説明

自己伝播高温合成方法

【課題】反応系に硫黄粉末を存在させることにより、自己伝播高温合成反応を促進させ(Ti、Nb、Zr)−C−S又は(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を短時間で合成する。
【解決手段】(Ti、Nb、Zr)−C−S又は(Ti、Nb、Zr)−S系を、好ましくはモル比2:(0.5〜1.0):(1〜3)又はモル比2:(1〜3)で配合した粉末混合物を圧粉成形し、反応装置1にセットした圧粉体3の一端に、電流を通したコイル4で着火し、他端に向けて燃焼(自己伝播高温合成反応)を進行させることにより、(Ti、Nb、Zr)−C−S系又は(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己伝播高温合成反応(SHS反応:Self−propagating High−temperatures Synthesis)で(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物、および、(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を製造する自己伝播高温合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相合成法や酸化物との固相反応等で炭化物、複合炭化物が合成されているが、何れの方法も精密な製造条件の管理が必要な装置やエネルギーを大量消費する電気炉、高周波炉等を必要とし、しかも反応に長時間がかかる。エネルギーの大量消費や反応の長時間化は、コスト、生産性の面で問題があり、合成された炭化物、複合炭化物等のコストを上昇させる原因にもなる。
気相合成法や酸化物との固相反応に代わる方法として、SHS反応を用いた合成法が検討されている(非特許文献1)。SHS反応は、大気中で僅かなエネルギー投入により瞬間的にセラミックス等が得られる燃焼合成反応を利用し、硼化物、炭化物、窒化物、炭窒化物、硫化物等の製造が試みられている。本発明者等も、種々の割合でチタン、アルミニウム、グラファイトを混合した組成物をSHS反応させ、配合割合が反応速度、反応生成物等に及ぼす影響を調査報告している(非特許文献2)。
【0003】
【非特許文献1】CERAMICBULLETIN、Vol.67、No.2 (1988)pp.342−349
【非特許文献2】Journalof the ceramic Society of Japan 104[2] (1996)pp.94−100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃焼合成法でチタン炭化物を合成する場合、チタン粉末と粉末状の炭素源を混練して得られた圧粉体を燃焼させている。チタンと炭素の結合反応は気相反応、固相反応に比較すると格段に迅速ではあるが、本発明者等は、反応速度の更なる迅速化を狙って第三成分を反応系に添加し、第三成分が反応速度に及ぼす影響を調査・検討した。
その結果、Ti、Nb、Zr等を金属粉末に用いた反応系に硫黄粉末を存在させると反応速度、反応活性が飛躍的に向上し、金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末の配合比率に応じ種々の組成をもつ(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物を製造できることを見出した。
【0005】
また、一方、炭素粉末が存在しなくとも、Ti、Nb、Zr等を金属粉末に用いた反応系に硫黄粉末を存在させると反応速度、反応活性が飛躍的に向上し、金属粉末、硫黄粉末の配合比率に応じ種々の組成をもつ(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を製造できることを見出した。
【0006】
そこで、本発明は、上記見出した知見に基づいて、SHS反応に及ぼす硫黄粉末の作用・効果に着目し、Ti、Nb、Zrから選ばれた少なくとも一種以上の金属粉末と硫黄粉末、炭素粉末とを混合して得られた圧粉体をSHS反応させることにより、(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物を短時間で合成でき、且つ無機化合物の組成比を高い自由度で変更できる自己伝播高温合成方法を提供することを課題とする。
さらに、SHS反応に及ぼす硫黄粉末の作用・効果に着目し、Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末を硫黄粉末と混合して得られた圧粉体をSHS反応させることにより、(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を短時間で合成でき、且つ無機化合物の組成比を高い自由度で変更できる自己伝播高温合成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末を硫黄粉末、炭素粉末と混合して圧粉成形した後、得られた圧粉体を反応容器にセットし、圧粉体の一端に着火し他端に向けて燃焼を進行させ、(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物を自己伝播高温合成することを特徴とする。
