自動車
【課題】車内に流入する外気に含まれる汚染物質を除去すると共に、車内空気中の汚染物質を除去して車内空気を清浄化することが可能な自動車を提供する。
【解決手段】外部から空気が流入する空間部である壁面に、高活性炭素繊維部材が設けられている。ここで、空間部は、外部から空気を車内に導くダクト又は風路16、22、車内であって、車内の側面23、天井面24、床面25又は座席26に使用する部材の一部又は全部に高活性炭素繊維部材が用いられている。
【解決手段】外部から空気が流入する空間部である壁面に、高活性炭素繊維部材が設けられている。ここで、空間部は、外部から空気を車内に導くダクト又は風路16、22、車内であって、車内の側面23、天井面24、床面25又は座席26に使用する部材の一部又は全部に高活性炭素繊維部材が用いられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内に流入する外部の空気(以下、単に外気ともいう)に含まれる汚染物質を除去すると共に、車内空気中の汚染物質を除去して車内空気を清浄化する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車内空気の浄化方法として、例えば、車フロント部に空気浄化機能を備えた空調装置(エアコン)を設置し又は車内天井部に空気清浄機を設置し、車内で車内空気を循環させることにより行う方法、あるいは、活性炭素繊維をガラス繊維に静電植毛した活性炭素繊維植毛シートをユーザーがサンバイザーに固定し、エアコンから吐出されフロントガラスに沿って天井に向かう車内空気を活性炭素繊維に接触させることにより行う方法(例えば、特許文献1参照)等が提案されている。
【0003】
また、車内空気を換気する場合は、換気入口(空調用通気口)から外気を車内に取込み、換気出口から排出している。ここで、交通量の多い道路では、道路上に一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物を含んだ汚染物質が高濃度で滞留することが知られている。このため、交通量の多い道路を走行中に外気を取込むと車内空気中の汚染物質濃度が上昇する虞があるので、車内に汚染物質が取込まれないように、外気を取込む換気入口と車内吹出し口との間に外気中の汚染物質を除去する空気浄化装置を設け、清浄な空気を車内に送風するようにしている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−239019号公報
【特許文献2】特開平6−142451号公報
【特許文献3】特開平9−175163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、自動車には、1)ドアの開閉をスムーズにするため、2)車内の内装材として使用しているプラスチック類から発生するホルムアルデヒド類を排出するため、3)搭乗者の呼気中の二酸化炭素を車内に充満させないために、車外と車内を連通する各種のダクト及び風路が設けられて、外気の車内への流入、車内空気の外部への流出を図っている。また、自動車に設けられている各種ドア(例えば、乗降用のドア、トランクのドア等)では、ドアを閉めることで雨水等の水の浸入を防止することはできるが、ドアを閉めてもドアと車体との間には隙間が存在するため、外気は隙間を通して車内に容易に流入する。
【0006】
このため、自動車の各ドアを全て閉めると共に窓も完全に閉め切り、換気入口からの外気の取込みを停止した状態(車内密閉)としても、ダクト及び風路、ドアと車体との隙間を介して外気が車内に流入し、図13〜図15に示すように、車内空気中の窒素酸化物濃度が環境中(沿道の外気中)の窒素酸化物濃度の34〜93%程度にまで達する。また、図16に示すように、車内空気中の窒素酸化物濃度が沿道の外気中の窒素酸化物濃度より高くなることもある。
【0007】
ここで、図13は、エアコンを停止し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた場合の測定結果を示しており、外気(温度14.3℃)中の一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO2)の平均濃度がそれぞれ182ppb、55ppbであるのに対して、車内(温度11.5℃)の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ151ppb、51ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は車外の一酸化窒素濃度の83%レベル、車内の二酸化窒素濃度は車外の二酸化窒素濃度の92%レベルになっている。
図14は、エアコンを運転して、車内で外気を取込まずに(車内密閉状態で)冷風を循環させた場合の測定結果を示しており、外気(温度26.0℃、相対湿度(RH)41%)中の窒素酸化物(NOx)、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度を基準(100%)とした場合、車内(温度25.6℃、RH35%)の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ58%、72%、及び34%のレベルになっている。
図15は、エアコンを運転して、車内で外気を取込まずに温風を循環させた場合の測定結果を示しており、外気(温度14.1℃、RH49%)中の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度を基準(100%)とした場合、車内(温度27.1℃、RH25%)の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ91%、90%、及び93%のレベルになっている。
図16は、エアコンを運転して、車内で外気を取込まずに温風を循環させた場合の測定結果を示しており、外気(温度13.8℃)中の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度がそれぞれ234ppb、66ppbであるのに対して、車内(温度18.6℃)の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ280ppb、77ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は車外の一酸化窒素濃度の120%レベル、車内の二酸化窒素濃度は車外の二酸化窒素濃度の117%レベルになっている。
【0008】
特に、図17、図18に示すように、低速走行時やアイドリング時は、排気ガスが外部の空気と共にトランク内に流入して滞留し易いため、トランク内の排気ガスを含んだ高濃度の汚染空気が車内に流入して、車内の汚染物質濃度は、外気の汚染物質濃度以上になる。トランク等、車体に一旦捕捉された一酸化窒素の一部は酸化され、二酸化窒素として再揮散している。
ここで、図17は、エアコンを運転し、車内を密閉した状態で、温度28.8℃、RH58%の外気中で自動車を走行させた際の車内(温度25.6℃、RH32%)の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度変化に及ぼす自動車の速度の影響を測定した結果で、自動車の停車中に車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度が急上昇すると、その後自動車の走行と停車が繰り返されても、車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度は略一定値となり、環境中の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度を基準とした場合、車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ250%及び720%のレベルになっている。
図18は、エアコンを運転し、車内を密閉した状態で車内空気の循環を行いながら、温度15.3℃の外気中で自動車を走行させた際の車内(温度27.1℃)の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度変化に及ぼす自動車の走行状態の影響を測定した結果で、自動車走行の経過時間の増加に伴って車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度は徐々に上昇し、外気の清浄地域で停車しても、車内の一酸化窒素濃度は微増傾向、二酸化窒素濃度は増加傾向をそれぞれ示す。また、外気の清浄地域で停車してドアの開閉を行うと一時的には車内の一酸化窒素及び二酸化窒素がそれぞれ急減少するが、ドアを密閉した状態にすると、外気は清浄であるにもかかわらず、自動車の排気ガスが捕捉されたトランク内等からの離脱等の理由により、車内の一酸化窒素濃度及び二酸化窒素濃度はそれぞれ370ppb、900ppbに増加する。なお、外気の清浄地域で停車した後に走行を開始した場合、自動車の走行に伴って車内の一酸化窒素濃度及び二酸化窒素濃度が減少するのは、自動車の走行中に、ダクト及び風路、トランク、ドアと車体との隙間を介して清浄な外気が車内に流入して排出されることにより、車内の換気が行なわれたためと考えられる。
また、図19に、エアコンを停止し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた際の車外とトランク内における自動車の走行中の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の各濃度の時間変化を示す。トランク内の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の各濃度は、自動車の走行を開始すると、略一定の濃度レベルに保たれ、トランク内に排気ガスが滞留していることが確認できる。なお、図19から、トランク内に関しては、外気の窒素酸化物の平均濃度の82%レベル、外気の一酸化窒素の平均濃度の97%レベル、外気の二酸化窒素の平均濃度の16%レベルに達したことになる。
【0009】
更に、市街地や都市高速道路下の沿道の環境中には、揮発性有機化合物と言われる各種汚染物質が存在する。このため、図20に示すように、市街地や沿道を走行する自動車内には、沿道の外気が流入するので、車内空気中の揮発性有機化合物の濃度は、沿道の環境中の揮発性有機化合物の濃度と同程度になるという問題がある。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、車内に流入する外気に含まれる汚染物質を除去すると共に、車内空気中の汚染物質を除去して車内空気を清浄化することが可能な自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的に沿う第1の発明に係る自動車は、外部から空気が流入する空間部の壁面に、高活性炭素繊維部材が設けられている。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係る自動車は、外部から空気が流入する空間部に高活性炭素繊維部材が配置されている。
【0013】
第1の発明に係る自動車において、前記空間部は、外部から空気を車内に導くダクト又は風路(例えば、ドアの内部、空気が流れる車体の内部空間)とすることができる。
【0014】
第1の発明に係る自動車において、前記空間部は車内であって、該車内の側面、天井面、床面又は座席に使用する部材の一部又は全部に前記高活性炭素繊維部材を用いることが好ましい。
ここで、高活性炭素繊維部材は、車内空気と接触する面の性状が損なわれないように、例えば、接着剤や取付け具等の取付け手段を用いて取付けたり、通気性のある布又はネット等の収納手段を介して取付けることが好ましく、取付けた状態の高活性炭素繊維部材は、通気性を有する表層材(化粧材)で覆って美観が損なわれるのを防止するのが好ましい。
【0015】
