説明

自動離合クラッチ機構

【課題】ハンドル等の駆動側に駆動のためのトルクが加われば、自動的にクラッチが連結する、自動離合クラッチ機構を提供する。
【解決手段】同軸上において駆動軸に駆動プレートを、被動軸に被動プレートを取り付け、駆動プレートの前後動によりクラッチの離合を可能にしたクラッチ機構において、そのうちの駆動プレートについては、駆動軸に前後スライド可能に嵌まるとともに後退方向へ常時付勢される押しブッシュを設け、該ブッシュの内周面と、駆動軸の外周面とのいずれか一方に斜めの傾斜溝を形成し、他方には傾斜溝に係合する案内突子を設け、また、押しブッシュに対する駆動軸の回転に伴う傾斜溝と案内突子との位置関係の変化により押しブッシュが前進するようにして、駆動プレートを直接または間接的に被動プレートに圧接させ、双方の位置関係が固定することにより、駆動軸と共に押しブッシュが一体に回転するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハンドル等による駆動軸の回転、停止操作の他に特別にクラッチ切り換え操作を要せずして、駆動側から被動側へのトルク(回転力)の伝達および遮断がなされるようにした自動離合クラッチ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチは、同心軸上にある駆動側から被動側へ機械的接触によりトルクを伝達したり遮断したりする機能を有す機械的要素である。従来、その伝達および遮断の構造、つまりクラッチ構造は、摩擦やかみ合いによるが、クラッチ切り換え操作の動力には、機械、油圧、空圧、電磁等の力が駆動側のトルクとは別系統として設けられる。そこで、例えば、駆動側のハンドル軸から被動側の主軸に動力を伝達および遮断(離合)するには、ハンドル操作とは別に、クラッチ切り換えの操作を要し、そのため二重操作となって面倒であり、場合によっては危険を避けるのに遅れが生じるという問題があった。
【0003】
これを例えばある機械をハンドル操作する場合について見ると、主に安全を目的として、ハンドル軸と主軸とを離合するクラッチ機構が存在するが、それを操作するには、(1)ハンドルを押し(引き)ながら回す、(2)レバー操作でクラッチを離合するというように、操作が複雑であって不馴れであるとタイミングが合わなく不都合であり危険な場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、上記のような実情に鑑みて、ハンドル等の駆動側に駆動のためのトルクが加われば、自動的にクラッチが連結し、トルクを加えることを止めると、自動的にクラッチが切り離れる自動離合クラッチ機構を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、この発明は、同軸上において駆動軸に駆動プレートを、被動軸に被動プレートを取り付け、駆動プレートの前後動によりクラッチの離合を可能にしたクラッチ機構において、そのうちの駆動プレートについては、駆動軸に前後スライド可能に嵌まるとともに後退方向へ常時付勢される押しブッシュを一体に設けることによりそれを介して取り付けがなされ、加えて、押しブッシュの内周面と、駆動軸の外周面とのいずれか一方に斜めの傾斜溝を形成し、他方には傾斜溝に係合する案内突子を設け、また、押しブッシュに対する駆動軸の回転に伴う傾斜溝と案内突子との位置関係の変化により押しブッシュが前進するように傾斜溝の傾斜方向が設定されており、押しブッシュの前進により駆動プレートを直接または間接的に被動プレートに圧接させて押しブッシュの前進が停止したとき、その前進停止で傾斜溝と案内突子との位置関係が固定することにより、若しくは、傾斜溝の終端部に案内突子が接合停止して双方の位置関係が固定することにより、駆動軸と共に押しブッシュが一体に回転するように構成したことを特徴とする自動離合クラッチ機構を提供するものである。
(作用)
【0006】
自動離合クラッチ機構を上記のように構成したから、駆動軸を回転すると、それが1ないし数個のフリクションローラ等の抵抗で(請求項2)静止している押しブッシュに対して回転するために、双方に設けられる傾斜溝と案内突子との前後方向の位置関係が変化することになる。この変化が押しブッシュの前進として現れるように、傾斜溝の傾斜方向が設定されているものであるから、押しブッシュの前進によりそれと一体の駆動プレートが被動プレートで止められると、クラッチが連結した状態となるのであるが、駆動プレートの停止により、若しくは、案内突子が傾斜溝の終端部に達したことにより、傾斜溝と案内突子との位置関係が固定したために駆動軸と押しブッシュとの双方間も固定する。つまり、クラッチの連結と同時に駆動軸と押しブッシュとが一体に回転する状態が実現する。こうして、駆動軸のトルクは、押しブッシュ、駆動プレート、被動プレートを介して被動軸に伝達されることになる。
【0007】
また、押しブッシュの前進は、付勢力に抗してなされるため、駆動軸の回転を止めてフリーの状態にすると、傾斜溝と案内突子との係合関係もフリーとなって、付勢力で元の位置関係に復帰し、復帰により駆動プレートが後退してクラッチの結合が解除される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、この発明は、ハンドル等の駆動側にトルクとして駆動軸の回転があると、別途操作を要することなく自動的にクラッチが連結し、トルクとしての駆動軸の回転を止めてフリーにすると、自動的にクラッチが切り離れる自動離合クラッチ機構を提供することに成功したものであって、これによれば、クラッチを要する各種機械や装置において、取り扱いや操作が容易となり、クラッチの切り替えに遅れや誤操作が生じなく、安全性にも適しているという優れた効果がある。
