説明

自己回復表層を備えた構成要素、自己回復塗料、または自己回復特性を有するコーティング粉末

本発明は、自己回復表層(20)を備えた構成要素(19)、または自己回復塗料(21)、またはコーティング粉末に関する。本発明によれば、自己回復は、被覆粒子(12)の内部に覆われた反応性物質(15)によって保証されることが意図されている。塗料層の損傷(21)が、好ましくは触媒材料(16)の影響下で被覆材料(14)の破壊をもたらし、したがって、覆われた流体塗料(15)は流出することができる。UV光の影響下、流体塗料は硬化し、生じた亀裂(21)を閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己回復表層を備えた構成要素であって、この層の内部に反応性物質が分散されており、その化学組成が表層の材料の前段材料に相当し、表層に与えられた損傷によって露出した場合にはこの前段材料が自発的に表層の材料へと転換され得る構成要素に関する。本発明はさらに、溶媒および層材料を有する自己回復塗料に関する。塗料中には反応性物質が分散されており、その化学組成は層材料の前段材料に相当し、この前段材料も、露出した場合には自発的に層材料へと転換され得る。最後に本発明は、層材料から成る粒子を含有するコーティング粉末にも関する。反応性物質は粉末にも分散され、その化学組成は層材料の前段材料に相当し、この前段材料は、露出した場合には自発的に層材料へと転換される。
【背景技術】
【0002】
ある条件下での、層材料の前段材料から層材料そのものへの自発的な転換は、従来技術によれば、層または層材料の自己回復特性を保証するために用いられる。そのような自己回復層またはこの目的で使用される層材料(塗料)は、例えば、欧州特許出願公開第355028号明細書に見出される。この文献で問題となっているのは、気象条件下で瓦の寿命を延ばすことになる、当該瓦のコーティングである。このために、瓦の下部塗料層は芳香族ケトンを含有し、UV露出の場合または日光の影響下で、下部塗料層の架橋を引き起こし、したがって、化合物の自発的生成を通して機械的欠陥の回復が行われる。本発明に関連した「自発的」という単語の使用は、自己回復プロセスが、制御プロセスの外部からの影響の結果として(例えば人為的な監視の後に)生じるものではなく、代わりに表層の使用場所の環境で(例えば大気中の気象条件で)自動的に表層の特性および環境条件に基づいて生じることを意味すると解釈すべきである。自己回復プロセスの制御は、好ましくはUV露出(太陽の放射)を用いて行われるが、UV露出の線量が影響を受けないものであり、しかしむしろ利用領域での気象条件に左右される。地中海諸国における太陽の放射は、例えば、北欧諸国などよりも平均して高くまた降雨は少ない。したがって塗料の自己回復に関するパラメータの設定は、ある問題を引き起こす。
【0003】
従来技術によるその他の自己回復塗料システムは、コーティング中に活性成分がなく、代わりに、例えば生じた傷を再び修復するため、硬化後にコーティングの物理的残留流動能力を利用するだけである。そのような塗料は、とりわけ最外層においてポリウレタン化合物を母材としている。そのようないわゆるPUR塗料が、例えば太陽の放射によって加熱された場合、塗料層は流動し、それによってその損傷は平らになる。しかし、これに必要とされる、コーティングの比較的高い流動能力は、低架橋密度を前提とする。多くの適用例の場合、この性質によって、例えば、耐傷付性または耐薬品性に関して自動車用途における要件を満たさない、不充分な機械的耐久性がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第355028号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、自己回復特性を有する層系またはそのような層を製造するための成分であって、一方では高度な層の耐久能力(例えば、傷に対する抵抗力)を保証しまた他方では正確に調整されるべき、自発的な自己回復の効果を与える成分を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、層材料に含有される反応性物質が被覆粒子のコアを形成し、その際被覆が酸化性物質から成ることによって、冒頭で挙げられた構成要素または自己回復塗料またはコーティング粉末により、解決される。本発明によれば、さらに提案されるのは、いわゆるコア−シェル構造において、自己回復に責任のある反応性物質を提供することであり、したがって自己回復をもたらす反応用の材料を提供する反応性物質は、その使用が必要になるまで保護されたままである。酸化性物質で形成された被覆は、被覆粒子が層内に完全に覆われている限り、この保護を保証する。これは、被覆粒子のための層が酸化保護であることによって実現される。
