説明

自己T細胞ワクチン材料および方法

【課題】本発明は、改良された自己T細胞ワクチンおよびそれらの産生方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、改良された自己T細胞ワクチンおよびそれらの産生方法に関する。本発明は、自己T細胞ワクチンを用いて、多発性硬化症および慢性関節リウマチのようなT細胞関連疾患を処置するための方法に関する。1つの実施形態において、本発明のT細胞を含む複数の単核細胞が、前記患者の末梢血(PBMC)から得られる。なお別の実施形態において、これらの複数の単核細胞が、前記患者の脳骨髄液(CSFMC)から得られる。1つの実施形態において、本発明における1つ以上の多発性硬化症関連抗原は、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドリポタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質またはそれらのフラグメントからなる群より選択されるミエリン抗原である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書中に報告された研究は、部分的にNIHの助成金番号NS36140によって補助された。
【0002】
(発明の背景)
ミエリン抗原(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)を含む)に対する自己免疫T細胞応答が、多発性硬化症(MS)の病因に関与することを示唆する、ますます増えつつある証拠が存在する(非特許文献1:Stinissenら,Crit.Rev.Immunol.1997;17:33−75)。MBP反応性T細胞は、インビボでの活性化を受けることが見出されており、そしてMS患者の血液および脳脊髄液中に高い前駆体頻度で生じる(非特許文献2〜4:Zhangら,J.Exp.Med.,1994;179:973−984;Chouら,J.Neuroimmunol.,1992;38:105−114;Allegrettaら,Science,1990;247:718−721)。これらのMBP反応性T細胞は、炎症促進性(pro−inflammatory)Th1サイトカイン(IL−2、TNF−αおよびγ−インターフェロン)を産生し、そして中枢神経系においてミエリン破壊性炎症を促進すると考えられている(非特許文献5および6:Shariefら,N.Engl.J.Med.,1991;325:467−472;Selmajら,J.Clin.Invest.,1991;87:949−954)。MBP反応性T細胞が、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)(MSについて動物モデル)を誘発し得ることが示されている(非特許文献7:Ben−Nunら,Eur.J.Immunol.,1981;11:195−204)。EAEはまた、化学処理もしくは照射によって不活化されたMBP反応性T細胞の反復接種(T細胞ワクチン接種と呼ばれる処置手順)によって、予防または治療され得る(非特許文献8:Ben−Nunら,Nature,1981;292:60−61)。T細胞ワクチン接種が、抗イディオタイプT細胞および抗エルゴタイプ(anti−ergotypic)T細胞からなる調節性免疫応答を誘発し、これは、EAEおよび他の実験自己免疫疾患モデルに対する処置効果に寄与することが実証されている(非特許文献9および10:Liderら,Science,1988;239:820−822;Lohseら,Science,1989;244:820−822)。
【0003】
T細胞ワクチン接種は、MBP反応性T細胞の枯渇が、この疾患の臨床経過を改善し得るという仮説に基づいて、MS患者における臨床試験に近年進んでいる。先行臨床試験では、本発明者らは、照射した自己MBP反応性T細胞クローンのワクチン接種が、ワクチン接種に用いられるMBP反応性T細胞を特異的に認識および溶解するCD8+細胞溶解性T細胞応答を惹起することを実証した(非特許文献11および12:Zhangら,Science,1993;261:1451−1454,Medearら,Lancet 1995:346:807−808)。照射したMBP反応性T細胞クローンでの3つの皮下接種は、MS患者における循環するMBP反応性T細胞の枯渇をもたらした。T細胞ワクチン接種によるMBP反応性T細胞の枯渇は、再発軽減患者における、再発率、拡大障害スケールスコア(expanded disability scale score;EDSS)およびMRI病変活性の低減によって実証されるように、臨床的改善と相関するようであった(Medaerら,1995)。研究したMS患者の制限した数に起因して、この先行試験から結論は出せなかったが、優れた安全性プロフィールおよび潜在的臨床利益は、さらなる臨床調査を推奨した。この予備的な臨床試験を行って、循環するMBP反応性T細胞の枯渇が、MS患者に臨床的に有利であるか否かを調査した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Stinissenら,Crit.Rev.Immunol.1997;17:33−75
【非特許文献2】Zhangら,J.Exp.Med.,1994;179:973−984
【非特許文献3】Chouら,J.Neuroimmunol.,1992;38:105−114
【非特許文献4】Allegrettaら,Science,1990;247:718−721
【非特許文献5】Shariefら,N.Engl.J.Med.,1991;325:467−472
【非特許文献6】Selmajら,J.Clin.Invest.,1991;87:949−954
【非特許文献7】Ben−Nunら,Eur.J.Immunol.,1981;11:195−204
【非特許文献8】Ben−Nunら,Nature,1981;292:60−61
【非特許文献9】Liderら,Science,1988;239:820−822
【非特許文献10】Lohseら,Science,1989;244:820−822
【非特許文献11】Zhangら,Science,1993;261:1451−1454
【非特許文献12】Medearら,Lancet 1995:346:807−808