第1、第2の発明に係る自動車において、前記空間部はトランクとすることができる。
ここで、高活性炭素繊維部材は、車内空気と接触する面の性状が損なわれないように、例えば、接着剤や取付け具等の取付け手段を用いてトランク内に取付けたり、通気性のある布又はネット等の収納手段を介してトランク内に取付けることが好ましく、取付けた状態の高活性炭素繊維部材は、通気性を有する表層材(化粧材)で覆って美観が損なわれるのを防止するのが好ましい。
【0016】
第1、第2の発明に係る自動車において、前記高活性炭素繊維部材はフェルト状又は綿状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明に係る自動車においては、外部から空気が流入する空間部の壁面に高活性炭素繊維部材を設けるので、空間部に流入する空気の流れを妨げないで(自動車メーカーが設計した車内容積に対する外部からの空気の取込み割合を低下させずに)高活性炭素繊維部材の内側面に沿って空気を流すことが可能となる。また、高活性炭素繊維部材を空間部の壁面に設ける場合、空間部の壁面の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を設けることができるので、自動車の設計やデザインを変更せずに、現状の種々の車種の自動車を対象にすることができ、しかも、自動車の製造時に取付けることも、製造後の自動車に後付けで取付けることも可能である。ここで、高活性炭素繊維部材を構成している高活性炭素繊維(ACF)は、窒素酸化物以外に、種々の汚染物質(例えば、トルエン、ベンゼン、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOCs)、悪臭物質、硫黄酸化物(SOX)、オキシダント及び粒子状物質(PM)等)を吸着、分解、又は捕捉することが可能である。このため、浄化のためにエネルギーを使用せずに、外部から車内に流入する空気の流れを利用して空気中の汚染物質を除去することができ、低いランニングコストで清浄な空気を車内に流入させることが可能になる。
【0018】
第2の発明に係る自動車においては、外部から空気が流入する空間部に高活性炭素繊維部材を配置するので、空間部に流入する空気を高活性炭素繊維部材に接触させることが可能となる。また、高活性炭素繊維部材を空間部に配置する場合、空間部の壁面の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を配置するようにすると、自動車の設計やデザインを変更せず現状の種々の車種を対象にして、製造時又は製造後のいずれの状態の自動車に対しても高活性炭素繊維部材を設置することが可能になると共に、空間部に流入する空気の流れを妨げないで(自動車メーカーが設計した車内容積に対する外部からの空気の取込み割合を低下させずに)高活性炭素繊維部材に空気を接触させることが可能となる。ここで、高活性炭素繊維部材を構成している高活性炭素繊維は、窒素酸化物以外に、種々の汚染物質(例えば、トルエン、ベンゼン、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOCs)、悪臭物質、硫黄酸化物(SOX)、オキシダント及び粒子状物質(PM)等)を吸着、分解、又は捕捉することが可能である。このため、浄化のためにエネルギーを使用せずに、外部から車内に流入する空気の流れを利用して空気中の汚染物質を除去することができ、低いランニングコストで清浄な空気を車内に流入させることが可能になる。
【0019】
第1の発明に係る自動車において、空間部が、外部から空気を車内に導くダクト又は風路である場合、ダクト又は風路に圧力損失が発生せず、空気の流れが阻害されない。このため、高活性炭素繊維部材を設けても、車内の換気性能は低下しない。また、高活性炭素繊維部材は直接目に触れないので、自動車の美観が損なわれることはない。
【0020】
第1の発明に係る自動車において、空間部が車内であって、車内の側面、天井面、床面又は座席に使用する部材の一部又は全部に高活性炭素繊維部材を用いる場合、車内を流れる空気、車内に淀んだ空気が高活性炭素繊維部材に接触することにより、車内空気中の汚染物質が高活性炭素繊維に吸着され、車内空気の浄化が行なわれる。
【0021】
第1、第2の発明に係る自動車において、空間部がトランクである場合、トランク内に流入する外部の空気が高活性炭素繊維部材に接触することにより、含まれる汚染物質が高活性炭素繊維に吸着され、汚染物質含有量の少ない浄化された空気が車内に流入するようにすることができる。また、低速走行時やアイドリング時に、排気ガスが外部の空気と共にトランク内に流入し滞留しても、排気ガスを含んだ空気が高活性炭素繊維部材と接触することにより排気ガス中の汚染物質が高活性炭素繊維に吸着されるため、汚染物質含有量の少ない空気が車内に流入することになって、車内空気中の汚染物質濃度を外気の汚染物質濃度以下にすることができる。
【0022】
第1、第2の発明に係る自動車において、高活性炭素繊維部材がフェルト状である場合、高活性炭素繊維部材の加工や変形を容易に行うことができ、空間部の壁面に合わせて高活性炭素繊維部材を設けること、空間部の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を配置することが容易にできる。また、高活性炭素繊維部材が綿状である場合、空間部の壁面に合わせて高活性炭素繊維部材を設けること、空間部の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を配置することが容易にできると共に、空気が高活性炭素繊維部材内に容易に進入することができ、空気との接触面積が増大して、長期間に亘り汚染物質の吸着を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動車において、(A)はダクト、(B)はドア風路、(C)はフロント側風路の説明図である。
【図2】(A)は同自動車の車内の天井面、床面、及び座席、並びにトランク内側面にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けた状態を示す説明図、(B)は同自動車の車内のドア内側面、ダッシュボード表面、及びトランク内側面にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けた状態を示す説明図である。
【図3】(A)は円筒管内に取付けた高活性炭素繊維部材の説明図、(B)及び(C)は円筒管内に取付けた高活性炭素繊維部材の断面図である。
【図4】円筒管内を通過したガス中の一酸化窒素濃度の時間変化を示すグラフである。
【図5】高活性炭素繊維部材による一酸化窒素の浄化率が50%以上となる期間の推定の説明図である。
【図6】ボックスの壁面に取付けた高活性炭素繊維部材とガスとの接触による浄化の説明図である。
【図7】ボックス内の高活性炭素繊維部材に対するガス風速と浄化率の関係を示すグラフである。
【図8】ボックス内の一酸化窒素濃度の時間変化を示すグラフである。
【図9】揮発性有機化合物を吸着する高活性炭素繊維部材の説明図である。
【図10】高活性炭素繊維部材による揮発性有機化合物の吸着の説明図である。
【図11】自動車車内に高活性炭素繊維部材を取付けた際の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図12】自動車車内に高活性炭素繊維部材を取付けた際の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図13】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図14】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図15】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図16】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図17】自動車車速、車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図18】走行時及び停車時の自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図19】自動車のトランク内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図20】一般環境、沿道、自動車車内の揮発性有機化合物濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る自動車10では、図1(A)に示すように、外部から空気が流入する空間部の一例であり、例えば、リヤバンパ11の側部外面に設けられた後部換気入口12に一端が接続し、他端が自動車10の車内に設けられた図示しない後部車内吹出し口に接続して設けられ、外部の空気(外気)を自動車10の車内に導く図示しないダクトの壁面に、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材(図示せず)が、接着剤を介して取付けられている。
これによって、後部換気入口12からダクト内に流入した外気の一部は、ダクトの壁面に取付けられたフェルト状の高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながらダクト内を通過することができる。更に、ダクト内に流入した外気の別の一部は、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面から内部に進入し、フェルト状の高活性炭素繊維部材の内部を通過し再びフェルト状の高活性炭素繊維部材の表面からダクト内に流出することができる。
【0025】
また、自動車10では、図1(B)に示すように、外部から空気が流入する空間部の一例である風路、例えば、自動車10のドア13の車内側に設けられた車内開口部14とドア13の側部外面に設けられた車外開口部15とを連通するドア風路16の壁面に、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材(図示せず)が、接着剤を介して取付けられている。更に、自動車10では、図1(C)に示すように、外部から空気が流入する空間部の一例である別の風路、例えば、自動車10のフロントガラス17の窓枠18とフロント部(図示せず)とを連結する接続部19に設けられた前部換気入口20に一端部が連接し、他端部が自動車10の車内に設けられた前部車内吹出し口21に連接して設けられ、外気を自動車10の車内に導くフロント側風路22の壁面に、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材(図示せず)が、接着剤を介して取付けられている。
これによって、ドア風路16、フロント側風路22に流入した外気の一部は、各風路16、22の壁面に取付けられたフェルト状の高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら各風路16、22内を通過することができる。更に、各風路16、22内に流入した外気の別の一部は、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面から内部に進入し、フェルト状の高活性炭素繊維部材の内部を通過し再びフェルト状の高活性炭素繊維部材の表面から各風路16、22内に流出することができる。
【0026】
更に、自動車10では、図2(A)、(B)に示すように、自動車10の外部から空気が流入する別の空間部である車内の壁面、例えば、車内の側面の一例であるドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29に使用する部材の一部にそれぞれ、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材30、31、32、33、34、35が、接着剤を介して取付けられている。そして、自動車10における外部から空気が流入する他の空間部であるトランク36の内側面には、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材37が、接着剤を介して取付けられている。以下、詳細に説明する。