【0007】
しかし、層に対する損傷が生じるや否や、また被覆粒子が露出するや否や、被覆粒子はとりわけ空気中の酸素に曝される。次いで大気条件(日光、熱)の影響下、被覆の酸化性物質の酸化が生じ、それによって被覆が破壊され、反応性物質が放出される。この物質は例えば、層の組成を有しかつ環境条件下(日光、熱)でたとえば硬化するような、流体塗料から成っていてよい。このように、層の損傷部位は少なくとも部分的に充填され得、この方法で構成要素の保護がさらに保証され得る。
【0008】
本発明の以下の特定の実施形態は、同様に、本発明の構成要素、本発明の自己回復塗料、および本発明のコーティング粉末に関する。例えば有利には、光活性化可能なまたは熱活性化可能な触媒材料を、粒子の被覆表面に堆積させることが可能であり、当該触媒材料は、活性化の場合には、被覆の酸化性物質の酸化を促進する。それによって、有利にも自己回復層系は、たとえば世界の北部領域で、即ち、被覆粒子の酸化性被覆を十分迅速に酸化させるには太陽の放射が十分とは言えず、そのような理由により、コーティングされた構成要素の損傷を完全になくすことができないような領域で使用することができる。触媒材料は、酸化性物質の酸化を加速させ、したがって有利にも、迅速に回復するに至る。問題にされている光および/または熱活性化可能な物質には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、またはインジウム亜鉛酸化物が含まれる。これらの材料は、その触媒作用により、光または熱によって、酸化性物質の酸化を開始または加速させるという性質を保有する。触媒的に活性な粒子、特に酸化チタンは、空気中の湿度によって酸素および水酸化物ラジカルを発生させ、それが粒子の被覆の反応性物質の酸化を加速させる。当然ながら、より深刻な層の損傷の結果、粒子の被覆は機械的に破壊される可能性もあり、そのことが、自己回復プロセスが即座に生じるという追加の利点になり、したがって、層の深刻な損傷の場合、自己回復特性の最大限の潜在能力を提供することもできる。
【0009】
あるいは、光活性化可能なまたは熱活性化可能な触媒材料を、粒子のコア内に貯蔵することも可能である。活性化の場合、被覆の酸化性物質の酸化は、既に述べた手法で促進される。光活性化可能な触媒材料が使用される場合、被覆の反応性物質および酸化性物質は、この場合光活性化可能な材料の励起波長の電磁波照射を行うために透明でなければならないことを心に留めておかなければならない。これは、この方法によってのみ、被覆粒子が閉じた状態のままで光活性化可能な触媒材料を活性化できるからであり、したがってシェルの酸化が促進される。
【0010】
別の代替例は、生成物中に、光活性化可能なまたは熱活性化可能な材料で構成された触媒粒子が分散されていることを意図している。層の損傷による活性化の場合、これらの粒子は、被覆の酸化性物質の酸化を促進する。このために、層内での被覆粒子および触媒粒子の均等な分布が必要である。この方法によってのみ、層の局所損傷が被覆粒子と触媒粒子の両方を露出させることが保証され、したがって触媒粒子はその機能を担うことができる。
【0011】
さらに有利には、反応性物質は2種の成分から成ることが可能である。これは、一方の成分の被覆粒子と他方の成分の被覆粒子とが、どちらも層内で利用可能であることを意味する。両方の成分の粒子が層の損傷によって剥き出しになるや否や(即ち、被覆の酸化性破壊)、これらの成分は損傷部位で混合される。したがってこれらの成分は、層材料が適切な反応を介して混合により生成されるように、選択することができる。本発明のこの変形例には、層材料の形成を外部エネルギー源(日光、熱)とは独立して引き起こすことができ、この方法で特に迅速な回復が可能になる、という利点がある。たとえば多成分ポリウレタン塗料系を、用いることができる。
【0012】
