説明

自動車用電気接続箱

【課題】 ケースにネジ締めによりコネクタを固定する電気接続箱において、ネジ締め前のボルトの抜けを防止するプッシュナットによりボルトが削られて生じる金属屑を小片とすることにより、絶縁している回路材を金属屑によって導通してしまうのを防止する
【解決手段】 ケース内部に回路材が収容されていると共に、該ケースの下面にコネクタ30を配置し、該コネクタ30に固定されたナット31に対して、ボルト20をケースの上方から貫通してネジ締めしてコネクタ30をケースに固定しており、ボルト20ストッパー部20cの外周面20c−2を凹凸面とし、かつ、ボルト20には軸部先端よりストッパー部20cを乗り越えてプッシュナット21を取り付けており、該プッシュナット21の取付時にストッパー部20cの外周面をプッシュナット21の爪部21bが削りとっても小片となる構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電気接続箱に関し、詳しくは、ケース内部の回路材と接続するコネクタをボルト締め結合によりケースに固定するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載する電気接続箱において、ケース内部に収容した回路材と電線端末に接続した多極コネクタとをネジ締めにより締結して接続し、コネクタ接続の操作力の低減を図るものがある。
【0003】
このような電気接続箱として、特開平8−148224号(特許文献1)において、図9に示す電気接続箱1が提供されている。該電気接続箱1は、アッパーケース2、ロアケース3および多極のコネクタ4にそれぞれ設けた貫通穴2a、3a、4aにボルト5を通し、コネクタ4内に埋設したナットと締結してコネクタ4をロアケース3下面のコネクタ収容部3b内に固定している。
電気接続箱1では、ボルト5をアッパーケース2の貫通穴2aに通した後、図10に示すように、ボルト5に軸部先端よりプッシュナット6を取り付けており、ケースとコネクタ4とのネジ締め前に、ボルト5が抜け方向(図10中、上側)に移動すると、ボルト5を部分的に大径化したフランジ部5aがプッシュナット6と干渉してアッパーケース2の貫通穴2aからボルト5が抜けるのを防止している。
【0004】
前記プッシュナット6は、中央にボルト5の軸部を通すための貫通穴を設けており、該貫通穴をボルト5のフランジ部5aを乗り越えさせてボルト5に取り付けている。プッシュナット6は貫通穴周縁をボルト5のフランジ部5aに干渉させてボルト5の抜けを防止するものであるため、プッシュナット6の貫通穴はボルト5のフランジ部5aの最大径部分と略同径としている。よって、プッシュナット6がボルト5のフランジ5aを乗り越える際に、プッシュナット6の貫通穴周縁部によりフランジ部5aの外周面が削り取られて金属屑5bが発生するおそれがある。フランジ部5aは外周面を円滑面としているため、フランジ部の周方向もしくはボルト軸線方向に連続してフランジ部5aが削られると、金属屑5bが長片となる。この長片の金属屑5bがケース内部に入ると絶縁している回路材に接触してリークを発生させる恐れがある。
【特許文献1】特開平8−148224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、ケースにネジ締めによりコネクタを固定する電気接続箱において、ネジ締め前のボルトの抜けを防止するプッシュナットによりボルトの外周面が削られて生じる金属屑を小片とすることにより、仮に、削られた小片がケース内に混入しても、回路材が金属屑によってリークが発生する恐れがないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、ケース内部に回路材が収容されていると共に、該ケースの下面にコネクタを配置し、該コネクタに固定されたナットに対して、ボルトを前記ケースの上方から貫通してネジ締めして前記コネクタをケースに固定しており、
前記ボルトのナットに対する所定締付位置で、該ナットの上面と当接するストッパー部を前記ボルトを大径化させて設けていると共に、該ストッパー部の外周面を凹凸面とし、
かつ、前記ボルトには軸部先端より前記ストッパー部を乗り越えてプッシュナットを取り付けており、該プッシュナットの取付時に前記ストッパー部の外周面をプッシュナットの爪部が削りとっても小片となる構成としている自動車用電気接続箱を提供している。
【0007】
前記構成によれば、ボルトを大径化させたストッパー部の外周面を凹凸面としているため、プッシュナットの爪部によって削り取られる金属屑がストッパー部の外周面に設けた凹部で切断され小片となる。よって、小片となった金属屑が絶縁している回路材間に架け渡されることがなく、絶縁している回路材同士を導通させるのを防止することができる。
【0008】
前記ストッパー部外周面の凹凸面とは、具体的には、間隔をあけて溝を設けたローレット面としてもよいし、梨地処理により凹凸を設けた梨地面としてもよい。
また、絶縁している回路材同士は、通常少なくとも1.5mmより大きな間隔をあけているため、ストッパー外周面の凸部端面の長さがいずれの方向であっても1.5mm以下、好ましくは1.0mm以下としている。
【発明の効果】
【0009】