【0027】
高活性炭素繊維は、ピッチ、ポリアクリロニトリル、フェノール、及びセルロースのいずれか1を主体とする炭素含有物質を不活性ガス雰囲気中(例えば、窒素ガス雰囲気)で加熱溶融して紡糸した繊維を、不融化熱処理(空気中、400〜1000℃の温度で熱処理して、繊維が熱で軟化しないようにする処理)してから水蒸気又は二酸化炭素で表面を賦活処理して表面に微細穴を開口させ、その後、不活性ガス雰囲気中で熱処理(例えば、窒素ガス雰囲気中で400〜1200℃)することで、繊維内にもともと含まれている含酸素官能基及び含窒素官能基を適度に除去して各官能基の数を調整することにより製造される。
【0028】
そして、フェルト状の高活性炭素繊維部材は、例えば、この高活性炭素繊維から構成された毛羽立ちのあるフェルト状の不織布又は織物を、取付ける場所(即ち、自動車10の空間部の壁面である自動車10のダクトの壁面、風路の壁面、車内の壁面、トランク36の蓋裏面、側内面部、及び底内面)の面積に合わせて裁断することにより形成する。また、綿状の高活性炭素繊維部材は、例えば、この高活性炭素繊維を交錯させて形成した成形物、例えばブランケットを、取付ける場所の面積に合わせて裁断することにより形成する。
なお、綿状の高活性炭素繊維部材を使用する場合、布や網等の通気性部材で形成された容器(例えば、円筒管)に高活性炭素繊維部材を予め緩やかに充填し、高活性炭素繊維部材が充填された容器を車内の所定の場所に取付けるようにする。更に、綿状の高活性炭素繊維部材を車内の取付け場所に合わせて所定の形状に予め成形しておき、この成形物の一側表面(取付けた際に内側表面となる側)を通気性を備えたカバー材で覆い、成形物の他側表面を接着剤を介して自動車10の空間部の壁面に取付けるようにしてもよい。
【0029】
ここで、フェルト状の高活性炭素繊維部材の厚みは2〜10mm、好ましくは5〜7mmとなるように調整する。高活性炭素繊維部材の厚みを2mm以上、好ましくは5mm以上としたのは、ダクト、風路、車内の壁面、トランク36内を通過する空気の一部は、高活性炭素繊維部材内にも進入できるので、空気と接触する十分な量の高活性炭素繊維を確保し、20年程度の寿命を確保するためである。また、高活性炭素繊維部材の厚みを10mm以下、好ましくは7mm以下としたのはダクト内、風路内、車内、トランク36内の容積の減少を少なくして、空気の流通に支障が生じないようにするためである。
【0030】
高活性炭素繊維は表面に開口する多数の微細穴を有するため、高活性炭素繊維は各種化学物質を吸着する特性を有することが知られている。このため、従来から、高活性炭素繊維でフィルタを構成し、フィルタに有害化学物質を通過させて、有害化学物質を吸着除去することが行われている。そこで、フェルト状の高活性炭素繊維部材に有害化学物質を通過させるのではなく、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面に沿って有害化学物質を通過させた場合、有害化学物質の吸着除去が可能か否か、吸着除去が可能ならば有害化学物質の除去率はどの程度なのかの調査を行った。
【0031】
高活性炭素繊維で構成された毛羽立ちのあるフェルト状の不織布(厚み7mm)から、幅85mm、長さ100mmのフェルト状高活性炭素繊維部材(フェルト状ACF)を2枚切り出し、一方のフェルト状ACFからは幅方向両端面を当接させて長さ100mmの円筒38を形成し、他方のフェルト状ACFは一側の表面を通気性を有する布(クロス)39で覆ってから布39が内側に配置されるように長さ100mmの円筒40を形成した。次いで、図3(A)、(B)、(C)に示すように、内径が27mm、長さが200mmのガラス管41、42の内側に円筒38、40をそれぞれ挿入した。
【0032】
そして、ガラス管41、42の一端側から一酸化窒素を20ppm含有する空気をガラス管41、42内に流量0.3リットル/分、流速0.9cm/秒で供給し、ガラス管41、42の他端側から排出させた。このとき、ガラス管41、42内が供給した空気で完全に置換された時点を時間の原点として、ガラス管41、42の他端側から排出される空気を一定時間経過毎にサンプリングして、空気に含まれる一酸化窒素の濃度を測定した。その結果を図4に示す。なお、図4では、円筒38が挿入されたガラス管41から排出される空気中の一酸化窒素の濃度変化をフェルト状ACF、円筒40が挿入されたガラス管42から排出される空気中の一酸化窒素の濃度変化をフェルト状ACF+クロスとしている。
【0033】
図4に示すように、ガラス管41、42の他端側から排出される空気中の一酸化窒素濃度は20ppm未満で、フェルト状ACFの表面に沿って一酸化窒素を含有する空気を通過させた場合、一酸化窒素がフェルト状ACFに吸着され、一酸化窒素の除去が可能であることが確認できた。なお、二酸化窒素は、一酸化窒素よりも容易に除去できる。
また、一酸化窒素の除去率は経過時間と共に徐々に低下してくるが、経過時間が40時間程度までは、ガラス管41、42内を通過した空気中の一酸化窒素の除去率及び除去挙動は略同一となり、空気と接触するフェルト状ACFの表面を通気性のある布39で覆っても、一酸化窒素の浄化性能は殆ど損なわれないことが確認できた。
なお、経過時間が50時間を超えるようになると、フェルト状ACFの表面を布39で覆わない方が、一酸化窒素の除去率が優位になる。この理由は、炭素材料(高活性炭素繊維)の活性が低下して、一酸化窒素の捕捉部位がフェルト状ACFの深部に移行しはじめる際、布39が一酸化窒素のフェルト状ACFへの通過速度を低下させるためと考えられる。
【0034】
ガラス管41から排出される空気中の一酸化窒素の濃度変化の0〜70時間の範囲を図5に示す。図5は、一酸化窒素の除去率の変化挙動は、一酸化窒素の除去率が徐々に低下するステージI(経過時間が0〜約13時間の範囲)、一酸化窒素の除去率の低下が顕著なステージII(経過時間が約13〜約30時間の範囲)、及び一酸化窒素の除去率が一定値に収束する傾向を示すステージIII(経過時間が約30〜70時間の範囲)に分割できる。ここで、ステージI、IIにおける一酸化窒素の平均除去率をそれぞれ求め、フェルト状ACFの空気と接触する面の面積を1m2とすると、ステージIの期間で100ppbの一酸化窒素を含む空気8100m3の浄化が、ステージIIの期間で100ppbの一酸化窒素を含む空気15120m3の浄化が可能になる。そこで、ステージIIIで一酸化窒素の除去率が50%(ガラス管41から排出される空気中の一酸化窒素の濃度が10ppm)となるまでに面積1m2のフェルト状ACFが300ppbの一酸化窒素を浄化する(吸着する)期間は、流量0.5リットル/分で通気した場合、約30年となる。従って、面積1m2のフェルト状ACFを自動車10に取付けた場合、一酸化窒素の浄化性能は、上記条件において30年程度維持できると解される。
【0035】
図6に示すように、縦、横、及び高さの内側寸法がそれぞれ92cmの立方体状の箱43の天井面の内側にフェルト状の高活性炭素繊維部材(フェルト状ACF)を貼り付け、箱43内に濃度1.5ppm一酸化窒素を含む空気を充填し、底部に配置したファン44で箱43内において底部から天井面に向かう風の流れ(風速は0.11m/s、1.11m/sに設定)を形成した。そして、ファン44を運転してから一定時間経過する毎に箱43内から少量の空気をサンプリングして、空気中の一酸化窒素濃度を求めた。その結果を、図7に示す。経過時間の増加と共に、空気中の一酸化窒素濃度は徐々に低下し、風速が0.11m/sの場合、約140分後に一酸化窒素は略100%除去(空気中の一酸化窒素濃度が略0ppm)でき、1.11m/sの場合、約100分後に一酸化窒素は略100%除去できた。
【0036】
また、フェルト状ACFの代わりに、表面を通気性のある布で覆ったフェルト状ACFを箱43の天井面の内側に接着し、ファン44で箱43の底部から天井面に向かう風速が0.11m/sの風の流れを形成し、一定時間経過する毎に箱43内から少量の空気をサンプリングして、一酸化窒素濃度を求めた。更に、通気性のある布を箱43の天井面の内側に接着して、箱43内に底部から天井面に向かう風速0.11m/sの風の流れを形成しながら、一定時間経過する毎に一酸化窒素濃度を求めた。その結果を、図8に示す。なお、図8には、フェルト状ACFを箱43の天井面の内側に接着して、箱43内に底部から天井面に向かう風速0.11m/sの風の流れを形成しながら、一定時間経過する毎に測定した一酸化窒素濃度の時間変化も示している。天井面の内側に、表面を通気性のある布で覆ったフェルト状ACF(フェルト状ACF+クロス)を接着した場合、空気中の一酸化窒素濃度の時間変化は、天井面の内側にフェルト状ACFを接着した場合の一酸化窒素濃度の時間変化と略同一の挙動を示し、約140分後に一酸化窒素は略100%除去できた。一方、天井面の内側に、布だけを接着した場合、箱43の内壁に一酸化窒素の一部が吸着する等の理由で、空気中の一酸化窒素濃度は低下するが、250分経過した時点でも、空気中の一酸化窒素濃度は約1.3ppmであり、一酸化窒素を略100%除去することに関しては、布の存在は無視できる。以上のことから、フェルト状ACFの表面を通気性のある布で覆っても、フェルト状ACFの一酸化窒素の除去率(吸着製性能)が低下しないことが確認できた。
【0037】
縦、横、及び高さの内側寸法がそれぞれ20cm、50cm、50cmの枠体(図示せず)内に、図9に示すように、縦20cm、横50cm、厚み0.7cmの平板45を0.8cmの隙間を設けて多段に配置し、平板45間の隙間に厚み5〜7mmのフェルト状の高活性炭素繊維部材46を挿入して、高活性炭素繊維ユニット47を形成した。そして、この高活性炭素繊維ユニット47を都市高速道路下の沿道に設置し、沿道の空気が高活性炭素繊維ユニット47の平板45間の隙間を自然に(自由に)通過できるようにして、沿道の空気中に含まれる揮発性有機化合物を高活性炭素繊維に吸着させた。
【0038】
沿道に106日間設置した高活性炭素繊維ユニット47を回収し、高活性炭素繊維ユニット47の中に設置したパッシブサンプラー(製品名VOC−SD)に吸着した揮発性有機化合物を二硫化炭素により抽出し、GC/MS(ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー)により揮発性有機化合物の種類を特定すると共に、揮発性有機化合物の種類毎の吸着量を測定した。その結果を図10に示す。図10には、沿道の空気中に含まれる揮発性有機化合物の種類毎の濃度も合わせて示している。図10から、沿道の空気中に含まれる揮発性有機化合物は、フェルト状の高活性炭素繊維部材46に接触させることにより除去できることが確認できた。
【0039】
続いて、本発明の一実施の形態に係る自動車10の作用について説明する。
図4、図10に示す結果から、例えば、図1(A)に示す自動車10のリヤバンパ11の後部換気入口12と車内の後部車内吹出し口とを連通するダクトの壁面に、フェルト状の高活性炭素繊維部材を接着剤を介して取付けると、後部換気入口12から流入した外気の一部は、ダクト内を流れる際に高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら通過することができ、更に、外気の残部の一部は高活性炭素繊維部材内に進入し高活性炭素繊維部材内を通過し再び高活性炭素繊維部材の内側表面からダクト内に流出することができるので、ダクトを通過中に、外気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、浄化された外気を後部車内吹出し口から車内に流入させることができる。
