説明

自動車が歩行者と正面衝突した場合に歩行者を保護するために自動車の安全装置に用いられる、トリガード・ストローク・アクチュエータ

【課題】簡単な手段によってボンネットの減衰復帰機能を提供する。
【解決手段】本発明によると、減衰復帰のストロークを有するトリガード・ストローク・アクチュエータは、ピストン(15)、高速燃焼点火薬を具備したガス発生部(19)、及び、低速燃焼点火薬(38)を含む。低速燃焼点火薬(38)は、ガス発生部(19)の燃焼よりも遅く燃焼する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の安全装置の駆動部を構成すると共に、自動車が歩行者と衝突した場合に迅速に自動車のボンネットを持ち上げる機能を有する、トリガード・ストローク・アクチュエータに関する。
【0002】
本発明は、特に、トリガード・ストローク・アクチュエータのロッドを減衰により復帰させることで、衝突後にボンネットを減衰により逆動させることができると共に、衝突がない場合には、アクチュエータ作動後に一定時間経過すると、ボンネットの自重又は僅かな力でボンネットを初期位置に戻すことができる技術に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、自動車が歩行者と衝突した場合に歩行者を保護するための、安全システムが記載されている。当該安全システムは、自動車が歩行者と衝突した場合に迅速に自動車のボンネットを持ち上げられるようにする機構を有する。衝突の際、歩行者の頭部はしばしば自動車のボンネットに打ちつけられる。ボンネットは、歩行者の頭部の衝撃によって変形し得る。ボンネットは、ある程度変形すると、エンジンブロック及びエンジン周りの剛な部品の全てに接触する。このような場合、歩行者の頭部は、最大レベルの減速にさらされ、負傷し得る。当該安全システムは、このような問題に鑑みて、歩行者(特にその頭部)がボンネットの変形によってエンジンブロックに打ちつけられるのを避けるために、ある程度の高さまで迅速にボンネットを持ち上げられるように設計されている。ボンネットは、フロントガラス近傍にある後端部において、持ち上げられる。ボンネットは、自動車の正面に固定された状態で維持される。
【0004】
上記安全システムが適宜の検出手段に応じて作動した場合、数10ミリ秒(例えば30ミリ秒)間で(即ち、衝撃が差し迫っていることが検出された後、非常に迅速に)数10ミリメートル(例えば80ミリメートル)の高さまで、ボンネットが持ち上げられる。当該安全システムの駆動部は、好ましくは、電気的に燃焼する点火薬を具備したトリガード・ストローク・アクチュエータを備えている。点火薬の燃焼により生じたガスは、アクチュエータのピストンを押圧する。ピストンは、ロッドと連結している。ロッドは、ボンネットを持ち上げる機構を作動させるか、或いは、ボンネットを直接作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】仏国特許発明第2878212号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボンネットが持ち上げられた後、ボンネットに加わる衝撃に対応し、歩行者に加わる衝撃を抑制することができるように、ボンネットを減衰により復帰させることが知られている。このような減衰復帰システムは、ボンネットを持ち上げるアクチュエータと併用することが好ましい。ボンネット、持ち上げ機構、及びアクチュエータのピストンにより構成されるアッセンブリは、(ボンネットが持ち上げられて変形した後)ブレーキがかけられた状態で衝撃力によって後退し、その後ブロックされる。減衰装置は、本体内に配置され、機械的な手段を利用するものである。
【0007】
減衰復帰とは逆の力を生じさせる1つの方法として、アクチュエータの圧力室内の圧力を、復帰動作を抑制可能な高い圧力に維持する方法がある。これには300ミリ秒ほどの時間が必要である。この場合、アクチュエータを迅速に作動させるのに十分な圧力をピストンに付与すること、及び、ピストン室内に持続的に圧力を付与すること、の両方を実現可能な大量の点火薬の使用を想定することはできない。大量の点火薬を使用した場合、アクチュエータが突然作動し、作動機構やボンネットが損傷し得る。
【0008】
したがって、トリガード・ストローク・アクチュエータにおいて、簡単な構成で(即ち、特別な機構を必要とせず)、短時間(例えば30ミリ秒間)で小さな力でアクチュエータを作動させることができ、減衰復帰とは逆の力を長時間(例えば300ミリ秒間)維持できると共に、その後当該力を解放することにより、長時間(概して数秒間)経過後に小さな力で(例えば重力の作用のみで)アクチュエータを復帰させることが求められている。
