説明

自動車のドア侵入防止構造

【目的】 ドア開状態における見映え及び車室への乗降性を損ねることなく、側突時におけるドアの車室側への侵入防止を確実ならしめるとともに衝撃吸収性能を高める。
【構成】 車体側面1aに形成され且つ車体前後方向に延びるサイドシル2によってその下端縁部が画成されたドア開口部11,12に、アウターパネル21とインナーパネル22とから構成されるドア19を開閉可能に取り付ける一方、上記ドア開口部11,12の下端縁部の車体後方寄りの隅部11a,12aに、上記サイドシル2に連続してこれからドア開口部11,12の内方へ延出させた状態で衝撃支持部13,14を形成するとともに、上記ドア19のアウターパネル21とインナーパネル22の間に、インパクトバー30と、ドア閉状態において上記衝撃支持部13,14に対応する位置にあってドア厚さ方向に適度の弾性を有する衝撃吸収部32とを設けたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車の側突時におけるドアの車室側への侵入防止構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車においては、衝突時における乗員の保護性能を高めるための手段が種々講じられており、その一環として、車体側方からの衝突時、即ち、側突時においてドアが車室側に侵入するのを防止する手段が種々提案されている。例えば、実公平3ー32407号公報には、ドアの反ヒンジ側の端部に車体側に向って突出するピンを設け、ドアの閉状態においてはこのドア側のピンを車体側の穴部に嵌入させて連結するようにしたものが開示されている。
【0003】このものは、ドアはそのヒンジ側の端部以外の部分においては該ドアの周縁部がドア開口部とを車室内外方向において重合させることで該ドアの車室への侵入を阻止する構成となっているが、この両者の重合幅が開口部面積の確保等の観点から余り大きくできないことから、侵入防止の確実性をさらに高めるための補助手段として上記ピンを設けたものである。
【0004】一方、実公平3ー23370号公報には、上記公知例とはその視点を少し変えて、側突時にドアそのものの車室内方への変形そのものを抑制せんとして、該ドアの内部にその幅方向に延びるインパクトバーを配置し、該ドアの厚さ方向における剛性アップを図ったものが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、前者においては、ピンの係合作用によって側突時におけるドアの車室側への侵入防止効果は得られるものの、該ピンがドアの端部に突出していることからドア開状態における見映えが悪く、また後者においてはドアの側突による変形は抑制できるものの、該ドアの車室側への侵入防止性能を高めるために該ドアと車体との重合幅を拡大した場合には車室への乗降性能が阻害されるという問題がある。
【0006】そこで本発明は、ドア開状態における見映え及び車室への乗降性を損ねることなく側突時におけるドアの車室側への侵入防止を確実ならしめるとともに衝撃吸収性能を高め得るようにした自動車のドア侵入防止構造を提案せんとしてなされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として、車体側面に形成され且つ車体前後方向に延びるサイドシルによってその下端縁部が画成されたドア開口部に、アウターパネルとインナーパネルとから構成されるドアを開閉可能に取り付ける一方、上記ドア開口部の下端縁部の車体後方寄りの隅部に、上記サイドシルに連続してこれからドア開口部の内方へ延出させた状態で衝撃支持部を形成し、さらに、上記ドアのアウターパネルとインナーパネルの間に、車体前後方向に延びるインパクトバーと、ドア閉状態において上記衝撃支持部に対応する位置にあってドア厚さ方向に適度の弾性を有する衝撃吸収部とを設けたことを特徴としている。
【0008】
【作用】本発明ではかかる構成とすることにより次のような作用が得られる。即ち、ドア閉状態においてはドアの内部に配置した衝撃吸収部が車体のドア開口部側に形成した衝撃支持部に対応せしめられている。従って、側突の発生によってドアに衝撃力がかかり、該ドアが車室側に押し付けられる場合、ドアのインナーパネルを介して上記衝撃吸収部が上記衝撃支持部に当接することにより、該衝撃吸収部はその弾性により衝撃力を適度に吸収しつつ上記衝撃支持部に支持されることで該ドアの車室側への侵入を抑制する。また、この場合、上記衝撃支持部が車体の強度メンバーであるサイドシルに連続して形成されていることから、上記衝撃力は上記衝撃吸収部から衝撃支持部を介して該サイドシル側にスムーズに分散され、それだけ該衝撃力に対する支持性能が高められることになる。