【0040】
また、図4、図10に示す結果から、例えば、図1(B)に示す自動車10のドア13の車内開口部14とドア13の側部外面の車外開口部15とを連通するドア風路16の壁面にフェルト状の高活性炭素繊維部材を接着剤を介して取付けると、車外開口部15から流入した外気の一部は、ドア風路16内を流れる際に高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら通過することができ、外気の残部の一部は高活性炭素繊維部材内に進入し高活性炭素繊維部材内を通過し再び高活性炭素繊維部材の内側表面からドア風路16内に流出することができるので、ドア風路16を通過中に、外気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、浄化された外気を車内開口部14から車内に流入させることができる。
【0041】
更に、図4、図10に示す結果から、例えば、図1(C)に示す自動車10のフロント側車外の前部換気入口20と車内の前部車内吹出し口21とを連通するフロント側風路22の壁面にフェルト状の高活性炭素繊維部材を接着剤を介して取付けると、前部換気入口20から流入した外気の一部は、フロント側風路22内を流れる際に高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら通過することができ、外気の残部の一部は高活性炭素繊維部材内に進入し高活性炭素繊維部材内を通過し再び高活性炭素繊維部材の内側表面からフロント側風路22内に流出することができるので、フロント側風路22を通過中に、外気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、浄化された外気を前部車内吹出し口21から車内に流入させることができる。
【0042】
ここで、高活性炭素繊維部材は、ダクトの壁面、ドア風路16の壁面、フロント側風路22の壁面の形状にそれぞれ合わせて取付けるので、高活性炭素繊維部材を取付けても、ダクト、各風路16、22にそれぞれ流入する空気の流れを妨げない。このため、高活性炭素繊維部材を取付けても、自動車メーカーが設計した車内容積に対する外部からの空気の取込み割合を維持することができると共に、自動車の設計やデザインを変更せずに、自動車の製造時に高活性炭素繊維部材を取付けることも、製造後の自動車に後付けで高活性炭素繊維部材を取付けることもできる。
【0043】
図8、図10に示す結果から、自動車10のドア13と車体との隙間を介して車内に外気が流入しても、例えば、ドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29に使用する部材の一部にフェルト状の高活性炭素繊維部材30、31、32、33、34、35を接着剤を介して取付けると、車内空気が車内でゆっくりと循環する際に、高活性炭素繊維部材の内側表面に接触して、車内空気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、車内空気は徐々に浄化されていく。ここで、図8に示す結果から、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面を通気性のある布で覆っても、一酸化窒素の吸着性能は低下しないので、ドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29に取付けるフェルト状の高活性炭素繊維部材の表面は、通気性を有する内装材で覆うことができる。このため、フェルト状の高活性炭素繊維部材を取付けても、車内の美観が損なわれることはない。
なお、高活性炭素繊維部材をドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29にそれぞれ取付けることは、自動車の設計やデザインを変更することなく実施でき、しかも、自動車の製造時に高活性炭素繊維部材を取付けることも、製造後の自動車に後付けで高活性炭素繊維部材を取付けることもできる。
【0044】
また、低速走行時やアイドリング時に排気ガスが外部の空気と共にトランク36内に流入して滞留しても、トランク36の内側面にフェルト状の高活性炭素繊維部材37が接着剤を介して取付けられているので、トランク36内のガスに含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物は高活性炭素繊維に吸着して除去され、トランク36内で浄化されたガスが車内に流入するようになる。なお、トランク36の内側面に取付けたフェルト状の高活性炭素繊維部材37の表層部を保護する場合は、フェルト状の高活性炭素繊維部材37の表面に通気性を有するカバー材を設ける。そして、高活性炭素繊維部材をトランク36の内側面に取付けることは、自動車の設計やデザインを変更することなく実施でき、しかも、自動車の製造時に高活性炭素繊維部材を取付けることも、製造後の自動車に後付けで高活性炭素繊維部材を取付けることもできる。
【0045】
以上のように、自動車10のダクトの壁面、ドア風路16の壁面、フロント側風路22の壁面、トランク36の内側面にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けることにより、車内には、窒素酸化物の中でも除去が難しい一酸化窒素や揮発性有機化合物が除去された空気を流入させることができる。また、ドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けることにより、車内に一酸化窒素等の窒素酸化物や揮発性有機化合物を含有する外気が直接流入しても、外気が車内空気に混入して車内を循環する間に高活性炭素繊維部材と接触して、一酸化窒素や揮発性有機化合物が高活性炭素繊維部材に吸着除去される。このため、自動車10の車内を浄化された状態に保つことができる。
【実施例】
【0046】
自動車のドア内側面、天井面、床面、座席のシート下面、ダッシュボード表面、トランクの内側面にそれぞれ厚さ7mmのフェルト状の高活性炭素繊維部材(ACF部材)を接着剤を介して取付けた。なお、高活性炭素繊維部材を取付けた各部位の表面積の総計は約5m2である。そして、自動車を走行させながら、環境中及び車内空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度をそれぞれ測定した。なお、環境中の窒素酸化物濃度は、自動車のフロントバンパに設けた空気取入れ口から外気を取入れ、車内の窒素酸化物の濃度は、助手席の背もたれに設けた空気取入れ口から車内空気を取入れ、自動車に搭載した窒素酸化物濃度測定器で連続的に測定した。
【0047】
エアコンを停止し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた際の、環境と車内のそれぞれの一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度の時間変化(自動車の走行を開始したときを時間原点とする)を図11に示す。環境中の窒素酸化物濃度は交通量の変化、風の影響などで自動車の走行中大きく変動するが、車内の窒素酸化物濃度は外気の窒素酸化物濃度に比べて小さく、一酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が166ppb、107ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は環境の一酸化窒素濃度の66.2%となった。また、二酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が77ppb、23ppbとなって、車内の二酸化窒素濃度は環境の二酸化窒素濃度の30.5%となった。
【0048】
なお、環境の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度が、経過時間が50〜70分の区間で略0となっているのは、やや強い海風が吹いた状態で大気が清浄な港の岸壁にエンジンを停止して自動車を止めたためであり、このとき車内の一酸化窒素濃度は徐々に減少し、二酸化窒素濃度は略一定値を保っている。また、環境の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度が、経過時間が120分以上の区間で略0となっているのは、再度、港の岸壁にエンジンを停止して自動車を停めたためであり、このとき一酸化窒素濃度は略一定値を保っているが、二酸化窒素濃度はエンジンを停止する前の自動車の排気ガスが車内で徐々に揮散し、一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)へと酸化されたため増加していると推察される。
【0049】
エアコンを暖房運転し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた際の、環境と車内のそれぞれの一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度の時間変化を図12に示す。車内の窒素酸化物濃度は外気の窒素酸化物濃度に比べて小さく、一酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が350ppb、176ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は環境の一酸化窒素濃度の50.2%となった。また、二酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が116ppb、34ppbとなって、車内の二酸化窒素濃度は環境の二酸化窒素濃度の29.3%となった。
なお、エアコンを停止した場合に比べてエアコンを運転した場合の方が車内の窒素酸化物の除去率が高くなったのは、エアコンの運転により車内空気の循環が促進され、車内に配置されたフェルト状の高活性炭素繊維部材を構成している高活性炭素繊維と車内空気の接触が促進され、窒素酸化物の吸着量が向上したためと考えられる。上記の車内にフェルト状の高活性炭素繊維部材を取付ける方法に加えて、汚染空気の流入口であるダクト(例えば、自動車のリヤバンパの後部換気入口と車内の後部車内吹出し口とを連通するダクト)及び風路(例えば、ドアの車内開口部と車外開口部とを連通するドア風路、自動車のフロント側車外の前部換気入口と車内の前部車内吹出し口とを連通するフロント側風路)の壁面にフェルト状の高活性炭素繊維部材を取付けることで、車内の浄化率は更に向上する。
【0050】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
また、高活性炭素繊維部材としてフェルト状のものを使用したが、シート状の基材に高活性炭素繊維を植毛して形成したブラシ状とすることもできる。
【符号の説明】
【0051】
10:自動車、11:リヤバンパ、12:換気入口、13:ドア、14:車内開口部、15:車外開口部、16:ドア風路、17:フロントガラス、18:窓枠、19:接続部、20:前部換気入口、21:前部車内吹出し口、22:フロント側風路、23:ドア内側面、24:天井面、25:床面、26:座席、27:シート下面、28:背もたれ外側面、29:ダッシュボード表面、30、31、32、33、34、35:高活性炭素繊維部材、36:トランク、37:高活性炭素繊維部材、38:円筒、39:布、40:円筒、41、42:ガラス管、43:箱、44:ファン、45:平板、46:高活性炭素繊維部材、47:高活性炭素繊維ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内に流入する外部の空気(以下、単に外気ともいう)に含まれる汚染物質を除去すると共に、車内空気中の汚染物質を除去して車内空気を清浄化する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車内空気の浄化方法として、例えば、車フロント部に空気浄化機能を備えた空調装置(エアコン)を設置し又は車内天井部に空気清浄機を設置し、車内で車内空気を循環させることにより行う方法、あるいは、活性炭素繊維をガラス繊維に静電植毛した活性炭素繊維植毛シートをユーザーがサンバイザーに固定し、エアコンから吐出されフロントガラスに沿って天井に向かう車内空気を活性炭素繊維に接触させることにより行う方法(例えば、特許文献1参照)等が提案されている。
