説明

自動車用オイルレベルゲージ

【課題】オイルレベルゲージのOリングのオイルレベルゲージガイドへ固着することを防止し、簡便な方法で作製できるOリングを具備する自動車用オイルレベルゲージを提供する。
【解決手段】本発明は、自動車の内燃機関のオイル溜まりに浸漬され、オイルレベルを計測する油面検出部を有するレベルゲージ本体と、前記レベルゲージ本体の上部に形成された取手部とを有し、更にオイルレベルゲージガイドに嵌挿されてオイルをシールするOリングを前記レベルゲージ本体に具備する自動車用オイルレベルゲージであって、前記Oリングは、フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物からなるとともに、表面に前記フッ素樹脂が析出したものであり、前記フッ素樹脂は、エチレンに基づく重合単位とテトラフルオロエチレンに基づく重合単位とを含む共重合体であり、前記フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位を有する共重合体であることを特徴とする自動車用オイルレベルゲージである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内燃機関のエンジンオイル量をチェックするためのオイルレベルゲージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の内燃機関(エンジン)には、動弁機構の潤滑やピストンの冷却等を行うべく、エンジンオイルを各部に送給する潤滑システムが備えられている。ウエットサンプ式の潤滑システムの場合、エンジンオイルは、クランクケースの下部に設置されたオイルパンに貯留されており、クランク駆動のオイルポンプによってオイルラインに圧送される。エンジンオイルは、シリンダ壁に付着したものや、ブローバイガスに混入したものが燃焼室内で燃焼されるため、エンジンの運転に伴って徐々に消費される。そのため、自動車のユーザーは、定期的にオイルレベルゲージを用いることにより、エンジンオイルの量を適宜チェックする必要がある。
【0003】
オイルレベルゲージは、オイルレベルゲージガイドに挿脱自在に保持されており、オイルをシールするためのOリングを具備している。Oリングの材料として、フッ素ゴムを使用することが知られている(特許文献1)。また、アクリルゴムを使用することも提案されているが(特許文献2)、両材料ともに長期間の使用によってオイルレベルゲージガイドに固着し、オイルレベルゲージの脱着が困難になり、場合によってはOリングそのものが破損することがある。
【0004】
一方で、ゴムの特性を活かす方法として、たとえばフッ素樹脂(またはフッ素樹脂繊維層)をゴムの表面に積層する方法(特許文献3、4)、ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成する方法(特許文献5)などが提案されている。これらの方法では、固着という問題は低減されるものの、フッ素ゴムとフッ素樹脂の界面での接着性や、積層や塗布という煩雑な工程が必要であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−10592号公報
【特許文献2】特開平10−60060号公報
【特許文献3】特開平7−227935号公報
【特許文献4】特開2000−313089号公報
【特許文献5】特開2006−292160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、このような背景に鑑みなされたものであって、オイルレベルゲージのOリングのオイルレベルゲージガイドへ固着することを防止し、簡便な方法で作製できるOリングを具備する自動車用オイルレベルゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、自動車の内燃機関のオイル溜まりに浸漬され、オイルレベルを計測する油面検出部を有するレベルゲージ本体と、前記レベルゲージ本体の上部に形成された取手部とを有し、更にオイルレベルゲージガイドに嵌挿されてオイルをシールするOリングを前記レベルゲージ本体に具備する自動車用オイルレベルゲージであって、
前記Oリングは、フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物からなるとともに、表面に前記
フッ素樹脂が析出したものであり、
前記フッ素樹脂は、エチレンに基づく重合単位とテトラフルオロエチレンに基づく重合単位とを含む共重合体であり、
前記フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位を有する共重合体である
ことを特徴とする自動車用オイルレベルゲージに関する。
【0008】
上記自動車用オイルレベルゲージにおいて、Oリング表面のフッ素樹脂比率は、内部よりも高いことが好ましい。
【0009】
前記フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及び、パーフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく重合単位と、を含む共重合体であることが好ましい。
【0010】
前記フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物は、フッ素樹脂とフッ素ゴムとの質量比が60/40〜97/3であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動車用オイルレベルゲージのOリングのオイルレベルゲージガイドへの固着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】オイルレベルを計測する本発明のオイルレベルゲージの要部を示す正面図である。
