説明

自動ねじ締め機

【課題】高速低トルク駆動および低速高トルク駆動によるねじ締めを1つのモータで実現し、かつ高速、高精度にねじを締め付けることが可能な自動ねじ締め機を提供する。
【解決手段】回転駆動源3に直結して高速低トルク駆動を出力軸9へ伝達する高速低トルク伝達系と、回転駆動源3に減速手段11を介して低速高トルク駆動を出力軸9へ伝達する低速高トルク伝達系と、仮締め段階では高速低トルク伝達系により回転駆動を出力軸9へ伝達する一方、本締め段階では低速高トルク伝達系により回転駆動を出力軸9へ伝達するようこれら伝達系を出力軸9に作用する回転負荷に応じて切り替えるクラッチ手段7,11と、仮締め段階では回転駆動源3を高速回転する一方、本締め段階前段では回転駆動源3を仮締め段階よりも低速、かつ本締め段階後段よりも高速で回転させるよう制御する制御ユニットとを備える自動ねじ締め機による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ部品を高速低トルクで仮締めした後、低速高トルクで本締めを行う自動ねじ締め機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上記技術分野に属するねじ締め機としては、特許文献1に示すものがある。このねじ締め機は、高速低トルク用モータと、低速高トルク用モータとを備えており、仮締め段階では、高速低トルク用モータの駆動がドライバビットへ伝達される。そして、ねじ部品が着座してその衝撃トルクが検出されると、低速高トルク用モータの駆動に切り替わり、本締め段階へと移行してねじ締めが完了する。このねじ締め機によれば、ねじ締め時間は短縮されるものの、モータを2個備える構成のため、装置が大型になるばかりか、コスト面においても問題があった。
【0003】
そこで、上記問題を解決する従来のねじ締め機としては、特許文献2に示すものがある。このねじ締め機に用いるモータは、高速低トルク駆動および低速高トルク駆動が可能であり、かつ正逆転駆動が可能である。また、このねじ締め機の駆動伝達機構としては、入力が減速機を介して出力される駆動経路と、入力が減速機を介させずに出力される駆動経路との2系統で構成されている。そして、伝達経路上に複数の一方向クラッチを配置することにより、モータの正転時には出力が減速機を介さずに高速低トルクが出力される一方、モータの逆転時には出力が減速機を介して低速高トルク駆動が伝達されるように構成されている。この構成により、モータが1個の構成でありながらも、高速低トルクによる仮締めと、低速高トルクによる本締めとを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−006560号公報
【特許文献2】特開2008−114303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に示すねじ締め機では、ワンウェイクラッチ用いて、かつモータの正逆転駆動により、高速低トルク駆動および高速低トルク駆動を切り替えている。このため、ねじ締め完了時、出力軸を逆転させることができず、ドライバビットとねじ部品との食付きを解除することができない。また、本締め段階では、回転数を上げると締め付け精度が悪化するため、回転数を上げることができず、締め付け完了までに要する時間が長くなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動ねじ締め機は、上記課題に鑑みて構成されたものであり、回転駆動源に直結して高速低トルク駆動を出力軸へ伝達する高速低トルク伝達系と、回転駆動源に減速手段を介して低速高トルク駆動を出力軸へ伝達する低速高トルク伝達系と、仮締め段階では高速低トルク伝達系により回転駆動を出力軸へ伝達する一方、本締め段階では低速高トルク伝達系により回転駆動を出力軸へ伝達するようこれら伝達系を出力軸に作用する回転負荷に応じて切り替えるクラッチ手段と、仮締め段階では回転駆動源を高速回転する一方、本締め段階前段では回転駆動源を仮締め段階よりも低速、かつ本締め段階後段よりも高速で回転させるよう制御する制御ユニットとを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動ねじ締め機においては、ワンウェイクラッチを用いることなく、出力軸に作用する回転負荷に応じてクラッチ手段を作動させて高速低トルク伝達系と低速高トルク伝達系による回転駆動を切り替えている。これにより、本締め完了時に出力軸を逆転させる動作が可能となるから、ねじの食い付きを解除することができる。そればかりか、本締め段階前段において、本締め段階後段よりも高速回転させる制御により、ねじ締め完了までに要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の自動ねじ締め機を示す断面図である。
