説明

自己複製多能性遅延周期細胞を単離する方法

本発明は、分裂頻度が低く遅延周期性の細胞、すなわち、そのニッチにおける幹細胞の典型的な特徴を有する細胞を単離する方法に関する。本発明の方法は、古典的幹細胞が単離できるように、有利に用いることができる。さらに提供されるのは、これらの細胞のクローン集団を産生し、分化を阻害する方法である。さらに、これらの細胞を前駆細胞から識別するためのマーカーも開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に米国政府(NIH助成金第AR 050452号および第AR 31727号)の支援を受けており、従って米国政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、特定の細胞種類および最終的に分化細胞を生じる能力を有する、遅延周期(slow-cycling)未分化細胞または未熟細胞である。これらの分化細胞は成体動物における完全な機能器官および組織を構成し、胚発生の最終生成物である。幹細胞は2つの主要な特徴を有する。第1に、他の細胞と異なり、幹細胞は、産生、分裂および分化によって組織を補給する能力を有する。多くの場合幹細胞は多能性であり、1種類以上の成熟細胞/組織を生じることができる。第2に、幹細胞はまた、それら自身を複製することができ、必要な場合に、成熟細胞種類の実質的に絶え間の無い補給を生み出すことができる。この自己複製能力のために、幹細胞は組織の再生および修復用として治療的に有用である。
【0003】
幹細胞の効力(potency)は、それが最終的に産生する異なる細胞種類の多様性によって測定される。最も強力な幹細胞は、身体の全ての種類の細胞を生じることができる、全能性(pluriopotent)幹細胞である(Wagner (1990) EMBO J. 9:3025-3032; Matsui, et al. (1992) Cell 70:841-847; Resnick, et al. (1992) Nature 359:550-551)。他の幹細胞も存在し、2または3種以上の異なる細胞種類を生じさせる多能性幹細胞を含む。例えば、多能性造血幹細胞は、血液系の全細胞種類を生じる能力がある(Jones, et al. (1990) Nature 347:188-189; Fleming, et al. (1993) J. Cell Biol. 122:897-902)。他の既知の多能性幹細胞には、神経幹細胞、神経冠幹細胞(Reynolds and Weiss (1992) Science 255:1707-1710; Stemple and Anderson (1992) Cell 71:973-985)、および毛包幹細胞(Taylor, et al. (2000) Cell 102:451)が含まれる。二能性幹細胞も、1種類より多い細胞種類を生じるために、多能性幹細胞と考えられる。二能性幹細胞の具体的な例には、O−2A前駆体(Lillien and Raff (1990) Neuron 5:111-119; McKay (1989) Cell 58:815-821; Wolswijk and Noble (1989) Development 105:38-400)および交感神経副腎幹細胞(Patterson (1990) Cell 62:1035-1038)が含まれる。単能性幹細胞の例は、表皮に存在する幹細胞である(Jones and Watt (1993) Cell 73:713-723)。
【0004】
幹細胞の、組織再生および修復に対する有効性は、幾つかの系において示されている。例えば、造血幹細胞の移植は、骨髄を致死量の放射線に暴露された動物を救うことが示された(Jones, et al. (1990)、上記)。O−2A前駆体もまた、化学的に脱髄化された脊髄神経を再ミエリン化することが示された(Groves, et al. (1993) Nature 362:453-455)。さらに、表皮幹細胞は、火傷の患者において皮膚移植に用いられた(Green (1980) Scientific American)。
【0005】
従って、所望の効力および系統特異性を有する分化した幹細胞は、組織の再生および修復、および広範囲の疾患の処置のための原材料の、無限の供給源を提供する。
【0006】
全能性幹細胞から分化した特定の細胞系統を得るために、分化を特定の細胞系統へと導くin vivoメカニズムが用いられた。例えば、全能性幹細胞をレポーターコンストラクトで修飾し、次にこれを初期の胚に再導入した後に、神経系統の幹細胞が単離された(Ott, et al. (1994) J. Cell. Biochem. Supplement 18A:187)。レポーターコンストラクトは神経形成中に発現され、レポーター遺伝子を発現する細胞は、分離されて培養物中に置かれる。この方法は、in vivoメカニズムを通して神経系統に関与する細胞の単離を許容するが、しかし、分離され1度培養物中に置かれた細胞は、最終的な分化に進行する。
【0007】
米国特許第5,639,618号には、以下のようにしてin vitroで系統特異的幹細胞を単離する方法が教示されている:全能性胚性幹細胞に、レポータータンパク質をコードするDNAに動作可能に結合する系統特異的遺伝子の調節領域を含むコンストラクトをトランスフェクトすること;全能性胚性幹細胞を、全能性胚性幹細胞が系統特異的幹細胞に分化するような条件下で培養すること;および培養物中のレポータータンパク質を発現する細胞を、他の細胞から分離すること;ここでレポータータンパク質を発現する細胞が、単離された、系統特異的幹細胞である。
【0008】
幹細胞同定の最も一般的なシステムは、細胞表面で発現されるタンパク質を、細胞種類を同定するマーカーとして用いることを含む。これらの表面タンパク質に結合する蛍光標識抗体を用いて、適当なタンパク質を発現する細胞を、蛍光活性化細胞分類(FACS)解析を用いて分離することができる。例えば、Trempus, et al. ((April 2003) J. Invest. Dermatol. 120(4):501-11)は、CD34に対する抗体およびα6インテグリンを蛍光活性化細胞分類と組み合わせて用いた、生きているCD34+ケラチノサイトの単離を教示する。しかし、この種の方法を用いた幹細胞の同定および精製は変わりやすく困難であり、これは、表面マーカー発現と幹細胞特異性の間の相関についての知識が不足しているため、またさらに、抗体結合効率の変化のためである(Alison, et al. (2002) J. Pathol. 197:419-423)。造血幹細胞の多くの特徴は確認されているが、殆んどの幹細胞の特性はあまり明らかになっていないために、全ての幹細胞に共通するマーカーを同定する能力が妨げられている。同様に、多能性および全能性幹細胞を識別する共通のマーカーは、まだ明らかにされていない(Jackson, et al. (2002) J. Cell. Biochem. Suppl. 38:1-6)。従って、当分野において、幹細胞などの遅延周期細胞を同定および単離する方法の必要性が存在する。本発明は、この長く望まれている必要性に対応する。
【発明の開示】
【0009】
本発明の概要
本発明は、表面マーカーの存在および発現レベルに基づき、自己複製多能性遅延周期細胞を単離する方法に関する。該方法は、サンプルから細胞集団を得ること、並びに、CD34の存在および各細胞により発現された選択された遅延周期細胞マーカーの量に基づき、該細胞集団を分類することにより、自己複製多能性遅延周期細胞を単離することを含む。
【0010】
本発明はさらに、レポータータンパク質の残留を介して遅延周期細胞を単離および精製する方法に関する。該方法は、遅延周期細胞中のみに限定はしないがその中で活性化されているプロモーターに動作可能に結合する調節可能転写因子をコードする核酸配列を、細胞または組織中に導入すること、および、前記調節可能転写因子が結合する調節されたプロモーターに動作可能に結合する、長命で好ましくは蛍光標識されたレポータータンパク質をコードする核酸配列を、前記細胞中にさらに導入することを含む。調節可能転写因子は初めに活性化させ、これによってレポーターの発現および蓄積を増加させ、次に不活性化させて、レポーターの発現を減少または阻害する。複数の細胞周期を許容するのに十分な時間の後、迅速に分裂および分化した細胞は、長命の蛍光レポータータンパク質を希釈して失う。その結果、遅延周期細胞のみが、長時間レポータータンパク質を保持する細胞となる。これらの遅延周期細胞は、例えば単個細胞(single cell)浮遊液のFACS解析により、検出および分類することができる。遅延周期細胞は、高レベルのレポータータンパク質が存在する細胞である。特定の態様において、高レベルのレポータータンパク質を発現する遅延周期細胞を、CD34の存在と選択された遅延周期細胞マーカーの量に基づきさらに分類する。本発明の方法に従って用いるための非ヒトトランスジェニック動物モデルも、さらに提供される。
【0011】
本発明はまた、選択された自己複製多能性細胞のクローン集団を維持し産生する方法も提供する。自己複製多能性細胞のクローン集団は、選択され単離された自己複製多能性遅延周期細胞を、約0.2mM〜0.5mMのカルシウムおよび繊維芽細胞層の存在下でインキュベートすることにより産生される。選択された細胞の増殖を阻害する方法もまた、選択された細胞を、有効量のBMP6またはFGF−18と接触させ、これによって前記細胞の増殖を阻害することにより、提供される。これらの方法に従って単離および維持された細胞は、例えば表皮細胞、神経細胞またはグリア細胞などの種々の系統に分化するため、望ましい。
【0012】
発明の詳細な説明
ヒト胚性幹細胞の単離はデリケートな問題であり、従って幹細胞の代替的で容易に入手可能な供給源は、組織再生および修復、広範囲の疾患の処置、および成体幹細胞の特性および異なる系統に沿ったそれらの分裂および分化する能力を理解するための基礎研究に特に重要である。
【0013】
皮膚は、成体幹細胞およびそれらの系統の分子的および生物学的特徴を探査するための魅力的なシステムである。その上皮は大きく利用しやすく、そして表皮およびその付属器の両方は、連続的に再生され、その子孫が空間的および時間的に高度に組織化されている多能性上皮幹細胞の貯蔵所を維持している。表皮は、一時的に増幅する細胞および幹細胞を含む、分裂期に活性な細胞の単一(基底)層の増殖により、恒常性を維持する(Fuchs and Raghavan (2002) Nat. Rev. Genet. 3:199; Potten (1974) Cell Tissue Kinet. 7:77; Potten and Morris (1988) J. Cell Sci. Suppl. 10:45; Mackenzie (1997) J. Invest. Dermatol. 109:377)。一時的に増幅する細胞は細胞周期から離脱し、下にある基底膜から離れて、皮膚表面に向って移動しはがれ落ちるにつれて、最終的に分化する(Fuchs and Raghavan (2002)、上記)。
【0014】
表皮基底層に隣接するのは毛包の外毛根鞘である。基底層と外毛根鞘は多くの生化学的特性を共有する。毛包球(follicle bulb)では、迅速に増殖する比較的未分化の毛母細胞(matrix cell)が、上向きの同心円状に最終分化して、内毛根鞘および毛幹を形成する。毛母(matrix)と真皮乳頭の間の上皮−間充織相互作用は、毛母の特徴を維持するのに必要である(Jahoda, et al. (1984) Nature 311:560)。真皮乳頭はまた、毛周期の間に下部毛包が成長(成長期:anagen)、破壊(退行期:catagen)、および休止(休止期:telogen)の周期を進むにつれて(最初はそれと当時に)、上皮幹細胞を活性化させる。これらの幹細胞のニッチ(nitche)は、非周期性の毛包部分の基底にある毛隆起(bulge)と考えられている。休止期間(休止期)に続き、新しい成長期の誘導は真皮乳頭刺激を伴い、1つまたは2つ以上の幹細胞を補充して下部毛包を再生する。
【0015】
3〜6日齢マウスの皮膚をH−チミジンで均一に標識し、4〜8週間チェイスすると、毛隆起は、>95%の標識残留細胞(label-retaining cell)、すなわち周期の頻度の低い細胞が存在する場所としてマークされる(Cotsarelis, et al. (1990) Cell 61:1329; Morris and Potten (1999) J. Invest. Dermatol. 112:470; Taylor, et al. (2000)、上記)。皮膚を次にBrdUでパルスすると、毛隆起由来と考えられる二重標識細胞が毛包内の他の部分に見出される(Taylor, et al. (2000)、上記)。傷ついた皮膚においては、上部外毛根鞘(毛漏斗)から迅速に分裂する一時的に増幅する細胞は、24時間以内に表皮基底層に移動して、損傷した表皮を活性化させる(Taylor, et al. (2000)、上記)。さらに、lacZ発現ラットの切開したウィスカー毛隆起を真皮乳頭と混ぜて移植すると、lacZの子孫を、得られた表皮、毛包および脂腺から検出することができる(Oshima, et al. (2000) Cell 104:223; Kobayashi, et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:7391; Rochat, et al. (1994) Cell 76:1063)。さらに、ラットのウィスカー毛包(whisker follicle)を切開して培養すると、毛隆起が存在する断片からのケラチノサイトが、最大のコロニーを産生する(Oshima, et al. (2000)、上記;Kobayashi, et al. (1993)、上記;Rochat, et al. (1994)、上記)。
【0016】
本発明はここに、成体幹細胞(例えば、皮膚上皮幹細胞)を単離する方法を提供する。成体幹細胞は次の原理、すなわち、幹細胞は一般に、遅延周期性であり、かつ組織特異的プロモーター(例えば、ケラチノサイト特異的プロモーター)がそれに対して活性化する唯一の細胞であるとの原理に基づいて単離される。実例として、毛隆起の標識残留細胞を精製し特徴を明らかにした。これらの幹細胞の転写プロファイルを決定し、毛隆起の上の表皮基底層と上部外毛根鞘における、密接に関連する子孫細胞と比較した。これらの研究により、幹細胞ニッチに存在する遅延周期細胞中で選択的に上方調節される、100を超える新しい遺伝子が明らかにされた。
【0017】
本明細書において、休止(quiescent)細胞または遅延周期細胞という用語の一般的な使用は、特に定義されない限り、複製または自己複製が可能で、種々の細胞種類または細胞系統の特殊化した細胞に発達できる、特殊化していない細胞である幹細胞(例えば、全能性、多能性、二能性、および単能性の細胞)を含むことが意図される。より一般的には、幹細胞とは、分裂時に、1つは元の幹細胞を置き換えるもの、もう1つはさらに分化したものという、異なる娘細胞を産生する細胞である。他の遅延周期細胞は、例えば、幹細胞の密接に関連する子孫(例えば、表皮毛隆起の基底層直上細胞)を含む。
【0018】
遅延周期幹細胞は、組換え技術により標識されて単離を促進することができる。実例として、トランスジェニックマウスを、テトラサイクリン介在性の抑制に対する応答性調節エレメント(TRE)の制御のもとで、安定なヒストンH2B−GFPトランス遺伝子(Kanda, et al. (1998) Curr. Biol. 8:377)を発現するように処置した。続いて、最も厳密に調節されたTRE−mCMV−H2BGFPトランスジェニックマウス20匹を同定し、K5−tetVP16トランス遺伝子を有するマウス(Diamond, et al. (2000) J. Invest. Dermatol. 115:88)と交配して、皮膚上皮に対するtet制御された誘導および抑制を制限した。
【0019】