【0003】
また、車内空気を換気する場合は、換気入口(空調用通気口)から外気を車内に取込み、換気出口から排出している。ここで、交通量の多い道路では、道路上に一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物を含んだ汚染物質が高濃度で滞留することが知られている。このため、交通量の多い道路を走行中に外気を取込むと車内空気中の汚染物質濃度が上昇する虞があるので、車内に汚染物質が取込まれないように、外気を取込む換気入口と車内吹出し口との間に外気中の汚染物質を除去する空気浄化装置を設け、清浄な空気を車内に送風するようにしている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−239019号公報
【特許文献2】特開平6−142451号公報
【特許文献3】特開平9−175163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、自動車には、1)ドアの開閉をスムーズにするため、2)車内の内装材として使用しているプラスチック類から発生するホルムアルデヒド類を排出するため、3)搭乗者の呼気中の二酸化炭素を車内に充満させないために、車外と車内を連通する各種のダクト及び風路が設けられて、外気の車内への流入、車内空気の外部への流出を図っている。また、自動車に設けられている各種ドア(例えば、乗降用のドア、トランクのドア等)では、ドアを閉めることで雨水等の水の浸入を防止することはできるが、ドアを閉めてもドアと車体との間には隙間が存在するため、外気は隙間を通して車内に容易に流入する。
【0006】
このため、自動車の各ドアを全て閉めると共に窓も完全に閉め切り、換気入口からの外気の取込みを停止した状態(車内密閉)としても、ダクト及び風路、ドアと車体との隙間を介して外気が車内に流入し、図13〜図15に示すように、車内空気中の窒素酸化物濃度が環境中(沿道の外気中)の窒素酸化物濃度の34〜93%程度にまで達する。また、図16に示すように、車内空気中の窒素酸化物濃度が沿道の外気中の窒素酸化物濃度より高くなることもある。
【0007】
ここで、図13は、エアコンを停止し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた場合の測定結果を示しており、外気(温度14.3℃)中の一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO2)の平均濃度がそれぞれ182ppb、55ppbであるのに対して、車内(温度11.5℃)の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ151ppb、51ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は車外の一酸化窒素濃度の83%レベル、車内の二酸化窒素濃度は車外の二酸化窒素濃度の92%レベルになっている。
図14は、エアコンを運転して、車内で外気を取込まずに(車内密閉状態で)冷風を循環させた場合の測定結果を示しており、外気(温度26.0℃、相対湿度(RH)41%)中の窒素酸化物(NOx)、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度を基準(100%)とした場合、車内(温度25.6℃、RH35%)の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ58%、72%、及び34%のレベルになっている。
図15は、エアコンを運転して、車内で外気を取込まずに温風を循環させた場合の測定結果を示しており、外気(温度14.1℃、RH49%)中の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度を基準(100%)とした場合、車内(温度27.1℃、RH25%)の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ91%、90%、及び93%のレベルになっている。
図16は、エアコンを運転して、車内で外気を取込まずに温風を循環させた場合の測定結果を示しており、外気(温度13.8℃)中の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度がそれぞれ234ppb、66ppbであるのに対して、車内(温度18.6℃)の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ280ppb、77ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は車外の一酸化窒素濃度の120%レベル、車内の二酸化窒素濃度は車外の二酸化窒素濃度の117%レベルになっている。
【0008】
特に、図17、図18に示すように、低速走行時やアイドリング時は、排気ガスが外部の空気と共にトランク内に流入して滞留し易いため、トランク内の排気ガスを含んだ高濃度の汚染空気が車内に流入して、車内の汚染物質濃度は、外気の汚染物質濃度以上になる。トランク等、車体に一旦捕捉された一酸化窒素の一部は酸化され、二酸化窒素として再揮散している。
ここで、図17は、エアコンを運転し、車内を密閉した状態で、温度28.8℃、RH58%の外気中で自動車を走行させた際の車内(温度25.6℃、RH32%)の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度変化に及ぼす自動車の速度の影響を測定した結果で、自動車の停車中に車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度が急上昇すると、その後自動車の走行と停車が繰り返されても、車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度は略一定値となり、環境中の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度を基準とした場合、車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の平均濃度はそれぞれ250%及び720%のレベルになっている。
図18は、エアコンを運転し、車内を密閉した状態で車内空気の循環を行いながら、温度15.3℃の外気中で自動車を走行させた際の車内(温度27.1℃)の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度変化に及ぼす自動車の走行状態の影響を測定した結果で、自動車走行の経過時間の増加に伴って車内の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度は徐々に上昇し、外気の清浄地域で停車しても、車内の一酸化窒素濃度は微増傾向、二酸化窒素濃度は増加傾向をそれぞれ示す。また、外気の清浄地域で停車してドアの開閉を行うと一時的には車内の一酸化窒素及び二酸化窒素がそれぞれ急減少するが、ドアを密閉した状態にすると、外気は清浄であるにもかかわらず、自動車の排気ガスが捕捉されたトランク内等からの離脱等の理由により、車内の一酸化窒素濃度及び二酸化窒素濃度はそれぞれ370ppb、900ppbに増加する。なお、外気の清浄地域で停車した後に走行を開始した場合、自動車の走行に伴って車内の一酸化窒素濃度及び二酸化窒素濃度が減少するのは、自動車の走行中に、ダクト及び風路、トランク、ドアと車体との隙間を介して清浄な外気が車内に流入して排出されることにより、車内の換気が行なわれたためと考えられる。
また、図19に、エアコンを停止し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた際の車外とトランク内における自動車の走行中の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の各濃度の時間変化を示す。トランク内の窒素酸化物、一酸化窒素、及び二酸化窒素の各濃度は、自動車の走行を開始すると、略一定の濃度レベルに保たれ、トランク内に排気ガスが滞留していることが確認できる。なお、図19から、トランク内に関しては、外気の窒素酸化物の平均濃度の82%レベル、外気の一酸化窒素の平均濃度の97%レベル、外気の二酸化窒素の平均濃度の16%レベルに達したことになる。
【0009】
更に、市街地や都市高速道路下の沿道の環境中には、揮発性有機化合物と言われる各種汚染物質が存在する。このため、図20に示すように、市街地や沿道を走行する自動車内には、沿道の外気が流入するので、車内空気中の揮発性有機化合物の濃度は、沿道の環境中の揮発性有機化合物の濃度と同程度になるという問題がある。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、車内に流入する外気に含まれる汚染物質を除去すると共に、車内空気中の汚染物質を除去して車内空気を清浄化することが可能な自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的に沿う第1の発明に係る自動車は、外部から空気が流入する空間部の壁面に、高活性炭素繊維部材が設けられている。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係る自動車は、外部から空気が流入する空間部に高活性炭素繊維部材が配置されている。
【0013】
第1の発明に係る自動車において、前記空間部は、外部から空気を車内に導くダクト又は風路(例えば、ドアの内部、空気が流れる車体の内部空間)とすることができる。
【0014】
第1の発明に係る自動車において、前記空間部は車内であって、該車内の側面、天井面、床面又は座席に使用する部材の一部又は全部に前記高活性炭素繊維部材を用いることが好ましい。
ここで、高活性炭素繊維部材は、車内空気と接触する面の性状が損なわれないように、例えば、接着剤や取付け具等の取付け手段を用いて取付けたり、通気性のある布又はネット等の収納手段を介して取付けることが好ましく、取付けた状態の高活性炭素繊維部材は、通気性を有する表層材(化粧材)で覆って美観が損なわれるのを防止するのが好ましい。
【0015】
第1、第2の発明に係る自動車において、前記空間部はトランクとすることができる。
ここで、高活性炭素繊維部材は、車内空気と接触する面の性状が損なわれないように、例えば、接着剤や取付け具等の取付け手段を用いてトランク内に取付けたり、通気性のある布又はネット等の収納手段を介してトランク内に取付けることが好ましく、取付けた状態の高活性炭素繊維部材は、通気性を有する表層材(化粧材)で覆って美観が損なわれるのを防止するのが好ましい。
【0016】
第1、第2の発明に係る自動車において、前記高活性炭素繊維部材はフェルト状又は綿状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明に係る自動車においては、外部から空気が流入する空間部の壁面に高活性炭素繊維部材を設けるので、空間部に流入する空気の流れを妨げないで(自動車メーカーが設計した車内容積に対する外部からの空気の取込み割合を低下させずに)高活性炭素繊維部材の内側面に沿って空気を流すことが可能となる。また、高活性炭素繊維部材を空間部の壁面に設ける場合、空間部の壁面の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を設けることができるので、自動車の設計やデザインを変更せずに、現状の種々の車種の自動車を対象にすることができ、しかも、自動車の製造時に取付けることも、製造後の自動車に後付けで取付けることも可能である。ここで、高活性炭素繊維部材を構成している高活性炭素繊維(ACF)は、窒素酸化物以外に、種々の汚染物質(例えば、トルエン、ベンゼン、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOCs)、悪臭物質、硫黄酸化物(SOX)、オキシダント及び粒子状物質(PM)等)を吸着、分解、又は捕捉することが可能である。このため、浄化のためにエネルギーを使用せずに、外部から車内に流入する空気の流れを利用して空気中の汚染物質を除去することができ、低いランニングコストで清浄な空気を車内に流入させることが可能になる。
