることが好ましい。好ましくは,基体は,押出成形品,引抜成形品である。更に溶接品,プレス成形品でも良い。除去工程は,基体の材料部分を基体から除去できる工程であれば,何を使用しても良く,機械的除去,溶融的除去,溶解的除去,蒸発的除去などを例示できる。必要に応じて,仕切壁に対して連通路を形成させることが好ましい。
【0030】
(実施形態1)
以下,本発明の実施形態1について図1および図2を参照して説明する。自励振動ヒートパイプは,矢印Y方向(熱輸送方向)における一端1e側から他端1f側にかけて熱輸送を行うための作動流体6(熱媒体)が収容される基体1と,基体1に挿入されて組み付けられた注入管4とをもつ。基体1は,矢印Y方向において一端1e側から他端1f側にかけて延設された流体通路10と,流体通路10の延設方向(矢印Y方向)の一端1e側に設けられた嵌合部3と,流体通路10が延びる一端1e側に設けられた加熱領域51と,流体通路10が延びる他端1f側に設けられた放熱領域52とを備えている。流体通路10が減圧された状態で作動流体6が流体通路10に封入されており,大気圧の場合よりも沸点が低下している。作動流体6は流体通路10において気相柱および液相柱を共存させ得るものであれば良く,水,アルコール,フロンを例示できる。基体1の加熱領域51には加熱源510がセットされる。加熱源510は,加熱領域51を加熱できるものであれば何でも良く,電気ヒータ等のヒータ,エンジン冷却水等の加熱水の配管,熱をもつ排気ガスの配管,熱をもつ排水の配管,燃料電池システムの熱源,ペルチェ素子の高温部を例示できる。基体1において,加熱領域51は放熱領域52よりも下方に位置することが好ましい。基体1の放熱領域52には冷却源520がセットされる。冷却源520は,放熱領域52を冷却できるものであれば何でも良く,エンジン冷却水等の冷却水の配管,燃料電池システムの冷却水の配管,ペルチェ素子の低温部を例示できる。加熱領域51と放熱領域52との間には,断熱部530が配置されることが好ましい。
【0031】
図1に示すように,基体1に形成されている流体通路10は,矢印Y方向(図1参照,熱輸送方向)において一端1e側から他端1f側にかけて直線状に延設された主通路11と,互いに隣接する主通路11の延設方向(矢印Y方向)の一端11e同士を連通させてUターン状とさせる第1連通路16と,互いに隣接する主通路11の延設方向(矢印Y方向)の他端11f同士を連通させてUターン状とさせる第2連通路17とを有する。複数の主通路11は,矢印X方向(矢印Y方向と直交する方向,複数の主通路11が並設されている方向)に並設されている。このような流体通路10は,蛇行する蛇行通路を形成する。
【0032】
図2に示すように,主通路11は,矢印Y方向と交差する矢印X方向の両端側に設けられた第1端通路12および第2端通路13と,その間に位置する複数の中間通路14とを有する。中間通路14の数は図2に示す数に限定されず,5本でも,10本でも,20本でも,それ以上でも良い。端通路12,13は断面で円形状とされている。通路12,13,14はそれぞれ矢印Y方向(熱輸送方向)に沿って直状に延設されている。複数の中間通路14は中間仕切壁20で仕切られている。図2に示すように,各中間通路14は断面で四角形状(正方形でもよいが,長方形でも良い)とされており,互いに対向する辺14aと,辺14aに隣接しつつ互いに対向する辺14cとをもつ。この場合,中間仕切壁20の肉厚tmを薄く且つ均等化させるのに有利である。この場合,中間通路14における伝熱性のばらつき低減に有利である。なお図2に示す構造に限らず,中間通路14を断面で円形状としても良い。
【0033】
図2に示すように,中間通路14と第1端通路12とは,第1端仕切壁21で仕切られている。中間通路14と第2端通路13とは,第2端仕切壁22で仕切られている。図2に示すように,端仕切壁21,22は,断面四角形状の中間通路14と断面円形状の第1端通路12とを仕切るため,互いに背向する円弧面と平坦面とをもつ。製造初期(連通路16,17を形成する前)の基体1は押出成形品であるため,矢印Y方向におけるどの位置で基体1を切断しても,その断面は同一の断面形状をもつ。
【0034】
図1および図2に示すように,基体1の嵌合部3は,第1嵌合部3fと第2嵌合部3sとで形成されている。第1嵌合部3fは,流体通路10の複数の主通路11の並設されている方向(矢印X方向)の一端側に設けられている。第2嵌合部3sは,流体通路10のうち複数の主通路11が並設されている方向(矢印X方向)の他端側に設けられている。具体的には,図1に示すように,第1端通路12の矢印Y方向の端部は,嵌合孔33をもつ第1嵌合部3fとされる。第1嵌合部3fの嵌合孔33は,第1端通路12と同一の断面形状および同一の断面積をもち,第1端通路12に直状に連通している。矢印Y方向におけるどの位置で嵌合孔33および第1端通路12を切断しても,その断面は同一の断面形状をもち,同一の断面積をもつ。
【0035】
同様に,第2端通路13の矢印Y方向の端部は,嵌合孔33をもつ第2嵌合部3sとされる。第2嵌合部3sの嵌合孔33は,第2端通路13と対応しており,具体的には同一の断面形状および同一の断面積をもち,第2端通路13に直状に連通している。矢印Y方向におけるどの位置で嵌合孔33および第2端通路13を切断しても,その断面は同一の断面形状をもち,同一の断面積をもつ。同様に,第2嵌合部3sの嵌合孔33は,第2端通路13と直状に連通している。矢印Y方向におけるどの位置で嵌合孔33および第2端通路13を切断しても,その断面は同一の断面形状をもち,同一の断面積をもつ。
【0036】
図1に示すように,第1嵌合部3fおよび第2嵌合部3sは,基体1の一端1e側において,互いに対向する位置に形成されている。第1嵌合部3fは雌構造であり,これの断面円形状の嵌合孔33の内壁面で形成された被嵌合壁面34をもつ。同様に,第2嵌合部3sは雌構造であり,これの断面円形状の嵌合孔33の内壁面で形成された被嵌合壁面34をもつ。嵌合孔33は断面で円形状をなす。
【0037】
図1に示すように,注入管4は,基体1の嵌合部3の嵌合孔33に嵌合された状態で基体1に組み付けられて固定されており,作動流体の注入等に利用できる。具体的には,図1に示すように,注入管4は,第1嵌合部3fの嵌合孔33の内部に嵌合された円パイプ形状の第1注入管4fと,第2嵌合部3sの嵌合孔33の内部に嵌合された円パイプ形状の第2注入管4sとで形成されている。すなわち,第1注入管4fは,基体1の第1嵌合部3fの嵌合した状態で基体1に固定されている。第2注入管4sは,基体1の第2嵌合部3sの嵌合した状態で基体1に固定されている。従って,第1注入管4fは,第2嵌合部3sの被嵌合壁面34に対面しつつ嵌合する外壁面で形成された嵌合壁面44を備えている。同様に,第2注入管4sは,第2嵌合部3sの被嵌合壁面34に対面しつつ嵌合する外壁面で形成された嵌合壁面44を備えている。
【0038】
