説明

自動変速機付車両用エンジンの燃料制御装置

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は自動変速機がその出力軸に接続された車両用エンジンに関し、さらに詳しくは、この自動変速機がロックアップ機能を有するトルクコンバータを備えている車両用エンジンに関するものである。
(従来の技術)
車両用エンジンにおいては、加速直後のエンジンの応答性を向上させるため、通常の同期噴射とは別に、一定の条件が成立した場合には非同期に燃料噴射を行なうことが行なわれている。例えば、アイドルスイッチがオンからオフに切換わった場合や、スロットルの開度変化度合から車両の加速状態を検出した場合等のような加速過渡状態を検出したときに非同期噴射を行なわせるようにしているものがある。これは、加速過渡状態のときには、吸入混合気がリーンになることにより加速ショックや加速ヘジテーションが生ずる等という走行性悪化現象が生ずるのを上記非同期噴射により改善しようとするものである。このような非同期噴射を行なわせる例としては、例えば、特公昭54−14688号公報に開示されている燃料噴射装置がある。
(発明が解決しようとする問題点)
上記のような非同期噴射を行なわせる場合に、従来においては、このエンジンの出力軸側に接続される変速機の種類とは関係なしに、一定の条件成立時(加速過渡状態時等)には常に同じ制御を行ない非同期噴射を行なうようになっている。しかしながら、上記のような加速過渡状態における非同期噴射を行なった場合、このエンジンの出力軸に接続される変速機がマニュアルタイプの変速機でありクラッチが繋がるとともに所定の変速段が選定されている場合であったり、変速機がトルクコンバータを有する自動変速機でありこのトルクコンバータのロックアップクラッチが接続している場合にあったりするとき(すなわち、エンジンと駆動系が直結状態であるとき)には、上記非同期噴射によるエンジン出力の増大が駆動系に直接伝達されるので加速ショックや加速ヘジテーションに対する対策となるのであるが、このエンジンに自動変速機が接続され且つこの自動変速機のロックアップクラッチが非接続でトルクコンバータを介して動力伝達が行なわれている場合には、上記非同期噴射によりエンジン出力が変動してもトルクコンバータにおいてこの変動が吸収されていまい加速ショックや加速ヘジテーションはほとんど改善されず、非同期噴射の分だけ燃費を低下させてしまうという問題がある。すなわち、エンジンに自動変速機が接続されている場合で、この自動変速機のトルクコンバータを介して動力伝達がなされている状態では、非同期噴射を行なっても、加速ショックや加速ヘジテーションの改善にはあまり効果がなく、燃費が低下するだけであるという問題がある。
(問題点を解決するための手段)
このようなことから、本発明においては、上記従来技術におけるトルクコンバータを介しての動力伝達中での非同期噴射による燃費の低下という問題を解決せんとするものであり、このための手段として本発明の燃料制御装置は以下のように構成される。すなわち、この燃料制御装置では、車両の加速過渡状態が検出されたときには、燃料増量手段により非同期噴射等を行なわせてエンジンへの供給燃料の量を所定量だけ増量させるのであるが、上記加速過渡状態が検出された場合でも同時にロックアップクラッチが非接続であることが検出されたときには、燃料制御手段を作動させて上記燃料増量手段による供給燃料の増量を制限するように構成している。
(作用)
上記燃料制御装置を用いると、自動変速機のロックアップが作動されてエンジン出力がロックアップクラッチを介して直接変速機に伝達される状態のときには、加速過渡状態が検出されると非同期燃料増量手段によりエンジンへの供給燃料量が増大されて加速ショックや加速ヘジテーションの発生が効果的に防止され、一方、ロックアップが非動作でありエンジン出力がトルクコンバータを介して変速機に伝達される状態の場合には、加速過渡状態が検出されたときに非同期燃料増量手段による非同期噴射等を行なっても加速ショック等の改善にはあまり効果が期待できないので、この場合には加速過渡状態が検出された時に非同期燃料制限手段により非同期増量手段による燃料供給の増量を制限して燃費を向上させるようになっている。
(実施例)
