説明

自動車ボディ昇降装置

【課題】自動車ボディを安定且つ安全に昇降できるとともに、昇降装置を収容するピットを組立ラインに設けることを不要として組立ラインのレイアウトを容易に変更でき、自動車ボディを前後方向に傾けて作業をし易くした自動車ボディ昇降装置を提供すること。
【解決手段】自動車組立ライン上の組立ゾーンに移送されてきた自動車ボディを下方に設置された複数のリフタ100で昇降させる自動車ボディ昇降装置10において、前記リフタ100が、ボールネジ式直線作動機113によりチェーン111の一端部を水平方向に押し引きして該チェーン111の他端部を垂直方向に偏向して自立させた状態で昇降させる昇降機構110と該チェーン111の他端部を支持するとともに垂直方向に自立誘導させるリンク機構120とで構成されている自動車ボディ昇降装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の組立ラインで用いられる自動車ボディの昇降装置に関し、特に、機高が低く小型で組立ラインに昇降装置を収容するピットを不要とした自動車ボディ昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の組立ラインで用いられている自動車ボディ昇降装置としては、昇降台に設けたクロスリンク機構を油圧シリンダ等で駆動させるシザーズ式リフタを用い、作業時に自動車ボディを水平に昇降させるものがある。
【0003】
また、水平方向に収納され、正逆回転可能なスプロケットにより繰り出されて垂直方向に自立して昇降するチェーンの一端にテーブルを固定したリフタを用いた昇降装置も自動車部品の搬送手段として自動車の組立ラインで用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
さらに、水平方向に収納され、ボールネジ式直線作動機により繰り出されて垂直方向に自立して昇降するチェーンに昇降台を固定し、昇降台を水平に昇降させるようにシザース式リンク機構を昇降台に設け、パチンコ球等を収容した箱を搬送するようにしたリフタもある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002ー284491号公報
【特許文献2】特開平11ー49487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したようなシザーズ式のリフタを用いた自動車ボディ昇降装置では、クロスリンク機構の交角が昇降初期状態、即ち、昇降台の最下降位置で最大となってリフタを上昇させる分力が最大となり、このような昇降初期状態に合わせて駆動力を設定する必要があるため、油圧等の駆動機構の大型化が避けられず、そのため昇降装置を収容するピットを組立ラインに設けなければならないので、組立ラインのレイアウトの変更が容易に行えないという問題があり、また、作業時に自動車ボディを水平に上昇させるため、作業者は自動車ボディの下方に潜り込んで作業しなければならず、作業に負担が掛かるという問題もある。
【0006】
上述した垂直方向に自立するチェーンを用いたリフタでは、シザーズ式のリフタのような分力の問題はないため、駆動源を小型化し得るが、物品を載置するテーブルを水平に昇降させるように、リフタを単独で使用するものであり、車体のような重量物を昇降される場合には、自立して昇降するチェーンが座屈する恐れがあり安定性及び安全性に欠けるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題、すなわち、本発明の目的は、上述したような従来技術の問題点を解決するものであって、自動車ボディを安定且つ安全に昇降できるとともに、昇降装置を収容するピットを組立ラインに設けることを不要として組立ラインのレイアウトの変更が容易にでき、作業時に自動車ボディを前後方向に傾けて作業をし易くした自動車ボディ昇降装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、本請求項1に係る発明は、自動車組立ライン上の組立ゾーンに移送されてきた自動車ボディを下方に設置された複数のリフタで昇降させる自動車ボディ昇降装置において、前記リフタが、ボールネジ式直線作動機によりチェーンの一端部を水平方向に押し引きして該チェーンの他端部を垂直方向に偏向して自立させた状態で昇降させる昇降機構と該チェーンの他端部を支持するとともに垂直方向に自立誘導させるリンク機構とで構成されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
