説明

自動二輪車用スタンド

【課題】自動二輪車の、前後輪のそれぞれのタイヤ特性をも含んだ各種の正確な特性計測を可能にした自動二輪車用スタンドを提供する。
【解決手段】自動二輪車2の前輪5に連結されて、自動二輪車2を床面上に直立姿勢で支持するものであって、床面に固定配置されるスタンドベース3に、二本の揺動アーム4の各一端部をセンジ連結するとともに、それぞれの揺動アーム4に、自動二輪車2の前輪5のアクスルシャフト6のそれぞれの端部分を、アクスルシャフト6の軸線の周りに回動自在に連結し、該アクスルシャフト6の揺動アーム4への連結部分7を、揺動アーム4の延在方向に変位可能としてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車を床面上に直立姿勢で支持する、自動二輪車の各種の特性の計測に用いて好適な自動二輪車用スタンドに関するものであり、とくには、タイヤの特性をも含む高精度の特性計測を可能とする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
シャシダイナモメータによる自動二輪車の駆動力測定その他の自動二輪車の特性計測に当っては、特許文献1〜3に開示されているように、自動二輪車の前後輪の少なくとも一方の下部を、板状部材によって左右から挟み込んで固定する固定装置を自動二輪車用の計測スタンドに用いることが一般に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−211440号公報
【特許文献2】特開平9−21728号公報
【特許文献3】特開2007−198874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるにこのような従来技術では、前輪の下部を板状部材によって左右から挟み込んで前輪を固定しており、実質的には前輪タイヤの機能を封殺していることから、たとえば、自動二輪車のばね定数計測、車両の振動特性の計測等に当っては、車両の基本構成部分としてのシャシのばね定数、振動特性等を計測することはできても、タイヤの特性をも含む正確なばね定数等の計測が不可能であるという問題があった。
【0005】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、自動二輪車の、前後輪のそれぞれのタイヤ特性をも含んだ各種の正確な特性計測を可能にした自動二輪車用スタンドを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の自動二輪車用スタンドは、自動二輪車の前輪、なかでもアクスルシャフトに連結されて、自動二輪車を床面上に直立姿勢で支持するものであって、床面に固定配置されるスタンドベースに、二本の揺動アームの各一端をヒンジ連結するとともに、それぞれの揺動アームに、自動二輪車の前輪のアクスルシャフトのそれぞれの端部分を、たとえば、揺動アームのボス部を介して、アクスルシャフトの軸線の周りに回動自在に連結し、該アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分、たとえばボス部を、揺動アームの延在方向に変位可能としてなるものである。
【0007】
そして、このような自動二輪車用スタンドでは、アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分を設けた揺動アームそれ自体を、たとえば入子式構造、シリンダ機構等によって伸縮変位可能なものとすること、アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分を、揺動アームの延在方向に、たとえば、滑り、ボールの転がり、ボールの循環等に基いて変位自在なものとすることが好ましい。
【0008】
ここで、スタンドベースは単一の構造部材にて構成し得ることはもちろんであるが、好ましくは、各一本の揺動アームの一端部をヒンジ連結する二個のスタンドベースを、自動二輪車の前輪を隔てる位置で床面に固定配置して、二本の揺動アームの、相互に独立した揺動変位を可能とすることで、構造の簡略化および、二本の揺動アームの軽量化を可能とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の自動二輪車用スタンドでは、スタンドベースにヒンジ連結した二本の揺動アームのそれぞれに、前輪のアクスルシャフトのそれぞれの端部分を適宜連結して、自動二輪車を直立姿勢とした状態で、前輪タイヤおよび後輪タイヤのトレッド接地面をともに床面上に接地させることで、たとえば、それぞれのタイヤに作用する輪荷重を正確に計測できることはもちろん、この輪荷重計測結果に加え、自動二輪車の、前のめりとなる制動姿勢および、前上がりとなる加速姿勢におけるそれぞれの輪荷重の計測結果を用いることで、それぞれの姿勢をとった場合の自動二輪車の重心点の変位を、自動二輪車の前のめり量および前上がり量の多少にかかわらず、また、ライダー重量の有無にかかわらず高い精度で算出することができる。
【0010】
これに対し、このような重心点の変位を求めるべく、作業員による自動二輪車の保持下にて、それぞれの輪荷重の変動等を計測するときは、測定値が不安定になる他、自動二輪車の倒伏等のおそれがあり、しかも、ライダーを乗せたままで輪荷重の変動等を計測するときは、前のめり角度もしくは前上がり角度を十分大きくしないと、重心点を、所要の精度で算出することが困難であった。
【0011】