以下、図面を用いて本発明の好ましい実施例について説明する。
第1図は本発明に係る燃料制御装置を備えたエンジンの燃料供給系を示す断面概略図である。シリンダブロック1とシリンダヘッド2により囲まれたシリンダ室内を上下に摺動自在にピストン8が配され、シリンダヘッド2には吸気および排気バルブ3a,3bにより開閉自在に覆われた吸気口2aおよび排気口2bが形成されている。このシリンダヘッド2の上面には吸気および排気バルブ3a,3bを作動させるカムシャフト4が配されている。さらに、上記吸気口2aにはエアクリーナ11を介して外部に連通する吸気通路10が接続され、この吸気通路10の吸気口2aとの接続部に吸気口2a内に燃料を噴射供給する燃料噴射バルブ6が取付けられている。この吸気通路10にはこの入口部から順に、吸入空気量を検出するエアフローメータ12、吸入空気の温度を検出する吸入空気温センサ15、吸入空気量を調整するスロットバルブ13およびサージタンク10bを有し、さらにスロットルバルブ13をバイパスして空気の吸入を行なわせるバイパス通路10aを有するとともにこのバイパス通路10aにはアイドル回転を一定に保つためにこのバイパス通路10aの開閉制御を行なうISCバルブ14が配設されている。なお、シリンダブロック1には冷却水通路1aが形成され、この冷却水通路1a内の冷却水の温度を検出する水温センサ16が取付けられている。このエンジンの出力軸にはロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを有する自動変速機20が接続されており、この自動変速機20の制御バルブ21においてロックアップクラッチの作動の有無が検出されるとともに、この検出信号がライン21aを介してA/Tコントロールユニット23に送られ、またシフトレバー22の位置が検出され、この検出信号はライン22aを介してA/Tコントロールユニット23に送られるようになっている。
エンジンの燃料噴射の制御等はエンジンコントロールユニット30により行なわれる。このエンジンコントロールユニット30には、ライン31〜38を介して各種信号が入力され、エンジンコントロールユニット30においては、これらの信号に基づいて燃料の同期および非同期噴射の量および時期の設定を行ない、この設定された量および時期の燃料噴射を行なわせるように、燃料噴射バルブ6にライン41を介して所定の信号を出力する。なお、ライン31はA/Tコントロールユニット23に繋がり、このユニット23からロックアップの有無および変速ギヤがニュートラルか否かを検出した信号が送られる。ライン32から34を介しては、それぞれ吸入空気の温度、吸入空気量、ISCバルブ14の開度信号が送られる。ライン35によっては、スロットルバルブ13の開度およびアイドルスイッチのオン・オフ信号が送られ、ライン36〜38によっては、カムシャフト4の回転角から検出したクランク回転角、ディストリビュータ7から検出したエンジン回転数、および水温センサ16により検出したエンジン冷却水温の信号が送られる。
次に、上記エンジンコントロールユニット30による燃料噴射制御を第2図から第4図のフローチャートを用いて説明する。
第2図のエンジンの運転の基本となる同期噴射制御を説明するフローチャートである。このフローは、まず気筒判別信号“G信号”を読取ることから開始する。このG信号はクランクの回転角が720゜となるごとにライン37を介して検出される信号であり、このG信号により各シリンダの判別がなされる。次いで、エンジン回転数:Nと吸入空気量:Qを読取り、この情報に基づいて基本噴射時間Tpを求める。
なお、Tp=K×(Q/N)
但し、K:演算係数 この後、各種センサによりエンジンの運転状態を検出するとともに、この検出した運転状態により補正係数C totalを求め、この補正係数により上記基本噴射時間の補正を行ない同期噴射時間Tiを算出する。
なお、Ti=Tp×C total+無効噴射時間である。
一方、ライン37を介してクランク回転角30゜毎に1回のNe信号が出力されており、上記同期噴射時間Tiの算出の後、G信号入力後のNe信号の回数の読込みを開始し、Ne≧8となったときに燃料噴射バルブ6による同期噴射時間Tiの同期噴射を行なわせる。なお、上記Ne≧8の判別はエンジンにより異なり、Ne≧7であったり、Ne≧9であったりすることもある。この後、Neを零にリセットして1回のフローを終了し、以下、このフローが繰返される。
