説明

自穿孔ロックボルト

【課題】ロックボルト本体としてめっき鋼板からなる溶接鋼管を用いて、耐久性に優れた自穿孔ロックボルトを低コストで提供する。
【解決手段】中心部にグラウトや高圧空気、高圧水の注入孔4を貫通して設け、外周の全長にわたって雄ネジ2を形成した中空ロックボルト本体1と、その先端に取り付けられ、前記注入孔4と連絡する注出口5を開孔した削孔ビット3とを備えた自穿孔ロックボルトにおいて、その中空ロックボルト本体1を、Znめっき層,Alめっき層,Zn−Al合金めっき層又はZn−Al−Mg合金めっき層が設けられためっき鋼板を素材とした溶接鋼管で構成する。
溶接鋼管としては、管外面の溶接部及び溶接部近傍にめっき補修層が設けられたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は山岳や道路の斜面更にはトンネル面等に打ち込まれて岩盤の崩落を防止する自穿孔ロックボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、中空のロックボルトを用いて地山に自穿孔して支保することは公知である。この方法では、まず、先端に削孔ビットを取り付けた中空ロックボルトを回転させて地山等に穴を穿ちつつ挿入し、必要に応じてカップリングナットでロックボルトを継ぎ足して所定深さまで穿孔する。穿孔作業終了後に、孔内に残したままの状態でロックボルトの中空部を経由してロックボルトと孔の内壁面との間にグラウトを圧注入し、グラウトを固化してロックボルトを固着するものである。
本出願人の一部も、例えば特許文献1,2等で紹介している。
【特許文献1】特公平5−60040号公報
【特許文献2】実公平7−8638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1,2で紹介したものを含め、従来の自穿孔ロックボルト本体を構成するパイプとしては、通常、小径肉厚のシームレス鋼管に転造加工を施したもの、さらにそれにどぶ漬けめっきを施したもの、あるいは溶接鋼管に転造加工を施した後にどぶ漬けめっきを施したものが用いられている。自穿孔ロックボルトが頑強な地山中に捩じ込まれるとき、大きな捩じりモーメントが作用されるため、ロックボルト本体としては、特性が均質な厚肉のシームレス鋼管を用いることが好ましいことになる。
しかしながら、シームレス鋼管の使用はコスト高となる。そこで厚肉溶接鋼管の使用が想定されるが、溶接鋼管の使用には問題点が伴う。
【0004】
自穿孔ロックボルト本体は作業現場、すなわち野外で長期に放置されることがあるため、ロックボルト本体の管が発銹する。赤錆が発生すると外観を悪化させる。しかも、溶接鋼管にあっては、もともと溶接部及びその近傍の熱影響部は基材部よりも脆くなっており、発銹による実質的な減肉と相俟って、鋼管としての捩じり抵抗が低下する。
発銹を防止するため、シームレス鋼管や溶接鋼管に転造加工を施した後にどぶ漬けめっきを施した場合、転造溝にめっき金属が過度に付着することが避けられない。めっき金属が“タマ”となって転造溝の谷部や山部の表面に付着し、岩盤を削るカッターである削孔ビットや、ロックボルト本体同士を接続するカップリング、あるいは打設機器との接続部材であるスリーブが正常に取り付けられないという問題が発生する。このため、余分なめっき金属を除去する工程が必要となり、コストアップとなってしまう。
このような背景から、溶接鋼管の自穿孔ロックボルト本体への使用は現実的ではない。
【0005】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、ロックボルト本体としてめっき鋼板を素材とした溶接鋼管を用いて、耐久性に優れた自穿孔ロックボルトを低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自穿孔ロックボルトは、その目的を達成するため、中心部にグラウトや高圧空気、高圧水の注入孔を貫通して設け、外周の全長にわたって雄ネジを形成した中空ロックボルト本体と、その先端に取り付けられ、前記注入孔と連絡する注出口を開孔した削孔ビットとを備えた自穿孔ロックボルトであって、前記中空ロックボルト本体が、めっき鋼板を素材とした溶接鋼管で形作られていることを特徴とする。
