説明

自立式の歩行支援装置

【課題】被介助者が杖を用いた歩行方法を習得及び習熟することを効率的に補助すると共に、訓練のモチベーションも高めることが可能な自立式の歩行支援装置を提供する。
【解決手段】歩行時の支えとなる支持部材11が立設された自走台車12と、支持部材11に設けられた自走台車12の操作部13とを有し、操作部13の操作によって床面14上を自走台車12が移動する自立式の歩行支援装置10であって、自走台車12には、操作部13を操作する被介助者の踏み出し位置情報を、音声及び/又は光でそれぞれ伝える聴覚案内手段15及び/又は視覚案内手段16を備えた教示部17が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被介助者が杖を用いた歩行方法を習得及び習熟することを補助する自立式の歩行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本では高齢化社会が急速に進展(高齢化率20%超)しており、高齢者の生活の質の向上と共に、高齢者の積極的な社会参加が望まれている。このとき、積極的な社会参加のためには、身体機能(特に、下肢運動機能)の低下した高齢者であっても、車椅子等を利用をせず、自身の脚で自立した歩行が可能であることが好ましい。そして、歩行介助具を用いれば、歩行可能となる高齢者や片麻痺の患者は相当数存在するので、歩行介助具の正しい使用方法の習得及び習熟が容易にできるようになると、高齢者や片麻痺の患者の社会参加がおおいに促進されることになる。
【0003】
日常生活を補助する歩行介助具には、大別して杖タイプのものと歩行車タイプのものがある。ここで、歩行車タイプのものは、その使用方法の習得及び習熟に長時間の訓練を必要としないという利点があるが、大きくて重いため日常生活で気軽に使用するには不便であるという問題がある。一方、杖タイプのものは、小さくて軽く利便性が高いという利点があるが、その使用方法を習得及び習熟するためには訓練が必要になるという問題がある。例えば、パーキンソン病や小脳疾患等の患者は、最初の一歩を容易に踏み出すことができないこと(すくみ足)により歩行が困難となっているので、専門家の指導により専用の訓練場で訓練を行う必要がある。そこで、歩行前方に光を投射表示して、それを目標に容易に最初の一歩を踏み出すことができるようにした歩行介助具(多脚杖)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−312736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の歩行介助具は、杖の使用方法を習得した者が、更に杖の使用方法に習熟する場合には有効となるものの、杖の使い方の習得を目標とする初心者にとっては、多脚式の杖(歩行面との支持点が4点)のため、安定性(バランスを保つ機能)は高いが、杖先を移動させるのに重くなり、手、腕、及び肩の負担が大きくなるという問題がある。なお、歩行介助具を単脚杖にすると重量が軽量化されるが、歩行面上の1点で支持を行うため安定性が低くなり、初心者に対しては安全性が低下するという問題がある。更に、初心者の場合、杖先を移動させてから、患脚を一歩踏み出し、次いで健脚を移動させるという一連の動作を、一定の歩行リズムで繰り返すことの習得が、重要となる。このため、特許文献1の歩行介助具を用いても、初心者の場合、歩行訓練の開始から一定の期間は、専門家(歩行訓練指導者)による1対1の指導が必要になるという問題が生じる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、被介助者が杖を用いた歩行方法を習得及び習熟することを効率的に補助すると共に、訓練のモチベーションも高めることが可能な自立式の歩行支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る自立式の歩行支援装置は、歩行時の支えとなる支持部材が立設された自走台車と、該支持部材に設けられた前記自走台車の操作部とを有し、前記操作部の操作によって床面上を前記自走台車が移動する自立式の歩行支援装置であって、
前記自走台車には、前記操作部を操作する被介助者の踏み出し位置情報を、音声及び/又は光でそれぞれ伝える聴覚案内手段及び/又は視覚案内手段を備えた教示部が設けられている。
ここで、被介助者の踏み出し位置情報を音声で伝える場合は、聴覚案内手段(例えばスピーカ)が、被介助者の踏み出し位置情報を光(例えば、画像)で伝える場合は、視覚案内手段(例えばプロジェクタ)が、被介助者の踏み出し位置情報を音声及び光で伝える場合は、聴覚案内手段及び視覚案内手段がそれぞれ用いられる。
【0008】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記自走台車には、全方向移動機構が組み込まれ、前記操作部の操作によって、前記床面上を全方向に移動可能であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記操作部は、前記支持部材の前後及び左右の傾動方向と、前記支持部材の回転方向を検知する力覚センサを備えることが好ましい。
ここで、力覚センサは、例えば、支持部材の基端に取付けることができ、支持部材は、力覚センサを介して、自走台車の上部に立設されている。また、力覚センサにより、被介助者が操作部を操作した力の方向が分かるので、この力の方向のデータを教示部に入力して、被介助者の踏み出し位置情報と比較することで、被介助者による操作部の操作が適切であるか否かを判断できる。
【0010】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記自走台車には、前記被介助者の前記床面上の脚位置及び足位置をそれぞれ検出する光センサ(測域センサともいう)が設けられていることが好ましい。
ここで、光センサの出力を教示部に入力して、被介助者の踏み出し位置情報と比較することで、被介助者の歩行動作を判定することができ、その結果を被介助者の踏み出し位置情報に反映させることができる。
【0011】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記自走台車には、前記被介助者の前記床面上の前記脚位置及び前記足位置から求めた該被介助者と該自走台車との離間距離を、予め設定された範囲に保つ距離維持手段が設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記支持部材には、高さ調整可能な操作用グリップが設けられていることが好ましい。
また、前記操作用グリップには、把持センサが設けられて、該把持センサからの出力によって該自立式の歩行支援装置の運転状態の切替えを行うことが好ましい。
