説明

自動車のキイシリンダ装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車のステアリングロック装置やドアロック装置に設けられるキイシリンダ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車の盗難防止を図るため、実開平3−111766号公報,実開平3−121982号公報,特公平4−15141号公報等に示されているように、キイプレートのキイヘッドに設けた回路チップと、キイシリンダの端部外周に外嵌固定した環状のアンテナコイルとを磁気結合させて、制御対象の例えばエンジンの駆動制御装置へ駆動許可信号を出力させてエンジンの始動を可能とし、この特定のキイプレート以外ではエンジンの始動を阻止するようにしたものが知られている。
【0003】これは具体的には図4に示すように、例えばステアリングロック装置1のキイシリンダ2の端部に環状のアンテナコイル3を外嵌固定し、キイプレート4をキイシリンダ2に挿し込んだ時に、該キイプレート4のキイヘッド4aに設けた回路チップ5と、キイシリンダ2側のアンテナコイル3とを磁気結合して回路チップ5よりアンテナコイル3にIDを送信し、アンテナコイル3で受信されたIDをアンプで増幅してエンジンの駆動制御装置(アンプ,駆動制御装置は何れも図示省略)へ送信するようにしてある。
【0004】前記アンテナコイル3は、図5にも示すように断面L字形の略円筒状のフェライト等の磁性材料からなる磁心材12を埋設した電気絶縁材からなるボビン7の外周の環状溝8にアンテナワイヤ11を巻装してコア6を形成し、このコア6の両側端部とフランジ9,10およびアンテナワイヤ巻装部を全体的に樹脂材13で被覆して形成してあって、これをキイシリンダ2の端部に外嵌して固定するようにしている。
【0005】図4中、14はステアリングコラムカバー、15はアンテナコイル3の配設部周りを装飾するエスカッションを示す。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】アンテナコイル3は、コア6の両側端部とアンテナワイヤ巻装部とを全体的に樹脂材13で被覆するために射出成形されるが、この場合、コア6を成形型16,17内の中心位置にセットするために、これら成形型16,17にコア6の端面に当接する位置決めピン18,19を突設してあることから、アンテナコイル3の両側端面にはこれら位置決めピン18,19に対応する部分に穴20が生じ、特に室内側となる端面に生じた穴20によって見栄えを損なってしまう。
【0007】このようなことから、アンテナコイル3を、キイシリンダ2の端面からステアリングコラムカバー14内の若干奥まった位置にずらして配置し、エスカッション15でこのアンテナコイル3を室内側から見えないように全体的に隠蔽する必要があり、この結果、キイシリンダ2にキイプレート4を挿し込んだ時に、キイヘッド4aの回路チップ5とアンテナコイル3との間の距離がL1 で示すように拡がって、これら回路チップ5とアンテナコイル3との送受信感度が低下する不具合を生じる。
【0008】また、前記ボビン7のフランジの一方、例えば室内側配置となるフランジ9はそのフランジ高さを高くして、アンテナワイヤ巻装時のワイヤガイドとして機能させるようにしているが、外周部を全体的に樹脂材13で被覆するため、寸法的に制約されたコイル厚みtの中では、このフランジ9のフランジ高さhを十分に高くすることができず、アンテナワイヤ11の自動巻装作業に支障を来す可能性がある。
【0009】更に、このフランジ9の端部とアンテナワイヤ巻装部との間で樹脂材13の被覆厚みに大きな差が生じることから、外周面に一般にヒケと称される歪みが生じ易く外観および品質感を損なってしまうばかりでなく、該フランジ端の樹脂材13の被覆厚みが薄いため成形不良を生じ易い不具合がある。
【0010】そこで、本発明はアンテナコイルを外観を損なうことなくキイシリンダの端面に近づけて配置することができて、アンテナコイルとキイプレートの回路チップとの送受信感度を高めることができ、しかも、アンテナコイル外周面のヒケ発生を抑制できて、アンテナコイルの外観および品質感を向上することができる自動車のキイシリンダ装置を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1にあっては、キイプレートに内蔵した回路チップとキイシリンダの端部に外嵌固定した環状のアンテナコイルとの間の磁気結合により、制御対象の制御装置を駆動する自動車のキイシリンダ装置において、ボビン外周の環状溝にアンテナワイヤを巻装してコアを形成し、該ボビン外周のアンテナワイヤ巻装部をキイシリンダに取付けられるアンプケースの基材で被覆すると共に、前記コアをその一側端部を露出させた状態でアンプケースの一側部に一体にモールド成形してある。
【0012】請求項2にあっては、ボビン外周の外部露出側のフランジを、埋設側のフランジよりもフランジ高さを高く形成し、アンテナワイヤ巻装部をアンプケース基材でこの外部露出側のフランジ端と面一に整合して被覆してある。
【0013】請求項3にあっては、アンテナコイルをその端面をキイシリンダの端面に略整合して装着してある。
【0014】