それにも関わらず、2成分がそれぞれ異なる粒子に含有されることは、絶対に必要不可欠というわけではなく、その場合、層または層材料中の粒子は混合形態で存在する。2成分は、各被覆粒子において混合形態で存在することも考えられる。しかしこの場合、活性化エネルギーを加えずには反応しない材料化合物のみ使用することが可能である。次いで粒子の被覆は、層の損傷によって、この被覆の破壊と、活性化エネルギーがもたらされる可能性とに至るまで、この混合物を反応から保護する。
【0013】
Capsulation Nanoscience AGによって提供される、LBL−Technology(登録商標)として知られている手順は、例えば被覆粒子の製造のために利用可能である。この技術の場合、コアおよびシェルを有する必要に応じて調製される粒子は、層状構造(レイヤーバイレイヤー(layer by layer)(LBL))によって提供することができる。シェル材料は、例えば、空気中、酸素中、特に酸化チタンなどの適切な触媒材料の存在下で、酸化的な手法で破壊される、生体適合性物質であってよい。
【0014】
本発明のさらなる詳細を、図面に基づいて以下に説明する。図面の同じまたは対応する要素は、それぞれ同じ参照符号で示し、個々の図同士で相違がある場合のみ、繰り返して説明する。図で示されるのは以下である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の塗料の、例示的な実施形態を示す図である。
【図2】本発明の塗料の、例示的な実施形態を示す図である。
【図3】本発明の塗料の、例示的な実施形態を示す図である。
【図4】本発明の粉末の、例示的な実施形態を示す図である。
【図5】自己回復の種々の段階における、本発明構成要素の例示的な実施形態を示す図である。
【図6】自己回復の種々の段階における、本発明構成要素の例示的な実施形態を示す図である。
【図7】自己回復の種々の段階における、本発明構成要素の例示的な実施形態を示す図である。
【図8】自己回復の種々の段階における、本発明構成要素の例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1による自己回復塗料11は、一方では被覆粒子12のおよび他方では反応性粒子13の分散体を有する。これらの粒子は、塗料中に均等に分散しており、したがって特定の粒子の混合物が得られる。被覆粒子は、一方では、酸化性物質から成る被覆14および反応性物質で形成されたコア15を有する。酸化性物質および反応性物質は、その後硬化した塗料が損傷を受けた場合に効果を発揮する、既に述べた性質を有する。
【0017】
図2による塗料11は、被覆粒子12のみから成る分散体を含有する。反応性粒子13aは、これらの粒子のコア15に、追加として備えられている。あるいは(図示せず)多数の反応性粒子、特にナノ粒子を備えることができる。これらの粒子は、コア15内で分散体を形成することができる。コアおよび被覆の材料は、反応性粒子の触媒材料の励起波長を有する光に対して、透過性がある。
【0018】
図3では、被覆粒子12a、12bが塗料11内で使用され、反応性物質16が被覆14上に島状に分散されている。2つのタイプの被覆粒子12a、12bが存在し、これらの粒子は、塗料の異なるタイプの成分が被覆14内のコア15として覆われているという違いがある。被覆粒子に損傷が与えられた場合、これらの成分は、被覆14から出て来た後に混合され、塗料へと硬化することができる。
【0019】
図4は、例えば粉末コーティングを用いて層を製造するのに適している粉末17を概略的な形で示している。この粉末は、その機能が図3に類似している被覆粒子12a、12bを有する。被覆粒子12a、12bの異なるコア15の2つの成分は2成分系を提供し、当該2成分系は、粉末コーティングを用いて製造される層の自己回復に適切な、残りの粉末粒子18に少なくとも類似している層材料を生成する。触媒材料は、1つのタイプの被覆粒子12bにのみ備えられる。この構成により、被覆粒子12aの製造が簡単になり、被覆粒子12bの触媒材料16は、粒子12aの被覆14を酸化するのにも用いられる。
【0020】
図1から4の実施形態のタイプは、当然ながら、図示されていないその他の組合せで使用することもできる。
【0021】
図5は、自己回復表層20を有する構成要素19の部分断面を示す。表層20は、硬化されており被覆粒子12が分散されている塗料11から成る。塗料11は、亀裂21によって損傷を受け、被覆粒子12の1つが露出した。そのシェル14は、このとき亀裂面の一部を形成しており、触媒物質16の島を保持しており、当該触媒物質の島は、図6に示されるようにUV照射の影響下で酸化するに至り、その結果被覆14の破壊に至る。反応性物質15は、これによって被覆粒子12のコアから出て来ることができ、亀裂21へと流動する。
