説明

自動車前照灯用メタルハライドランプ

【課題】蒸気圧の低い(融点が高い)希土類元素からなるハロゲン化物を多く含む自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、発光色維持性及び発光効率の優れた自動車前照灯用メタルハライドランプを提供する。
【構成】両端に電極シール部を具えた石英ガラス製の発光管と、前記電極シール部を通して発光管の内部に配置された一対の電極と、前記電極がシールされている部分において該電極に被覆された高融点金属製のコイルと、前記発光管の外周に配置されたシュラウドチューブとを具備してなり、前記発光管の内部に、メタルハライドとして希土類元素ハロゲン化物をハロゲン化物総量に対して40%以上95%以下含み、前記シュラウドチューブの内面と前記発光管との間隔Lが2mm<L≦9.5mmを満たす構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプに関し、特に希土類元素ハロゲン化物を含むメタルハライドランプの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車前照灯は、高効率などの理由からメタルハライドランプが採用されつつある。このメタルハライドランプは発光管中に水銀や希ガスと各波長の発光を有するメタルハライド(ハロゲン化金属)が封入されている。このメタルハライドには、一般的にナトリウム、スカンジウム或いはタリウム、インジウム、ナトリウムなどがヨウ化物として封入される。このメタルハライドランプの発光色(色温度)はメタルハライドの種類及びこれらの混合比率によって決められる。しかし近年、メタルハライドの種類、混合比率は顧客のニーズ、特に発光色が多様化した事に合わせ、従来の一般照明用メタルハライドランプ等で多用されているディスプロシウムやネオジウム、ツリウムなどのハロゲン化物である希土類元素ハロゲン化物が使用される傾向にある。
【0003】
図1は従来より自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプの構造を示すものである。すなわち、両端に電極シール部1を具えた石英ガラス製の発光管2と、前記電極シール部1を通して前記発光管2の内部に配置された一対の電極3と、前記電極3がシールされている部分において該電極3に被覆された高融点金属製のコイル4と、前記発光管2の外周に配置されたシュラウドチューブ5とを具備してなるものである。電極シール部1内の電極3の端部にはモリブデンからなる金属箔6が溶接され、この金属箔6が石英ガラスに溶着されることで発光管2内の気密が保たれている。電極シール部1において電極3と石英ガラスが完全に溶着していると、点灯時に電極及び石英の熱膨張差により石英ガラスに電極からクラック(以下電極クラックという)を生じさせて、リークが発生することとなる。これを防止する為に図1の様に電極にタングステンコイルのごとき高融点金属製のコイル4を被覆する事で、電極3と石英ガラスの溶着を防止して電極クラックを防ぐ事は周知の技術である。
【0004】
しかし、電極にコイルを被覆すると石英と電極の溶着部分を通じて、発光管内部から金属箔までの間に僅かな隙間が生じ、ここに封入物が入り込む事で発光色が変化するという問題が生じる。これについても改善技術が提案されている(例えば特開平10−269941号)。
【0005】
しかしながら、発光管にハロゲン化ディスプロシウム等、融点が高い希土類元素ハロゲン化物を主として封入すると、点灯・消灯を繰り返すにつれて、電極、金属箔溶接部に電極とコイルの僅かな隙間から、従来から用いられてきたナトリウム、スカンジウム等のハロゲン化物に比べ、より多くのハロゲン化物が侵入してしまい、結果として、従来と同様に発光に寄与するハロゲン化物の減少によりランプの発光色が大きく変化するという問題が生じた。希土類元素ハロゲン化物は従来のナトリウム、タリウム、インジウム等のハロゲン化物より融点が高いものが多い為、温度の低い金属箔側の隙間に侵入しやすく、また侵入した希土類元素ハロゲン化物は金属単体及びハロゲンを結合した状態においても原子または分子の半径が大きく、平均自由工程が短くなる為、発光管に戻りにくいと推定される。
【0006】
またハロゲン化ディスプロシウム等の希土類元素ハロゲン化物を主として封入すると、従来から用いられてきたナトリウム、スカンジウム等のハロゲン化物を用いる場合に比べ性質上発光効率が悪いため、所望する光束が得られないという問題も生じた。これについて、特開平6-20645号に発光管とシュラウドチューブの隙間を2mm以下とする事で、発光部の温度及び発光効率の最適化ができるとの記載があるが、これは自動車用HIDランプのメタルハライドとして一般的なヨウ化ナトリウム、ヨウ化スカンジウムを用いたものである。
【0007】
さらに、特開2001−110358号には、発光管とシュラウドチューブとの隙間と光束の関係についての記述があり、ここでは発光管とシュラウドチューブの隙間を0.3mm程とする事で光束を損なう事が無く、これ以上にすると光束低下が生じるとの記載があるが、これが該当するのはメタルハライドとしてヨウ化ナトリウム、ヨウ化スカンジウムのハロゲン化物を用いたものであり、後記実施例のとおり、本発明でとりあげる希土類金属ハロゲン化物を主としたものには該当しない。
【特許文献1】特開平10−269941号
【特許文献2】特開平6−20645号
【特許文献3】特開2001−110358号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、電極シール部において電極に高融点金属製のコイルを装着した構造を有するもので且つ希土類元素ハロゲン化物を主として封入しても、金属箔側の隙間に侵入した希土類元素ハロゲン化物を発光管内に戻りやすくする事で、封入物減少による発光色変化が少なく、且つ発光効率を改善できるメタルハライドランプを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために自動車前照灯用メタルハライドランプを以下の構成とする。すなわち、両端に電極シール部を具えた石英ガラス製の発光管と、前記電極シール部を通して発光管の内部に配置された一対の電極と、前記電極がシールされている部分において該電極に被覆された高融点金属製のコイルと、前記発光管の外周に配置されたシュラウドチューブとを具備してなり、前記発光管の内部に、メタルハライドとして希土類元素ハロゲン化物をハロゲン化物総量に対して40%以上95%以下含み、前記シュラウドチューブの内面と前記発光管との間隔Lが2mm<L≦9.5mmを満たすことを特徴とする構成にする。
【0010】
また、前記構成は、電極に高融点金属製のコイルが被覆されていないランプにも適用することができる。
【0011】
さらに、前記構成は、発光管内に水銀を含まないメタルハライドランプにも適用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記のような構成にしたので、電極シール部において電極に高融点金属製のコイルを装着し且つ希土類元素ハロゲン化物を主として封入したメタルハライドランプであっても、金属箔側の隙間に侵入した希土類元素ハロゲン化物は発光管内に戻りやすくなるため、封入物減少による発光色変化が少なく且つ発光効率を改善できるメタルハライドランプを提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の最良の実施形態を図および表に基づいて詳細に説明する。本発明に係るメタルハライドランプは、発光管に封入する希土類元素ハロゲン化物の封入量と、発光管とその外周に配置されたシュラウドチューブとの間隔についての特徴点を除けば図1に示す構造を有する。すなわち、両端に電極シール部1を具えた石英ガラス製の発光管2と、前記電極シール部1を通して発光管の内部に配置された一対の電極3と、前記電極3がシールされている部分において該電極3に被覆された高融点金属製のコイル4と、前記発光管2の外周に配置されたシュラウドチューブ5とを具備している。電極シール部1内の電極3の端部にはモリブデンからなる金属箔6が溶接され、この金属箔6が石英ガラスに溶着されることで発光管2内の気密が保たれている。また、本発明に係るメタルハライドランプは、管電力35W(管電圧85V、管電流0.41A)で、酸化トリウムを1%wt含有するタングステンからなる直径Φ0.25、全長7mmの電極3を有し、この一端はモリブデンからなる金属箔6に接続されており、電極の他方は石英ガラスからなる発光管2内に突出している。電極3には線径Φ0.05mmのコイル4が被覆されている。発光管2内には水銀、バッファーガス及びヨウ化物としてディスプロシウム、ネオジウムを合わせてハロゲン化物総量に対し重量比75%封入し、加えてヨウ化物としてナトリウムが封入されている。また発光管2の外周には石英ガラスからなるシュラウドチューブ5を有する。
【0014】
なお、寿命試験は日本電球工業会規格JEL215に記載されている試験方法を用い、1500時間まで評価を行って色温度変化を確認した。色温度変化は前照灯白色範囲を考慮し、初期の110%までを良とした。シュラウドチューブ5の内面と発光管2との間隔をそれぞれ変更したランプを作成、評価し、1500時間点灯後の色温度変化を確認した。その結果は表1に示すとおりである。
【表1】

