説明

自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツ

【課題】運転者の股間部に心地よくフィットし、坐骨結節部及び恥骨結合部を快適に保護することができる自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツを提供する。
【解決手段】坐骨被覆部分32、恥骨被覆部分34、補助被覆部分36を順に備える。坐骨被覆部分32は、左右一対の第一の表面緩衝部40が薄肉部38による溝部38aで区切られている。恥骨被覆部分34は、第二の表面緩衝部42が薄肉部38による溝部38aで、第一の表面緩衝部40と区切られている。補助被覆部分36は、左右一対の第三の表面緩衝部44が薄肉部38による溝部38aで区切られ、さらに溝部38aで第二の表面緩衝部42と区切られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、骨盤等を保護するパッドが設けられた自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツに関する。
【背景技術】
【0002】
ロードバイク等の高速走行用の自転車を運転するとき、運転者は、図7に示すように、上半身を深く前傾させサドル3上面に骨盤5を立てるような姿勢になることが好ましい。長時間の乗車姿勢を維持するロードバイク等においては、引用文献1の背景技術に開示されているように、上半身を前傾させつつも、『骨盤を立てる』ことが重要であることが認識されつつある。例えば、自転車レースでは、路面に対して骨盤を立てたライディングフォームは、長時間、効率良く足の力を自転車に伝えるために重要なフォームであるが、特に経験の浅いライダーは、骨盤を立てた姿勢を持続することが難しく、時間の経過と共に、路面に対して骨盤が倒れた、いわゆる上体がつぶれた状態になりやすい。上体がつぶれると、重心が前方に移動して、体重が腕及び肩等により多くかかるようになり、それらが痛み、さらに腰、お尻等にも痛みが生ずることが多くなる。また、上体がつぶれることにより、膝が上がらなくなり、足の力が効率的に自転車に伝わりにくくなり、ペダルを漕ぐためにより強い力が必要となり、足の痛み及び攣りにも繋がりうる。
【0003】
このとき運転者Mには、図8に示すように、サドル3上面の後方寄りにある一対の坐骨結節支持部分7と、サドル3上面の前方寄りにある恥骨結合支持部分9に、上半身の体重がかかることにより、サドル3から強い反力を受け、臀部や股間部に不快なストレスが生じる。
【0004】
従来、運転者Mの臀部や股間部に加わる力を分散させる自転車用パンツとして、例えば、特許文献2に開示されているように、パンツ本体の内側に、内部パッド及び布カバーとから成る保護パッドが取り付けられた自転車用パンツがある。この内部パッドは、人体の臀部に対応する凸状の第一緩衝部と、鼠径部に対応する平坦な第二緩衝部とを有し、さらに第二緩衝部には、上方へ開口する収容部が形成されている。
【0005】
また、特許文献3に開示されているように、パンツ本体の内側に、一枚のシートに陰部保護部と会陰部−坐骨保護部とが形成された保護シートが取り付けられたサイクリングパンツがある。この保護シートの会陰部−坐骨保護部保護部には、前後に長い凸状の緩衝部(パッド)が左右一対に設けられており、陰部保護部は、V字形切り込みを接合することによって凹状のシェル形に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−58150号公報
【特許文献2】実用新案登録第3147531号公報
【特許文献3】特開2008−240232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の自転車用パンツの場合、運転者の坐骨結節部は、上面が平坦で広い凸状になっている第一緩衝部に覆われて保護されることになるが、運転中の運転者の坐骨結節部は、その先端部が突出してサドル上面に突き当たる形になるので、立体的な坐骨結節部の表面に第一緩衝部がフィットせず、坐骨結節部の先端部に荷重が集中し緩衝効果が低く、フィット性の悪い緩衝部によりパンツにシワが発生し、運転者に違和感、不快感を与える原因になっていた。