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、自己T細胞ワクチンを産生するための方法、これらの方法によって産生されたT細胞ワクチン、およびこれらのワクチンを用いてT細胞関連疾患を処置するための方法に関する。本発明の1つの局面は、自己T細胞ワクチンの産生および多発性硬化症を処置するためのこれらのワクチンの使用に関する。本発明の別の局面は、T細胞ワクチンでの慢性関節リウマチの処置に関する。
【0006】
その局面の別のものでは、本発明は、自己T細胞ワクチンを含む。
【0007】
本発明の好ましい実施形態は、直接増大法(direct expansion method;DEM)と呼ばれる方法によって調製される自己T細胞ワクチンを含む。直接増大法は、T細胞ワクチンを調製するための、より迅速で、より容易で、そして費用対効果のより優れた方法を提供する。この直接増大法は、ミエリンタンパク質またはそのフラグメントに反応性であると同定されたT細胞が、5以上の刺激指数(S.I.)を有する場合、ワクチン産生のための好ましい方法である。この直接増大法は、処置されるべきMS患者から、末梢血単核細胞(PBMC)または患者の脳脊髄液由来の単核細胞(CSFMC)を得る工程を含む。次いで、この患者から得られたPBMCまたはCSFMCは、多発性硬化症関連抗原(例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)またはMBPの1以上の免疫原性フラグメント)の存在下でインキュベートされる。本発明の実施において有用な他の多発性硬化症関連抗原としては、ミエリンプロテオリピドリソタンパク質(lysoprotein)、ミエリン稀突起神経膠細胞糖タンパク質およびグラチラマー(glatiramer)、ならびにそれらのフラグメントが挙げられる。より好ましい実施形態では、この免疫原性フラグメントまたはMBPのフラグメントは、免疫優性フラグメントである。最も好ましいMBPフラグメントとしては、MBPのアミノ酸83〜99に対応するフラグメントおよびMBPのアミノ酸151〜170に対応するフラグメントが挙げられる。本発明のさらに他の実施形態では、細胞が、多発性硬化症関連抗原および/またはそのフラグメントを考慮することなく、インキュベートされ得る。MBPまたはそのフラグメントとのインキュベーション後、次いで、PBMCまたはCSFMCは、MBPおよび/またはそのフラグメントとともに、抗原提示細胞(APC)の存在下で再度インキュベートされる。本発明の実施において使用するために好ましい抗原提示細胞としては、その患者から得られた、照射したPBMCが挙げられる。次いで、このようにして処理された細胞は、マイトジェン(好ましくは、フィトヘマグルチニン)およびIL−2を用いた交互の刺激サイクルに供される。本発明のプロセスにおいて有用な他のマイトジェン性分子としては、コンカナバリンAおよびヨウシュヤマゴボウマイトジェンが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の実施において有用な他のマイトジェン性分子としては、T細胞表面レセプターに対する抗体(例えば、CD3に対するモノクローナル抗体)が挙げられる。交互の刺激サイクルは、1回以上繰り返され得る。
【0008】
本発明はまた、自己T細胞ワクチンを用いてMSを処置するための方法に関する。この方法は、その必要がある患者に、有効用量の自己T細胞ワクチンを投与する工程を包含する。好ましい投薬量は、約40×10〜約80×10細胞を含む。このワクチンは、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内および皮下を含むがこれらに限定されない多数の投与経路のいずれかを介して投与され得る。皮下注射は、このワクチンの好ましい投与経路である。本発明に関する有効用量は、その患者の循環中のミエリン反応性T細胞の数または前駆体頻度の低減をもたらすに必要な投薬量である。他の有効性のしるしとしては、EDSSにおける低減を含め、広範に知られている基準によって測定した場合の、またはEDSSにおける増大を予防することによる、またはEDSSの進行を遅延させることによる、この疾患の臨床的原因の変化が挙げられる。有効性の他のしるしとしては、臨床的増悪の速度の低減、またはMRIもしくは他の診断方法論によって検出した場合の、脳病変のサイズの安定化もしくは低減が挙げられる。
【0009】
同様に、本発明はまた、本明細書中に記載されるとおりに調製されたT細胞ワクチンを用いて慢性関節リウマチを処置するための方法を包含する。
【0010】
本発明の別の実施形態は、自己T細胞ワクチンおよび「クローニング方法」によってワクチンを産生するための方法を提供する。このクローニング方法は、ミエリン塩基性タンパク質またはそのフラグメントに対して反応性であると同定され、そして5未満の刺激指数を有するT細胞の場合に好ましい。
【0011】
このクローニング方法は、MBPもしくはミエリンプロテオリピドリポタンパク質、ミエリン稀突起神経膠細胞糖タンパク質、グラチラマーおよび/または本明細書で上記のうちのいずれかのフラグメントに対して反応性であるT細胞株を同定する工程を包含する。5未満のS.I.を有するT細胞株は、限界希釈によってクローニングされる。方法は、PBMCまたはCSFMCを、MBPまたはそのフラグメント(好ましくは、アミノ酸83〜99に対応するフラグメントおよびアミノ酸151〜170に対応するフラグメント)とともに7日間、培地を交換せずにインキュベートすることによって、MBPおよび/またはそのフラグメントと反応性のT細胞を入手する工程を包含する。全てのウェル由来の約50%は、2つのウェル(抗原ウェルおよびコントロールウェル)に均等に分割される。両方のウェルセットにおける細胞は、この抗原ウェルに上記のMBPまたはそのフラグメントを入れながら、APC(照射した新鮮PBMCまたは照射した解凍PBMC)とともに、5% v/vヒトAB血清を含む培地中でインキュベートされる。この刺激指数(S.I.)は、本明細書中に記載されるとおりの[H]チミジン取り込み増殖アッセイを用いて決定される。次いで、抗原を含み、5未満のS.I.を有するウェルは、限界希釈を用いてクローニングされ、ここで、T細胞株に対して反応性の各細胞は、プールされ、希釈され、そしてウェル中に、レクチン(好ましくは、フィトヘマグルチニン(PHA))およびAPCを伴った、10%ヒトAB血清およびインターロイキン(好ましくは、インターロイキン2)を含む培地中に1ウェルあたり約0.3細胞〜約20細胞の密度で播種される。次いで、培養培地は、3〜4日毎に、IL−2を含む培地と交換される。約14日後、細胞のS.I.は、上記の通り、再度試験される。次いで、細胞は、MBP(またはそのフラグメント)およびPHAを用いた交互の刺激サイクルによって増大される。
