説明

自動車用直流電動機、これを用いた自動車用の送風機及び空調装置

【目的】 自動車用の各種直流電動機の電磁共振音の発生を抑制する。
【構成】 送風機用の直流電動機7はACジェネレータの交流を直流に変換して駆動される。電動機7と電動機速度制御回路2とを結線する配線間に、インダクタンス8とコンデンサ9との並列共振回路で構成される交流成分除去回路4が電動機7と直列に接続される。交流成分除去回路4は、インダクタンス8とコンデンサ9との直列共振回路で構成し、これを電動機7と並設接続してもよい。交流成分除去回路4は、ACジェネレータの電源電圧リップルに起因する電動機の電磁共振発生要素たる交流成分を除去し、電磁共振音を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車用の機器全般にわたり適用可能な直流電動機及びこれを用いた送風機及び空調装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、従来の自動車用空調装置の制御回路では、特開昭56−13213号公報に開示されるように、電源から電動機速度切換手段と速度制御手段を介して送風機用の直流電動機が接続されるのが一般的な回路であった。電動機速度切換手段と速度制御手段は、車両によって抵抗素子を使用するものと電子回路で構成する方式がとられているが、いずれも電動機両端に印加する電源は、ACジェネレータからの交流を整流器により直流に変換したものが使用される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、自動車用の電源は、エンジン回転に連結したACジェネレータでバッテリに直流電源を供給しているので、整流された直流電源といえどもジェネレータ発電時の変動分は常時変化しているのが普通である。特に、車両の大きなクラスになると発電容量も大きな値を必要とするので、この変動分は比例して大きくなる傾向がある。従って、供給する電源が直流分だけのときには正常な動作を行うが、交流分が加わると種々の問題を発生する。
【0004】交流分が印加された場合に大きな問題となるのは、制御の不安定よりも、異常騒音である。即ち、直流電動機は直流電圧によって回転する構造をとっているため、交流成分が加わると、このリップル電圧で脈動電流が電機子に流れ電動機内で交番磁束を発生し、電磁力の変動が生じる。
【0005】このため、電動機本体の固有周波数とリップル電圧の交番周波数が一致する所で電磁共振現象を起こし、電磁共振音となって外部に放散され乗員に不快感を与えていた。また、近年の小形軽量化技術の進展により電動機もこれに追従しているが、反面、電動機本体の剛性が、プラスチック部品の採用によって低下傾向にあるため、より一層電磁共振を起こしやすい状況となっている。
【0006】本発明は以上の点に鑑みてなされ、その目的は、自動車用の直流電動機やこれを用いた送風機、空調装置の電磁共振に伴う騒音を有効に抑制することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、自動車用の直流電動機を駆動する回路に、電源電圧リップルに起因して生じる電動機の電磁共振発生要素たる交流成分を除去する回路を設ける。
【0008】
【作用】直流電動機に供給される直流電源に含まれる交流成分(リップル)は、その周波数がACジェネレータの回転数換言すればエンジン回転数により変化する。交流成分除去回路は、電動機本体の固有周波数の共振点及び共振点前後の交流成分を除去して電動機に直流分だけを供給することで、電動機の電磁共振を抑制する。
【0009】
【実施例】本発明の実施例を図面に従い説明する。
【0010】図1は本発明の第1実施例に係り、適用対象として自動車用空調装置の制御回路を示す。
【0011】図1におけるバッテリ1は図示されないACジェネレータと接続され、バッテリ1と送風機用の直流電動機7との間にある電動機駆動回路Aには、その電源ラインに電動機速度切換スイッチ2aを有する電動機速度制御回路2が設けてある。
【0012】電動機速度制御回路2は、切換スイッチ2aの操作により高,中,低速の速度制御モードを選択する。電動機速度制御回路2の低速度制御回路出力端3と電動機7との間には、インダクタンス(L)8とコンデンサ(C)9との並列共振回路で構成される交流成分除去回路4が直流電動機7に電源ライン及び端子5を介して直列に接続される。
【0013】交流成分除去回路4のインダクタンス(L)8とコンデンサ(C)9の定数は、直流電動機7本体の固有周波数fnとほゞ一致させるべく、次式
【0014】
【数3】