【0008】
また、特許文献3のサイクリングパンツの場合、緩衝部の形状は、運転者の坐骨結節部だけでなく恥骨結合部も含む広い範囲を覆う前後に長い凸状になっているので、立体的な坐骨結節部の表面に、フィットしにくいものである。従って、このサイクリングパンツも特許文献2の自転車用パンツと同様に緩衝効果が低く、股間部に段差やシワが発生し、運転者に違和感等を与えるという問題があった。
【0009】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、運転者の股間部等に心地よくフィットし、坐骨結節部及び恥骨結合部を快適に保護することができる自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、運転者の骨盤の左右一対の坐骨結節の位置を覆う幅広の坐骨被覆部分と、恥骨結合の位置を覆う幅狭の恥骨被覆部分と、前記恥骨結合部の前方位置を覆う補助被覆部分とが順に形成されたシート状の外形を有し、前記各被覆部分は、柔軟で薄い薄肉部と、運転者の身体側に設けられ外力を分散可能な表面緩衝部とで構成され、前記坐骨被覆部分は、前記左右一対の坐骨結節を保護する左右一対の第一の表面緩衝部が前記薄肉部による溝部によって区切られ、前記恥骨被覆部分は、前記恥骨結合を保護する第二の表面緩衝部が、前記薄肉部による溝部によって区切られ、前記一対の第一の表面緩衝部とも前記溝部により区切られ、前記補助被覆部分には、前記恥骨結合の前方部位を保護する左右一対の第三の表面緩衝部が、前記薄肉部による前記溝部によって区切られるとともに、前記溝部によって前記第二の表面緩衝部とも区切られて設けられている自転車用パンツのパッドである。
【0011】
前記パッドの前記坐骨被覆部分は、前記一対の第一の表面緩衝部が前後方向に前記薄肉部による溝部によって各々区切られているものである。さらに、前記第三及び第四の表面緩衝部の連接方向の両端部には、薄肉部によって内向きに切り込まれた形状のスリット状溝部が形成されている。また、前記パッドの前記各表面緩衝部を区切る前記溝部の断面形状が、略V字状に形成されている。
【0012】
さらに、前記パッドは、柔軟な合成樹脂材を金型で加熱成形することによって、着用状態に近い立体形状に形成されていると良い。また、前記パッドの前記恥骨被覆部分の両側端に、柔軟で薄い生地から成り運転者の大腿部付根の内側部を保護する一対のウイング部が、大腿部下方に向かって一体に立体的に設けられているものである。
【0013】
またこの発明は、複数枚の生地の端縁部同士が縫合されて成る本体と、前記本体の股間部分に取り付けられたパッドとを備えた自転車用パンツにおいて、
前記パッドは、運転者の骨盤の左右一対の坐骨結節の位置を覆う幅広の坐骨被覆部分と、恥骨結合の位置を覆う幅狭の恥骨被覆部分と、前記恥骨結合部の前方位置を覆う補助被覆部分とが順に形成されたシート状の外形を有し、前記各被覆部分は、柔軟で薄い薄肉部と、運転者の身体側に設けられ外力を分散可能な表面緩衝部とで構成され、前記坐骨被覆部分には、前記左右一対の坐骨結節を保護する左右一対の第一の表面緩衝部が前記薄肉部による溝部によって区切られ、前記恥骨被覆部分は、前記恥骨結合を保護する第二の表面緩衝部が、前記薄肉部による溝部によって区切られ、前記一対の第一の表面緩衝部とも前記溝部により区切られ、前記補助被覆部分には、前記恥骨結合の前方部位を保護する左右一対の第三の表面緩衝部が、前記薄肉部による前記溝部によって区切られるとともに、前記溝部によって前記第二の表面緩衝部とも区切られて設けられている自転車用パンツである。
【0014】
