説明

自動車前照灯用メタルハライドランプ

【課題】
ユーザーが購入した自動車前照灯用メタルハライドランプの発光色がイメージと異なった場合でも、複数の異なる発光色を有するランプを必要とせず、また、複雑な制御回路を必要としないで、ユーザー自身で発光色を予め変更することができるランプを提供する。
【解決手段】
発光管の点灯時の最冷部温度を予め変更することができる構造を備えおり、該構造は、発光管の外周に直径が異なるアウターバルブを着脱自在に装着する構造である事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極を具えた発光管の内部に、希ガスと共に適種の金属ハロゲン化物(メタルハライド)を封入したメタルハライドランプに関するもので、特に自動車前照灯として用いるのに適したメタルハライドランプに関する。このようなランプの発光管は、一般的に、図1に示すように、石英ガラス管により形成された発光管1の中空発光部内にタングステンからなる一対の電極2が対向して配置してあり、この電極2の基端部にはモリブデンからなる金属箔3が溶接されていて、さらにこの金属箔3には外部リード線4が接続されている。そして前記金属箔3を中心とした部分が発光管1を形成する石英ガラス管両端のシール部内に溶着されることで発光管1の中空発光部内の気密が保たれている。前記中空発光部内には希ガスと共に適種の金属ハロゲン化物が封入されている。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車前照灯に高効率なメタルハライドランプが採用されつつある。ここで、自動車前照灯に対する顧客のニーズは多彩な発光色にある場合が多い。その中でも特に白色や青色のファッショナブルな発光色の自動車前照灯用メタルハライドランプに顧客の関心が集まっている。
【0003】
一方で、自動車前照灯用メタルハライドランプは非常に高価である事から、購入するランプ発光色の選定に慎重になるが、自動車取り付け後に購入前のイメージと違い不満を抱く顧客が存在する。
【0004】
メタルハライドランプでは、主に発光管内に封入した金属ハロゲン化物の配合種類、配合比率によって発光色を決定している。このため、一度、金属ハロゲン化物を中空発光部内に封入し、管両端部をシールすると中空発光部内が気密に保たれ、金属ハロゲン化物の配合種類及び配合比率を変更する事は物理的に不可能になる。このため、自動車前照灯用メタルハライドランプは5000Kや6000Kと言ったように色温度(発光色)別にラインナップされ販売されている。
【0005】
しかし一部の顧客からは、自動車前照灯メタルハライドランプは非常に高価であるため、購入したメタルハライドランプの発光色がイメージと異なった場合、ユーザー自身で色温度を変更できる自動車前照灯メタルハライドランプが望まれている。
【0006】
発光管の中空発光部内が気密に保たれた状態で、発光色を変化させる技術として複数の異なる発光色をもつランプを照明装置内で点灯し、混色して放射させる方法がある。かかる方法は例えば、特開平5−299187に開示されている。
【0007】
しかし、自動車前照灯用メタルハライドランプでは、対向車に対しての安全面の配慮から自動車灯具に配光制御機能が施されているため、1つの灯具に複数種の異なる発光色のメタルハライドランプを設置する事が困難である。また、1灯につき1つの制御回路を必要とするため、片側につき制御回路が複数必要となり、自動車前照灯用としては非常にコストが掛かり現実的ではない。
【0008】
また、放電灯の通電パルスの波形を変化させる事によって発光色を変化させる方法もある。かかる方法は例えば、特開昭63−198295に開示されている。
【0009】
しかし、純正の自動車前照灯用メタルハライドランプを装着している自動車には、一般的にランプの点灯安定後に通電パルスを変化させるための複雑な制御回路が装備されていないため、新たにこの機能が備わった制御回路を準備する必要があり非常にコストが掛かる。
【特許文献1】特開昭63−198295号公報
【特許文献2】特開平 5−299187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、複数の異なる発光色のランプを用いたり、複雑で高価な点灯制御回路を用いたりしないで、発光色を予め変更することができる自動車前照灯用メタルハライドランプを実現する事である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプは、図1に示すように、石英ガラス管により形成された発光管1の中空発光部内にタングステンからなる一対の電極2が対向して配置してあり、この電極2の基端部にはモリブデンからなる金属箔3が溶接されていて、さらにこの金属箔3には外部リード線4が接続されている。また、前記電極2の一部には石英ガラスにクラックが生じるのを防ぐためにタングステンコイル5が装着してある。そして前記金属箔3を中心とした部分が発光管1を形成する石英ガラス管両端のシール部内に溶着されることで発光管1の中空発光部内の気密が保たれている。上記発光管1の中空発光部内には希ガスとナトリウムハロゲン化物と、インジウムハロゲン化物が少なくとも封入されており、さらに前記発光管1の点灯時の最冷部温度を予め変更することができる構造を備えた事を特徴とする。
【0012】
