説明

自動車のVOC揮発成分除去構造

【課題】 自動車の部品から発生するVOC揮発成分の吸着機能を長期間維持する自動車のVOC揮発成分除去構造を提供する。
【解決手段】 自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板3とドアトリム11の間に介装されるドアホールシール10の表面にVOC吸収剤18を塗布する。VOC吸収剤18は、スプレーガンまたは刷毛によりドアホールシール10の表面に塗布することができる。ドアホールシール10の表面に微細な凹凸10bを形成するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用内装材の基材から発生する揮発性有機化合物(以下VOCという)の揮発成分が車室内に流入するのを防止する自動車のVOC揮発成分除去構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車の臭気やVOC揮発成分の除去構造としては、特許文献1に記載のように、自動車用内装材の基材から発生する臭気を車室内に出さないようにするために、基材の車室外側に接着層を介して配設された不織布に活性炭などの吸着剤をアクリルエマルジョンなどの不織布バインダー樹脂に分散させコーティングまたはディッピングする構成が知られている。
【0003】
また、特許文献2に記載のように、自動車用ドアトリムの成形時に基材から発生するVOCの揮発成分をドアトリムの加飾シートに含ませたVOC吸着剤により吸着し、更に車室内に発生するVOC揮発成分を吸着する構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−334491号公報
【特許文献2】特開2006−62556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1と特許文献2に記載されている構成では、自動車に適用されるまでの間に、活性炭などの吸着剤やVOC吸着剤が保管場所の臭気やVOC揮発成分を相当量吸収してしまうため、自動車に適用された後、脱臭機能やVOC揮発成分の吸着機能を長期間維持することが困難であった。
【0006】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動車の部品から発生するVOC揮発成分の吸着機能を長期間維持する自動車のVOC揮発成分除去構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板とドアトリムの間に介装されるドアホールシールの表面にVOC吸収剤を塗布するものである。
【0008】
前記VOC吸収剤は、スプレーガンまたは刷毛により前記ドアホールシールの表面に塗布することができる。
【0009】
また、前記ドアホールシールの表面に微細な凹凸を形成するのが好ましい。
【0010】
請求項4に係る発明は、自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板とドアトリムの間に介装されるドアホールシールにVOC吸収剤を内装するものである。
【0011】
前記VOC吸収剤は、前記ドアホールシールの表面に形成されたポケット部に内装することができる。
【0012】
また、前記VOC吸収剤は、前記ドアホールシールによって形成された細孔を有する袋部に内装することもできる。
【0013】
請求項7に係る発明は、自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板とドアトリムの間に介装されるドアホールシールの素材に予めVOC吸収剤を混練してドアホールシールを成形するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、ドアホールシールにVOC吸収剤を塗布する構成であるため、本発明を自動車に適用した後に自動車の部品から発生するVOC揮発成分の吸着機能が発揮されるので、VOC揮発成分の吸着機能を長期間維持することができる。
【0015】
また、スプレーガンまたは刷毛によりドアホールシールの表面にVOC吸収剤を塗布すれば効率がよい。更に、ドアホールシールの表面に微細な凹凸を形成すれば、ドアホールシールに対するVOC吸収剤の付着効率が向上する。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、ドアホールシールにVOC吸収剤を内装する構成であるため、本発明を自動車に適用した後に自動車の部品から発生するVOC揮発成分の吸着機能が発揮されるので、VOC揮発成分の吸着機能を長期間維持することができる。
【0017】
また、VOC吸収剤をドアホールシールの表面に形成したポケット部に内装すれば、容易にVOC揮発成分の吸着機能を発揮させることができる。更に、VOC吸収剤をドアホールシールによって形成された細孔を有する袋部に内装すれば、容易にVOC揮発成分の吸着機能を発揮させることができる。
【0018】
請求項7に係る発明によれば、ドアホールシールの素材に予めVOC吸収剤を混練してVOC揮発成分の吸着機能を有するドアホールシールを成形するので、ドアホールシールに対してVOC揮発成分の吸着機能を発揮させるための加工作業を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】自動車ドアの説明図で、(a)はドア内板にドアホールシールを貼着した状態を示す図、(b)はドアトリムを組み付けた状態を示す図
【図2】図1(b)のA−A線断面拡大矢視図
【図3】本発明の第1の実施の形態を構成するための説明図
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるドアホールシールの断面図で、(a)は車室内側面に凹凸を形成した図、(b)は車室内側面にVOC吸収剤を塗布した図、(c)は両側面に凹凸を形成した図、(d)両側面にVOC吸収剤を塗布した図