さらに、前記本体を構成する複数枚の生地は、股間部に位置する股間部用生地が前記パッドと同等の大きさに形成され、前記股間部用生地の内側に前記パッドが重ねられて位置し、前記パッドの端縁部は、前記股間部用生地の端縁部と共に、隣接する他の生地の端縁部に縫合されているものである。
【0015】
前記各第一の表面緩衝部の外周側に連接した第四の表面緩衝部が、前記薄肉部による溝部によって区切られて設けられ、前記第一及び第四の表面緩衝部を区切る前記溝部は、前記運転者が自転車のサドルに乗車した状態で前記坐骨結節の上方であって前記サドルの直上に位置するものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツは、所定形状の各表面緩衝部が薄肉部に区切られてパッドが設けられているので、緩衝効果が大きく、運転者の立体的な坐骨結節部及び恥骨結合部にフィットしやすく、パンツにもシワが発生しにくい。
【0017】
さらに、各薄肉部の配置が適切に設定されていることにより、緩衝効果の大きい表面緩衝部を良好に臀部等にフィットさせることができる。さらに、薄肉部を略V字状に形成することにより、表面緩衝部が湾曲した状態でも端部同士が互いに干渉することなく湾曲し、よりフィット感を向上させる。
【0018】
また、パッドを金型で加熱成形することによって、より着用状態に近い立体形状に形成され、良好な着用感や緩衝効果を発揮する。
【0019】
また、パッドの恥骨被覆部分の両側端に一対のウイング部を延設することによって、運転者の大腿付根の内側部も効果的に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態の自転車用パンツの着用状態の正面図(a)、背面図(b)である。
【図2】この実施形態の自転車用パンツを前方から見たときのパッドの透視図(a)、後方から見たときのパッドの透視図(b)である。
【図3】この実施形態の自転車用パンツのパッドの平面図(a)、底面図(b)、ウイング部(c)である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】この実施形態のパッドの製作方法の一例を示す分解斜視図(a)、成形状態を示す斜視図(b)である。
【図6】この発明の一実施例の自転車用パンツの試作品を装着した運転者の股間部に加わる体圧の測定値であって、運転停止中の体圧のグラフ(a)、運転中の体圧のグラフ(b)である。
【図7】運転者が自転車に乗っている様子を示す正面図(a)、サドルに支持された骨盤の状態を示す部分透視図(b)である。
【図8】運転者がサドルに着座した時にサドル上面から受ける反発力が大きい位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツの一実施形態について、図1〜図5に基づいて説明する。この実施形態の自転車用パンツ10は、競技用のロードバイク等の高速走行用の自転車を運転する場合に好適なパンツであり、複数枚の生地が縫合されて本体12が形成され、その内側の股間部に骨盤保護用のパッド30が取り付けられたものである。
【0022】
本体12は、図1に示すように、柔軟で非常に薄いトリコット等の編物から成る8枚の生地14〜28を組み合わせ、互いの端縁部同士を縫合することによって形成されている。ここでは、生地が重なって段差が発生しないように互いの端面を突き合わせ、三本針扁平縫い等の方法で縫合することによって所定の強度と伸縮性を持たせている。生地14〜28のうちの股間部用生地28は、股間部に対面する生地であり、後述するパッド30が重ねて配置され、パッド30と同等の大きさである。
【0023】
パッド30は、図2に示すように、本体12の股間部用生地28の内側に取り付けられ、運転者Mの体形に合わせて自在に変形し股間部に密着する。本体12に取り付ける前のパッド30は、図3の平面図に示すように、運転者Mの骨盤の左右一対の坐骨結節部を覆う幅広の坐骨被覆部分32と、骨盤の恥骨結合部を覆う幅狭の恥骨被覆部分34と、恥骨結合部の前方部位を覆う補助被覆部分36とが順に連接されたシート状の外形を有している。各被覆部分32,34,36は、それぞれ、柔軟で薄い薄肉部38と、運転者Mの身体に当たる表面側に設けられ外力を分散可能な表面緩衝部40〜46で構成されている。表面緩衝部40〜46は、例えば、ウレタン樹脂やポリエステル樹脂などの柔軟で通気性のある発泡樹脂が好適である。
