説明

自動車用などのシート材

【目的】 自動車用などのシート材として用いると、自動車を廃棄して焼却処分された際に公害源となる有毒ガスが発生せず、リサイクルが可能となる。
【構成】 クッション性を有する表面生地と、その裏面全体にコーティングする補強用の樹脂層と、2種以上の繊維のラップからなるファイバーマットとを加熱接着することで構成し、このファイバーマットは、繊度1〜30デニールの合成及び/又は天然繊維を50〜90重量%及び熱融着性繊維を10〜50重量%含有する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、自動車を廃棄して焼却処分された際に公害源となる有毒ガスを発生せず、リサイクルが可能である自動車用などのシート材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の座席に用いるシート材は、一般に図1に示すような構造を有する。シート材10において、表面生地はモケット地などのクッション性を有する織物地11であり、その裏面に織物地の補強のために樹脂12を薄くコーティングして織物地11を補強する。
【0003】 次に、バッキングした織物地11におけるクッション効果を高めるために、該織物地の裏面にウレタンフォーム13をフレームボンド加工で貼り合わせる。ウレタンフォーム13には、一般にニットなどの薄い裏張り材14をあらかじめフレームボンド加工で貼着しておく。
【0004】 シート材10は、ミシン加工する時に裏面のウレタンフォーム13に沿って滑らせることを要する。また、シート材10をフレームと嵌合して座席を組立てる際に、シート材裏面のウレタンフォーム13をフレーム表面に沿って滑らせる。このために、薄い裏張り材14は、ウレタンフォーム13の摩擦抵抗を小さくするために必要である。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
シート材10で用いる裏面のウレタンフォーム13は、自動車を廃棄して焼却処分された際に公害源となる有毒ガスを発生し、しかもリサイクルが不可能であるから可能な限り使用しないことが望ましい。また、ウレタンフォーム13を織物地11にフレームボンド加工で貼り合わせるには、あらかじめ薄い裏張り材14をフレームボンド加工で貼着することを要し、製造工程が煩雑になって生産コストが高くなってしまう。
【0006】 本考案は、ウレタンフォームを貼着した従来の自動車用シート材に関する公害発生問題及び高い生産コストの点を改善するために提案されたものである。本考案は、焼却の際に有毒ガスが発生せず且つ製造工程が単純であり、自動車や鉄道車輌などにおける座席シートとして好適なシート材を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本考案に係るシート材1は、図2に示すように、クッション性を有する表面生地2と、その裏面全体にコーティングする補強用の樹脂層3と、2種以上の繊維のラップからなるファイバーマット4とを加熱接着することで構成する。表面生地2は、好ましくは合成繊維製のモケット地又はテレンプ地などである。
【0008】 補強用の樹脂層3に用いる接着剤としては、SBRラテックス、PVCペースト、酢酸ビニルラテックス、EVAラテックスをベースとしたコンパウンドが例示できる。樹脂層3は、表面生地2の裏面に適宜の接着剤を塗付して形成され、ついでこの接着剤の乾燥前にファイバーマット4を貼着し、公知の熱風乾燥機(図示しない)などを用いて120〜160℃で1〜4分間処理して表面生地2とファイバーマット4を一体化すればよい。
【0009】 裏面のファイバーマット4とは、繊維ラップの熱処理やニードルパンチング又はその双方の組合わせなどで得たクッション性に富む不織布を意味する。ファイバーマット4は、通常、密度0.02〜0.20g/cm3,厚さ2〜15mmであると、表面生地2とともに自動車用などのシート材1として用いる際に適当である。
【0010】 ファイバーマット4には、繊度1〜30デニールの合成及び/又は天然繊維5(図3)を50〜90重量%及び熱融着性繊維6(図3)を10〜50重量%含み、公知のラップフォーミング方法によって全体を均一に混綿し、ついで展綿・積層し、カード方式以外で製造したラップを用いてもよい。
また、繊維ラップのニードルパンチングでは、ラップの全体を通常のロッキングニードルを用いて10〜200本/cm2の針密度で行い、該ラップのフェルト化をさらに促進する。
【0011】 合成及び/又は天然繊維5は、熱融着性繊維6よりも約40℃以上、好ましくは70℃以上融点が高ければよい。合成及び/又は天然繊維5は、ポリエステル,ポリプロピレン,アクリル,ナイロンなどの合成繊維、羊毛,木綿などの天然繊維,アセテートなどの化学繊維又はこれらを混綿した繊維であり、一般にポリエステル繊維が好ましい。これらの原料繊維は、一部又は全部が反毛(回収再生綿)であってもよい。
【0012】 一方、熱融着性繊維6としては、ポリプロピレンやポリエステル繊維が好ましく、エチレン又はブテンなどとのコポリマが好適である。この熱融着性繊維は、合成及び/又は天然繊維5よりも低融点であればよく、融点が90〜170℃である繊維や樹脂、例えばポリエチレン,ポリプロピレン,低融点ポリエステル,低融点ポリアミド又はこれらの混合物なども十分に使用可能である。
【0013】
【作用】
本考案のシート材1において、表面生地2の裏面に設けたファイバーマット4は、その表面が従来のウレタンフォームに比べて平滑であるので摩擦抵抗が小さい。このため、ファイバーマット4にニットなどの薄い裏張り材を貼着しなくても、シート材1をミシン加工する時にそのままシート裏面を滑らせ、シート材1をフレームと嵌合する際に直ちに嵌合して座席を組立てることができる。
【0014】 本考案のシート材1は、例えば、表面生地2の裏面に適宜の接着剤を塗付して樹脂層3を形成し、ついでこの接着剤の乾燥前にファイバーマット4を貼着して一体化すればよい。シート材1は、製造工程が比較的単純であるから生産コストが安価である。
【0015】
【実施例】
次に、本考案を実施例に基づいて説明する。
