説明

自走式電線点検装置

【課題】障害物を回避しながら電線の状態を精度良く点検することができる自走式の電線点検装置を提供する。
【解決手段】第1アーム24を基軸21を中心に回転可能とする。電線A2を点検するときは第1アーム24に設けた点検部26を電線A2に近づけることにより、電線A2の状態を正確に把握することができる。また、障害物Sがある場合は基軸21を回転させて点検部26を電線A2から離れた位置に退避させることができるため、装置を電線上で支障なく走行させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空配設された電線(例えば送電線)上を滑走しながら、電線の状態を点検する自走式の電線点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線などの架空配設された電線は、経年劣化により外部損傷や内部腐食が生じるため、定期的に点検する必要がある。従来、このような送電線の点検は、人が送電線に乗って行っていた。しかし、人による点検作業は、危険を伴う上、送電を一時ストップする必要があるため作業効率が悪い。このような事情から、送電線上を走行しながら送電線の状態を点検する自走式の電線点検装置が開発されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−254567号公報(図26)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の図26に示されている電線点検装置では、電線を点検するためのセンサが支柱に固定されている。このセンサは、例えば多導体の各電線の間隔を保持するためのスペーサ等の障害物を回避できる位置に配設する必要があるため、電線からある程度離隔せざるを得ず、点検の精度が低下する恐れがある。
【0005】
本発明の課題は、障害物を回避しながら電線の状態を精度良く点検することができる自走式の電線点検装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、電線上を滑走しながら電線の状態を点検する自走式電線点検装置であって、電線と直交する方向に設けた基軸と、基軸から水平方向に延び、基軸を中心に回転可能な第1アームと、第1アームに設けられ、電線の状態を点検する点検部とを備えた自走式電線点検装置を提供するものである。
【0007】
このように、本発明の電線点検装置では、水平方向に延びた第1アームを、基軸を中心に回転させることにより、点検部を水平方向から電線に近づけることができ、これにより電線の状態を正確に把握することができる。また、障害物がある場合は第1アームを基軸を中心に回転させて点検部を電線から離れた位置に退避させることにより、装置を電線上で支障なく走行させることができる。尚、ここで言う「電線と直交する方向」や「水平方向」は、厳密な意味での直交方向や水平方向を意味するものではなく、上記の効果を奏する範囲内で略直交方向や略水平方向を含む。
【0008】
この電線点検装置において、第1アームから第1アームと直交する方向に延び、第1アームを中心に回転可能な第2アームを設け、この第2アームの先端に点検部を取り付ければ、第2アームを回転させることにより、水平方向だけでなく上下方向(鉛直方向)からも点検部を電線に近接・離反可能とすることができる。
【0009】
このような電線点検装置において、第1アームを基軸周りに回転させるモータと、第2アームを第1アーム周りに回転させるモータとを別々に設けると、装置全体の重量が増大すると共に装置の機構が複雑になるため好ましくない。そこで、上記の電線点検装置に、基軸を中心に回転可能なカムと、第1アーム周りに回転自在に設けられたカムフォロア支持部と、カムフォロア支持部に取付けられたカムフォロアと、カムフォロア支持部に連結され、第2アームを第1アーム周りに回転させるアーム受けとを設け、カムとカムフォロアとを基軸の外周方向で係合させることにより第1アームを基軸を中心に回転可能とすると共に、カムとカムフォロアとを第1アームの外周方向で係合させることによりカムフォロア支持部及びアーム受けを第1アームを中心に回転させ、第2アームを第1アームを中心に回転可能とすれば、第1アームの回転及び第2アームの回転をカムを回転させる一つのモータで行うことができるため、装置の軽量化及び簡略化を図ることができる。