【図2】(a)は、Oリングが有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線Bと直線Bを含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面からの距離が0.15μmの直線Cと直線Cを含む平面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る自動車用オイルレベルゲージの実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の自動車用オイルレベルゲージの要部を示す正面図である。自動車用のガソリンエンジンは、クランクケース、シリンダヘッド、ヘッドカバー、オイルパン(オイル溜まり)等から構成されている。エンジンには、ヘッドカバーの上部側方にオイルレベルゲージガイドが形成されており、このガイドからオイルパン内に自動車用オイルレベルゲージが差し込まれている。オイルレベルゲージ本体は、たとえばポリアミド等の樹脂を素材とする射出成形品で作製され、オイルパンに浸漬される油面検出部を下端に有するオイルレベルゲージ本体2と、レベルゲージ本体の上部に形成された取手部3とを備えている。
【0014】
自動車用オイルレベルゲージ1は、ヘッドカバーの上面から鉛直方向に立ち上がった円筒状のオイルレベルゲージガイドに挿脱自在に保持されている。ヘッドカバーは、樹脂の射出成型品であって、オイルレベルゲージガイドがヘッドカバーに一体的に形成されていてもよい。
【0015】
オイルレベルゲージ本体2は、オイルレベルゲージガイドに嵌挿されるシール軸部4と、油面検出部8から構成される。シール軸部4には、Oリング7が装着されており、Oリング7がオイルレベルゲージガイドの内壁に圧接することにより軸封がなされている。図示する態様では、Oリングは一つであるが、複数装着されていても良い。
【0016】
取手部3は、オイルレベルゲージガイドの上端に係止される鍔部5と、把持部6から構成される。鍔部5の上方に延設された比較的小径の連結軸部を経由して、把持部6を構成することもできる。
【0017】
自動車の整備時等において、整備作業者等は、自動車用オイルレベルゲージ1を引き出した後、油面検出部8へのエンジンオイルの付着状態によってエンジンのオイルレベルをチェックする。
【0018】
本発明の自動車用オイルレベルゲージにおいて、凹部の位置や個数等は上記実施形態での例示に限られるものではなく、自動車用オイルレベルゲージ各部の具体的形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0019】
上記Oリングは、フッ素樹脂及びフッ素ゴムを含む組成物からなるものである。フッ素樹脂とフッ素ゴムとを含む組成物は、フッ素樹脂とフッ素ゴムとが混在しているものであり、例えば、フッ素樹脂にフッ素ゴムが分散している、又は、フッ素ゴムにフッ素樹脂が分散しているものということもできる。この点で、上記Oリングは、フッ素ゴムの表面にフッ素樹脂からなる層を積層したもの、及び、フッ素ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成したものとは明確に区別される。Oリングがフッ素樹脂とフッ素ゴムとを含む組成物からなるものであるため、上述したフッ素ゴムの表面にフッ素樹脂からなる層を積層したものや、フッ素ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成したもののように剥離が生じない。
【0020】
また、フッ素樹脂及びフッ素ゴムを含む組成物からなるものであるため、NBR等の汎用ゴムを用いる場合よりも、耐熱性、耐薬品性等の特性に優れる。
【0021】
上記Oリングは、表面にフッ素樹脂が析出したものである。表面にフッ素樹脂が析出したものであるため、Oリング表面がフッ素ゴムからなるものと比較して、低固着性に優れる。また、フッ素樹脂とフッ素ゴムとが一体となり存在するものであるため、上述したフッ素ゴムの表面にフッ素樹脂からなる層を積層したものや、フッ素ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成したものと比較して柔軟性に優れる。そのため、オイルシール性にも優れる。
【0022】
Oリング表面のフッ素樹脂比率は、内部よりも高いことが好ましい。すなわち、Oリングの内側よりも外側(表面)の方が、フッ素樹脂比率が高いことが好ましい。上記Oリングの表面に析出したフッ素樹脂は内部から表面に移行したものであるため、通常、Oリング表面のフッ素樹脂比率は、内部よりも高くなる。上記Oリングは、後述する工程(I)、工程(II)及び工程(III)を含む方法により得られるものであることが好ましい。なおフッ素樹脂比率は、後述するESCA分析又はIR分析により決定することができる。
【0023】
上記Oリングにおいて、内部のフッ素樹脂は明確な粒子形状を呈していないことが好ましい。このような形態は、例えば、後述する工程(I)によりフッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムとが充分均一に混練されることで実現することができる。通常、フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムとを混練する場合、フッ素樹脂が溶融するような温度では混練しない。これは、未架橋フッ素ゴムがフッ素樹脂よりも耐熱性が低いためである。