【0012】
本発明はまた、他のT細胞関連障害(例えば、慢性関節リウマチ)の処置において有用な自己T細胞ワクチンに関する。このようなT細胞ワクチンの調製および使用は、MSの処置について上記に記載された自己T細胞ワクチンの調製および使用と類似している。しかし、T細胞の最初の供給源は、慢性関節リウマチ患者の滑液である。しかし、MSについてのワクチンの調製とは異なり、滑液由来のT細胞は、PHA;CD3に対するモノクローナル抗体または他のマイトジェンによる刺激を受け、そしてMSに関連した抗原での刺激には供されない。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する。
(項目1)
多発性硬化症の処置のための自己T細胞ワクチンであって、以下の工程:
a)該ワクチンで処置すべき患者からT細胞を含む複数の単核細胞を得る工程;
b)1つ以上の多発性硬化症関連抗原、またはそれらの1つ以上のフラグメントの存在下でT細胞をインキュベートする工程;
c)工程b)において得られたT細胞を、抗原提示細胞APCおよび該多発性硬化症関連抗原、またはそれらのフラグメントで刺激する工程;
d)工程c)のT細胞を、該多発性硬化症関連抗原、またはそれらのフラグメントで刺激する工程;
e)工程d)のT細胞を、IL−2の存在下でマイトジェンを用いて刺激する工程;
f)工程d)およびe)を、1回以上繰り返す工程、
を包含するプロセスによって作製される、T細胞ワクチン。
(項目2)
前記複数の単核細胞が、前記患者の末梢血(PBMC)から得られる、項目1に記載の
T細胞ワクチン。
(項目3)
前記複数の単核細胞が、前記患者の脳骨髄液(CSFMC)から得られる、項目1に記
載のT細胞ワクチン。
(項目4)
前記1つ以上の多発性硬化症関連抗原が、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドリポタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質またはそれらのフラグメントからなる群より選択されるミエリン抗原である、項目1に記載のワクチン。
(項目5)
IL−2が、工程c)、d)、e)およびf)の各々においてT細胞に添加される、請求項1に記載のワクチン。
(項目6)
ミエリン塩基性タンパク質の前記免疫原性フラグメントが、ミエリン塩基性タンパク質のアミノ酸83〜99およびアミノ酸151〜170からなる群から選択される、項目1
に記載のワクチン。
(項目7)
前記APCが、放射線照射した、前記処置すべき患者から得られたPBMCまたはCSFMCである、項目1に記載のワクチン。
(項目8)
前記マイトジェンが、植物性血球凝集素、コンカナバリンA、アメリカヤマゴボウマイトジェン、およびCD3に対するモノクローナル抗体からなる群より選択される、項目1
に記載のワクチン。
(項目9)
ヒトにおける多発性硬化症を処置するための方法であって、該方法は、多発性硬化症を有する患者に、項目1、2、3、4、または5に記載の自己T細胞ワクチンの有効量を投
与する工程を包含する、方法。
(項目10)
前記T細胞ワクチンの有効量が、前記患者の循環におけるミエリン反応性T細胞の数を減少させるのに十分な容量である、項目6に記載の方法。
(項目11)
多発性硬化症の処置のための自己T細胞ワクチンを調製する方法であって、該自己T細胞ワクチンが、以下の工程:
a)該ワクチンで処置すべき患者からT細胞を含む複数の単核細胞を得る工程;
b)1つ以上の多発性硬化症関連抗原、またはそれらの1つ以上のフラグメントの存在下でT細胞をインキュベートする工程;
c)工程b)において得られたT細胞を、抗原提示細胞APCおよび該多発性硬化症関連抗原、またはそれらのフラグメントで刺激する工程;
d)工程c)のT細胞を、該多発性硬化症関連抗原、またはそれらのフラグメントで刺激する工程;
e)工程d)のT細胞を、IL−2の存在下でマイトジェンを用いて刺激する工程;
f)工程d)およびe)を、1回以上繰り返す工程、
を包含するプロセスによって作製される、方法。
(項目12)
前記複数の単核細胞が、前記患者の末梢血(PBMC)から得られる、項目11に記載
の方法。
(項目13)
前記複数の単核細胞が、前記患者の脳骨髄液(CSFMC)から得られる、項目11に
記載の方法。
(項目14)
前記1つ以上の多発性硬化症関連抗原が、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドリポタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト、糖タンパク質またはそれらのフラグメントからなる群より選択される、項目11に記載の方法。
(項目15)
IL−2が、工程c)、d)、e)およびf)の各々においてPCMBに添加される、請求項11に記載の方法。
(項目16)
ミエリン塩基性タンパク質の前記免疫原性フラグメントが、ミエリン塩基性タンパク質のアミノ酸83〜99およびアミノ酸151〜170からなる群から選択される、項目1
1に記載の方法。
(項目17)
前記APCが、放射線照射した、前記処置すべき患者から得られたPBMCである、請求項11に記載の方法。
(項目18)
前記マイトジェンが、植物性血球凝集素、コンカナバリンA、アメリカヤマゴボウマイトジェン、およびCD3に対するモノクローナル抗体からなる群より選択される、項目1
1に記載の方法。
(項目19)
多発性硬化症を処置するための方法であって、該方法は、多発性硬化症を処置する必要のある患者に、項目1に記載の自己T細胞ワクチンを投与する工程を包含する、方法。
(項目20)
多発性硬化症を処置するための方法であって、該方法は、多発性硬化症を処置する必要のある患者に、項目11に記載の方法によって調製された自己T細胞ワクチンを投与する