【図5】本発明の第2の実施の形態におけるドアホールシールの断面図で、(a)はポケット部にVOC吸収剤を収納した図、(b)は車室外側面にも微細孔を設けた図
【図6】本発明の第3の実施の形態におけるドアホールシールの断面図で、(a)は袋部にVOC吸収剤を収納した図、(b)は車室外側シール部にも微細孔を設けた図
【図7】本発明に係る自動車のVOC揮発成分除去構造の説明図で、(a)はVOC揮発成分除去構造を施したドアホールシールの平面図、(b)は自動車ドアの板金構造部にドアホールシールを貼着した状態を示す図、(c)はドアトリムの正面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1と図2に示すように、自動車ドア1の板金構造部は、ドアサッシ部2とドア内板3とドア外板4からなり、ドア内板3とドア外板4との間に形成された袋状空間5には、ドアガラス6、ドアガラス6を昇降させる駆動モータを含むドアレギュレータ7、そのスイッチ類及び配線類が内装されている。
【0021】
駆動モータを含むドアレギュレータ7、そのスイッチ類及び配線類は、ドア内板3に形成された開口部8から袋状空間5内に挿入され組み付けられる。そして、袋状空間5へのドアレギュレータ7などの組み付けが完了すると、開口部8の周囲に接着剤9が塗布され、次いで防錆目的で、ドアホールシール10が貼着され、袋状空間5は密閉される。ドアホールシール10は、ポリエチレンやポリプロピレンなどよりなる。
【0022】
次いで、ドアトリム11がドアホールシール10を介してドア内板3に取り付けられる。ドアトリム11は、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂やABS樹脂などの基材12と、基材12の表面に接着剤により貼着されるPET(ポリエチレンテレフタレート)などの化学繊維、不織布やPVC(ポリ塩化ビニール)などの表皮材13からなる。
【0023】
そして、基材12には、表皮材13を介してアームレスト14、ドアポケット15、内板開口部3aに取り付けられたスピーカを覆うスピーカグリル16、内板開口部3bに取り付けられたドアガラス昇降スイッチ17などが組み付けられている。
【0024】
本発明に係る自動車のVOC揮発成分除去構造の第1の実施の形態は、図3 に示すように、ドアホールシール10にVOC吸着剤18を水に分散させた分散水溶液をスプレーガン19または刷毛により塗布する。この分散水溶液に増粘剤を添加することにより、ドアホールシール10への付着性が向上する。
【0025】
VOC揮発成分を吸着除去するために使用するVOC吸着剤18としては、特に限定されないが、シリカ、酸化アルミニウムなどの多孔質微粒子体、活性炭などの使用が可能である。更に、抗菌・防カビ剤を添加することにより、菌・カビによる分解臭を低減する効果も得られる。
【0026】
また、ドアホールシール10の表面に、予めVOC揮発成分を殆ど排出しない低VOC水系接着剤または無溶剤系接着剤を塗布し、この上に粉末状または粒状のVOC吸着剤18を散布し、乾燥硬化させるようにしてもよい。水系接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系エマルション形、EVA樹脂系エマルション形、アクリル樹脂系エマルション形、合成ゴム系ラテックス系などを使用することができる。
【0027】
また、図4(a)に示すように、ドアホールシール10の車室内側面10aにシボ形状などの微細な凹凸10bを形成して、その面粗度を予め低下させることにより、図4(b)に示すように、ドアホールシール10の車室内側面10aへのVOC吸着剤18を含有する分散水溶液の付き回り性が向上する。更に、図4(c)に示すように、ドアホールシール10の車室外側面10cの接着剤塗布部以外についても微細な凹凸10bを形成すれば、図4(d)に示すように、よりドアホールシール10に対するVOC吸着剤18の付着効率が高まる。
【0028】
本発明の第2の実施の形態は、図5(a)に示すように、ドアホールシール20の車室内側面20aにポケット部21を形成し、ポケット部21の中にゲル状、粉末状または粒状のVOC吸着剤18を収納する。車室内側に臨むポケット部21の壁部21aには、ポケット部21内に通じる複数の微細孔22が設けられている。このような微細孔22を設けることにより、自動車の部品から発生するVOC揮発成分を効率よく吸着することができる。
【0029】
また、図5(b)に示すように、ポケット部21を形成するドアホールシール20の車室外側面20bにも、ポケット部21内に通じる複数の微細孔22を設ければ、より自動車の部品から発生するVOC揮発成分を効率よく吸着することができる。
【0030】
本発明の第3の実施の形態は、図6(a)に示すように、車室内側シール部30aと車室外側シール部30bからなるドアホールシール30によって形成された袋部31にゲル状、粉末状または粒状のVOC吸着剤18を収納する。袋部31を形成する車室内側シール部30aには、袋部31内に通じる複数の微細孔32が設けられている。このような微細孔32を設けることにより、自動車の部品から発生するVOC揮発成分を効率よく吸着することができる。
【0031】
また、図6(b)に示すように、袋部31を車室内側シール部30aと共に形成する車室外側シール部30bにも、袋部31内に通じる複数の微細孔32を設ければ、より自動車の部品から発生するVOC揮発成分を効率よく吸着することができる。
【0032】
本発明の第4の実施の形態は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの素材にVOC吸着剤42を予め混練し、このようなVOC吸着剤18を混練した材料でドアホールシール40を射出成形するものである。すると、ドアホールシール40自体で、自動車の部品から発生するVOC揮発成分を効率よく吸着することができる。
【0033】