溶接鋼管としては、管外面の溶接部及び溶接部近傍にめっき補修層が設けられたものが好ましい。
素材めっき鋼板としては、Znめっき層,Alめっき層、Zn−Al合金めっき層又はZn−Al−Mg合金めっき層が設けられたものが好ましい。
そして、めっき補修層としては、Al−Zn合金又はAl−Mg合金の溶射補修層が好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により提供される自穿孔ロックボルトは、その本体である中空ロックボルトが、めっき鋼板を素材とした溶接鋼管で形作られている。このため、耐食性に優れ、野外に放置されても赤錆を発生することなく、外観を長期にわたって維持することができる。また、発銹が抑制されるため、特に、溶接部及び溶接部近傍にめっき補修層を設けた場合にあっては、実質的な減肉が発生することがなく、設計通りの捩じり抵抗を発揮することができる。さらに、めっき鋼板を素材とした溶接鋼管に転造加工が施されることにより外面にネジが形成されているため、精度の良好な転造部が形成され、削孔ビットやスリーブ等の螺合が問題なく行える。
したがって、本発明により、シームレス鋼管を素材としたものと匹敵する特性を有する自穿孔ロックボルトが低コストで提供できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者等は、自穿孔ロックボルトの本体である中空ロックボルトを高価なシームレス鋼管から溶接鋼管に変更するに当たっての問題点を検討した。
前記した通り、自穿孔ロックボルト本体を作業現場である野外で長期に放置すると、ロックボルト本体の管が発銹する。赤錆が発生すると外観を悪化させるばかりでなく、鋼管としての捩じり抵抗が低下する。穿孔時に大きな捩じりモーメントが作用すると、鋼管の溶接部から、破壊・座屈し、それ以上の穿孔作業が行えなく虞がある。
また、シームレス鋼管や溶接鋼管に転造加工を施した後にどぶ漬けめっきを施して発銹を防止することもなされているが、前記した通り、転造溝にめっき金属が過度に付着することが避けられず、削孔ビットやスリーブ等の螺合が正常に行えなくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明では、予めめっきを施した鋼板を素材とした溶接鋼管に転造加工を施し、自穿孔ロックボルトの本体に用いることとした。
めっき層を有する溶接鋼管に転造加工を施してネジ部を形成しており、精度の優れた転造溝が形成されている。また、転造後にどぶ漬けめっきを施したものではないため、転造溝が形成された後にあってもめっき金属層が残存している。このめっき金属層の作用により耐食性が長期に亘って維持される。
素材めっき鋼板としては、Znめっき層,Alめっき層、Zn−Al合金めっき層又はZn−Al−Mg合金めっき層が設けられたものが用いられる。
【0010】
特に素材鋼板に施されるめっき金属として、めっき密着性の優れたZn‐Al‐Mg系の合金を用いれば転造加工時にめっき金属層が剥離することはなく、仮にクラック発生等のめっき金属層に欠陥が生じても、当該めっき金属自身の犠牲防食作用により、耐食性を長期に亘って維持することができる。このZn‐Al‐Mg系のめっき合金としては、Al:4.0〜10.0質量%、Mg:1.0〜4.0質量%を含み、残部がZnからなるもの、さらに微量のTiやBを含むもの、あるいはさらにSiを含むものが好ましい。
【0011】
めっき鋼板を素材とした溶接鋼管を用いたとしても、溶接時に溶接部及びその近傍のめっき層はなくなってしまい、耐食性が低下することがある。
そこで、めっき鋼板を造管した溶接鋼管の、溶接部及び溶接部近傍のめっき層はなくなった部分をめっき金属で覆った補修層を設けた溶接鋼管でロックボルト本体を構築することが好ましい。