前述したように、本発明によれば、ケースにネジ締めによりコネクタを固定する電気接続箱において、ボルトを大径化させたストッパー部の外周面を凹凸面としているため、プッシュナットの爪部によって削り取られる金属屑がストッパー部の外周面に設けた凹部で切断され小片となり、この小片となった金属屑では、絶縁している回路材間を架け渡すことができず、絶縁している回路材同士を導通させるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図6は、本発明の第1実施形態を示し、電気接続箱10は内部回路を備えた接続箱本体11の下面に設けたコネクタ収容部13bに多極のコネクタ30をネジ締めにより固定し、接続箱本体11の上下面にそれぞれアッパーカバー17とロアカバー18を被せてロック結合している。
【0011】
接続箱本体11は、図2に示すように、アッパーケース12とロアケース13からなるケース内部に導電性金属板を打抜加工して所要形状に形成したバスバー(回路材)14と絶縁板15とを交互に積層した積層体16を収容している。互いに絶縁しているバスバー14同士は、絶縁板15より突設した保護壁により隣接するバスバーの間に、少なくとも1.5mmの間隔をあけて配置している。
【0012】
アッパーケース12、ロアケース13および絶縁板15にそれぞれ貫通穴12a、13a、15aを設け、これら貫通穴12a、13a、15aを連通させてボルト20を上方から貫通させ、ボルト20の下端側をロアケース13の外面に設けたコネクタ収容部13b内に突出させている。また、ロアケース13の貫通穴13aの周辺をケース内部側に凹ませて凹部13cを設けている。さらに、バスバー14の先端を下方に屈曲させてタブ14aを設け、該タブ14aをロアケース13に設けた端子穴13dを通してコネクタ収容部13b内に突出させている。
【0013】
前記接続箱本体11を貫通させる金属製のボルト20は、ボルト頭部20aと反対側の軸部の下部側にネジ部20bを設け、該ネジ部20bよりもボルト頭部20a側にストッパー部20cを設けている。該ストッパー部20cは、ネジ部20bのネジ山よりも大径とし、ストッパー部20cの下面はボルト下端側に向けて縮径させ、円錐形状に傾斜させた傾斜面20c−1としている。ストッパー部20cの傾斜面20c−1以外の外周面20c−2は、図3(B)に示すように、水平方向に対して45°傾斜した溝20c−3を一定ピッチでクロス状に設けたローレット面としている。よって、溝20c−3を設けていない外周面20c−2の凸部端面20c−4は正方形となり、正方形の最大長さとなる対角線の長さL1を1.0mmとしている。
【0014】
ストッパー部20cの上部側には、該ストッパー部20cよりも小径のプッシュナット取付部20dを設けている。該プッシュナット取付部20dの上端からボルト頭部20aの下端までの部位を接続箱本体11を貫通する貫通部20eとし、該貫通部20eはプッシュナット取付部20dよりも大径とし、接続箱本体11の貫通穴12a、13a、15aと略同径としている。
【0015】
金属製のプッシュナット21は、図4に示すように、下方に向けて縮径する円環形状としている。プッシュナット21の内周面21aの縮径端の径L2はボルト20のストッパー部20cの外周面20c−2と略同径としている。よって、プッシュナットを21をボルト20の軸部先端から嵌め込み、ストッパー部20cを乗り越える際には、プッシュナット21を押圧するため、図5に示すように、プッシュナット21の内周面21aの縮径端である爪部21bによりボルト20のストッパー部20cの外周面20c−2が削られ金属屑22が生じる場合がある。
【0016】
ボルト20を接続箱本体11の貫通穴に通すと、ボルト20の下端側がロアケース13のコネクタ収容部13b内に突出する。このとき、ボルト20のストッパー部20cは、コネクタ収容部13bの底面13b−1よりも下方、即ち、コネクタ挿入側に突出している。ボルト20を接続箱本体11の貫通穴に貫通させた状態で、前記のように、ボルト20の下端側からプッシュナット21を嵌め込み、ボルト20のプッシュナット取付部20dにプッシュナット21を取り付け、ボルト20を部分的に大径化している。これにより、ネジ締めする前もしくはコネクタ離脱時ににボルト20が接続箱本体の貫通穴から抜けそうになると、プッシュナット21がロアケース13の凹部13cの底面13c−1に当接し、ボルト20の抜けを防止している。
【0017】
接続箱本体11に固定するコネクタ30は略中央に上面から所要深さのボルト挿入部30aを設けており、該ボルト挿入部30aにナット31を埋設している。ナット31の上端は、コネクタ30の上面近傍に配置されており、ナット31のボルト挿通部31aの上面開口周縁部31bをコネクタ30のボルト挿入部30aの上面開口を通して露出させている。コネクタ30には複数の端子収容室(図示せず)を設けており、該端子収容室に電線端末に圧着接続した雌端子(図示せず)が挿入されている。また、端子収容室はコネクタ上面側の端子穴30bと連通させて上面開口としている。
前記コネクタ30のハウジング外面にはロック部30dを設ける一方、前記ロアカバー
18の内面に被ロック部18aを設けている。
【0018】
前記コネクタ30を接続箱本体11のコネクタ収容部13bに挿入する際には、先ず、コネクタ30のロック部30dをロアカバー18の被ロック部18aと係止して、コネクタ30をロアカバー18内の所定位置に位置決め保持して収容している。