図1に示すように,第1注入管4fおよび第2注入管4sは,基体1の嵌合孔33にΔL1で進入している。注入管4f,4sのそれぞれの流路断面積をSAとし,端通路12,13のそれぞれの流路断面積をSBとする。図1から理解できるように,注入管4f,4sの肉厚t3の影響で,SAはSBよりも小さくされている(SA<SB)。第1注入管4fの露出部分および第2注入管4sの露出部分は,基体1の一端1e側の閉鎖端19よりも突出量ΔL2で突出しつつ,凹状空間57を介して互いに対向する。
【0039】
第1注入管4fおよび第2注入管4sは,接続通路65を介して互いに連通されている。従って,蛇行状の流体通路10は接続通路65によりエンドレス状とされている。接続通路65は,作動流体6を注入した後に封入される注入封止口65iを有する。なお,注入管4f,4sの中心軸線と端通路12,13の中心軸線とは同芯であり,偏芯していないことが好ましい。
【0040】
図2は,注入管3f,3sの中心軸線PAに対して垂直な軸直角方向に沿った断面を示す。中心軸線PAは端通路12,13のそれぞれの中心軸線を兼用する。図2は,主通路11の中間通路14が延設されている延設方向(矢印Y方向)に対して垂直な軸直角方向に沿った断面でもある。図2に示すように,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3の被嵌合壁面34とは,断面において互いに円形状とされている。すなわち,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3の被嵌合壁面34とは,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。換言すると,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3の被嵌合壁面34とは,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する形状とされており,具体的には同一または相似する輪郭形状とされている。このため,両者の境界48の隙間幅の変動は,抑制されている。相似は,輪郭形状が角形状である場合には,基本的には,対応する線分の長さの比がほぼ等しく,対応する角部がそれぞれほぼ等しい形状であることが好ましい。角部は円弧であるアール部をもつことができる。
【0041】
すなわち,注入管4f,4sの中心軸線PAに対して垂直な軸直角方向に沿った断面(図2)において,注入管4fの外壁面である嵌合壁面44と,嵌合部3fの内壁面である被嵌合壁面34とは,互いに対応する形状とされており,具体的には,互いに同一または相似する円形状とされている。同様に,注入管4sの外壁面である嵌合壁面44と,嵌合部3sの内壁面である被嵌合壁面34とは,互いに対応する形状とされており,具体的には,互いに同一または相似する円形状とされている。なお,円は真円に近いことが好ましいが,場合によっては楕円でも良い。相似形状の場合には,境界48が形成できるため,境界に接合材7を介在させたとしても,挿入は比較的容易である。断面において両者の輪郭が同一形状の場合には,注入管4f,4sの先端部に円錐状のガイド面を形成し,ガイド面を利用し,嵌合孔33の壁3wを強制的に拡径変形させつつ,注入管4f,4sを嵌合孔33に圧入させることができる。この場合,流動性をもつ接合材7を境界に浸透させて固化させても良い。
【0042】
このような本実施形態によれば,図2に示すように,第1注入管4fの外壁面と第1嵌合部3fの内壁面との境界48において,隙間幅は周方向(矢印SP方向)においてほぼ均等とされている。すなわち,従来技術とは異なり,隙間幅が異形で大きい異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられている。同様に,第2注入管4sの外壁面と第2嵌合部3sの内壁面との境界48において,その隙間幅は周方向(矢印SP方向)においてほぼ均等とされている。従って従来技術とは異なり,隙間幅が異形状をなす異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられている。よって,注入管4f,4sの外壁面と嵌合部3f,3sの内壁面との境界48において,ろう付け不良等の接合不良が発生することが抑制される。同様に,ろう材等の接合材7が,嵌合孔33に直接的に連通する端通路12,13に過剰に流出することが抑えられる。この場合,流体通路10の一部である端通路12,13の流路断面積が部分的に変動することが抑制される。更に,流体通路10の一部である端通路12,13が部分的に閉塞するおそれが抑えられる。このような本実施形態によれば,注入管の嵌合壁面44と嵌合部3の被嵌合壁面34とは,両者との間に介在する接合材7(例えばろう材)の接合作用により互いに接合されている。接合材7は,ろう材が好ましいが,樹脂バインダ等の有機系バインダ,コロイダルシリカ等の無機系バインダでも良い。
【0043】
なお,基体1,注入管4f,4sの材質は特に限定されるものではないが,金属,または,伝熱性をもつ硬質樹脂で形成できる。基体1が押出成形で形成されること,加熱源510および冷却源520との伝熱性等を考慮すると,基体1の材質は金属が好ましい。金属は,アルミニウム,アルミニウム合金,マグネシウム,マグネシウム合金,チタン,チタン合金,鉄,鉄合金(ステンレス鋼を含む)等の塑性変形可能な公知の金属とすることができる。基体1は前述したように押出加工品を基礎として形成できるが,引抜加工品でも良い。場合によっては鋳物,溶接品などを用いて形成することもできる。鋳物の場合には,崩壊容易性または溶解容易性をもつ中子で流体通路10および嵌合孔33等を形成ことが好ましい。
【0044】
自励振動型ヒートパイプに関する一般的に技術情報(公益社団法人 日本冷凍空調学会)によれば,次のようなメカニズムが解析されている。すなわち,基体1の流体通路10に封入された作動媒体は,気相柱と液相柱が交互に存在する状態となる加熱領域51において,作動流体6の液相柱は,入熱された熱により昇温され,沸騰して気相柱(蒸気泡)を発生させると同時に圧力を上昇させる。一方,放熱領域52においては,冷却作用により気相柱(蒸気泡)の収縮または凝縮により蒸気圧力の降下と作動流体6の温度を低下させる。加熱領域51と放熱領域52との間の圧力差により圧力振動が自励的に発生する。流体通路10内に封入された気相柱と液相柱との作動流体6が,圧力振動により,圧力の高い加熱領域51から,圧力の低い放熱領域52へ移動する。この作動流体6の移動により,潜熱と顕熱の両方の熱の輸送が行われ,加熱領域51から放熱領域52に熱が輸送される。
【0045】
以上説明したように本実施形態によれば,注入管4f,4sの中心軸線PAに対して垂直な軸直角方向に沿った断面(図2)において,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。具体的には,同一または相似する輪郭形状とさされている。相似する形状とは,基準点を中心として輪郭形状を拡大または縮小する形状であることが好ましい。そして,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,これらの間に介在する接合材7で互いに接合されている。