例えば、Znめっき層,Alめっき層、Zn−Al合金めっき層又はZn−Al−Mg合金めっき層が設けられているめっき鋼板から溶接めっき鋼管を製造し、外面の溶接ビードをカットした後、ビードカットでめっき層が除去された溶接部及び溶接部近傍表面に、金属層を被覆した溶接鋼管を用いることが好ましい。
【0012】
被覆金属層としては特に限定されるものではないが、Al−Zn系合金やAl−Mg系合金を溶射被覆したものが好ましい。溶射補修層はAl−Zn系合金やAl−Mg系合金の単独溶射でも形成できるが、二連溶射で厚い溶射補修層を形成することが好ましい。二連溶射では、Alを溶射した後、Al−Zn合金やAl−Mg合金を溶射することが好ましい。
【0013】
例えばZn系めっき鋼板を素材とした溶接鋼管において、Al溶射→Al−Zn合金溶射で被覆層を形成した場合の耐食性の向上は、次のように考えられる。
すなわち、めっき層が形成されているめっき鋼板のオープンパイプを溶接すると、溶接熱で加熱されためっき層の表面に薄い酸化皮膜が生成する。ビードカットでめっき層が除去された溶接部では、露出した下地鋼の表面に薄い酸化皮膜が生成している。
溶接部に溶射される第一層のAlは、鉄よりも酸素親和力が大きい金属である。溶融状態で溶射されたAlは、露出した下地鋼及びめっき層の表層にある酸化皮膜と反応し、強い還元作用によって酸化皮膜中の酸素と結合してAl酸化物を形成する。
【0014】
このAl酸化物は、露出した下地鋼及びめっき層の表層にある酸化皮膜と置き換わるか、或いは溶射された溶融状態のAl中に分散されるかで、第一層として溶射されたAlは強固に下地鋼と結合される。
溶射皮膜には空孔や引け巣等の空隙欠陥が不可避的に生じるが、溶射第二層中のZnはこのようなAl層の不可避的な空隙欠陥において、その鉄に対する犠牲防食作用を発揮して下地鋼の腐食を抑制する。そして、第二層中のAlは、同じく第二層中のZnの犠牲防食作用の一端である白錆発生の抑制作用を発揮させる。その結果、Al→Al−Zn合金の二連溶射によって、溶接めっき鋼管の耐食性を一段と向上することができる。
【0015】
以上により、耐食性が格段に向上した溶接めっき鋼管をロックボルト本体に用いることにより、自穿孔ロックボルトの耐食性、耐久性が格段に向上できることが理解される。また、プレめっき鋼板を素材とし、この素材鋼板を造管した後に転造加工を施す態様で製造されるため、ネジ部の成形精度が高く、ビットやスリーブ等の螺合が全く問題なく行える自穿孔ロックボルトが提供できる。
そして、シームレス鋼管に替えて溶接めっき鋼管の使用が可能になり、大幅に低コストとなった自穿孔ロックボルトが提供できる。
【0016】
以下に、溶接めっき鋼管を素材とした自穿孔ロックボルトの具体例を説明する。
所定のめっき層を有する鋼板を素材とし、溶接部及び溶接部近傍にめっき補修層が設けられた溶接めっき鋼管に転造加工を施し、その外周の全長にわたって雄ネジを形成する。例えば図1に示すように、表面に雄ネジ2が形成された溶接めっき鋼管を中空ロックボルト本体1とし、その先端に掘削用の削孔ビット3を取り付ける。この削孔ビットそのものには制限はない。前記特許文献1や実公平5−45680号公報に記載されているようなボーリングチップ(カッター)一体型のものであっても良いし、特許文献2に記載されているような、カッターヘッドにカッターを取り付けたものであっても良い。いずれにしても、注入口4から中空ロックボルト本体1を経由して送り込まれるグラウトや高圧空気、高圧水を排出するための注出口5を設けておくことが必要である。削孔ビットの取付け態様にも制限はないが、図1に見られるように、当該削孔ビット後端に設けた開口に雌ネジを形成し、中空ロックボルト本体1の外周に設けた雄ネジに捩じ込むことが好ましい。なお、図1中、6はボーリングチップであり、7は注入口4と排出口5を連通させる連結孔である。
【0017】
実際に地山に打ち込まれるロックボルトとしては、通常、外径28.5〜31.0mm、長さ1.0〜6.0mのものが使用されているが、所要打ち込み深さがロックボルトの長さ以上の場合には、2本或いは3本のロックボルトを継ぎ足している。2本目及び3本目のロックボルトとしては、先端に削孔ビットを取り付ける以前の転造後のものが使用される。両端部に後述のカップリングナット螺合用雄ネジを設けた中空棒体であっても良い。この中空棒体も溶接部及び溶接部近傍が補修された溶接めっき鋼管製であることが好ましい。2本目或いは3本目の継ぎ足しには、内壁に雌ネジを設けた中空のカップリングナット(後記図2中の8)が用いられる。