【0024】
上記Oリングは、その低固着性、非粘着性、低摩擦性、撥水撥油性(高接触角)であることから、本発明のオイルレベルゲージの性能を優れたものとすることができる。
【0025】
本発明の自動車用オイルレベルゲージにおいて、Oリングは、フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物からなる。
【0026】
上記フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物は、フッ素ゴムとフッ素樹脂との質量比(フッ素ゴム)/(フッ素樹脂)が60/40〜97/3であることが好ましい。フッ素樹脂が少なすぎると低固着の性能が充分に得られないおそれがあり、一方、フッ素樹脂が多すぎると、ゴム弾性が著しく損なわれ、柔軟性が失われるおそれがある。柔軟性と低固着性の両方が良好な点から、(フッ素ゴム)/(フッ素樹脂)は、65/35〜95/5であることがより好ましく、70/30〜90/10であることが更に好ましい。
【0027】
上記フッ素ゴムは、主鎖を構成する炭素原子に結合しているフッ素原子を有し且つゴム弾性を有する非晶質の重合体からなるものである。上記フッ素ゴムは、1種の重合体からなるものであってもよいし、2種以上の重合体からなるものであってもよい。
【0028】
上記フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライド〔VdF〕に基づく重合単位〔VdF単位〕を含む重合体である。
【0029】
上記フッ素ゴムは、VdF単位及び含フッ素エチレン性単量体に基づく重合単位(但し、VdF単位は除く。)を含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体に基づく共重合単位(但し、VdF単位及び含フッ素エチレン性単量体に基づく共重合単位を除く。)を含むことも好ましい。
【0030】
上記フッ素ゴムは、30〜85モル%のVdF単位及び70〜15モル%の含フッ素エチレン性単量体に基づく共重合単位を含むことが好ましく、30〜80モル%のVdF単位及び70〜20モル%の含フッ素エチレン性単量体に基づく共重合単位を含むことがより好ましい。VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体に基づく共重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体に基づく共重合単位の合計量に対して、0〜10モル%であることが好ましい。
【0031】
含フッ素エチレン性単量体としては、たとえばテトラフルオロエチレン〔TFE〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)又はパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であることがより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0033】
VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどがあげられる。
【0034】
上記フッ素ゴムは、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、及び、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体であることが好ましく、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF/HFP共重合体、及び、VdF/HFP/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体であることがより好ましい。
【0035】
上記フッ素ゴムは、加工性が良好な点から、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))が5〜140であることが好ましく、10〜120であることがより好ましく、20〜100であることが更に好ましい。
【0036】
上記フッ素ゴムは、数平均分子量20,000〜1,200,000のものが好ましく、30,000〜300,000のものがより好ましく、50,000〜200,000のものが更に好ましく用いられる。数平均分子量は、テトラヒドロフラン、n−メチルピロリドン、などの溶媒を用い、GPCにて測定することができる。
【0037】
上記フッ素ゴムは、用途によって架橋系を選択することができる。架橋系としては、パーオキサイド架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系等があげられる。
【0038】
上記フッ素樹脂は、エチレンに基づく重合単位〔Et単位〕とテトラフルオロエチレンに基づく重合単位〔TFE単位〕とを含む共重合体〔ETFE〕である。
【0039】
TFE単位とEt単位との含有モル比は20:80〜90:10が好ましく、37:63〜85:15がより好ましく、38:62〜80:20が特に好ましい。
【0040】