また、本請求項2に係る自動車ボディ昇降装置は、請求項1に係る発明において、前記リフタが、個別に作動するボールネジ式直線作動機をそれぞれ備えるとともに自動車ボディの前後位置に配置されて、自動車ボディを前後方向に傾斜昇降させるように構成されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
さらに、本請求項3に係る自動車ボディ昇降装置は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記自動車ボディの前後に配置されたリフタの一部を構成するそれぞれのチェーンが、自動車ボディの前後方向に向けて押し出されるように前後対称に配置されていることにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上述したような構成を備えているとによって、以下のような特有の効果を奏することができる。
すなわち、本請求項1に係る発明は、自動車ボディを昇降させる複数のリフタが、ボールネジ式直線作動機によりチェーンの一端部を水平方向に押し引きして該チェーンの他端部を垂直方向に偏向して自立させた状態で昇降させる昇降機構と該チェーンの他端部を支持するとともに垂直方向に自立誘導させるリンク機構とで構成されていることによって、リフタの機高を低く小型化でき、昇降装置を収容するピットを自動車組立ラインに設ける必要がないため、自動車組立ラインのレイアウトが自由に設定でき、設定後のレイアウトの変更も容易であり、リフタ間隔も車種に応じて容易に変更できる。
【0012】
また、チェーンの昇降中のがたつきをリンク機構で防止できるので、自動車ボディのような重量物であっても昇降時のチェーンの座屈がなく安全且つ安定して昇降動作を行うことができる。
【0013】
本請求項2に係る自動車ボディ昇降装置は、前記リフタが、個別に作動するボールネジ式直線作動機をそれぞれ備えるとともに自動車ボディの前後位置に配置されて、自動車ボディを前後方向に傾斜昇降させるように構成されていることにより、前述した本請求項1に係る発明における効果に加え、持ち上げられた自動車ボディの前側または後側から作業者はボディ内に楽な姿勢でアクセスできるので作業性を向上させることができる。
【0014】
さらに、本請求項3に係る自動車ボディ昇降装置は、前記自動車ボディの前後に配置されたリフタの一部を構成するそれぞれのチェーンが、自動車ボディの前後方向に向けて押し出されるように前後対称に配置されていることにより、前述した本請求項1または請求項2に係る発明の効果に加え、自動車ボディを支える支点間距離が長くなるので、自動車ボディを安定して昇降させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施例を図1乃至図5に基づいて説明する。図1は、本実施例の自動車ボディ昇降装置の正面断面図であり、図2は本実施例のリフタの正面断面図であり、図3は、本実施例のリフタの斜視図であり、図4は、本実施例の一対のリフタの斜視図であり、図5は、本実施例の説明図である。
【0016】
まず、本発明の自動車ボディ昇降装置10は、図1、図2に示すように、自動車組立ラインを移送されてきた自動車ボディBを昇降させるように自動車ボディBの前後を支持する複数のリフタ100を備え、それぞれのリフタ100は、チェーン111の一端部111aを水平方向に押し引きしてチェーン111の他端部を垂直方向に偏向して自立させた状態で昇降させる昇降機構110とチェーン111の他端部111bを支持するとともに垂直方向に自立誘導させるリンク機構120とで構成され、前後のリフタ100のチェーン他端部111b間距離を長くするように、それぞれのチェーン111は自動車ボデBの前後方向に向けて押し出されるようにリフタ100は前後対称に配置されており、これらリフタを操作する制御盤Cおよび操作盤Oが配置されている。
【0017】
また、前後のリフタ100のチェーン111の他端部111bは自動車ボディ載置部材130の端部をそれぞれ回動可能に支持しており、自動車ボディ載置部材130の表面には自動車ボディの前後を係止する係止部材131が設けてある。
【0018】
リフタ100は、図2に示すように、昇降機構110のチェーン111が機体140の側板141に形成したチェーンガイド142により一部が垂直方向に偏向した状態で水平方向に収納されており、水平状態においてチェーン111の下面に屈曲規制部材112がチェーン111の1ピッチ毎に取り付けられ、チェーン111が垂直方向に昇降すると屈曲規制部材112が上下方向で相互に当接して自立するようにしている。
【0019】