ここで、運転状態の切換えとは、自走台車を、駆動可能状態(操作待ち状態)から一次停止状態へ、あるいは一次停止状態から駆動可能状態へ切換えること、教示部を、被介助者の踏み出し位置情報が出力可能な状態から一次停止状態へ、あるいは一次停止状態から出力可能な状態へ切換えることをさす。
【0013】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記支持部材には、前記操作用グリップとは別に、昇降可能な補助グリップを設けることができる。
ここで、補助グリップは、操作用グリップより被介助者側に設けられ、補助グリップの高さ位置は、操作用グリップの高さ位置より低い位置となっている。
【0014】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記自走台車の前側には、該自走台車の前方の障害物を検知する障害物検知センサが設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記自走台車の周囲には、複数の転倒防止用ストッパーを設けることができる。
【0016】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記操作部には、前記踏み出し位置情報の基になる操作データを入力する入力手段と、該操作データから作成した該踏み出し位置情報を出力する情報出力手段が設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、前記床面上での前記被介助者の足裏の圧力分布を測定する圧力分布検出手段を有していることが好ましい。
ここで、圧力分布検出手段は、例えば、被介助者が使用する靴底に取付けて足裏圧を検出する歪ゲージ、歪ゲージからの歪信号を増幅して送信する歪計測器(非介助者が歩行訓練中に携帯する)、歪信号を受信して足裏の圧力分布を求める圧力分布算出器(教示部に設置)で構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る自立式の歩行支援装置においては、歩行時の支えとなる支持部材が立設された自走台車が、操作部の操作によって床面上を移動するので、被介助者の身体バランスを容易に保ちながら、歩行訓練を行うことができる。そして、歩行訓練では、教示部の聴覚案内手段及び/又は視覚案内手段により、被介助者が足を踏み出す際に必要な踏み出し位置情報が、音声及び/又は光でそれぞれ伝えられるので、被介助者の歩行訓練(例えば、脚動作、歩行リズム等)を効果的に補助できると共に、歩行訓練のモチベーションを上げることができる。
【0019】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、自走台車に、全方向移動機構が組み込まれ、操作部の操作によって、自走台車が床面上を全方向に移動可能である場合、被介助者が自立式の歩行支援装置を押したり、持上げたりする必要がなく、被介助者が自立式の歩行支援装置を操作する際の身体(例えば、手、腕、及び肩)の負担を軽減できると共に、歩行訓練時の疲れも軽減できる。
【0020】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、操作部が、支持部材の前後及び左右の傾動方向と、支持部材の回転方向を検知する力覚センサを備える場合、被介助者が操作部を操作する力を検知して、被介助者が指定した方向に自走台車を移動させることができる。
【0021】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、自走台車に、被介助者の床面上の脚位置及び足位置をそれぞれ検出する光センサが設けられている場合、被介助者の動きを制約せずに、被介助者の歩行動作を検出することができる。
【0022】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、自走台車に、被介助者の床面上の脚位置及び足位置から求めた被介助者と自走台車との離間距離を、予め設定された範囲に保つ距離維持手段が設けられている場合、被介助者の操作部を介した操作とは独立して、自走台車は、距離維持手段を介して移動することができる。これにより、被介助者が不測の歩行動作を行った際に、自走台車は離間距離が維持されるように能動的に移動し、被介助者の転倒の危険性を解消することができる。
【0023】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、支持部材に、高さ調整可能な操作用グリップが設けられている場合、操作用グリップの高さ位置を操作者である被介助者の身長にあわせて設定することができる。これにより、自立式の歩行支援装置の操作が容易になる。
【0024】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、操作用グリップに、把持センサが設けられて、把持センサからの出力によって自立式の歩行支援装置のオンオフ(運転状態の切替え)を行う場合、自立式の歩行支援装置操作のオンオフが容易に行える。
【0025】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、支持部材に、操作用グリップとは別に、昇降可能な補助グリップが設けられている場合、補助グリップを下降させることで、被介助者のしゃがみ動作を補助でき、補助グリップを上昇させることで、被介助者の立ち上がり動作を補助できる。
【0026】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、自走台車の前側に、自走台車の前方の障害物を検知する障害物検知センサが設けられている場合、被介助者に障害物が存在することを知らせることができると共に、自立式の歩行支援装置が障害物に過度に接近した際には、自立式の歩行支援装置を停止させることができる。これによって、歩行訓練時の被介助者の安全が確保できる。
【0027】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、自走台車の周囲に、複数の転倒防止用ストッパーが設けられている場合、自立式の歩行支援装置が物に接触しても、大きく傾動することを防止できる。更に、操作中の被介助者がよろけても、自立式の歩行支援装置が被介助者と共に大きく傾斜するのが防止され、被介助者の転倒を防ぐことができる。これによって、歩行訓練時の被介助者の安全が確保できる。
【0028】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、操作部に、踏み出し位置情報の基になる操作データを入力する入力手段と、操作データから作成した踏み出し位置情報を出力する情報出力手段が設けられている場合、操作データの入力が容易になると共に、被介助者の操作状況に応じて踏み出し位置情報の修正を容易に行うことができる。