【0009】
本発明は、第1に、簡単な手段によって、ボンネットの上記減衰復帰機能を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、本体と、前記本体内に収容されたピストンと、前記ピストンと連結し、前記本体の一端から突出するロッドと、高速燃焼点火薬を具備し、前記本体内に設けられ、前記ピストンに対向し、且つ、当該アクチュエータが作動する前に前記ピストンとの間に膨張室が画定されるように前記ピストンの初期位置から所定距離離隔した位置に配置された、ガス発生部と、前記膨張室と連通する位置に配置された、前記ガス発生部の燃焼よりも遅く燃焼する低速燃焼点火薬と、を備えたことを特徴とする、トリガード・ストローク・アクチュエータを提供する。
なお、低速燃焼点火薬は高速燃焼点火薬の燃焼によって燃焼することが好ましい。
【0011】
低速燃焼点火薬は、高速燃焼点火薬を具備したガス発生部(例えば、制御によってこれら点火薬を燃焼開始可能なフィラメント・ダクトを有するプラスチック製の容器)に配置されてよい。また、別の好適な形態として、低速燃焼点火薬及び高速燃焼点火薬が、共に膨張室と連通しつつ、アクチュエータ内において互いに離隔して配置されてよい。この場合、低速燃焼点火薬及び高速燃焼点火薬の機能を分離し、これら2種類の点火薬を個別の条件に応じて独立して燃焼させることができる。
【0012】
検出エラー等によって、事故が起こっていないにもかかわらず、アクチュエータが作動し、ボンネットが持ち上げられる場合がある。また、歩行者がボンネットに打ちつけられない場合もある。このような場合、ボンネットは、アクチュエータが作動した後、一定時間経過後に、その初期位置に復帰することが好ましい。
【0013】
本発明によれば、上記のようなボンネットの復帰も自動的に(ボンネットの自重等で)実現することができる。
【0014】
上記目的を達成するため、前記ピストンと、前記ピストン及び前記ロッドとのいずれかに、キャリブレートされた漏出流路が形成されている。当該漏出流路を介して、ピストンを駆動するガスが排出される。
【0015】
前記ピストン及び前記ロッドが互いに固定されており、前記漏出流路が、前記ロッドの表面から、前記ロッドと前記本体の内壁との間に画定された環状空間に向けて、開口していることが好ましい。
【0016】
上記構成によると、アクチュエータが作動した後にのみ、漏出周路の出口が外部と連通する。そのため、アクチュエータが作動していない間は、腐食の恐れがなく、また、点火薬が外部要素から保護される。したがって、アクチュエータ内部の金属部品について、特別な防腐処理が不要であり、安価な金属で構成することができる。
【0017】
低速燃焼点火薬は、アクチュエータの作動後、略3/10(10分の3)秒で燃焼する。これにより、膨張室内の圧力が、事故の際にボンネットが減衰復帰するのに十分な圧力に保たれる。
【0018】
一方、衝撃がないにもかかわらずアクチュエータが作動した場合には、漏出流路を介してガスが排出されるのに、比較的長い時間がかかる。ピストンはガス排出後に本体内に後退し、これによりボンネットがその自重又は僅かな力で初期位置に復帰可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るトリガード・ストローク・アクチュエータの縦断面図である。
【図2】アクチュエータ作動後の時間の経過に応じたアクチュエータの作動により展開される力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るトリガード・ストローク・アクチュエータの好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ、説明する。本発明及びその効果は、以下の説明によって、より明確に理解されるであろう。
【0021】
図1は、略円筒形の本体13と、本体13内に収容されたピストン15と、ピストン15と連結し、本体13の一端18から突出するロッド17とを含む、トリガード・ストローク・アクチュエータ11を示す。本体13は、ガス発生部19(好ましくは、ピストンに対向し、ピストンから所定距離離隔した位置に配置された、電気的に制御されるフィラメント・ダクトのマイクロガス発生部)を収容している。ガス発生部19は、本体13の他端21において、当該他端21に形成されたセットバック部22と後端23とによって、保持されている。ガス発生部19と本体13の内壁との間に、環状のガスケット25が設けられている。ガス発生部19とピストン15との間に、破壊及び分離のいずれかが可能な接続部27が介在している。接続部27は、アクチュエータ11の作動の前にピストン15及びロッド17の位置が安定し、且つ、ガス発生部19とピストン15との間の膨張室30の初期容量が画定されるように、ガス発生部19から所定距離離隔した位置で、ピストン15を保持している。
