説明

自動車運転用靴

【課題】アクセルペダルとブレーキペダルの操作を安定して行える自動車運転用靴を提供する。
【解決手段】本発明の自動車運転用靴は、靴底4に踵部5を有し、踵部5の後方側に、側面視で、後方に移行するに連れて次第に上昇する傾斜表面5Bを備えている。この傾斜表面5Bは、幅方向外側に形成され、アクセルペダル踏み込み時に接地可能な第1面部5aと、幅方向内側に形成され、第1面部5aの表面状態と異なり、ブレーキペダル踏み込み時に接地可能な第2面部5bとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転に適した自動車運転用靴に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車を運転する際、ドライバーは、右足でアクセルペダルとブレーキペダルの踏み換え操作を行う。この場合、一般的に外出するときに履く靴で、そのまま運転操作することが困難なことがある。例えば、踵が高い革靴、ハイヒール、或いはサンダル等は、踵部分の形状が、そのまま乗車して運転するには適した構造となっていないため、踵部分が床面に引っ掛かることが生じ、走行中、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み分け操作に支障を来たすことがある。また、特に、小さい断面積で高い踵を有するようなハイヒールは、アクセルペダルやブレーキペダルの操作時に安定感がなく、疲労が大きくなってしまう。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1には、踵部の後端側に傾斜面を形成した自動車運転用靴が開示されている。この自動車運転用靴によれば、アクセルペダルを押圧操作する際、或いは、ブレーキペダルを押圧操作する際、つま先側が浮いた状態になるものの、踵部に形成されている傾斜面がその状態を維持するように自動車床面に接地するため、安定したペダル操作が行えるようになる。
【特許文献1】特開平8−299019号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した公知の自動車運転用靴は、踵部の後端側に傾斜面を形成することで、安定してつま先側を浮かせることはできるが、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み換え操作時の足の動きを考慮すると、操作性の向上を図る上では、更に改良する余地がある。すなわち、運転時におけるドライバーの右足の踏み換え操作を考慮した際、その疲労をできるだけ軽減するには、踵部分を大きく動かすことなく、安定して両ペダルの踏み分け操作が行えるように構成されていることが望ましい。また、自動車を長時間運転するケースでは、靴の内部に蒸れが生じ易くなることから、快適な運転を阻害する要因にもなってしまう。
【0005】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、アクセルペダルとブレーキペダルの操作を安定して行える自動車運転用靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明に係る自動車運転用靴は、靴底に踵部を有し、前記踵部の後方側に、側面視で、後方に移行するに連れて次第に上昇する傾斜表面を形成した構成において、前記傾斜表面は、幅方向外側に形成され、アクセルペダル踏み込み時に接地可能な第1面部と、幅方向内側に形成され、前記第1面部の表面状態と異なり、ブレーキペダル踏み込み時に接地可能な第2面部とを有することを特徴とする。
【0007】
上記した構成によれば、踵部の後方側に、側面視で、後方に移行するに連れて次第に上昇する傾斜表面を形成したことで、アクセルペダルやブレーキペダルに足裏(靴底裏面)を載置する際、つま先側を安定した状態で浮かせることが可能となり、安定した踏み込み操作が可能となる。また、この傾斜表面には、幅方向外側に、アクセルペダル踏み込み時に接地可能な第1面部が形成され、かつ、幅方向内側に、前記第1面部の表面状態と異なり、ブレーキペダル踏み込み時に接地可能な第2面部が形成されていることから、踵部を中心にして(踵部をできるだけ動かさないようにして)、つま先側を回動してアクセル/ブレーキの踏み分け操作を容易に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の自動車運転用靴によれば、アクセルペダルとブレーキペダルの操作を安定して行え、快適な運転を可能にする自動車運転用靴が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る自動車運転用靴(以下、運転用靴と称する)の一実施形態について説明する。
【0010】
図1は、右足に履く運転用靴の全体構成を示す図であり、(a)は幅方向外側から見た側面図、(b)は裏面図、(c)は幅方向内側から見た側面図、そして、図2は、後方から見た図である。
【0011】
本実施形態における運転用靴1は、ドライバーの右足首から先を収容する構造となっており、足部を挿入する開口2が形成された本体3、本体3の裏面側に取着される靴底4を備えた構成となっている。
【0012】