このような機構は、例えば、カムフォロア支持部の基軸周りの回転を規制するストッパと、カムフォロア支持部の第1アーム周りの回転を規制する付勢手段とを設け、カムフォロア支持部の第1アーム周りの回転を付勢手段で規制した状態でカムフォロアに係合したカムを基軸周りに回転させることにより、第1アームを基軸周りに回転し、カムフォロア支持部の基軸周りの回転をストッパで規制した状態でカムフォロアに係合したカムを基軸周りに回転させることにより、アーム受けを介して第2アームを第1アーム周りに回転させることにより、構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、障害物を回避しながら電線を精度良く点検することができる自走式の電線点検装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電線点検装置の斜視図である。
【図2a】点検ユニットの斜視図である(退避状態)。
【図2b】図2aの部分拡大図である。
【図2c】点検ユニットの正面図である。
【図3a】点検ユニットの斜視図である(点検状態)。
【図3b】図3aの部分拡大図である。
【図3c】点検ユニットの正面図である。
【図4】(a)及び(b)は、点検ユニットの動作を説明するための平面図である。
【図5】第2点検部を電線上に配した状態を示す正面図である。
【図6】スペーサを回避しながら前進する電線点検装置を示す(a)平面図、(b)側面図である。
【図7】スペーサを回避しながら前進する電線点検装置を示す(a)平面図、(b)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に、本発明の一実施形態にかかる電線点検装置1を4本の電線を並行に配設した送電線A(4導体A)の上に配置した状態を示す。この電線点検装置1は、上側の2本の電線A1を点検しながら電線A1上を滑走する滑走部10と、下側の2本の電線A2を点検する点検ユニット20と、重心調整部30とを主に備える。尚、以下の説明において、電線点検装置1の進行方向、すなわち電線Aの延びる方向を前後方向、鉛直方向を上下方向、これらの方向と直交する方向を幅方向と言う。また、図1において、電線点検装置1は、スペーサSに接近する向き(図中の右向き)に進行するものとする。
【0014】
滑走部10は、幅方向に延びた2本のプーリ回転軸11と、各プーリ回転軸11に2個ずつ取り付けられたプーリ12と、2本のプーリ回転軸11を連結する連結アーム14とを有する。プーリ12はプーリ回転軸11に回転自在に取り付けられ、プーリ回転軸11上で2本の電線A2間の幅と同じ分だけ幅方向に離隔して配される。各プーリ回転軸11は、連結軸13を介して連結アーム14の両端に取り付けられる。連結軸13にはモータ(図示省略)が内蔵され、このモータを回転駆動することで、連結軸13を中心に各プーリ回転軸11を回転させることができる。
【0015】
滑走部10には、上側の電線A1の状態を点検するための第1点検部15が設けられる。図示例では、後方のプーリ回転軸11の各プーリ12の幅方向両側から前方に延びた支持具16を取り付け、この支持具16を介してプーリ回転軸11に第1点検部15が取り付けられる。第1点検部15は、例えばカメラで電線の状態を点検するものであり、その撮影データはバッテリーボックス34に設けられた記録部に記録される。支持具16はプーリ回転軸11の外周面に回転可能に取り付けられ、プーリ回転軸11を回転させることにより第1点検部15を上下に移動させることができる。図示例は、第1点検部15により電線A1を点検可能な状態を示しており、この状態から第1点検部15を上方へ移動させれば、第1点検部15とスペーサ等の障害物との接触を回避することができる。
【0016】