次に、第3図により、アイドルスイッチがオンからオフへ切換わった場合における非同期噴射の作動を説明する。まず、ライン31〜38を介しての各種信号の読込みを行ない、アイドルスイッチがオフか否かを判定し、これがオンのときすなわちアイドル状態のときには非同期噴射量を零にして非同期噴射は行なわせず今回のフローを終了する。アイドルスイッチがオフのときには、前回のフローにおいてアイドルスイッチがオンであったか否かが判定され、前回もオフの場合は非同期噴射量を零にしてこの噴射は行なわせず、今回のフローを終了する。一方、前回のフローにおいてはアイドルスイッチがオンであった場合には、前回のフローから今回のフローの間においてアイドルスイッチがオンからオフに切換わったことになり、この場合には、変速機が自動変速機(AT)か否かの判定がなされ、自動変速機でない場合、すなわちマニュアル変速機の場合には、マニュアル変速機用の非同期噴射量bを設定し、この噴射量bの噴射を行なわせ、今回のフローを終了する。変速機が自動変速機の場合には、ロックアップがホールド状態か否か、すなわちロックアップクラッチが非接続か否かが判定され、ホールド状態でない場合(ロックアップクラッチが接続の場合)、すなわちトルクコンバータを迂回してエンジンから変速機へ直接動力伝達がなされている場合には、所定の非同期噴射量aを設定し、この噴射量aの噴射を行なわせて今回のフローを終了する。一方、ホールド状態の場合(ロックアップクラッチが接続されていない場合)、すなわちトルクコンバータを介しての動力伝達が行なわれている場合には、エンジン回転数Nが所定回転数N1より大きいか否かが判定され、N≧N1の場合には、非同期噴射量を零にして非同期噴射を行なわせずに今回のフローを終了する。また、N<N1の場合には、非同期噴射量aの設定を行ない、この噴射量aの噴射を行なわせて今回のフローを終了する。以下、上記フローを繰返すことによりアイドルスイッチ非同期噴射の制御がなされる。
さらに、第4図により、スロットルバルブの開度変化度合から車両の加速過渡状態を検出した場合に非同期噴射を行なわせるスロットル非同期噴射フローについて説明する。このフローはライン31〜38を介しての各種信号の読込みから開始し、次いでアイドルスイッチがオンか否かを判定を行なう。アイドルスイッチがオンの場合には加速過渡状態とはなり得ないのでフローの最初に戻り、アイドルスイッチがオフとなった後に以下の作動がなされる。
アイドルスイッチがオフのときには、スロットル変化率ΔTvoを演算する。
なお、ΔTvo=Tvo(N−1)−Tvo(n)
次いで、変速機が自動変速機(AT)が否かの判定がなされ、自動変速機でない場合には第1の非同期噴射量としての最大および最小値BmaxおよびBminを設定する。一方、自動変速機の場合にはロックアップがホールド状態か否かが判定され、ホールド状態でない場合(ロックアップクラッチが接続の場合)には第2の非同期噴射量としての最大および最小値B′maxおよびB′minを設定する。ロックアップがホールド状態の場合(ロックアップクラッチが非接続の場合)にはエンジン回転数Nが所定回転数N1より大きいか否かを判定し、N≧N1の場合には第3の非同期噴射量としての最大および最小値B″maxおよびB″minを設定し、N<N1の場合には第2の非同期噴射量の最大および最小値B′maxおよびB′minを設定する。なお、この場合、Bmax>B′max>B″maxであり、Bmin>B′min>B″minである。
この後、スロットルバルブの開度変化率が判定レベル値Aより大きいか否かの判定がなされる。なお、この開度変化率RthはRth=(ΔTvo/Tvo(n−1)×kとして求められる。
この開度変化率Rth<Aのときには加速過渡状態ではないので、この場合には非同期噴射量Bを零に設定して非同期噴射は行なわせずに本フローを終了する。
一方、Rh≧Aのときには、加速過渡状態であると判定され、非同期噴射量Bが演算される。
なお、B=Rth+Cとして算出される。