工程を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ワクチン接種の前と後とでの、循環しているMBP反応性T細胞の、評価した前駆体頻度における変化を図示する。前駆体頻度を、ワクチン接種プロトコルの前およびワクチン接種プロトコルの完了の2〜3ヶ月後に全ての患者において評価した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
MBP反応性T細胞は、インビボでの活性化およびクローン性増殖を受け、そして所定の個体において、制限されたT細胞レセプターV遺伝子使用法を発現するが、MBP反応性T細胞のT細胞レセプターは、高度に多様化しており、そして異なるMS患者の間で変化している(Vandevyverら,Eur.J.Immunol.,1995;25:958−968,Wucherpfennigら,J.Immunol.,1994;152:5581−5592,Hongら,J.Immunol.,1999;163:3530−3538)。それゆえ、MS患者においてMBP反応性T細胞を有効に枯渇するための現在のストラテジーは、個別化されるべき処置を必要とする。本発明は、このような個別化された処置を提供し、そしてより有効な、より長期間持続するワクチンを提供するように、個々の患者内でのT細胞の多様性を考慮に入れる。
【0016】
以前の研究(Zhangら,J.Immunol.,1993;164:4011−4017,Medaerら,1995)と一致して、本明細書中のデータは、自己のMBP反応性T細胞でのワクチン接種が、患者を免疫して、循環しているMBP反応性T細胞を枯渇させる、一貫した、そして強力な手段を提供することを確認する。T細胞ワクチン接種によって誘導される免疫調節の基礎となる機構は、完全には理解されていないが、T細胞ワクチン接種が、複数の調節性ネットワークに対して作用してCD8+抗イディオタイプT細胞応答(Zhangら,1993,Zhangら,1995)およびTh2免疫偏移(Zhangら,2000)を誘導し得ることがますます明らかになっている。特に、T細胞ワクチン接種によって誘導されるこれらの抗イディオタイプT細胞は、T細胞レセプターの可変領域を認識して、免疫T細胞を溶解することが示された。T細胞レセプターは、MBP反応性T細胞の枯渇を担う優性な免疫調節を表す(Zhangら,2000)。T細胞ワクチン接種によって誘導されたこれらの調節性応答が、MSにおけるT細胞ワクチン接種の有益な効果に潜在的に寄与すると考えられる。
【0017】
ミエリン反応性T細胞と、MSにおける疾患プロセスとの間の潜在的関連を示唆する間接的な証拠が存在する(Zhangら,1994 Chouら,1992,Allegrettaら,1990)が、MSの病因におけるミエリン反応性T細胞の役割を確立または拒絶することは困難である。これに関して、T細胞ワクチン接種は、ミエリン反応性T細胞の枯渇が、MSの臨床的経過に対して有利な影響を与えるか否かを評価するための、独特の機会を提供する。
【0018】
本明細書に記載される実施例は、MSの処置のためにクローン選択法によって調製される自己T細胞ワクチンおよび直接的増大方法によって調製される自己T細胞ワクチンの使用を記載する。本明細書中に提示されるデータは、T細胞ワクチン接種と、改善された臨床的変数との好ましい相関を示す。第1に、この結果は、MBP反応性T細胞の枯渇が、再発−軽減およびSP−MSコホートの両方において、MSおよび所望の増大方法によって調製される自己T細胞ワクチンの通常の病歴と比較して、進行に長期間かかることと一致することを示す。しかし、加速した進行傾向が、最後の注射の12ヵ月後に、何人かの患者において観察されたことに留意すべきである。この明らかな加速した進行の重要性は未知であるが、これは、MBP反応性T細胞に対してT細胞ワクチン接種によって最初に誘導された免疫が徐々に低減することと関連し得る。実際、免疫した患者のうちの約10〜12%において、MBP反応性T細胞は、その時点の辺りで、再度出現した。このことは、この可能性を示唆する。いくつかの場合、再度出現するMBP反応性T細胞は、ワクチン接種前には検出されなかった異なるクローン集団から生じ、このことは、以前の研究においても観察された(Zhangら,1995)。この知見は、MBP反応性T細胞が、進行中の疾患プロセスと潜在的に関連したクローンシフトまたはエピトープ拡散(Touhyら,J.Exp.Med.,1999;189:1033)を受け得ることを示唆する。この観察は、適切な免疫を維持するために、同じまたは新たに出現したT細胞クローンでのさらなるブースター注射が必要であり得ることを示唆する。これはまた、起源がポリクローナル性であるT細胞ワクチン(例えば、本明細書中に記載される直接増大法によって提供されるもの)を提供して、その結果、クローンシフトまたはエピトープ拡散に伴う課題を回避することが有用であり得ることを示唆する。なぜなら、このようなワクチンによって認識され得る特許されたエピトープアレイは、クローン化集団によって認識されたアレイよりも大きいからである。
【0019】
本発明のT細胞ワクチンで処置した患者の毎年のMRI検査は、最初の年に、MRI病変活性におけるわずかな減少を示し、そして2年目にほんの3.3%の増加を示した。MRIの知見は、T細胞ワクチン接種で処置した患者における顕著な安定化を示唆し得る。MRIの知見は、進行が、最初は時間的に遅延して、次いで2年目に明らかに加速することと一貫し、これは、T細胞ワクチン接種の最初の影響が、2年目に消失した可能性を強化する。
【0020】
本発明の方法はまた、ワクチン接種した患者における再発の年率およびEDSSを含め、他の臨床的変数における好ましい変化をもたらした。このことは、MSの臨床的経過に対するT細胞ワクチン接種の有益な効果を示唆する。この研究の結果は、先行臨床試験(Medaerら,1995)において報告された知見とほぼ一貫している。しかし、他の臨床的変数とは対照的に、EDSSによって測定したところ、臨床的障害に対するT細胞ワクチン接種の影響は、両方の研究群において最小であった。これは、比較的短期間(24ヶ月)にわたる変化を測定することについてのEDSSの感度の欠如を反映し得る。自己免疫成分がT細胞ワクチン接種によって除去または抑制された後でさえ、炎症病変が消散するまでに依然として長期間かかり得、そして既存の組織損傷の一部は永続性である可能性もまた、存在する。これらの結果を考慮すると、本発明は、MSの処置のための自己T細胞ワクチン、ならびにMSの処置のためにこのワクチンを使用するための方法を提供する。