【0018】
第2の発明に係る自動車においては、外部から空気が流入する空間部に高活性炭素繊維部材を配置するので、空間部に流入する空気を高活性炭素繊維部材に接触させることが可能となる。また、高活性炭素繊維部材を空間部に配置する場合、空間部の壁面の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を配置するようにすると、自動車の設計やデザインを変更せず現状の種々の車種を対象にして、製造時又は製造後のいずれの状態の自動車に対しても高活性炭素繊維部材を設置することが可能になると共に、空間部に流入する空気の流れを妨げないで(自動車メーカーが設計した車内容積に対する外部からの空気の取込み割合を低下させずに)高活性炭素繊維部材に空気を接触させることが可能となる。ここで、高活性炭素繊維部材を構成している高活性炭素繊維は、窒素酸化物以外に、種々の汚染物質(例えば、トルエン、ベンゼン、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOCs)、悪臭物質、硫黄酸化物(SOX)、オキシダント及び粒子状物質(PM)等)を吸着、分解、又は捕捉することが可能である。このため、浄化のためにエネルギーを使用せずに、外部から車内に流入する空気の流れを利用して空気中の汚染物質を除去することができ、低いランニングコストで清浄な空気を車内に流入させることが可能になる。
【0019】
第1の発明に係る自動車において、空間部が、外部から空気を車内に導くダクト又は風路である場合、ダクト又は風路に圧力損失が発生せず、空気の流れが阻害されない。このため、高活性炭素繊維部材を設けても、車内の換気性能は低下しない。また、高活性炭素繊維部材は直接目に触れないので、自動車の美観が損なわれることはない。
【0020】
第1の発明に係る自動車において、空間部が車内であって、車内の側面、天井面、床面又は座席に使用する部材の一部又は全部に高活性炭素繊維部材を用いる場合、車内を流れる空気、車内に淀んだ空気が高活性炭素繊維部材に接触することにより、車内空気中の汚染物質が高活性炭素繊維に吸着され、車内空気の浄化が行なわれる。
【0021】
第1、第2の発明に係る自動車において、空間部がトランクである場合、トランク内に流入する外部の空気が高活性炭素繊維部材に接触することにより、含まれる汚染物質が高活性炭素繊維に吸着され、汚染物質含有量の少ない浄化された空気が車内に流入するようにすることができる。また、低速走行時やアイドリング時に、排気ガスが外部の空気と共にトランク内に流入し滞留しても、排気ガスを含んだ空気が高活性炭素繊維部材と接触することにより排気ガス中の汚染物質が高活性炭素繊維に吸着されるため、汚染物質含有量の少ない空気が車内に流入することになって、車内空気中の汚染物質濃度を外気の汚染物質濃度以下にすることができる。
【0022】
第1、第2の発明に係る自動車において、高活性炭素繊維部材がフェルト状である場合、高活性炭素繊維部材の加工や変形を容易に行うことができ、空間部の壁面に合わせて高活性炭素繊維部材を設けること、空間部の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を配置することが容易にできる。また、高活性炭素繊維部材が綿状である場合、空間部の壁面に合わせて高活性炭素繊維部材を設けること、空間部の形状に合わせて高活性炭素繊維部材を配置することが容易にできると共に、空気が高活性炭素繊維部材内に容易に進入することができ、空気との接触面積が増大して、長期間に亘り汚染物質の吸着を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動車において、(A)はダクト、(B)はドア風路、(C)はフロント側風路の説明図である。
【図2】(A)は同自動車の車内の天井面、床面、及び座席、並びにトランク内側面にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けた状態を示す説明図、(B)は同自動車の車内のドア内側面、ダッシュボード表面、及びトランク内側面にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けた状態を示す説明図である。
【図3】(A)は円筒管内に取付けた高活性炭素繊維部材の説明図、(B)及び(C)は円筒管内に取付けた高活性炭素繊維部材の断面図である。
【図4】円筒管内を通過したガス中の一酸化窒素濃度の時間変化を示すグラフである。
【図5】高活性炭素繊維部材による一酸化窒素の浄化率が50%以上となる期間の推定の説明図である。
【図6】ボックスの壁面に取付けた高活性炭素繊維部材とガスとの接触による浄化の説明図である。
【図7】ボックス内の高活性炭素繊維部材に対するガス風速と浄化率の関係を示すグラフである。
【図8】ボックス内の一酸化窒素濃度の時間変化を示すグラフである。
【図9】揮発性有機化合物を吸着する高活性炭素繊維部材の説明図である。
【図10】高活性炭素繊維部材による揮発性有機化合物の吸着の説明図である。
【図11】自動車車内に高活性炭素繊維部材を取付けた際の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図12】自動車車内に高活性炭素繊維部材を取付けた際の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図13】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図14】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図15】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図16】自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図17】自動車車速、車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図18】走行時及び停車時の自動車車内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図19】自動車のトランク内の窒素酸化物濃度の時間変化を示すグラフである。
【図20】一般環境、沿道、自動車車内の揮発性有機化合物濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る自動車10では、図1(A)に示すように、外部から空気が流入する空間部の一例であり、例えば、リヤバンパ11の側部外面に設けられた後部換気入口12に一端が接続し、他端が自動車10の車内に設けられた図示しない後部車内吹出し口に接続して設けられ、外部の空気(外気)を自動車10の車内に導く図示しないダクトの壁面に、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材(図示せず)が、接着剤を介して取付けられている。
これによって、後部換気入口12からダクト内に流入した外気の一部は、ダクトの壁面に取付けられたフェルト状の高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながらダクト内を通過することができる。更に、ダクト内に流入した外気の別の一部は、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面から内部に進入し、フェルト状の高活性炭素繊維部材の内部を通過し再びフェルト状の高活性炭素繊維部材の表面からダクト内に流出することができる。
【0025】
また、自動車10では、図1(B)に示すように、外部から空気が流入する空間部の一例である風路、例えば、自動車10のドア13の車内側に設けられた車内開口部14とドア13の側部外面に設けられた車外開口部15とを連通するドア風路16の壁面に、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材(図示せず)が、接着剤を介して取付けられている。更に、自動車10では、図1(C)に示すように、外部から空気が流入する空間部の一例である別の風路、例えば、自動車10のフロントガラス17の窓枠18とフロント部(図示せず)とを連結する接続部19に設けられた前部換気入口20に一端部が連接し、他端部が自動車10の車内に設けられた前部車内吹出し口21に連接して設けられ、外気を自動車10の車内に導くフロント側風路22の壁面に、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材(図示せず)が、接着剤を介して取付けられている。
これによって、ドア風路16、フロント側風路22に流入した外気の一部は、各風路16、22の壁面に取付けられたフェルト状の高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら各風路16、22内を通過することができる。更に、各風路16、22内に流入した外気の別の一部は、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面から内部に進入し、フェルト状の高活性炭素繊維部材の内部を通過し再びフェルト状の高活性炭素繊維部材の表面から各風路16、22内に流出することができる。
【0026】
更に、自動車10では、図2(A)、(B)に示すように、自動車10の外部から空気が流入する別の空間部である車内の壁面、例えば、車内の側面の一例であるドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29に使用する部材の一部にそれぞれ、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材30、31、32、33、34、35が、接着剤を介して取付けられている。そして、自動車10における外部から空気が流入する他の空間部であるトランク36の内側面には、例えばフェルト状の高活性炭素繊維部材37が、接着剤を介して取付けられている。以下、詳細に説明する。
【0027】
高活性炭素繊維は、ピッチ、ポリアクリロニトリル、フェノール、及びセルロースのいずれか1を主体とする炭素含有物質を不活性ガス雰囲気中(例えば、窒素ガス雰囲気)で加熱溶融して紡糸した繊維を、不融化熱処理(空気中、400〜1000℃の温度で熱処理して、繊維が熱で軟化しないようにする処理)してから水蒸気又は二酸化炭素で表面を賦活処理して表面に微細穴を開口させ、その後、不活性ガス雰囲気中で熱処理(例えば、窒素ガス雰囲気中で400〜1200℃)することで、繊維内にもともと含まれている含酸素官能基及び含窒素官能基を適度に除去して各官能基の数を調整することにより製造される。
【0028】
そして、フェルト状の高活性炭素繊維部材は、例えば、この高活性炭素繊維から構成された毛羽立ちのあるフェルト状の不織布又は織物を、取付ける場所(即ち、自動車10の空間部の壁面である自動車10のダクトの壁面、風路の壁面、車内の壁面、トランク36の蓋裏面、側内面部、及び底内面)の面積に合わせて裁断することにより形成する。また、綿状の高活性炭素繊維部材は、例えば、この高活性炭素繊維を交錯させて形成した成形物、例えばブランケットを、取付ける場所の面積に合わせて裁断することにより形成する。