【0009】さらに、ドアの内部に設けられたインパクトバーによって該ドアそのものの車室側への変形も抑制されるが、このようにドアの変形が抑制されるということは、側突変形に起因する上記ドアの周縁部分とドア開口部との重合幅の減少が抑制されるということであり、結果的に該ドアの車室側への侵入防止作用が促進されるものである。
【0010】一方、車体側に形成される上記衝撃支持部をドア開口部の下端縁部の車体後方寄りの隅部に設けているが、この隅部の車室側寄り部分には通常シートが配置されているので該隅部は元々乗員の乗降性にはほとんど関与しない部分であり、従って、乗員の乗降性を良好に確保しつつ上記衝撃支持部を可及的に大きく形成して該衝撃支持部とドアとの車室内外方向における重合範囲を拡大しもって該衝撃支持部と上記衝撃吸収部とによるドア侵入防止作用を高めることが可能ならしめられるものである。
【0011】また、この場合、上記インパクトバーと衝撃吸収部とがともにドアの内部に配置されていることから、ドア該状態における見映えにはなんら影響を及ぼさない。
【0012】
【発明の効果】従って、本発明の自動車のドア侵入防止構造によれば、■ ドアの内部に設けた衝撃吸収部とドア開口部の乗員の乗降性能に影響のない位置に設けた衝撃支持部とによって、乗員の乗降性を阻害することなく且つドア開状態での見映えを損ねることなく、側突時におけるドアの車室側へ侵入を効果的に防止することができる、■ 上記衝撃吸収部の弾性によって衝撃力を効率的に吸収するとともに、該衝撃力を衝撃支持部を介してサイドシル側にスムーズに分散させることができることから、ドアを含めた車体全体における衝撃吸収性能が向上し、それだけ乗員に与える影響が軽減される、等の効果が得られるものである。
【0013】
【実施例】以下、本発明の自動車のドア侵入防止構造を実施例に基づいて具体的に説明すると、図1には本発明の実施例にかかるドア侵入防止構造を備えた自動車の車体の側部が、また図2には該車体1を車室側から見た場合の要部がそれぞれ示されており、同各図において符号2は車体1の下端両側部を車体前後方向に向けて配置されたサイドシル、3は該サイドシル2の中間位置に連続してこれから上方へ立ち上がるセンターピラー、4はフロントピラー、5はリヤピラーであり、該リヤピラー5の下端部はタイヤハウス6を介して上記サイドシル2に連結されている。そして、該車体1の側面1aには、上記各ピラー3,4,5によって車体前後方向に画成されるとともに上記サイドシル2によってその下端縁部が画成された前後二つのドア開口部11,12が形成されている。尚、この各ドア開口部11,12にはそれぞれ後述のドア19が取り付けられる。
【0014】さらに、上記各ドア開口部11,12の下端縁部の車体後方側の隅部11a,12aには、図1及び図2に示すように、上記サイドシル2と上記センターピラー3の下端部に跨がり且つフロント側ドア開口部11の内方側へ延出する略三角リブ状の衝撃支持部13と、上記サイドシル2と上記タイヤハウス6の下端部に跨がり且つリヤ側ドア開口部12の内方側へ延出する略三角リブ状の衝撃支持部14とが、それぞれ形成されている。
【0015】また、この各衝撃支持部13,14は、図4R>4に示すように、上記サイドシル2の上面側部分を局部的に上方へ膨出させて形成されている。また、この各衝撃支持部13,14の大きさは、上記各ドア開口部11,12の後方隅部11a,12aに対応するようにして車室内に配置されるフロントシート16及びリヤシート17に対してその前方あるいは上方へ突出しないような大きさに設定される。即ち、乗員が上記各ドア開口部11,12から乗降する際にその邪魔にならないような大きさ形状とされている。
【0016】尚、上記左右一対のサイドシル2,2は、図2に示すように車幅方向に延びるクロスメンバー8,9及びフロアパネル7により連結されている。
【0017】上記ドアは、これを上記フロント側ドア開口部11側に装着されるドア19を例にとって説明すると、図3及び図4に示すように、アウターパネル21とインナーパネル22で構成されるドア本体20の上端にサッシュ26を取り付けて構成されている。また、このこのドア本体20の内部には、ウィンドガラス24がウィンドレギュレータ25により昇降可能に支持された状態で配置されるとともに、後述のインパクトバー30が配置されている。