【0046】
同様に,第2注入管4sの嵌合壁面44と第2嵌合部3sの被嵌合壁面34とは,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状(円形状)とされている。そして,第2注入管4sの嵌合壁面44と第2嵌合部3sの被嵌合壁面34とは,これらの間に介在する接合材7で互いに接合されている。従って,図2に示すように,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の変動が抑制されている。同様に,第2注入管4sの嵌合壁面44と第2嵌合部3sの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の変動が抑制されている。この結果,図2に示すように,第1注入管4fと第1嵌合部3fとの境界において,異形状で大きな隙間幅をもつ異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられる。同様に,第2注入管4sと第2嵌合部3sとの境界において,異形状隙間49の発生が抑えられる。
【0047】
このため,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34との境界48において接合材7による接合不良が発生することが抑制される。この場合,ろう材等の接合材7が流体通路10の端通路12,13に過剰に流出することが抑制される。このため,端通路12,13の流路断面積を部分的に変動させることが抑制される。同様に,ろう材等の接合材7が流体通路10を部分的に閉塞させるおそれが抑制される。従って注入管3f,3sの接合強度の高品質化に貢献できる。
【0048】
更に,注入管4f,4sの嵌合壁面44の断面形状,嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34の断面形状は,円形状であるため,嵌合孔33に挿入させた注入管4f,4sをこれの中心軸線PA回りで周方向に回動させ得ることも期待できる。この場合,境界48の隙間幅を小さくさせつつも,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34とのなじみ性を向上できる。更に,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34との間に介在する流動性をもつ接合材7を,注入管4f,4sの周方向に流動させて均一に分散化させ得る効果も期待でき,接合材7のムラを抑制でき,接合品質の向上に有利である。
【0049】
更に本実施形態によれば,前述したように,従来技術とは異なり,注入管3f,3sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34との間において異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられている。従って,嵌合部3f,3sに連通する流体通路10を構成する複数の主通路11において,気相柱および液相柱の軸方向振動の振動数,位相差に影響を与えることが抑えられる。自励振動ヒートパイプの一層の高品質化を期待できる。
【0050】
(実施形態2)
図3〜図6は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成,作用および効果を有するため,図1および図2を準用できる。製造初期の基体1は,塑性変形可能な金属の素材を矢印Y方向に押し出す押出成形品で形成されている。基体1は,作動流体6を収容可能な流体通路10と,流体通路10の延設方向(矢印Y方向)の端部に設けられ内壁面または外壁面で形成された被嵌合壁面34をもつ嵌合部3とを有する。製造初期の基体1は押出成形品で有るため,矢印Y方向のどの位置で切断したとしても,各断面は同一形状である。
【0051】
図3から理解できるように,流体通路10を構成する主通路11は,断面円形状をなす第1端通路12および第2端通路13と,第1端通路12と第2端通路13との間に位置する断面四角形状をなす複数の中間通路14とを有する。中間通路14が断面四角形状であるため,基体1の小型化が図られつつ,中間通路14の流路断面積が増加される。中間通路14は薄肉状の中間仕切壁20で区画されている。第1端通路12と中間通路14は第1端仕切壁21で区画されている。第2端通路13と中間通路14は第2端仕切壁22で区画されている。第1端通路12の矢印Y方向の端部は第1嵌合部3fとされる。第2端通路13の矢印Y方向の端部は第2嵌合部3sとされる。
【0052】
次に,図4に示すように,中間仕切壁20の矢印Y方向の一端を部分的に切除加工することにより,第1連通路16を形成する。同様に,中間仕切壁20の矢印Y方向の他端を部分的に切除加工することにより,第2連通路17を形成する。この切除加工は,中間仕切壁20を構成する材料を部分的に切除できるものであれば,何でも良く,型またはワイヤ等を用いる放電加工により切り取る加工,あるいは,熱源(例えばアーク放電,レーザビーム,電子ビーム等の高エネルギ加工)を利用して溶融または蒸発により除去する加工,あるいは,機械的に切断する加工などを必要に応じて選択できる。
【0053】
図4に示すように,第1嵌合部3fの嵌合孔33には,円パイプ形状の第1注入管4fの挿入端部が,挿入操作によりろう材等の接合材7を介して矢印YA方向に相対的に挿入される。第2嵌合部3sの嵌合孔33には,円パイプ形状の第2注入管4sの挿入端部が,挿入操作によりろう材等の接合材7を介して矢印YA方向に相対的に挿入される。なお,切除加工後に挿入操作することにしても良い。挿入操作後に切除加工することにしても良い。
【0054】
その後,図5および図6に示すように,注入管4f,4sが組み付けられている金属製の基体1の矢印Y方向の一端1eおよび他端1fを,圧潰治具,プレス型等の圧潰手段を用いて強圧させ,塑性変形により圧潰させることにより閉鎖させる。これにより一端1eおよび他端1fに閉鎖端19を形成させる。この場合,第1連通路16および第2連通路17は,作動流体が移動できるように,圧潰されないようにすることが好ましい(図6参照)。このように圧潰(閉鎖端19の形成)は,注入管4f,4sを基体1に組み付けた後に行うことが好ましい。従って注入管4f,4sは剛性をもつことが好ましい。
【0055】
本実施形態においても,実施形態1と同様に,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,互いに対応する形状,具体的には,同一の円形状または相似する円形状とされている。従って,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状,具体的には同一または相似する輪郭形状とされている。そして,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,これらの間に介在する接合材7で互いに接合されている。同様に,第2注入管4sと第2嵌合部3sとの関係についても同様である。