さらに、雰囲気温度を−20〜150℃の範囲に維持して自己伝播高温合成反応させると反応条件が安定化し、目標組成:(Ti、Nb、Zr)の無機化合物が高歩留で合成される。
また、本発明では、金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末の混合には分散媒に揮発性有機溶媒を使用することが好ましく、好適な混練機にはボールミルが使用される。
また、本発明では、混練中に揮散しやすい硫黄粉末は、(Ti、Nb、Zr)系無機化合物の目標組成よりも少ない割合で金属粉末、炭素粉末に配合し、混合がある程度進行した段階で残りの硫黄粉末を配合し更に混合を進めても良い。或いは、金属粉末、炭素粉末を混合した後、所定量の硫黄粉末を配合し、更に混合を継続することも可能である。具体的には、目標組成:(Ti、Nb、Zr)に応じモル比2:(0.5〜1.0):(1〜3)の割合で金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末の配合割合を定める。
【0008】
さらに、Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末を硫黄粉末と混合して圧粉成形した後、得られた圧粉体を反応容器にセットし、圧粉体の一端に着火し他端に向けて燃焼を進行させ、(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を自己伝播高温合成することを特徴とする。
さらに、雰囲気温度を−20〜150℃の範囲に維持して自己伝播高温合成反応させると反応条件が安定化し、目標組成:(Ti、Nb、Zr)1〜3の無機化合物が高歩留で合成される。
また、本発明では、金属粉末、硫黄粉末の混合には分散媒に揮発性有機溶媒を使用することが好ましく、好適な混練機にはボールミルが使用される。
また、本発明では、混練中に揮散しやすい硫黄粉末は、(Ti、Nb、Zr)1〜3系無機化合物の目標組成よりも少ない割合で金属粉末に配合し混合を進めても良い。
【発明の効果】
【0009】
以上の課題を解決する手段によって、本発明の自己伝播高温合成方法で、硫黄粉末を混合したSHS反応によって、Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末と炭素粉末とを混合して、(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物、(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を短時間で合成でき、且つ無機化合物の組成比を高い自由度で変更することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの発明における最良の形態の例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
【0011】
本発明では、Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末と炭素粉末、硫黄粉末とを混合し、ペレット、ブリケット等の形状に成形した後、SHS反応で(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物を合成している。反応系にSが入ることにより、Ti−C系の反応に比較して格段に活発な反応が進行し、短時間で(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物が合成される。
硫黄粉末がSHS反応速度に及ぼす影響は、硫黄の低融点に由来する。すなわち、反応系に存在する最も融点の低い硫黄粉末は、SHS反応開始時(ヒータによる着火時)に一番初めに溶融する。溶融した硫黄にTiやCが溶け込み、異種原子間の接触が分子レベルで進行するため迅速なSHS反応が持続的に継続する。
【0012】
Ti、Nb、Zr系の何れの化合物においても金属と炭素の比率を固定でき、硫黄の添加量のみ調整することで容易に目的の化合物が得られる。これは硫黄の揮発性に起因したもので、目的の化合物組成よりやや過剰に添加するのが良い。更には、金属粉末と炭素粉末とを所定比率で混合した後、硫黄粉末を配合し混合する二段階方式を採用すると、硫黄の揮散を一層抑制できる。或いは、少量の硫黄粉末を配合した金属粉末、炭素粉末を混合した後、残りの硫黄粉末を追加配合し、更に混合を進めることも可能である。
反応系に存在する硫黄は、元来揮発・昇華しやすい元素であり、高温での反応中に一部が反応に関与することなく系外に揮散することもある。金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末等を混練している際にも硫黄の揮散があり、混練の前後で金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末の配合比が変化する。そこで、目標組成:(Ti、Nb、Zr)の炭硫化物を得るため、若干多量のSが反応系に存在するように(Ti、Nb、Zr):C:Sのモル比を好ましくは2:(0.5〜1.0):(1〜3)、更に好ましくは2:1:(2.5〜2.6)の範囲に調整する。