金属ハロゲン化物は金属の種類によって温度に対する飽和蒸気圧の挙動が異なる。このため、電極間長の最適化、発光管形状の設計等によりランプ点灯中の中空発光部温度特に最冷部温度を制御する事によって、メタルハライドランプの発光特性を変化させる事は周知の技術であるが、これも前記金属ハロゲン化物と同様、ランプ完成後は調節が不可能なものである。しかし発明者は、ランプ完成後においても、ナトリウムハロゲン化物とインジウムハロゲン化物が適量封入されていれば、発光管の外周に設置するアウターバルブの直径を変える事で、金属ハロゲン化物の発光特性を変化させる事ができる、すなわち、前記発光管の外周に直径が異なるアウターバルブを着脱自在に装着することによって前記発光管の点灯時の最冷部温度を予め変更でき、これによってメタルハライドランプの発光色を変更できることを見出した。
【0013】
ナトリウムは589nm近傍(赤橙色)に主たるスペクトルを発し、また、インジウムは451nm近傍(青色)に主たるスペクトルを発する。
【0014】
ナトリウムハロゲン化物と、インジウムハロゲン化物を封入した場合、アウターバルブの直径を大きくして発光管の中空発光部の温度を上昇させると、より高温で蒸気圧が高まる性質を有する、ナトリウムの発光が促進される。これにより589nm近傍の発光が促進され、赤橙色発光が強くなる。一方、インジウムによる発光は、ナトリウムの発光が促進される程、温度を上昇させなくても十分発光している為、大きな変化は見られない。以上より、ナトリウムによる赤橙色発光が強まる事から、色温度が下がる。
【0015】
これに対して、アウターバルブの直径を小さくして発光管の中空発光部の温度を低下させると、ナトリウムの発光が弱くなり、一方、インジウムの発光は大きな変化が見られないため、全体としては色温度が上がる。
【0016】
前記ナトリウムハロゲン化物の封入量が発光管の内容積1mm3あたり1.66×10−4mg〜1.3×10−2mgである事を特徴とする。前記インジウムハロゲン化物の封入量も発光管の内容積1mm3あたり1.66×10−4mg〜1.3×10−2mgである事を特徴とする。
【0017】
また、前記ハロゲン化物の発光色に大きな変化を及ぼさない範囲で、メタルハライドランプの発光色や発光特性を微妙に調整するために、ナトリウムハロゲン化物とインジウムハロゲン化物に加えて、第3のハロゲン化物として、タリウム、ジスプロシウム、ネオジウム、セシウム、ガリウム、亜鉛、ランタン、ルテチウム、ガドリニウム、セリウムおよびプラセオジウムの中から選ばれた、一種もしくは複数種のハロゲン化物を封入してもよい。
【0018】
また、前記直径が異なるアウターバルブは、通常は単体で用いるが、複数個同時に装着することによっても発光管の発光色を変化させることができる。
【0019】
さらに、発光管を取り囲むアウターバルブの外周にガラスシリンダーを着脱自在に装着する構造によっても発光管の発光色を変化させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の自動車前照灯メタルハライドランプによれば、複数の異なる発光色を有するランプを必要とせず、また、複雑な制御回路を必要としないで、アウターバルブの交換、またはアウターバルブ外周へのガラスシリンダーの装着だけで発光色を変化させる事が可能となるため、顧客はニーズに合わせて発光色の選択が可能となり、その結果、購入前のイメージと違う等の不満や、高価なメタルハライドランプを再度購入しなくてよいなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の一実施例を図に基づいて説明する。
【0022】
本発明においては、図1に示すように例えば、管電力35W(管電圧42V、電流値0.83A)の水銀フリー型(発光管内に実質的に水銀を封入しないタイプ)のメタルハライドランプを構成するために、内容積約30mm3の石英ガラス製の発光管1を用いている。酸化トリウムを2重量%含有するタングステンからなる直径0.4mm、全長7.0mmの電極2の一端をモリブデンからなる金属箔4に接続し、上記電極2の他端を発光管1の中空発光部内に突出せしめてある。前記電極2の一部には石英ガラスにクラックが生じるのを防ぐためにタングステンコイル5が装着してある。発光管1の中空発光部内にはバッファーガスとしての希ガスと共に、主たる発光物質として、タリウムハロゲン化物に加えて、ナトリウムハロゲン化物が発光管の内容積1mm3あたり4.9×10-3mg封入されていて、インジウムハロゲン化物は発光管の内容積1mm3あたり2.2×10-3mg封入されている。さらに、直径の異なるアウターバルブの交換を可能にすることにより発光管の点灯時の最冷部温度を予め変更できる構造を備えた事を特徴とする。
【0023】
メタルハラドランプの完成品後に発光管の最冷部温度を変更できる構造を図2に示す。すなわち、直径の大きいアウターバルブと直径の小さいアウターバルブの両方を装着できる溝、止め具などをソケットベースに設けておく。
【0024】
上記図2は脱着式の直径の異なるアウターバルブを付け替える事によって、インナーバルブ(発光管)とアウターバルブに囲まれた容積を変化させて保温効果を増大し、発光管の最冷部温度を可変できる構造である。
【0025】
アウターバルブの直径は、最小でインナーバルブ(発光管)の最大外径部に接触しない程度に大きく、また、最大でJEL215に記載されている規格の範囲内である必要がある。本実施例においては、発光管の最大外径を6mm、直径の小さいアウターバルブの内径を6.7mm、直径の大きいアウターバルブの内径を10mmとして実施を試みた。
【0026】