tetoffH2B−GFP系の有効性を確認するために、妊娠中のダブルトランスジェニック母親のおよびその子の食餌にドキシサイクリン(Tet)を最初に加えた。これらの条件下で、2週間後にTetを止めるまで、TRE−mCMV−H2B−GFPが忠実にかつ定量的に抑制された。対照的に、Tetに暴露されなかったマウスは、皮膚上皮全体で高レベル(バックグラウンドより〜5×10単位高い)のGFP蛍光性を示し、これは幹細胞におけるK5/K14プロモーターの活性と一致していた(Diamond, et al. (2000)、上記;Vasioukhin, et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:8551)。これは、H2B−GFPの高い安定性およびK5プロモーター活性と整合していた。マウスに生後4週目から開始してTetを与えた場合、全体のGFPは3〜4週にわたって低下して、少ない割合のバックスキン(backskin)細胞だけがバックグラウンドより>10単位を超える蛍光性を保持するようになり、これらは毛隆起のみに存在した。GFPが中間レベルである少量の細胞(バックグラウンドより〜10を超える)は表皮に存在し、より長い暴露により、パッチにおけるこれらの位置が明らかにされた(Mackenzie (1997)、上記)。これらが基底層幹細胞を表わすのであれば、これらは毛隆起の標識残留細胞よりも頻繁に分裂する。
【0020】
皮膚切片の蛍光顕微鏡解析により、平均40〜120個の細胞が、他の皮膚上皮細胞より10〜200倍高いH2B−GFPを保持することが示された(Braun, et al. (2003) Development 130:5241も参照のこと)。予想外にも、最も明るい標識残留細胞は、毛包の片側に頻繁にクラスターを作った。これらを考え合わせると、この方法は、既知の特異的細胞表面マーカーなしで、細胞種類に特異的な様式で遅延周期幹細胞を蛍光で標識するという大きな問題を解決する。ケラチノサイト特異的TetoffVP16マウスをこれらの研究に用いたが、さらに意図されるのは、TRE−CMV−H2BGFP動物も用いることができ、これを他のプロモーター/エンハンサー駆動の調節可能なアクチベーター/リプレッサーを発現する任意の類似の動物と交配できることである。
【0021】
以前のヌクレオチドパルス・チェイス実験により、毛隆起の標識残留細胞が、周期の間に新しい毛包の形成に寄与することが示された(Taylor, et al. (2000)、上記)。H2B−GFP標識残留細胞は、標識残留細胞の運命を追跡するためのより感度の高い方法および、標識残留細胞が活性化されている場合にそれら内部の分裂および生化学の同時変化をモニタリングする直接的な方法を可能とした。毛包形成における標識残留細胞の関与をモニタリングするために、4週齢のマウスをTet食餌に切り替えた(チェイス)。4週間のチェイスの後、胴体背面毛包の大部分はまだその第二休止期にあり、標識残留細胞は毛隆起に限定されていた。
【0022】
増殖性核抗原Ki67について陽性の細胞は、脂腺、毛漏斗(上部外毛根鞘)および表皮基底層に限定されていた。4.5週間のチェイスにより、多くの毛包は新しい成長期を開始して、二次毛芽を形成した。上部毛隆起の殆どの細胞は、GFPについて明るくKi67について陰性のままであったが、毛隆起基底のGFPについて明るい細胞は稀にKi67陽性であった。毛隆起内での分裂細胞の不足は、細胞周期のG2/M相を標識するリン酸化ヒストンH3(P−H3)に対する免疫活性によって実証された。有糸分裂中の細胞は稀であるにもかかわらず、毛隆起近傍のものは常に毛隆起と毛芽の間の接合部に位置していた。従って、分裂が毛隆起内で起こる場合、その低い頻度は分裂の検出を困難にした。核のバソヌクリン(basonuclin)に対する抗体はケラチノサイト増殖と関連し(Tseng and Green (1994) J. Cell. Biol. 126:495)、標識残留細胞とそれらの直接の子孫との間のこの遷移ゾーンをさらに区別した。毛隆起マーカーとして前に同定された抗K19(Michel, et al. (1996) J. Cell Sci. 109:1017)もまた、このゾーンの直前で最も明るかった。毛芽が発達するにつれて(初期の成長期II)、ゾーンの下の標識残留細胞の子孫はKi67に強陽性、H2B−GFPについて薄暗く、過剰露光によってのみ視覚可能であった。まとめると、これらの所見は、毛隆起H2B−GFP標識残留細胞の小さなサブセットのみがニッチから出て、出た直後にこれらは迅速に増殖して新しい毛包下方成長を開始し、それらの生化学を変化させることを示す。
【0023】
毛包下方成長と外毛根鞘形成は、後期成長期(9.5週)までに、すなわち内毛根鞘および毛髪形成の活性期までに完了する(Muller-Rover, et al. (2001) J. Invest. Dermatol. 117:3)。この段階において、最も明るいGFP標識細胞は、多くが前の毛周期と同程度の強度を有し、毛隆起内でまだクラスターを形成していた。減少的にGFPについて明るい細胞の跡を、最も外の外毛根鞘層に沿った毛隆起の下に見ることができた。過剰露光により、毛包の下方およそ半分までの勾配(gradient)が明らかにされた。過剰露光の場合であっても、GFP標識細胞が下部外毛根鞘に稀に検出できた。勾配は、毛隆起内での標識保持の非対称性にもかかわらず、外毛根鞘の両側に同程度に分布していた。
【0024】
毛周期を通して、Ki67とH2B−GFPは逆相関を示した。データによれば、毛隆起直下の外毛根鞘内の後期成長期の細胞は、毛隆起を出た後に多くの分裂を経ていない、標識残留細胞子孫の特異な群に相当することが示される。データに最も整合するのは、外毛根鞘を形成するトップダウンモデルのようであり、これによれば、標識残留細胞の子孫は、毛隆起の下の外毛根鞘内での存在を確立し細胞周期から離脱する前に、ただ数回のみ分裂し、一方で外毛根鞘細胞はさらにもっと分裂し、基底近くではこれらは後期成長期を通して増殖状態を保持する。このデータはしかし、次のような代替的可能性、すなわち、後期成長期に毛隆起下の外毛根鞘は、最近発生した標識残留細胞子孫を表しており、該子孫は静止しておらず、むしろ移動する細胞であって、外毛根鞘に沿って移動し、毛包基底において迅速に増殖する毛母細胞に転換されるものである、との可能性を除外するものではない(Oshima, et al. (2000)、前記;Kobayashi, et al. (1993)、前記;Rochat, et al. (1994)、前記)。静止しているか移動するかにかかわらず、頻繁に毛隆起マーカーを発現するこれらの特異な細胞は、迅速に増殖しない近しい毛隆起子孫(bulge descendant)である。
【0025】
毛隆起の標識残留細胞が皮膚の創傷に直接応答することができるかどうかを決定するために、H2B−GFP発現を4週間阻害した8週齢のマウスに傷をつけて、毛隆起を選択的に標識した。小さな貫通した皮膚創傷または表面の擦り傷(scraping)のどちらかに応答して、GFPについて明るい細胞が、毛隆起の外部に、傷の後24〜48時間の間、定常的に検出された。蛍光は標識残留細胞におけるよりいくらか弱く、増殖を示唆した。あるケースにおいては、蛍光は最も明るい標識残留細胞と同程度であった。これらのGFPについて明るい細胞は単純に拡散された毛隆起細胞とは考えられなかったが、その理由は、これらが周囲の毛漏斗に局在していたからである。さらに、抗ラミニン5免疫反応性により、下の基底膜が頻繁に明らかとなり、これらの移動用のプラットフォームを示唆した。毛隆起外部の標識残留細胞は、核の抗junBストレス応答性タンパク質に対して免疫反応性を示した。創傷なしの皮膚においては見られない、かかる明るい核染色は、毛漏斗、表皮および時には毛隆起の活性化細胞内でも生じた。これらのデータは、標識残留細胞が毛漏斗のみでなく表皮の再集団化(repopulation)に寄与することを示唆する、前の研究と整合する(Taylor, et al. (2000)、前記;Oshima, et al. (2000)、前記;Kobayashi, et al. (1993)、前記;Rochat, et al. (1994)、前記)。さらに、これらの観察により、創傷の刺激に応答して、H2B−GFP標識残留細胞はそれらの生化学特性を変化させ、毛隆起を出て移動し増殖することが示される。
【0026】
免疫蛍光顕微鏡検査により、ケラチノサイト特異的H2B−GFP標識残留細胞の存在するゾーンは、毛隆起細胞に豊富に存在する他の既知のマーカーにより規定されるゾーンよりも限定されていたことが明らかとなった。他のマーカーには、K15、インテグリンα6およびβ1、ならびにCD34が含まれる(Jones, et al. (1995) Cell 80:83; Lyle, et al. (1999) Investig. Dermatol. Symp. Proc. 4:296; Tani, et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:10960; Merrill, et al. (2001) Genes Dev. 15:1688; Trempus, et al. (2003) J. Invest. Dermatol. 120:501)。従って、本発明の方法は、ニッチ内にのみ存在する幹細胞を単離し特徴付けるための、ユニークな可能性を提供する。適切な条件を定義した後、8週齢のトランスジェニックマウス(4週間のチェイス)の皮膚から得た単個細胞浮遊液に対して、続いて蛍光活性化細胞分類(FACS)解析を行った。殆どの細胞はGFP陰性であった;集団の12%は、バックグラウンドの10〜10倍の蛍光を示した;1〜2%は、10〜10倍の蛍光を示した。
【0027】
10〜10倍(GFPhigh)および10倍(GFPlow)でゲートした集団は、ヨウ化プロピジウムを除外し、外毛根鞘および基底層表皮細胞に典型的なβ4、β1およびα6の表面発現を示した。しかし、GFPhigh細胞には毛隆起細胞選好マーカーCD34が豊富であり(Ramalho-Santos et a. Science 298:597)、一方、GFPlow細胞は、毛隆起細胞により下方制御されるマーカーであるCD71をより多く有していた(Tani eta l. (2000)、上記)。半定量的蛍光顕微鏡検査は、GFPhigh細胞が毛隆起内のものと同等の蛍光強度を共有していることを示したが、一方、GFPlow蛍光性は、これらをニッチの外側に配置させた。
【0028】
GFPhighおよびGFPlow細胞は表皮/外毛根鞘ケラチン5、14および15を発現したが(Fuchs and Raghavan (2002)、上記; Lyle, et al. (1999)、上記)、分化マーカーK1は発現しなかった(Fuchs and Raghavan (2002)、上記)。4つの異なるマーカー(n=200〜800細胞/マーカー)のサイトスピン免疫蛍光分析によって判定されるように、これらの集団はそれぞれ>90%均一であった。表面β4発現に基づくFACS分類でもまた、K5陽性細胞の均一に近い集団だが、GFPlow細胞より大幅に蛍光が低下したものが同定された。これは予想されたことであり、何故ならば、β4陽性断片は基底レベルの表皮および外毛根鞘の大部分を包含するが、GFPlow細胞はこの集団の部分集団にすぎないからである。半定量逆転写PCRにより、これらの集団の性質がさらに特徴付けられた。
【0029】
細胞周期プロファイルにより、GFPhigh細胞の0.5%のみがG2/M中にあることが明らかとなった;一方で、解析された他の集団が、G2/M中に6倍および14倍も多い細胞を示した。これらを合わせると、これらのデータから、GFPhigh細胞は、そのニッチから直接単離された、休止期の幹細胞(標識残留細胞)の均一な群として定義された。2つの子孫集団は、主に外毛根鞘細胞および基底層表皮細胞、すなわち、幹細胞に最も類似した子孫を表した。
マイクロアレイ解析により、毛隆起幹細胞および2つの子孫集団の転写プロファイルを明らかにした(10細胞/サンプル、デュプリケート;AFFYMETRIX MG-U74Av2チップ)。AFFYMETRIXソフトウェア(MAS5.0)をハイブリダイゼーションから集めた生の画像ファイルの解析に用い、高厳密性解析によりこれらの集団の際立った特徴を明らかにした。
【0030】
12,000個のmRNAのうち約4800個が、各集団中に存在するとして記録された。造血、胚性および神経組織からの類似のAFFYMETRIX幹細胞データベース(Ramlho-Santos, et al. (2002) Science 298:597; Ivanova, et al. (2002) Science 298:601)と比較すると、372(8%)の転写物のみが、毛隆起標識残留細胞に特異的であると記録された。このmRNAプールは、ケラチノサイトマーカーに富んでいた。一方、毛隆起標識残留細胞mRNAの68%が、他の幹細胞と共有されていた。これらの多くがハウスキーピングタンパク質をコードしたが、皮膚の標識残留細胞内で特異的にその密接に関連する子孫に対して上方制御されたmRNAの〜40%もまた、他の幹細胞の中で共有されていた(154の全mRNA中、〜60)。
【0031】
β1、α6、Tcf3およびCD34を含む、既知の毛隆起選好マーカーをコードする幾つかの標識残留細胞mRNAもまた、他の幾つかの幹細胞中に存在する(Jones, et al. (1995)、上記;Lyle, et al. (1999)、上記;Tani, et al. (2000)、上記;Merrill, et al. (2001)、上記;Trempus, et al. (2003)、上記)。その他の標識残留細胞転写物は、他の幹細胞中にのみ観察され、皮膚には観察されなかった。これらには、幹細胞因子(キットリガンド)、Dab2、エフリンチロシンキナーゼ受容体(Ephs)、テネイシンC(Tnc)、IL−11受容体、Id結合タンパク質2(Idb2)、four-and-a-half limドメイン(Fhl1)、増殖阻害特異的(Gas)タンパク質およびBmi−1が含まれた(Sette, et al. (2000) Int. J. Dev. Biol. 44:599; Garcion, et al. (2001) Development 128:2485; Hocevar, et al. (2003) EMBO J. 22:3084; Park, et al. (2003) Nature 423:302; Lessard and Sauvageau (2003) Nature 423:255)。これらmRNAの多くは、皮膚の標識残留細胞内で、それらの近い子孫に比べて2倍〜10倍に上方調節された。表1はこれらの実験結果の概要である。
【0032】
【表1】

存在(P)または増加倍数は括弧内に記載。公開された幹細胞データベース(Ramalho-Santos, et al. (2002)、上記)およびリスト(Ivanova, et al. (2002)、上記)も解析に用いた。
は、最終分化した子孫(Ivanova, et al. (2002)、上記)と比較して造血幹細胞で増加したmRNAを表す。
【0033】
完全な検証は本研究の範囲を超えるが、多くのmRNAが、半定量的PCRにより、そして可能な場合には単特異的抗体を用いた免疫蛍光法により、確認された。
他の幹細胞データベースと比較して、標識残留細胞にさらに特異的な因子は、与えられた時間における、皮膚幹細胞ニッチの状態を単純に反映するものである可能性がある。予想外なことには、遺伝子の小さな断片のみが、皮膚標識残留細胞によって、その特別な皮膚環境に対応するために選択的に用いられたように見える。皮膚幹細胞を密接に関連する比較的未分化の子孫と比較することにより、全組織/器官または分化細胞のどちらかと以前に比較がなされた他の幹細胞データベースと重複する、特定の遺伝子サブセットが同定された(Ramlho-Santos, et al. (2002)、上記;Ivanova, et al. (2002)、上記)。この推定幹細胞因子のサブセットは、幹細胞の維持および/または活性化に関与する可能性がある。かかる因子には、細胞増殖および生存の調節に関与するもの、増殖因子、ホルモンおよび細胞外基質を検知し応答することのできるもの、および、転写状態をリモデルすることのできるものが含まれる。合わせると、これらの所見は、毛隆起標識残留細胞と他の幹細胞集団の間の関連に新しい洞察を提供する。
