説明

自動分析装置

【課題】
磁性体微粒子を用いた分析では、反応過程の数分の間に、比重が1.3g/ml程度の比較的比重の小さい粒子においても、沈殿を免れることはなく、その後のプロセスに一部だけを利用しようとした場合、吸引する位置,吸引量もしくは吸引時の容器中の流れによって、バラツキが生じる可能性がある。
【解決手段】
そこで、フローセルの導入にあたる沈降などを理由にした磁性粒子溶液の不均一な状態、さらに測定試料に由来する不均一性の増大に対して、磁性粒子の反応液中の濃度を均一として吸引する。すなわち、吸引前に意図的に攪拌等を行うことにより、磁性粒子を含む懸濁液を均一化する手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液,尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特に磁性体粒子を分析に用いる自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿などの体液成分に含まれる微量成分の測定にあたっては、ガラス粒子やポリスチレン粒子など、重量あたりの表面積の大きい微粒子に結合させた後、遠心機やフィルタを用いて回収し濃縮する方法が行われてきた。例えばラテックス粒子に対するたんぱく質の吸着に関する知見については、例えば、非特許文献1の86ページに示されている。これらの重力やサイズによる分離の方法に対して、磁気分離を用いる方法が導入された。遠心力に比較して、磁気吸着力により、迅速かつ小形の装置で実現できる。この磁性粒子を用いた、化学成分の固相抽出法は、磁性体微粒子の表面に、特異的な結合をもたらす化合物を吸着もしくは結合し、この化合物を介して、試料溶液中の成分を回収,濃縮する方法が用いられている。特に極めて濃度の少ないホルモン,癌マーカーといった成分を、特異性の高い抗原抗体反応により回収する方法で活用されており、ヘテロジニアス免疫分析と呼ばれている。また、DNAにおけるハイブリダイゼーション法も活用されている。さらに、特定のタンパク質を表面に持つ細胞を回収する磁気方式の細胞分離装置でも活用されている。
【0003】
しかし、磁性体は、それ自体の比重が、ポリスチレンといった樹脂材料に比較して密度が大きく、ポリスチレン粒子に対してフェライトを化学メッキにより塗布したものであっても、1.3g/ml程度の比重を持っている。そのため、溶液中では、磁気ではなく、重力によって数分から数十分の間に次第に沈降する性質がある。
【0004】
このような、磁性体微粒子を用いた反応系のうち、磁性体微粒子を含む溶液を流路に吸引し、流路近傍に備えられた磁石による磁場で、磁性粒子を回収する方法が開発されている。このような方法のうち、特に金属板表面に磁性粒子を吸着させ、電気化学反応によって、電流の応答を見る方法や、電気化学的な方法によって発光せしめる方法が特許文献1に開示されている。
【0005】
このような、流路中におかれた空間、すなわちフローセルによって分析する方法について、流路近傍に設けられた電気化学センサに対して、試料と試薬を混合して均一にしてから導入する方法として、超音波振動子を用いた方法が特許文献2に開示されている。
【0006】
また磁性粒子を含む自動分析システムにおける攪拌について、B/F分離後の吸光度を測定し、確認する方法が特許文献3に開示されている。
【0007】
検出感度を光電子増倍管の印加電圧によって切り替える方法が特許文献4に開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−184294号公報
【特許文献2】特開平10−300651号公報
【特許文献3】特開平11−326334号公報
【特許文献4】特開昭59−125043号公報
【非特許文献1】最新コロイド化学、北原文雄 古澤邦夫、講談社 1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような磁性粒子を用いた分析のうち、磁性粒子表面に結合した化合物を触媒とするような電気化学反応を検出反応とした場合、磁性粒子の表面に吸着した各種の分子は信号の発生に影響を与える可能性がある。さらに、吸着にあたっては、磁性粒子を全量吸着させるか、磁場により規定される磁性粒子の絶対量を再現性よく吸着させることが必要である。磁性粒子表面に吸着した分子の影響により、吸着に要する時間など磁気に対する応答が変化することが推定される。このため、磁性粒子の表面に吸着した分子のうち、あらかじめ選択的に吸着することを目的とした分子以外については、出来る限り除去した上で、磁気吸着を行うことが望ましい。
【0010】