【0021】
本明細書中に報告される臨床的結果が、患者自身の処置前状態ならびに以前のMS試験において実証されたMSの通常の病歴の評価と比較され、プラシーボコントロールと比較されていないことが指摘されるべきである。本研究はまた、本研究のオープンラベル臨床的設計に関連した潜在的プラシーボ効果によって制限される。それゆえ、本研究は、MSにおけるT細胞ワクチン接種の役割に有利な重要な臨床的指標を提供したとはいえ、T細胞ワクチン接種の処置効力は、二重盲検およびプラシーボでコントロールした臨床試験において最良に評価される。
【0022】
本発明はまた、自己T細胞ワクチンの調製のための新規な方法を提供する。この方法は、より初期のT細胞ワクチンよりも調製が容易であって、患者における改善された免疫学的応答を協調して提供するように作用し得る不均質細胞集団(非クローン性)を提供し、そしてエピトープ拡散またはクローンシフトについての潜在的問題を回避し、そして疾患を担う、より多様性の大きなT細胞をより良く除去するように設計される。
【実施例】
【0023】
(実施例1:MS患者の血液中のMBP反応性T細胞の頻度の評価)
MS患者の血液中のMBP反応性T細胞の頻度を、Zhangら,1994,Zhangら,1993,Medaerら,1995(これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)によって記載される方法を用いて評価した。各場合、細胞の処理および細胞培養のために用いた材料は、厳密に自己であった。末梢血単核細胞(PBMC)を、ヘパリン処理した静脈血から、標準的なFicoll勾配分離によって調製した。これらのPBMCを、2つの免疫優性領域(アミノ酸残基83〜99およびアミノ酸残基151〜170,Tejada−Simonら,Eur.J.Immunol.,2001,Mar;31(3)907−917)に対応するヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)の2つの合成ペプチド(それぞれ、20μg/mlの濃度)の存在下で、10%熱不活化自己血清および50IU/mlの組換えインターロイキン−2(IL−2)を補充したRPMI 1640(Hyclone,Logan,Utah)中に(合計96ウェルについて)200,000細胞/ウェルでプレーティングした。インキュベーションを、37℃で行った。7日後、全ての培養物を、パルス照射した自己PBMC(凍結または新鮮)で再刺激した。使用の前に、PBMCのパルス処理を、PBMCを100μg/mlの濃度の各ペプチドとともに37℃で3時間インキュベートすることにより行い、続いて60Co供給源で4,000ラドで照射した。さらに1週間のインキュベーション後、各培養物を、MBPペプチドに応答した特異的増殖について、以下に記載の増殖アッセイにおいて試験した。
【0024】
手短に述べると、各ウェルを、4つのアリコートに分け(1アリコートあたり約10細胞)、そして上記のMBPペプチドの存在下または不存在下(コントロール)において、10個のパルス照射した自己PBMCとともに2連で培養した。培養物を、3日間インキュベートし、そして最後の16時間の培養の間、[H]−チミジン(Amersham,Arlington Heights,IL)で1ウェルあたり1μCiでパルスした。次いで、細胞を、自動化細胞収集機を用いて収集し、そして[H]−チミジン取り込みを、βプレートカウンター中で測定した。細胞中に取り込まれたH−チミジンの1分間あたりのカウントが、1,500よりも多く、そしてコントロール(ペプチドの不存在下)の1分間あたりのカウントを少なくとも3倍超えた場合、細胞を、MBPペプチドについて反応性と定義した。次いで、充分な反応性を示すウェルの数を、最初の培養物中に播種したPBMCの総数(19.2×10細胞)によって除算することによって、MBP反応性T細胞の頻度を評価した(例えば、Zhangら,1994,Zhangら,1993,Medaerら,1995を参照のこと)。同じ算出方法を一貫して用いて、本研究全体を通してのMBP反応性T細胞の頻度の変化を比較した。
【0025】
図1に示すように、これらのMS患者において検出された循環しているMBP反応性T細胞の頻度は、約14×10−5であった。これは、Zhangら,(1994)、およびOtaら,Nature,346:183−187(1990)によって報告された約10×10−5の頻度と匹敵する(実施例5も参照のこと)。
【0026】
(実施例2:T細胞ワクチン接種のためのミエリン反応性T細胞の作製)
(PBMCの調製および一次刺激)
新鮮な血液標本を、収集2時間以内に処理した。あるいは、単核細胞は、MS患者の脳脊髄液(CSFMC)から入手され得る。末梢血単核細胞(PBMC)を、標準的なFicoll勾配分離法によって、全血から単離した。特に、ヘパリン処理した血液をハンクス平衡塩溶液(HBSS)(1:1の血液/HBSS)で希釈し、次いで遠心管中のFicoll−hypaque溶液上にゆっくりと重層した。そして1800rpmで18℃〜25℃、ブレークなしで20分間遠心分離する。次いで、PBMCを、過剰のHBSSを添加して1700rpmで10分間、18℃〜25℃で遠心分離することによって洗浄した。精製したPBMCを、遠心分離によってRPMI 1640培地中で3回洗浄し、続いてAIM V培地(Gibco,Grand Island,N.Y.)中に再懸濁した。細胞数を数え、そして細胞を、200,000細胞/ウェルの濃度で96ウェルU字底型培養プレート上にプレーティングした。全てのプレートを、患者数および患者のイニシャルでラベルした。実施例1で考察したミエリンペプチドを、それぞれ、20μg/mlでこの培養物に添加した。プレートを、COインキュベーター中に配置し、そして毎日目視試験試験した。細胞を、培養培地を交換することなく7日間培養して、ペプチド特異的T細胞を選択的に増殖させた。
【0027】
(MBPペプチド特異的T細胞株の同定および選択)