【0009】
また、請求項2によれば、ハンドル操作だけでクラッチの切り替えと同時にトルクの伝達をなすことができ、しかも、これが1ないし数個のフリクションローラにより確実となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、この発明による自動離合クラッチ機構の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図面は、ハンドル3により回転される駆動軸1と、その力を別途機械的に利用する主軸としての被動軸2との間の離合(連結/遮断)として実施した場合である。そして、クラッチ機構の駆動側は、後に具体的に説明するように、傾斜溝4と案内突子5との係合により作動し、ハンドル3の駆動回転力と、それに抗する付勢バネ6の力との競合により交互に離合するように構成される。なお、駆動軸1から被動軸2側への方向Pを前、その逆を後ろ(又は手前)と表現することにする。
【0012】
前記別途機械的部分を装備するためや、被動軸2を軸承するために並列する前後一対の支持板7,8があって、そのうちの後部支持板8の手前にクラッチケース9を突設し、クラッチケース9には手前においてハンドル3を具備し、それが駆動軸1の端に一体に取り付けられる。なお、被動軸2には別途機械的装備のためのプーリ15,15が装着される。
【0013】
クラッチケース9の組立て構造については、後部支持板8に間隔をおいて手前で並列する基盤11があって、それを周壁9が後端部で囲んでいる。その基盤11に自動離合クラッチ機構の大半を具備することから強度的安定化を図るために、後部支持板8と基盤11との間に数本の連結杆13を介在させ、その先端が凸ネジ16で後部支持板8に螺着され、その連結杆13の後端に基盤11が締めボルト17で締め付けて固定してある。
【0014】
クラッチケース9には自動離合クラッチ機構の大半が内装される。まず、被動側として被動軸2の後端が後部支持板8からクラッチケース9の中に突出し、それに被動プレート12が固定して取付けられる。また、駆動側としては、被動プレート12と対面して駆動軸1に駆動プレート10が装備されるが、駆動プレート10を離合のための前後ストローク移動がなされるように、駆動軸1にスライド可能に嵌まる押しブッシュ14にその駆動プレート10が広い鍔状に一体成形されている。
【0015】
クラッチケース9の基盤11には駆動側が具備される。これについては、駆動軸1と同軸に押しブッシュ14を大きく囲むようにして外筒19を固定し、その固定のために基端に座面鍔21を設け、座面鍔21を固定ボルト23で基盤11に締め付けてある。また、外筒19の先端にはそれと同径の端面板25を当て、固定ビス27で締め付けてある。なお、その端面板25は、中心部に押しブッシュ14の抜孔が設けられる座金状である。
【0016】
駆動軸1は、基盤11にベアリング31を介して一端で片持ちに軸支される。また、これについては、駆動軸1に環状鍔32を形成し(図3)、それをリング状の留め金34で基盤11に脱出不能に止められている。後端での片持ちではあるが、前端では押しブッシュ14と一体の駆動プレート10の周囲に、1個又はそれを等位において囲む数個のフリクションローラ33を配置し、駆動プレート10に接触させて安定化を図ってある。また、この数個のフリクションローラ33は、ハンドル3の初期回転時に、傾斜溝4と案内突子5との係合移動を可能にするために、押しブッシュ14を静止するよう機能するものである。これについては後述するが、上記の係合移動により、駆動軸1に対して押しブッシュ14が摺動しやすいように、駆動軸1の先端に細い心棒部35を形成し、押しブッシュ14には心棒部35にストローク移動可能に嵌まるローラーベアリング37が装備される。
【0017】
駆動プレート10には、被動プレート12に離合する摩擦材39が固着され、これの摩擦で被動プレート12にトルクが伝達される。摩擦材39は、駆動軸1と同軸において駆動プレート10および被動プレート12とほゞ同外径のリング状であって、固定については、上面にリングに沿って環状凹溝41を設け、その凹溝41に取付ボルト43の頭部を納め、ナットの締め付けにより駆動プレート10に圧接させてある。なお、これは摩擦クラッチの一種であるが、噛み合いクラッチであっても良い。次に、押しブッシュ14の前後移動の構造について説明するが、これには前記した付勢バネ6、傾斜溝4、案内突子5が機能する。
【0018】
なお、この発明では、傾斜溝と案内突子との位置関係が固定することにより、駆動軸と押しブッシュ(駆動プレート)が一体に回転するようにしたものであるが、これには、(1)駆動プレートが被動プレートに止められたために固定する場合と、(2)傾斜溝の後端(終端部)に案内突子が到達してそこに止まって固定する場合と、二通りがあり、そのいずれか一方によるだけでも動力の伝達がなされるが、図面はこの二通りの固定が同時に発生するように記載した。
【0019】