なお、綿状の高活性炭素繊維部材を使用する場合、布や網等の通気性部材で形成された容器(例えば、円筒管)に高活性炭素繊維部材を予め緩やかに充填し、高活性炭素繊維部材が充填された容器を車内の所定の場所に取付けるようにする。更に、綿状の高活性炭素繊維部材を車内の取付け場所に合わせて所定の形状に予め成形しておき、この成形物の一側表面(取付けた際に内側表面となる側)を通気性を備えたカバー材で覆い、成形物の他側表面を接着剤を介して自動車10の空間部の壁面に取付けるようにしてもよい。
【0029】
ここで、フェルト状の高活性炭素繊維部材の厚みは2〜10mm、好ましくは5〜7mmとなるように調整する。高活性炭素繊維部材の厚みを2mm以上、好ましくは5mm以上としたのは、ダクト、風路、車内の壁面、トランク36内を通過する空気の一部は、高活性炭素繊維部材内にも進入できるので、空気と接触する十分な量の高活性炭素繊維を確保し、20年程度の寿命を確保するためである。また、高活性炭素繊維部材の厚みを10mm以下、好ましくは7mm以下としたのはダクト内、風路内、車内、トランク36内の容積の減少を少なくして、空気の流通に支障が生じないようにするためである。
【0030】
高活性炭素繊維は表面に開口する多数の微細穴を有するため、高活性炭素繊維は各種化学物質を吸着する特性を有することが知られている。このため、従来から、高活性炭素繊維でフィルタを構成し、フィルタに有害化学物質を通過させて、有害化学物質を吸着除去することが行われている。そこで、フェルト状の高活性炭素繊維部材に有害化学物質を通過させるのではなく、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面に沿って有害化学物質を通過させた場合、有害化学物質の吸着除去が可能か否か、吸着除去が可能ならば有害化学物質の除去率はどの程度なのかの調査を行った。
【0031】
高活性炭素繊維で構成された毛羽立ちのあるフェルト状の不織布(厚み7mm)から、幅85mm、長さ100mmのフェルト状高活性炭素繊維部材(フェルト状ACF)を2枚切り出し、一方のフェルト状ACFからは幅方向両端面を当接させて長さ100mmの円筒38を形成し、他方のフェルト状ACFは一側の表面を通気性を有する布(クロス)39で覆ってから布39が内側に配置されるように長さ100mmの円筒40を形成した。次いで、図3(A)、(B)、(C)に示すように、内径が27mm、長さが200mmのガラス管41、42の内側に円筒38、40をそれぞれ挿入した。
【0032】
そして、ガラス管41、42の一端側から一酸化窒素を20ppm含有する空気をガラス管41、42内に流量0.3リットル/分、流速0.9cm/秒で供給し、ガラス管41、42の他端側から排出させた。このとき、ガラス管41、42内が供給した空気で完全に置換された時点を時間の原点として、ガラス管41、42の他端側から排出される空気を一定時間経過毎にサンプリングして、空気に含まれる一酸化窒素の濃度を測定した。その結果を図4に示す。なお、図4では、円筒38が挿入されたガラス管41から排出される空気中の一酸化窒素の濃度変化をフェルト状ACF、円筒40が挿入されたガラス管42から排出される空気中の一酸化窒素の濃度変化をフェルト状ACF+クロスとしている。
【0033】
図4に示すように、ガラス管41、42の他端側から排出される空気中の一酸化窒素濃度は20ppm未満で、フェルト状ACFの表面に沿って一酸化窒素を含有する空気を通過させた場合、一酸化窒素がフェルト状ACFに吸着され、一酸化窒素の除去が可能であることが確認できた。なお、二酸化窒素は、一酸化窒素よりも容易に除去できる。
また、一酸化窒素の除去率は経過時間と共に徐々に低下してくるが、経過時間が40時間程度までは、ガラス管41、42内を通過した空気中の一酸化窒素の除去率及び除去挙動は略同一となり、空気と接触するフェルト状ACFの表面を通気性のある布39で覆っても、一酸化窒素の浄化性能は殆ど損なわれないことが確認できた。
なお、経過時間が50時間を超えるようになると、フェルト状ACFの表面を布39で覆わない方が、一酸化窒素の除去率が優位になる。この理由は、炭素材料(高活性炭素繊維)の活性が低下して、一酸化窒素の捕捉部位がフェルト状ACFの深部に移行しはじめる際、布39が一酸化窒素のフェルト状ACFへの通過速度を低下させるためと考えられる。
【0034】
ガラス管41から排出される空気中の一酸化窒素の濃度変化の0〜70時間の範囲を図5に示す。図5は、一酸化窒素の除去率の変化挙動は、一酸化窒素の除去率が徐々に低下するステージI(経過時間が0〜約13時間の範囲)、一酸化窒素の除去率の低下が顕著なステージII(経過時間が約13〜約30時間の範囲)、及び一酸化窒素の除去率が一定値に収束する傾向を示すステージIII(経過時間が約30〜70時間の範囲)に分割できる。ここで、ステージI、IIにおける一酸化窒素の平均除去率をそれぞれ求め、フェルト状ACFの空気と接触する面の面積を1m2とすると、ステージIの期間で100ppbの一酸化窒素を含む空気8100m3の浄化が、ステージIIの期間で100ppbの一酸化窒素を含む空気15120m3の浄化が可能になる。そこで、ステージIIIで一酸化窒素の除去率が50%(ガラス管41から排出される空気中の一酸化窒素の濃度が10ppm)となるまでに面積1m2のフェルト状ACFが300ppbの一酸化窒素を浄化する(吸着する)期間は、流量0.5リットル/分で通気した場合、約30年となる。従って、面積1m2のフェルト状ACFを自動車10に取付けた場合、一酸化窒素の浄化性能は、上記条件において30年程度維持できると解される。
【0035】
図6に示すように、縦、横、及び高さの内側寸法がそれぞれ92cmの立方体状の箱43の天井面の内側にフェルト状の高活性炭素繊維部材(フェルト状ACF)を貼り付け、箱43内に濃度1.5ppm一酸化窒素を含む空気を充填し、底部に配置したファン44で箱43内において底部から天井面に向かう風の流れ(風速は0.11m/s、1.11m/sに設定)を形成した。そして、ファン44を運転してから一定時間経過する毎に箱43内から少量の空気をサンプリングして、空気中の一酸化窒素濃度を求めた。その結果を、図7に示す。経過時間の増加と共に、空気中の一酸化窒素濃度は徐々に低下し、風速が0.11m/sの場合、約140分後に一酸化窒素は略100%除去(空気中の一酸化窒素濃度が略0ppm)でき、1.11m/sの場合、約100分後に一酸化窒素は略100%除去できた。
【0036】
また、フェルト状ACFの代わりに、表面を通気性のある布で覆ったフェルト状ACFを箱43の天井面の内側に接着し、ファン44で箱43の底部から天井面に向かう風速が0.11m/sの風の流れを形成し、一定時間経過する毎に箱43内から少量の空気をサンプリングして、一酸化窒素濃度を求めた。更に、通気性のある布を箱43の天井面の内側に接着して、箱43内に底部から天井面に向かう風速0.11m/sの風の流れを形成しながら、一定時間経過する毎に一酸化窒素濃度を求めた。その結果を、図8に示す。なお、図8には、フェルト状ACFを箱43の天井面の内側に接着して、箱43内に底部から天井面に向かう風速0.11m/sの風の流れを形成しながら、一定時間経過する毎に測定した一酸化窒素濃度の時間変化も示している。天井面の内側に、表面を通気性のある布で覆ったフェルト状ACF(フェルト状ACF+クロス)を接着した場合、空気中の一酸化窒素濃度の時間変化は、天井面の内側にフェルト状ACFを接着した場合の一酸化窒素濃度の時間変化と略同一の挙動を示し、約140分後に一酸化窒素は略100%除去できた。一方、天井面の内側に、布だけを接着した場合、箱43の内壁に一酸化窒素の一部が吸着する等の理由で、空気中の一酸化窒素濃度は低下するが、250分経過した時点でも、空気中の一酸化窒素濃度は約1.3ppmであり、一酸化窒素を略100%除去することに関しては、布の存在は無視できる。以上のことから、フェルト状ACFの表面を通気性のある布で覆っても、フェルト状ACFの一酸化窒素の除去率(吸着製性能)が低下しないことが確認できた。
【0037】
縦、横、及び高さの内側寸法がそれぞれ20cm、50cm、50cmの枠体(図示せず)内に、図9に示すように、縦20cm、横50cm、厚み0.7cmの平板45を0.8cmの隙間を設けて多段に配置し、平板45間の隙間に厚み5〜7mmのフェルト状の高活性炭素繊維部材46を挿入して、高活性炭素繊維ユニット47を形成した。そして、この高活性炭素繊維ユニット47を都市高速道路下の沿道に設置し、沿道の空気が高活性炭素繊維ユニット47の平板45間の隙間を自然に(自由に)通過できるようにして、沿道の空気中に含まれる揮発性有機化合物を高活性炭素繊維に吸着させた。
【0038】
沿道に106日間設置した高活性炭素繊維ユニット47を回収し、高活性炭素繊維ユニット47の中に設置したパッシブサンプラー(製品名VOC−SD)に吸着した揮発性有機化合物を二硫化炭素により抽出し、GC/MS(ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー)により揮発性有機化合物の種類を特定すると共に、揮発性有機化合物の種類毎の吸着量を測定した。その結果を図10に示す。図10には、沿道の空気中に含まれる揮発性有機化合物の種類毎の濃度も合わせて示している。図10から、沿道の空気中に含まれる揮発性有機化合物は、フェルト状の高活性炭素繊維部材46に接触させることにより除去できることが確認できた。
【0039】
続いて、本発明の一実施の形態に係る自動車10の作用について説明する。
図4、図10に示す結果から、例えば、図1(A)に示す自動車10のリヤバンパ11の後部換気入口12と車内の後部車内吹出し口とを連通するダクトの壁面に、フェルト状の高活性炭素繊維部材を接着剤を介して取付けると、後部換気入口12から流入した外気の一部は、ダクト内を流れる際に高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら通過することができ、更に、外気の残部の一部は高活性炭素繊維部材内に進入し高活性炭素繊維部材内を通過し再び高活性炭素繊維部材の内側表面からダクト内に流出することができるので、ダクトを通過中に、外気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、浄化された外気を後部車内吹出し口から車内に流入させることができる。
【0040】
また、図4、図10に示す結果から、例えば、図1(B)に示す自動車10のドア13の車内開口部14とドア13の側部外面の車外開口部15とを連通するドア風路16の壁面にフェルト状の高活性炭素繊維部材を接着剤を介して取付けると、車外開口部15から流入した外気の一部は、ドア風路16内を流れる際に高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら通過することができ、外気の残部の一部は高活性炭素繊維部材内に進入し高活性炭素繊維部材内を通過し再び高活性炭素繊維部材の内側表面からドア風路16内に流出することができるので、ドア風路16を通過中に、外気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、浄化された外気を車内開口部14から車内に流入させることができる。
【0041】
更に、図4、図10に示す結果から、例えば、図1(C)に示す自動車10のフロント側車外の前部換気入口20と車内の前部車内吹出し口21とを連通するフロント側風路22の壁面にフェルト状の高活性炭素繊維部材を接着剤を介して取付けると、前部換気入口20から流入した外気の一部は、フロント側風路22内を流れる際に高活性炭素繊維部材の内側表面に接触しながら通過することができ、外気の残部の一部は高活性炭素繊維部材内に進入し高活性炭素繊維部材内を通過し再び高活性炭素繊維部材の内側表面からフロント側風路22内に流出することができるので、フロント側風路22を通過中に、外気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、浄化された外気を前部車内吹出し口21から車内に流入させることができる。