【0018】
次に、本発明自穿孔ロックボルトを用いて地山等を支保する方法の一例について、図2を用いて説明する。
中空ロックボルト本体1の先端に取付けた削孔ビット3により岩盤に穴をあけ、必要に応じてカップリングナット8を用いて次の中空ロックボルト本体1を継足しながら穿穴作業を進める。この際、必要に応じて、中空ロックボルト1の注入孔4から高圧水又は高圧空気を注入し、排出口5から排出させて削孔ビット3を冷却しつつ穿孔によって生じた岩粉或いは土砂粉を排出させて掘った穴内を清掃する。そして、所定の深さまで穴を掘った後、その位置で、中空ロックボルト1の注入孔4からグラウトを注入する。グラウトは注入孔4から削孔ビット3の注出口5を経て中空ロックボルト本体1外周に至り、中空ロックボルト本体1の外周面に沿って抑え板9の位置まで充填され、穴を埋める。グラウトを注入した後、中空ロックボルト1の末端に抑え板9を当て、ナット10で止める。
この一連の作業で所要数のロックボルトを岩盤に打込み、支保作業を終える。
【実施例】
【0019】
素材として板厚5.5mmで、Zn−6%Al−3%Mg合金を190g/m2の量で溶融めっきした板を突合せ、高周波溶接して外径31.8mmの溶接鋼管を得た。得られた溶接鋼管外面の溶接ビードをカットし、溶接部及び溶接部近傍のめっき層が無くなった部位に、Al→Al−Zn合金の順で二連溶射して溶射補修層を形成した。
溶射補修層を形成した溶接めっき鋼管を素材として、転造加工により、表面に山高さ1.8mm、山ピッチ12.8mmの雄ネジを形成した中空鋼管を作製した。めっき層及び溶射補修層とも、微細なクラックは存在したが、割れや剥離の発生は認められなかった。
この表面雄ネジ加工付与中空鋼管を本体とし、その先端に既存の削孔ビットを螺合接続して、自穿孔ロックボルトを得た。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一般的な自穿孔ロックボルトの形状を説明する断面図
【図2】自穿孔ロックボルトの埋め込み態様を説明する断面図
【符号の説明】
【0021】
1:中空ロックボルト本体 2:雄ネジ 3:削孔ビット 4:注入口
5:排出口 6:ボーリングチップ 7:連結孔 8:カップリングナット
9:抑え板 10:ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部にグラウトや高圧空気、高圧水の注入孔を貫通して設け、外周の全長にわたって雄ネジを形成した中空ロックボルト本体と、その先端に取り付けられ、前記注入孔と連絡する注出口を開孔した削孔ビットとを備えた自穿孔ロックボルトであって、前記中空ロックボルト本体が、めっき鋼板を素材とした溶接鋼管で形作られていることを特徴とする自穿孔ロックボルト。
【請求項2】
溶接鋼管が、管外面の溶接部及び溶接部近傍にめっき補修層が設けられたものである請求項1に記載の自穿孔ロックボルト。
【請求項3】
めっき鋼板が、Znめっき層,Alめっき層,Zn−Al合金めっき層又はZn−Al−Mg合金めっき層が設けられたものである請求項1又は2に記載の自穿孔ロックボルト。
【請求項4】
めっき補修層が、Al−Zn合金又はAl−Mg合金の溶射補修層である請求項2又は3に記載の自穿孔ロックボルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−97260(P2009−97260A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270808(P2007−270808)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(592260572)日新鋼管株式会社 (26)
【出願人】(390001742)日東鐵工株式会社 (2)