全てのウェル由来の細胞の約50%を取り出し、そして2つのウェル(抗原ウェルおよびコントロールウェル)に均等に分けた。新鮮なPBMCまたは解凍したPBMCを、8,000(60Co源を用いる)ラドで照射し、そして供給源の抗原提示細胞(APC)として、100,000細胞/ウェルで用いた。細胞を、5%ヒトAB血清を含むRPMI 1640中で培養した。上記の実施例1に記載されるミエリンペプチドを、それぞれ、20μg/mlで、この抗原ウェルに対して添加した。ミエリンペプチドを含まない培地を、一対のコントロールウェルに対して添加した。あるいは、以下によって記載されるものを含め、他の多発性硬化症関連抗原(すなわち、ミエリン抗原および/またはそのフラグメント)を用い得る:Markovic−Pleseら,J.Immunol.,(1995),982−992(プロテオリピドタンパク質エピトープ);Genainら,J.Clin.Invest.,(1995),2966−2974;Kerlero de Rosboら,J.Clin.Invest.,(1993)92:2602−2608;Trotterら,J.Neuroimmunol.,(1998)84:172−178およびTrotterら,J.Neuroimmunol.(1997)75:95(ミエリンプロテオリピドタンパク質);Linderら,Brain,(1999)122:2089(ミエリン稀突起神経膠細胞糖タンパク質);およびJohnsonら,Neurol.(1995)45:1264(グラチラマー[コポリマー1])。本発明によってまた、上記の抗原および/またはそのフラグメントの組み合わせの使用が企図される。
【0028】
次いで、細胞を、自動化細胞収集機を用いて収集し、そして[H]チミジン取り込みをBetaplateカウンター中で測定した。対応するミエリンペプチドに対する各T細胞株/ウェルの反応性を、[H]チミジン取り込み増殖アッセイによって決定した。特に、各ウェル由来の細胞を、4つのアリコート(1アリコートあたり約10細胞)に分け、そして2連で、ミエリンペプチドの存在下および不存在下で、APCの供給源としての、照射した10個の自己PBMCとともに培養した。培養物を3日間インキュベートし、そして培養の最後の16時間の間、1μCi/ウェルの[H]チミジンでパルスした。この抗原ウェルの1分間あたりのカウント(cpm)/コントロールウェルのcpmの商が、3以上である;およびこの抗原ウェルの総cpmが1,500よりも大きいの両方である場合、T細胞株は、ミエリンペプチド特異的であると定義される。ミエリン反応性T細胞の頻度を、ポアッソンの統計学に従って評価した。同定されたミエリン反応性T細胞株の残りの50%の細胞を、照射したPBMCで、増大のために再刺激する。
【0029】
(選択したT細胞株/クローンの増大および確立)
T細胞株が、ミエリンペプチド反応性であると同定され、続いて、1回再刺激された後、これをさらに増殖して、以下の方法のうちの1つを用いて、ワクチン接種のために十分な細胞を産生する:直接増大法およびTクローン化方法。増殖方法の選択は、そのミエリンペプチドに対するT細胞株の特異性および反応性に依存する。これらの特異性は、刺激指数(SI)によって測定される。SIは、上記の[H]−チミジン取り込み増殖アッセイによる結果から計算される。SIは、抗原ウェルの1分間あたりのカウント(cpm)/コントロールウェルのcpmの商である。SIが5以上である場合、この直接増大法が用いられる。SIが5未満である場合、クローニング方法が用いられる。
【0030】
(直接増大法)
手短に述べると、次いで、5以上のS.I.を有すると同定されたミエリン反応性T細胞を、照射した自己PBMCの存在下で、対応するミエリンペプチドでの刺激サイクルとPHAでの刺激サイクルとを交互に行う、直接増大法(DEM)によって増大させた。各刺激サイクルを、7〜10日間実施した。より詳細には、上記のとおりに同定されたミエリン反応性T細胞を、照射したPBMC(APC)(1ウェルあたり100,000細胞)の存在下で、1ウェルあたり20,000〜40,000細胞でプレーティングした。それぞれ、対応するミエリンペプチドを抗原刺激サイクルのために20μg/mlで添加した。そしてPHAを各PHA刺激サイクルのために1μg/mlで添加する。組換えヒトIL−2もまた、刺激サイクルの2日目に100IU/mlで添加した。培養物を、10%ヒトAB血清および100IU/ml rIL−2を含むRPMI 1640培地で3〜4日毎にリフレッシュした。ミエリン反応性T細胞株を、総細胞数が約2000万個に達するまで、交互刺激サイクルで増殖させた。
【0031】
(DEMによって調製されたT細胞株の反応性)
【0032】
【数1】


このクローニング方法において、T細胞株を、限界希釈アッセイを使用してクローニングした。各ミエリンペプチド反応性T細胞株の細胞をプールし、そして10%ヒトAB血清および100IU/mLのrIL−2を含むRPMI 1640培養培地中に約0.3〜約20細胞/ウェルで播種した。PHAを1μg/mLで添加し、そして照射した自己APCを100,000細胞/ウェルで添加した。100IU/mLのrIL−2を含む培養培地RPMI 1640を、3〜4日毎に交換した。培養の14日後、増殖陽性ウェルをアッセイして、上記のような対応するミエリンペプチドに対する特異的反応性を決定した。これらのペプチド特異的T細胞株のさらなる増殖を、対応するミエリンペプチドおよびPHAを用いる代替的刺激サイクルにおいて、上記の直接的増殖方法に従って実施した。
【0033】
(実施例3)
(T細胞ワクチン接種による、MBP反応性T細胞の枯渇)
RR−MS(n=28)を有する患者およびSP−MS(n=26)を有する患者54人を、この非盲検研究のために採用した。これらの患者のベースラインの臨床的特徴を、表1に示す。各患者は、上記のように準備された2ヶ月間隔で、照射した自己MBP反応性T細胞クローン(このクローニング方法によって調製された)を用いる皮下注射の3つの過程を受けた。患者を、MBP反応性T細胞の前駆体頻度、再発率、EDSSおよびMRI病変活性における変化について、24時間モニタリングした。これらの結果を、自己対合様式でワクチン接種前の値と比較した。さらに、β−インターフェロン−1a臨床試験におけるRR−MS(Jacobsら、1996)および最近のβ−IFN−1b研究におけるSP−MS(European Study Group、Lancet、352:1491−1497(1988))の偽薬対照集団の臨床データを、比較のためのMSの自然歴データを提供するために含めた。この研究において記載される偽薬コントロール被験体のベースライン特徴は、より低い平均EDSS以外は、本明細書中に記載される患者集団研究のベースライン特徴と類似であった。