【0042】
ここで、高活性炭素繊維部材は、ダクトの壁面、ドア風路16の壁面、フロント側風路22の壁面の形状にそれぞれ合わせて取付けるので、高活性炭素繊維部材を取付けても、ダクト、各風路16、22にそれぞれ流入する空気の流れを妨げない。このため、高活性炭素繊維部材を取付けても、自動車メーカーが設計した車内容積に対する外部からの空気の取込み割合を維持することができると共に、自動車の設計やデザインを変更せずに、自動車の製造時に高活性炭素繊維部材を取付けることも、製造後の自動車に後付けで高活性炭素繊維部材を取付けることもできる。
【0043】
図8、図10に示す結果から、自動車10のドア13と車体との隙間を介して車内に外気が流入しても、例えば、ドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29に使用する部材の一部にフェルト状の高活性炭素繊維部材30、31、32、33、34、35を接着剤を介して取付けると、車内空気が車内でゆっくりと循環する際に、高活性炭素繊維部材の内側表面に接触して、車内空気に含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物が高活性炭素繊維に吸着して除去され、車内空気は徐々に浄化されていく。ここで、図8に示す結果から、フェルト状の高活性炭素繊維部材の表面を通気性のある布で覆っても、一酸化窒素の吸着性能は低下しないので、ドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29に取付けるフェルト状の高活性炭素繊維部材の表面は、通気性を有する内装材で覆うことができる。このため、フェルト状の高活性炭素繊維部材を取付けても、車内の美観が損なわれることはない。
なお、高活性炭素繊維部材をドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29にそれぞれ取付けることは、自動車の設計やデザインを変更することなく実施でき、しかも、自動車の製造時に高活性炭素繊維部材を取付けることも、製造後の自動車に後付けで高活性炭素繊維部材を取付けることもできる。
【0044】
また、低速走行時やアイドリング時に排気ガスが外部の空気と共にトランク36内に流入して滞留しても、トランク36の内側面にフェルト状の高活性炭素繊維部材37が接着剤を介して取付けられているので、トランク36内のガスに含まれる一酸化窒素及び揮発性有機化合物は高活性炭素繊維に吸着して除去され、トランク36内で浄化されたガスが車内に流入するようになる。なお、トランク36の内側面に取付けたフェルト状の高活性炭素繊維部材37の表層部を保護する場合は、フェルト状の高活性炭素繊維部材37の表面に通気性を有するカバー材を設ける。そして、高活性炭素繊維部材をトランク36の内側面に取付けることは、自動車の設計やデザインを変更することなく実施でき、しかも、自動車の製造時に高活性炭素繊維部材を取付けることも、製造後の自動車に後付けで高活性炭素繊維部材を取付けることもできる。
【0045】
以上のように、自動車10のダクトの壁面、ドア風路16の壁面、フロント側風路22の壁面、トランク36の内側面にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けることにより、車内には、窒素酸化物の中でも除去が難しい一酸化窒素や揮発性有機化合物が除去された空気を流入させることができる。また、ドア内側面23、天井面24、床面25、座席26のシート下面27及び背もたれ外側面28、ダッシュボード表面29にそれぞれ高活性炭素繊維部材を取付けることにより、車内に一酸化窒素等の窒素酸化物や揮発性有機化合物を含有する外気が直接流入しても、外気が車内空気に混入して車内を循環する間に高活性炭素繊維部材と接触して、一酸化窒素や揮発性有機化合物が高活性炭素繊維部材に吸着除去される。このため、自動車10の車内を浄化された状態に保つことができる。
【実施例】
【0046】
自動車のドア内側面、天井面、床面、座席のシート下面、ダッシュボード表面、トランクの内側面にそれぞれ厚さ7mmのフェルト状の高活性炭素繊維部材(ACF部材)を接着剤を介して取付けた。なお、高活性炭素繊維部材を取付けた各部位の表面積の総計は約5m2である。そして、自動車を走行させながら、環境中及び車内空気中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度をそれぞれ測定した。なお、環境中の窒素酸化物濃度は、自動車のフロントバンパに設けた空気取入れ口から外気を取入れ、車内の窒素酸化物の濃度は、助手席の背もたれに設けた空気取入れ口から車内空気を取入れ、自動車に搭載した窒素酸化物濃度測定器で連続的に測定した。
【0047】
エアコンを停止し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた際の、環境と車内のそれぞれの一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度の時間変化(自動車の走行を開始したときを時間原点とする)を図11に示す。環境中の窒素酸化物濃度は交通量の変化、風の影響などで自動車の走行中大きく変動するが、車内の窒素酸化物濃度は外気の窒素酸化物濃度に比べて小さく、一酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が166ppb、107ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は環境の一酸化窒素濃度の66.2%となった。また、二酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が77ppb、23ppbとなって、車内の二酸化窒素濃度は環境の二酸化窒素濃度の30.5%となった。
【0048】
なお、環境の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度が、経過時間が50〜70分の区間で略0となっているのは、やや強い海風が吹いた状態で大気が清浄な港の岸壁にエンジンを停止して自動車を止めたためであり、このとき車内の一酸化窒素濃度は徐々に減少し、二酸化窒素濃度は略一定値を保っている。また、環境の一酸化窒素及び二酸化窒素の各濃度が、経過時間が120分以上の区間で略0となっているのは、再度、港の岸壁にエンジンを停止して自動車を停めたためであり、このとき一酸化窒素濃度は略一定値を保っているが、二酸化窒素濃度はエンジンを停止する前の自動車の排気ガスが車内で徐々に揮散し、一酸化窒素(NO)から二酸化窒素(NO2)へと酸化されたため増加していると推察される。
【0049】
エアコンを暖房運転し、車内を密閉した状態で自動車を走行させた際の、環境と車内のそれぞれの一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度の時間変化を図12に示す。車内の窒素酸化物濃度は外気の窒素酸化物濃度に比べて小さく、一酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が350ppb、176ppbとなって、車内の一酸化窒素濃度は環境の一酸化窒素濃度の50.2%となった。また、二酸化窒素については、環境と車内のそれぞれの平均濃度が116ppb、34ppbとなって、車内の二酸化窒素濃度は環境の二酸化窒素濃度の29.3%となった。
なお、エアコンを停止した場合に比べてエアコンを運転した場合の方が車内の窒素酸化物の除去率が高くなったのは、エアコンの運転により車内空気の循環が促進され、車内に配置されたフェルト状の高活性炭素繊維部材を構成している高活性炭素繊維と車内空気の接触が促進され、窒素酸化物の吸着量が向上したためと考えられる。上記の車内にフェルト状の高活性炭素繊維部材を取付ける方法に加えて、汚染空気の流入口であるダクト(例えば、自動車のリヤバンパの後部換気入口と車内の後部車内吹出し口とを連通するダクト)及び風路(例えば、ドアの車内開口部と車外開口部とを連通するドア風路、自動車のフロント側車外の前部換気入口と車内の前部車内吹出し口とを連通するフロント側風路)の壁面にフェルト状の高活性炭素繊維部材を取付けることで、車内の浄化率は更に向上する。
【0050】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
また、高活性炭素繊維部材としてフェルト状のものを使用したが、シート状の基材に高活性炭素繊維を植毛して形成したブラシ状とすることもできる。
【符号の説明】
【0051】
10:自動車、11:リヤバンパ、12:換気入口、13:ドア、14:車内開口部、15:車外開口部、16:ドア風路、17:フロントガラス、18:窓枠、19:接続部、20:前部換気入口、21:前部車内吹出し口、22:フロント側風路、23:ドア内側面、24:天井面、25:床面、26:座席、27:シート下面、28:背もたれ外側面、29:ダッシュボード表面、30、31、32、33、34、35:高活性炭素繊維部材、36:トランク、37:高活性炭素繊維部材、38:円筒、39:布、40:円筒、41、42:ガラス管、43:箱、44:ファン、45:平板、46:高活性炭素繊維部材、47:高活性炭素繊維ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から空気が流入する空間部の壁面に、高活性炭素繊維部材が設けられていることを特徴とする自動車。
【請求項2】
外部から空気が流入する空間部に高活性炭素繊維部材が配置されていることを特徴とする自動車。
【請求項3】
請求項1記載の自動車において、前記空間部は、外部から空気を車内に導くダクト又は風路であることを特徴とする自動車。
【請求項4】
請求項1記載の自動車において、前記空間部は車内であって、該車内の側面、天井面、床面又は座席に使用する部材の一部又は全部に前記高活性炭素繊維部材を用いることを特徴とする自動車。
【請求項5】
請求項1又は2記載の自動車において、前記空間部はトランクであることを特徴とする自動車。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車において、前記高活性炭素繊維部材はフェルト状又は綿状であることを特徴とする自動車。
【請求項1】
外部から空気が流入する空間部の壁面に、高活性炭素繊維部材が設けられていることを特徴とする自動車。
【請求項2】
外部から空気が流入する空間部に高活性炭素繊維部材が配置されていることを特徴とする自動車。
【請求項3】
請求項1記載の自動車において、前記空間部は、外部から空気を車内に導くダクト又は風路であることを特徴とする自動車。
【請求項4】
請求項1記載の自動車において、前記空間部は車内であって、該車内の側面、天井面、床面又は座席に使用する部材の一部又は全部に前記高活性炭素繊維部材を用いることを特徴とする自動車。
【請求項5】
請求項1又は2記載の自動車において、前記空間部はトランクであることを特徴とする自動車。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車において、前記高活性炭素繊維部材はフェルト状又は綿状であることを特徴とする自動車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−240498(P2012−240498A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110648(P2011−110648)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】
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