また、チェーン111の一端部111aを押し引きするボールネジ式直線作動機113がチェーン111と平行に配置され、ボールネジ式直線作動機113は、ボールナット115を螺合したネジ軸114とネジ軸114の端部に固定された歯付きプーリ116より構成され、ネジ軸114は機体140に設けた第1の軸受144およびチェーン111の屈曲部近傍に設けた第2の軸受145とで軸支され、機外に延出した端部に歯付きプーリ116が固着されており、ボールナット115は、チェーン111の一端部111aに連結されたブロック117に固定されている。
【0020】
前記リンク機構120は、第1のリンク部材121と第2のリンク部材122とで構成され、第1のリンク部材121の一端部がチェーン111の他端部111bに枢支され、他端部が水平方向に摺動するように機体140の側板141に設けたリンクガイド143に配置され、第2のリンク部材122は一端部が第1のリンク部121の中央部に枢支され他端部がチェーンの屈曲部近傍の機体140に枢支されており、チェーン111の昇降に連動してリンク機構120も昇降するようにしている。
【0021】
図3は、本実施例のリフタ100から一方の機体側板141および一方のリンク機構120を取り去った状態を示したもので、チェーン111は、ローラにフランジを備えた一対のローラチェーンであり、機体左右に配置され、これらチェーン111の一端部111aはボールナット115を固定したブロック117に連結され、屈曲規制部材112が左右のチェーン111を連結するように左右側端が左右のチェーン111に取り付けられている。また、左右のチェーン111の間には、ボールナット115を螺合しているネジ軸114がチェーン111と平行に配置されて、ネジ軸114の回転によりボールナット115を固定したブロック117が機体底部に設けたガイド板144に沿って進退するようにしている。このように、一対のチェーン111を用いると、ネジ軸114は、チェーン111間に配置できるので機高をさらに低くすることができる。
【0022】
また、チェーン111の他端部111bには、第1のリンク部材121の一端部を枢支するリンクピン124を設けたブロック123が取り付けられており、このブロック123の上面には自動車ボディ載置部材130を取り付ける取付部材132が固定され、取付部材132は、中央に取付孔134を備えた外周面を円弧状とした側板133を両側に立設しており、自動車ボディ載置部材130の側部に設けた取付孔(図示せず)と取付部材132の取付孔134を連結ピン135で連結することにより、自動車ボディ載置部材130を回動自在に取り付けるようにしている。
【0023】
リンク機構120は、左右に一対設けられ、一対の第1のリンク部材121の一端部はチェーンの他端部111bに設けたブロック123の左右から突出した第1のリンクピン124にそれぞれ枢支され、他端部は第2のリンクピン125で連結されるとともに、左右の側壁141に設けられたリンクガイド143に摺動自在に配置されている。また、一対の第2のリンク部材122の一端部は、機体140の左右から突出した第3のリンクピン126にそれぞれ枢支され、他端部は第1のリンク部材122の中央部で第4のリンクピン127により枢支されている。
【0024】
また、自動車ボディBの前後を支持する複数のリフタ100は、図4に示すように、自動車ボディBの左右を支持するために、前後それぞれの左右方向に一対配置され、左右のリフタ100の間には、これらリフタ100を駆動する駆動機構150が配置され、駆動機構150は、正逆回転可能なモータ151とモータ151の回転を減速する変速機152及び変速機152の出力軸153に同軸に固定された同一形状の2つの歯付きプーリ154から構成され、これら歯付きプーリ154と左右のリフタ100に設けられた歯付きプーリ116に歯付きベルト155が掛け渡されて左右のリフタ100が同期して昇降するようにしている。なお、歯付きプーリと歯付きベルトによる伝動機構に代えて歯車による伝動機構としてもよい。
【0025】
したがって、操作盤Oによりモータ151を始動すると、モータ151の回転は変速機152により減速されて出力軸153に固定された2つの歯付きプーリ154に伝達され、歯付きベルト155を介してそれぞれのネジ軸114に固定された歯付きプーリ116を同期して回転させる。この歯付きプーリ116の回転によりネジ軸114は回転し、ネジ軸114に螺合しているボールナット115によってブロック117は前進してチェーン111を押し出し、チェーンガイド142に案内されて垂直方向に上昇させる。その際、リンク機構120の第1のリンク部材121の一端部がチェーン111の他端部111bに枢支されているので、リンク機構120はチェーン111とともに上昇し、上昇中のチェーン111の左右の動きを規制してチェーン111のがたつきや屈曲部材のズレを防止して安定した昇降動作を行うことができる。