ETFEは、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体に基づく重合単位を含むものであってもよい。共重合可能な単量体としては、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニル、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)などの含フッ素単量体があげられ、HFPであることが好ましい。また、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体としては、イタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。
【0041】
TFE及びエチレンと共重合可能な単量体に基づく重合単位は、全単量体単位に対して0.1〜5モル%であることが好ましく、0.2〜4モル%であることがより好ましい。
【0042】
ETFEは、融点が120〜340℃であることが好ましく、150〜320℃であることがより好ましく、170〜300℃であることが更に好ましい。
【0043】
上記組成物には、必要に応じてフッ素ゴム中に配合される通常の配合剤、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤、配合剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0044】
上記Oリング表面のフッ素樹脂は凸部を形成していてもよいし、膜状であってもよい。
【0045】
本発明の自動車用オイルレベルゲージは、Oリング表面に凸部を有するものであることも好ましい。この場合、上記凸部は、実質的に上記組成物に含まれるフッ素樹脂からなる。上記凸部と上記Oリングとの間には明確な界面等が存在せず、上記凸部はOリングと一体的に構成される。
ここで、凸部が実質的に上記組成物に含まれるフッ素樹脂からなることは、IR分析やESCA分析によってフッ素ゴム由来とフッ素樹脂由来のピーク比を求めることで、凸部が実質的にフッ素樹脂からなることを示すことができる。具体的には、凸部を有する領域において、IR分析によって、フッ素ゴム由来の特性吸収のピークとフッ素樹脂由来の特性吸収のピークとの比(成分由来ピーク比=(フッ素ゴム由来のピーク強度)/(フッ素樹脂由来のピーク強度))を、凸部と凸部外のそれぞれの部分で測定し、凸部外の成分由来ピーク比が、凸部の成分由来ピーク比に対して2倍以上、好ましくは3倍以上であることをいう。
【0046】
上記凸部の形状について、図面を参照しながらもう少し詳しく説明する。
図2(a)は、Oリングが有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線Bと直線Bを含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面からの距離が0.15μmの直線Cと直線Cを含む平面で切断した断面図である。
そして、図2(a)〜(c)には、本発明のOリングの微小領域を模式的に描画している。
Oリング30の表面には、図2(a)〜(c)に示すように、例えば、略円錐形状(コーン形状)の凸部31が形成されていてもよい。
【0047】
ここで、凸部31の高さとは、Oリング表面から突出した部分の高さをいう(図2(b)中、H参照)。
また、凸部31の径とは、凸部31をOリングの表面から所定の高さ(本願では0.15μm/図2(b)中、一点鎖線参照)で、Oリングの表面と平行に切断した面において観察される凸部31(図2(c)参照)の断面において、断面の外縁をなす閉曲線を内接する最小の長方形を仮定し、この長方形の長辺L1と短辺L2との和を2で除した値((L1+L2)/2)をいう。
【0048】
上記凸部の形状は、平均高さが0.5〜5μmであることが好ましい。上記平均高さがこの範囲にあると、Oリングが低摺動性に優れる。より好ましい平均高さは、0.5〜3μmである。更に好ましくは、0.5〜2μmであり、特に好ましくは、0.7〜2μmである。
【0049】
また、上記凸部の平均径は、5〜20μmであることが好ましい。より好ましくは、5〜15μmであり、特に好ましくは、8〜15μmである。凸部の平均径がこの範囲にあると、Oリングが低摺動性に優れる。
【0050】
また、Oリングの表面において、上記凸部を有する領域の比率は、10%以上であることが好ましい。少なくとも10%の領域に凸部を形成すれば、Oリングの低摩擦性が向上する。より好ましい上記比率は、15%以上である。更に好ましくは、18%以上である。一方、上記凸部を有する領域の比率の好ましい上限は、80%である。
なお、上記凸部を有する領域の比率とは、上記凸部の径を評価する切断面において、凸部が占める面積の比率をいう。
【0051】
本発明の自動車用オイルレベルゲージにおいて、上記凸部は少なくともOリングの表面に形成されていればよく、部分的に形成されていてもよいし、全表面に形成されていてもよい。本発明の自動車用オイルレベルゲージにおいては、オイルレベルゲージガイドの内壁と接触する接触部に凸部が形成されている形態であれば良い。
【0052】
上記凸部の形状は、原子間力顕微鏡によって確認することができる。例えば、原子間力顕微鏡を使用してOリング表面を観察し、得られた位相像から表面の硬さを解析することによって、実質的にフッ素樹脂からなる凸部が存在することを確認できる。また、Oリング表面にある凸部の平均径は、例えば、100個の測定視野内平均径であり、測定視野内平均径は、測定視野(150μm四方)内の凸部全てについて、各凸部の高さ0.15μmの平面で切断してできる領域の長径と短径との和を2で除した値の平均値である。
また、凸部の平均高さは、例えば、100個の測定視野内平均高さであり、測定視野内高さとは、測定視野(150μm四方)内の凸部全てについて、各凸部の高さの値を平均した値である。