そして、この非同期噴射量Bが上記設定された非同期噴射量の最大値(Bmax,B′maxもしくはB″max)と最小値(Bmin,B′minもしくはB″min)との間にあるか否かが判定され、最大値と最小値の間にある場合には上記演算された非同期噴射量の燃料噴射が行なわれ、一方、非同期噴射量が最大値より大きい場合には最大値(Bmax,B′maxもしくはB″max)を非同期噴射量Bとして設定してこの噴射量の噴射を行なわせ、また、上記のようにして演算された噴射量Bが最小値(Bmin,B′minもしくはB″min)より小さい場合にはこの最小値を非同期噴射量Bとして設定し、この噴射量Bの噴射を行なわせ、今回のフローを終了する。以下、上記フローを行なわせることによりスロットル非同期噴射の制御が行なわれる。このようにすると、エンジン出力軸に自動変速機が接続されている場合であって、ロックアップがホールド状態(ロックアップクラッチが非接続)の場合にはロックアップがホールドされていない場合より少ない量の非同期噴射量の設定がなされることになり、非同期噴射による加速ショックや加速ヘジテーションの向上にあまり効果のないロックアップホールド時における非同期噴射量を少なくして燃費の低下を図ることができる。
(発明の効果)
以上説明したように、本発明によれば、加速過渡状態が検出された場合でも同時にロックアップクラッチが非接続であることが検出されたときには、非同期燃料制限手段を作動させて非同期燃料増量手段による供給燃料の増量を制限するように構成しているので、自動変速機のロックアップが作動されてエンジン出力がロックアップクラッチを介して直接変速機に伝達される状態のときには、加速過渡状態が検出されると非同期燃料増量手段によりエンジンへの供給燃料量が増大されて加速ショックや加速ヘジテーションの発生を効果的に防止することができ、一方、ロックアップが非作動でありエンジン出力がトルクコンバータを介して変速機に伝達される状態の場合、すなわち、加速過渡状態が検出されたときであっても非同期燃料増量手段による非同期噴射等を行なっても加速ショック等の改善にはあまり効果が期待できない場合には、加速過渡状態が検出された時に非同期燃料制限手段により非同期増量手段による燃料供給の増量を制限して燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係る燃料制御装置を備えたエンジンの燃料供給系を示す断面概略図、
第2図は同期噴射制御を説明するフローチャート、
第3図はアイドルスイッチ非同期噴射の制御を示すフローチャート、
第4図はスロットル非同期噴射の制御を示すフローチャートである。
1……シリンダブロック、2……シリンダヘッド
4……カムシャフト、6……燃料噴射バルブ
8……ピストン、10……吸気通路
13……スロットルバルブ、20……自動変速機
21……制御バルブ、22……シフトレバー
23……A/Tコントロールユニット
30……エンジンコントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】ロックアップ機能を有するトルクコンバータを備えた自動変速機が出力軸に接続されてなる自動変速機付車両用エンジンにおいて、加速過渡状態が検出されたとき、エンジンへの燃料供給を所定量だけ増量させる燃料増量手段と、上記加速過渡状態が検出されたときであっても同時にロックアップが非作動であることが検出されたときには、上記燃料増量手段による供給燃料の増量を制限する燃料制御手段とを備えてなることを特徴とする自動変速機付車両用エンジンの燃料制御装置。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2564544号
【登録日】平成8年(1996)10月3日
【発行日】平成8年(1996)12月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−100807
【出願日】昭和62年(1987)4月23日
【公開番号】特開昭63−266140
【公開日】昭和63年(1988)11月2日
【出願人】(999999999)マツダ株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭59−122732(JP,A)
【文献】特開 昭58−152143(JP,A)