【0056】
従って,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,両者の境界4においての隙間幅の変動が抑制されている。同様に,第2注入管4sの嵌合壁面44と第2嵌合部3sの被嵌合壁面34とは,両者の境界48において隙間幅の変動が抑制されている。この結果,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの嵌合孔33の被嵌合壁面34との境界48において,大きな隙間幅をもつ異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられる。図5に示すように,基体1の加熱領域51および放熱領域52は平坦状とされている。故に,加熱源を加熱領域51に組み付けること,冷却源を放熱領域52に組み付けることが容易とされる。
【0057】
(実施形態3)
図7は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1,2と基本的には同様の構成,作用および効果を有するため,図1を準用できる。図7に示すように,基体1に形成されている流体通路10の端に位置する第1端通路12および第2端通路13は,断面で円形状とされている。更に,流体通路10を構成する複数の中間通路14は,断面で円形状とされている。この場合,基体1において,中間通路14を形成する壁部15の外壁面15pも,中間通路14の内周壁面14iの円弧と相似する円弧状の壁面を部分的に有する波形状とされている。この場合,基体1を押し出し成形で形成させる場合,押出荷重の均一化に有利であり,押出成形品の製造を良好にできる。なお,中間通路14の内径をDm(図示せず)とし,第1端通路12の内径をD1(図示せず)とし,第1端通路12の内径をD2(図示せず)とするとき,Dm/D1の値,Dm/D2の値を近づければ,押出における成形荷重の均一化等に有利である。
【0058】
本実施形態によれば,前述したように,中間通路14を形成する壁部15の外壁面15pも,中間通路14を形成する内周壁面14iとほぼ同一またはほぼ相似する曲率を有する円弧壁面を有する波形状(図7参照)とされている。この場合,基体1の加熱領域51および放熱領域52の伝熱面積が増加する。故に,加熱領域51における加熱効率,放熱領域52における放熱効率を高めるのに貢献でき,自励振動ヒートパイプにおける単位時間あたりの伝熱熱量の増加に有利である。
【0059】
本実施形態においても,図7に示すように,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの嵌合孔33の被嵌合壁面34とは,断面で互いに同一または相似する円形状とされており,即ち,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。そして,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの嵌合孔33の被嵌合壁面34とは,これらの間に介在する接合材7で互いに接合されている。同様に,第2注入管4sと第2嵌合部3sの嵌合孔33との関係についても同様である。従って,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の変動が抑制されている。この結果,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34との間において,大きな隙間幅をもつ異形状隙間49の発生が抑えられる。
【0060】
(実施形態4)
図8は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1〜3と基本的には同様の構成,作用および効果を有するため,図1を準用できる。図8に示すように,基体1に形成されている流体通路10を構成する第1端通路12および第2端通路13は,断面で円形状とされている。更に,流体通路10の複数の中間通路14は,断面で四角形状とされており,互いに対向する辺14aと,辺14aに隣接しつつ互いに対向する辺14cとを有する。この場合,基体1において,中間通路14を形成する壁部15の外壁面15pは平滑面とされている。この場合,基体1の加熱領域51に加熱源510を接触または接近させて配置させ易い。放熱領域52に冷却源520を配置させる場合においても,放熱領域52に冷却源520を接触または接近させて配置させ易い。故に,加熱領域51における加熱効率,放熱領域52における放熱効率を高めるのに貢献できる。
【0061】
図8に示す実施形態によれば,嵌合部3f,3sはこれの径方向において拡管されている。拡管された第1嵌合部3fの嵌合孔33(断面円形)に,円パイプ状の第1注入管4fが挿入されている。拡管された第2嵌合部3sの嵌合孔33(断面円形)に,円パイプ状の第2注入管4sが挿入されている。
【0062】
本実施形態においても,図8に示すように,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,互いに同一または相似する円形状とされており,すなわち,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。そして,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,これらの間に介在する接合材7で互いに接合されている。同様に,第2注入管4sと第2嵌合部3sとの関係についても同様である。従って,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の周方向における変動が抑制されている。この結果,注入管4f,4sと嵌合部3f,3sとの境界48において,異形で大きな隙間幅をもつ異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられる。
【0063】
(実施形態5)
図9は実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1〜4と基本的には同様の構成,作用および効果を有し,図8を準用できる。図9は,第1注入管4fの中心軸線PA(端通路12の中心軸線も兼用)を通過するように中心軸線PAに沿った断面を示す。図9に示すように,第1嵌合部3fのうち第2嵌合部3sと反対側の壁部3wtは,これの径外方向(矢印D1方向)において拡管されている。第2嵌合部3sのうち第1嵌合部3fと反対側の壁部3wtは,これの径外方向(矢印D2方向)において拡管されている。拡管は,例えば,嵌合部3f,3sに挿入させた治具を外径方向に変位させることにより行い得る。
【0064】