また、凸部を有する領域の比率は、例えば、100個の測定視野内占有率であり、測定視野内占有率とは、測定視野(150μm四方)内の凸部全てについて、凸部の高さ0.15μmの平面で切断してできる領域の面積が測定視野(150μm四方)の面積に占める割合である。
【0053】
原子間力顕微鏡:VEECO製 PM920−006−101 マルチモードVシステムカンチレバー:VEECO Probes製HMX−10
測定環境:常温・常湿
測定視野:150μm四方
測定モード:ハーモニクスモード
【0054】
上記凸部の形状は、レーザー顕微鏡によって確認することもできる。例えば、後述するレーザー顕微鏡及び解析ソフトを使用して、Oリング表面の任意の領域(270μm×202μm)に存在する凸部全てについて、各凸部の底部断面の径及び高さを測定し、それらを平均して平均径及び平均高さを求めることができる。また、Oリング表面の任意の領域(270μm×202μm)に存在する凸部の断面積の合計が測定視野の面積に占める割合として占有率を求めることができる。
レーザー顕微鏡:キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)
解析ソフト:三谷商事株式会社製、WinRooF Ver. 6.4.0
測定環境:常温・常湿
測定視野:270μm×202μm
【0055】
上記Oリング表面のフッ素樹脂は、膜状であることも本発明の好ましい形態の一つである。上記膜状のフッ素樹脂は、上記組成物に含まれるフッ素樹脂が析出したものである。上記Oリングは、表面に形成された膜状のフッ素樹脂とOリング内部との間に明確な界面等が存在せず、膜状のフッ素樹脂がOリングの内部と一体的に構成されている。膜状のフッ素樹脂は、Oリングの全表面を被覆していてもよいが、全表面を被覆している必要はなく、Oリングの表面においてフッ素ゴムが露出している部分があってもよい。
【0056】
次に、上記Oリングの製造方法について説明する。
【0057】
上記Oリングは、
(I)フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムとをフッ素樹脂の融点より5℃低い温度以上の温度で混練する混練工程、
(II)得られた混練物を成形架橋する成形架橋工程、および
(III)得られた架橋成形品をフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する熱処理工程
を含む方法により製造することができる。すなわち、この製造方法により得られたOリングを備える自動車用オイルレベルゲージも本発明の1つである。
【0058】
未架橋フッ素ゴムは、架橋前のフッ素ゴムである。
【0059】
(I)混練工程
混練工程(I)では、未架橋フッ素ゴムとフッ素樹脂とを、フッ素樹脂の融点より5℃低い温度以上の温度、好ましくはフッ素樹脂の融点以上の温度で溶融混練する。加熱温度の上限は、未架橋フッ素ゴムまたはフッ素樹脂のいずれか低い方の熱分解温度未満である。
【0060】
未架橋フッ素ゴムとフッ素樹脂との溶融混練はその温度で架橋を引き起こす条件(架橋剤、架橋促進剤および受酸剤の存在下など)では行わないが、フッ素樹脂の融点より5℃低い温度以上の溶融混練温度で架橋を引き起こさない成分(たとえば特定の架橋剤のみ、架橋剤と架橋促進剤の組合せのみ、など)であれば、溶融混練時に添加混合してもよい。架橋を引き起こす条件としては、例えば、ポリオール架橋剤と架橋促進剤と受酸剤との組合せが挙げられる。
【0061】
したがって、本発明における混練工程(I)では、未架橋フッ素ゴムとフッ素樹脂とを溶融混練してプレコンパウンド(予備混合物)を調製し、ついで、架橋温度未満の温度で他の添加剤や配合剤を混練してフルコンパウンドとする2段階混練法が好ましい。もちろん、全ての成分を架橋剤の架橋温度未満の温度で混練する方法でもよい。
【0062】
上記架橋剤としては、アミン架橋剤、ポリオール架橋剤、パーオキサイド架橋剤等の公知の架橋剤を使用することができる。
【0063】
溶融混練は、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、フッ素樹脂の融点より5℃低い温度以上の温度、たとえば200℃以上、通常230〜290℃でフッ素ゴムと混練することにより行うことができる。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、加圧ニーダーまたは二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。
【0064】
また、2段階混練法におけるフルコンパウンド化は、架橋温度未満、たとえば100℃以下の温度でオープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダーなどを用いて行うことができる。
【0065】
上記溶融混練と類似の処理としてフッ素樹脂中で未架橋フッ素ゴムをフッ素樹脂の溶融条件下で架橋する処理(動的架橋)がある。動的架橋では、熱可塑性樹脂のマトリックス中に未架橋ゴムをブレンドし、混練しながら未架橋ゴムを架橋させ、かつその架橋したゴムをマトリックス中にミクロに分散させる方法であるが、本発明における溶融混練では、架橋を引き起こさない条件(架橋に必要な成分の不存在、またはその温度で架橋反応が起こらない配合など)で溶融混練するものであり、またマトリックスは未架橋ゴムとなり、未架橋ゴム中にフッ素樹脂が均一に分散している混合物である点において本質的に異なる。
