説明

自然電位測定電極の鋭敏化処理方法

【課題】銅よりなる自然電位測定電極の感度を高くするための鋭敏化処理方法を提供する。
【解決手段】銅よりなる自然電位測定電極を鋭敏化処理液と接触させて鋭敏化する方法であって、該鋭敏化処理液が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物と、キレート剤とを含む。キレート剤としてはメチルグリシン二酢酸三ナトリウムが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然電位測定電極の鋭敏化処理方法に係り、詳しくは、水系に添加された酸化剤濃度の測定に使用される自然電位測定電極を鋭敏化するための処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場のプラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系、切削油水系等では、細菌や糸状菌や藻類等が原因となりスライム等が水系内に発生する。このスライム等は、熱効率の低下、通水配管等の閉塞、配管金属材質の腐食等の障害を引き起こす。
【0003】
このような障害を防ぐために、冷却水系等ではスライムコントロール剤等として次亜塩素酸塩などの酸化剤が用いられる。例えば、特許文献1には、冷却水系のスライム剥離処理に関するものとして、前段でヒドラジンを冷却水に含有させ、後段で次亜塩素酸やその塩を冷却水に含有させる技術が開示されている。
【0004】
また、塩素剤として結合塩素剤(安定化塩素剤)が用いられていることも多い。結合塩素剤を用いる場合、水系内で消耗されると塩素安定化剤として残留する。しかし、結合塩素剤は、冷却水負荷や周囲の環境等によって水系内での消耗速度が変化する場合がある。そのため、バッチタイマーや補給水比例等によって結合塩素剤の注入量を制御しようとしても、安定した濃度を維持することが難しいといった問題がある。
【0005】
このように、結合塩素の消耗量が多い系等では、実際の添加量に対して水系内での検出濃度が低下する傾向にある。そこで、有効な検出濃度を確保するために、薬剤の添加量を増やしたりするが、これによってコストがかかったり、水系内で消耗された結合塩素剤は塩素安定化剤として多量に残留してしまうことがあった。
【0006】
結合塩素剤を効果的に用いることができる水系処理剤の濃度制御方法として、遊離塩素を水系に発生させて、該水系の結合塩素の量を制御する水系処理剤の濃度制御方法が知られている。この方法によると、水系内に遊離塩素を発生させ、水系内に残留している塩素安定化剤と結合させて結合塩素とし、その結果、残留している塩素安定化剤を効果的に活用することができる方法である。この際、水系内の遊離塩素などの酸化剤濃度を一定範囲に制御することができれば、水系処理剤の濃度をより正確に制御し、水系の効率的な殺菌を行うことができる。
【0007】
特許文献2は、本発明では、水系内の酸化剤濃度を正確に制御する方法として、水系に浸漬した金属の自然電位を測定し、この自然電位に基づいて水系における酸化剤濃度を検知する方法が記載されている。金属の自然電位は、酸化剤濃度と正の相関性を有するため、金属の自然電位を測定し、この自然電位より、酸化剤濃度を検知することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−12042
【特許文献2】特開2010−115617
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2には、電極の材料としてステンレス、銅が挙げられている。本発明は、この銅よりなる自然電位測定電極の感度を高くするための鋭敏化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の自然電位測定電極の鋭敏化処理方法は、銅よりなる自然電位測定電極を鋭敏化処理液と接触させて鋭敏化する方法であって、該鋭敏化処理液が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)と、キレート剤とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の自然電位測定電極の鋭敏化処理方法は、請求項1において、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物がイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の自然電位測定電極の鋭敏化処理方法は、請求項1又は2において、前記疎水基が炭素数6〜18のアルキル基であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の自然電位測定電極の鋭敏化処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、キレート剤が有機系キレート剤であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明者が種々研究を重ねた結果、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物とキレート剤とを含む液を接触させることにより銅よりなる自然電位測定電極が鋭敏化し、同一酸化剤濃度の水に自然電位測定電極を浸漬した場合、当該処理を施してない電極に比べて出力電位が顕著に増大することが認められた。本発明はかかる知見に基づくものである。なお、この鋭敏化処理により、併せて電極の耐食性も向上することがある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、銅よりなる自然電位測定電極を鋭敏化処理液と接触させて鋭敏化する方法であって、該鋭敏化処理液が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)と、キレート剤とを含むものである。
【0018】
[疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物]
本発明で用いる疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物は、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物である。
【0019】
このような疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物としては特に制限はないが、以下に示すイミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリニウムカチオン環、イミダゾリウムカチオン環等の含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基Rが置換された、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物、イミダゾリウム塩系化合物が好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
なお、上記式中、含窒素不飽和5員環を構成する2位の炭素原子以外の原子に置換している水素原子は、他の置換基で置換されていても良い。例えば、上記イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリニウムカチオン環、イミダゾリウムカチオン環の1位の窒素原子にアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシルアルキル基などが置換されていても良い。ここで、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシルアルキル基の炭素数は1〜2であることが好ましい。
【0022】
含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に置換される疎水基としても十分な疎水性を付与し得るものであればよく、特に制限はないが、炭素数6〜18のアルキル基が好ましい。炭素数6〜18のアルキル基は、直鎖状であっても良く、分岐鎖を有するものであっても良く、環状であっても良いが、好ましくは直鎖状アルキル基である。