【0029】
本発明に係る自立式の歩行支援装置において、床面上での被介助者の足裏の圧力分布を測定する圧力分布検出手段を有する場合、歩行訓練中の被介助者の歩行タイミング、足の踏み出し動作を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自立式の歩行支援装置の斜視図である。
【図2】同自立式の歩行支援装置の一部切欠き側面図である。
【図3】同自立式の歩行支援装置のブロック図である。
【図4】同自立式の歩行支援装置の自走台車に組み込まれた全方向移動機構の底面図である。
【図5】同自立式の歩行支援装置の自走台車に組み込まれた全方向移動機構の一部切欠き正面図である。
【図6】被介助者の足裏の圧力分布を測定する圧力分布検出手段の説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る自立式の歩行支援装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図8】(A)は同自立式の歩行支援装置の教示フローを示すフローチャート、(B)〜(E)は杖と被介助者の足位置の移動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1〜図3に示すように、本発明の一実施の形態に係る自立式の歩行支援装置(以下、歩行支援装置ともいう)10は、歩行時の支えとなる支持部材11が立設された自走台車12と、支持部材11に設けられた自走台車12の操作部13とを有し、操作部13の操作によって床面14上を自走台車12が移動するものである。そして、自走台車12には、操作部13を操作する被介助者が歩行時に踏み出す足の踏み出し位置情報を、音声で伝える聴覚案内手段の一例であるスピーカ15と、光(例えば画像)で伝える視覚案内手段の一例であるプロジェクタ16とを備えた教示部17が設けられている。以下、詳細に説明する。
【0032】
図4、図5に示すように、自走台車12には、全方向移動機構18が組み込まれ、操作部13の操作によって、自走台車12は、床面14上を全方向に移動可能となっている。ここで、全方向移動機構18は、平面視して正三角形の頂点位置P1、P2、P3にそれぞれは位置される3つの駆動用球体19、20、21と、隣り合って配置される駆動用球体19と駆動用球体20、駆動用球体20と駆動用球体21、駆動用球体21と駆動用球体19を、それぞれ同時に同一方向に回転駆動させる3つの駆動手段22、23、24とを有している。なお、各駆動手段22、23、24は、制御部25(図3参照)により、その動力(移動方向、移動距離、及び移動速度)が制御されている。
【0033】
ここで、自走台車12は、3つの駆動用球体19、20、21及び3つの駆動手段22、23、24を内側に収容する六角筒状のフレーム26と、フレーム26の上部に取付けられた円形載置台27とを有している。そして、円形載置台27の下方には、各駆動用球体19、20、21が、円形載置台27の下面28に取付けられた全方向に(360度)回転可能な支持用ボール型キャスター29、30、31を介して、回転可能に設けられている。なお、各支持用ボール型キャスター29、30、31は、それぞれ駆動用球体19、20、21の頂点位置に接触している。
【0034】
各駆動用球体19、20、21は、合成樹脂製(例えば、ウレタン樹脂製)の弾性材料で構成され、その直径は、例えば、50〜100mm(好ましくは、70〜100mm)程度で、同一形状(同一直径)となっている。このため、円形載置台27の下面28は床面14と平行になり、各駆動用球体19、20、21が回転する時の回転速度は同一となる。また、各駆動用球体19、20、21の回転中心は、平面視して正三角形の重心Gを中心として120度の等角度に、しかも、重心Gから等距離にそれぞれ配置されている(すなわち、正三角形の頂点位置P1、P2、P3に配置されている)。
【0035】
駆動手段22(駆動手段23、24も同様)は、隣り合って配置される駆動用球体19と駆動用球体20の周面に同時に接触するロータ32と、ロータ32を回転駆動する駆動用モータ33とを有する。ここで、ロータ32は、その回転軸34の軸心が、床面14と平行になるように、また軸心の高さ位置が、各駆動用球体19、20の回転中心と同一高さ位置となるように、平面視して駆動用球体19と駆動用球体20の回転中心を結ぶ線上に配置されている。なお、ロータ32の直径は、駆動用球体19と駆動用球体20の直径よりも小さい。これにより、ロータ32を床面14に接触させることなく、2つの駆動用球体19、20を同時に同一方向に回転駆動できる。
【0036】
駆動用球体19(駆動用球体20、21も同様)は、その周面がフレーム26の内側面35に取付けられた車輪型キャスター36に接触している。この車輪型キャスター36は、一方向に回転可能な公知のものであり、駆動手段22、24のロータ32とは、駆動用球体19を挟み込むように取付けられている。その結果、図2において、駆動用球体19の横方向の位置決めがなされる。そして、車輪型キャスター36が一方向に回転可能なため、駆動用球体19は、図2において、上下方向(縦方向)に回転可能にガイドされてフレーム26の内側面35に取付けられる。また、車輪型キャスター36の設置個数は、1つの駆動用球体に対して2つ以上とすることもできる。
なお、全方向移動機構18の駆動原理、駆動制御方法は、特開2010−30360号公報(球体駆動式全方向移動装置)に開示されているため、その詳細内容については省略する。
【0037】
図1〜図3に示すように、自走台車12の円形載置台27の上部には、全方向移動機構18の制御部25及びバッテリーを備えた電源部(図示せず)を収納する収納部37が設けられ、収納部37の外側にはカバー部材38が設けられている。また、自走台車12の後側には、フレーム26に当接させて後方に突出する第1の箱部材39が設けられ、第1の箱部材39内には、操作部13を操作する被介助者の床面14上の左右の足位置、例えば踵位置を検出する光センサの一例である第1のレーザレンジセンサ40が収納されている。なお、符号41は、第1のレーザレンジセンサ40で使用するレーザ光線の通過用に第1の箱部材39の後部側に形成した第1のスリット41である。
【0038】