【0018】上記インパクトバー30は、上記ドア本体20の幅寸法(車体前後方向寸法)に近い長さのプレート体に、プレス成形によってその長手方向に延びる複数のビード34,34,・・を形成して構成されている。また、該インパクトバー30の一端30a側には、これに連続して下方に延出する延設部31が一体的に形成されるとともに、該延設部31には、これをその一側から他側に向けて略矩形状に膨出させてなる衝撃吸収部32が形成されている。
【0019】そして、このインパクトバー30は、上記衝撃吸収部32が形成された一端30a側が車体後方側に位置し、他端30bが車体前方側に位置するようにし、且つ上記衝撃吸収部32の突出方向を上記インナーパネル22側に向けた状態で、上記ドア本体20の内部に配置されている。尚、このインパクトバー30は、その両端30a,30bをそれぞれ上記アウターパネル21とインナーパネル22の周縁固定部に支持させることでドア本体20側に固定される。
【0020】このインパクトバー30の装着状態においては、図4に示すように、上記衝撃吸収部32の頂面32aは上記インナーパネル22の内面に近接せしめられるとともに、該ドア19を車体1の上記フロント側ドア開口部11に取り付け且つこれを閉じた状態においては該衝撃吸収部32がアウターパネル21を介して上記衝撃支持部13に対応するようになっている。また、ドア本体20の上端側を除く他の周縁部19aは、上記サイドシル2あるいは上記各ピラー3,4,5と重合せしめられている。
【0021】尚、図4において符号23はドア19のドアトリム、27はドアヒンジ、41は上記フロアパネル7の上面に敷設されたマット41、42は該マット41の端部を押さえるマットホルダー42である。
【0022】このような車体構成及びドア構成をもつ自動車において側突が発生した場合には、上記ドア19に車外側から大きな衝撃力が入力される。ドア19に側突による衝撃力が入力されると、先ずドア19においては、そのアウターパネル21が車室側へ変形されるが、該アウターパネル21の背面側にインパクトバー30が配置されているため、該インパクトバー30によりこの衝撃力が支持され該アウターパネル21の変形は比較的規模が小さく抑えられる。従って、このアウターパネル21の変形がインナーパネル22側まで波及して該インナーパネル22が車室側に変形するというようなことが未然に防止される。
【0023】一方、ドア19自身の車室側への侵入であるが、これは基本的にはその枢支部が車体に対してヒンジ結合されその結合力が高いこと、及びドア本体20の周縁部19aがフロント側ドア開口部11の周縁部のサイドシル2及び各ピラー3,4,5と重合していることによって阻止されるわけであるが、実際には上記重合部分の範囲が小さいことから、場合によってはドア本体20の変形に伴って全体がヒンジ結合側に引き寄せられた状態となり、重合範囲が狭小化することは既述の通りである。
【0024】ところが、この実施例のものにおいては、ドア本体20が車室側へ所定量以上侵入した時点で、上記衝撃吸収部32が車体1側の衝撃支持部13に当接することでそれ以上の侵入が確実に阻止されるものである。即ち、上記衝撃支持部13がフロント側ドア開口部11の内方に延出した状態で形成されていることから、例えドア本体20の変形によってその周縁部19aのフロント側ドア開口部11側に対する重合範囲が狭くなったとしても、該衝撃支持部13と衝撃吸収部32との係合状態は影響を受けることなくそのまま維持されるので、ドア19の車室への侵入が確実に阻止されるものである。
【0025】また、この場合、衝撃吸収部32はプレートを膨出させて形成されたものであってこれに荷重がかかった場合には、該衝撃吸収部32は適度に潰れ変形を生じる(即ち、該衝撃吸収部32はドア厚さ方向に適度の弾性を有するということができる)。従って、この衝撃吸収部32の潰れ変形によって衝撃力が効果的に吸収・緩和され、該衝撃力が車体全体に及ぼす影響が可及的に小ならしめられるものである。即ち、上記衝撃吸収部32と衝撃支持部13とによって、ドア19の車室側への侵入防止作用と衝撃力の吸収・緩和作用とが同時に達成されるものである。