点検ユニット20は、図2(a)に示すように、電線と直交する方向(図示例では鉛直方向)に延びた基軸21と、基軸21を中心に(すなわち図2(a)の垂直回転軸M1を中心に)回転可能であり、上下に並べて配された駆動回転輪22及び従動回転輪23と、従動回転輪23から水平方向に延び、従動回転輪23と共に基軸21周りに回転可能な第1アーム24と、第1アーム24から第1アーム24と直交する方向に延び、第1アーム24を中心に(すなわち図2(a)の水平回転軸M2を中心に)回転可能な第2アーム25と、第2アーム25の先端に設けられ、電線の状態を点検する第2点検部26(図1参照)とを備える。駆動回転輪22は、基軸21の内部に内蔵されたモータ(図示省略)で回転駆動され、従動回転輪23は、基軸21に自由回転可能に取り付けられる。第2点検部26は、例えばカメラで電線の状態を点検するものであり、その撮影データはバッテリーボックス34に設けられた記録部に記録される。基軸21の上端部には連結部材20aが設けられ、この連結部材20aを介して点検ユニット20が連結アーム14に取り付けられる。尚、以下では、説明の便宜上、垂直回転軸M1周りの回転方向のうち、図2(a)に矢印で示す方向(上面視で反時計周り方向)を正方向、その反対向きを逆方向とする。また、水平回転軸M2周りの回転方向のうち、図2(a)に矢印で示す方向(第2アーム25の先端部が下がる方向)を正方向、その反対向きを逆方向とする。
【0017】
駆動回転輪22にはカム27が設けられ、第1アーム24にはカム27と係合するカムフォロア28が設けられる。カム27には、図2(c)に示すように、カムフォロア28が嵌まり込む凹部27aと、凹部27aの左側(駆動回転輪22の逆回転方向側)に設けられた肩面27bとが設けられる。カムフォロア28は、図2に示すように、第1アーム24の基端部(基軸21側端部)の外周面に、第1アーム24の外径方向に突出して設けられ、その先端(外径端)にはローラ28aが回転自在に設けられる。カムフォロア28は、カムフォロア支持部28bを介して第1アーム24周りに回転可能に取り付けられる。カムフォロア支持部28bは、第1アーム24の外周に設けられた環状の部材であり、第1アーム24と共に基軸21周りに回転可能であると共に、第1アーム24周りに回転可能に設けられる。カムフォロア支持部28bには、付勢手段として、例えばバネ等の弾性部材(図示省略)が設けられ、この弾性部材の弾性力により、カムフォロア支持部28bを第1アーム24周りの逆方向(図2(c)の反時計回り方向)に常時一定の力が付勢される。
【0018】
第2アーム25は、第1アーム24の外周に自由回転可能に設けられる。第2アーム25の基端部(第1アーム24側端部)の下側にはアーム受け25aが設けられ(図2(a)参照)、このアーム受け25aで第2アーム25を下方から支持することで、第2アーム25の自重による回転を規制している。すなわち、アーム受け25aを第1アーム24周りに回転させることにより、第2アーム25を第1アーム24周りに回転することができる。アーム受け25aは、第1アーム24に設けられたカムフォロア支持部28bと連結され、これらが一体に第1アーム24周りに回転する。図示例では、2箇所のアーム受け25a同士、及び第1アーム24の基端側のアーム受け25aとカムフォロア支持部28bとが、それぞれ第1アーム24の外周に回転自在に設けられた円筒部材25bで連結されている。図2に示す状態では、カム27とカムフォロア28との係合により、カムフォロア支持部28bと連結されたアーム受け25aが静止され、第2アーム25の先端が上端位置(本実施形態では水平位置、図2(a)参照)で保持される。
【0019】
基軸21には、従動回転輪23の基軸21周りの回転を所定位置で規制するためのストッパ21aが設けられる。本実施形態では、図2及び図3に示すように、従動回転輪23から下方に突出して設けられた第1ピン23aと、基軸21の外周面から突出した第1ストッパ21aとを設けられる。第1ピン23aと第1ストッパ21aとが当接し、基軸21周りで係合することにより、従動回転輪23及びこれに取付けられた部材(第1アーム24、第2アーム25、第2点検部26、カムフォロア28、カムフォロア支持部28b)の基軸21周りの正方向の回転が規制される(図3参照)。
【0020】