【図2】高速低トルク伝達系に薄塗りを施した図である。
【図3】低速高トルク伝達系に薄塗りを施した図である。
【図4】本発明の自動ねじ締め機の駆動制御を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1において、1は自動ねじ締め機であり、ハウジング2に固定された回転駆動源の一例であるサーボモータ3(以下、単にモータという)を有している。このモータ3の駆動軸3aには、駆動プーリ4が一体に回転可能に取り付けられている。そして、この駆動プーリ4に巻き掛けられた無端ベルト6によって従動プーリ5へモータ3の回転が伝達されるよう構成されている。
【0010】
図2に示す薄塗り部分は、ねじが着座するまでの仮締め段階においてトルク伝達系を成す高速低トルク伝達系を示すものであり、その構成を説明する。前記従動プーリ5にはクラッチ手段の一例であるツースクラッチ7が当該従動プーリ5の回転に伴って回転するよう取り付けられている。このツースクラッチ7は、歯の噛み合いによってトルクを伝達するものであり、詳細を後述する制御ユニットによる指令に基づいて接続/切断を切り替えるよう構成されている。また、このツースクラッチ7は、これと一体に回転可能に第1の伝達軸8を支持している。このため、ツースクラッチ7による接続/切断に応じて第1の伝達軸への回転駆動の伝達が切り替えられている。さらに、この第1の伝達軸8の先端にはドライバビット(図示せず)を先端に備える出力軸9が連結されている。これら駆動プーリ4、従動プーリ5、ツースクラッチ7、第1の伝達軸8、出力軸9によって高速低トルク伝達系を成しており、モータ3に出力軸9が直結して低トルクが出力されるよう構成されている。
【0011】
また、図3に示す薄塗り部分は、ねじ着座からねじ締め完了までの本締め段階においてトルク伝達系を成す低速高トルク伝達系を示すものであり、その構成を説明する。前記従動プーリ5には第2の伝達軸10がこれと一体に回転可能に支持されている。この第2の伝達軸10の先端部周面には波動歯車装置11が連結されている。この波動歯車装置11は、減速手段の一例であり、第2伝達軸10の回転を減速して高トルクを出力するものである。この波動歯車装置11は、その特性上、出力側では逆回転となる構成であり、逆回転するフレクスプライン11aの動きを出力として取り出すものである。このフレクスプライン11aには、クラッチ手段の一例である電磁クラッチ12が一体に回転可能に取り付けられている。この電磁クラッチ12は、コイルに通電することによって発生する電磁力で接続/遮断を行うものであり、詳細を後述する制御ユニットによる指令に基づいて接続/切断を切り替えるよう構成されている。また、この電磁クラッチ12の出力側には前記出力軸9が一体に回転可能に支持されている。この構成により、電磁クラッチ12による接続/切断に応じて、出力軸9への回転駆動の伝達が切り替えられている。これら駆動プーリ3、従動プーリ4、第2の伝達軸10、波動歯車装置11、電磁クラッチ12、出力軸9によって低速高トルク伝達系を成しており、モータ3の駆動が減速されて高トルクが出力されるよう構成されている。
【0012】
ところで、前記波動歯車装置11は、前述のとおり、入力時とは逆回転のトルクを出力するものである。したがって、低速高トルク伝達系による締め付け時には、モータ3を逆転駆動させることにより、出力軸9が正転方向に回転するよう制御されている。
【0013】
前記ツースクラッチ7および電磁クラッチ12の接続および切断は、制御ユニット(図示せず)から発せられる指令信号に基づいて行われる。まず、仮締め段階(ねじ座面が着座するまでの段階)では前記高速低トルク伝達系によってねじが締め付けられる。このとき、ツースクラッチ7には接続信号が発せられる一方、電磁クラッチ12には切断信号が発せられる。このため、従動クラッチ5の回転に伴って第2の伝達軸10が回転して波動歯車装置11は駆動するが、電磁クラッチ12によって遮断されているから、モータ直結時には低トルク駆動するよう構成されている。
【0014】