【0022】
図7からわかるように、反応性物質15(流動塗料)は、さらなるUV照射の作用を通して硬化する。図8では、これにより図5の亀裂21がほとんど、再び閉鎖されたことが明らかである。自己回復は、材料不足のため完全に終了できないこともわかるが、しかしその場合、構成要素19の表面22は再び保護されていることが保証される。層20の考えられ得る欠陥箇所として、ブローホール23または残留窪み24が挙げられる。
【符号の説明】
【0023】
11 塗料
12 被覆粒子
13 反応性粒子
14 被覆
15 コア
16 触媒材料
17 粉末
18 粉末粒子
19 構成要素
20 表層
21 亀裂
22 表面
23 ブローホール
24 残留窪み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己回復表層(20)を備えた構成要素であって、前記層の内部には反応性物質(15)が分散されており、その化学組成は前記表層の材料の前段材料に相当し、この前段材料は、表層(20)の損傷によって露出した場合に前記表層(20)の材料へと自発的に転換することができる構成要素において、前記反応性物質(15)は、被覆粒子(12)のコアを形成し、被覆(14)は酸化性物質から成ることを特徴とする構成要素。
【請求項2】
溶媒および層材料を有する自己回復塗料であって、反応性物質(15)が前記塗料中に分散されており、その化学組成は前記層材料の前段材料に相当し、この前段材料は、露出した場合に前記層材料へと自発的に転換することができる自己回復塗料において、前記反応性物質(15)は、被覆粒子(12)のコアを形成し、被覆(14)は酸化性物質から成ることを特徴とする自己回復塗料。
【請求項3】
層材料で形成された粒子を有するコーティング粉末であって、反応性物質(15)が前記粉末中に分散されており、その化学組成は前記層材料の前段材料に相当し、露出した場合には、この前段材料は前記層材料へと自発的に転換することができるコーティング粉末において、前記反応性物質(15)は、被覆粒子(12)のコアを形成し、被覆(14)は酸化性物質から成ることを特徴とするコーティング粉末。
【請求項4】
光活性化可能なまたは熱活性化可能な触媒材料(16)が、前記粒子の被覆(14)の表面に堆積され、活性化の場合には被覆の酸化性物質(16)の酸化を促進することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項5】
光活性化可能なまたは熱活性化可能な触媒材料が、前記粒子のコア内に貯蔵され、活性化の場合には前記被覆(14)の酸化性物質の酸化を促進し、光活性化可能な触媒材料の場合には、前記反応性物質および前記酸化性物質が、光活性化可能な材料の励起波長の電磁波照射を透過させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項6】
光活性化可能なまたは熱活性化可能な材料からなる触媒粒子(13)が、前記生成物中に分散され、活性化の場合には、前記被覆(14)の酸化性物質の酸化を促進することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項7】
前記反応性物質が2種の成分から成ることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項8】
前記2種の成分が、それぞれ異なる粒子(15a、15b)に含有され、これらの粒子(15a、15b)の混合物が前記生成物中に分散されることを特徴とする、請求項7に記載の生成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−525560(P2011−525560A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515343(P2011−515343)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057769
【国際公開番号】WO2009/156376
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)
【Fターム(参考)】