基軸21には、カムフォロア支持部28bの第1アーム24周りの回転を所定位置で規制するための第2ストッパ21bが設けられる。本実施形態では、図2及び図3に示すように、第1アーム24から外径へ向けて突出し、カムフォロア支持部28bと共に第1アーム24周りに回転する第2ピン29と、基軸21の外周面から突出した第2ストッパ21bとを設け、これらが当接することによりカムフォロア支持部28b及びこれと連動する部材(アーム受け25b、第2アーム25、第2点検部26)の正方向(図3(c)の時計回り方向)の回転が規制される。
【0021】
以下、第2点検部26を退避状態(図1の状態)から点検状態(図5の状態)へ移動させる手順を説明する。
【0022】
図4(a)は、第2点検部26を電線Aから退避させた状態であり(図1参照)、第2アーム25の先端を上方位置(本実施形態ではおよそ水平位置)に配されている。第1アーム24のカムフォロア28のローラ28aは、駆動回転輪22のカム27の凹部27aに嵌まり込んでいる(図2参照)。この状態から駆動回転輪22を図4(a)の矢印方向(反時計回り)に回転させると、カム27と係合したカムフォロア28が、基軸21周りに回転しようとすると共に、第1アーム24周りに回転しようとする。すなわち、カムフォロア28及びカムフォロア支持部28bを介して、従動回転輪23及び第1アーム24が基軸21周りに回転しようとすると共に、円筒部材25b及びアーム受け25aが第1アーム24周りに回転しようとする。このとき、カムフォロア支持部28bの第1アーム24周りの回転はバネ(付勢手段)の弾性力により規制されているため、カムフォロア支持部28bが回転することなく(すなわち第2アーム25の先端を上方位置に保ったままで)、従動回転輪23、第1アーム24、第2アーム25、及び第2点検部26が一体に基軸21周りに回転する。換言すれば、このときのカム27とカムフォロア28との係合によりカムフォロア支持部28bが第1アーム24周りに回転しない程度に、バネ(付勢手段)の付勢力が設定される。
【0023】
図4(b)に示すように、第2点検部26が電線A2の上方に来るまで従動回転輪23が回転すると、図3(c)に示すように、従動回転輪23の第1ピン23aが基軸21の第1ストッパ21aに当接し、従動回転輪23及び第1アーム24の基軸21周りの回転が規制される。この状態で、さらに駆動回転輪22(カム27)を回転させると、カム27と第1ピン23a及び第1ストッパ21aとが協働して、バネの弾性力に抗ってカムフォロア支持部28b及びアーム受け25aが正方向に回転し、これにより第2アーム25が自重により正方向(先端が下がる方向)に回転する。カムフォロア28の回転が進むと、カムフォロア28のローラ28aがカム27の凹部27aから外れて、ローラ28aが肩面27bにより上方から押さえられた状態となる(図3(c)参照)。こうしてカムフォロア支持部28bが第1アーム24周りに回転することにより、第2アーム25の先端が降下し、第2点検部26が電線A2を正確に点検できる程度に近接した位置に配される(図5参照)。その後、カムフォロア支持部28bに設けられた第2ピン29と基軸21に設けられた第2ストッパ21bとが当接すると(図3(c)参照)、カムフォロア28の正方向の回転が規制され、アーム受け25aが停止する。このとき、アーム受け25aは図3(a)に示す状態となるまで回転するため、電線がなければ第2アーム25は図示の状態まで先端が降下するが、実際には第2アーム25が電線A上に配されることで、図5のような角度で停止している。
【0024】
一方、第2点検部26を点検状態から退避状態へ移動させる手順は、上記と反対の手順を行えばよい。図3に示す状態(点検状態)では、第2ピン29と第2ストッパ21bとが当接し、且つ、カム27の肩面27bでカムフォロア28のローラ28aが上方から押さえられているため、カムフォロア支持部28bは、第1アーム24周りの何れの方向への回転も規制されている。さらに、第2ピン29と第2ストッパ21bとが当接しているため、従動回転輪23及び第1アーム24の逆方向への回転も規制されている。この状態で、駆動回転輪22を基軸21周りで逆方向に回転させると、従動回転輪23及びカムフォロア28が静止したまま、駆動回転輪22及びカム27が基軸21周りに回転する。