【0066】
(II)成形架橋工程
この工程は、混練工程で得られた混練物を成形し架橋し、製造するOリングと略同形状の架橋成形品を製造する工程である。
【0067】
成形方法としては、たとえば押出成形法、金型などによる加圧成形法、インジェクション成形法などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
架橋方法も、スチーム架橋、加圧成形法、加熱により架橋反応が開始される通常の方法、放射線架橋法等が採用でき、なかでも、加熱による架橋反応が好ましい。
【0069】
成形および架橋の方法および条件としては、採用する成形および架橋において公知の方法および条件の範囲内でよい。また、成形と架橋は順不同で行ってもよいし、同時に並行して行ってもよい。
【0070】
たとえば、自動車用オイルレベルゲージに用いられるOリングでは、金型などで成形と架橋を同時に並行して行うことも通常行われている方法である。
【0071】
限定されない具体的な架橋条件としては、通常、150〜300℃の温度範囲、1分間〜24時間の架橋時間内で、使用する架橋剤などの種類により適宜決めればよい。また、後述する熱処理工程において、架橋成形品表面にフッ素樹脂からなる凸部を形成させる観点から、成形架橋条件は、フッ素樹脂の融点未満の温度であることが好ましく、より好ましくはフッ素樹脂の融点より5℃以上低い温度以下である。また、架橋条件における温度の下限は、フッ素ゴムの架橋温度である。
【0072】
また、未架橋ゴムの架橋において、最初の架橋処理(1次架橋という)を施した後に2次架橋と称される後処理工程を施すことがあるが、つぎの熱処理工程(III)で説明するように、従来の2次架橋工程と本発明の成形架橋工程(II)および熱処理工程(III)とは異なる処理工程である。
【0073】
(III)熱処理工程
この熱処理工程(III)では、得られた架橋成形品をフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する。熱処理工程(III)を経ることにより、製造する弾性部材の表面に、(主にフッ素樹脂からなる)凸部を形成することができる。
【0074】
本発明における熱処理工程(III)は、架橋成形品表面のフッ素樹脂比率を高めるために行う処理工程であり、この目的に即して、フッ素樹脂の融点以上で、かつ、フッ素ゴムおよびフッ素樹脂の熱分解温度未満の温度が採用される。
【0075】
加熱温度がフッ素樹脂の融点よりも低い場合は、架橋成形品表面のフッ素樹脂比率が十分に高くならない。フッ素ゴムおよびフッ素樹脂の熱分解を回避するために、加熱温度は、フッ素ゴムまたはフッ素樹脂のいずれか低い方の熱分解温度未満の温度でなければならない。好ましい加熱温度は、短時間で低摩擦化が容易な点から、フッ素樹脂の融点より5℃以上高い温度である。
【0076】
加熱時間は加熱温度と密接に関係しており、加熱温度が比較的下限に近い温度では比較的長時間加熱を行い、比較的上限に近い加熱温度では比較的短い加熱時間を採用することが好ましい。このように加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定すればよいが、加熱処理をあまり高温で行うとフッ素ゴムが熱劣化することがあるので、加熱処理温度は、実用上300℃までである。
【0077】
かかる熱処理工程(III)を経ることにより、Oリング表面のフッ素樹脂比率が高くなるという現象は本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0078】
また、上記(I)〜(III)の工程を経て製造したOリングが凸部を有する場合、上記(III)の工程を行った後、研磨処理等により不要な部分の凸部を除去してもよい。
【0079】
ところで、従来行われている2次架橋は1次架橋終了時に残存している架橋剤を完全に分解してフッ素ゴムの架橋を完結し、架橋成形品の機械的特性や圧縮永久ひずみ特性を向上させるために行う処理である。
【0080】
したがって、フッ素樹脂の共存を想定していない従来の2次架橋条件は、その架橋条件が偶発的に熱処理工程の加熱条件と重なるとしても、2次架橋ではフッ素樹脂の存在を架橋条件設定の要因として考慮せずに未架橋フッ素ゴムの架橋の完結(架橋剤の完全分解)という目的の範囲内での加熱条件が採用されているにすぎず、フッ素樹脂を配合した場合にゴム架橋物(ゴム未架橋物ではない)中でフッ素樹脂を加熱軟化または溶融する条件を導き出せるものではない。
【0081】
なお、成形架橋工程(II)において、未架橋フッ素ゴムの架橋を完結させるため(架橋剤を完全に分解するため)の2次架橋を行ってもよい。
【0082】
また、熱処理工程(III)において、残存する架橋剤の分解が起こり未架橋フッ素ゴムの架橋が完結する場合もあるが、熱処理工程(III)における未架橋フッ素ゴムの架橋はあくまで副次的な効果にすぎない。
【0083】
混練工程(I)、成形架橋工程(II)、及び、熱処理工程(III)を含む製造方法により得られるOリングは、フッ素樹脂の表面移行現象によって、表面領域でフッ素樹脂比率が増大した状態になっているものと推定される。
【0084】
特に、混練工程(I)で得られる混練物は、未架橋フッ素ゴムが連続相を形成しかつフッ素樹脂が分散相を形成している構造、または未架橋フッ素ゴムとフッ素樹脂が共に連続相を形成している構造をとっているものと推定され、このような構造を形成することにより、成形架橋工程(II)での架橋反応をスムーズに行うことができ、得られる架橋物の架橋状態も均一になり、また熱処理工程(III)におけるフッ素樹脂の表面移行現象がスムーズに起こりフッ素樹脂比率が増大した表面が得られる。