続いて、本締め段階(ねじ着座後からねじ締め完了まで)では低速高トルク伝達系によってねじが締め付けられる。仮締め段階から本締め段階への切り替えは、ねじ着座に生じる衝撃トルクによる負荷電流値の上昇に基づいて行われる。この衝撃トルクを検出すると、制御ユニットは、ツースクラッチ7へ切断信号を発する一方、電磁クラッチ12には接続信号を発して低速高トルク伝達系に切り替える。このため、波動歯車装置11により減速されて、高トルク駆動するよう構成されている。
【0015】
なお、前記出力軸9の周囲には起歪管13が配置されており、出力軸9に作用する回転抵抗に応じて捻れるようハウジング2に固定されている。また、この起歪管13の周面には歪みゲージが貼付けられており、これによりトルクセンサが構成されている。そこで、ねじ締めの完了となる基準値を前述した負荷電流値によるものに代えて当該トルクセンサによる検出値にしてもよい。
【0016】
図4に示すように、仮締め段階では、制御ユニットは、本締め段階と比較して高回転数の駆動指令信号をモータ3へ発する。一方、本締め段階では、回転数が前段および後段で異なり、本締め段階前段では本締め段階後段よりも高回転数の駆動試練信号をモータ3へ発する。すなわち、本締め前段では中速回転であり、本締め後段では低速回転となる。これにより、本締め段階前段では、ツースクラッチ7および電磁クラッチ12の切り替え後による本体内部のバックラッシュ、あるいは当該クラッチ7,12が正常に噛合うまでの時間を短縮することができる。しかも、ねじ締め完了前に中速回転から低速回転に切り替えているから、ねじ締め完了時に締め付け精度が悪化することなく、低速回転で高精度の締め付けを行うことができる。
【0017】
本発明の自動ねじ締め機1によれば、ねじ締め完了時には、ドライバビットとねじ駆動穴との食い付きを解除すべく、必要に応じて一時的にモータ3を逆転駆動させてドライバビットを逆回転させる。これにより、食い付きが解除され、ドライバビットをねじ駆動穴から取り外すことができる。
【0018】
また、高速トルク低トルク伝達系および低速高トルク伝達系をツースクラッチ7あるいは電磁クラッチ12で切り替える構成である。そのため、部品点数が少なく、コンパクトかつ経済的に安価な自動ねじ締め機1を提供することができる。
【0019】
さらに、従来のように、高速トルク低トルク駆動から低速高トルク駆動への切り替えを、モータ3を逆転駆動させるとともにワンウェイクラッチの係合作用により行う構成では、回転慣性による影響から、切り替え時にワンウェイクラッチにかかる負荷が大きく、劣化する虞がある。これに対して本発明のねじ締め機1によれば、ワンウェイクラッチを用いない構成により、耐久性に優れたものとなる。よって、仮締め段階において、回転慣性による影響を低減すべく仮締め完了前に回転数を下げる必要もなくなる。したがって、仮締め段階においても、仮締め開始から完了まで、モータ3の回転慣性に鑑みることなく高回転数でねじを締め付けること可能となるので、高速ねじ締めを実現することができる。
【0020】
1 自動ねじ締め機
2 ハウジング
3 モータ
3a 駆動軸
4 駆動プーリ
5 従動プーリ
6 無端ベルト
7 ツースクラッチ
8 第1の伝達軸
9 出力軸
10 第2の伝達軸
11 波動歯車装置
11a フレクスプライン
12 電磁クラッチ
13 起歪管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源に直結して高速低トルク駆動を出力軸へ伝達する高速低トルク伝達系と、
回転駆動源に減速手段を介して低速高トルク駆動を出力軸へ伝達する低速高トルク伝達系と、
仮締め段階では高速低トルク伝達系により回転駆動を出力軸へ伝達する一方、本締め段階では低速高トルク伝達系により回転駆動を出力軸へ伝達するようこれら伝達系を出力軸に作用する回転負荷に応じて切り替えるクラッチ手段と、
仮締め段階では回転駆動源を高速回転する一方、本締め段階前段では回転駆動源を仮締め段階よりも低速、かつ本締め段階後段よりも高速で回転させるよう制御する制御ユニットと
を備えることを特徴とする自動ねじ締め機。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−45679(P2012−45679A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191062(P2010−191062)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【Fターム(参考)】