図9に示すように,第1注入管4fおよび第2注入管4sは,それぞれ嵌合孔33にΔL1で進入している。注入管4f,4sのそれぞれの流路断面積をSAとする。端通路12,13のそれぞれの流路断面積をSBとする。SAはSBに同一または接近されていることが好ましい。すなわち,SA/SBの値は0.7〜1.3の範囲内にでき,更に0.8〜1.2の範囲内,0.9〜1.1の範囲内にでき,0.95〜1.05の範囲内にできる。この場合,肉厚t3をもつ注入管4f,4sが嵌合されているため,第1端通路12が延設されている方向において流路断面積の変動が,本来的には発生する。第2端通路13についても同様である。
【0065】
しかしながら端通路12,13自体は拡管されないものの,嵌合部3f,3sが拡管されている。このため,第1端通路12および第1注入管4fの流路断面積は,矢印Y方向(熱輸送方向)において同一または近似値にできる。同様に,第2端通路13および第2注入管4sの流路断面積は,矢印Y方向(熱輸送方向)において同一または近似値にできる。なお,注入管4f,4sの肉厚は,基本的には,これの長さ方向において同じとされている。
【0066】
このように本実施形態によれば,肉厚t3を有する注入管4f,4sが挿入されているにも拘わらず,端通路12,13が延設されている矢印Y方向において,流路断面積の過剰な変動が抑制されている。よって,熱輸送の際において,端通路12における気相柱および液相柱が軸方向振動するとき,気相柱および液相柱の流動乱れが抑制され,矢印Y方向における気相柱および液相柱の円滑な流動が確保される。この場合,気相柱および液相柱の軸方向振動が良好となることが期待される。端通路13についても同様である。
【0067】
このような本実施形態によれば,自励振動ヒートパイプが作動するとき,嵌合部3f,3sに連通する端通路12,13における軸方向振動の振動数を,中間通路14における軸方向振動の振動数に容易に適合させ得ることが期待される。この場合,流体通路10を構成する通路12,13,14における作動流体6の振動の位相差に微妙に影響を与えることが抑制される。この場合,自励振動ヒートパイプの一層の性能向上が期待される。
【0068】
(実施形態6)
図10は実施形態6を示す。本実施形態は前記した各実施形態と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。図10に示すように,基体1のうち矢印Y方向の一端1e側には,第1嵌合部3fおよび第2嵌合部3sが互いに対向するように形成されている。第1嵌合部3fと第2嵌合部3sの間には,基体1の材料を切除した凹状空間57が形成されている。基体1のうち矢印Y方向の一端1e側の閉鎖端19に対して,第1嵌合部3fおよび第2嵌合部3sは,閉鎖端19から遠ざかるように突設されている。このように凹状空間57が形成されているため,嵌合部3f,3sの全周には空間が形成されている。このため,基体1のうち嵌合部3f,3sの壁部3wを径外方向にそれぞれ拡管できるため,嵌合部3f,3sに嵌合される注入管4f,4sの径サイズを増加できる。この場合,嵌合部3f,3sの壁部3wをこれの全周にわたりほぼ均一に拡管させるのに有利となる。この場合,凹状空間57は拡管作業を実施させ易くでき,拡管加工後の壁部3wの偏肉を抑制できる。
【0069】
図10に示すように,第1注入管4fおよび第2注入管4sは,嵌合孔33にΔL1で進入している。注入管4f,4sは肉厚t3を有するものの,注入管4f,4sの流路断面積をSAとし,端通路12,13の流路断面積をSBとすると,SAをSBに同一または接近させることができる。具体的には,SA/SBの値は0.7〜1.3の範囲内にでき,更に0.8〜1.2の範囲内,0.9〜1.1の範囲内にでき,0.95〜1.05の範囲内にできる。作動流体の円滑な流れを考慮すると,図10に示すように,端通路12の内壁面12kの延長線上に,できるだけ,注入管4fの内壁面4kが位置することが好ましい。換言すると,端通路12の内壁面12kと注入管4fの内壁面4kとは,できるだけ,同一高さの面で形成されていることが好ましい。端通路12の内壁面12kと注入管4fの内壁面4kとの境界域には段差が存在しないか,無い方が好ましい。従って,端通路12の中心軸線と注入管4fの中心軸線とが同芯であることが好ましい。端通路13の内壁面13kと注入管4fの内壁面4kとの関係についても,同様である。
【0070】
このような本実施形態によれば,肉厚t3を有する注入管4f,4sが挿入されているにも拘わらず,矢印Y方向において端通路12,13および注入管4f,4sの界面における流路断面積の過剰な変動が抑制されている。故に,第1端通路12における気相柱および液相柱の流動乱れが抑制される。よって矢印Y方向における気相柱および液相柱の円滑な流動および振動が確保される。この場合,気相柱および液相柱の軸方向振動が良好となることが期待される。第2端通路13についても同様である。このような本実施形態によれば,嵌合部3f,3sに連通する端通路12,13における軸方向振動の振動数を,中間通路14における軸方向振動の振動数に容易に適合させ得ることが期待される。この場合,流体通路10を構成する通路12,13,14における作動流体6の振動の位相差に微妙に影響を与えることが抑制される。この場合,自励振動ヒートパイプの一層の性能向上が期待できる。
【0071】
(実施形態7)
図11〜図16は実施形態7を示す。本実施形態は前記した実施形態1〜6と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。図11は製造初期の基体1を示す。基体1は,金属の素材を矢印Y方向に押し出す押出成形品で形成されており,矢印Y方向(熱輸送方向)においてどの位置で切断しても,同一の横断面形状を示す。図11に示すように,製造初期の基体1は,作動流体を収容可能な流体通路10と,流体通路10の延設方向(矢印Y方向,熱輸送方向)の端部に設けられ被嵌合壁面34を備える円孔状の嵌合孔33をもつ嵌合部3とを有する。図11に示すように,流体通路10は,矢印X方向の両端に位置する横断面で円形状をなす第1端通路12および第2端通路13と,第1端通路12と第2端通路13との間に位置する横断面で四角形状をなす複数の中間通路14とを有する。なお,中間通路14の数は図11に示す形態に限定されない。
【0072】
図11に示すように,複数の中間通路14は中間仕切壁20で仕切られている。第1端通路12と中間通路14は第1端仕切壁21で仕切られている。第2端通路13と中間通路14は第2端仕切壁22で仕切られている。第1端通路12の矢印Y方向の端部は,嵌合孔33をもつ第1嵌合部3fとされる。第1嵌合部3fの嵌合孔33は,第1端通路12と直状に連通しており,第1端通路12に対して同一の断面形状をもち,同一の断面積をもつ。第2端通路13の矢印Y方向の端部は,嵌合孔33をもつ第2嵌合部3sとされる。第2嵌合部3sの嵌合孔33は,第2端通路13と直状に連通しており,第2端通路13に対して同一の断面形状をもち,同一の断面積をもつ。
【0073】