【0034】
図1に示されるように、そして実施例1に簡潔に記載されるように、ベースライン(14×10−5)にてこれらのMS患者において検出される循環MBP反応性T細胞の前駆体頻度は、以前の研究において報告された頻度(末梢血単核球中に約10×10−5)(Zhangら、1994、Otaら、1990)に高度に匹敵した。RR−MS集団とSP−MS集団との間のMBP反応性T細胞の前駆体頻度においては、有意な差異は見出されなかった。T細胞頻度は、92%の患者において検出不能であったか、または3つの過程のワクチン接種の終了後2〜3ヶ月に、残りの患者において実質的に減衰した(14×10−5 対 1.9×10−5、p<0.0001)。これらの結果により、MSを有する患者におけるT細胞ワクチン接種による、MBP反応性T細胞の枯渇を確認した。
【0035】
(実施例4)
(自己MBP反応性T細胞を使用するMS患者のワクチン接種)
54人のMSを有する患者を、この試験に参加させた。包括基準は、少なくとも2年間にわたる臨床的に明確なMS、RR−MSについて1.5〜6.5の、そして二次進行性MS(SP−MS)を有する患者について4.0〜8.0の、ベースラインの拡大身体障害状態スケール(EDSS)、および緩和−軽減MS(RR−MS)集団について、研究に入る前の過去2年間での少なくとも1回の再燃、であった。約25%の患者は、β−インターフェロンまたはグラチラマー(glatiramer)を用いた処置に対して応答または許容することに以前に失敗し、そして残りの患者は、研究に入る前の少なくとも1ヶ月間および研究の間中、これらの薬剤で処置されていなかった。これらの患者は、研究に参加する前の少なくとも3ヶ月間、いかなる免疫抑制薬物(ステロイドを含む)をも摂取していなかった。悪化が生じる場合には、ステロイドをこの研究の間に許容した。疲労、痙縮および膀胱病訴についての全身処置は、禁止しなかった。インフォームドコンセントを、実験手順の説明後に患者から得た。このプロトコルは、Institutional Human Subject Committee at Baylor College of Medicineによって承認された。
【0036】
ワクチン接種プロトコルは、以前の臨床研究において使用されたプロトコルと類似であった(Zhangら、1993、Medaerら、1995)。簡潔には、上記のクローニング方法によって調製したMBP反応性T細胞クローンを、アクセサリー細胞の供給源としての照射したPBMCの存在下で、フィトヘマグルチニン(PHA)(1μg/ml)を用いて予め活性化した。次いで、細胞を、10%心臓不活化自己血清および50単位のrIL−2を補充したRRIM 1640中で5〜6日間培養した。活性化MBP反応性T細胞を、引き続いて滅菌生理食塩水で3回洗浄して、残留PHAおよび細胞細片を除去した。照射(8,000rads、60Co源)後、細胞を、2mlの生理食塩水中に再懸濁し、そして2本の腕に皮下注射した(1ml/腕)。ワクチン接種のために使用したT細胞数は、1回の注射当たり40×10〜80×10細胞の範囲であり、そして相対的皮膚表面積基準で、実験動物において有効なT細胞用量の外挿によって選択した(Ben−Nunら、1981)。各患者は、2ヶ月間隔で3回の皮下注射を受けた。
【0037】
次いで、患者を、障害の進行、EDSS、再発率およびMRI病変活性の確認開始までの時間にわたり、観察した。これらの結果を、この患者自身の処置前の過程、ならびにRR−MS患者およびSP−MS患者における2つの最近の臨床試験の偽薬集団(これは、MSの自然歴の概算として働く)と比較した(Jacobsら、1996)、European Study Group、1998)。進行までの時間を、少なくとも2ヶ月間にわたって持続する、EDSSに対する少なくとも1.0の増加(Poserら、1983)によって決定した。研究中の悪化は、新たな神経学的症状の出現、または神経学的試験に対する客観的な変化(EDSSに対する少なくとも0.5ポイントの悪化)を伴う、少なくとも48時間続く既存の神経学的症状の悪化、によって定義した。患者に、計画された定期的な訪問の間の事象を報告するように指示し、そして症状が悪化を示唆した場合に、神経学者が患者を試験した。安全性評価は、定期的な訪問時の有害事象、バイタルサインおよび身体試験を含んだ。T細胞ワクチン接種の前後の研究患者における臨床的変数の差異を、Wilcoxonの順位和検定を使用して分析した。
【0038】
(実施例5)
(ワクチン接種後のMSの臨床過程の変化)
T細胞ワクチン接種による循環MBP反応性T細胞の枯渇がMSの臨床過程を変更するか否かを解決することを試みた。患者は、上記のように調製した自己T細胞ワクチンを受けた。幾人かの患者において注射部位で見られた弱く一過的な紅斑以外には、T細胞ワクチン摂取に伴う有害効果は存在せず、そして全ての患者を、外来診療所で処置した。表2に示されるように、平均EDSSは、ワクチン接種後24ヶ月間に亘って、RR−MSを有する患者において僅かに減少した(開始時3.21 対 終了時3.1)。比較として、β−IFN−1a試験を使用して実施された試験(Jacobsら、1996)において報告されたのと同じ観察期間にわたって、RR−MS(n=56)の自然歴において、平均EDSSが0.61増加した。さらに、EDSSを変化させなかったかまたは改善したのいずれかであった患者集団は、自然MS歴の患者集団と比較して、かなり高かった(75% 対 50%)。処置されたRR−MS群中の一人(3.5%)の患者だけが、MSの自然歴中の患者の18%と比較して、24ヶ月以内に2.0のEDSSを超えて進行した(表2)。
【0039】