【0034】
細胞種類特異的な様式における、新規で幅広い、蛍光標識遅延周期細胞の適用方法が示された。本明細書に実例で示されるように、この方法は、皮膚の遅延周期細胞を精製し特徴付けるため、および幹細胞ニッチを標識するために用いられた。これらの遅延周期細胞の移動および近隣の細胞との相互作用をモニタリングして、皮膚幹細胞がそれらのニッチ内では殆ど分裂せず、刺激されるとそこから出て、出るとその特性を変化させることが見出された。さらに、単離された幹細胞の転写プロファイルを決定し、そして、密接に関連する子孫および他の幹細胞と比較した場合に、幹細胞ニッチのユニークな特徴を定義した。従って、本発明の方法の1つの利点は、幹細胞(例えば、毛隆起標識残留細胞)のみでなく、密接に関連する子孫のプールまでを、単離および特徴付ける能力である。
【0035】
従って、本発明は、組織特異的または系統特異的な遅延周期細胞を単離する方法であって、遅延周期細胞中に限定はしないがその中で活性化されているプロモーターに動作可能に結合する調節可能転写因子をコードする核酸配列を、細胞または組織中に導入すること、および、前記調節可能転写因子が結合する調節されたプロモーターに動作可能に結合する、好ましくは蛍光で長命の安定なレポーターをコードする核酸配列を、前記細胞または組織中にさらに導入して、レポータータンパク質の発現を厳密に制御することの、最初のステップを含む、前記方法である。調節可能転写因子を初めに活性化させることにより、蛍光で長命のレポータータンパク質が、転写因子のプロモーターが活性化されている全ての細胞に蓄積される。続いて調節可能転写因子を不活性化させることにより、レポータータンパク質の発現が減少する。細胞が複数の細胞周期を進行するに従って、レポータータンパク質の量が希釈されてレポータータンパク質が娘細胞に分割される。最も高レベルのレポータータンパク質を含む細胞は、これらの細胞が遅延周期細胞集団の細胞であることを示す。
【0036】
本発明のこの方法に従って、調節可能転写因子に動作可能に結合したプロモーターが、該遅延周期細胞中に限定はしないがその中で活性化される(すなわち、転写物を産生する能力を有する)。ある状況、例えば本明細書で皮膚について開示された場合においては、プロモーターは組織特異的プロモーターであることができる。調節可能転写因子は、レポーターをコードする核酸配列に動作可能に結合する調節されたプロモーターに、結合する能力を有さねばならない。レポーター遺伝子発現を制御する転写因子の能力は、テトラサイクリン調節可能転写因子によって例示されるように、厳密に調節されねばならない。本明細書において、調節可能転写因子もしくはレポーターをコードする核酸配列に動作可能に関連する、または動作可能に結合するプロモーターとは、配列が、転写を許容するような方法で、結合され配置されていることを意味する。2つまたは3つ以上の配列、例えばプロモーターおよび任意の他の核酸配列は、プロモーターにおいて開始される転写が、目的とする動作可能に関連する配列のRNA転写物を産生する場合に、動作可能に関連している。
【0037】
一般に、プロモーターは、それ自体は転写されないが少なくとも部分的に転写のための転写装置を配置するように働く最小のプロモーター配列の、核酸配列を包含する。最小プロモーター配列は、5’から3’方向(すなわち、プロモーターは転写配列の上流に位置する)における転写配列に結合して、隣接ヌクレオチド配列を形成する。かかる最小プロモーターの活性は、特定の転写アクチベーターまたはリプレッサーの、動作可能に結合する1つまたは2つ以上の調節配列もしくはエレメントへの結合に依存する。最小プロモーターの例は、ヒトサイトメガロウィルス(CMV;Boshart, et al. (1985) Cell 41:521-530)からのものである。好ましくは、約+75〜−53および+75〜−31のヌクレオチド位置を用いる。他の好適な最小プロモーターは当分野で知られているか、または標準の技法により同定可能である。例えば、隣接して結合したレポーター遺伝子の転写を活性化する機能性最小プロモーター(例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、またはルシフェラーゼ)は、プロモーターがそれだけでレポーター遺伝子の発現をもはや活性化せず、むしろ付加的な調節配列(複数を含む)を必要とするようになるまで、上流配列を前進的に取り除くことにより、同定することができる。
【0038】
プロモーターはさらに、最小プロモーター配列の上流に位置する、少なくとも1つの調節配列またはエレメントを包含する。転写アクチベーターまたはリプレッサーは、一般に調節配列に結合し、目的核酸配列の発現を、時間的、空間的、組織、または刺激特異的に制御する。典型的な構成において、調節配列(複数を含む)は、最小プロモーター配列の上流(すなわち、5’)に、好適な距離をおいて動作可能に結合され、調節可能転写因子の調節配列への結合により、目的の核酸配列を刺激または抑制する。すなわち、転写ユニットは、5’から3’方向において、調節配列(複数を含む)→ 最小プロモーター → 転写ヌクレオチド配列から構成される。調節配列(複数を含む)と最小プロモーターの間の許容可能な距離にはいくらかの柔軟性があるが、典型的には、調節配列は最小プロモーターの約200〜400塩基対上流に位置することが、当業者には理解される。
【0039】
本発明の方法において用いるプロモーターは、単一の遺伝子から単離された1つの隣接配列であることができ、または、2つの源からのプロモーターの融合であってもよい。例えば、調節されたプロモーターは、1つの源(例えば、CMV)からの最小プロモーターおよび他の源(例えばtet応答性エレメント)からの調節配列を含むことができる。
【0040】
組織特異的または系統特異的プロモーターとは、調節可能転写因子の発現を、組織特異的または系統特異的な様式で、すなわち、調節可能転写因子の発現を特定の組織または系統細胞種類に限定して、制御するものである。用いることができるプロモーターの例には、限定はされないが、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkert, et al. (1987) Genes Dev. 1:268-277)、リンパ特異的プロモーター(Calame and Eaton (1988) Adv. Immunol. 43:235-275)、T細胞受容体のプロモーター(Winoto and Baltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)、および免疫グロブリン(Banerji, et al. (1983) Cell 33:729-740; Queen and Baltimore (1983) Cell 33:741-748)、神経特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター;Byrne and Ruddle (1989) Proc. Natl. Acad. Sci USA 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund, et al. (1985) Science 230:912-916)、乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号;EP 264,166)、および、以下の遺伝子、例えばDlx(Porteus, et al. (1991) Neuron 7:221-229)、Nlx(Price, et al. (1991) Nature 351:748-751)、Emx(Simeone, et al. (1992) EMBO J. 11:2541-2550)、Wnt(Roelink and Nuse (1991) Genes Dev. 5:381-388)、En(McMahon, et al. (1992) Cell 69:581-595)、Hox(Chisaka and Capecchi (1991) Nature 350:473-479; Lufkin, et al. (1991) Cell 66:1105-1119)、アセチルコリン受容体β鎖(Otl, et al. (1994) J. Cell. Biochem. Supplement 18A:177)、Otx(Simeone, et al. (1992) Nature 358:687-690; Otl, et al. (1994)、上記)などの遺伝子からの調節領域、などが含まれる。
【0041】
調節されたプロモーターの発現を制御するための調節可能転写因子(すなわち、転写アクチベーターまたはリプレッサー)は、好ましくは、調節エレメントに結合するためのその活性または能力が外因性分子の投与に依存する、タンパク質である。好ましくは、調節タンパク質は、調節されたプロモーターに動作可能に結合する目的核酸配列(例えば、レポーター)の発現を、厳密に調節する。厳密な調節とは、目的核酸配列の基礎(basal)発現が非常に低く、高いレベルに誘導的であることを意味する。誘導はプラス効果(外因性分子を、取り除くよりも付加すること)であることができ、哺乳類細胞において限定された多面発現効果を有するべきである。さらに、調節タンパク質(複数を含む)は外因性遺伝子発現に効果を有するべきでなく、潜在的な免疫原性を最小化するために、理想的には宿主細胞から単離された核酸配列によりコードされるべきである。
【0042】
例示の調節可能転写因子およびそれらの同族プロモーター調節配列またはエレメントには、限定はされないが以下により調節されるものが含まれる:抗生物質テトラサイクリン(Tet)(Gossen and Bujard (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551; Gossen, et al. (1995) Science 268:1766-1769);昆虫ステロイドエクジソンまたはその類似体(No, et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:3346-3351);抗プロゲスチンミフェプリストン(RU486)(Wang, et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:8180-8184);および化学的「二量体化剤(dimerizer)」、例えば免疫抑制剤ラパマイシンおよびその類似体(Rivera, et al. (1996) Nature Med. 2:1028-1032; Ho, et al. (1996) Nature 382:822-826; Amara, et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:10618-10723; Magari, et al. (1997) J. Clin. Invest. 100:2865-2872)。かかる調節系は、プロモーターが駆動する目的核酸配列の発現に対する、転写活性化ドメインの薬剤依存的な動員(recruitment)が関与するが、しかし、動員の機構において異なる(概説としては、Clackson (1997) Curr. Opin. Chem. Biol. 1:210-218を参照のこと)。
【0043】
一般に、Tet調節タンパク質は、異種転写活性化ドメイン(AD)に融合した大腸菌Tetリプレッサー(TetR)の、天然のTet制御DNA結合ドメイン(DBD)、通常はヘルペスウィルスVP16を包含する。最小プロモーターに動作可能に結合する核酸配列および上流TetR結合配列(すなわち、Tetオペレータのコンカテマーからなる、テトラサイクリン応答性プロモーターエレメント)の転写は、次に、Tetまたはそれらの類似体、例えばドキシサイクリンによって制御することができる。Tet−offシステムにおいて(Gossen and Bujard (1995)、上記)、Tet調節タンパク質は、テトラサイクリン応答性プロモーターエレメントに結合し、標的核酸配列の転写をテトラサイクリンまたはドキシサイクリンの不在のもとで活性化する。Tet−onシステムにおいて(Gossen and Bujard (1995)、上記)、調節タンパク質は逆テトラサイクリン制御転写活性化因子(reverse tetracycline-controlled transactivator)であり、これはtetRのDNA結合部分に4個のアミノ酸変化を含み、これによって調節タンパク質の結合特性を、例えば、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンの存在下で、テトラサイクリン応答性プロモーターエレメントのtetオペレータ配列のみを認識するように、変化させる。
【0044】
同様の原理がエクジソン(Ec)系の基礎にもあり、ここでは、ショウジョウバエEc受容体からの天然のEc依存性DBDが、VP16に結合する;このタンパク質は、他のステロイド受容体(RXR)と共に同時発現されて、Ec活性化転写を得る(No, et al. (1996)、上記)。ミフェプリストン系においては、薬剤調節性転写は、異種DBD(イーストGAL4)およびAD(VP16)タンパク質を、外因性ホルモンには影響されないが、合成抗プロゲスチン(Wang, et al. (1994)、上記)によって活性化される、変異ヒトプロゲステロン受容体に融合させることにより達成される。このような以前の系がアロステリックな制御に頼っている一方で、二量体化剤が制御する転写は、誘起近接の原理(principle of induced proximity)を用いる(Clackson (1997)、上記;Spencer (1996) Trends Genet. 12:181-187)。二量体化剤の系において、異種DBDおよびADはそれぞれ薬剤結合ドメインに融合することにより、転写を、2つのタンパク質を架橋して活性な転写因子を再構築できる二価の薬剤に依存的にする。ホモ二量体型薬剤を用いることができるが(Ho, et al. (1996)、上記;Amara, et al. (1997)、上記)、しかし、例えばラパマイシン(Rivera, et al. (1996)、上記)などの、ヒトタンパク質FKBPおよびFRAPに結合するヘテロ二量体化剤もまた用いることができる。この場合、ZFHD112と呼ばれるヒトキメラDBDがFKBPに結合し、ヒトNF−κB p65 ADがFRAPに融合する。ラパマイシンの添加は、2つの融合タンパク質を二量体化し、ZFHD1結合部位の下流の遺伝子の転写を活性化する。ラパマイシンそれ自体は免疫抑制的であるため、非免疫抑制的類似体(「ラパローグ(rapalog)」)を、改変薬剤に適合する突然変異(複数を含む)を有するFRAPドメインと組み合わせて用いることができる(Liberles, et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:7825-7830)。二量体化系の転写因子の2つの構成要素をコードする核酸配列は、宿主細胞の別々の発現ベクターまたは同一のベクター上に、連続してまたは同時に導入可能であることが意図される(Pollock, et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97 (24):13221-6)。
【0045】