次に,図12に示すように,切除加工により,基体1のうち矢印Y方向の一端1e側の材料を切除し,凹状空間57となる主切除部1rを形成する。この場合,主切除部1rは,直線的で平坦状の残留面1s,1t,1uで区画される。残留面1s,1t,1uは,機械加工(例えば,ワイヤ等を用いた放電加工または機械加工)により残留面1s,1t,1uを効率的に切除させ易い。第1残留面1sにより,第1嵌合部3fが露出する。第2残留面1tにより,第2嵌合部3sが露出する。更に,第3残留面1uにより,中間通路14が露出する。
【0074】
その後,中間通路14を仕切る中間仕切壁20の端を部分的に副切除加工することにより,第1連通路16を形成する(図13参照)。同様に,第2連通路17(図示せず,図1参照)も切除により形成する。主切除加工および副切除加工は,基体1を構成する材料を切除できるものであれば,何でも良い。この切除加工は,放電加工により切り取る加工,あるいは,熱源(例えばアーク放電,レーザビーム,電子ビーム)を利用して溶融または蒸発により除去する加工,あるいは,機械的に切断する加工などの公知の加工手段を必要に応じて選択される。
【0075】
次に,第1嵌合部3fおよび第2嵌合部3sの嵌合孔33のそれぞれに,径外方向に変位可能な図略の公知の拡径治具を挿入させる。拡径治具は,図示しないものの,これの周方向に沿って配置された分割体をもつ。その後,拡径治具の分割体を流体圧または機械的力により径外方向に拡大させる。これにより図13に示すように,第1嵌合部3fの壁3wおよび第2嵌合部3sの壁部3wを塑性変形させ,これの径外方向に拡管加工させてパイプ形状させる。図12に示すように,主切除部1rは,嵌合部3f,3sの間に凹状空間57を形成する。凹状空間57が設けられているため,嵌合部3f,3sの壁部3wがこれの全周にわたり均一に拡管され易く,拡管の際の偏肉が低減される。
【0076】
次に,図14および図15に示すように,第1注入管4fの挿入端部の外壁面にろう材等の接合材7を配置した状態で,第1注入管4fを第1嵌合部3fの嵌合孔33に挿入操作させる。同様に,第2注入管4sの挿入端部の外壁面にろう材等の接合材7を配置した状態で,第2注入管4sを第2嵌合部3sの嵌合孔33に挿入操作させる。その後,ろう材等の接合材7を融解させるように加熱させた後に,接合材7を冷却固化させる。この結果,第1嵌合部3fの嵌合孔33には,第1注入管4fの挿入端部がろう材等の接合材7を介して接合される。第2嵌合部3sの嵌合孔33には,第2注入管4sの挿入端部がろう材等の接合材7を介して接合される。
【0077】
本実施形態によれば,注入管4f,4sの嵌合壁面44の断面形状,嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34の断面形状は,円形状であるため,嵌合孔33に挿入させた注入管4f,4sをこれの中心軸線PA回りで周方向に回動させ得ることも期待できる。この場合,境界48の隙間幅を小さくさせつつも,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34とのなじみ性を向上できる。更に,注入管4f,4sの嵌合壁面44と嵌合部3f,3sの被嵌合壁面34との間に介在する流動性をもつ接合材7を,注入管4f,4sの周方向に流動させて均一に分散化させ得る効果も期待でき,接合材7のムラを抑制でき,接合品質の向上に有利である。その後,図16に示すように,基体1の矢印Y方向(熱輸送方向)の一端1eおよび他端1fを,圧潰治具,プレス型等の圧潰手段を用いて塑性変形させて圧潰加工させる。これにより一端1e,他端1fを閉鎖させて閉鎖端19を形成させる。なお,第1連通路16および第2連通路17は,圧潰されないようにすることが好ましい。
【0078】
本実施形態においても,前記した各実施形態と同様に,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,断面で同一または相似する円形状であり,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされている。そして,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,これらの間に介在する接合材7で互いに接合されている。同様に,第2注入管4sと第2嵌合部3sとの関係についても同様である。従って,第1注入管4fの嵌合壁面44と第1嵌合部3fの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の周方向における変動が抑制されている。第2注入管4sの嵌合壁面44と第2嵌合部3sの被嵌合壁面34とは,両者の境界48の隙間幅の周方向における変動が抑制されている。この結果,第1注入管4fの外壁面と第1嵌合部3fの内壁面との間において,異形状隙間49(図22参照)の発生が抑えられる。
【0079】
(実施形態8)
図17は実施形態8を示す。本実施形態は前記した実施形態7と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。本実施形態によれば,主切除加工後には,嵌合部3fを形成する第1残留面1sは,第1嵌合部3fの円形状の被嵌合壁面34に対してほぼ相似する円弧で形成されている。従って拡管前の第1嵌合部3fの壁部3wは,中心軸線PA回りの円筒形状とされている。第2残留面1tは,第2嵌合部3sの被嵌合壁面34に対してほぼ相似する円弧で形成されている。従って拡管前の第2嵌合部3sの壁部3wは円筒形状とされている。主切除加工により,第1嵌合部3f及び第2嵌合部3sの間には,凹状空間57が形成される。この場合,第1嵌合部3f及び第2嵌合部3sがそれぞれ拡管されるとき,拡管は,第1嵌合部3fおよび第2嵌合部3sの壁部3wの全周にわたり均一に実行され易く,拡管の高品質化が図られる。拡管後には,嵌合部3f,3wの壁部3wの端3eは,壁部15の平坦状の外壁面15pよりも基体1の肉厚方向(矢印T方向)に突出する。本実施形態は図10を準用できる。
【0080】
(実施形態9)
図18は実施形態9を示す。本実施形態は前記した実施形態7,8と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。本実施形態によれば,主切除加工により,第1嵌合部3f及び第2嵌合部3sの間に凹状空間57が形成される。主切除加工で形成された第1残留面1sは,第1嵌合部3fの断面円形状の被嵌合壁面34に対してほぼ相似する円弧で形成されている。従って第1嵌合部3fの壁部3wは円筒形状とされている。同様に,主切除加工で形成された第2残留面1tは,第2嵌合部3sの断面円形状の被嵌合壁面34に対してほぼ相似する円弧で形成されている。従って第2嵌合部3sの壁部3wは円筒形状とされている。
【0081】
主切除加工後に,第1嵌合部3fおよび第2嵌合部3sをこれらの径外方向に拡管させる。第1嵌合部3f及び第2嵌合部3sの間に凹状空間57が形成されているため,嵌合部3f,3sの壁部3wの拡管をこれらの全周にわたり均一にさせ易い利点が得られる。