さらに駆動回転輪22を回転させると、カムフォロア28のローラ28aが凹部27aに嵌まり込み、カムフォロア支持部28bが逆方向(第2アーム25の先端が上昇する方向)に回転し、第2ピン29が基軸21の第2ストッパ21bと当接しない位置まで上昇する(図2(c)参照)。これにより、従動回転輪23の基軸21周りの逆方向の回転が許容されるため、さらに駆動回転輪22を基軸21周りで逆方向に回転させることで、駆動回転輪22と従動回転輪23とが係合手段(カム27及びカムフォロア28)を介して一体に回転し、これに伴って第1アーム24、第2アーム25、及び第2点検部26が一体となって基軸21周りで逆方向に回転する。以上により、第2点検部26が電線A上から退避した位置に移動される。
【0025】
上記のように、第1アーム24を基軸21周りに回転可能とすることにより、第2点検部26を水平面内で回転させることができ、これにより第2点検部26を、電線に近づけた点検位置と電線から離隔させた退避位置との間で自由に移動させることができる。特に、第2点検部26は、4導体のうち、下側の電線A2を点検するものであるため、第1点検部15のように上方に移動させるだけではスペーサSを回避できない。従って、上記のように第2点検部26を水平面内で回転させることにより電線Aの側方に退避させることができるため、電線点検装置1はスペーサSを回避しながら走行することができる。
【0026】
また、上記のように、カム27及びカムフォロア28の係合により、第1アーム24の基軸21周りの回転、及び第2アーム25の第1アーム24周りの回転の2つの動作を、駆動回転輪22(カム27)の回転駆動のみで行うことができる。すなわち、駆動回転輪22を回転駆動するモータのみで上記の2種類の動作を行うことができるため、上記の各動作にそれぞれモータを設ける場合と比べて装置の軽量化及び構造の簡略化を図ることができる。
【0027】
重心調整部30は基軸21の下端部に設けられ(図1参照)、第3アーム31、第4アーム32、連結軸33、及びバッテリーボックス34とを有する。第3アーム31の一端は基軸21の下端に取り付けられ、第3アーム31の他端は第4アーム32の端部に連結軸33を介して取り付けられる。バッテリーボックス34は第4アーム32の取り付けられる。基軸21の内部には、第3アーム31を基軸21を中心に回転駆動するモータ(図示省略)が設けられ、連結軸33の内部には、第2アーム32を第1アーム31に対して連結軸33を中心に回転駆動するモータが設けられる。バッテリーボックス34には、各モータや点検部に電源を供給するバッテリーや、点検部により撮影された電線の画像や外周面の曲率のデータを記録する記録部が備えられる。
【0028】
重心調整部30の第3アーム31及び第4アーム32を回転させてバッテリーボックスの位置を変えることにより、電線点検装置1の重心位置を調整することができ、スペーサ等の障害物を回避しながら前進することができる。障害物を回避する具体的な方法を図6及び図7を用いて説明する。尚、これらの図において、右側を電線点検装置1の進行方向前方、左側を進行方向後方とする。また、電線点検装置1の滑走部10のうち、前方のプーリ回転軸及びプーリを11a・12aとし、後方のプーリ回転軸及びプーリを11b・12bとする。
【0029】
電線点検装置1がスペーサSの手前に来たら、重心調整部30の第3アーム31及び第4アーム32を回転させてバッテリーボックス34を電線点検装置1の後方側に配する(図6(a)参照)。これにより、電線点検装置1の重心が後方に偏り、前方のプーリ回転軸11aが持ち上げられてプーリ12aが電線A1から離隔する(図6(b)参照)。この状態で電線点検装置1を前方に走行させることにより、前方のプーリ12aとスペーサSとの接触を回避することができる。
【0030】
前方のプーリ12aがスペーサSを越えたら、重心調整部30の第3アーム31及び第4アーム32を回転させてバッテリーボックス34を電線点検装置1の前方側に配する(図7(a)参照)。これにより、電線点検装置1の重心が前方に偏り、後方のプーリ回転軸11bが持ち上げられてプーリ12bが電線A1から離隔する(図7(b)参照)。この状態で電線点検装置1を前方に走行させることにより、後方のプーリ12bとスペーサSとの接触を回避することができる。