SP−MS集団において、平均EDSSは、SP−MSの自然歴において記録された+0.6と比較して、24ヶ月間の期間にわたって僅かに進行した(+0.12)(European Study Group、Lancet、1988;352:1491−1497)。さらに、Kaplan−Meier法を使用して確認された進行までの時間の概算は、MS患者の自然歴(RR−MSについて12ヶ月およびSP−MSについて9ヶ月で、20%の進行)と比較して、かなりの遅延(両方の処置群について、18ヶ月で20%の進行)を示した(Jacobsら、Ann.Neurol、1996;39;285−294、European Study Group、1998)。しかし、進行は、両方の研究群において、18ヶ月後(最後のワクチン接種の12ヶ月後)に加速するようであった。
【0040】
(実施例6)
(臨床的悪化速度の変化)
表3に示されるように、再発の年率は、T細胞ワクチン接種後のRR−MSを有する患者において減少し、ベースラインの再発率からの40%の減少を示した。再発率における有意な差異は、処置の1年目と2年目との間には見出されなかった。比較として、再発の年率における25%の減少が、RR−MSの自然歴において観察された(Jacobsら、1996)。さらに、攻撃を示さないかまたは攻撃をほとんど示さない患者集団は、自然MS歴における患者集団よりもかなり高かった(表3)。再発率は、SP−MS集団において50%減少したが、本明細書中で試験した少数の二次進行性患者だけ(6/26)が、研究に入る前の2年間に再発した。
【0041】
(実施例7)
(画像共鳴像試験による脳病変活性)
画像共鳴像(MRI)を、ガドリニウム増強T2加重画像として実施した。より高い信号強度の領域を、半定量的様式でスコアリングした(Scheltenら、Brain 1992;115:735−748、Truyenら、J.Neurol.Sci.、1990;96:173−182)。このスコアリング方法は、増大した信号過剰強度(hyperintensity)を有する病巣のサイズおよび数の両方に関連するスコアを
生じた。信号過剰強度を、以下の領域においてスコアリングした:(i)前頭および後頭領域の脳室周囲、ならびに側脳室に対して平行;(ii)前頭、側頭、頭頂骨および後頭領域中の別々の葉性白質;(iii)脳幹神経節、尾状核、被殻、淡蒼球および視床、ならびに(iv)テント下領域、小脳、中脳、橋および髄質。病変を、以下のようにスコアリングした:直径0.5cm未満の病変には、スコア「1」を与え、0.5cmと1.0cmとの間には「2」を与え、1.0cmと1.5cmとの間には「3」を与え、1.5cmと2.0cmとの間には「4」を与えそして2.0cmより大きいものには「5」を与えた。融合性病変を、以下のように測定した:上記のような目的の領域の25%未満が異常な信号強度であるとみなされた場合、スコア「5」を与え、目的の可視化領域の50%より多くが罹患している場合には、25%および50%については「10」および「15」を与えた。次いで、これらの値を、「個々の」病変スコアに加算した。
【0042】
3つのガドリニウム増強T2加重MRI試験を、開始時(ベースライン)、12ヶ月目および終了時(24ヶ月)で実施して、疾患進行の指標として脳病変活性の変化をモニタリングした。異なる医療センターで実施されたいくつかのスキャンの技術的不適合性に起因して、34人の患者だけからのMRIスキャンを分析し得た。全てのMRIスキャンを、この臨床試験に関与しなかった外部の神経学者によって評価した。本発明者らの予備臨床試験および他の関連の研究において以前に使用した半定量的スコアリング方法を使用して、病変活性を評価した(Medaerら、1995、Scheltensら、1992、Truyenら、1990)。このスコアリング方法は、T2加重画像の増大した信号過剰強度を有する病巣のサイズおよび数の両方に関連するスコアを生じた。表4に示されるように、これらの結果は、試験した患者の70%において、MRI病変スコアが、病変スコアにおける少なくとも1ポイントの減少によって規定されるように、不変であったかまたは改善されたかのいずれかであったが、一方で残り30%の患者は、研究過程の間に増加した病変スコアを有したことを明らかにした。集団的に、平均MRI病変スコアにおける変化は、1年目には1.2%の減少を示したが、2年目にはベースラインMRIから3.3%の増加を示した。しかし、これらの変化は有意ではなかった(P>0.4)。これらの結果は、T細胞ワクチン接種に寄与する安定化またはいくらかの改善を反映し得る。なぜなら、MRI病変は、一般に、種々の臨床試験において報告されたように、未処置のRR−MA患者において1年基準で約10%進行するからである(European Study Group、1998、IFNB Multiple Sclerosis
Study Group、Neurol.、1993;43:655−661)。まとめると、これらの知見は、T細胞ワクチン接種によるMBP反応性T細胞の枯渇と試験したMS患者における臨床的改善との間の有利な相関を示唆する。
【0043】
本発明を、非限定的な実施例および好ましい実施形態によって記載してきたが、これらは、添付の特許請求の範囲に示される本発明の範囲を限定するとは意図されない。
【0044】
【表1】


β−INF−1a試験のプラシーボコントロール群[7]。β−INF−1b試験のプラシーボコントロール群[7]。
【0045】
【表2】


2年間の、ベースラインからのEDSSにおける個体内変化。β−INF−1a試験のプラシーボコントロール群[7]。β−INF−1b試験のプラシーボコントロール群[5]。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168618(P2011−168618A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119771(P2011−119771)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2007−171303(P2007−171303)の分割
【原出願日】平成14年9月12日(2002.9.12)
【出願人】(504051722)オペクサ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (4)
【出願人】(391058060)ベイラー カレッジ オブ メディスン (16)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
【Fターム(参考)】