【0082】
更に,拡管前には,嵌合部3f,3wの壁部3wの端3eは,壁部15の外壁面15pよりも基体1の肉厚方向(矢印T方向)に突出する。このため,拡管により,第1嵌合部3fの壁部3wの壁面の端3e,第2嵌合部3sの壁部3wの端3eは,基体1のうち中間通路14を形成する外壁面よりも外方(基体1の肉厚方向)に更に突出する。この場合,注入管4f,4sの径サイズを増加させ易い利点が挙げられる。本実施形態は図10を準用できる。
【0083】
(実施形態10)
図19は実施形態10を示す。本実施形態は前記した各実施形態と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。本実施形態によれば,嵌合部3f,3sは拡管加工ではなく,径方向において縮管加工された絞り管とされている。この場合には,嵌合部3が縮径されるとき,材料が嵌合部3の長さ方向において中心軸線PAに沿って伸びるため,縮径前に比較して嵌合部3(3f,3s)の軸長寸法が伸びる。このため縮径前に比較して嵌合部3の軸長寸法が短目でも良い。この場合,嵌合部3の軸長寸法が伸びるため,主切除部1r(図12参照)の切除量を低減させるのに有利である。
【0084】
本実施形態においても,注入管4fの内壁面である嵌合壁面44と,嵌合部3fの外壁面である被嵌合壁面34とは,互いに対応する形状とされており,具体的には同一または相似する円形状とされている。注入管4sの場合も同様である。したがって境界において異形状で隙間幅が大きい異形状隙間が形成されない。
【0085】
(実施形態11)
図20は実施形態11を示す。本実施形態は前記した各実施形態と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。本実施形態によれば,嵌合部3f,3sは拡管加工も縮管加工もされていない。押出品で形成された基体1の矢印Y方向の一端1e側では切除加工により主切除部1r(凹状空間57)が切除されている。この結果,一端1e側において,パイプ形状の嵌合部3f,3sが互いに対向するように形成されている。注入管4f,4sは,内側に挿入ストッパも兼ねるリング状の段部47をもつ。段部47は嵌合部3f,4sの先端部にあてがわれつつ,嵌合部3f,3sに注入管4f,4sが挿入され,接合材7で接合されている。注入管4fの内壁面である嵌合壁面44と,嵌合部3fの外壁面である被嵌合壁面34とは,互いに対応する形状とされており,具体的には同一または相似する円形状とされている。注入管4sの場合も同様である。したがって境界48において異形状で隙間幅が大きい異形状隙間が形成されない。なお,注入管4f,4sの中心軸線と端通路12,13の中心軸線とは同芯であり,偏芯していないことが好ましい。
【0086】
図20に示すように,注入管4f,4sは嵌合部3f,3sの外側にΔL4で進入している。注入管4f,4sの流路断面積をそれぞれSAとし,端通路12,13の流路断面積をそれぞれSBとすると,注入管4f,4sは肉厚t3をもつものの,SAをSBに同一または接近させることができる。SA/SBの値は0.7〜1.3の範囲内にでき,更に0.8〜1.2の範囲内,0.9〜1.1の範囲内にでき,0.95〜1.05の範囲内にできる。作動流体の円滑な流れを考慮すると,図20に示すように,端通路12の内壁面12kの延長線上に,注入管4fの内壁面4kが位置することが好ましい。換言すると,端通路12の内壁面12kと注入管4fの内壁面4kとは,同一高さの面で形成されていることが好ましい。端通路13の内壁面13kについても同様である。
【0087】
このような本実施形態によれば,直状に連通する端通路12および注入管4fにおいて流路断面積の過剰な変動が抑制されている。故に,第1端通路12および注入管4fにおける,気相柱および液相柱の流動乱れが抑制される。よって矢印Y方向における気相柱および液相柱の円滑な流動および振動が確保される。この場合,気相柱および液相柱の軸方向振動が良好となることが期待される。第2端通路13についても同様である。
【0088】
このような本実施形態によれば,嵌合部3f,3sに連通する端通路12,13における軸方向振動の振動数を,中間通路14における軸方向振動の振動数に適合させるのに有利となることが期待される。流体通路10を構成する通路12,13,14における作動流体6の振動数を互いに適合させ易い。更に,流体通路10を構成する通路12,13,14における作動流体6の振動の位相差に影響を与えることが抑えられる。
【0089】
(実施形態12)
図21は実施形態12を示す。本実施形態は前記した各実施形態と基本的には同様の構成,作用および効果を有する。本実施形態によれば,嵌合部3f,3sは拡管加工も縮管加工もされていない。押出成形品で形成された基体1の矢印Y方向の一端1e側において,嵌合部3f,3sに嵌合孔33が形成されている。押出成形品のとき,嵌合孔33の内径は端通路12の内径D5と同径とされている。しかし押出成形後の切削等の加工により,嵌合孔33の内径D4は,端通路12の内径D5よりも大きく設定されている。注入管4f,4sは,嵌合部3f,3sのリング状の段部47uにまで挿入される。このように嵌合部3f,4sの嵌合孔33の内側に注入管4f,4sが挿入され,接合材7で接合されている。注入管4fの外壁面である嵌合壁面44と,嵌合部3fの内壁面である被嵌合壁面34とは,互いに同一または相似する円形状とされている。注入管4sの場合も同様である。したがって境界48において異形状で隙間幅が大きい異形状隙間が形成されない。
【0090】
図21に示すように,注入管4f,4sは嵌合部3f,3sの外側にΔL4で進入している。作動流体の円滑な流れを考慮すると,図21に示すように,端通路12の内壁面12kの延長線上に,注入管4fの内壁面4kが位置することが好ましい。端通路13の内壁面13kについても同様である。このような本実施形態によれば,直状に連通する端通路12および注入管4fの界面において流路断面積の過剰な変動が抑制されている。故に,第1端通路12および注入管4fにおける,気相柱および液相柱の流動乱れが抑制される。よって矢印Y方向における気相柱および液相柱の円滑な流動および振動が確保される。この場合,気相柱および液相柱の軸方向振動が良好となることが期待される。第2端通路13についても同様である。
【0091】
(その他)
実施形態1によれば,注入管4f,4sは接続通路65で接続され,流体通路10および接続通路65はエンドレス状とされているが,これに限らず,注入管4f,4sは閉鎖端をもち,接続通路65を廃止した自励振動ヒートパイプでも良い。注入管4f,4sは基体1の一端1e側に設けられているが,これに限らず,基体1の他端1f側に設けられていても良い。流体通路10の主通路11を構成する中間通路14の数は特に限定されず,7個,10個,15個,それ以上でも良い。中間通路14の断面形状は四角形状,円形状,六角形状等の多角形状でも良い。端通路12,13の断面形状は円形状,四角形状のいずれでも良い。基体1の一端1eは重力方向の下側,基体1の他端1fは上側でも良い。基体1は水平線に対して傾斜していても良い。場合によって,熱輸送できる限り,基体1は水平方向に沿っていても良い。