第1のレーザレンジセンサ40では、床面14上の被介助者の踵に相当する高さ位置に床面14と平行に設定される平面内で、第1のレーザレンジセンサ40内に設けられた基準位置を中心としてレーザ光線を一定の角度範囲で走査しながら発射し、被介助者の左右の踵でそれぞれ反射したレーザ光線が受光されるまでの時間を求めることで、被介助者の左右の踵までの距離をそれぞれ測定している。このため、第1のレーザレンジセンサ40の基準位置に対する被介助者の左右の踵位置をそれぞれ求めることができ、自走台車12と被介助者の左右の踵位置との間の各踵離間距離がそれぞれ分かる。また、各踵離間距離の変化から、被介助者の左右の踵位置の移動が求まり、被介助者の歩行動作が分かる。
【0039】
ここで、自走台車12と被介助者の左右の踵位置との間の踵離間距離のデータは、第1の箱部材39内に設けられ、距離維持手段の一部を構成する第1の距離維持手段42に入力される。第1の距離維持手段42は、各踵離間距離のデータから、踵離間距離がそれぞれ予め設定された範囲内の距離であるか否かを判定する第1の距離判定機能と、踵離間距離が予め設定された範囲から外れる場合、踵離間距離が予め設定された範囲内となるように、自走台車12の移動方向、移動距離、及び移動速度を求める第1の演算機能と、演算された移動方向に移動速度で移動距離だけ自走台車12を移動させる制御信号が全方向移動機構18の制御部25から出力されるように、制御信号用のデータを制御部25に向けて出力する第1の出力機能とを有している。なお、第1の距離維持手段42は、第1の距離判定機能、第1の演算機能、及び第1の出力機能を発現する各プログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。
【0040】
収納部37の上部には、第2の箱部材43が設けられ、第2の箱部材43内には、操作部13を操作する被介助者の床面14上の左右の脚位置(例えば膝位置)を検出する光センサの一例である第2のレーザレンジセンサ44が収納されている。なお、符号45は、第2のレーザレンジセンサ44で使用するレーザ光線の通過用に第2の箱部材43の後部側に形成した第2のスリットである。
【0041】
第2のレーザレンジセンサ44では、床面14上の被介助者の膝に相当する高さ位置に床面14と平行に設定される平面内で、第2のレーザレンジセンサ44内に設けられた基準位置を中心としてレーザ光線を一定の角度範囲で走査しながら発射し、被介助者の左右の膝でそれぞれ反射したレーザ光線が受光されるまでの時間を求めることで、被介助者の左右の膝までの距離を測定している。このため、第2のレーザレンジセンサ44の基準位置に対する被介助者の左右の膝位置をそれぞれ求めることができ、自走台車12と被介助者の左右の膝位置との間の各膝離間距離がそれぞれ分かる。また、各膝離間距離の変化から、被介助者の左右の膝位置の移動が求まり、被介助者の歩行動作が分かる。
【0042】
ここで、自走台車12と被介助者の左右の膝位置との間の膝離間距離のデータは、収納部37内に設けられ、距離維持手段の他の一部を構成する第2の距離維持手段46に入力される。第2の距離維持手段46は、各膝離間距離のデータから、膝離間距離がそれぞれ予め設定された範囲内の距離であるか否かを判定する第2の距離判定機能と、膝離間距離が予め設定された範囲から外れる場合、膝離間距離が予め設定された範囲内となるように、自走台車12の移動方向、移動距離、及び移動速度を求める第2の演算機能と、演算された移動方向に移動速度で移動距離だけ自走台車12を移動させる制御信号が全方向移動機構18の制御部25から出力されるように、制御信号用のデータを制御部25に向けて出力する第2の出力機能とを有している。なお、第2の距離維持手段46は、第2の距離判定機能、第2の演算機能、及び第2の出力機能を発現する各プログラムを、例えばCPUに組み込むことで形成することができる。
【0043】
更に、第2の箱部材43内には、自走台車12の前方の障害物を検知するレーザ式の障害物検知センサ47が収納されている。そして、第2の箱部材43の前部には、障害物検知センサ47で使用するレーザ光線の通過用に幅方向に沿って水平スリット48が形成され、障害物検知センサ47では、自走台車12の前方の床面14から一定高さ位置(例えば、100〜500mmの範囲の高さ位置)に床面14と平行に設定される平面内で、障害物検知センサ47内に設けられた基準位置を中心としてレーザ光線を一定の角度範囲で走査しながら発射し、自走台車12の前方の障害物で反射したレーザ光線が受光されるまでの時間を求めることで、障害物までの距離を測定している。なお、レーザ光線が発射されてから受光されるまでの時間範囲を設定することで、自走台車12の前方の一定距離内に存在する障害物のみを検知できる。このため、自走台車12と前方の障害物との距離が予め設定した第1の距離に到達した時点で、障害物検知センサ47に設けた音発生手段(例えば、スピーカ、ベル、ブザー等)から警報信号として音を発生させることができる。また、自走台車12と前方の障害物との距離が予め設定した第2の距離(第1の距離より小さい値)に到達した時点で、障害物検知センサ47から自走台車12を停止させる停止信号を、全方向移動機構18の制御部25に出力することができ、自走台車12を強制的に停止させることができる。
【0044】
図1、図2、図5に示すように、自走台車12のフレーム26の周囲には、複数(本実施の形態では、周方向に等間隔で3つ)の転倒防止用ストッパー49が設けられている。ここで、転倒防止用ストッパー49は、フレーム26に基側が取付けられ、先側を外側にて向けて床面14に対して平行配置された腕部材50と、腕部材の先端部に設けられた取付け部材51を介して、床面14から、例えば5〜20mmの隙間を有して取付けられた補助輪52とを有している。なお、補助輪45は、床面14と接した際に、床面14上の接触部に立てた垂線を軸に360度回転可能な構成となっている。これによって、歩行支援装置10(自走台車12)が傾くと、傾いた方向に近接する補助輪52が床面14に接触し、歩行支援装置10が更に傾くことを防止して、歩行支援装置10が転倒することを防止する。また、補助輪52を、通常は床面14から浮き上がるようにして設けることで、自走台車12が任意の方向へ移動することを妨げないようにしている。
【0045】
図1、図2に示すように、被介助者が歩行する際に、被介助者の歩行時の支えとなる支持部材11は、第2の箱部材43の中央部を貫通し、自走台車12の円形載置台27上に設けられた収納部37の天井板53の中央部に立設された取付け部54と、取付け部54に昇降可能に連結された連結材55と、連結材55に締結部材の一例であるボルト56を介して固定された操作棒57と、操作棒57の先部に基部が取付けられ、先側が左右両側に分岐して把持部58を形成している操作用グリップ59とを有している。
【0046】