一般に磁性粒子による反応は、磁性粒子を含む反応液を、分注後攪拌し、数分放置させて反応を進行させる。この間、磁性粒子は少しずつ沈降する。このため、所定の反応がなされたのち、磁性粒子を含む懸濁液を流路に導入するにあたっては、その濃度は、溶液中の位置によって均一とはならない。この場合、濃度の薄い部分や濃度の濃い部分といったばらつきに対して、安定な条件を見出して、分析方法を確立する必要がある。さらに、未知試料を含む液体と、試薬,磁性粒子懸濁液を混合した反応液においては、特に未知試料に含まれる成分、例えば血清においては、血清中のたんぱく質や脂質、もしくは採血管における血球分離剤や抗凝固剤の成分からの混入物により、例えば、磁性粒子に対する保護コロイド効果による沈降の遅延や、多価陽イオンによる沈降の促進など、両面に効果をもたらす化合物も含まれ、反応容器ごとに沈降の度合いのばらつきを生じる。このため、先に述べた安定な条件を探すことは一層困難となる。このため、あらかじめ磁性粒子を反応容器中で磁場により吸着,上清の排出,再分散といった工程、すなわちB/F分離(抗原抗体反応などによって特異的に磁性粒子に吸着したBoundと、非特異的に物理吸着しているFreeを分離する方法)を行う方法が導入されている。しかし、このような方法で、系外での洗浄を行う場合、新たな処理の機構を必要とする。一方で、磁性粒子を含む懸濁液を吸引し流路の近傍に設けられた磁場付近で磁気的に回収するにあたり、吸引部分から磁場にいたる流路を長くし、この区間での洗浄を行うといった方法がとられている。しかしこの方法においても、洗浄に用いた流路の内壁に対する吸着物を除去する工程のために、十分な洗浄時間と洗浄剤の使用が必要となるといった課題がある。このような、システムを複雑とする磁性粒子の懸濁液のB/F分離や、フローセルに至る流路中に洗浄のための流路を用意することなく、より単純な構成でシステム構成することが望ましい。
【0011】
本発明の目的は、フローセルの導入にあたる沈降などを理由にした磁性粒子溶液の不均一な状態、さらに測定試料に由来する不均一性の増大に対して、磁性粒子の反応液中の濃度を均一にして吸引することにより、再現性の良い測定結果が得られる自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明では磁性粒子溶液をフローセルに導入する前に攪拌等を行うことにより、磁性粒子を含む懸濁液を均一化する手段を備えた。
【発明の効果】
【0013】
磁性粒子を含む懸濁液を、流路中における磁気吸着に先立ち、反応容器中で均一化することにより、少なくとも反応液の吸引時点におけるバラツキを抑制することで、分析の再現性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
磁性粒子を含む懸濁液を、吸引直前に攪拌する方法について図1に示す。反応容器A01を用意し、ここにノズルA02により試薬A11を注入する。試薬には、試料中の測定対象成分と結合する抗体と、この抗体と化学的に結合された標識が一体となっている。また、試薬には、磁性粒子と試料中の測定対象成分を結合させる、ビオチン化修飾抗体が含まれている。ここにディスポーザブルチップA03を用いて試料A12を添加する。さらに先のディスポーザブルチップA04により吸引吐出を行い、試薬A11と試料A12を混合し、反応液A13とする。これを例えば37℃で9分間放置する。この間に、試料に含まれる測定対象の成分と、標識が結合する。さらに、試料とビオチンか修飾抗体が結合し、標識とビオチンが試料の測定対象成分を介して一体となった状態になっている。放置している間は、拡散により反応が継続し、平衡状態になることが期待される。この第一の反応が平衡に到達した後、ノズルA05により磁性粒子溶液A14を添加する。磁性粒子溶液は、あらかじめ、分注前に攪拌し、均一としておくことが望ましい。ここで磁性粒子は、表面にアビジンと呼ばれる化学物質がコーティングされている。アビジンと前記のビオチンは極めて強く結合する性質がある。さらに容器をボルテックスと呼ばれる水平方向の回転により攪拌し均一な懸濁液A15を得る。これを、さらに37℃で9分間保存する。最終的に磁性粒子と、試料中の測定対象成分さらには標識が一体となる。この間に、磁性粒子A16は沈殿し、上清A17と分離してしまう。微視的には、細かい粒子が上清A17中に分散している。磁性粒子は、地磁気に反応して数珠状に連なったり、反応液中の成分により互いに吸着する場合がある。このように、凝集した磁性粒子は、一般的に沈殿となり易い。次いで、この容器を再び攪拌して懸濁液A18とし、その後に、ノズルA06により流路A09に向けて吸引される。この攪拌プロセスにより、第一に単位容積あたりに含まれる磁性粒子の量、概ね質量として均一になることが期待される。また、攪拌により、地磁気などの弱い磁場による磁気的な凝集や、吸着による弱い凝集については壊され、より単粒子に近い磁性粒子の懸濁液となる。吸引された磁性体微粒子を含む懸濁液は、磁石A08により吸着され磁極近傍に吸着A07される。この磁性粒子に例えば、電気化学的な反応を生じさせ、例えば電流応答もしくは電気化学発光等の信号を検出する。この方法によれば、磁性粒子のB/F分離をあらかじめ行わないか、より弱いB/F分離によって磁性粒子をフローセルに導入することが可能になる。もしくは、反応容器から、フローセルにおける磁性粒子の吸着位置までの流路の長さ,容積を最小化することができ、その結果として、この流路の洗浄にかかる時間、ないしは洗浄剤の量を減らすことができる。
【実施例2】
【0016】