【0085】
なお、フッ素樹脂の表面層への移行がスムーズに起こる点から、熱処理工程はフッ素樹脂の融点以上での加熱処理が特に優れている。
【0086】
この表面領域でフッ素樹脂比率が増大した状態は、Oリングの表面をESCA又はIRで化学的に分析することで検証できる。
【0087】
たとえば、ESCA分析では成形品の表面から約10nmまでの深さの原子団を同定できるが、熱処理後において、フッ素ゴム由来の結合エネルギーのピーク(PESCA1)とフッ素樹脂由来のピーク(PESCA2)の比(PESCA1/PESCA2)が熱処理前に対して小さくなっている、すなわちフッ素樹脂の原子団が多くなっている。
【0088】
また、IR分析では成形品の表面から約0.5〜1.2μmまでの深さの原子団を同定できるが、熱処理後において、深さ0.5μmでのフッ素ゴム由来の特性吸収のピーク(PIR0.51)とフッ素樹脂由来のピーク(PIR0.52)の比(PIR0.51/PIR0.52)が熱処理前に対して小さくなっている、すなわちフッ素樹脂の原子団が多くなっている。しかも、深さ0.5μmでの比(PIR0.51/PIR0.52)と深さ1.2μmでの比(PIR1.21/PIR1.22)を比べても、深さ0.5μmでの比(PIR0.51/PIR0.52)の方が小さくなっており、表面に近い領域の方にフッ素樹脂比率が増大していることを示している。
【0089】
ところで、フッ素ゴムの表面をフッ素樹脂の塗布や接着で改質したものでは、フッ素樹脂比率の傾斜を呈さない。本発明のオイルレベルゲージにおけるOリング表面にはフッ素樹脂が析出しており、通常、フッ素樹脂比率の傾斜分布を有することとなる。このようなOリングは、従来にない新規なOリングである。
【0090】
そして、表面のフッ素樹脂比率が高いことにより、フッ素樹脂の特性、たとえば低固着性、非粘着性、低摩擦性、撥水撥油性が格段に向上する。しかも、表面部分以外では逆にフッ素ゴムの特性が発揮でき、全体として、低固着性、非粘着性、低摩擦性、撥水撥油性、エラストマー性のいずれにもバランスよく優れたOリングが得られる。更に、フッ素樹脂とフッ素ゴムに明確な界面状態が存在しないので、表面のフッ素樹脂に富む領域が脱落することもなく、耐久性に優れる。そのため、レベルゲージが自動車用オイルレベルゲージガイドに固着することなく、オイルを確実にシールし、長期間、品質を保持することができる。
【実施例】
【0091】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0092】
フッ素ゴム:ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(ダイキン工業(株)製のG7401)
フッ素樹脂:ETFE(ダイキン工業(株)製のEP−610)
充填剤:カーボンブラック(Cancarb社製のMTカーボン:N990)
受酸剤:酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製のMA150)
架橋助剤:水酸化カルシウム(近江化学工業(株)製のCALDIC2000)
【0093】
実施例1
(I)混練工程
(プレコンパウンドの調製)
内容積3リットルの加圧型ニーダーに、体積充填率が85%になるようにフッ素ゴム100質量部とフッ素樹脂33質量部とを投入し、材料(フッ素ゴムとフッ素樹脂)温度が230℃になるまで練り、プレコンパウンドを調製した。ローターの回転数は45rpmとした。
【0094】
(フルコンパウンドの調製)
得られたプレコンパウンドを8インチロール2本を備えたオープンロールに巻き付け、充填剤を1質量部、受酸剤を3質量部、架橋助剤を6質量部添加し、20分間混練りした。更に得られたフルコンパウンドを24時間冷却し、再度8インチロール2本を備えたオープンロールを用いて、30〜80℃で20分間混練りしてフルコンパウンドを調製した。
【0095】
このフルコンパウンドの架橋(加硫)特性を調べた。結果を表1に示す。
【0096】
(II)成形架橋工程
オイルレベルゲージOリング金型にフルコンパウンドを投入して、8MPaに加圧して、170℃で10分間加硫させて、架橋成形品(線径1.9mm、内径5.8mmのOリング)を得た。
【0097】
(III)熱処理工程
得られた架橋成形品を230℃に維持された加熱炉中に24時間入れ、加熱処理をし、オイルレベルゲージOリングを得た。
【0098】
架橋(加硫)特性を、JSRキュラストメーターII型を用いて、測定温度170℃で測定した。
【0099】
原子間力顕微鏡を使用してオイルレベルゲージOリングの表面を観察し、得られた位相像から表面の硬さを解析することによって、実質的にフッ素樹脂からなる凸部が存在することを確認した。
また、オイルレベルゲージOリング表面にある凸部の平均径とは、100個の測定視野内平均径であり、測定視野内平均径とは、測定視野(150μm四方)内の凸部全てについて、各凸部の高さ0.15μmの平面で切断してできる領域の長径と短径との和を2で除した値の平均値である。
また、凸部の平均高とは、100個の測定視野内平均高さであり、測定視野内高さとは、測定視野(150μm四方)内の凸部全てについて、各凸部の高さの値を平均した値である。
また、凸部の占有率とは、100個の測定視野内占有率であり、測定視野内占有率とは、測定視野(150μm四方)内の凸部全てについて、凸部の高さ0.15μmの平面で切断してできる領域の面積が測定視野(100μm四方)の面積に占める割合である。
【0100】