取付け部54は、取付け部54の基端に固定されたベース61を有している。そして、ベース61を介して、力覚センサの一例である静電容量型6軸力覚センサ(以下、単に6軸力覚センサともいう)60の検出部(図示せず)が、取付け部54の基端に接続されている。ベース61を介して、取付け部54の基端に6軸力覚センサ60を接続しているので、支持部材11に被介助者の体重が負荷されても、6軸力覚センサ60の破損が防止できる。なお、6軸力覚センサ60を天井板53の中央部に固定することで、取付け部54が天井板53の中央部に立設される。更に、取付け部54は、連結材55に設けられたスライド部62を幅方向両側から挟持してスライド部62が昇降するのを両側からガイドするガイド部63と、連結材55にシリンダ本体64が取付けられ、シリンダロッド65の先部がベース61に固定された流体圧シリンダ66とを有している。また、連結材55の長手方向中央より先側の領域には、連結材55の後側(自走台車12の後側)に向けて、左右に分岐した把持部67を備えた補助グリップ68が取付けられている。このような構成とすることにより、補助グリップ68を昇降可能に設けることができる。なお、シリンダロッド65を駆動させた際に、第2の箱部材43の上方から突出するシリンダ本体64及びシリンダロッド65を覆うために、カバー部材69が設けられている。
【0047】
操作棒57の基側には、一定のピッチ(例えば、10〜30mmのピッチ)で雌ねじ部70が長さ方向に沿って形成されている。そして、連結材55の先側に雌ねじ部70と同一のピッチで形成された貫通孔(図示せず)を介して連結材55に挿入されたボルト56の先側を操作棒57の雌ねじ部70にねじ込むことにより、操作棒57を連結材55に固定している。ボルト56をねじ込む雌ねじ部70の位置を選択することにより、操作用グリップ59の高さ調整を行うことができる。
【0048】
また、操作用グリップ59の把持部58には、把持部58が把持されたことを圧力変化で検知するシート状の把持センサ71が設けられ、把持センサ71からの出力信号は教示部17及び全方向移動機構18の制御部25にそれぞれ入力される。これによって、把持センサ71からの出力によって、歩行支援装置10の運転状態の切替えを行うことができる。ここで、運転状態の切換えとは、自走台車12を、駆動可能状態(操作待ち状態)から一次停止状態へ、あるいは一次停止状態から駆動可能状態へ切換えること、教示部17を、被介助者の踏み出し位置情報が出力可能な状態から一次停止状態へ、あるいは一次停止状態から出力可能な状態への切換えることをさす。なお、把持センサ71で把持部58が把持されたことを検知する場合、被介助者毎に把持力が異なるため、被介助者毎に圧力変化の閾値を設定して、把持部58が把持されているか否かを確実に判定できるようにする。
【0049】
操作用グリップ59の把持部58が被介助者の手で把持されて、操作用グリップ59が歩行支援装置10(自走台車12)を移動させたい方向(歩行方向)に押し出されると、操作用グリップ59に加えられた力は、操作棒57、連結材55、及び取付け部54を介してベース61に伝わり、6軸力覚センサ60により、取付け部54(支持部材11)の前後及び左右の傾動方向と、取付け部54(支持部材11)の回転方向が検知される。そして、6軸力覚センサ60からの出力信号が、全方向移動機構18の制御部25に入力され、制御部25では自走台車12を移動させる制御信号が形成され、制御信号が駆動手段22、23、24に入力される。これにより自走台車12は、被介助者の指定した方向(歩行方向)に移動する。
【0050】
図6に示すように、歩行支援装置10は、床面14上での被介助者の足裏の圧力分布を測定する圧力分布検出手段73を有している。そして、圧力分布検出手段73は、被介助者が歩行時に装着する靴の底面に貼着する圧力分布測定器74と、被介助者が携帯し、圧力分布測定器74で得られたデータを送信する送信手段の一例である発信器75と、自走台車12に取付けられ、発信器75から送信されたデータを受信して足裏の圧力分布を求める圧力検出部76(図3参照)とを有している。ここで、圧力分布測定器74は、靴の底面に分散配置された複数の歪センサ77と、歪センサ77を覆う保護部材78とを有している。なお、圧力検出部76で得られた足裏の圧力分布は、教示部17に入力される。これによって、足を踏み出して床面14を加圧する際の状況、踏み出された足が床面14に接地して体重移動が行われる際の状況が把握でき(歩行リズムが分かり)、被介助者の踏み出し位置情報の適切な出力が可能になる。
【0051】
図1〜図3に示すように、教示部17は、歩行支援装置10の操作データを入力する機能を備えた入力手段79(例えば、タッチパネル及び各種情報記憶メディア用のデータ読取り機器)と、入力された操作データを記憶する機能を備えた記憶手段80とを有している。ここで、操作データは、例えば、杖を使用して歩行を行う場合の「杖先を移動させてから、患脚を一歩踏み出し、次いで健脚を移動させる」という一連の動作を、一定の歩行リズムで繰り返す基準動作データと、杖を使用した歩行訓練を行う被介助者の身体データ(例えば、下肢の各部位の寸法データ、歩行速度、把持部58を把持した際の把持力等)を含む。そして、基準動作データは、歩行訓練指導者の指導により十分訓練した健常者による杖歩行をステレオカメラで撮影した映像から、杖歩行運動パターン(例えば、股関節、膝関節、足関節の動作)の分析から得られるものである。
【0052】
また、教示部17は、記憶手段80から操作データを読み込んで、被介助者に適した杖を使用した歩行動作データである被介助者の踏み出し位置情報(リファレンスデータ)を作成する機能を備えたデータ作成手段81と、データ作成手段81で求めた被介助者の踏み出し位置情報に沿って、踏み出し位置情報をスピーカ15とプロジェクタ16にそれぞれ出力する機能を備えた情報出力手段82と、被介助者の踏み出し位置情報と被介助者の実際の歩行動作を比較して、被介助者による操作部13の操作が適切であるか否か、被介助者の歩行動作が被介助者の踏み出し位置情報に合っているか否かを判断して、褒め言葉や修正の指示等を、スピーカ15とプロジェクタ16を介して音声と光でそれぞれ伝える機能を備えた補正情報出力手段83と、被介助者の踏み出し位置情報と被介助者の実際の歩行動作を記憶する機能を備えた第2の記憶手段84と、第2の記憶手段84に記憶されたデータから選択されたデータを表示器(例えば、入力手段79に設けられ、タッチパネルを表示する表示画面、プロジェクタ16)に出力する表示手段85とを有している。ここで、被介助者による操作部13の操作状況と被介助者の歩行動作は、第1、第2のレーザレンジセンサ40、44により求めた自走台車12に対する被介助者の左右の踵及び膝の位置のデータから求める。また、歩行リズムは、圧力検出部76から入力された足裏の圧力分布の時間変化から求める。
【0053】