【0015】により決定し、f0=2〜4.5KHzの範囲をとるよう設定してある。
【0016】図3はインダクタンス(L)8とコンデンサ(C)9で構成する並列共振回路(交流成分除去回路)4のリップル周波数fに対する各素子に流れる電流IC,ILと外部回路に流れ出る電流IOの関係を表したもので、前述した如く各素子の定数を直流電動機7本体の固有振動数fnとほゞ一致させるべくf0により設定したので、f0及びf0前後で外部回路に流れ出る交流電流分IOは最小となっている。これは、LとCの並列共振を応用したものである。
【0017】図1の回路において、交流成分除去回路4の入力端を低速度制御回路出力端3と接続したのは、直流電流分はインダクタンス(L)を通して外部回路に流れるため、直流電動機の最大電流を避けインダクタンス直流抵抗分アールによるジュール熱{(IL+Ia)2R}での発熱を最小限にすることで回路の小形化を図ったものである。
【0018】図4は直流電動機7本体の固有振動数値2.5KHzのリップル電圧が印加された場合の直流電動機7単体の騒音周波数分析である。これによると、リップル電圧が0.2V以上になるとリップル電圧が印加されない場合に比較して、2.5KHzに異常なピーク騒音を有することが判る。これに対し図5は図1の本実施例による回路で試験した結果であるが、入力電圧が図示の如く図4と同様に変動しているにもかかわらず、騒音周波数分析に示されるような異常なピーク騒音は発生していない。
【0019】図2は本発明の第2実施例を示すもので、図1と同様にバッテリ1、電動機速度制御回路2付きの駆動回路A、交流成分除去回路4、直流電動機7等を備えるが、図1との相違は、インダクタンス(L)8とコンデンサ(C)9との直列共振回路により交流成分除去回路4を構成し、この交流成分除去回路4を直流電動機7と並列に接続している。この交流成分除去回路4は、図面では、配線の位置関係を明確にするため、直流電動機7の外側にあるように記載しているが、直流電動機7の両端に並設接続している特徴からすれば直流電動機7の正負のブラシ間に内蔵することもできる。
【0020】本実施例においても上記第1実施例同様の騒音周波数分析試験を試みた(図示省略)結果、第1実施例に比較して交流電流が分流する分だけ若干効果は少なかったがほゞ図5に示されると同様の結果を得ることができた。
【0021】なお、上記各実施例は自動車用空調装置を一例に説明したが、自動車用の各種直流電動機に適用できる。
【0022】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、自動車用空調装置その他種々の自動車用の直流電動機に電磁共振発生要素たる交流成分を除去する回路を設けることで、ジェネレータの電源電圧リップルに起因する電動機の騒音(電磁共振音)を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る回路図。
【図2】本発明の第2実施例に係る回路図。
【図3】第1実施例に用いた交流成分除去回路の電流特性図。
【図4】従来の自動車用空調装置制御回路による電源電圧リップル印加時の直流電動機騒音周波数分析試験結果を示す特性図。
【図5】第1実施例に係る自動車用空調装置制御回路による電源電圧リップル印加時の直流電動機騒音周波数分析試験結果を示す特性図。
【符号の説明】
1…バッテリ、2…電動機速度制御回路、2a…切換スイッチ(速度切換手段)、3…電動機速度制御回路2の低速度制御回路出力端、4…交流成分除去回路、5…交流成分除去回路の出力端、6…電動速度制御回路の他の出力端、7…直流電動機、8…インダクタンス(L)、9…コンデンサ(C)、A…電動機駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ACジェネレータからの交流を整流器を介して直流に変換し、この直流電源により駆動される自動車用の直流電動機で、前記直流電動機の駆動回路には、電源電圧リップルに起因して生じる電動機の電磁共振発生要素たる交流成分を除去する回路を設けたことを特徴とする自動車用直流電動機。
【請求項2】 請求項1において、前記交流成分除去回路がインダクタンス(L)とコンデンサ(C)との並列共振回路から構成され、前記直流電動機の電源ラインに直列に接続したことを特徴とする自動車用直流電動機。
【請求項3】 請求項1において、前記交流成分除去回路がインダクタンス(L)とコンデンサ(C)との直列共振回路から構成され、前記直流電動機の両端に並列に接続したことを特徴とする自動車用直流電動機。
【請求項4】 請求項2又は請求項3における前記インダクタンス(L)と前記コンデンサ(C)の定数は、電動機の共振周波数をf0とすると、
【数1】


により決定したことを特徴とする自動車用直流電動機。
【請求項5】 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記直流電動機の駆動回路は電動機速度制御回路を備え、この電動機速度制御回路と前記直流電動機とを結線する配線間に前記交流成分除去回路を設けたことを特徴とする自動車用直流電動機。
【請求項6】 請求項5において、前記電動機速度制御回路中の低速度制御回路と前記直流電動機とを結線する配線間に前記交流成分除去回路を配設して、交流成分を電機子電流の小電流時だけ該交流成分除去回路を通すようにしたことを特徴とする自動車用直流電動機。
【請求項7】 ACジェネレータからの交流を整流器を介して直流に変換し、この直流電源により駆動される送風機で、その速度制御回路と送風機用直流電動機とを結線する配線間には、電源電圧リップルに起因して生じる電動機の電磁共振発生要素たる交流成分を除去する回路を、前記直流電動機と直列もしくは並列に設けたことを特徴とする自動車用送風機。
【請求項8】 請求項7において、前記交流成分除去回路がインダクタンス(L)とコンデンサ(C)との共振回路から構成され、このインダクタンス(L)とコンデンサ(C)の定数は、送風機本体の共振周波数をf0とすると、
【数2】


により決定し、f0=2〜4.5KHzの範囲をとることを特徴とする自動車用送風機。
【請求項9】 ACジェネレータからの交流を直流に変換して駆動される送風機と、送風機用直流電動機の速度切換手段及び速度制御手段を備えた電動機駆動回路とを備え、前記送風機の駆動回路には、電源電圧リップルに起因して生じる電動機の電磁共振発生要素となる交流成分を除去する回路を設けたことを特徴とする自動車用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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