【0013】
また、SHS反応として、硫黄の低融点の作用から、本発明では、Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末を硫黄粉末と混合し、ペレット、ブリケット等の形状に成形した後、SHS反応で(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を合成している。反応系のSは、Ti等の金属と容易に反応して、活発な反応が進行し、短時間で(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物が合成される。したがって、上記同様に、反応系に存在する硫黄は、元来揮発・昇華しやすい元素であり、高温での反応中に一部が反応に関与することなく系外に揮散することもある。目標組成:(Ti、Nb、Zr)の炭硫化物を得るため、若干多量のSが反応系に存在するように(Ti、Nb、Zr):Sのモル比を好ましくは2:(1〜3)、更に好ましくは2:(2.5〜2.6)の範囲に調整する。
炭素(C)は、系外に揮散することが少なく、また、Ti等との反応性も高いので、混合した量がほぼそのまま炭硫化物になる。副生成物で形成される炭化物も少ないことから目標とする量を混合すればよい。
【0014】
金属粉末にはTi、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上が使用される。均質で目標組成の炭硫化物を合成する上では、高純度で粒径の小さな金属粉末ほど好ましく、具体的には純度:95%以上、体積平均粒径:50μm以下の金属粉末が使用される。この金属粉末としては、50μmを越えると例えば、反応時間が長くなったり、未反応物が残留する、目的物の歩留まりが悪くなる、炭硫化物の純度が低下する等の問題がある。また、純度が95%未満では、目的生成物の純度低下、不純物の混入で品質が低下する等の問題がある。この種の金属粉末は、チタンでは製品番号TSP−350(住友チタニウム社製)、ニオブでは製品番号324111(ニラコ社製)、ジルコニウムでは製品番号63545E(高純度化学研究所社製)として市販されている。
炭素粉末も同じ理由から高純度で粒径の小さな粉末ほど好ましく、具体的には純度:95%以上、体積平均粒径:20μm以下の製品番号282863(Aldrich社製)として市販されている炭素粉末が使用される。この炭素粉末としては、20μmを越えると反応時間の長期化、目的の組成が得にくい等の問題がある。また、純度が95%未満では、目的生成物の歩留まり低下、炭硫化物以外の化合物の形成のおそれ、炭硫化物の純度が低下等の問題がある。
硫黄粉末も同じ理由から高純度で適度に粒径の小さな粉末ほど好ましく、具体的には純度:99.9%以上、粒径:75μm以下の製品番号801X1953(関東化学社製)等として市販されている硫黄粉末が使用される。粒径が小さすぎると、SHS反応時に揮散するSが過剰になり過ぎるので、10μm以上の粒径が好ましい。この硫黄粉末としては、75μmを越えると目的の組成が得にくい等の問題がある。また、純度が99.9%未満では、目的生成物の歩留まり低下、炭硫化物以外の化合物の形成のおそれ、炭硫化物の純度が低下等の問題がある。
【0015】
所定比率で配合された金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末は、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ケトン、アセトン等の揮発性有機溶剤に添加され湿式混合される。湿式混合では、乾式混合に比較して異種粉末粒子間の接触が促進され、SHS反応に必要な混合粉末の均質性が確保される。
金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末の混合には、限定しないので、V字混合機、ボールミル、アトライター、ヘンシェル混合機を用いることができる。ボールミルは、操作が簡単であり、混合状態を混合媒体のボールや揮発性有機溶媒の量等で調整が容易で好ましく適用することができる。さらに、混合する方法として、金属粉末、炭素粉末を混練機で混合した後、揮発・昇華しやすい硫黄粉末を配合してボールミルで湿式混合すると、混合中に硫黄の揮散が抑制される。
【0016】
充分に混合した後、ペレット、ブリケット等の形状に圧粉成形する。圧粉成形では、圧力値を10〜50kgf/cmにセットした油圧プレス機で成形することにより、その後の取扱いが容易な圧粉体が得られる。低すぎる油圧では、反応装置にセットするまでに圧粉体の崩壊が懸念される。逆に高すぎる油圧では、圧粉体密度が過度に高密度化され内部を伝播するSHS反応に偏りが生じやすく、目標炭硫化物の歩留低下が懸念される。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態として、SHS反応に使用する反応装置の概略図である。