【0022】
ガス発生部19は、高速燃焼点火薬を具備している。高速燃焼点火薬が燃焼すると、膨張室30にガスが放出される。当該ガスの放出によって、接続部27が破壊又は分離され、ピストン15とロッド17のアッセンブリに推進力が加わり、ロッド17が本体13の一端18から迅速に軸方向に突出する。これに伴い、ボンネットを持ち上げる機構(図示せず)が作動する。単純且つ好適な例において、ロッド17は、ボンネットに直接的にヒンジ接続されてよい。
【0023】
本体13の一端18に、セットバック部35が設けられている。セットバック部35は、ロッド17と本体13の内壁との間に長手方向に形成された環状空間36を画定している。ロッド17における外部に突出する端部の近傍に、シーリング・ガスケット37が設けられている。シーリング・ガスケット37は、本体13の一端18近傍において、本体13の内壁とロッド17との間に延在している。これにより、燃焼の間、環状空間36が外部要素から隔離されている。さらに、環状空間36は、ピストン15と本体13との間に配置されたOリング39を介して、膨張室30から隔離されている。
【0024】
アクチュエータ11は、ガス発生部19の燃焼よりも遅く燃焼する低速燃焼点火薬38を具備している。低速燃焼点火薬38は、圧縮成形された粉末ペレット状であり、高速燃焼点火薬の燃焼によって燃焼するよう、膨張室30と連通する位置に配置されている。
【0025】
本実施形態において、低速燃焼点火薬38は、穴40に配置されている。穴40は、ピストン15に形成され、膨張室30に向けて開口している。
【0026】
低速燃焼点火薬38は、穴40の開口部に係合し且つその中央に貫通孔が形成されたカバーによって、所定位置に保持されている。
【0027】
穴40は、軸方向に関してガス発生部19と対向しつつ、膨張室30に向けて開口していることが好ましい。
【0028】
図2は、低速燃焼点火薬及び高速燃焼点火薬という2種類の点火薬を連続的に燃焼させた結果を示す。ガスの拡張によってピストン15に軸方向に加わる力が縦軸、時間が横軸に示さている。図2から、高速燃焼点火薬の燃焼によって、短時間(A)で非常に大きな推進力が生じることが分かる。この力は1000N(ニュートン)を超え、その後直ぐ、数10ミリ秒後(例えば30ミリ秒後)に、500N程度に低下する。このときに、ピストン15が移動し、ボンネットを持ち上げるための安全システムが作動する。推進力が急激に低下してしまうと、減衰復帰が十分に行われない。しかし本発明では、低速燃焼点火薬38も燃焼するため、ある程度の力が加わり、推進力が緩やかな速度で低下することになる(図2参照)。本発明によると、十分な推進力が得られると共に、当該推進力は、所望の減衰を得るために、10分の数秒間(B)ほどの時間をかけて十分にゆっくりと、数100N(ニュートン)(C)ほど低下すると評価される。
【0029】
さらに好適な特徴として、燃焼ガスを排出するため、ピストン15及びロッド17に、キャリブレートされた漏出流路45が形成されている。(なお、ピストン15のみに漏出流路45が形成されてもよい。)漏出流路45は、上記2種類の点火薬の燃焼によって膨張室30に圧力が加わる間に大きな力を生じさせることがないよう、十分に小さいサイズを有する。漏出流路45のサイズは、膨張室30内の燃焼ガスが適切な速度で排出されるように調整されている。ここで、適切な速度とは、復帰に係る力が図2に示す時間(D)をかけて低下し、ボンネットを僅かな力(ボンネットの自重等で)初期位置に戻すことができるような速度をいう。
【0030】
本実施形態では、ピストン15及びロッド17が互いに固定されており、漏出流路45がロッド17の表面から環状空間36に向けて開口している。漏出流路45は、ピストン15に形成され且つ低速燃焼点火薬38を収容する穴40と、連通している。さらに、ピストン15内における穴40と漏出流路45との間に、フィルタ47が配置されている。フィルタ47は、燃焼により生じる粒子の侵入を防止し、漏出流路45の詰まりを抑制するものである。
【0031】
上記のような構成により、膨張室30内の圧力はゆっくりと低下し、ピストン15による推進力も時間(ピストン15の減衰復帰に対応する時間とは別の時間)をかけてゆっくりと低下する。膨張室30内の圧力及びピストン15による推進力は、数秒間をかけて、ある値(損傷を受けない順境下でボンネットを自動的に初期位置に復帰させることができるような値)まで、低下し続ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(13)と、