組織特異的遅延周期細胞の検出および単離のために、調節されたプロモーターを、レポーターをコードする核酸配列に動作可能に結合する。レポーターとは、宿主細胞中に存在する他の配列から検出可能または識別可能な、任意の配列を意味する。レポーター核酸配列は、その存在により、または検出可能なシグナルの生成をもたらすその活性により容易に検出可能な、長命で安定なタンパク質(例えば、プロテアーゼ耐性または複数の細胞周期を通して残っているもの)をコードするのが好ましい。レポーターをコードする核酸配列は、本発明において、組織特異的遅延周期細胞の同定および単離のために用いられる。レポーターが本質的に長命でない場合には、レポーターは、細胞中の安定性を増加させる他のタンパク質と融合させることができる。レポーターの安定性を強化するための好適な融合は、限定はされないが、ヒストン2Bレポーター融合(Kanda, et al. (1998) Curr. Biol. 8:377)またはアフィボディ免疫複合体(affibody immunoconjugate)(Ronnmark, et al. (2003) J. Immunol. Methods 281(1-2):149-60)を含む。
【0046】
種々の酵素が、長命であるように改変できる場合には、レポーターとして用いることが意図される。かかるレポーターには、限定はされないが、βガラクトシダーゼ(Nolan, et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2603-2607)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT;Gorman, et al. (1982) Mol. Cell Biol. 2:1044; Prost, et al. (1986) Gene 45:107-111)、βラクタマーゼ、βグルクロニダーゼおよびアルカリホスファターゼ(Berger, et al. (1988) Gene 66:1-10; Cullen, et al. (1992) Meth. Enzymol. 216:362-368)が含まれる。レポーターをコードする核酸配列の転写は、宿主細胞中で酵素の産生を導く。存在する酵素の量は、検出可能な反応生成物の形成をもたらす、基質上でのその酵素作用を介して測定することができる。本発明の方法は、反応生成物の量を決定する方法を提供し、ここで、産生された反応生成物の量または基質の残留量は、酵素活性の量に関連する。βガラクトシダーゼ、βグルクロニダーゼおよびβラクタマーゼなどのある酵素については、酵素が基質を検出可能な蛍光生成物に転換することを許容する、よく知られた蛍光発生基質が利用可能である。
【0047】
種々の、生物発光、化学発光、および蛍光タンパク質は、発光レポーターとしてより好ましく、なぜならば、これらはまた、FACS解析につなげることができて、遅延周期細胞の単離を促進するからである。発光レポーターの例としては、これらは酵素であって発光するための共因子(複数を含む)を必要し、Vibrio harveyiの細菌性ルシフェラーゼ(Karp (1989) Biochim. Biophys. Acta 1007:84-90; Stewart, et al. (1992) J. Gen. Microbiol. 138:1289-1300)、およびホタル、Photinus pyralisからのルシフェラーゼ(De Wet, et al. (1987) Mol. Cell. Biol. 7:725-737)、を含むがこれらに限定はされない。これらのレポータータンパク質の場合、レポータータンパク質の安定性を強化するために、融合タンパク質を産生することが好ましい。
【0048】
特定の態様において、本発明の方法に従って用いられるレポーターは発光レポーターであって、基質または共因子が不要のものであり、これには限定することなく、Victoria aequoriaの野生型緑色蛍光タンパク質(GFP)(Chalfie, et al. (1994) Science 263:802-805)、修飾GFP(Heim, et al. (1995) Nature 373:663-4; WO 96/23810)、およびPhotorhabdus liminescensのluxオペロンによりコードされる遺伝子産物(Francis, et al. (2000) Infect. Immun. 68(6):3594-600)が含まれる。かかるレポーターに対しては、レポータータンパク質の、ヒストン2Bまたはアフィボディ複合体などの高度に安定なタンパク質への融合が望ましい場合もある。ヒストンが理想的であり、なぜならば、非周期性の細胞内でクロマチンに包まれているため、時間がたっても非常に安定だからである。得られた長命で安定なレポーターの転写および翻訳は、試験細胞内で蛍光タンパク質または生物発光タンパク質の蓄積をもたらし、これは、蛍光定量計(fluorimeter)、フローサイトメーター、またはルミノメーターなどの装置により計測することができる。蛍光材料のアッセイを実施する方法は、当分野によく知られている(例えば、Lackowicz (1983)のPrinciples of Fluorescence Spectroscopy, New York, Plenum Press)。
【0049】
レポーターをコードする核酸配列を含み、レポーターをコードする核酸配列の産物を発現する宿主細胞は、少なくとも4つの一般的なアプローチにより同定可能である:DNA−DNAまたはDNA−RNAハイブリダイゼーションを検出すること;マーカー遺伝子機能(例えば、抗生物質に対する耐性)の有無を観察すること;宿主細胞中のレポーターmRNA転写物の発現により計測される転写レベルを評価すること;およびレポーター遺伝子産物を、免疫アッセイまたはその生物学的活性を測定することにより、検出すること。
【0050】
本発明の方法に従って用いる核酸配列(すなわち、目的とする遅延周期細胞中に限定はしないがその中で活性化されているプロモーターに動作可能に結合する調節可能転写因子をコードする核酸配列、および、調節されたプロモーターに動作可能に結合するレポーターをコードする核酸配列)は、宿主細胞中に、裸のDNAとして、またはよく知られた発現ベクターを用いて、導入することができる。発現ベクターはプラスミドであってよい。代替的に発現ベクターは、ウィルスベクター中に導入された核酸の発現を許容するウィルスまたはその一部であってもよい。例えば、複製欠損レトロウィルス、アデノウィルスおよびアデノ随伴ウィルスを用いることができる。組換えレトロウィルスを産生するための、並びにin vitroおよびin vivoで細胞をかかるウィルスに感染させるためのプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, et al. (eds.) Greene Publishing Associates (1989)の9.10〜9.14節および他の標準実験室マニュアルに見出すことができる。好適なレトロウィルスの例には、当業者に知られた、pLJ、pZIP、pWEおよびpEMが含まれる。好適なパッケージングウィルス株には、ψCrip、ψCre、ψ2およびψAmが含まれる。アデノウィルスのゲノムは、本発明の核酸配列をコードし発現するが、正常な溶解ウィルス寿命サイクル(lytic viral life cycle)での複製能力については不活性であるように、操作可能である(Berkner, et al. (1988) BioTechniques 6:616; Rosenfeld, et al. (1991) Science 252:431-434; Rosenfeld, et al. (1992) Cell 68:143-155)。アデノウィルス株Ad5型 dl324または他のアデノウィルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)由来の好適なアデノウィルスベクターは、当業者に知られている。アデノウィルスベクターのin vivoでの使用は、Flotte, et al. ((1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10613-1-617)およびKaplitt, et al. ((1994) Nature Genet. 8:148-153)に記載されている。他のウィルスベクター、例えばトガウィルス、アルファウィルス、またはワクシニアウィルスに基づくものなども用いることができる。代替的に、アデノ随伴ウィルスベクター、例えばXu, et al. ((2001) Gene Ther. 8(17):1323-32)により開示されたものを、本発明の核酸配列を発現するために用いることができる。
【0051】
本発明の核酸配列は、宿主細胞のゲノム中に安定に発現されまたは導入される一方で、随意的に自殺ベクター中に含むことができ、該自殺ベクターとは、単離されたDNA分子より長く存在することができるが、しかし宿主細胞中で永遠に残留することはできないものである。かかるベクターは、該ベクターを有する細胞(例えば、レポーターを発現する細胞)をスクリーニングまたは選択するのに十分な時間、核酸配列を一時的に発現することができるが、しかしこれは続いて分解されるか、あるいは核酸配列を発現できなくされる。かかるベクターは、欠陥のある複製起点(例えば、温度感受性のある複製起点)を組み込むことにより、または、複製起点を除外することにより、自殺的にすることができる。目標がベクターの長期間の維持と目的遺伝子の発現である、遺伝子治療のアプローチとは異なり、本発明に従って用いるベクターは不安定であってよく、遅延周期細胞として一旦単離された後は、宿主細胞から失われることが望ましい。不安定なベクターの使用が有利であるのは、一旦単離されると、遅延周期細胞が組換えベクターを含まないからである。発現ベクターは、細胞を形質転換する標準の技法により宿主細胞中に導入することができる。形質転換またはトランスフェクションには、核酸を宿主細胞に導入するための全ての従来の技術を包含することが意図され、これには、リン酸カルシウム共沈法、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ポリエチレングリコール媒介形質転換、ウィルス感染、細胞融合、および衝撃照射(ballistic bombardment)が含まれる。宿主細胞を形質転換する好適な方法は、Sambrook, et al. (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))および他の実験室マニュアルに見出すことができる。
【0052】
発現ベクターを用いて形質転換された宿主細胞の数は、少なくとも部分的に、用いた発現ベクターの種類および用いた形質転換技術の種類に依存する。核酸は宿主細胞に一時的に導入することができ、または、遺伝子発現を長期間調節するために、核酸は宿主細胞のゲノムに安定に結合されるか、もしくは宿主細胞中に安定なエピソームとして残留する。哺乳類細胞中に導入されたプラスミドベクターは、一般的には宿主細胞DNAに低い頻度でのみ結合される。これらの結合体を同定するために、選択可能なマーカー(例えば、薬剤耐性)を含む遺伝子を一般に目的核酸と共に宿主細胞に導入する。本明細書で用いる選択可能なマーカーは、例えばG418およびヒグロマイシンなどのある薬剤に対する耐性を授与するものを含む。選択可能なマーカーは、目的核酸とは異なるプラスミド上、または同じプラスミド上に導入することができる。本発明の核酸をトランスフェクトされた宿主細胞(例えば、組換え発現ベクター)および選択可能なマーカー用の遺伝子は、選択可能なマーカーを用いて細胞を選択することにより、同定可能である。例えば、選択可能なマーカーがネオマイシン耐性を授与する遺伝子をコードする場合、核酸を取り込んだ宿主細胞は、G418耐性により選択することができる。選択可能なマーカー遺伝子を組み込んだ細胞は生存し、一方で他の細胞は死滅する。
【0053】
本発明のこの方法において、調節されたプロモーターに動作可能に結合するレポーターの発現は、転写調節タンパク質により制御される。従って、調節タンパク質および標的の調節されたプロモーター/レポーター融合は、両方とも、宿主細胞中または生物中に存在しなければならない。調節タンパク質および標的の調節されたプロモーター/レポーター両方が、同じ宿主細胞または生物中に存在することは、多くの異なる方法によって達成可能である。2つの構成要素を、2つの別々の分子として(例えば、2つの異なる発現ベクター上に)、細胞に導入することができる。この場合、宿主細胞は、2つのベクターによって共に形質転換されるか、または最初に1つの発現ベクターによって、続いて他の発現ベクターによって形質転換される。代替的に、2つの構成要素をコードする核酸配列を同じ分子(例えば1つのベクター)中で結合することができる(すなわち、共線状)。この場合、宿主細胞は1つの核酸分子を用いて形質転換される。
【0054】
宿主細胞は、in vitroで培養された細胞、またはin vivoに存在する細胞であってよい。宿主細胞はさらに、受精卵母細胞、胚性幹細胞、または非ヒト遺伝子組換え体の生成に用いる任意の他の胚性細胞であってよい。例えば、本発明の核酸配列を、受精卵母細胞の雄性前核に、例えばマイクロインジェクションを用いて導入することにより、そして、該卵母細胞を擬妊娠雌里親動物に発生させることにより、非ヒトトランスジェニック動物モデルを作製することができる。特にマウスなどの動物のトランスジェニック動物を作製する方法は、当分野で慣用となっており、例えば、米国特許第4,736,866号および第4,870,009号に記載されている。本発明の方法に従って用いることができる好適なマウス株は、限定はされないが、CD1マウス、BALB/cマウス、その他を含む。
【0055】
本明細書に開示された核酸配列を発現する、非ヒトトランスジェニック動物の他の種(例えば、ラット、ウシ、ブタ等)の作製もまた、当分野に知られた方法を用いて意図される。調節タンパク質および標的の調節されたプロモーター/レポーター融合体の両方を含むトランスジェニック動物は、両方の構成要素を同じ細胞に胚形成期において導入することにより作製でき、より好ましくは、1つの構成要素をコードする核酸配列をそのゲノムに有する動物を、第二の構成要素をコードする核酸配列を有する動物と交配することにより作製できる。1つの態様において、調節可能転写因子が結合する調節されたプロモーターに動作可能に結合するレポータータンパク質をコードする核酸配列をそのゲノムに含む、第1の動物モデルを、遅延周期細胞中で活性化されるプロモーターに動作可能に結合する調節可能転写因子をコードする核酸配列をそのゲノムに含む、第2のトランスジェニック動物と交配する。
【0056】
細胞培養物、組織またはトランスジェニック動物が、組織特異的プロモーターに動作可能に結合する調節可能転写因子をコードする核酸配列と、調節されたプロモーターに動作可能に結合するレポーターをコードする核酸配列の両方を含むことが同定されると、組織特異的遅延周期細胞を同定し単離するプロセスが開始される。本発明の方法のこのステップにおいて、調節タンパク質は、外因性刺激を細胞または生物に与えることにより活性化することができる。外因性刺激には、限定なく、Tet−onシステムにおけるテトラサイクリン、エクジソン、ミフェプリストン、ラパマイシン、またはこれらの類似体が含まれ、これについては上記で考察された。代替的に、調節タンパク質は、外因性刺激の存在なしで(例えば、Tet−offシステムにおいて)既に活性化することもできる。活性化されると、調節タンパク質は調節されたプロモーターからの発現を刺激して、レポータータンパク質を蓄積する(すなわち、パルスステップ)。レポータータンパク質の蓄積を検出し定量する方法は、本明細書に開示されている。この蓄積に要する時間は、選択された発現ベクター、調節されたプロモーターからの発現レベル、組織特異的プロモーターからの発現レベル、およびレポータータンパク質の安定性を含む、多くの要因に依存する可能性がある。
【0057】
本発明のこの方法の次のステップにおいて、調節タンパク質は一般に外因性刺激(例えば、Tet−onにおいては、エクジソン、ミフェプリストン、および二量体化システム)を取り除くことにより、または、エフェクター分子(例えば、Tet−offシステムにおけるテトラサクリン)を添加することにより、不活性化される。不活性化されると、レポーターの発現は阻害または低減される。
【0058】