【0024】
坐骨被覆部分32には、図3(a)に示すように、左右一対の坐骨結節部を保護する一対の第一の表面緩衝部40が薄肉部38による溝部38aによって区切られて設けられ、さらに他の一対の第一の表面緩衝部41が、座骨の左右方向に延びた他の薄肉部38による溝部38aによって、前後方向に各々区切られている。恥骨被覆部分34には、恥骨結合部を保護する第二の表面緩衝部42が、薄肉部38による溝部38aによって区切られ、さらに一対の第一の表面緩衝部41と、薄肉部38による溝部38aによって区切られて設けられている。補助被覆部分36には、恥骨結合部の前方部位(男性の生殖器など)を保護する左右一対の第三の表面緩衝部44が薄肉部38による溝部38aによって区切られ、且つ溝部38aによって第二の表面緩衝部42と区切られて設けられている。
【0025】
さらに、坐骨被覆部分32の一対の第一の表面緩衝部40の外周縁を各々囲むように、第四の表面緩衝部46が薄肉部38による溝部38aによって区切られて設けられている。第一、第四の表面緩衝部40,46を区切る溝部38aは、自転車に乗車した状態で、坐骨結節の上方であってサドル3の直上に位置する。従って、この溝部38aの位置により、運転者Mの臀部にパッド30が確実にフィットし、体形の異なる運転者Mが装着した場合もフレキシブルに変形し、良好な密着性を得ることができる。
【0026】
第三及び第四の表面緩衝部44,46の連接方向の両端部には、薄肉部38によって内向きに切り込まれた形状のスリット状溝部38bが形成されている。これにより、パッド30の両端部の表面緩衝部44,46が、より良好に体にフィットする。
【0027】
さらに、運転者Mの大腿付根の内側部がサドル3に擦れないように保護するため、図3に示すように、恥骨被覆部分34の両側端であって坐骨被覆部分32及び補助被覆部分36の両側端に繋がる位置に、伸縮性のある柔軟で薄い生地から成る一対のウイング部48が延設されている。
【0028】
パッド30は、例えば、発泡樹脂材を一対の金型で挟んで加熱成形する方法により容易に製作することができる。まず、発泡樹脂材を抜き型で打ち抜き、図5に示すように、表裏の表層部材52(2枚)、ベース部材56、第一内側部材58、第二内側部材60を用意する。ここでは、各部材の厚みは、例えば順番に約3mm、6mm、12mm、6mmに設定されている。
【0029】
次に、表層部材52のうちの一枚を加熱成形によって成形表層部材54に加工する予備成形を行い、位置決め凹部54aを設ける。次に、成形表層部材54の位置決め凹部54aに第一及び第二内側部材58,60の端部を嵌め込み、さらにベース部材56及び表層部材52を重ねて配置し、表層部材52と成形表層部材54の上下外表面側に配置された図示しない金型により加熱プレスする。
【0030】
金型は、自転車用パンツ10を着用したときのパッド30の形状に湾曲した成形面を有する。これにより、パッド30の形状が、着用時の形状に成形される。表層部材52、成形表層部材54、ベース部材56、第一内側部材58、及び第二内側部材60は、それぞれ厚み方向に圧縮成形されて、立体的に湾曲されて一体化する。さらに、ウイング部48は、成形表層部材54の側縁部に連接して予備成型時に前処理され、所定の形状に角度が付けられ、全体の成型時に、表層部材52と成形表層部材54に溶着される。これにより、ウイング部48は、パッド30の湾曲方向とは反対側に起立して立体的に一体に形成される。
【0031】