【0015】
表1によれば、色温度が初期に対し110%以下の良好なものは実施例3〜18であり、他の実施例は110%以上となった。実施例3〜18でのシュラウドチューブ内面と発光管の間隔は、発光管から発せられる熱エネルギーにより希土類金属ハロゲン化物が移動しうる領域を適度に保温した結果、温度の低い金属箔側隙間に侵入した希土類金属ハロゲン化物が発光管に戻りやすくなった為、発光損失する事なく、発光色の維持に寄与した為と推定される。
【0016】
さらに、シュラウドチューブの発光管側内面と発光管の間隔をそれぞれ変更したランプの初期光束を確認した。また、メタルハライドとしてヨウ化ナトリウム、ヨウ化スカンジウムを用いたものも従来例として比較確認した。その結果は表2に示すとおりである。
【表2】

【0017】
表2によれば、従来例に対し本発明の実施例3〜18は光束上昇が見られた。この原因も前記同様、適度な保温により、希土類金属の励起が増加した為と推定される。
【0018】
本実験では希土類元素からなるハロゲン化物を重量比で総量の75%としたがこれ以外(40%以上95%以下)でも発光色変化抑制効果及び発光効率上昇効果は良好である。しかし95%以上とすると発光管に侵食が見られ、光束維持率低下及び発光色変化を生じさせるので95%以下が好ましい。また40%以下であると希土類元素による演色性の向上等の効果が薄くなるので40%以上が好ましい。
【0019】
また本実施例のランプにて電極にコイルを装着していないものにおいても同様に発光色維持及び光束上昇が見られたが、電極クラック防止の観点からコイルは装着するのが好ましい。
【0020】
また近年環境保全の点から注目されている、発光管内に水銀をふくまない、いわゆる水銀フリーの自動車前照灯用メタルハライドランプにおいても同様な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は特に発光色変化が少なく且つ発光効率を改善した自動車前照灯用メタルハライドランプの構造として産業上利用する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】自動車前照灯用メタルハライドランプの構造を示す参考図
【符号の説明】
【0023】
1:電極シール部
2:発光管
3:電極
4:高融点金属製コイル
5:シュラウドチューブ
6:金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に電極シール部を具えた石英ガラス製の発光管と、前記電極シール部を通して発光管の内部に配置された一対の電極と、前記電極がシールされている部分において該電極に被覆された高融点金属製のコイルと、前記発光管の外周に配置されたシュラウドチューブとを具備してなり、前記発光管の内部に、メタルハライドとして希土類元素ハロゲン化物をハロゲン化物総量に対して40%以上95%以下含み、前記シュラウドチューブの内面と前記発光管との間隔Lが2mm<L≦9.5mmを満たすことを特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項2】
電極には高融点金属製のコイルが被覆されていない、請求項1に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項3】
発光管内に水銀を含まない、請求項1または請求項2に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。

【図1】
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