続いて、1または2以上の細胞周期を進行するのに十分な時間、細胞をインキュベートして(すなわち、チェイスして)、これによって活発に分裂する細胞中でレポーターの希釈を許容する。一般に、2より多い細胞周期が許容され、幹細胞の場合には、最終分化のパス上で娘細胞が複数回分裂することになる。1または2以上の細胞周期を許容するのに十分な時間は、細胞種類および種に依存する。一般に哺乳類細胞は、約12時間〜数日間の倍増時間を有する。従って、インキュベーション時間は2日〜2ヶ月の範囲であり得る。この方法により、活発に分裂する細胞が、遅延周期細胞から、細胞に存在するレポータータンパク質の量に応じて分化されることができる(すなわち、活発に分裂する細胞は、遅延周期細胞に比べて、その中に存在するレポータータンパク質が少ない)。
【0059】
細胞に存在するレポータータンパク質の量を検出するために、組織培養、器官培養、またはトランスジェニック動物から切除された目的組織からの細胞を単離して、レポーター活性を測定する。レポーター活性は、フローサイトメトリ、レーザー共焦点顕微鏡法、蛍光分光光度計、蛍光顕微鏡法、免疫細胞化学法、ウェスタンブロット法、ELISA、蛍光スキャナー、電子顕微鏡法などの方法を用いて測定することができる。レポーター活性は次に、細胞中に存在するレポーターの量と相関される。
【0060】
続いて、または同時に(例えば、蛍光活性化細胞分類を用いる場合)、細胞を、各細胞に存在するレポータータンパク質の量に基づいて分類する。この分類ステップは、一般にFACS、ハイドローリックもしくはレーザー・キャプチャ・マイクロダイセクションなどの分類方法を、レーザー共焦点顕微鏡法または蛍光顕微鏡法と組み合わせて用いて実施する。同じ組織または培養物から単離された他の細胞と比べて、増加したレベルのレポーターを含む細胞は、組織特異的遅延周期細胞と考えられる。
【0061】
毛隆起幹細胞のため(例えば、β1、α6インテグリン、Tcf3、CD34、キットリガンド、Dab2、Ephs、Tnc、IL−11受容体、Idb2、Fhl1、Gas、およびBmi−1)、および他の幹細胞のための例示のマーカーが確立されており、これらのマーカーの2つ(すなわち、CD34およびα6インテグリン)を、自己複製で多能性の、野生型成体幹細胞を単離するために用いた。従って本発明はまた、自己複製で多能性の遅延周期細胞を、CD34の存在および選択された幹細胞マーカーの発現レベルに基づいて単離する方法に関する。実例として、標識残留細胞と、その周囲基底層との間の関係を、テトラサイクリンを1月齢から開始して5週間与えた成長期のK5−VP16Tetoff/TRE−H2B−GFPトランスジェニックマウスからの皮膚の厚さ40μm凍結切片について3次元解析を行って評価した。このとき、毛隆起細胞の核のみが高濃度のH2B−GFPを保持する。切片を、α6インテグリン、すなわち基底層への付着を媒介するヘミデスモソームの構成要素(Martin, et al. (2002)、上記;Watt (2002)、上記)に対する抗体で逆標識すると、多くの毛隆起標識残留細胞がこの基質に接触したにもかかわらず、他はどの画像面でも基底層直上に存在することが明らかであった。これは新しい毛包が現れる毛隆起の側で最も顕著であった。
【0062】
CD34、すなわち造血幹細胞および皮膚上皮幹細胞の両方の確立されたマーカー(Ramolho-Santos, et al. (2002) Science 298:597-600; Ivanova, et al. (2002) Science 298:601-604)に対する抗体を用いて、基底および基底層直上毛隆起細胞を染色した。典型的な基底層マーカーK14およびK14プロモーター駆動GFPアクチントランス遺伝子に対する抗体でも両集団を標識したが、基底層直上細胞はより明るさが低かった。他の典型的基底ケラチン、K5の発現は、両方の区画で強かった。対照的に、残留毛幹を囲む随伴層は、K14およびK5に陰性であったが、典型的な基底層直上ケラチンK6には強陽性であった。
【0063】
最初の休止期の終わり(20日)に、毛包ニッチは対称性を有し、CD34陽性基底細胞の単層からなっていた。成長期が始まると(〜22日)、基底層直上区画が毛隆起と同時に現れた。一旦形成されると、両方の区画はこの期および続く毛周期を通して維持された。
【0064】
CD34陽性毛隆起標識残留細胞をさらに特徴付けるために、皮膚の単個細胞浮遊液に、H2B−GFP滞留およびα6インテグリンとCD34抗体への結合に基づいて、FACSを実施した。皮膚上皮細胞の2つの集団が高いH2B−GFPを保持し、高い表面CD34を示したが、表面α6インテグリンにおいては異なっていた。両方のプールはBrdUを保持し、K14−GFPactinに対して陽性であった。免疫蛍光データと整合して、α6インテグリンが低くCD34が高い(α6LCD34H)細胞は28日まで現れなかったが、その後は存続した。α6LCD34H細胞は、α6HCD34L細胞より、10倍低いGFPactinおよびβ1インテグリンを発現した。両者は、外毛根鞘マーカーK5およびK15を発現したが、表皮(K1)、随伴層(K6)またはIRS(AE15)に対する明らかな分化マーカーは発現しなかった。
【0065】
表皮ケラチノサイトがそれらの下の基底層から離れる場合、該細胞は最終的に分化する(Watt (2002)、上記)。基底層直上の状態が幾つかの毛隆起細胞を不可逆的に分化させるかどうかを評価するため、これらの細胞の、in vitroでケラチノサイトコロニーを産生する能力を試験した。FACSを用いて、K14−GFPactinを発現するα6LCD34H、α6HCD34H、α6LCD34(−)、α6HCD34(−)およびGFP(+)ケラチノサイトの純粋な集団を、生後28日のマウス背部皮膚から単離した。
【0066】
これらのFACSで単離したケラチノサイトのin vitroの初代培養物は、類似した効率でコロニーを形成した。しかし、α6LCD34Hおよびα6HCD34H集団のみが、明らかな数の高度にパックされた、小型で比較的未分化形態の細胞を含む、大きなコロニー(>20mm;>10細胞)を形成した。ホロクローン(holoclone)と呼ばれるように、かかるコロニーは単一の幹細胞からクローン的に由来する(Barrandon and Green (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:2302-2306)。α6HCD34H由来のホロクローンの方が数が多いが、α6LCD34H細胞のホロクローンを産生する能力は、それらの基底層直上の位置から予想外であった。対照的に、毛隆起の外側に存在するケラチノサイトは、一般には<5mmのコロニーを形成し、より大きなコロニーは不規則な境界を示し、より大きく形態的に分化した細胞からなった。ホロクローンを形成する、FACSで単離した成体毛隆起ケラチノサイトは、成体マウスケラチノサイトを長期に培養することが困難であることを考えると重要である。この点に関して、成体毛隆起細胞は、容易にホロコロニーを形成する新生の胚性皮膚ケラチノサイトと似ている。さらに、毛隆起の細胞は、その表皮同等物の細胞よりも、短期および長期培養の両方でより大きい増殖を示す。
【0067】
単一の毛隆起細胞の自己複製する能力を評価するために、個別のホロコロニー由来の細胞をトリプシン処理し、継代して、クローン解析を行った。代表的なα6LCD34Hおよびα6HCD34Hクローンからの細胞は、複数の継代を独自に過ごして新しいホロコロニーを産生したため、このことは、両方の毛隆起集団が、それらの生来のニッチから取り出されて増殖を誘導する条件に暴露された場合に、幹細胞の形態的および自己複製の特徴を示す細胞を含むことを示している。データはまた、毛隆起細胞が基底層からの離脱時に初期の関与を開始した場合(すなわち、基底層直上α6LCD34H細胞)、このプロセスは、少なくともin vitroで、なお可逆的であることも示す。
【0068】
反対に、2つの毛隆起区画の各々に由来するケラチノサイトがin vitroで最終的に分化するよう誘導された場合、両方の集団は、棘層(K1、K10、インボルクリン)および顆粒層(ロリクリン、フィラグリン)に特異的なマーカーにより測定されるように、表皮分化することができた。予想外なことには、比較的稀ではあるが、幾つかの細胞は毛ケラチンに特異的なAE13に陽性であった。この能力は、9番目の継代培養によっても保持された。さらに、これらの細胞は神経細胞およびグリア細胞にも分化可能であった。in vitroで神経の運命を誘発することが知られている、当分野で確立された増殖因子を添加した5%血清を含む標準培地を用いて分化させると、TuJ(βチューブリンIII)、NF1(ニューロフィラメント)およびGFAP(グリアマーカー)を含む、神経細胞およびグリア細胞マーカーの発現が観察された。
【0069】
次に、毛隆起細胞の、表皮および毛包を生成する既知の能力が、多能性のためか、または異なる単能性毛隆起幹細胞の存在によるかを決定した。野生型新生マウスケラチノサイトは、最初に新生皮膚線維芽細胞と混合し、続いてヌードマウスの背中の外科的に皮膚を除去した部位に移植された場合は、表皮、毛および脂腺を産生することができる(Lichti, et al. (1993) J. Invest. Dermatol. 101:124S-129S; Weinberg, et al. (1993) J. Invest. Dermatol. 100:229-236)。ヌードマウスは、毛の分化に必要な毛母転写因子(matrix transcription factor)が欠損しているために、毛がない(Nehls, et al. (1994) Nature 372:103-107; Segre, et al. (1995) Genomics 28:549-559)。幹細胞のin vitro自己複製の程度は、単離された1つの毛隆起細胞に由来する、K14−GFPactin陽性でα6LCD34Hまたはα6HCD34Hケラチノサイトを十分な数で産生することを可能とし、かかるin vivoでの移植研究を許容する。このため、1つのGFP陽性ホロクローンに由来する子孫を新生の野生型皮膚細胞と混ぜ合わせて、混合物をヌードマウスの背中に移植した。
【0070】
皮膚線維芽細胞のみの移植により、ヌードケラチノサイトの内向きの移動を支援できる真皮を産生する事ができ、これは次に層化して、最終的に分化した(Lichti, et al. (1993)、上記;Weinberg, et al. (1993)、上記)。表面外観のいくつかの変化が観察され、これは皮膚の瘢痕化から予想されたものであるが、しかし再生された皮膚はヌード表現型を示し、毛皮の被覆を欠いていた。対照的に、単一のα6LCD34Hまたはα6HCD34H毛隆起細胞のGFP陽性の子孫を含む移植片は、毛の房および表皮の拡張を示した。蛍光画像により、GFP陽性の皮膚が移植片の境界まで拡大したが、これを超えてはいないことが明らかにされた。
【0071】
皮膚切片の免疫蛍光顕微鏡検査により、GFP陽性の毛隆起子孫の、各皮膚上皮系統内での多大な寄与が明らかになった。最も明るいGFP蛍光は、K14プロモーターが最も活性である、表皮、外毛根鞘および脂腺に見られた。より長い暴露により、移植片内に容易に識別できる内毛根鞘(AE15陽性)および毛幹の一時的増幅前駆細胞に、GFP蛍光が見られた。予想外なことには、最初の毛周期の完了後に試験された移植片でさえも、CD34陽性、K14−GFP陽性細胞を毛包基底に示した。長期の移植においては、少なくともさらに1回の付加的毛周期の証拠が明らかであった。
【0072】
GFP陽性の表皮、脂腺および毛包の形態には、明らかな異常は検出されなかった。さらに、GFP蛍光はヌードマウスまたは野生型マウスに由来する皮膚には検出されず、K14プロモーターが活性でない非上皮細胞区画、例えば血管または表皮にも検出されなかった。
【0073】
基底層への付着とは関係なく、また活性化状態にも関係なく、毛隆起幹細胞においてどの遺伝子が上方調節されるかを同定するために、生後最初の毛周期の休止相(7週間)および成長相(4週間)の間に、FACSで精製した毛隆起集団からmRNAを単離し、マイクロアレイ解析を行った。個々のmRNAは、そのレベルがケラチノサイトの全GFP断片に相対的に>2倍とされた場合に、上方調節されたと評価した。これらおよび断片化mRNAの個別のサンプルのRT−PCRにより、データベースの品質が確認された。
【0074】
α6HCD34Hおよびα6LCD34H集団の毛隆起位置に整合して、これらの区画のどちらかにおいて上方調節されたmRNAのリストは、本明細書に記載された毛隆起遺伝子で上方調節されることが見出されたmRNAの80〜90%を包含していた(表1)。多数のmRNAは毛隆起内で分化して発現され、基底膜への付着が遺伝子発現のプログラムに重大な影響を及ぼすことを示した(表2、表3、および表4)。さらに、他のmRNAは休止期または成長期のどちらかにおいて上方調節されたが、両方においてではなかった。
【0075】
【表2】

休止期または成長期における倍数変化は括弧内に記載。nfは検出されなかったことを表す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

休止期または成長期における倍数変化は括弧内に記載。
−発現レベルはリストされた全ての遺伝子に対してRT−PCRにより決定した。
は、細胞種類が、タンパク質に対する抗体を用いて特異的に同定されたことを表す。
【0078】
休止期および成長期の両方において、および基底および基底層直上の両方の区画において上方調節されたmRNAを考慮しつつ比較して、毛隆起細胞の特徴を規定するキー遺伝子の短いリストが決定された。この56の上方調節されたmRNAのリストは、そのニッチ内の毛隆起細胞の分子名を提供する(表5)。これらの遺伝子は比較された全ての毛隆起幹細胞内で上方調節されたため、幹細胞ニッチの環境は、その基底層への付着または毛周期ステージに対するより、その発現に対してより重要のようであった。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
さらに、内在性膜たんぱく質をコードするmRNAのサブセットが、毛隆起内で上方調節されることが決定され、これは毛隆起特異的幹細胞の単離に有用である(表6)。
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

【0084】
前の毛隆起解析よりも〜2倍大きいオリゴヌクレオチドアレイを用いて、上方調節されたどの毛隆起mRNAが、造血幹細胞(HSC)、胚性幹細胞(ESC)および神経幹細胞(NSC)のmRNAにおいても選択的に上方調節されるのかを決定した(Ivanova, et al. (2002)、上記;Ramalho-Santos, et al. (2002)、上記)。HSC、ESCおよびNSCにおいて上方調節されたmRNAの約14%が、基底または基底層直上毛隆起幹細胞においてもまた、上方調節された(表7)。
【0085】
【表10】

【0086】
【表11】

N/Aは該当なしを表す。
【0087】
これらの比較はさらに、広いアレイの組織から単離された幹細胞を包含する「stemness」遺伝子の短いリストを示した。幾つかの遺伝子は、自己複製と分化において役割を果たすことができ、Wntシグナル伝達に関連するもの(例えば、Tcfs、Fzd7)、接着に関連するもの(例えば、カドヘリン7、コラーゲン18al、およびアダム9)および転写調節に関連するもの(例えば、Tcfs、ネクジンおよびFour and a half Limドメイン)を含む。対照的に、他のmRNA、例えば、HSCおよび幾つかの他の幹細胞においてヘキスト色素33342を除外するABCG2トランスポータータンパク質をコードするmRNA(Zhou, et al. (2001) Nat. Med. 7:1028-34)は、α6HCD34H毛隆起幹細胞に豊富に存在することはなく、実際α6LCD34H幹細胞において下方制御された。これは、CD34(+)毛隆起幹細胞がヘキスト染料の除外によって豊富にはならなかったとの観察と整合し、この点においてHSCと異なった。