実施例1 図1に示すシート材1を製造するため、表面生地2として厚さ3mmの灰色霜降り柄モケット地を用いる。このモケット地の裏面全体に、EVAコンパウンドを塗付する。
【0016】 一方、ファイバーマット4用のカードラップとして、3デニールのポリエステル(商品名:テトロン、東レ製)80重量%と、4デニールのポリエステル系熱融着性繊維(商品名:メルティー、ユニチカ製)20重量%とを相互に混綿して積層する。このカードラップの全体を、通常のロッキングニードルを用いて20本/cm2の針密度でニードルパンチングしてフェルト化し、さらに140℃で2分間熱処理する。得たファイバーマット4は、目付250g/m2で見掛け厚さ5mmである。
【0017】 ファイバーマット4は、モケット地の裏面に塗布したEVA樹脂層3が乾燥する前に貼着し、150℃で2分間加熱処理してモケット地と一体化させる。得たシート材1は、焼却の際に有毒ガスが発生せず、表面がモケット地で美観及び感触性について優れ、しかもファイバーマット4によって座席のクッション効果を長期間維持できる。
【0018】
実施例2 自動車用又は鉄道車輌用シートを製造するため、実施例1と同様のモケット地を使用し、このモケット地の裏面全体にSBRコンパウンドを塗付する。
【0019】 一方、ファイバーマット4用のカードラップとして、3デニールのポリエステル50重量%と、6デニールのポリエステル20重量%と、4デニールのポリエステル系熱融着性繊維(商品名:メルティー)30重量%とを相互に混綿し、140℃で2分間熱処理する。得たファイバーマット4は、目付150g/m2で見掛け厚さ5mmである。
【0020】 ファイバーマット4は、モケット地の裏面に塗布した樹脂層3が乾燥する前に貼着し、150℃で2分間加熱処理してモケット地と一体化させる。得たシート材1は、実施例1と同様にファイバーマット4によって座席のクッション効果を長期間維持できる。
【0021】
実施例3 自動車用又は鉄道車輌用シートを製造するため、表面生地2として厚さ3mmの茶色モケット地を用い、このモケット地の裏面全体にEVAコンパウンドを固形分で100g/m2塗付する。
【0022】 一方、ファイバーマット4用のカードラップとして、羊毛80重量%と、4デニールのポリエステル系熱融着性繊維(商品名:メルティー)20重量%とを相互に混綿して熱処理する。得たファイバーマット4は、目付250g/m2で見掛け厚さ10mmである。
【0023】 ファイバーマット4は、モケット地の裏面に塗布した樹脂層3が乾燥する前に貼着し、150℃で2分間加熱処理してモケット地と一体化させる。得たシート材1は、実施例1と同様にファイバーマット4によって座席のクッション効果を長期間維持できる。
【0024】
【考案の効果】
本考案に係るシート材は、表面生地,補強用の樹脂層及びファイバーマットとで構成され、ウレタンフォームのように生産の際及び自動車の廃棄で焼却処分される際に有毒ガスを発生せず、焼却しても公害源とならない。また、このシート材は、焼却処分しなくても容易にリサイクルが可能である。
【0025】 本考案のシート材は、機械的性質及び耐熱性の点で不十分なウレタンフォームを使用していないため、自動車や鉄道車輌,オートバイなどの座席に用いると、長期間使用しても弾性が低下することが少ない。したがって、このシート材は、座席のクッション効果を長期間維持し、苛酷な使用環境であっても機械的性質及び耐熱性が優れている。
【0026】 本考案のシート材において、表面生地の裏面に設けたファイバーマットはその摩擦抵抗が小さいため、シート材をミシン加工する時にそのままシート裏面を滑らせ、シート材をフレームと嵌合する際に直ちに嵌合して座席を組立てることができる。このファイバーマットは、組立て作業時に裁断が容易であり、比較的安価であるのでシート材のコストを引き上げることが少ない。
【0027】 本考案のシート材は、モケット地などの表面生地の裏面に適宜の接着剤を塗付して樹脂層を形成し、ついでこの接着剤の乾燥前にファイバーマットを貼着して加熱・加圧で一体化するだけで製造できる。このシート材は、製造工程が比較的単純であるから製造時間及び作業員数などの点で有利であり、従来よりも生産コストが全体として相当に安くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の自動車用シート材を拡大して示す部分断面図である。
【図2】 本考案に係るシート材を拡大して示す部分断面図である。
【図3】 本考案で用いるファイバーマットを示す概略拡大側面図である。
【符号の説明】
1 シート材
2 表面生地
3 樹脂層
4 ファイバーマット
5 合成及び/又は天然繊維
6 熱融着性繊維

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 クッション性を有する表面生地と、その裏面全体にコーティングする補強用の樹脂層と、2種以上の繊維のラップからなるファイバーマットとを加熱接着することで構成し、このファイバーマットは繊度1〜30デニールの合成及び/又は天然繊維50〜90重量%及び熱融着性繊維10〜50重量%を含み、全体を均一に混綿して密度0.02〜0.20g/cm3,厚さ2〜15mmにフェルト化している自動車用などのシート材。
【請求項2】 ラップの全体を、通常のロッキングニードルを用いて10〜200本/cm2の針密度でニードルパンチングしてフェルト化をさらに促進する請求項1記載のシート材。
【請求項3】 表面生地が合成繊維製のモケット地又はテレンプ地からなる請求項1記載のシート材。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【登録番号】第3001440号
【登録日】平成6年(1994)6月22日
【発行日】平成6年(1994)8月30日
【考案の名称】自動車用などのシート材
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平6−2596
【出願日】平成6年(1994)2月25日
【出願人】(000136413)株式会社フジコー (26)