圧縮成形された結果、図3〜図5に示すように、表層部材52、ベース部材56、第一及び第二内側部材58,60が、二対の第一の表面緩衝部40,41、第二の表面緩衝部42、並びに第三及び第四の表面緩衝部44,46として、薄肉部38により区切られた形状に形成される。そして、パッド30における第一の表面緩衝部40,41が在る部分は、表層部材52、ベース部材56、第一内側部材58及び成形表層部材54が重なって形成され、総厚が例えば約12mmになる。第二の表面緩衝部44が在る部分は、表層部材52、ベース部材56、第二内側部材60及び成形表層部材54が重なって形成され、総厚が例えば約6mmになる。第三,第四の表面緩衝部44,46が在る部分は、表層部材52、ベース部材56及び成形表層部材54が重なって形成され、総厚が例えば約6mmになる。
【0032】
このとき、ウイング部48は、表層部材52、成形表層部材54の側縁部に連接して立体的に形成され、厚みが約1〜3mmになる。さらに、薄肉部38は、場所によらず総厚みが約1〜3mmに形成される。薄肉部38による溝部38aは、金型により、断面V字状に形成される。
【0033】
図3に示すパッド30を本体12に取り付ける作業は、本体12の各生地14〜28同士を縫合する工程の中で同時に行う。具体的には、パッド30を股間部用生地28に重ねた状態で外周縁を合わせ、股間部用生地28の端縁部と共に隣接する生地18,20,22,24の端縁部に縫合する。なお、股間部用生地を縫合するのと同時にパッド30を縫合することが困難な場合は、例えばあらかじめ股間部用生地28の大きさをパッド30よりも一回り大きく形成しておき、股間部用生地28の内側領域にパッド30を個別に縫合する等の他の方法で取り付けてもよい。
【0034】
以上のように構成された自転車用パンツ10は、パッド30には、所定形状の各表面緩衝部40,41,42,44,46が薄肉部38による溝部38aに区切られて設けられ、さらに第三及び第四の表面緩衝部44,46の端部がスリット状溝部38bで区切られているので、使用する運転者Mの体形が異なっても、坐骨結節部及び恥骨結合部に安定にフィットすることができ、緩衝効果が大きく、シワも発生しにくい。従って、運転者Mの股間部が心地よく覆われ、違和感のない良好な着用感が得られる。
【0035】
また、薄肉部38による溝部38aの位置が適切に設定され、緩衝効果の大きい表面緩衝部40,42,44,46を良好に臀部にフィットさせることができる。さらに、薄肉部38の溝を略V字状に形成することにより、表面緩衝部40,41,42,44,46が折れ曲がった状態でも、その端部同士が互いに干渉することなく湾曲し、よりフィット感を向上させる。特に、パッド30を金型で加熱成形することによって、より着用状態に近い立体形状に形成され、良好な着用感や緩衝効果を発揮する。
【0036】
さらに、パッド30の恥骨被覆部分34の両側端に一対のウイング部48が延設されているので、運転者Mの大腿付根の内側部も効果的に保護することができる。本体12の股間部に取り付けられた骨盤保護用のパッド30が、パッド30と同等の大きさの股間部用生地28の内側に位置しているので、本体12を縫合したときの縫目62がパッド30の内側領域に重ならず、パッド30表面に段差が発生しない。
【0037】
また、上述の方法でパッド30を製作することにより、複数のパーツを縫合する面倒な作業が不要で、生産効率が非常に高く、パッド30表面に縫い目や継ぎ目が発生ぜず、滑らかな面に仕上げることができる。さらに、加熱成形前の合成樹脂材(例えば、第一及び第二内側部材58,60)の厚みを変えれば圧縮成形の圧縮率が変化するので、成形後の緩衝部の弾発性を容易に変更することができる。
【0038】
なお、パッド30の製作方法は、図5で説明した方法に限定されるものではなく、例えば、発泡樹脂による緩衝部を個別に製作しておき、薄肉部38及びウイング部48が一体になった一枚の布材の表面に貼り付ける等の方法で製作しても良い。
【0039】
なお、この発明の自転車用パンツのパッド及び自転車用パンツは、上記実施形態に限定されるものではなく、本体を構成する複数枚の生地は、股間部用生地がパッドの大きさと同等かパッドよりも僅かに大きく、生地の端縁部同士を縫合した縫目がパッドに重ならないものであればよく、各生地の外形や枚数は機能性、デザイン性を考慮して自由に変更することができる。