【0088】
成長期であっても休止期であっても、両方の毛隆起細胞集団は、例えばKi67およびPCNAなどの増殖マーカー、および細胞周期進行のマーカー、例えばサイクリン(D2、A2、B1およびB2)(表2)に対して、減少したmRNAレベルを示した。逆に、サイクリンE−Cdk2の阻害剤であるp27(cdkn1b)は、他の表皮に比べて毛隆起において上方調節されたが、これは、表皮増殖の有効な刺激剤であるインスリン増殖因子を結合および分離する、IGFBPファミリー(例えば、Igfbp3、5、6および7)の幾つかのメンバーと同様であった(Vasioukhin, et al. (2001) Cell 104:605-617; Bennett, et al. (2003) Development 130:1079-1088)。従って、毛隆起細胞の遅延周期性の性質は、少なくとも部分的には、細胞周期制御に一般には関与してないとされる機構である転写変化により、管理されているようである。
【0089】
毛隆起細胞の増殖状態が、基底表皮細胞の場合と同様に基底層付着に依存するかどうかを解決するため、BrdU標識を用いて、成長期の4週齢の背部皮膚毛包隆起の2つの区画における、S相細胞の相対数を試験した。FACS解析により、BrdU標識細胞は、表皮の対応する部分より、2つの毛隆起集団の各々において、より少ないことが明らかになった。しかし、基底毛隆起細胞に比べて著しく少ない基底層直上毛隆起細胞が標識された。この差はまた、より長いBrdUパルス、および休止期および成長期の毛包にも観察された。これらのデータは、毛隆起細胞が毛周期の間増殖することができるが、しかし、他の表皮におけるよりも大幅に少ない程度において増殖することを示す。表皮におけるのと同様に、基底層付着は毛隆起内での増殖状態に影響を及ぼすようであった。
【0090】
細胞分裂の履歴を評価するために、TRE−H2BGFP/K5Tetoffトランスジェニックマウスを用いて、いかにして2つの毛隆起集団が、最初の生後毛周期の開始から4週間、発現が遮断された場合に、ヒストン−GFPタンパク質を希釈するかを決定した。両方の集団は、それらの表皮の対応部分と比較すると、標識残留細胞が豊富であった。しかし、基底層直上毛隆起細胞は、基底毛隆起細胞より低い蛍光を示した。合わせると、これらのデータは、基底層直上細胞は、基底対応部分より多くの分裂を経験すること、そして、一旦その基底層直上の位置に入ると、それらの周期はより頻繁でなくなることを示す。この所見は、ニッチの静止期状態を強調し、基底層直上毛隆起細胞がそれらの基底対応部分に由来する可能性を示す。
【0091】
従って、本発明はさらに、CD34の存在および選択された遅延周期細胞マーカーのレベルに基づいて、自己複製多能性遅延周期細胞を単離する方法に関する。本明細書において、選択された遅延周期細胞マーカーは、遅延周期細胞または目的とする幹細胞において上方調節されることが本明細書で示されたマーカーとして意図される。例えば、表皮毛隆起の遅延周期細胞を単離する場合、細胞表面局在化された選択された遅延周期細胞マーカー、例えば、表5に提供された、細胞表面局在タンパク質を用いるのが望ましい。膜局在化された選択された表6の遅延周期細胞マーカーのサブセットは、表皮毛隆起の遅延周期細胞を分類するのに特に有用である。さらに、表皮毛隆起の基底層直上細胞から基底細胞を分類する場合(またはその逆)、表3および表4の選択された遅延周期細胞マーカーは特に使用上重要であり、1つの態様において、α6インテグリンを所望のように用いる。さらに、表7に示す共通した幹細胞マーカーは、任意の組織または器官からの幹細胞の分類に有用であることができる。従って、細胞の集団をそれから得ることができるサンプルは、遅延周期細胞または幹細胞を含むことが知られている、任意の哺乳類の組織または器官であってよい。しかし、皮膚は幹細胞の望ましい供給源であり、これは、分離の容易さ、好適な利用可能性、およびα6インテグリンおよびCD34のマウスおよびヒト皮膚における既知の発現(Tani, et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:10960-10965; Poblet and Jimenez (2003) J. Invest. Dermatol. 121:1220)のためである。皮膚サンプルから細胞集団を得るための方法は、本明細書および他の場所に記載されており、当分野で十分に確立されている。
【0092】
本明細書に記載されているように、CD34は幹細胞の表面で豊富に発現され、そしてCD34の検出可能なレベルを欠く前駆細胞と比べて高レベルのCD34の発現に基づいて、周囲の前駆細胞から幹細胞を分類するのに用いることができる。これらの幹細胞の分類に用いることができる、例示のCD34抗体には、限定はされないが、ABCAM(登録商標)(Cambridge, MA)、BD Biosciences、およびResearch Diagnostics, Inc. (Flanders, NJ)などから市場で入手可能なもの、または古典的クローニングおよび細胞融合技術(例えば、Kohler and Milstein (1975) Nature 256:495-497; Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New Yorkを参照)、ファージ提示法(例えば、Huse, et al. (1989) Science 246(4935):1275-81を参照)を用いて産生した抗体が含まれる。同様に、CD34陽性細胞は、CD34リガンド(例えばLセレクチン)への結合に基づき分類可能である。幹細胞の分類を促進するため、リガンドは標準法に従って蛍光標識でき、または、基質に付着させることができる。CD34陽性細胞の分類は一般に、親和性精製、FACS、レーザー共焦点顕微鏡法または蛍光顕微鏡法と組み合わせたハイドローリックもしくはレーザー・キャプチャ・マイクロダイセクションなどの細胞分類法を用いて実施することができる。代替的に、分類は、BIOMAG(登録商標)抗CD34抗体(Polysciences, Inc., Warrington, PA)を用いた磁気分離法(magnetic separation)により実施することができる。
【0093】
細胞がα6インテグリンの有無にのみ基づいて分離されたという上記Trempus, et al. (2003)の教示とは対照的に、本発明のこの方法は、細胞集団を、各細胞により発現された、α6インテグリンなどの選択された遅延周期細胞マーカーの量に基づいて分類することを含む。α6インテグリンが選択された遅延周期細胞マーカーである場合、幹細胞を分類するのに用いることができる例示のα6インテグリン抗体には、限定はされないが、本明細書に開示されたもの、またはR&D Systems Inc.から市場で入手可能なもの、または古典的クローニングもしくは細胞融合技術を用いて産生された抗体が含まれる。同様に、α6インテグリン陽性細胞は、α6インテグリンリガンド(例えばラミニン)への結合に基づき分類可能である。抗体またはリガンドを細胞分類に用いる方法は、本明細書に開示されている。
【0094】
1つの態様において、特定の系統に可逆的に関与する細胞中のα6インテグリンの発現レベルと比べた場合に、α6インテグリン発現レベルの増加を示す細胞は望ましく単離されるが、それはこれらの細胞が、特定の系統への関与を示さない点において、古典的(classical)幹細胞に典型的な特徴を示すためである。例えば、これらの古典的幹細胞(本明細書において、基底細胞またはα6HCD34H細胞とも呼ばれる)は、FACS解析によって決定されるように、50倍高いレベルの発現されたα6インテグリンタンパク質を有し、また、特定の系統への可逆的な関与を示す細胞(例えば、基底層直上表皮毛隆起細胞)と比べて、2〜5倍高いレベルのα6インテグリンmRNA発現を示す。代替的に、これらの古典的幹細胞は、表3に提供された1つまたは2つ以上の上方調節されたmRNA配列の発現の増加したレベルに基づいて、単離、さらに単離、または同定することができる。さらに、これらの古典的幹細胞は、特定系統に関与する細胞に関連するマーカー(例えば、表4に挙げたマーカー)の、増加した発現の欠如により同定することができる。
【0095】
1つの代替的な態様において、特定系統への関与を示さない細胞(すなわち、古典的幹細胞)におけるα6インテグリンの発現レベルに比べて、低下したα6インテグリン発現レベルを有する細胞は有用であり、これは、これらの細胞が、特定系統に可逆的に関与するためである。例えば、これらの遅延周期細胞(本明細書において、基底層直上細胞またはα6LCD34H細胞とも呼ばれる)は、FACS解析によって決定されるように、50倍低いレベルの発現されたα6インテグリンタンパク質を有し、また、特定の系統への可逆的な関与を示さない細胞(例えば、基底表皮毛隆起細胞)に比べて、2〜5倍低いレベルのα6インテグリンmRNA発現を示す。代替的に、これらの遅延周期細胞は、表4に提供された1つまたは2つ以上の上方調節されたmRNA配列の発現の増加したレベルに基づいて、単離、さらに単離、または同定することができる。さらに、これらの遅延周期細胞は、古典的幹細胞に関連するマーカー(例えば、表3に挙げたマーカー)の、増加した発現の欠如により同定することができる。
【0096】
ニッチの影響にも関わらず、α6HCD34Hおよびα6LCD34H細胞集団は、この位置から取り除かれて培地に置かれた場合にも同様の振る舞いをするため、両方の集団は治療的に有用である。例えば、α6HCD34Hまたはα6LCD34Hからの1つの毛隆起細胞由来の培養細胞は、移植において表皮、毛包および脂腺を産生することができた。従って、in vivoにおけるこれら2つの集団に存在する遺伝子発現の実質的な違いにも関わらず、これらの細胞は、in vitroでの継代およびin vivoでの移植の後にも、真正の幹細胞となるそれらの能力を保持していた。
【0097】
本明細書に示された実験結果はさらに、基底層直上毛隆起細胞で実質的に上方調節されたリガンドをコードするたった3つのmRNAのうちの2つである、FGF−18およびBMP−6が、毛隆起細胞の成長阻害状態に寄与することを示す。FGF−18の転写レベルはまた、毛隆起内全体において、このニッチの外側より高い。両方の毛隆起集団が、その対応する膜受容体をコードするmRNAを発現したため、一次毛隆起ケラチノサイトコロニーがいかにしてこれらの因子に応答するかを試験した。
【0098】
FGF−18およびBMP−6の両方は、皮膚上皮内の位置に関わらず、試験した全てのケラチノサイトの成長を阻害した(表8)。阻害の効果は用量依存的な様式で生じ(表9および表10)、細胞周期プロファイルによれば、処置された培養物においてS相の減少を示した;未処置細胞の10.75%はS相にあり、一方でFGF−18またはBMP−6で処置された細胞は、それぞれ8.7%および5.43%がS相にあった。増殖の減少の兆候にもかかわらず、効果は可逆的であり、コロニーの形態および生化学的マーカーにより判定されるように、検知できる最終分化は誘導されなかった。毛隆起内のTGFβ経路メンバーの上方調節と合わせると、これらのデータは、毛隆起の特定的可逆的な成長阻害環境を生成できる機構に関する新しい洞察を提供する。
【0099】
【表12】

【0100】
【表13】

【0101】
【表14】

【0102】
従って、本発明はまた、選択された細胞の増殖を阻害する方法に関する。該方法は、選択された細胞を、in vivoまたはin vitroで有効量のBMP6またはFGF−18と接触させて、細胞の増殖を阻害することを含む。Sectm1も基底層直上細胞で特異的に上方調節されることが見出されたため、この増殖因子もまた、選択された細胞の増殖を阻害し、これによって前記細胞の周期を遅らせるのに有用であると考えられる。
【0103】
本発明は、皮膚上皮内の位置に関わらず、マウスのケラチノサイトの増殖の阻害について開示するが、この方法は一般に、他の種および組織からの細胞にも応用可能であることが意図される。従って、選択された細胞は、ケラチノサイトおよび任意の他の組織または器官からの細胞を含むことが意図される。BMP6またはFGF−18の有効量とは、BMP6またはFGF−18と接触させた細胞の増殖を可逆的に阻害する量であり、細胞計数、光学密度の分光光度の変化等を含む標準的な方法によって評価することができる。この量は、1ng/mL〜10μg/mL、1ng/mL〜500ng/mLまたは200ng/mL〜500ng/mLの範囲であってよい。
【0104】
BMP6およびFGF−18は、BMP6もしくはFGF−18を天然に発現する細胞からタンパク質を精製することにより得ることができ、または、原核細胞もしくは真核細胞中に、標準のよく確立された方法を用いて組換え的に産生することができる。例えば、BMP6およびFGF−18は、大腸菌などの細菌性細胞、昆虫細胞(例えば、バキュロウィルス発現系において)、酵母細胞または哺乳類細胞中に、市場で入手可能な試薬および方法を用いて発現可能である。好適な宿主細胞は、Goeddel (1990) Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CAにさらに述べられている。酵母S. Cerevisiaeにおける発現のためのベクターの例には、pYepSecl(Baldari, et al. (1987) EMBO J. 6:229-234)、pMFa(Kurjan and Herskowitz (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultz, et al. (1987) Gene 54:113-123)、およびpYES2(INVITROGEN Corporation, San Diego, CA)が含まれる。培養昆虫細胞(例えばSf9細胞)中でタンパク質を産生するための核酸の発現に利用可能なバキュロウィルスベクターには、pAc系(Smith, et al. (1983) Mol. Cell. Biol. 3:2156-2165)およびpVL系(Lucklow and Summers (1989) Virology 170:31-39)が含まれる。
【0105】
最終的な分化を誘導することなく細胞増殖を遅延させる能力を有する、FGF−18およびBMP−6などの因子の添加は、幹細胞を、静止状態を維持しつつ、微環境中での変化によりもたらされる増殖および/または分化の合図に応答する準備をする、待機状態(holding pattern)に置く方法を提供する。
【0106】
mRNAの共通のセットが、HSC、ESCおよびNSCにおいて、および基底または基底層直上毛隆起幹細胞のどちらかにおいて上方調節されることを示したため、多能性遅延周期細胞を同定するためのマーカーが提供される(表7参照)。これらのマーカーの検出は、タンパク質またはmRNA配列を検出するための任意の標準法を用いて実施することができる。例えば、タンパク質は、マーカーに結合する結合剤(例えば、抗体またはアプタマー)と細胞を接触させ、得られた幹細胞マーカー−結合剤複合体を洗浄して非特異的結合を除去し、標準アッセイ(例えば、免疫アッセイ)を用ることにより、検出可能である。結合剤が、例えばペプチドアプタマーである場合、結合剤−抗原複合体は、該アプタマーに融合した例えば検出可能マーカータンパク質(例えば、βガラクトシダーゼ、GFPまたはルシフェラーゼ)によって、直接検出可能である。
【0107】