SHS反応には、たとえば概略を図1に示す反応装置1が使用される。図1では、円柱鋼材を穿孔した反応装置1が使用され、円柱鋼材を半径方向に貫通する覗き窓が適宜の個所に設けられている。反応装置1の上部開口に断熱板2が取り付け、SHS反応中に周囲への粉末飛散や反応熱の外部拡散を防ぐことにより、均一な反応生成物が合成されるように反応場が安定化する。
圧粉体3は、反応装置1の中心ある円筒形の穴に挿入される。圧粉体3の周囲には断熱板2と同じ材質のシートを挿入すると、反応装置1への熱の拡散が防がれ安定な反応を持続できる環境に調整される。圧粉体3の上端に加熱コイル4が埋め込まれており、加熱コイル4は交流電源5に接続されている。圧粉体3の下端には、SHS反応の進行状況を把握するため熱電対6を取り付けることが好ましい。
交流電源5をオンし加熱コイル4で圧粉体3の一端を加熱着火すると、SHS反応が開始する。SHS反応は、加熱側の一端から他端に向けて進行するが、反応装置1から外部に放出される火炎によりSHS反応が進行中であることを判定できる。火炎は、大部分が反応最中の微粉に由来するが、量的には反応終了までに数ミリグラムに留まる。SHS反応の終了は、燃焼波7や燃焼火炎の消滅により確認できる。熱電対6で検出される温度の変化により、圧粉体3の一端から他端に燃焼が到達するまでの時間が判り、燃焼速度が算出される。実際には、加熱着火すると、SHS反応が開始し、数秒で終了する。
【0018】
図2は、本発明の他の一実施形態として、SHS反応に使用する反応装置の概略図である。図2では、円柱の軟鋼材13を穿孔して、円筒状の空洞14を設けた反応装置2が使用され、円柱軟鋼材13の上には、空洞14を塞ぐ蓋12が設けられている。これによって、SHS反応中に周囲への粉末飛散や反応熱の外部拡散を防ぐことにより、均一な反応生成物が合成されるように反応場が安定化する。
圧粉体3は、反応装置11の中心ある空洞14に挿入される。断熱シートを挿入して、反応装置1の熱が外部への拡散が防がれ安定な反応を持続できる環境に調整することができる。圧粉体3の上端に加熱コイル4が埋め込まれており、加熱コイル4は、図示しない交流電源5に接続されている。交流電源5をオンし加熱コイル4で圧粉体3の一端を加熱着火すると、SHS反応が開始する。
【0019】
また、この反応において、雰囲気条件としては、還元又は不活性雰囲気中で行うことが好ましい。還元雰囲気としては、H中で行う。不活性雰囲気としては、Ar、He、N等の一般的に不活性ガスとして用いられる雰囲気中でおこなう。さらに、雰囲気温度としては、−20〜150℃の範囲にする。この雰囲気温度は、硫黄(S)が揮散するのを抑え、混合した硫黄を有効利用するためである。雰囲気温度が−20℃未満では、製造条件を煩雑・複雑にし、時には合成反応自体が発生または進行しないという問題があり、150℃を越えると反応をことさら活性化しすぎて目的の化合物を得にくいという問題がある。ここで、−20℃〜150℃の範囲は、目的の化合物を効率的かつ歩留まり良く得るための反応制御の意味で臨界的意義がある。
このように、本発明の自己伝播高温合成方法では、単に金属粉末、炭素粉末の混合物を反応させる従来法に比較して反応速度が極めて速く、また金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末の配合比率により炭硫化物の目標組成(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物も自由に調整できる。また、金属粉末、硫黄粉末により硫化物の目標組成(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物も容易に調整できる。そのため、潤滑剤、界面活性剤として有用な炭硫化物、硫化物が低コストで且つ簡便に製造される。
【実施例】
【0020】
さらに、以下に、実施例より本発明の実施形態を更に詳細説明する。
(実施例1)
先ずTi:C=2:1の組成(モル比)になるようチタン粉末(純度:99.4質量%、平均粒径:45μm)、黒鉛粉末(純度:95質量%以上、平均粒径:2μm)を秤量し、遊星型ボールミルを用い300rpmの条件で6時間湿式混合した。混合時の分散媒には、アセトンを使用した。チタン粉末、黒鉛粉末を充分混練した後、Ti:C:S=2:1:1〜3(モル比)の組成(モル比)となるように硫黄粉末(純度:97質量%、平均粒径:75μm)を加え、更に分散媒にエタノールを用い1時間乳鉢中で湿式混合した。
混合粉末を24時間以上かけて乾燥した後、10kgf/cmの圧力でプレス成形し、ペレット状圧粉体(直径:1.4cm、高さ:1.5cm)とした。
内容積:約26.5cmの反応装置1を用い、プレス成形したままのペレット状圧粉体3を断熱板2に固着して反応装置1の内部に垂下した(条件1)。また、装置、圧粉体の温度がSHS反応に及ぼす影響を調査するため、−15℃の冷凍庫で冷凍しておいた軟鋼容器(反応装置1)に冷凍庫で1時間以上冷却しておいたペレット状圧粉体をセットした(条件2)。