【0023】
このアルキル基の炭素数が5以下では疎水性が不足し、19以上では疎水性が高まりすぎて水に難溶性となる。アルキル基の炭素数は特に8〜17であることが好ましい。
【0024】
疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物としては具体的には次のようなものが挙げられるが、以下の化合物に何ら限定されるものではない。なお、以下において、疎水基としての炭素数6〜18のアルキル基を「C〜C18アルキル」と記載する。
【0025】
2−ヘキシルイミダゾール、2−ヘプチルイミダゾール、2−オクチルイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、2−デシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−トリデシルイミダゾール、2−テトラデシルイミダゾール、2−ペンタデシルイミダゾール、2−ヘキサデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−オクタデシルイミダゾール,2−C〜C18アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン,2−C〜C18アルキル−N−ヒドロキシエチル−N−カルボキシラートメチルイミダゾリニウム塩,2−C〜C18アルキル−N,N−ビスヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩、1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−C〜C18アルキル−イミダゾリウム塩
なお、上記イミダゾリニウム塩としては、塩化物塩(Cl塩)などがある。
【0026】
1位の窒素原子に親水性の基が付いていることが好ましい。
【0027】
これらの疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0028】
鋭敏化処理液の疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物の濃度は0.1〜100mg/L特に0.5〜30mg/L程度が好適である。
【0029】
[キレート剤]
本発明においては、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物とともに、従来公知のキレート剤の1種又は2種以上を併用する。キレート剤としては、有機系キレート剤が好適である。例えばニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)や、その塩(特にナトリウム塩)が挙げられる。
【0030】
鋭敏化処理液中のキレート剤の濃度は5〜5000mg/L特に40〜400mg/L程度が好適である。
【0031】
[その他の添加物]
上記の鋭敏化処理液は、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物を安定化させるためにアルコールやエーテルを含有してもよい。
【0032】
[鋭敏化処理手順]
銅電極を鋭敏化処理するに際しては、まず銅電極をトルエン等によって脱脂処理し、次いで硝酸によって表面の酸化物を除去し、純水で洗浄した後、上記処理液に浸漬し、必要に応じ処理液を撹拌する。処理液の液温は常温でよいが、加温してもよい。浸漬時間は10〜168hr特に12〜48hr程度が好ましい。この浸漬処理後、電極を液から取り出し、水洗及び乾燥することにより、鋭敏化処理された自然電位測定電極が得られる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0034】
[実施例1]
銅よりなる自然電位測定電極(直径10mm、長さ30mm)をトルエンで脱脂した後、常温の6%硝酸に1min浸漬した後、純水で洗浄した。
【0035】
次いで、この電極を、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物として2−アルキル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウム塩(炭素数10〜18のアルキル基)3mg/Lと、キレート剤としてメチルグリシン二酢酸三ナトリウム200mg/Lとを含む鋭敏化処理液に24hr浸漬した。なお、液をスターラーで撹拌した。その後、電極を処理液から取り出し、純水で洗浄した後、乾燥させ、鋭敏化処理済み自然電位測定電極を得た。
【0036】
この電極を、野木町水を活性炭によって脱塩素処理した水に浸漬し、自然電位を測定した。結果を下記に示す。
【0037】
また、この電極を用いて、クロロスルファミン酸で安定化させた次亜塩素酸ナトリウムの種々の濃度の水溶液の自然電位を測定した。結果を図1に示す。
【0038】
なお、図1の横軸(塩素剤濃度)は遊離塩素濃度(mg−asCl/L)の常用対数値である。
【0039】
[実施例2]
鋭敏化処理液として、上記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物10mg/L、キレート剤(EDTA・4Na)500mg/Lの水溶液としたこと以外は同様にして供試電極を鋭敏化処理した。この電極を、野木町水を活性炭によって脱塩素処理した水に浸漬し、自然電位を測定した。結果を下記に示す。
【0040】
[比較例1]
実施例1の鋭敏化処理前の自然電位について自然電位を測定した。結果を下記に示す。また、この電極を用いて、クロロスルファミン酸で安定化させた次亜塩素酸ナトリウムの種々の濃度の水溶液の自然電位を測定した。結果を図1に示す。
【0041】
[比較例2]
鋭敏化処理液を上記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物のみを3mg/L含むものとしたこと以外は実施例1と同様にして処理した。この電極を、野木町水を活性炭によって脱塩素処理した水に浸漬し、自然電位を測定した。結果を下記に示す。
なお、自然電位は飽和銀・塩化銀電極を基準とした。
【0042】
≪自然電位測定結果≫
実施例1:30mV
実施例2:25mV
比較例1:25mV
比較例2:−5mV
この実施例及び比較例より明らかな通り本発明によると、遊離塩素が検出される水系において銅よりなる自然電位電極を鋭敏化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅よりなる自然電位測定電極を鋭敏化処理液と接触させて鋭敏化する方法であって、
該鋭敏化処理液が、
1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)と、
キレート剤とを含むことを特徴とする自然電位測定電極の鋭敏化処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物がイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする自然電位測定電極の鋭敏化処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記疎水基が炭素数6〜18のアルキル基であることを特徴とする自然電位測定電極の鋭敏化処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、キレート剤が有機系キレート剤であることを特徴とする自然電位測定電極の鋭敏化処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−211827(P2012−211827A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77692(P2011−77692)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)