代替的に、マーカーの発現はマーカーmRNAの存在を介して、ノーザンブロット解析、逆転写PCR、マイクロアレイ解析等の方法を用いて検出する。使用の容易さのため、PCRに基づくアプローチを用いてmRNA配列を検出することが一般に望ましい。これは一般に、細胞サンプルを、幹細胞マーカーをコードする核酸配列に特異的にハイブリダイズするか、または幹細胞マーカーのコード領域に隣接する、2つまたは3つ以上のPCRプライマーと接触させて、該サンプルをPCR増幅の多段階に適用し、増幅された配列の存在の有無を検出することを含む(例えば、ゲル解析、ブロット法、または蛍光標識プライマーを用いて)。代替的に、幹細胞マーカーをコードする核酸配列の少なくとも1部と反応する、オリゴヌクレオチド、アプタマー、cDNA、抗体、またはこれらの断片を、チップまたはウェファーの上にアレイ状に構成し、幹細胞マーカーをコードする核酸配列の検出用に用いる。マーカーをコードする核酸配列と共に用いるためのプライマーまたはオリゴヌクレオチドは、該マーカーをコードする遺伝子座の任意の領域から選択することができ、一般に該マーカーをコードする核酸配列の少なくとも1部を特異的にアニールおよび増幅するが、密接に関連するマーカーをコードする他の核酸配列はアニールおよび増幅しない。一般にプライマーは12〜30bpの長さであり、50、100、200、400、600、1000bpまたはそれ以上の長さのPCR単位複製配列を生成する。非変性PCR(non-degenerate PCR)の原理は当業者によく知られており、例えばMcPherson, et al., PCR, A Practical Approach, IRL Press Oxford, Eng. (1991)を参照されたい。
【0108】
本発明の方法は、哺乳類起源(例えば、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ、イヌ等)の遅延周期細胞を単離するのに特に有用である。さらに、本発明の方法により単離された遅延周期細胞は、遅延周期細胞が正常または疾患のあるヒト組織または器官から単離されるヒト組織培養系および器官型培養系において、有用であることが意図される。
有利なことには、本明細書に開示された分類方法を用いて、1つの個別の幹細胞が単離でき、適当な条件下で培養できて、これにより幹細胞の特異的なマーカーを発現し、かつ自己複製および多能性の特徴を示す細胞のクローン集団が産生される。
【0109】
一旦単離されると、本発明の遅延周期細胞は培養物中に維持でき、本明細書に開示された条件に従って、未分化状態において拡大できる。多能性細胞のクローン集団を産生するかかる条件は、単離された多能性遅延周期細胞を、約0.2mM〜0.5mMのカルシウムおよび支持細胞として機能する線維芽細胞の厚い層の存在下でインキュベートすることを含む。接触阻害された、有糸分裂的に不活性な線維芽細胞の単一の高密度層と、培地中の低下したレベルのカルシウムの組合せは、ここで単離された、選択された多能性遅延周期細胞の拡大を許容することが見出された。線維芽細胞が老化するにつれて、単離された多能性遅延周期細胞をプレートした最初の週のうちに、古い線維芽細胞を新しい線維芽細胞に置き換えることが望ましい。個別に単離された幹細胞が、標準培地ベースのこの線維芽細胞とカルシウムの組合せの上に置かれると、クローン細胞の個別のコロニー(〜10,000細胞/コロニー)が単離できる。
【0110】
本発明は、表皮毛隆起から単離された幹細胞のクローン集団を産生するための培養条件を開示するが、この方法は、一般に、他の種からの表皮毛隆起細胞および他の組織から単離された他の幹細胞にも適用可能であることが、意図される。従って、選択された多能性遅延周期細胞は、毛隆起幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞および神経幹細胞を含むことが意図される。
【0111】
本明細書に開示された方法に従って単離および維持された遅延周期細胞は、以下について有用であることが意図される:前記細胞を処置が必要な動物に移植することにより、組織再生および修復(例えば、毛髪の再成長)に、広い範囲の疾患の処置に、並びに、成体幹細胞の特性および、それらの異なる系統にそった分裂および分化する能力を理解する基礎研究に。本明細書に記載された方法および当分野に既知の方法を用いて、本発明の幹細胞組成物は、表皮の種々の細胞、並びに中枢および周囲の神経系などに分化することができる。分化した細胞の同定は、目的の細胞種類によって発現されることが知られているマーカーを用いて実施することができ、かかるマーカーは一般に当業者に知られている。
【0112】
さらに、本明細書に例示されているように、幹細胞特異的マーカーを同定することができ、これは、幹細胞機能の障害から生じる特定疾患の分子ベースの決定において有用である。さらに、単離された幹細胞またはこれのクローン集団は、薬剤および薬理的デザイン、およびスクリーニング目的に用いることができる。本発明は、以下の非限定的例によりさらに詳細に記載される。
【0113】
例1:トランスジェニックマウスおよびH2B−GFP標識およびチェイス
マウスに一過性にH2B−GFPを発現させるために、テトラサイクリン誘導系(tetracycline inducible system)を用いた。tet−onシステムは、誘導時の、目的導入遺伝子の迅速な上方調節と、望ましくない低レベルの発現のリーク(leaky expression)で知られており、一方、tet−offシステムは、発現の上方調節の望ましくない遅延と、しかし導入遺伝子発現の厳格な制御(すなわち、リークなし)を提供することで知られている。従って、tet−offシステムをここで行われる研究に用いるのが好ましい。
【0114】
H2B−GFP導入遺伝子をTET応答エレメント(pTREH2BGFPベクター)の制御の下で挿入するために、pBOS−H2BGFPベクター(BD Bioscience, Palo Alto, CA)のSalI/NotIを用いた制限酵素消化により、H2B−GFP遺伝子を含む1kbのDNA断片を得た。断片は、pTRE2ベクター(CLONTECH(登録商標)、Palo Alto, CA)の複数クローニング部位に結合した。XhoI/SapIを用いた消化により作製された線状断片を精製し、既知の方法を用いて(Taylor, et al. (2000)、上記)トランスジェニックCD1マウスを作製した。
【0115】
対照としてK14−H2BGFP融合を作製し、H2B−GFPの強い発現がマウスの生存力(viability)または生理機能に影響しないことを確認した。このベクターを操作するために、pBOS−H2BGFPベクターからSalIでH2BPGFPインサートを切断し、続いて末端を平坦化し、XbaIで切断した。1.1kbの断片を、BamH1で直線状にしたK14βGlobincassetteCOR2R(Vasioukhin, et al. (1999)、上記)中に挿入し、平坦化し、XbaIで切断した。ベクターを次に、SacIおよびSphI(New England Biolabs, Beverly, MA)で直線状にし、4.2kbの断片を用いて、トランスジェニックK14−H2BGFPマウス系を作り出した。
【0116】
pTRE−CMV−H2B−GFP導入遺伝子を有する20匹のトランスジェニックマウス系を作製し、続いてスクリーニングした。皮膚に発現のない1匹のマウスを選択した。さらに、20匹の初代マウスの幾つかにおいては、真皮、皮下組織(真皮の下)、および尾骨中に分散する細胞の非常に小さな断片中に低レベルの構成的発現が検出されたが、毛包および表皮には発現はなかった。
【0117】
これらの20匹の初代マウスをスクリーニングして誘導性であるマウス1匹を見つけるために、21日齢の初代マウスの尾からの繊維芽細胞系を生成し、CMV−tetVP16コンストラクトのトランスフェクションを用いて誘導について試験した。論理的根拠は、繊維芽細胞において誘導性でない挿入部位は、永久にサイレントとなったクロマチン部位へのpTRE−H2BGFP導入遺伝子の挿入の可能性のために、他の細胞種類(例えば、ケラチノサイト)においても非誘導性であろう、ということである。繊維芽細胞誘導性の5匹の初代マウスを選択して、K5−tetVP16導入遺伝子を有するトランスジェニックマウスと交配させた。3匹の初代pTRE−H2B−GFPマウスに由来するダブルトランスジェニックマウスpTRE−H2BGF/K5−tetVP16は、表皮および毛包に高レベルの蛍光を示した。
【0118】
チェイスの最後における全てのH2B−GFPシグナルが、長命で安定なタンパク質によるものか、あるいはドキシサイクリンの存在下において(導入遺伝子が遮断されているはずの場合)発現リークがあるのかどうかを評価するために、ダブルトランスジェニックマウスpTRE−H2BGFP/K5−tetVP16を作製し、ここで初期の胚における導入遺伝子の発現は、妊娠中の母親にドキシサイクリン2g/kgの餌(BIO-SERV(登録商標)、Frenchtown, NJ)を与えることによって防いだ。給餌は、K5プロモーターが活性化する前のE9.5に開始した(ドキシサイクリンが胎盤を横断し、また母乳中にも存在することは、よく確認されている)。従って、これらの若い仔における導入遺伝子の任意の発現は、tet−offシステムのリークのみによるものである。この同腹のダブルトランスジェニックマウス(3匹の二重陽性の仔)は完全に暗く、毛包または表皮にはGFPは検出されず、ドキシサイクリンの投与によって導入遺伝子が完全に抑制されたことを示した。
【0119】
ドキシサイクリンを中止することにより、H2BGFP発現の回復が初めに外毛根鞘および表皮に生じたが(中止の2週間後)、毛包毛母(hair follicle matrix)には初期のシグナルはなかった。マウス皮膚真皮における完全な明るさ(ドキシサイクリンの給餌の不在下でのダブルトランスジェニックマウスにおけるレベルと同等)は、ドキシサイクリンの中止の4週間後に達成された。これは、tet−off駆動H2B−GFP系にリークがなく、ドキシサイクリンは完全に毛包および表皮における発現を抑制したことを示した。本明細書に記載の全ての細胞単離実験において、小さな皮膚片を動物の3つの身体領域から収集し、OCT切片を蛍光顕微鏡下(Zeiss共焦点顕微鏡)で解析した。皮膚の中では毛隆起細胞が常に最も明るかったが、表皮にGFPが認められたマウスも時に見出された。かかる動物は実験には用いず、マウスは常に、解析/実験の開始に先立ち、信頼性の高い定量的なH2B−GFPチェイスのために、プレスクリーニングを行った。
【0120】
H2B−HGPシグナルの減衰を解析するために、ダブルトランスジェニックマウスに、6日目から始めて、または多くの場合は生後4週より、ドキシサイクリンを与え、これらのマウスはチェイスの全期間中、ドキシサイクリン食餌を続けた(4〜16週)。GFP蛍光はチェイスの1週間後から顕著に減少し、4〜8週間の期間、予想された細胞分裂と同時に、徐々に減少し続けた。ドキシサイクリンの食餌を生後6日目から始めた場合は、蛍光は13週間のチェイスの後に非常に低くなったが、過剰露光によりまだ検出可能であった。ドキシサイクリンを生後4週から開始した場合、標識残留細胞はチェイスの4ヵ月後にも容易に検出できた。これは、in vivoで標識残留細胞が長命であることを示す。
【0121】
5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)パルス−チェイス実験を、記載に従って行った(Braun, et al. (2003) Development 130(21):5241-55)。生後10日目のCD−1マウスに、50μg/gのBrdUを2X/日で2日間、腹腔内に注射し、28日後(チェイス期間)に標識残留について解析した。細胞周期解析には、28日目のマウスに50μg/gのBrdUをを1回注射し、4時間後にBrdU取り込みについて解析した。BrdUの連続投与は、BrdUを飲料水に0.8mg/mLの濃度で添加して行った。
【0122】
例2:免疫蛍光
免疫蛍光およびヘマトキシリンおよびエオジン染色のための組織は、OCTに包埋し、次にドライアイス上で直ちに凍結した。OCT切片は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中4%パラホルムアルデヒド(PFA)に20分間固定し、PBSで5分間、3回洗浄した。PFAを含まない部位をグリシン(20mM)を用いてブロックした。マウスモノクローナル抗体で染色する場合、試薬およびプロトコルは、M. O. M.(登録商標)Basicキット(Vector Laboratories, Burlingame, CA)からのものを用いた。代替的には、以下のブロック/希釈剤である:PBS中、2.5%正常ロバ血清、2.5%正常ヤギ血清、1%ウシ血清アルブミン、2%ゼラチンおよび0.1%TRITON(登録商標)X-100(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)。指示された希釈における一次抗体は以下である:K5(モルモット、1:300);K15(ウサギ、1:1000;ニワトリ、1:100);K19(ウサギ、1:1000);K1(ウサギ、1:200);K6(ウサギ、1:1000);β1インテグリン(ラット、1:50;CHEMICON(登録商標)、Temecula, CA);β4インテグリン(ラット、1:100;PharMingen, SanDiego, CA);α6インテグリン(ラット、1:50;PharMingen);β6インテグリン(ウサギ、1:5);Ki67(ウサギ、1:1000;NovaCastra Laboratories, Newcastle, UK);ホスホ−H3(ウサギ、1:150;Upstate Cell Signaling, Lake Placid, NY);CD34(ラット、1:50または1:100;BD Biosciences);P−smad2(ウサギ、1:100;Cell Signaling, Beverly, MA);Dab2(ウサギ、1:400);テクチン2(ウサギ、1:200〜400);バソヌクリン(1:100);S100 A6(ウサギ、1:100;NovaCastra Laboratories);S100 A4(ウサギ、1:500;Basic Research Laboratories, Kanebo, Ltd.);テネイシンC(ウサギ、1:200;CHEMICON(登録商標));エフリン−B1(ヤギ、1:5、R&D Systems, Minneapolis, MN);EphA4(ヤギ、1:5、R&D Systems);EphB4(ヤギ、1:5、R&D Systems);LTBP1(ウサギ、1:200);Lef1(ウサギ、1:200);GATA3(マウス、1:100、Santa Cruz Biotechnologies, Santa Cruz, CA);AE13(マウス、1:10);BrdU(ラット、1:50、Abcam);Dcamkl1(ウサギ、1:300)。FACS解析に対しては、細胞表面マーカーエピトープに対する抗体並びにビオチン(BD Biosciences)に結合したCD34およびCD71を用いた。二次抗体は、適当な種のIgG(例えば、抗ロバまたは抗ヤギ抗体;1:300)か、またはビオチン化抗体に対するアビジンのどちらかであり、免疫蛍光のためにテキサスレッド(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME)と、またはFACS解析もしくはFITCのためにフィコエリスリン(PE)(Rockland, Gilbersville, PA)、APC(Rockland)と結合させた。
【0123】
核は、免疫蛍光のために4’6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を、および共焦点顕微鏡検査のためのTOPRO−3(Molecular Probes)を用いて染色した。共焦点解析の3次元再構築は、LSM510共焦点アナライザー(Zeiss)またはIMARISソフトウェア(Bitplane AG)を用いて行った。
【0124】
例3:細胞単離、FACS分類、およびRNAサンプル調整
成体マウスからの全皮膚を外科用メスでそっとこすって、脂肪および下の皮下組織を取り除いた。細胞表面マーカーを用いた細胞単離には、K14−GFPactinマウスを用いた。次に皮膚を、コラゲナーゼと0.25%トリプシンにより酵素消化した。15%ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma-Aldrich)を添加した氷冷ダルベッコ改変イーグル培地による中和の後、細胞をろ過し(70μM、次に40μMの孔;BD Bioscience)、本方法のこの後の全ステップの間、氷上に維持した。