交流電源5をオンし加熱コイル4で圧粉体3の一端を加熱したところ、条件1では金属粉末が溶融した時点で圧粉体3が着火した。着火開始から約0.3秒経過したとき圧粉体3の他端が温度:1600℃以上に達したので、反応速度:約5cm/秒で圧粉体3の一端から他端にSHS反応が進行したことが判る。SHS反応の進行中は外部から燃焼火炎が観察されたが、約0.5秒経過した時点では燃焼波7、燃焼火炎が消滅していた。
【0021】
図3は、Ti:C=2:1を基準としS配合量を1.0〜3.0の範囲で変化させた粉末混合物を湿式混合して作製された圧粉体を条件1でSHS反応させることにより合成された反応生成物の副生成物量とS配合量との関係を示すグラフである。図3に示すように、合成された複合化合物をX線回折し、主要生成物Tiの最大ピーク値を10としたときの副生成物の最大ピーク値を求めたところ、Ti:C:S=2:1:2.2の混合比で副生成物TiCが最も少なくなっていた。
【0022】
図4は、Ti:C=2:1を基準としS配合量を1.0〜3.0の範囲で変化させた粉末混合物を湿式混合して作製された圧粉体を条件2でSHS反応させることにより合成された反応生成物の副生成物量とS配合量との関係を示すグラフである。
図4から明らかなように、条件2でも条件1とほぼ同様にSHS反応が進行したが、合成された複合化合物の図に示したX線回折結果は、副生成物TiCが更に少なくなることを示している。
条件2のうちでTiCが最も少なっていた混合比Ti:C:S=2:1:2.3でTi、C、Sをボールミルにかけ、回転数、混合時間等を変化させて混合条件が合成物に及ぼす影響を調査したところ、100rpm×2時間の混合で最も良好な結果が得られた。
【0023】
(実施例2:試験No.1〜15)
また、実施例1とほぼ同様にして以下の実験を行った。モル比Ti:C=2:1のモル比でチタン粉末、炭素粉末をボールミルで混練した後、硫黄粉末の配合比が反応生成物の組成に及ぼす影響を調査するため、配合量を(1〜1.4)の範囲で変えた硫黄粉末をエタノール中で湿式混合し、Ti:S=2:1:(1〜1.4)の粉末混合物を用意した。該粉末混合物から圧粉体を作製し、実施例1と同じ条件下でSHS反応させた。また、雰囲気温度(=容器温度)を、−15℃、20℃、150℃に設定し、雰囲気温度がSHS反応に及ぼす影響も併せ調査した。
この条件下で得られた反応生成物は、Tiが主要な生成相であり、TiCが若干生成したもののTiの副生が抑制された。何れの試験番号でも、反応活性が高いため反応が一瞬で終了してしまい、0.05m/秒以上の反応速度と推定された。
【0024】
また、このときに、Ti:C=2:1を基準としS配合量を1.1〜1.4の範囲で変化させた粉末混合物をSHS反応させることにより合成された反応生成物の副生成物量とS配合量とを、表1に詳細に示す。
【表1】

【0025】
(実施例3)
モル比Nb:C=2:1を基準としS=(1〜2.5)の範囲でS配合量を変えた組成となるようにNb、C、Sの各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてエタノールを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。実施例1と同様な反応装置を用いて常温に圧粉体を保持し、タングステンヒータを用いて圧粉体の上部に着火しSHS反応させた。反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した。その結果、主相としてNbが生成し、複相としてNbS相、NbC相が観察された。複相のNbCは硬質材料であるため少ない生成量ほど良いが、本組成の結果では最も低く抑えられていた。
【0026】
(実施例4)
モル比Zr:C=2:1を基準としS=(1〜2.5)の範囲でS配合量を変えた組成となるようにNb、C、Sの各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてエタノールを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。実施例1と同様な反応装置を用いて常温で圧粉体をSHS反応させた。
反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した。その結果、主相としてZrが生成し、複相としてZr2.573.91相、ZrC相が観察された。複相のZrCは硬質材料であるため少ない生成量ほど良いが、本組成の結果では最も低く抑えられていた。
【0027】
(実施例5)
ここで、(Ti:Zr)=1:1の金属粉末を混合して均等に分布した金属粉末を作製し、これで炭硫化物を製造した。モル比(Ti、Zr):C=2:1を基準としS=(1〜2.5)の範囲でS配合量を変えた組成となるように(Ti、Zr)、C、Sの各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてエタノールを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。実施例1と同様な反応装置を用いて常温で圧粉体をSHS反応させた。