【0031】
以上のように、バッテリーボックス34の位置を変えて電線点検装置1の重心を調整することにより、スペーサS等の障害物を回避しながら走行することができる。尚、この障害物を回避する一連の動作の間は、点検ユニット20の第1アーム24を退避位置、すなわち基軸21に対して電線と反対側に配しているため、第1アーム24,第2アーム25,及び第2点検部26とスペーサSとの接触も回避できる(図6(a)及び図7(a)参照)。
【0032】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、上側の電線A1を点検する第1点検部15が上下方向のみに移動可能な構成を成しているが、これに限らず、例えば第1点検部15を第2点検部26と同様の構成(点検ユニット20と同様の構成)としてもよい。
【0033】
また、上記の実施形態では4導体を点検する電線点検装置に本発明を適用する場合を示しているが、電線の本数は特に限定されず、単導体や2導体を点検する電線点検装置に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 電線点検装置
10 滑走部
11 プーリ回転軸
12 プーリ
13 連結軸
14 連結アーム
15 第1点検部
20 点検ユニット
21 基軸
21a 第1ストッパ
21b 第2ストッパ
22 駆動回転輪
23 従動回転輪
23a 第1ピン
24 第1アーム
25 第2アーム
26 第2点検部
27 カム
28 カムフォロア
28a ローラ
28b カムフォロア支持部
29 第2ピン
30 重心調整部
31 第4アーム
32 第5アーム
33 連結軸
34 バッテリーボックス
A 送電線
A1 上側の電線
A2 下側の電線
S スペーサ(障害物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線上を滑走しながら電線の状態を点検する自走式電線点検装置であって、
電線と直交する方向に設けた基軸と、基軸から水平方向に延び、基軸を中心に回転可能な第1アームと、第1アームに設けられ、電線の状態を点検する点検部とを備えた自走式電線点検装置。
【請求項2】
第1アームから第1アームと直交する方向に延び、第1アームを中心に回転可能な第2アームを設け、この第2アームの先端に前記点検部を取り付けた請求項1記載の自走式電線点検装置。
【請求項3】
基軸を中心に回転可能なカムと、第1アーム周りに回転自在に設けられたカムフォロア支持部と、カムフォロア支持部に取付けられたカムフォロアと、カムフォロア支持部に連結され、第2アームを第1アーム周りに回転させるアーム受けとを設け、カムとカムフォロアとを基軸の外周方向で係合させることにより第1アームを基軸を中心に回転可能とすると共に、カムとカムフォロアとを第1アームの外周方向で係合させることによりカムフォロア支持部及びアーム受けを第1アームを中心に回転させ、第2アームを第1アームを中心に回転可能とした請求項2記載の自走式電線点検装置。
【請求項4】
カムフォロア支持部の基軸周りの回転を規制するストッパと、カムフォロア支持部の第1アーム周りの回転を規制する付勢手段とを設け、カムフォロア支持部の第1アーム周りの回転を付勢手段で規制した状態でカムフォロアに係合したカムを基軸周りに回転させることにより、第1アームを基軸周りに回転させ、カムフォロア支持部の基軸周りの回転をストッパで規制した状態でカムフォロアに係合したカムを基軸周りに回転させることにより、アーム受けを介して第2アームを第1アーム周りに回転させる請求項3記載の自走式電線点検装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−220346(P2010−220346A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62866(P2009−62866)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(505087230)株式会社ハイボット (6)