また、この自動二輪車用スタンドでは、自動二輪車のピッチ角、つまり、車両の前後軸周りの回転角である前後傾斜角を維持したまま、それを上下方向に強制変位させることで、前後輪のそれぞれのタイヤをも含んだ正確なばね定数を計測することができ、さらには、前後輪のそれぞれのタイヤを、たとえば二軸加振機によって上下方向に加振することで、自動二輪車の、タイヤをも含む、各種モードの振動特性を計測することができる。
【0012】
ところで、このようなスタンドにおいて、前輪のアクスルシャフトのそれぞれの端部分の揺動アームへの連結部分を設けた揺動アームそれ自体を伸縮変位可能としたときは、たとえば、自動二輪車の振動特性の計測に当って、前後輪のタイヤを上下方向に加振する場合に、二本の揺動アームの円弧運動による、自動二輪車の前後方向の強制変位を防止して、自動二輪車に上下変位だけを行わせて、正確な振動特性を求めることができる。
【0013】
そしてこの場合は、アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分を、たとえば、直動ガイドその他の作用下で、揺動アームの延在方向に変位自在として、変位抵抗を実質的に零とすることで、自動二輪車の上下方向の加振ロスを十分に取り除いて、振動特性の計測精度を一層高めることができる。
【0014】
またここで、各一本の揺動アームの一端部をヒンジ連結する二個のスタンドベースを、自動二輪車の前輪を隔てる位置で床面に固定配置して、各個の揺動アームを独立して変位可能としたときは、スタンドの構造を簡単なものとし、また、二本の揺動アームを同期させて変位させる場合に比して、アーム重量の軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】他の実施形態を要部について示す斜視図である。
【図3】この発明に係るスタンドを、自動二輪車の輪荷重計測に適用した場合を示す側面図である。
【図4】この発明に係るスタンドを、自動二輪車の重心点計測に適用した場合を例示する側面図である。
【図5】この発明に係るスタンドを、自動二輪車のばね定数計測に適用した場合を示す側面図である。
【図6】この発明に係るスタンドを、自動二輪車の振動特性計測に適用した場合を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下にこの発明の実施形態を図1に示すところに基いて説明する。
図1(a)に示すところにおいて、図中1は、この発明に係るスタンドの全体を示し、2は自動二輪車を示す。
【0017】
ここで、スタンド1は、床面に固定配置したスタンドベース3と、このスタンドベース3に各一端部をヒンジ連結した二本の揺動アーム4とを具え、また、各揺動アーム4は、自動二輪車2の前輪5のアクスルシャフト6のそれぞれの端部分を、前輪アクスルシャフト6の軸線の周りに回動自在に連結した連結部分7を有する。
図に示すところでは、このような揺動アーム4の二本を補強部材としての剛性ロッド4aにて一体的に相互連結しており、これにより、二本の揺動アーム4は、スタンドベース3に対し、ヒンジ軸3aの周りで、同期して一体的に揺動変位することができる。
【0018】
なおこの連結部分7は、図1(b),(c)に一方の連結部分を例示するように、たとえば、シリンダロッド7aの先端に取付けられて、アクスルシャフト6の端部分を軸受け保持するボス部7bにより、または、シリンダロッド7aの先端に取付けられて、前輪アクスルシャフト6の端部分を、好ましくは点接触状態で回転自在に支持するフォーク7cにより構成することができ、この場合、シリンダロッド7aは、各揺動アーム4の本体部分に設けたシリンダの図示しないピストンに連結することで、連結部分7の、揺動アーム4の延在方向の進退変位を可能とする。
【0019】
ところで、連結部分7を設けた図示のシリンダロッド7aは、揺動アーム4の本体部分に設けた鞘部材に入子式に収納した芯部材に置換することもでき、この場合は、芯部材を、外部圧力等の導入なしに、小さな変位抵抗の下で、鞘部材に対して進退変位させることができる。
【0020】
以上、連結部分7を設けた揺動アームそれ自体を伸縮変位可能とする場合について述べたが、アクスルシャフト6の端部分の嵌め込み保持を許容する前記ボス部7b、または、アクスルシャフト端部分の回転支持を許容するフォーク7cを、たとえば、揺動アーム4の本体部分の周りで、揺動アーム4の延在方向に、ボールの転がり、ボールの循環、摺接等に基いて変位自体とすることもでき、これによれば、連結部分7を、揺動アーム4の延在方向へ一層円滑に進退変位させることができる。
【0021】
このような連結部分7を設けた揺動アーム4は、その連結部分7に、アクスルシャフト6の端部分を保持ないしは支持させることによって自動二輪車の前輪5に連結されて、自動二輪車を、前後輪タイヤの接地面を床面上に接地させた状態で、直立姿勢で支持することができる。
【0022】
なお、以上に述べたところにおいて、この発明に係るスタンドを、自動二輪車の計測用として用いる場合にあって、前輪5、ひいては、アクスルシャフト6に上向きの力が作用することがあるときは、連結部分7として、図1(b)に示すようなボス部7bを用いることが、アクスルシャフト6の端部分の、意図しない抜け出しを拘束する上で好ましい。
【0023】
図2に示す他の実施形態は、各一本の揺動アーム4の一端部をヒンジ連結する二個のスタンドベース8、8を、自動二輪車2の前輪5を隔てる位置で床面に固定配置するとともに、前輪5のアクスルシャフト6の端部分を連結する、各揺動アーム4の連結部分7を、アクスルシャフト6の端部分の嵌め込み状態でそれを軸受け支持するボス部7bと、このボス部7bを、揺動アーム4の延在方向に延びるアーム本体部分4bに外接してそのアーム本体部分4bの軸線方向に進退変位自在のスリーブ7dとで構成してなるものである。