更に、教示部17には、教示部17をオンオフする第1の機能と、入力手段79、記憶手段80、データ作成手段81、第2の記憶手段84、及び表示手段85をオンオフする第2の機能、スピーカ15、プロジェクタ16、入力手段79、記憶手段80、データ作成手段81、情報出力手段82、及び補正情報出力手段83をオンオフする(すなわち、踏み出し位置情報を出力するか否かのモード選択する)第3の機能と、自走台車12の制御部25、第1のレーザレンジセンサ40、第1の距離維持手段42、第2のレーザレンジセンサ44、第2の距離維持手段46、障害物検知センサ47、静電容量型6軸力覚センサ60、及び把持センサ71をオンオフする第4の機能と、把持センサ71からの出力に基づいて、スピーカ15、プロジェクタ16、情報出力手段82、補正情報出力手段83、第2の記憶手段84、及び表示手段85を、把持部58が把持状態の際には稼動させ、把持部58が非把持状態の際には一次停止させる第5の機能とを備えた起動手段86とを有している。ここで、起動手段86は、教示部17のオンオフに対応して、オンオフする。なお、教示部17は、上記の各機能を発現するプログラムを、例えば携帯型の情報処理機器(例えば、パーソナルコンピュータ)に搭載することにより形成できる。なお、符号87は、操作棒57の先側に取付けられて、教示部17の入力手段79を載置する支持台である。
【0054】
続いて、本発明の一実施の形態に係る自立式の歩行支援装置10の作用について説明する。
図7に示すように、教示部17をオンする(S−1)。次いで、入力手段79の、例えば、タッチパネル及びデータ読取り機器を介して、歩行訓練を行う被介助者(利用者)の身体データ(利用者データ)を入力する(S−2)。なお、被介助者の身体データが入力されると、データ作成手段81により、歩行動作データである被介助者の踏み出し位置情報(リファレンスデータ)が作成される(T−1)。そして、利用者データが入力された後、踏み出し位置情報を出力するか否かのモード選択を行う(S−3)。ここで、踏み出し位置情報を出力する(教示有)の場合は、歩行支援装置10により歩行訓練の指導が自動で行われる。一方、踏み出し位置情報を出力しない(教示無)の場合は、歩行支援装置10により歩行訓練の指導は行われず(手動訓練となって)、歩行訓練の指導者の指導の下で、歩行訓練が行われる。そして、操作用グリップ59(把持部58)が把持されることにより、歩行訓練が開始される(S−4)。
【0055】
歩行訓練が開始されると、モード選択内容が確認され、モード選択内容が教示無の場合は(S−5)、被介助者(利用者)が操作用グリップ59の把持部58を把持して、操作用グリップ59を歩行方向(前方向)に押し出すと、操作用グリップ59に加えられた力は、連結材55を介して取付け部54に伝達され、6軸力覚センサ60により取付け部54の前後及び左右の傾動方向と、取付け部54の回転方向が検知される。そして、6軸力覚センサ60からの出力信号が、全方向移動機構18の制御部25に入力され、制御部25では自走台車12を移動させる制御信号が形成され、制御信号が駆動手段22、23、24に入力される。これにより自走台車12は、被介助者の指定した方向(歩行方向)に、予め設定された距離だけ移動して停止する。なお、自走台車12が予め設定された距離だけ移動して停止した状態は、杖を用いた歩行訓練を行う場合の、杖を持上げて前方に移動させて、床面に設置させた状態に対応する。
【0056】
従って、被介助者は、患脚を一歩踏み出し、次いで健脚を移動させることができ、1歩前進することができる。このとき、第1のレーザレンジセンサ40により、自走台車12に対する被介助者の左右の踵位置と、自走台車12と被介助者の左右の踵位置との間の踵離間距離がそれぞれ求められ、被介助者の左右の踵位置の移動から被介助者の歩行動作が検出される。また、第2のレーザレンジセンサ44により、自走台車12に対する被介助者の左右の膝位置と、自走台車12と被介助者の左右の膝位置との間の各膝離間距離がそれぞれ求められ、各膝離間距離の変化から、被介助者の左右の膝位置の移動が求まり、被介助者の歩行動作が検出される。また、圧力分布検出手段73により、被介助者が足を踏み出して床面14を加圧する際の状況、踏み出された足が床面14に接地して体重移動が行われる際の状況が把握できる(歩行リズムが分かる)。
【0057】
更に、踵離間距離のデータは、第1の距離維持手段42に入力され、各踵離間距離が予め設定された範囲内の距離であるか否かが判定される。ここで、踵離間距離が予め設定された範囲から外れる場合、踵離間距離が予め設定された範囲内となるように、自走台車12が移動する。また、膝離間距離のデータは、第2の距離維持手段46に入力され、各膝離間距離が予め設定された範囲内の距離であるか否かが判定される。ここで、膝離間距離が予め設定された範囲から外れる場合、膝離間距離が範囲内となるように、自走台車12が移動する。これによって、被介助者が歩行訓練中に転倒することが防止できる(以上、S−6)。
【0058】
第1のレーザレンジセンサ40による自走台車12に対する被介助者の左右の踵位置と、第2のレーザレンジセンサ44による自走台車12に対する被介助者の左右の膝位置から、被介助者の1歩移動する歩行動作が完了したことが検知されると、操作用グリップ59の把持部58が非把持状態であるか(訓練が終了したか)が確認される(S−7)。操作用グリップ59の把持部58が非把持状態の場合、第2の記憶手段84に保存された歩行訓練のデータを、表示手段85を介して表示器(例えば、入力手段79に設けられ、タッチパネルを表示する表示画面)に出力し(S−8)、歩行訓練が終了する。一方、操作用グリップ59の把持部58が把持状態である(訓練が終了していない)場合、操作用グリップ59が非把持状態となるまで、教示無の確認(S−5)と歩行動作(S−6)が繰り返される。
【0059】
ここで、自走台車12の前方の障害物が存在する場合、自走台車12と前方の障害物との距離が障害物検知センサ47により測定され、自走台車12と障害物との距離が予め設定した第1の距離を超えている場合、自走台車12は前方向に移動することができる。そして、自走台車12の前方向への移動が繰り返されて、自走台車12と障害物との距離が予め設定した第1の距離に到達した時点で、障害物検知センサ47に設けた音発生手段から警報音が発生する。これによって、自走台車12の移動方向(歩行方向)を変更することができる。ここで、自走台車12の移動方向が変更されず、自走台車12が更に障害物に接近して、自走台車12と前方の障害物との距離が予め設定した第2の距離に到達した時点で、障害物検知センサ47から自走台車12を停止させる停止信号が出力されて、自走台車12は強制的に停止する。
【0060】