反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した結果、主相として(Ti、Zr)が生成し、複相として(Ti、Zr)2.573.91相、(Ti、Zr)C相が観察された。
これで、金属粉末が二成分であっても、金属硫化物、金属炭化物の生成が抑えられた炭硫化物を生成することができた。
【0028】
(実施例6)
ここで、(Ti:Nb:Zr)=1:1:1の金属粉末を作製した。まずは、この3者を混合して均等に分布した金属粉末を作製し、これで炭硫化物を製造した。モル比(Ti、Zr):C=2:1を基準としS=(1〜2.5)の範囲でS配合量を変えた組成となるように(Ti、Zr)、C、Sの各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてエタノールを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。実施例1と同様な反応装置を用いて常温で圧粉体をSHS反応させた。
反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した結果、主相として(Ti、Zr)が生成し、複相として(Ti、Zr)2.573.91相、(Ti、Zr)C相が観察された。
これで、金属粉末が二成分であっても、金属硫化物、金属炭化物の生成が抑えられた炭硫化物を生成することができた。
【0029】
(比較例1)
ここで、(Ti:Nb:Zr)=1:1:1の金属粉末を作製した。まずは、この3者を混合して均等に分布した金属粉末を作製し、これを用いた気相合成法で炭硫化物を製造した。金属粉末、S粉末、C粉末を原料粉末として乳鉢で混合した。まず、不活性ガスとしてArガスを用い、20kW、4MHzの高周波電力を投入してArプラズマを発生させた。この時のプラズマガスの流量は13リットル/min、シースガスの流量は20リットル/minとした。Arキャリアガスと共に上記の原料粉末を0.08〜0.1g/minの速度で粉末フィーダーより熱プラズマ中に供給し、合成された炭硫化物はフィルターで回収した。た。その中で、X線回折の結果では、主に、(Ti、Nb、Zr)が生成したが、純度が低い上に、その他に、複相として(Ti、Nb、Zr)2.573.91相、(Ti、Nb、Zr)C相が観察された。
【0030】
(実施例7:試験No.16〜18)
Tiに対して、Sがモル比1になるように各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてアセトンを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、10kgf/cmの圧力で油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。図2で示した反応装置を用いて常温の20℃に圧粉体を保持し、タングステンヒータを用いて圧粉体の上部に着火しSHS反応させた。反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した。SHS反応で合成された反応生成物は、ほとんど主相であって、主相TiS相が観察された。このTiS相は、同一の組成であるが、複数の結晶系のものが混在しているが、ここでは、特に、区別しない。このほかに、極わずかであるが、Ti0.9S、Tiが存在した。しかし、潤滑剤、界面活性剤として用いる実用上では、問題のない量であった。
【0031】
さらに、同様にして、圧粉体を用意して、圧粉体が挿入された反応装置を、−15℃、100℃に保持し、その後、着火しSHS反応させた。試験No.16,18では、下記表2に示すように、Ti0.9S、Tiがほとんど存在しなかった。図5に、100℃に保持した条件において生成した物質を確認するためのX線回折のグラフである。図5から明らかなように、ほとんどTiS相で構成されており、他の相は極微弱な回折線として見られるだけの健全な試料であることがわかる。
【0032】
【表2】

【0033】
(実施例8)
ここで、(Ti:Zr)=1:1の金属粉末を混合して均等に分布した金属粉末を作製し、これで炭硫化物を製造した。モル比(Ti、Zr)が1に対して、Sがモル比1になるように、各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてエタノールを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。実施例7と同様な反応装置を用いて常温で圧粉体をSHS反応させた。
反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した。SHS反応で合成された反応生成物は、ほとんど主相であって、主相として(Ti、Zr)S相が生成し、観察された。
【0034】