【0125】
全皮膚からの単個細胞浮遊液を、解析または分類した。分類には、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の2%FCS中の単個細胞浮遊液を、30分間氷上にて、蛍光色素またはアビジンと直接結合した一次抗体に暴露した。PBSで2回洗浄した後、細胞を特定の蛍光色素(1:200、Pharmingen)に結合したストレプトアビジンを用いて30分間インキュベートし、次に洗浄して、2%FCSおよび300ng/mLのヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich)を添加したPBS中に再浮遊させた。
【0126】
細胞表面マーカーの発現による分類のために、FACS解析に用いた一次抗体は、FITC、PEまたはチクローム(Cychrome)(Pharmingen)に直接結合した抗α6インテグリン(CD49f)、およびビオチン、FITCまたはPE(Pharmingen)に結合した抗CD34、および抗α1インテグリン−ビオチン化(Pharmingen)であった。BrdUの検出は、BD PharmingenのBrdUフローキット(Pharmingen)を用いて行った。細胞の単離は、FACSのDiVaソフトウェア(BD Biosciences)を搭載したFACSVANTAGE(登録商標)SEシステムを用いて行った。表皮細胞は、単一事象および生存力についてゲートし、次にK14−アクチンGFP、α6−インテグリンおよびCD34の発現に応じて分類した。分類した細胞の純度は、分類後FACS解析により決定し、一般には95%を超えていた。FACS解析は、FACSortまたはBD LSR(BD Biosciences)のどちらかで行った。サイトスピン解析はCytospin4ユニット(Thermo/Shandon)を用いて行い、本明細書に記載のように染色した。
【0127】
細胞周期解析については、1.2×10個のGFPhigh、GFPlow、および全皮膚細胞をフローサイトメトリにより単離し、ペレット状にして、0.4μlの冷70%エタノール中に再浮遊させた。エタノール固定細胞をペレット状にし、PBSで1回洗浄し、ヨウ化プロピジウム溶液(20μg/ml)−RNAse(250μg/ml)で30分間、37℃にて染色した。ヨウ化プロピジウム染色細胞は、FACSCALIBUR(登録商標)を用いて、二重識別のために、幅ドットプロット(FL2−W)に対するヨウ化プロピジウム領域(FL2−A)上に最初のゲートを設定して解析した。各サンプルにつき2.5×10細胞を試験した。G2/Mピークのマージンは、G0/G1ピークの幾何平均に従って設定し、CELLQUEST(登録商標)ソフトウェアを用いて解析した。
【0128】
RNAサンプルの調製のため、8週齢のマウス(4週間のチェイス)からのGFPhigh、GFPlow、およびβ4断片集団の100,000細胞/マウス/断片を分類し、RNA溶解緩衝液中に直接収集した。デュプリケートサンプルは、年齢、性別およびチェイスの期間を整合させた。GFPhigh、GFPlow、およびβ4陽性のFACS分類細胞からの全RNAを抽出し、それらの量をAgilent RNA 6000 Nano LABCHIP(登録商標)キット(Agilent)により確認し、濃度をRIBOGREEN(登録商標)RNA定量キット(Molecular Probes, Eugene, OR)により決定した。
【0129】
例4:細胞培養
FACSで単離した成体ケラチノサイトの生存力を、トリパンブルー(Sigma)染色により評価し、細胞数を血球計算板により決定した。同数の生きた細胞を、15%血清および約0.3mMのカルシウムを添加したE-Media(Rheinwald and Green (1977) Nature 265:421-424)中のマイトマイシンで処置した3T3繊維芽細胞上に播種した。in vitroにて14日後に細胞をトリプシン処理し、計測した(Coulter Counter; Beckman)。コロニー数および形態を視覚化するために、細胞を1%ローダミンB(Sigma)で染色した。免疫蛍光のために、FACS単離細胞をチャンバースライドにプレートした。特定のコロニーを拡大するために、個別のホロコロニーをクローニングシリンダー内でトリプシン処理し、新鮮な繊維芽細胞供給層へ継代した。最終的な分化を誘導するために、血清を5%まで低下させ、カルシウムを1.5mMまで増加させた。
【0130】
例5:移植実験
移植は、確立された方法(Weinberg (1993) J. Invest Dermatol. 100(3):229-36)に従って行った。同数の新生の真皮繊維芽細胞±K14−GFPactin上皮細胞(α6LCD34Hまたはα6HCD34H)を10細胞/μLで混合し、500μLを麻酔ヌードマウス(Jackson Laboratories)の背中に移植されたシリコンチャンバー内に注射した。1週間後創傷は治癒し、チャンバーを取り除いた。毛は一般に、その後1〜2週間で現れた。
【0131】
例6:トランスジェニックマウスpTRE−H2BGFP/K5−tetTV16の転写プロファイリング
デュプリケートサンプル(それぞれ個別のマウス;10細胞/サンプル)からの等量のRNA(150ng)を、個々のmRNAの線形増幅を保証するRIBOAMP(登録商標)OA RNA Amplification Kit(Arcturus, Mountain View, CA)を用いて増幅した。増幅したRNAのビオチン標識を、BIOARRAY(登録商標)HIGHYIELD(登録商標)RNA Transcript Labeling キット(T7)(Enzo Life Sciences, Farmingdale, NY)を用いて行った。各サンプルにつき8μgのビオチン標識cRNAを、断片化バッファ(AFFYMETRIX, Santa Clara, CA)中で94℃、35分間断片化した。マウス用AFFYMETRIX高密度オリゴヌクレオチドアレイ(12,000プローブを含むMG−U74Av2)を染色し、製造業者のプロトコルに従って洗浄した。
【0132】
スキャンしたチップ画像をAFFYMETRIXのMicroarray Suite MAS 5.0(AFFYMETRIX, Santa Clara, CA)で解析した。チップファイルは、全てのプローブセットにつき次のパラメータを用いて、発現についてのバッチ解析で作製した:標的シグナルスケーリング150;アルファ1 0.04;アルファ2 0.06;タウ 0.015、ガンマ2L 0.0003、ガンマ2H 0.003、摂動 1.1。GFPhighは入力ファイルであり、ベースラインはGFPlowまたはβ4陽性のどちらかであった。生成されたチップファイルは、AFFYMETRIXのMicroDB and Data Mining Toolsソフトウェア(AFFYMETRIX)を用いて処理した;該ソフトは、各個別のプローブシグナルのp値計算に統計アルゴリズムを用い、存在・不在コール(present absent call)を0.04未満のp値に基づき評価し、入力とベースラインの間の変化コール(change call)(増加、減少、および無変化)を、0.0025未満のp値の変化に基づき評価した。基底層/外毛根鞘に対して毛隆起標識残留細胞が豊富な154のプローブは、以下の基準を満たしていた:i)これらは、両方の高GFPサンプル(2つのうち2つ)において存在(P)とコールされた;ii)これらは、4比較例のうち4つにおいて増加とコールされた[高GFP対低GFP(マウス1)、高GFP対低GFP(マウス2)、そして2)高GFP対B4断片(マウス1)および高GFP対B4陽性断片(マウス2)];iii)平均シグナルlog率は≧1(最小で2倍の変化)であった。
【0133】
例7:RNAの単離およびCD34/α6インテグリン陽性細胞のマイクロアレイ解析
細胞は、溶解バッファのFACSから収集し、全RNAをABSOLUTELY RNA(登録商標)キット(STRATAGENE)を用いて精製した。mRNAは、RNA 6000 Pico Assay(Agilent)により評価し、分光光度的に定量化した。プライマーolig0−dT−T7(Genset)を用いて、初めに逆転写し(SUPERSCRIPT(登録商標)cDNA合成キット;INVITROGEN)、次に200ngのRNAを増幅した(MESSAGEAMP(登録商標)aRNAキット、AMBION)。ランダムプライミングおよびビオチン化ヌクレオチドを用いて、マイクロアレイ用cRNAを得た。品質コントロールの後(AGILENT)、10μgの標識cRNAを45℃で16時間、マウスゲノムアレイMOE430a(AFFYMETRIX)にハイブリダイズした。処理したチップは次に、アルゴンイオンレーザー共焦点スキャナー(Genomics Core Facility, MSKCC)で読み取った。全体の操作は、各サンプルについてデュプリケートで繰り返し、1つのmRNAサンプルにつき2つの独立したデータセットを作製した。
【0134】
生のマイクロアレイ画像を、Gene Chip Operating Software(GCOS, AFFYMETRIX)を用いて定量化した。初期設定の解析パラメータおよび標的の強度値500を用いた。結果は次にフィルタリングして、2倍より小さい(p値>0.01)任意の変化コールを除去した。増加と計測されたが、分子において不在とコールされた遺伝子変化、および減少と計測され、分母において不在とコールされた任意の変化は、取り除いた。遺伝子変化は、デュプリケートアレイの解析により確認した。比較目的のために、MOE430aプローブセットを、MGu74V2AFFYMETRIXアレイ上の等価プローブセット(MGu74V2A、B、C:36,000プローブセット)に、GENESPRING(登録商標)(Silicon Genetics)を用いて変換した。22,000のプローブセットのみが直接比較できたため、共通の上方調節プローブセットは、より大きなプローブセットで得られるデータベースに対する実際のオーバーラップを下方提示する可能性がある。
【0135】
例8:半定量的RT−PCR
逆転写反応(RT)を、全RNA、ランダムヘキサヌクレオチド、およびSUPERSCRIPT(登録商標)II逆転写酵素(INVITROGEN(登録商標)、Life Technologies, Rockville, MD)を用いて標準の方法に従って行った。濃度は、RIBOGREEN(登録商標)を用いて決定した。全てのRT反応物は0.15ng/μlに希釈し、各RTの1μlを半定量的RT−PCRに用い、実験を通して等負荷のためにGAPDHまたはHPRT制御を用いた。サンプル標的のPCR増幅は、エクソン/イントロン境界に渡る生成物を産生するためにデザインされたプライマーを用いて完了させた。RNAの制御増幅から逆転写酵素を差し引くと、試験した任意のプライマー対に対する生成物はいずれも産生されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己複製多能性遅延周期細胞を単離する方法であって、サンプルから細胞集団を得ること、CD34の存在および各細胞により発現された選択された遅延周期細胞マーカーの量に基づき、該細胞集団を分類することにより、自己複製多能性遅延周期細胞を単離することを含む、前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により単離された細胞。
【請求項3】
細胞が、特定系統に関与する細胞に関連するマーカーの発現の増加を欠いている、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
細胞が、古典的幹細胞に関連するマーカーの発現の増加を欠いている、請求項2に記載の細胞。
【請求項5】
細胞が、表皮細胞、神経細胞、またはグリア細胞に分化する、請求項2に記載の細胞。
【請求項6】
請求項2に記載の細胞を含む、クローン集団。
【請求項7】
自己複製多能性遅延周期細胞を単離する方法であって、
a)遅延周期細胞中で活性化されているプロモーターに動作可能に結合する調節可能転写因子をコードする核酸配列を、細胞中に導入すること;
b)前記調節可能転写因子が結合する調節されたプロモーターに動作可能に結合するレポータータンパク質をコードする核酸配列を、前記細胞中に導入すること;
c)前記調節可能転写因子を活性化して、前記レポータータンパク質の発現を増加させること;
d)前記調節可能転写因子を不活性化して、前記レポータータンパク質の発現を減少させること;
e)細胞集団を産生するために、前記細胞を十分な時間インキュベートして、1または2以上の細胞周期を経るようにすること;
f)前記細胞集団中のレポーターの量を検出すること;
g)前記細胞集団を、各細胞中に存在するレポーターの量により分類すること;
を含み、
ここで分類された細胞が増加したレベルのレポーターを含んでいることが、前記分類された細胞が自己複製多能性遅延周期細胞であることを示す、前記方法。
【請求項8】
ステップ:
h)細胞集団を、CD34の存在および選択された遅延周期細胞マーカーの量に基づき分類すること;
をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法により単離した細胞。
【請求項10】
請求項8に記載の方法により単離した細胞。
【請求項11】
細胞が、特定系統に関与する細胞に関連するマーカーの発現の増加を欠いている、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
細胞が、古典的幹細胞に関連するマーカーの発現の増加を欠いている、請求項10に記載の細胞。
【請求項13】
細胞が、表皮細胞、神経細胞、またはグリア細胞に分化する、請求項9に記載の細胞。
【請求項14】
細胞が、表皮細胞、神経細胞、またはグリア細胞に分化する、請求項10に記載の細胞。
【請求項15】
請求項9に記載の細胞を含む、クローン集団。
【請求項16】
請求項10に記載の細胞を含む、クローン集団。
【請求項17】
自己複製多能性細胞のクローン集団を産生する方法であって、選択され単離された自己複製多能性遅延周期細胞を、約0.2mM〜0.5mMのカルシウムおよび繊維芽細胞層の存在下でインキュベートして、自己複製多能性細胞のクローン集団を産生することを含む、前記方法。
【請求項18】
選択された細胞の増殖を阻害する方法であって、選択された細胞を、有効量のBMP6またはFGF−18と接触させ、これによって前記選択された細胞の増殖を阻害することを含む、前記方法。
【請求項19】
非ヒトトランスジェニック動物モデルであって、そのゲノムが、長命レポータータンパク質をコードする核酸配列にさらに動作可能に結合する最少プロモーターの核酸配列に動作可能に結合するテトラサイクリン応答エレメントの核酸配列を含む導入遺伝子を含む、前記非ヒトトランスジェニック動物モデル。
【請求項20】
動物モデルが、テトラサイクリン応答エレメントに結合してレポータータンパク質を発現するテトラサイクリン応答性転写因子をコードする核酸配列に動作可能に結合する調節されたプロモーターの核酸配列を含む導入遺伝子を、さらに含む、請求項19に記載の非ヒトトランスジェニック動物モデル。

【公表番号】特表2007−512017(P2007−512017A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541278(P2006−541278)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037925
【国際公開番号】WO2005/054445
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(503466819)ザ ロックフェラー ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】