【0026】
なお、本実施例では、リフタ100にチェーン111とリンク機構120を一対左右に設けているが、チェーン111は1本または3本以上設けてもよく、リンク機構120も一組としてもよいが、昇降時のチェーン111の安定性からはリンク機構120は左右一対設けることが好ましい。また、屈曲規制部材112は、チェーン111の水平状態で下面に設けているが、上面または上下両面に設けてもよい。
【0027】
本発明は、自動車ボディBの前後位置に配置されているリフタ100が個別に昇降できるので、自動車組立ラインを進行して組立ゾーンに到達した自動車ボディBは、図4に示すように、自動車ボディBの前側のリフタ100を上昇させると、自動車ボディBは後側のリフタ100を支点として自動車ボディ載置部材130を介して傾動して自動車ボディBの前側が開放された状態となり、作業者は楽な姿勢で車体内部にアクセスすることができる。
【0028】
以上のように、本発明は、自動車ボディを安全且つ安定して昇降できるとともに、組立ラインに昇降装置を収容するピットを必要としないので組立ラインのレイアウトが容易に変更でき、また、自動車ボディを前後方向に傾けて作業をし易くできるという顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例の自動車ボディ昇降装置の正面断面図。
【図2】本実施例のリフタの正面断面図。
【図3】本実施例のリフタの斜視図。
【図4】本実施例の一対のリフタの斜視図。
【図5】本実施例の説明図。
【符号の説明】
【0030】
10 ・・・自動車ボディ昇降装置
100 ・・・リフタ
110 ・・・昇降機構
111 ・・・チェーン
111a ・・・チェーンの一端部
111b ・・・チェーンの他端部
112 ・・・屈曲規制部材
113 ・・・ボールネジ式直線作動機
114 ・・・ネジ軸
115 ・・・ボールナット
116 ・・・歯付きプーリ
120 ・・・リンク機構
121 ・・・第1のリンク部材
122 ・・・第2のリンク部材
123 ・・・ブロック
124 ・・・第1のリンクピン
125 ・・・第2のリンクピン
126 ・・・第3のリンクピン
127 ・・・第4のリンクピン
130 ・・・自動車ボディ載置部材
131 ・・・係止部材
132 ・・・取付部材
133 ・・・側板
134 ・・・取付孔
135 ・・・連結ピン
140 ・・・機体
141 ・・・側板
142 ・・・チェーンガイド
143 ・・・リンクガイド
150 ・・・駆動機構
151 ・・・モータ
152 ・・・変速機
153 ・・・出力軸
154 ・・・歯付きプーリ
155 ・・・歯付きベルト
O ・・・操作盤
C ・・・制御盤
B ・・・自動車ボディ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車組立ライン上の組立ゾーンに移送されてきた自動車ボディを下方に設置された複数のリフタで昇降させる自動車ボディ昇降装置において、
前記リフタが、ボールネジ式直線作動機によりチェーンの一端部を水平方向に押し引きして該チェーンの他端部を垂直方向に偏向して自立させた状態で昇降させる昇降機構と該チェーンの他端部を支持するとともに垂直方向に自立誘導させるリンク機構とで構成されていることを特徴とする自動車ボディ昇降装置。
【請求項2】
前記リフタが、個別に作動するボールネジ式直線作動機をそれぞれ備えるとともに自動車ボディの前後位置に配置されて、自動車ボディを前後方向に傾斜昇降させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の自動車ボディ昇降装置。
【請求項3】
前記自動車ボディの前後に配置されたリフタの一部を構成するそれぞれのチェーンが、自動車ボディの前後方向に向けて押し出されるように前後対称に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車ボディ昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−69790(P2006−69790A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258806(P2004−258806)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)