検出部が必要とする反応液の量が少なければ、二回に分けて吸引することも可能となる。これは、高感度免疫分析においては、極めて濃度範囲が広いため、検出感度を変えて、低濃度に適した検出感度と、高濃度に適した検出感度を切り替えて用いることを想定している。この時、前半の吸引と後半の吸引の二つの動作においては、それぞれ等価な状態でなければならない。すなわち、磁性粒子の単位容積あたりの数量、もしくは重量が等価でなければならない。そこで、反応溶液が実施例と同様に準備され、磁性粒子を含んだ懸濁液が反応を終えた段階についてから図2に示す。図1と同様に、磁性粒子B16が沈殿し、上清B17と分離している状態において、攪拌することにより、均一な懸濁液B18を得る。これをノズルB06にて吸引する。約半分を吸引したところで反応液B19を残す。吸引により、磁性体微粒子を含む懸濁液は、流路を運ばれ、磁石B08の近傍で時期的に集められB07、上清は排出される。しかるのちに、検出反応を行う。検出反応ののち、ノズルB06は洗浄液B21を含む容器に位置づけられ、洗浄液を吸引し、流路を洗浄する。ここで、流路の下流側は省略してある。さらに、ノズルB06は、検出反応のための緩衝液B22をあらかじめ吸引する。この動作により、流路は、検出反応のための緩衝液B22で満たされる。ここに、反応液B28はあらためて攪拌され、ノズル06に位置づけられる。攪拌により均一となった反応溶液は、ノズル06により吸引され、同様に検出される。このフローが成立するには、第一の吸引と第二の吸引の間にかかる時間において、反応液の反応が優位に進行しないこと、すなわち第一の吸引のタイミングにおいて、すでに最終的な化学平衡に到達していることが期待される。
【実施例3】
【0017】
ここでは、異なった実装として、吸引ノズルからの吐出ジェットにより、攪拌を行う方法を示す。実施例2と同様、流路の洗浄液C21をノズルC06で吸引し、しかるのち、検出反応に必要な緩衝液C22をノズルC06で吸引し、流路内を満たす。この吸引では、次のステップにおける吐出量をもってしても、磁性粒子吸着部まで、洗剤C21が排出側から戻らない程度の領域を緩衝液C22で満たす。しかるのち、磁性粒子C16と上清C17が分離した反応液において、緩衝液C22で満たされたノズルから、吐出し、ジェットC19により反応液を攪拌し、均一な反応液C20を得る。しかるのち、ノズルC06により磁性粒子を含む懸濁液を吸引し、実施例1および2にあるように磁性粒子を吸着させ、これに続く化学的な検出反応により、磁性粒子に吸着された成分について定量を行う。ここでは、吸引ノズルにあらかじめ吸引されていた検出用の緩衝液を用いた。しかし、別のノズルから、同様にジェットにおいて、緩衝液に相当する液体を追加しつつ攪拌をしても良い。例えば、磁性粒子の反応における至適な濃度と、ノズルにより吸引し吸着する際の至適な濃度とが異なる場合においては、反応液の量と例えば等量の緩衝液を添加することにより、最終的な磁性粒子の懸濁液中の濃度を、反応時の半分にすることができる。これは、同時に反応液中の主要な成分であるタンパク質濃度について、半分の濃度にすることができ、反応液吸着における阻害を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】フローセルに導入する直前に磁性粒子懸濁液を均一にするプロセスの説明図。
【図2】沈殿した磁性粒子と上清からなる反応液を、二回に分けてそれぞれ攪拌してから吸引するプロセスの説明図。
【図3】沈殿した磁性粒子と上清からなる反応液を、あらかじめノズルに吸引された反応のための緩衝液を逆流させたジェットにより攪拌し、その後に吸引するプロセスの説明図。
【符号の説明】
【0019】
101 反応容器
102 試薬分注ノズル
103 検体分注ノズル兼反応液攪拌用ノズル(検体分注時)
104 検体分注ノズル兼反応液攪拌用ノズル(攪拌時)
105 磁性粒子分注ノズル
106,206,306 フローセル吸引ノズル
107 磁気的にトラップされた磁性粒子
108 磁性粒子トラップ用磁石
109 フローセル下流側廃液流路
111 試薬
112 試料
113 試料と試薬が攪拌された反応液
114 磁性粒子溶液
115 磁性粒子,試薬,試料が含まれる混合液
116,216,316 沈殿した磁性粒子
117,217,317 上清
118,218,318 攪拌により均一となった反応液
119,219 吸引され残量が約半分となった反応液
207,307 磁気的にトラップされた磁性粒子
208,308 磁性粒子トラップ用磁石
209,309 フローセル下流側廃液流路
221,321 フローセルの洗浄液
222,322 フローセルにおける検出反応に用いられる緩衝液
228 攪拌され均一となった磁性粒子を反応液の残り分
229 吸引され、残りがわずかとなった磁性粒子を含む反応液
319 ノズルから吐出された緩衝液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B/F分離後の磁性体粒子をフローセルに導入する前に攪拌する攪拌手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
1度の測定において、前記フローセルに前記B/F分離後の磁性粒子を含む反応液を複数回に分けて吸引し、かつ各々の吸引に先立ち前記攪拌手段により攪拌を行うように制御する制御手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動分析装置において、
前記攪拌手段は前記フローセルに前記B/F分離後の磁性粒子を含む反応液を注入する注入手段であることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−222533(P2009−222533A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66946(P2008−66946)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】