前記本体3は、右足の甲側を覆う部分であり、通気性を有する材料で形成されているのが好ましく、例えば、多数のメッシュを有するナイロン、綿等によって形成することが可能である。また、前記靴底4は、開口2から足を入れた際に、足裏の動きに追従できるように可撓性を有する材料であることが好ましく、例えば、ゴム、プラスチック、発泡性を有する素材、革等で形成することが可能である。なお、靴底4には、履き心地を向上するために、その内側に足裏と接触する中敷が設けられていても良い。この中敷は、開口2から取着しても良いし、靴底4に予め取着しておいても良い。
【0013】
前記靴底4には、後方側に踵部5が取着され、前方側に押圧部6が取着されている。この踵部5及び押圧部6については、靴底4と共に一体形成されていても良い。
【0014】
前記踵部5の裏面側には、ドライバーが履いて直立した際に、地面に設置する水平面部5Aと、運転操作中、アクセルペダルやブレーキペダルに足裏を載置した際に、つま先側を浮かせた状態で自動車床面に接地する傾斜表面5Bが形成されている。
【0015】
この場合、傾斜表面5Bは、踵部の後方側領域において、側面視で、後方に移行するに連れて次第に上昇する形状となっている。すなわち、このような傾斜表面5Bを形成したことで、アクセルペダルやブレーキペダルに足裏(靴底裏面)を載置する際、つま先側を安定した状態で浮かせることが可能となり、これにより、安定した踏み込み操作が可能となる。なお、傾斜表面5Bの傾斜角度(側面視した際、自動車床面Pに対して傾斜する角度α;本実施形態では、自動車床面Pと後述するライン8によって規定される角度)については、大きくなり過ぎると、足首の屈折角度が大きくなり、少なくなり過ぎると安定してつま先を浮かせた状態を維持し難くなることから、20°〜45°の範囲内に形成されていることが好ましい。
【0016】
また、傾斜表面5Bには、幅方向外側に、アクセルペダル20の踏み込み時に、自動車床面Pに接地可能な第1面部5aが形成されており、かつ、幅方向内側に、第1面部5aの表面状態と異なり、ブレーキペダル30の踏み込み時に、自動車床面Pに接地可能な第2面部5bが形成されている(図3,図4参照)。
【0017】
本実施形態では、第1面部5a及び第2面部5bは、その表面が共に平坦な面として構成されており、傾斜表面5Bの中央領域よりもやや内側のライン8を境にして、幅方向外側に向けて次第に上昇する傾斜平面(第1面部5a)、及び幅方向内側に向けて次第に上昇する傾斜平面(第2面部5b)として構成されている。第1面部5aと第2面部5bとの境界は、上記したライン8の部分が稜線となっており、両者の面部は単一の面ではなく、傾斜表面5Bが複合面として構成されている。
【0018】
そして、このような傾斜表面5Bに形成されるアクセルペダル用の第1面部5a、及びブレーキペダル用の第2面部5bは、実際の運転状況を考慮すると、ブレーキペダル30に対してアクセルペダル20を押圧操作する時間帯が多いことから、その面積比率は、第1面部5aの方が大きく設定(具体的には50%−50%から80%−20%の範囲)しておくことが好ましい。すなわち、第1面部5aの表面積を大きくすることで、長時間操作される時間帯に安定した状態が維持できるため、疲労感を軽減することが可能となる。また、夫々の第1面部5a,第2面部5bの表面には、床面に対して滑らないように、凹凸部9を形成しておくことが好ましい。
【0019】
上記した踵部5の表面側は、アクセルペダルやブレーキペダルを踏み込んだ状態、すなわち、傾斜表面5Bの領域が接地してつま先側が浮いた状態で、靴全体がぐらつくことなく安定した状態が維持できるものであれば良い。例えば、床面Pに対して安定良く接地できるように、発泡剤で成形したブロック状の踵部5の表面に、樹脂等の硬い平板状のものを貼り付けて構成することが可能である。或いは、踵部5自身を、硬度が30〜60Hs程度の素材のものでブロック状に一体形成しても良い。
【0020】
また、前記押圧部6には、幅方向に延出し、足裏側に向けて湾曲する凹状湾曲部10aを有する板状部材10を取着しておくことが好ましい。この板状部材10は、カーボン樹脂等、比較的硬い素材で成形されており、図1に示すように、押圧部6(靴底4)に直接貼着するか、或いは、押圧部6(靴底4)と中敷との間に挟み込めば良い。このような板状部材10を設けることで、足裏の疲労や痛みを緩和することができ、長時間運転している状態でブレーキ操作を行っても、何等、疲労感や違和感なく、ブレーキペダルを押圧操作することができる。もちろん、このような板状部材10は、押圧部6(靴底4)と共に一体形成しても良い。
【0021】
また、通常、自動車のブレーキペダル30は、図4に示すように、幅方向に広がって表面30aが湾曲状に形成されていることから、板状部材10に上記した凹状湾曲部10aを形成することで、図4に示すように、ブレーキペダル30の表面30aに対する密着性の向上が図れるようになる。すなわち、足裏全体でブレーキペダル30を踏み込むのではなく、一部(硬い材料で形成された板状部材10が配置されている部分)で押圧することで、その踏み込み力をブレーキペダル30に容易に伝え易くなり、操作時の疲労を軽減することが可能になる。
【0022】
この場合、凹状湾曲部10aの湾曲率は、ブレーキペダル30の表面30aの湾曲率と一致していることが好ましいが、図4に示すように、凹状湾曲部10aの曲率半径が、ブレーキペダル30の表面30aの曲率半径よりも大きくなっていれば良い。このように、凹状湾曲部10aの曲率半径を大きくすることで、表面30aに対して面当たりさせることができ、安定したブレーキ操作を行うことが可能となる。
【0023】