本発明実施例のアウターバルブの直径が異なる事による特性変化を図3に示す。下記に示す表1より明らかなように、直径の大きいアウターバルブが装着されているモードでは、管径の小さいアウターバルブが装着されているモードより色温度が低く光束が増大している。その結果、ランプの発光色は視認性の優れた白色となる。
【0027】
【表1】

【0028】
本実施例のアウターバルブの直径が異なる事による分光変化を図4に示す。
【0029】
アウターバルブの直径が大きいモードでは、点灯時における発光管の最冷部温度が上昇したため、ナトリウムの発光が促進されている。一方、アウターバルブの直径が小さいモードでは、発光管最の冷部温度が低下したため、ナトリウムの発光が抑制されている。その結果、色温度が高くなり鮮やかな青白色の発光となる。
【0030】
本実施例ではナトリウムハロゲン化物およびインジウムハロゲン化物をそれぞれ発光管の内容積1mm3あたり1.66×10−4mg〜1.3×10−2mgの範囲で封入するとしたが、これは下限値より少ないと色変化の効果が小さく、また、上限値より大きいとJIS規格に規定されているD5500の自動車の白色範囲より逸脱してしまうためである。
【0031】
なお自動車前照灯用メタルハライドランプの金属ハロゲン化物として、一般的に用いられているナトリウム、スカンジウムを用いる場合は前記の様にアウターバルブの直径を変化させても発光色の差は僅かであるので、当発明による金属ハロゲン化物の封入が必要となる。
【0032】
また、前記実施例では、直径の異なるアウターバルブを単体で使用する場合について説明したが、直径の異なる複数のアウターバルブを同時に装着することによっても発光管の最冷部温度は変わるからランプの発光色を変更することができる。
【0033】
さらに、発光管を取り囲むアウターバルブの外周にガラスシリンダーを着脱自在に装着することによっても発光管の最冷部温度が変わるからランプの発光色を変更することができる。
【0034】
なお、前記実施例は、水銀フリー型メタルハライドランプによるものであるが、水銀が封入されているランプにおいても同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、自動車前照灯用メタルハライドランプばかりでなく、一般照明用、店舗のディスプレー照明用など広い分野で使用できるメタルハライドランプを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のメタルハライドランプの縦断正面図である。
【図2】発光管外部に異なる直系のアウターバルブを装着した場合の構造比較図である。
【図3】アウターバルブの直径が異なる事によるメタルハライドランプの特性変化図である。
【図4】アウターバルブの直径が異なる事によるメタルハライドランプの分光比較図である。
【符号の説明】
【0037】
1 発光管
2 電極
3 金属箔
4 外部リード線
5 タングステンコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極を具えた発光管の内部に、希ガスと共に主たる発光物質としてナトリウムハロゲン化物と、インジウムハロゲン化物が少なくとも封入されており、前記発光管の点灯時の最冷部温度を予め変更することができる構造を備えた事を特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項2】
前記発光管の点灯時の最冷部温度を予め変更することができる構造は、前記発光管の外周に直径が異なるアウターバルブを着脱自在に装着する構造である事を特徴とする請求項1に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項3】
前記直径が異なるアウターバルブは、単体で或いは複数個同時に装着される事を特徴とする請求項2に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項4】
前記発光管の点灯時の最冷部温度を予め変更することができる構造は、発光管を取り囲むアウターバルブの外周にガラスシリンダーを着脱自在に装着する構造であることを特徴とする請求項1に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項5】
前記ナトリウムハロゲン化物及びインジウムハロゲン化物の封入量がそれぞれ発光管の内容積1mm3あたり1.66×10−4mg〜1.3×10−2mgである事を特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項6】
発光管の内部に、ナトリウムハロゲン化物とインジウムハロゲン化物に加えて、第3のハロゲン化物として、タリウム、ジスプロシウム、ネオジウム、セシウム、ガリウム、亜鉛、ランタン、ルテチウム、ガドリニウム、セリウムおよびプラセオジウムの中から選ばれた、一種もしくは複数種のハロゲン化物が封入されている事を特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−295410(P2009−295410A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147719(P2008−147719)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(391021226)株式会社カーメイト (100)
【Fターム(参考)】