ここでは、二本の揺動アーム4を相互連結する剛性ロッド4aを省くことで、スタンド1の軽量化および、構造の簡素化を実現することができる。
【0024】
図3〜6はそれぞれ、図1、なかでも、図1(b)に示すボス部7bを適用した連結部分7を具えるスタンド1を、自動二輪車2のそれぞれの特性計測に用いた場合を示すものであり、いずれの特性計測に当っても、スタンド1は、それぞれの揺動アーム4を、自動二輪車2の前輪5のアクスルシャフト6の端部分に連結することで、前後輪のタイヤの接地面を床面に接地させた状態で、自動二輪車を床面上に直立姿勢で支持する。
【0025】
前述したようなスタンド1を用いて自動二輪車2の輪荷重を計測する場合は、図3に示すように、自動二輪車2の前輪5および後輪9のそれぞれを、それぞれ荷重計10a,10b上に裁置した状態で、スタンド1を上述したように機能させて、自動二輪車2を直立姿勢で支持することで、前後輪5,9のタイヤ重量を含む輪荷重を正確に計測することができる。
【0026】
そして、自動二輪車2の、たとえば制動時の重心点の変位量は、上記の場合の輪荷重計測値と、図4に例示するように、後輪9を支持台11によって幾分持ち上げた姿勢での輪荷重測定値とに基いて、重心点位置の変位量を算出することにより求めることができる。
なお、図4に示す自動二輪車2は、図3に示す場合に比し、後輪9の持ち上げ分に相当するだけ前のめり姿勢となっているので、図4に示すところでは、前輪5のアクスルシャフト6は、その前のめり分だけ、連結部分7内で、軸線の周り回動変位されていることになる。
【0027】
そして、タイヤをも含む自動二輪車2のばね定数の計測は、図5に示すように、スタンド1によって直立姿勢で支持した自動二輪車2に、図に白抜き矢印で示すように、車両ピッチ角、すなわち、前後傾斜角を維持した強制変位を行わせるとともに、このときの輪荷重を、先に述べたと同様の荷重計10a,10bで測定することにより、これもまた正確に計測することができる。
【0028】
これに対し、従来は、タイヤを含まないシャシのばね定数だけを計測し、または、前後輪の少なくとも一方のタイヤを、タイヤホルダにて保持しつつばね定数計測を行っていたことから、タイヤのばね定数をも含む正確なばね定数の計測は実質的に不可能であった。
【0029】
そしてさらに、タイヤをも含む自動二輪車の振動特性の測定は、図6に示すように、自動二輪車2の前輪5および後輪9のそれぞれを、それぞれの二軸加振機12a,12b上に載置して、前後輪5,9のそれぞれを所要に応じた振動モードで加振することにより、それぞれのタイヤの振動特性をも含む振動特性を、高い精度で計測することができる。
【0030】
ちなみに従来は、多くは前後輪のそれぞれのアクスルシャフトを加振台に固定して振動特性を計測していたことから、タイヤの振動特性は、自動二輪車2から独立させて別個に計測することが不可避であった。
【0031】
以上、この発明に係るスタンド1を用いた自動二輪車2の特性計測を図面に示すところに基いて説明したが、そのスタンド1は、図示以外の車両姿勢角計測等にも使用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 スタンド
2 自動二輪車
3,8 スタンドベース
3a ヒンジ軸
4 揺動アーム
4a 剛性ロッド
4b アーム本体部分
5 前輪
6 アクスルシャフト
7 連結部分
7a シリンダロッド
7b ボス部
7c フォーク
9 後輪
10a,10b 荷重計
11 支持台
12a,12b 二軸加振機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車の前輪に連結されて、自動二輪車を床面上に直立姿勢で支持するスタンドであって、
床面に固定配置されるスタンドベースに、二本の揺動アームの各一端部をヒンジ連結するとともに、それぞれの揺動アームに、自動二輪車の前輪のアクスルシャフトのそれぞれの端部分を、アクスルシャフトの軸線の周りに回動自在に連結し、該アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分を、揺動アームの延在方向に変位可能としてなる自動二輪車用スタンド。
【請求項2】
アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分を設けた揺動アームそれ自体を伸縮変位可能としてなる請求項1に記載の自動二輪車用スタンド。
【請求項3】
アクスルシャフトの揺動アームへの連結部分を、揺動アームの延在方向に変位自在としてなる請求項1に記載の自動二輪車用スタンド。
【請求項4】
各一本の揺動アームの一端部をヒンジ連結する二個のスタンドべースを、自動二輪車の前輪を隔てる位置で床面に固定配置してなる請求項1〜3のいずれかに記載の自動二輪車用スタンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−43596(P2013−43596A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183813(P2011−183813)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)