【作用】請求項1によれば、アンテナコイルはそのコアの一側端部を露出状態にしてアンプケースと一体にモールド成形してあるから、該一側端部には成形時の位置決め痕が残ることがなく、アンテナコイルの外観を向上できると共に、アンプケースをキイシリンダに固定することによってアンテナコイルの固定も行えて、部品点数および取付け作業工数を低減することができる。
【0015】請求項2によれば、ボビンの外部露出側のフランジのフランジ高さをアンテナコイル外径まで十分に高く形成できるから、該フランジをワイヤガイドとして行うアンテナワイヤのボビンへの巻装作業を容易に、かつ、スムーズに行わせることができる。
【0016】また、該一側端部のフランジ端にはアンプケース基材の被覆層がないため、アンテナワイヤ巻装部を被覆したアンプケース基材の外表面のヒケ発生を抑制でき、アンテナコイルの外観および品質感をより一層向上することができる。
【0017】請求項3によれば、アンテナコイルの端面をキイシリンダの端面に略整合して装着してあるから、キイシリンダにキイプレートを挿し込んだ時のアンテナコイルと、キイプレートの回路チップとの間の距離を狭めることができ、従って、これらアンテナコイルと回路チップとの送受信感度を高めることができる。
【0018】しかも、前記アンテナコイルの端面は成形時に位置決め痕が生じていないコアの一側端部となるから外観を損なうことがなく、送受信機能の向上と外観の向上の両立を図ることができる。
【0019】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面と共に前記従来の構成と同一部分に同一符号を付して詳述する。
【0020】図1,図2において、3Aはキイシリンダ2の端部に外嵌装着したアンテナコイルで、電気絶縁材からなるボビン7の外周の環状溝8にアンテナワイヤ11を巻装したコア6を備えている。
【0021】ボビン7は断面L字形の略円筒状のフェライト等の磁性材料からなる磁心材12を埋設して補強してあり、コア6をフランジ9側の一側端部を露出させた状態で、樹脂材からなるアンプケース21の一側部に一体にモールド成形し、ボビン7の外周のアンテナワイヤ巻装部を他方のフランジ10を含めてアンプケース基材21aで被覆して、アンテナコイル3Aを該アンプケース21と一体に形成してある。
【0022】前記ボビン7の外周の外部露出側のフランジ9は、他方のアンプケース基材21aに埋設した側のフランジ10よりもフランジ高さを高くして形成し、アンテナワイヤ巻装部をアンプケース基材21aでこのフランジ9端と面一に整合して被覆してある。
【0023】つまり、本実施例ではこのフランジ9をアンテナコイル3Aの外径まで十分にフランジ高さを高くして形成してある。
【0024】このアンテナコイル3Aは、図3に示すように成形型16,17によってアンプケース21と一体にモールド成形されるが、コア6はそのフランジ9側の一側端部を一方の成形型17の型面17a内に嵌合し、他方の成形型16の型面16a内に突設した位置決めピン18によってコア6を前記一方の成形型17の型面17a内に押えつけて位置決めした状態で、溶融樹脂をこれら成形型16,17で形成されるキャビテイに射出してアンプケース21と一体にモールド成形される。
【0025】従って、アンテナコイル3Aの一般部分のアンプケース21側、即ち、裏側となる側端部には、アンプケース基材21aに前記位置決めピン18による穴20が不可避的に生じるが、アンテナコイル3Aの表側となる側端部は、前述のようにコア6のボビン7の端部がそのままの状態で露出して、型成形時の位置決め痕が生じることはない。
【0026】前記アンプケース21内には、コンデンサ,抵抗,IC等のアンプ回路基板22が組込まれ、キャップ23がフック係着して取付けられる。
【0027】このアンプケース21は、アンテナコイル3Aをキイシリンダ2の端部に外嵌して、ケース端部に突設したブラケット24をキイシリンダ2の外周に設けた取付け座2a上にビス等によってしっかりと締結して固定され、もつて、該アンテナコイル3Aもキイシリンダ2の端部外周に固着される。
【0028】ここで、前述のようにアンテナコイル3Aの一側端部には型成形時の位置決め痕が生じていないので、該アンテナコイル3Aをその一側端部、つまり、コア6のフランジ9側の端部をキイシリンダ2の端面と略整合して該キイシリンダ2に装着してあり、エスカッション15はアンテナコイル3Aの外周に嵌合して、該アンテナコイル3Aとステアリングコラムカバー14とのパーティング部を隠蔽して装飾するようにしている。
【0029】図2中、25はアンプ回路基板22のハーネスを示す。
【0030】以上の実施例構造によれば、アンテナコイル3Aの端面をキイシリンダ2の端面に略整合して装着してあるから、キイシリンダ2にキイプレート4を挿し込んだ時に、アンテナコイル3Aとキイヘッド4aに設けた回路チップ5との間の距離を図2のL2 で示すように可及的に狭めることができ、従って、アンテナコイル3Aと回路チップ5との送受信感度を高めて確実な交信作動を行わせることができる。
【0031】また、アンテナコイル3Aの端面は型成形時に位置決め痕が生じていないコア6の一側端部が外部に露出して形成されるから外観を損なうことがなく、送受信機能の向上と外観の向上の両立を図ることができる。