モード選択(S−3)において、踏み出し位置情報の出力が選択された場合(S−5において教示有)、歩行訓練が開始すると、データ作成手段81で作成されたリファレンスデータが、情報出力手段82を介してスピーカ15とプロジェクタ16からそれぞれ出力される。そして、被介助者はファレンスデータに従った歩行動作(教示歩行動作)を行う(T−2)。以下、教示歩行動作(T−2)について、説明する。なお、被介助者の1歩移動する歩行動作が完了した後の処理は、モード選択(S−3)において、踏み出し位置情報の出力が選択されなかった場合と同様なので、説明は省略する。
【0061】
図8(A)に示すように、教示歩行動作が開始されると(TT−1)、定位置指示として、スピーカ15から、例えば、「左右の足をそろえて杖を握ってください」という音声が出力される(TT−2)。そして、左右の足(踵)の位置が、第1のレーザレンジセンサ40により確認され、左右の踵位置が予め設定された範囲内に存在している場合、スピーカ15から、例えば、「OKです」という音声、あるいは「ピンポン」という音が出力される。一方、左右の踵位置が予め設定された範囲の外に存在している場合、再度、定位置指示として、スピーカ15から、「左右の足をそろえて杖を握ってください」という音声が出力され(TT−2)、左右の踵位置が予め設定された範囲内に配置されるまで、定位置指示が繰り返される(TT−3)。なお、図8(B)に、定位置指示に従った左右の足位置(初期足位置P)と、自走台車12の操作用グリップ59の初期位置Pをそれぞれ示す。
【0062】
被介助者の足位置が定位置指示に従っていることが確認されると、杖移動の指示として、スピーカ15から、例えば、「杖(操作用グリップ59)を前に出して(押して)ください」という音声が出力される(TT−4)。図8(C)に、杖移動の指示に従って自走台車12が移動して杖(操作用グリップ59)が初期位置Pから、Lだけ前方に移動した状態を示す。ここで、杖(操作用グリップ59)が移動したことは、例えば、第1のレーザレンジセンサ40による自走台車12に対する被介助者の左右の踵位置の変化から検知する。なお、杖(操作用グリップ59)の移動量Lは、例えば、第1のレーザレンジセンサ40による踵離間距離が、予め設定された範囲内となるように設定されている。
【0063】
杖(操作用グリップ59)の移動が確認されると、スピーカ15から、患脚が左脚の場合、例えば、「左足を前に出して下さい」という音声、あるいは「ピンポン」という音を出力すると共に、プロジェクタ16から、被介助者の左足の前方の床面14上に、左足の踏み出し位置として、左足の足画像を表示する患足移動教示を行う(TT−5)。そして、被介助者の左足が、左足の踏み出し位置として表示された左足の足画像に重なるように踏み出されたか否かが判定される(TT−6)。図8(D)に、被介助者の左足が、初期位置Pから、Wだけ前方に踏み出されて、左足の足画像に重なった状態を示す。
ここで、被介助者の左足の踏み出し状態は、第1のレーザレンジセンサ40による自走台車12に対する被介助者の左の踵位置と、第2のレーザレンジセンサ44による自走台車12に対する被介助者の左の膝位置から行う。
【0064】
ここで、被介助者の左足が、左足の踏み出し位置として表示された左足の足画像に重なっていないと判定された場合(TT−6)、再度、患足移動教示(TT−5)が行われ、被介助者の左足が、左足の足画像に重なるまで、患足移動教示が繰り返される(TT−5)。なお、被介助者の左足は、初期足位置Pに対して移動しているので、現在の被介助者の左足位置に対して、それぞれ踵離間距離と膝離間距離を求めて、踵離間距離及び膝離間距離が予め設定された範囲内の距離でない場合は、自走台車12が移動して、すなわち、杖位置補正が行われる(TT−7)。
【0065】
被介助者の左足が、左足の踏み出し位置として表示された左足の足画像に重なっていると判定された場合(TT−6)、スピーカ15から、健脚である右脚に対して、例えば、「右足を前に出して下さい」という音声、あるいは「ピンポン」という音を出力すると共に、プロジェクタ16から、被介助者の右足の前方の床面14上に、右足の踏み出し位置として、右足の足画像を表示する健足移動教示を行う(TT−8)。次いで、被介助者の右足が、右足の踏み出し位置として表示された右足の足画像に重なるように踏み出されたか否かが判定される(TT−9)。そして、被介助者の右足が、右足の踏み出し位置として表示された右足の足画像に重なるように踏み出されたことが確認されると、被介助者の1歩行動作が完了したので、次の被介助者の1歩行動作が開始される(TT−1)。また、図8(E)に、被介助者の右足が、初期位置Pから、Wだけ前方に踏み出されて、右足の足画像に重なった状態(被介助者がWだけ前方に移動した状態)を示す。
なお、被介助者の右足の踏み出し状態は、第1のレーザレンジセンサ40による自走台車12に対する被介助者の右の踵位置と、第2のレーザレンジセンサ44による自走台車12に対する被介助者の右の膝位置から行う。
【0066】
ここで、被介助者の右足が、右足の踏み出し位置として表示された右足の足画像に重なっていないと判定された場合(TT−9)、再度、健足移動教示(TT−8)が行われ、被介助者の右足が、右足の足画像に重なるまで、健足移動教示が繰り返される(TT−8)。なお、被介助者の右足は、初期足位置Pに対して移動しているので、現在の被介助者の右足位置に対して、それぞれ踵離間距離と膝離間距離を求めて、踵離間距離及び膝離間距離が予め設定された範囲内の距離でない場合は、自走台車12が移動して、すなわち、杖位置補正が行われる(TT−10)。
【0067】
以上、説明したように、自立式の歩行支援装置10においては、歩行時の支えとなる支持部材11が立設された自走台車12が、操作部13の操作によって床面14上を移動するので、被介助者の身体バランスを容易に保ちながら、歩行訓練を行うことができる。そして、歩行訓練では、教示部17のスピーカ15とプロジェクタ16により、被介助者が足を踏み出す際に必要な踏み出し位置情報(リファレンスデータ)が音声と映像でそれぞれ伝えられるので、被介助者の歩行訓練(例えば、脚動作、歩行リズム等)を効果的に補助できると共に、歩行訓練のモチベーションを上げることができる。
【0068】
また、自立式の歩行支援装置10では、自走台車12に、全方向移動機構18が組み込まれ、被介助者が操作用グリップ59の把持部58を把持して前方に押す操作によって、自走台車12を床面14上で前方に移動させることができ、被介助者は自立式の歩行支援装置10を押したり、持上げたりする必要がなく、被介助者が自立式の歩行支援装置10を操作する際の身体(例えば、手、腕、及び肩)の負担を軽減できると共に、歩行訓練時の疲れも軽減できる。
【0069】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、被介助者が歩行時に踏み出す足の踏み出し位置情報を、床面上に足画像として表示したが、床面上に、被介助者が装着した靴に外接するサイズの円、四角形、三角形等の図形で表示するようにしてもよい。