【0092】
作動流体の円滑な流れを考慮すると,図20に示すように,端通路12の内壁面12kの延長線上に,注入管4fの内壁面4kが位置することが好ましい。但し,これに限定されるものではなく,端通路12の内壁面12kと注入管4fの内壁面4kとは,異なる高さの面で形成されていても良い。端通路13についても同様である。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく,要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。本明細書から次の技術的思想も把握できる。
【0093】
[付記項1]熱輸送方向において熱輸送を行うための作動流体が収容される基体と前記基体に挿入された注入管とをもつ自励振動ヒートパイプであって,前記基体は,前記熱輸送方向において一端側から他端側にかけて延設され且つ作動流体を収容する流体通路と,前記流体通路の延設方向の端部に設けられ内壁面または外壁面で形成された被嵌合壁面をもつ嵌合部と,前記流体通路が延びる一端側に設けられ加熱源から加熱される加熱領域と,前記流体通路が延びる他端側に設けられ外部に放熱させる放熱領域とを備えており,
前記注入管は,前記基体の前記嵌合部に嵌合した状態で前記基体に保持され,前記嵌合部の前記被嵌合壁面に対面しつつ嵌合する外壁面または内壁面で形成された嵌合壁面を備えており,前記注入管の中心軸線に沿った断面(図10)において,流体通路(嵌合部に連通する端通路)から注入管にかけて流路断面積の変動が抑制されている自励振動ヒートパイプ。作動流体の気相および液相の軸方向振動時において,作動流体の流動乱れが抑制され,作動流体が目標どおり軸方向振動できる。注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,嵌合部はこれの径外方向に拡管加工されていることが好ましい。
【0094】
[付記項2]熱輸送方向において熱輸送を行うための作動流体が収容される基体と前記基体に挿入された注入管とをもつ自励振動ヒートパイプであって,前記基体は,前記熱輸送方向において一端側から他端側にかけて延設され且つ作動流体を収容する流体通路と,前記流体通路の延設方向の端部に設けられ内壁面または外壁面で形成された被嵌合壁面をもつ嵌合部と,前記流体通路が延びる一端側に設けられ加熱源から加熱される加熱領域と,前記流体通路が延びる他端側に設けられ外部に放熱させる放熱領域とを備えており,
前記注入管は,前記基体の前記嵌合部に嵌合した状態で前記基体に保持され,前記嵌合部の前記被嵌合壁面に対面しつつ嵌合する外壁面または内壁面で形成された嵌合壁面を備えている自励振動ヒートパイプ。注入管により作動流体を流体通路に注入させ易い。
【符号の説明】
【0095】
1は基体,1rは主切除部,10は流体通路,11は主通路,12,13は端通路,14は中間通路,16は第1連通路,17は第2連通路,19は閉鎖端,20は中間仕切壁,21,22は端仕切壁,3は嵌合部,33は嵌合孔,34は被嵌合壁面,3wは壁部,4は注入管,4fは第1注入管,4sは第2注入管,44は嵌合壁面,48は境界隙間,49は異形状隙間,51は加熱領域,52は放熱領域,510は加熱源,520は冷却源,57は凹状空間,7は接合材を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輸送方向において熱輸送を行うための作動流体が収容される基体と前記基体に挿入された注入管とをもつ自励振動ヒートパイプであって,
前記基体は,前記熱輸送方向において一端側から他端側にかけて延設され且つ作動流体を収容する流体通路と,前記流体通路の延設方向の端部に設けられ内壁面または外壁面で形成された被嵌合壁面をもつ嵌合部と,前記流体通路が延びる一端側に設けられ加熱源から加熱される加熱領域と,前記流体通路が延びる他端側に設けられ外部に放熱させる放熱領域とを備えており,
前記注入管は,前記基体の前記嵌合部に嵌合した状態で前記基体に保持され,前記嵌合部の前記被嵌合壁面に対面しつつ嵌合する外壁面または内壁面で形成された嵌合壁面を備えており,
前記注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,
前記注入管の嵌合壁面と前記嵌合部の被嵌合壁面とは,両者の境界の隙間幅の変動を抑制させるように,互いに向き合うと共に相手側の輪郭形状と対応する輪郭形状とされており,前記注入管の前記嵌合壁面と前記嵌合部の前記被嵌合壁面とは互いに接合されている自励振動ヒートパイプ。
【請求項2】
請求項1において,前記注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,前記注入管の前記嵌合壁面と前記嵌合部の前記被嵌合壁面とは,互いに対応する円形状または角形状である自励振動ヒートパイプ。
【請求項3】
請求項1または2において,前記注入管の中心軸線に対して垂直な軸直角方向に沿った断面において,前記嵌合部はこれの径外方向に拡管加工されている自励振動ヒートパイプ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において,前記基体の前記嵌合部には,前記嵌合部をこれの径外方向に拡管できる凹状空間が隣接している自励振動ヒートパイプ。
【請求項5】
請求項1〜3のうちの一項において,前記基体の前記嵌合部は,前記流体通路の延設方向の一端側または他端側に設けられた第1嵌合部と,前記流体通路の延設方向の一端側および他端側のうち前記第1嵌合部と同じ側に前記第1嵌合部に対向するように設けられた第2嵌合部とで形成されており,
前記注入管は,前記第1嵌合部に嵌合された第1注入管と前記第2嵌合部に嵌合され且つ前記第1注入管に対向する第2注入管とで形成されており,
前記第1嵌合部と前記第2嵌合部の間には凹状空間が前記基体に対面するように形成されている自励振動ヒートパイプ。
【請求項6】
作動流体を収容可能な流体通路を有する基体を用意する工程と,前記基体の材料部分を前記基体から除去することにより,前記流体通路の延設方向の端部において被嵌合壁面をもつ突起状の嵌合部を形成する除去工程と,前記嵌合部の壁部をこれの径方向において拡管させる拡管工程と,拡管された前記嵌合部の内側または外側に注入管を挿入させて固定する挿入工程とを順に実施する自励振動ヒートパイプ用基体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−68380(P2013−68380A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208504(P2011−208504)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)