【0026】さらに、この実施例においては、上記衝撃吸収部32をインパクトバー30と一体的に形成しているので、該衝撃吸収部32部分にかかる荷重のみならずインパクトバー30にかかる荷重も同時に衝撃支持部13を介してサイドシル2側へ分散支持されることとなり、車体1全体としての荷重支持性能も向上するものである。
【0027】また、上記衝撃支持部13をフロント側ドア開口部11の後方隅部11aに形成しているので、側突衝撃力の支持作用を良好ならしめられる。即ち、ドア19の車体前方寄り部分はドアヒンジ27,27によって車体1に対して強固に結合されるが、車体後方寄り部分はドアロック(図示省略)による結合のみであってその結合力(即ち、拘束力)は低い。従って、この結合力の低い部分に上記衝撃吸収部32を形成してこれを上記衝撃支持部13を介して車体1側に支持させることで結合力の低いことを補填してドア19全体として高い支持性能が確保されるものである。
【0028】さらに、このように衝撃支持部13をフロント側ドア開口部11の後方隅部11aに設けた場合には、この部分が元々乗降性能になんら影響のない部分であることから、該衝撃支持部13の形成にもかかわらず、乗員の乗降性能が良好に維持されるものである。
【0029】また、上記衝撃吸収部32は上記ドア本体20の内部に配置されて外部には露出しない構造となっていることから、ドア開状態における見映えも良好に維持され、それだけ商品価値の向上にも寄与できるものである。
【0030】尚、この実施例においては、上記衝撃吸収部32をインパクトバー30と一体的に形成しているが、他の実施例においてはこれを別体形成することもできるものである。また、この衝撃吸収部32は、例えば、適宜に小孔、スリット等を形成してその剛性を調整することで、衝撃力の支持性能と吸収性能とを任意に設定することができるものである。さらに、該衝撃吸収部32として、この実施例のようにプレートを膨出形成して構成する他に、例えばこれを適度の弾性を有するラバー体で構成したり、適度のバネ力をもつスプリングとかダンパー等で構成することも可能である。また、衝撃吸収部32に対応するドアインナーパネル22の車幅方向面部にスリット、ビード等を入れ、該ドアインナーパネル22と衝撃吸収部32とで共働して衝撃を吸収させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例にかかるドア侵入防止構造を備えた自動車の車体側部の斜視図である。
【図2】図1に示した車体側部の車内側からの要部斜視図である。
【図3】図1の車体のドア開口部に装着されるドアの一部破断斜視図である。
【図4】図2のIV-IV部と図3のIV-IV部を合成した状態の要部縦断面図である。
【符号の説明】
1は車体、2はサイドシル、3はセンターピラー、4はフロントピラー、5はリヤピラー、6はタイヤハウス、7はフロアパネル、11はフロント側ドア開口部、12はリヤ側ドア開口部、13及び14は衝撃支持部、16はフロントシート、17はリヤシート、19はドア、20はドア本体、21はアウターパネル22はインナーパネル、23はドアトリム、24はウィンドガラス、25はウィンドレギュレータ、26はサッシュ、27はドアヒンジ、30はインパクトバー、31は延設部、32は衝撃吸収部、34はビード、41はマット、42はマットホルダーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車体側面に形成され且つ車体前後方向に延びるサイドシルによってその下端縁部が画成されたドア開口部に、アウターパネルとインナーパネルとから構成されるドアを開閉可能に取り付ける一方、上記ドア開口部の下端縁部の車体後方寄りの隅部に、上記サイドシルに連続してこれからドア開口部の内方へ延出させた状態で衝撃支持部を形成し、さらに、上記ドアのアウターパネルとインナーパネルの間に、車体前後方向に延びるインパクトバーと、ドア閉状態において上記衝撃支持部に対応する位置にあってドア厚さ方向に適度の弾性を有する衝撃吸収部とを設けたことを特徴とする自動車のドア侵入防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−1145
【公開日】平成6年(1994)1月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−160791
【出願日】平成4年(1992)6月19日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)