さらに、上記した板状部材10には、多数の通気孔10bが形成されており、本体3の内部の蒸れを抑制するように構成されている。また、本体3に対する通気性を向上するために、靴底4の土踏まず領域に多数の通気孔3dを形成しておいても良い。
【0024】
上記した構造の踵部5によれば、図5に示すように、踵部5の傾斜表面5Bの領域を中心にして(踵部5を幅方向に移動させることなく)、単に、つま先側を矢印方向に回動することで、アクセル/ブレーキの踏み分け操作を容易に行うことが可能となる。すなわち、踵部5を横方向に移動操作しないことから、踵部が床面に引っ掛かるようなことも無く、疲労が軽減されるようになる。また、アクセルペダル20、ブレーキペダル30を踏み込んだ際、上記したような踵部の構成、及び傾斜表面5Bの形状によって、安定した位置、及び状態を保つことが可能になる。
【0025】
なお、図6に示すように、第1面部5aと第2面部5bを、上記したように、ライン8を稜線として次第に上昇する傾斜平面とした場合、踵部5の水平面部5A(図1参照)を通常に接地したときのライン8の支点(接地点)P1における各面部の水平線PLに対する傾斜角度θ1は10〜40°、θ2は20〜50°となるように踵部5を形成することが好ましい。このように設定することで、アクセルペダルを踏んでいる位置から、支点P1を軸として、そのままつま先を左に移動させることでブレーキペダルを容易に踏み換え操作することが可能となる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
【0027】
例えば、上記した構成において、踵部5の後方側に形成される傾斜表面5Bは、少なくとも、前記第1面部5aと、この第1面部5aの表面状態と異なる第2面部5bを有する複合面を備えたものであれば良い。この場合、第1面部5a及び第2面部5bは、単一面ではなく、異なる状態の複合面となっていれば良く、両者の間には、上記したように、各面部を明確に区別できるような稜線8が形成されていても良い。或いは、各面部を、傾斜する平坦面とするのではなく、互いに湾曲状で異なる状態の表面として構成されていても良い。さらに、傾斜表面5Bには、状態が異なる3つ以上の面が形成されていても良い。
【0028】
また、本発明は、その使用目的が自動車運転用に限定されることから、体重を支えるために必要とされる耐久構造や、濡れに対して保護するための濡れ防止構造等については考慮する必要がない。このため、可能な限り軽量化した素材、或いは通気性のある素材で構成することが可能であり、また、各所に通気性を向上するための通気孔を形成することが可能である。更に、上記した本体3については、足の甲全てを覆うのではなく、部分的に覆うような構造、例えば、サンダルのような構造であっても良い。また、アクセル/ブレーキ操作を行わない左側の靴については、その構成については限定されることはなく、実際の販売時において、右足と対称形状のものを揃えておいても良いし、単に、右足用として販売する形態であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】右足に履く運転用靴の全体構成を示す図であり、(a)は幅方向外側から見た側面図、(b)は裏面図、(c)は幅方向内側から見た側面図。
【図2】図1に示す運転用靴を後方側から見た図。
【図3】アクセルペダルを踏む際の傾斜表面の接地状態を示す図。
【図4】ブレーキペダルを踏む際の傾斜表面の接地状態を示す図。
【図5】アクセルペダルとブレーキペダルの踏み換え操作を示す平面図。
【図6】踵部を接地した際の各面部の状態を示す図。
【符号の説明】
【0030】
1 自動車運転用靴
3 本体
4 靴底
5 踵部
5B 傾斜表面
5a 第1面部
5b 第2面部
6 押圧部
10 板状部材
10a 凹状湾曲部
20 アクセルペダル
30 ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底に踵部を有し、前記踵部の後方側に、側面視で、後方に移行するに連れて次第に上昇する傾斜表面を形成した自動車運転用靴において、
前記傾斜表面は、幅方向外側に形成され、アクセルペダル踏み込み時に接地可能な第1面部と、幅方向内側に形成され、前記第1面部の表面状態と異なり、ブレーキペダル踏み込み時に接地可能な第2面部とを有することを特徴とする自動車運転用靴。
【請求項2】
前記第1面部は、第2面部よりも表面積が大きいことを特徴とする請求項1に記載の自動車運転用靴。
【請求項3】
前記靴底のつま先側に、幅方向に延出し、足裏側に向けて湾曲する凹状湾曲部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車運転用靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−142168(P2008−142168A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330468(P2006−330468)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【特許番号】特許第4083783号(P4083783)
【特許公報発行日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(506407202)株式会社アイ・ビー・エム・アイ・ジャパン (1)
【Fターム(参考)】