(実施例9)
ここで、(Ti:Nb:Zr)=1:1:1の金属粉末を混合して均等に分布した金属粉末を作製し、これで炭硫化物を製造した。(Ti、Nb、Zr)が1に対して、Sが、モル比1になるように、各粉末を秤量して乳鉢に入れ、分散媒としてエタノールを用い1時間湿式混合した。次いで、24時間乾燥させ、油圧プレスでペレット状に圧粉成形した。実施例7と同様な反応装置を用いて常温で圧粉体をSHS反応させた。
反応終了後、反応生成物を反応装置から取り出し、X線回折装置で生成相を同定した。SHS反応で合成された反応生成物は、ほとんど主相であって、主相として(Ti、Nb、Zr)S相が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上に説明したように、本発明では、硫黄存在下の反応系で自己伝播高温合成反応させて製造する金属硫化物、金属炭硫化物で表面性、摩擦性を改質する潤滑剤、界面活性剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態として、SHS反応に使用する反応装置の概略図である。
【図2】本発明の他の一実施形態として、SHS反応に使用する反応装置の概略図である。
【図3】Ti:C=2:1を基準としS配合量を1.0〜3.0の範囲で変化させた粉末混合物を湿式混合して作製された圧粉体を条件1でSHS反応させることにより合成された反応生成物の副生成物量とS配合量との関係を示すグラフである。
【図4】Ti:C=2:1を基準としS配合量を1.0〜3.0の範囲で変化させた粉末混合物を湿式混合して作製された圧粉体を条件2でSHS反応させることにより合成された反応生成物の副生成物量とS配合量との関係を示すグラフである。
【図5】100℃に保持した条件において生成した物質を確認するためのX線回折のグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1、11:反応装置
2:断熱板
3:圧粉体
4:加熱コイル
5:交流電源
6:熱電対
7:燃焼波
12:蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末と硫黄(S)粉末、炭素(C)粉末とを混合し、さらに、圧粉・成形して圧粉体を得た後、
得られた圧粉体に着火し、(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物を自己伝播高温合成する
ことを特徴とするの自己伝播高温合成方法。
【請求項2】
揮発性有機溶媒を分散媒として金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末を湿式混合する
ことを特徴とする請求項1記載の自己伝播高温合成方法。
【請求項3】
ボールミル中で金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末を混合する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の自己伝播高温合成方法。
【請求項4】
金属粉末、炭素粉末を混合した後、硫黄粉末を配合し、更に混合する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の自己伝播高温合成方法。
【請求項5】
(Ti、Nb、Zr)−C−S系無機化合物は、金属粉末、炭素粉末、硫黄粉末を2:(0.5〜1.0):(1〜3)のモル比で配合する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の自己伝播高温合成方法。
【請求項6】
Ti、Nb、Zrから選ばれる少なくとも一種以上の金属粉末を硫黄(S)粉末と混合し、さらに、圧粉・成形した後、
得られた圧粉体に着火し、(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物を自己伝播高温合成する
ことを特徴とするの自己伝播高温合成方法。
【請求項7】
揮発性有機溶媒を分散媒として金属粉末、硫黄粉末を湿式混合する
ことを特徴とする請求項6記載の自己伝播高温合成方法。
【請求項8】
ボールミル中で金属粉末、硫黄粉末を混合する
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の自己伝播高温合成方法。
【請求項9】
(Ti、Nb、Zr)−S系無機化合物は、金属粉末、硫黄粉末を1:(1〜3)のモル比で配合する
ことを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の自己伝播高温合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−280230(P2008−280230A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165734(P2007−165734)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】