【0032】しかも、アンプケース21とアンテナコイル3Aとを一体に形成してあるから、アンプケース21をキイシリンダ2に固定することによってアンテナコイル3Aの固定も行えるから、アンテナコイル専用の固定構造を必要とすることがなく、部品点数および取付け作業工数を低減してコストダウンを図ることができる。
【0033】また、ボビン7の外部露出側のフランジ9は、アンテナコイル3Aの外径寸法で十分に高く形成できるから、該フランジ9をワイヤガイドとして行うアンテナワイヤ11のボビン7への自動巻装作業をスムーズに行わせることができる。
【0034】更に、このボビン7の一側端部のフランジ9端にはアンプケース基材21aの被覆層がないため、アンテナワイヤ巻装部を被覆したアンプケース基材21aの表面のヒケ発生を抑制できて、アンテナコイル3Aの外観および品質感を向上することができると共に、該フランジ9端へのアンプケース基材21aによる被覆が不要となるから、該フランジ9端まで樹脂材で被覆するものに生じ易い成形不良を生じることがなく、製品歩留まりを良好にすることができる。
【0035】
【発明の効果】以上、本発明によれば次に列挙する効果を奏せられる。
【0036】(1)アンテナコイルはそのコアの一側端部を露出状態にしてアンプケースと一体にモールド成形してあるから、該一側端部には成形時の位置決め痕が残ることがなく、アンテナコイルの外観を向上することができる。
【0037】(2)アンプケースをキイシリンダに固定することによってアンテナコイルの固定も行えるから、アンテナコイル専用の固定構造が必要となることがなく、部品点数および取付け作業工数を低減してコストダウンを図ることができる。
【0038】(3)ボビンの一側端部のフランジはアンプケース基材に被覆されずに外部露出となっているから、該フランジをアンテナコイルの外径寸法まで十分にフランジ高さを高く形成でき、従って、コアの形成時に該フランジをワイヤガイドとして行うアンテナワイヤのボビンへの自動巻装作業をスムーズに行わせることができる。
【0039】(4)ボビンの一側端部のフランジ端にはアンプケース基材の被覆層がなく、ワイヤ巻装部をアンプケース基材でこのフランジ端と面一に整合して被覆することにより、これらフランジ端とワイヤ巻装部との間で被覆層の厚薄部分が生じることがなく、アンテナコイル表面のヒケ発生を抑制できて外観および品質感をより一層向上することができる。
【0040】(5)アンテナコイルの一側端部には成形時の位置決め痕がなく、従って、該一側端部をキイシリンダ端面と略整合して取付けて該一側端部が外部に露出しても外観を損なうことがなく、このアンテナコイルのキイシリンダ端面との整合装着によって、キイシリンダにキイプレートを挿し込んだ際にアンテナコイルと、キイプレートのチップ回路との間の距離が狭まって相互の送受信感度が高まり、確実な交信作動を行わせることができて信頼性を一段と高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の分解斜視図。
【図2】図1のA−A線に沿う組付状態の断面図。
【図3】図1のB−B線に沿う断面図。
【図4】従来の構造を示す断面図。
【図5】従来の構造のコイルアンテナの断面図。
【符号の説明】
2 キイシリンダ
3A アンテナコイル
4 キイプレート
5 回路チップ
6 コア
7 ボビン
8 環状溝
11 アンテナワイヤ
21 アンプケース
21a アンプケース基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 キイプレートに内蔵した回路チップとキイシリンダの端部に外嵌固定した環状のアンテナコイルとの間の磁気結合により、制御対象の制御装置を駆動する自動車のキイシリンダ装置において、ボビン外周の環状溝にアンテナワイヤを巻装してコアを形成し、該ボビン外周のアンテナワイヤ巻装部をキイシリンダに取付けられるアンプケースの基材で被覆すると共に、前記コアをその一側端部を露出させた状態でアンプケースの一側部に一体にモールド成形したことを特徴とする自動車のキイシリンダ装置。
【請求項2】 ボビン外周の外部露出側のフランジを、埋設側のフランジよりもフランジ高さを高く形成し、アンテナワイヤ巻装部をアンプケース基材でこの外部露出側のフランジ端と面一に整合して被覆したことを特徴とする請求項1記載の自動車のキイシリンダ装置。
【請求項3】 アンテナコイルをその端面をキイシリンダの端面に略整合して装着したことを特徴とする請求項1,請求項2記載の自動車のキイシリンダ装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2624187号
【登録日】平成9年(1997)4月11日
【発行日】平成9年(1997)6月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−199763
【出願日】平成6年(1994)8月24日
【公開番号】特開平8−60916
【公開日】平成8年(1996)3月5日
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【参考文献】
【文献】特開 平3−175605(JP,A)
【文献】特開 平4−257206(JP,A)
【文献】特開 昭63−167859(JP,A)
【文献】実開 平3−121982(JP,U)