この状態で、ロアカバー18の上方に接続箱本体11を配置し、接続箱本体11を貫通させたボルト20をロアカバー18内のコネクタ30のボルト挿入部30aが対向する位置に位置させる。
【0019】
次いで、インパクトレンチ(図示せず)を用いてボルト20をネジ締めすると、ボルト20がコネクタ30内のナット31に螺嵌し、コネクタ30がコネクタ収容部13bに挿入される。コネクタ30が接続箱本体11の下面に所要のクリアランスをあけた正規位置までコネクタ収容部13b内に挿入されると、図6に示すように、コネクタ30に固定したナット31のボルト挿通穴31aの上面開口周縁部31bとボルト20のストッパー部20cの下面の傾斜面20c−1とが接触して、コネクタ30の挿入が正規位置で規制される。本実施形態では、3つのコネクタ30をロアカバー18内に嵌合係止し、それぞれボルト締めにより接続箱本体11に固定している。
【0020】
コネクタ30が接続箱本体11のコネクタ収容部13bの正規位置まで挿入されたとき、コネクタ収容部13b内に突出したバスバー14のタブ14aがコネクタ30の端子穴を通して端子収容室に挿入され、電線端末の雌端子と接続される。この状態でロアカバー18を接続箱本体11のアッパーケース11とロック結合している。
【0021】
前記構成によれば、ボルト20を大径化させたストッパー部20cの外周面20c−2を溝20c−3を設けた凹凸面としているため、プッシュナット21の爪部21bによって削り取られる金属屑22がストッパー部20cの外周面20c−2に設けた溝20c−3で切断され小片となり、この小片となった金属屑22では、絶縁しているバスバー14間を架け渡すことができず、絶縁しているバスバー14同士を導通させるのを防止することができる。
【0022】
なお、ボルト20のストッパー部20cの外周面20c−2に設ける溝20c−3は、図7に示すように、ボルト軸線方向に間隔(1.0mm以下)をあけて水平方向に延在し、ストッパー部20cの外周面に周設する構成としてもよい。
【0023】
図8は、本発明の第2実施形態を示す。
本実施形態では、ボルト20のストッパー部20cの外周面20c−2を梨地処理により凹凸を有する梨地面としている。
前記構成としても、プッシュナット21の爪部21bによって削り取られる金属屑22を小片と、この小片が接続箱本体11に混入しても隣接するバスバー同士の間隔が小片よりも大きいため、リークの発生が防止できる。又、コネクタ30側に混入しても、隣接する端子同士のリーク発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の電気接続箱の分解斜視図である。
【図2】接続箱本体の要部拡大断面図である。
【図3】ボルトを示し、(A)は正面図、(B)はストッパー部の要部拡大図である。
【図4】プッシュナットの正面図である。
【図5】プッシュナットによりボルトのストッパー部が削られる状態を示す図面である。
【図6】(A)は接続箱本体のコネクタ収容部にコネクタを挿入した状態を示す図面、(B)はストッパー部とナットの当接状態を示す要部拡大図である。
【図7】第1実施形態の変形例を示す図面である。
【図8】本発明の第2実施形態を示す図面である。
【図9】従来例の電気接続箱の分解斜視図である。
【図10】従来例の問題点を示す図面である。
【符号の説明】
【0025】
10 電気接続箱
11 接続箱本体
12 アッパーケース
12a 貫通穴
13 ロアケース
13a 貫通穴
14 バスバー
15 絶縁板
15a 貫通穴
20 ボルト
20c ストッパー部
20c−1 傾斜面
20c−2 外周面
20c−3 溝
20c−4 凸部端面
30 コネクタ
31 ナット
31b 上面開口周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内部に回路材が収容されていると共に、該ケースの下面にコネクタを配置し、該コネクタに固定されたナットに対して、ボルトを前記ケースの上方から貫通してネジ締めして前記コネクタをケースに固定しており、
前記ボルトのナットに対する所定締付位置で、該ナットの上面と当接するストッパー部を前記ボルトを大径化させて設けていると共に、該ストッパー部の外周面を凹凸面とし、
かつ、前記ボルトには軸部先端より前記ストッパー部を乗り越えてプッシュナットを取り付けており、該プッシュナットの取付時に前記ストッパー部の外周面をプッシュナットの爪部が削りとっても小片となる構成としている自動車用電気接続箱。
【請求項2】
前記ケースの下面にボルト締めされるコネクタは、コネクタカバー内に係止して収容した複数個からなり、各コネクタをそれぞれ前記ボルトで前記ケースに締結している請求項1に記載の自動車用電気接続箱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−50826(P2006−50826A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229930(P2004−229930)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】