VOC吸着剤18としては、例えばニュー・エコ・マテリアル(株)製の製品名セラフィックスAMまたはセラフィックスDHFPなどを用いることができる。これらは、SiO2−TiO2−P25−Al23−Na2O系水溶性セラミックスの無機酸水溶液からなり、適宜の抗菌剤または防カビ剤を分散したコーティング剤である。
【0034】
多孔質微粒子体として酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、分解触媒として二酸化チタン、乾燥剤として五酸化リン、炭酸ガス吸収剤として酸化ナトリウムが含有されている。また、適宜に増粘剤を添加することにより、水溶液の粘性を増すこともできる。
【0035】
粉末状または粒状として使用する場合には、水溶液に微細繊維を添加し、この微細繊維に添着させるか、またはハニカムセラミクスに水溶液を含浸・固化させることにより、微粒子状態で無機酸水溶液に分散された多孔質セラミックスを粉末状または粒状にすることができる。
【0036】
このようにして製造された図7(a)に示すドアホールシール10,20,30,40を、図7(b)に示すように、ドア内板3に接着剤9で貼着し、更にドアホールシール10,20,30,40の上から、図7(c)に示すドアトリム11をドア内板3にねじ29で固定すると、図1(b)に示すような自動車ドア1が完成する。
【0037】
すると、ドアトリム11の基材12などから発生するVOC揮発成分を確実にVOC吸着剤18によって吸収することができ、スピーカグリル16やドアガラス昇降スイッチ17などの部品が取り付けられるドアトリム11の開口部11a,11bなどによる隙間或いはドア内板3とドアトリム周縁11cによる隙間から車室内にVOC揮発成分が洩れ出るのを防止することができる。
【0038】
また、車室内の他の部品から発生するVOC揮発成分も、ドアトリム11の開口部11a,11bなどによる隙間を通って、VOC吸着剤18により吸収されて除去される。また、ドアトリム11を構成するPET(ポリエチレンテレフタレート)などの化学繊維、不織布やPVC(ポリ塩化ビニール)などの表皮材13には、殆ど通気性の無い素材を使用し、表皮材13の裏面には通気性の無いシート材が介装されているため、表皮材13側からVOC揮発成分が洩れ出すことはない。
【0039】
更に、ドアホールシール10,20,30,40の車室外側面にVOC吸着剤18を設ければ、ランチャンネルやロアチャンネルなどの自動車ドア1に装着される部品から発生するVOC揮発成分も確実に吸着し、VOC揮発成分が車室内に流入することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明を自動車に適用した後にVOC揮発成分の吸着機能が発揮されるので、自動車の部品から発生するVOC揮発成分の吸着機能を長期間維持することができる自動車のVOC揮発成分除去構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…自動車ドア、2…ドアサッシ部2、3…ドア内板、4…ドア外板、5…袋状空間、9…接着剤、10,20,30,40…ドアホールシール、10a,20a…車室内側面、10b…凹凸、10c,20b…車室外側面、11…ドアトリム、12…基材、13…表皮材、18…VOC吸着剤、19…スプレーガン、21…ポケット部、21a…壁部、22,32…微細孔、30a…車室内側シール部、30b…車室外側シール部、31…袋部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板とドアトリムの間に介装されるドアホールシールの表面にVOC吸収剤を塗布することを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車のVOC揮発成分除去構造において、前記VOC吸収剤は、スプレーガンまたは刷毛により前記ドアホールシールの表面に塗布されることを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動車のVOC揮発成分除去構造において、前記ドアホールシールの表面に微細な凹凸が形成されていることを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。
【請求項4】
自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板とドアトリムの間に介装されるドアホールシールにVOC吸収剤を内装することを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。
【請求項5】
請求項4に記載の自動車のVOC揮発成分除去構造において、前記VOC吸収剤は、前記ドアホールシールの表面に形成されたポケット部に内装されることを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。
【請求項6】
請求項4に記載の自動車のVOC揮発成分除去構造において、前記VOC吸収剤は、前記ドアホールシールによって形成された細孔を有する袋部に内装されることを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。
【請求項7】
自動車に設けるVOC揮発成分除去構造であって、ドア内板とドアトリムの間に介装されるドアホールシールの素材に予めVOC吸収剤を混練してドアホールシールを成形することを特徴とする自動車のVOC揮発成分除去構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−225186(P2011−225186A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99328(P2010−99328)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】