前記本体内に収容されたピストン(15)と、
前記ピストンと連結し、前記本体の一端から突出するロッド(17)と、
高速燃焼点火薬を具備し、前記本体内に設けられ、前記ピストンに対向し、且つ、当該アクチュエータが作動する前に前記ピストンとの間に膨張室(30)が画定されるように前記ピストンの初期位置から所定距離離隔した位置に配置された、ガス発生部(19)と、
前記膨張室と連通する位置に配置された、前記ガス発生部の燃焼よりも遅く燃焼する低速燃焼点火薬(38)と、
を備えたことを特徴とする、トリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項2】
前記低速燃焼点火薬(38)が、前記ピストンに形成され且つ前記膨張室(30)に向けて開口する穴(40)に、配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項3】
前記穴(40)が、軸方向に関して前記ガス発生部(19)に対向しつつ、前記膨張室に向けて開口していることを特徴とする、請求項2に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項4】
前記ピストンと、前記ピストン及び前記ロッドとのいずれかに、前記膨張室と連通するキャリブレートされた漏出流路(45)が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項5】
前記ピストン及び前記ロッドが互いに固定されており、
前記漏出流路(45)が、前記ロッドの表面から、前記ロッドと前記本体の内壁との間に画定された環状空間(36)に向けて、開口していることを特徴とする、請求項4に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項6】
前記ロッドの自由端にシーリング・ガスケット(37)が設けられており、
前記シーリング・ガスケットは、当該アクチュエータが非作動位置にあるとき、前記本体の前記自由端に対応する端部(18)において、前記本体の内壁と前記ロッドとの間に延在していることを特徴とする、請求項5に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項7】
前記低速燃焼点火薬(38)が、前記ピストンに形成され且つ前記膨張室(30)に向けて開口する穴(40)に、配置されており、
前記漏出流路(45)が、前記穴(40)と連通していることを特徴とする、請求項4に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項8】
前記ピストン内における前記穴(40)と前記漏出流路(45)との間に、フィルタ(47)が配置されていることを特徴とする、請求項7に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項9】
前記環状空間(36)が、前記ピストン(15)と前記本体(13)との間に配置されたOリング(39)を介して、前記膨張室(30)から隔離されていることを特徴とする、請求項5に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項10】
当該アクチュエータの作動の前に前記ロッドの位置及び前記膨張室の初期容量が安定するように前記ガス発生部から所定距離離隔した位置で、前記ピストンを保持する、破壊及び分離のいずれかが可能な接続部(27)を備えたことを特徴とする、請求項1に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。
【請求項11】
前記低速燃焼点火薬(38)が、前記高速燃焼点火薬を具備した前記ガス発生部に配置されており、前記膨張室(30)に向けて開口していることを特徴とする、請求項1に記載のトリガード・ストローク・アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−509813(P2012−509813A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538027(P2011−538027)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052270
【国際公開番号】WO2010/061117
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(506100082)エスエムウー (24)
【氏名又は名称原語表記】SME
【住所又は居所原語表記】2,boulevard du General Martial,Valin 75015 Paris,FRANCE