また、起動手段に、情報出力手段から出力される被介助者の踏み出し位置情報を、(1)音声、(2)光(画像)、又は(3)音声及び光(画像)のいずれか1で行うことを選択する伝達(出力)方法の選択機能を設けることができる。これにより、起動手段において、音声による情報伝達の方法が選択されると聴覚案内手段の一例であるスピーカから、光による情報伝達の方法が選択されると視覚案内手段の一例であるプロジェクタから、音声及び光による情報伝達の方法が選択されると聴覚案内手段の一例であるスピーカ及び視覚案内手段の一例であるプロジェクタから、それぞれ被介助者の踏み出し位置情報が伝達される。
【符号の説明】
【0070】
10:自立式の歩行支援装置、11:支持部材、12:自走台車、13:操作部、14:床面、15:スピーカ、16:プロジェクタ、17:教示部、18:全方向移動機構、19、20、21:駆動用球体、22、23、24:駆動手段、25:制御部、26:フレーム、27:円形載置台、28:下面、29、30、31:支持用ボール型キャスター、32:ロータ、33:駆動用モータ、34:回転軸、35:内側面、36:車輪型キャスター、37:収納部、38:カバー、39:第1の箱部材、40:第1のレーザレンジセンサ、41:第1のスリット、42:第1の距離維持手段、43:第2の箱部材、44:第2のレーザレンジセンサ、45:第2のスリット、46:第2の距離維持手段、47:障害物検知センサ、48:水平スリット、49:転倒防止用ストッパー、50:腕部材、51:取付け部材、52:補助輪、53:天井板、54:取付け部、55:連結材、56:ボルト、57:操作棒、58:把持部、59:操作用グリップ、60:静電容量型6軸力覚センサ、61:ベース、62:スライド部、63:ガイド部、64:シリンダ本体、65:シリンダロッド、66:流体圧シリンダ、67:把持部、68:補助グリップ、69:カバー部材、70:雌ねじ部、71:把持センサ、73:圧力分布検出手段、74:圧力分布測定器、75:発信器、76:圧力検出部、77:歪センサ、78:保護部材、79:入力手段、80:記憶手段、81:データ作成手段、82:情報出力手段、83:補正情報出力手段、84:第2の記憶手段、85:表示手段、86:起動手段、87:支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行時の支えとなる支持部材が立設された自走台車と、該支持部材に設けられた前記自走台車の操作部とを有し、前記操作部の操作によって床面上を前記自走台車が移動する自立式の歩行支援装置であって、
前記自走台車には、前記操作部を操作する被介助者の踏み出し位置情報を、音声及び/又は光でそれぞれ伝える聴覚案内手段及び/又は視覚案内手段を備えた教示部が設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の自立式の歩行支援装置において、前記自走台車には、全方向移動機構が組み込まれ、前記操作部の操作によって、前記床面上を全方向に移動可能であることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自立式の歩行支援装置において、前記操作部は、前記支持部材の前後及び左右の傾動方向と、前記支持部材の回転方向を検知する力覚センサを備えることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1記載の自立式の歩行支援装置において、前記自走台車には、前記被介助者の前記床面上の脚位置及び足位置をそれぞれ検出する光センサが設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項5】
請求項4記載の自立式の歩行支援装置において、前記自走台車には、前記被介助者の前記床面上の前記脚位置及び前記足位置から求めた該被介助者と該自走台車との離間距離を、予め設定された範囲に保つ距離維持手段が設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1記載の自立式の歩行支援装置において、前記支持部材には、高さ調整可能な操作用グリップが設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項7】
請求項6記載の自立式の歩行支援装置において、前記操作用グリップには、把持センサが設けられて、該把持センサからの出力によって該自立式の歩行支援装置の運転状態の切替えを行うことを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の自立式の歩行支援装置において、前記支持部材には、前記操作用グリップとは別に、昇降可能な補助グリップが設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1記載の自立式の歩行支援装置において、前記自走台車の前側には、該自走台車の前方の障害物を検知する障害物検知センサが設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1記載の自立式の歩行支援装置において、前記自走台車の周囲には、複数の転倒防止用ストッパーが設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1記載の自立式の歩行支援装置において、前記操作部には、前記踏み出し位置情報の基になる操作データを入力する入力手段と、該操作データから作成した該踏み出し位置情報を出力する情報出力手段が設けられていることを特徴とする自立式の歩行支援装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1記載の自立式の歩行支援装置において、前記床面上での前記被介助者の足裏の圧力分布を測定する圧力分布検出手段を有していることを特徴とする自立式の歩行支援装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−229838(P2011−229838A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105428(P2010−105428)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成21年11月25日〜28日 社団法人日本ロボット工業会、株式会社日刊工業新聞社共催の「2009国際ロボット展」に出品
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(508090376)リーフ株式会社 (3)