駆動プレート10をクラッチが切り離される開離の方向へ付勢しておくために、付勢バネ6として圧縮バネが押しブッシュ14の外側に装着される。その掛止の相手の一方は前記した端面板25であり、他方は押しブッシュ14に取付けられる固定鍔45であって(図3)、両方にリング47,49を介して掛止される。そのうち、手前のリング49は、固定鍔45に対してフリーとなっており、そのため、押しブッシュ14の回転があっても付勢バネ6は回転しない。なお、これを確実にするために、固定鍔45とリング49との間にベアリングを介在させても良い。また、付勢バネ6には押しブッシュ14を囲む数枚の板バネを使用することも可能である。
【0020】
傾斜溝4とそれに係合する案内突子5との関係については、傾斜溝4は、押しブッシュ14の内周面に押し前進方向Pへ反時計回りSの螺進に沿った斜めに形成される(図4参照)。一方、案内突子5は、駆動軸1の外周面に突設され、クラッチが切り離された状態において(図1)、傾斜溝4の前端部に位置している。なお、傾斜溝4は押しブッシュ14に外周への抜け溝として形成しても良い。
【0021】
そこで、ハンドル3を時計回りRに回転すると、駆動軸1の案内突子5が共に時計回りに回動するが、それと係合する傾斜溝4を有する押しブッシュ14がフリクションローラ33で動きが抑制されていることから、案内突子5の回動により傾斜溝4の後退部分が前進させられて押しブッシュ14が付勢バネ6の弾力に抗して前進する。その結果、駆動プレート10の摩擦材39が被動プレート12に圧接し、クラッチが連結するが、これで押しブッシュ14が前進不能になり(図2)、前進不能により案内突子5が、傾斜溝4のいずれかの位置に(図面の場合は後端部に)位置決めされる(図4)。また、案内突子5が、傾斜溝4の後端の終端部に達したために、これによっても案内突子5がそこに固定される。いずれの位置決めも、駆動軸1と押しブッシュ14との一体結合と言えるから、クラッチが連結すると同時に駆動軸1と駆動プレート10とが一体に回転し、その回転が摩擦材39、被動プレート12、被動軸2にと伝達される。
【0022】
次に、ハンドル3の回転を止めて駆動軸1をフリーにすると、被動プレート12に対する摩擦材39の圧接が解除され、延いては傾斜溝4と案内突子5との位置関係の固定も解除される結果、付勢バネ6の力により押しブッシュ14が後退し、同時にそれと一体の傾斜溝4の後退により案内突子5がその前端に復帰する(図1)。これがクラッチが切り離された状態である。そこで、再度ハンドル3を時計回りに回転し、同じようにクラッチを僅少回転で連結して以後トルクの伝達をなすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の自動離合クラッチ機構をクラッチが切り離された状態で示す断面図である。
【図2】同自動離合クラッチ機構をクラッチが連結された状態で示す断面図である。
【図3】図1における要部を拡大して示す断面図である。
【図4】同自動離合クラッチ機構における傾斜溝の形成状態を示す押しブッシュの断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 駆動軸
2 被動軸
3 ハンドル
4 傾斜溝
5 案内突子
6 付勢バネ
10 駆動プレート
11 基盤
12 被動プレート
14 押しブッシュ
33 フリクションローラ
P 押しブッシュの前進方向
R 時計回り
S 反時計回り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上において駆動軸に駆動プレートを、被動軸に被動プレートを取り付け、駆動プレートの前後動によりクラッチの離合を可能にしたクラッチ機構において、そのうちの駆動プレートについては、駆動軸に前後スライド可能に嵌まるとともに後退方向へ常時付勢される押しブッシュを一体に設けることによりそれを介して取り付けがなされ、加えて、押しブッシュの内周面と、駆動軸の外周面とのいずれか一方に斜めの傾斜溝を形成し、他方には傾斜溝に係合する案内突子を設け、また、押しブッシュに対する駆動軸の回転に伴う傾斜溝と案内突子との位置関係の変化により押しブッシュが前進するように傾斜溝の傾斜方向が設定されており、押しブッシュの前進により駆動プレートを直接または間接的に被動プレートに圧接させて押しブッシュの前進が停止したとき、その前進停止で傾斜溝と案内突子との位置関係が固定することにより、若しくは、傾斜溝の終端部に案内突子が接合停止して双方の位置関係が固定することにより、駆動軸と共に押しブッシュが一体に回転するように構成したことを特徴とする自動離合クラッチ機構。
【請求項2】
駆動軸がハンドル軸であって、その基端がハンドルが面する基盤に片持ちに軸支され、駆動プレートの周囲に等位においてそれと接触して回転する数個のフリクションローラを配設し、押しブッシュの前記付勢には付勢バネとしてそれを囲む圧縮バネを装備し、ハンドルの時計回りにおいて押しブッシュを押しに駆動できるように、傾斜溝が、押しブッシュの内周面に、前進方向へ向かって反時計回りの螺旋に沿った傾斜方向に形成してあることを特徴とする請求項1記載の自動離合クラッチ機構。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−192295(P2007−192295A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10856(P2006−10856)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(303031169)東洋ゼンマイ株式会社 (8)