原子間力顕微鏡:VEECO製 PM920−006−101 マルチモードVシステム
カンチレバー:VEECO Probes製HMX−10
測定環境:常温・常湿
測定視野:150μm四方
測定モード:ハーモニクスモード
【0101】
オイルレベルゲージOリング表面の凸部先端から0.5μm深さと凸部外の表面から0.5μm深さとについての原子団をIR分析によって、同定した結果を表1に示す。ここでフッ素ゴム由来の特性吸収のピークを(PIR0.51)とし、フッ素樹脂由来の特性吸収のピーク(PIR0.52)とし、その比(PIR0.51/PIR0.52)を示す。
ここで、凸部とは、高さ0.15μm以上の部分をいう。
【0102】
次に、以下に示す方法でオイルレベルゲージOリングの固着を測定した。結果を表1に示す。
固着力の測定は、市販のオイルレベルゲージ(HONDA車用 部番:15650−RB0−000)に、上記Oリングを図1に示すように組付け、市販のオイルレベルパイプ(HONDA車用 部番:15200−RK8−000)に挿入し、150℃の加熱炉中に72時間放置後、24時間常温に放置し、冷却したものを垂直方向に引き抜く力(荷重)を島津製作所製オートグラフにて引き抜き速度10mm/min.での引き抜き荷重を測定した。一度引き抜いた試験体を再度オイルレベルパイプに挿入し、同様に引き抜き荷重を測定した。固着力は、150℃の加熱炉に72時間放置し、24時間冷却後の引抜き荷重から再度挿入し、測定した引抜き荷重を差し引いたものとした。
また、固着状態は、固着力測定と同条件にて処理し、オイルレベルゲージを引抜いた後のオイルレベルパイプに対するOリングの固着状態を目視、及び光学顕微鏡(×10)にて確認し、○:光学顕微鏡で固着なし、△:光学顕微鏡で固着あり、×:目視で固着あり、とした。
【0103】
実施例2〜4
熱処理温度、及び熱処理時間を表1(250℃に維持された加熱炉中に24(実施例2)、48(実施例3)、又は168時間(実施例4))に記載するように変化させたこと以外は、実施例1と同様にオイルレベルゲージOリングを得て固着試験、及び固着状態の確認を行った。結果を表1に示す。
【0104】
実施例5〜7
フッ素樹脂とフッ素ゴムとの比率を表1のように変更したこと以外は、実施例2と同じ方法でオイルレベルゲージOリングを得て固着試験、及び固着状態の確認を行った。結果を表1に示す。
【0105】
比較例1及び2
フッ素樹脂を混合していない2元系フッ素ゴム材料、及び実施例1と同様のフッ素樹脂を混合しているが熱処理を行っていない材料で成形架橋工程を経てオイルレベルゲージOリングを得て、固着試験、及び固着状態の確認を行った。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1の結果から、本発明のオイルレベルゲージの各実施例は各比較例よりも固着試験特性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の自動車用オイルレベルゲージは、レベルゲージガイドへの固着もなく、長期間使用可能であり、簡便な方法で作製できるものである。
【符号の説明】
【0109】
1:自動車用オイルレベルゲージ
2:オイルレベルゲージ本体
3:取手部
4:シール軸部
5:鍔部
6:把持部
7、30:Oリング
8:油面検出部
31:凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の内燃機関のオイル溜まりに浸漬され、オイルレベルを計測する油面検出部を有するレベルゲージ本体と、前記レベルゲージ本体の上部に形成された取手部とを有し、更にオイルレベルゲージガイドに嵌挿されてオイルをシールするOリングを前記レベルゲージ本体に具備する自動車用オイルレベルゲージであって、
前記Oリングは、フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物からなるとともに、表面に前記フッ素樹脂が析出したものであり、
前記フッ素樹脂は、エチレンに基づく重合単位とテトラフルオロエチレンに基づく重合単位とを含む共重合体であり、
前記フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位を有する重合体である
ことを特徴とする自動車用オイルレベルゲージ。
【請求項2】
Oリング表面のフッ素樹脂比率は、内部よりも高い請求項1記載の自動車用オイルレベルゲージ。
【請求項3】
前記フッ素ゴムは、
ビニリデンフルオライドに基づく重合単位と、
テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及び、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種の単量体に基づく重合単位と、を含む共重合体である請求項1又は2記載の自動車用オイルレベルゲージ。
【請求項4】
前記フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含む組成物は、フッ素ゴムとフッ素樹脂との質量比が60/40〜97/3である請求項1、2又は3記載の自動車用オイルレベルゲージ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−209277(P2011−209277A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47884(P2011−47884)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)