【0040】
また、図3のパッドの外表面を薄い外装布で被覆し、肌触りを改善したり吸汗性を向上させたりすることも可能である。
【実施例】
【0041】
図6にこの発明の一実施例の自転車用パンツ10について、骨盤保護の効果を測定した実験結果のグラフを示す。
【0042】
このグラフから分かるように、パッド30を有する自転車用パンツ10によれば、本体12のみの比較用パンツを装着したときと比べて、恥骨結合及び坐骨結節に加わる体圧が大幅に低減されることが分かる。これにより、ロードレース等において、長時間の乗車に際しても、臀部や股間部にかかる負担を軽減し、良好な乗車感を得ることができる。体圧の低減幅については、各緩衝部の素材や厚みを適宜変更、調整することによって、さらに改善することも可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 自転車用パンツ
12 本体
14,16,18,20,22,24,26 生地
28 股間部用生地
30 パッド
32 坐骨被覆部分
34 恥骨被覆部分
36 補助被覆部分
38 薄肉部
38a 溝部
38b スリット状溝部
40 第一の表面緩衝部
42 第二の表面緩衝部
44 第三の表面緩衝部
46 第四の表面緩衝部
48 ウイング部
62 縫目


【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の骨盤の左右一対の坐骨結節の位置を覆う幅広の坐骨被覆部分と、恥骨結合の位置を覆う幅狭の恥骨被覆部分と、前記恥骨結合部の前方位置を覆う補助被覆部分とが順に形成されたシート状の外形を有し、
前記各被覆部分は、柔軟で薄い薄肉部と、運転者の身体側に設けられ外力を分散可能な表面緩衝部とで構成され、
前記坐骨被覆部分は、前記左右一対の坐骨結節を保護する左右一対の第一の表面緩衝部が前記薄肉部による溝部によって区切られ、
前記恥骨被覆部分は、前記恥骨結合を保護する第二の表面緩衝部が、前記薄肉部による溝部によって区切られ、前記一対の第一の表面緩衝部とも前記溝部により区切られ、
前記補助被覆部分には、前記恥骨結合の前方部位を保護する左右一対の第三の表面緩衝部が、前記薄肉部による前記溝部によって区切られるとともに、前記溝部によって前記第二の表面緩衝部とも区切られて設けられていることを特徴とする自転車用パンツのパッド。
【請求項2】
前記パッドの前記坐骨被覆部分は、前記一対の第一の表面緩衝部が前後方向に前記薄肉部による溝部によって各々区切られている請求項1記載の自転車用パンツのパッド。
【請求項3】
前記第三及び第四の表面緩衝部の連接方向の両端部には、薄肉部によって内向きに切り込まれた形状のスリット状溝部が形成されている請求項2記載の自転車用パンツのパッド。
【請求項4】
前記パッドの前記各表面緩衝部を区切る前記溝部の断面形状が、略V字状に形成されている請求項1乃至3のいずれか記載の自転車用パンツのパッド。
【請求項5】
前記パッドは、柔軟な合成樹脂材を金型で加熱成形することによって、着用状態に近い立体形状に形成されている請求項1乃至4のいずれか記載の自転車用パンツのパッド。
【請求項6】
前記パッドの前記恥骨被覆部分の両側端に、柔軟で薄い生地から成り運転者の大腿部付根の内側部を保護する一対のウイング部が、大腿部下方に向かって一体に立体的に設けられている請求項5記載の自転車用パンツのパッド。
【請求項7】
複数枚の生地の端縁部同士が縫合されて成る本体と、前記本体の股間部分に取り付けられたパッドとを備えた自転車用パンツにおいて、
前記パッドは、運転者の骨盤の左右一対の坐骨結節の位置を覆う幅広の坐骨被覆部分と、恥骨結合の位置を覆う幅狭の恥骨被覆部分と、前記恥骨結合部の前方位置を覆う補助被覆部分とが順に形成されたシート状の外形を有し、
前記各被覆部分は、柔軟で薄い薄肉部と、運転者の身体側に設けられ外力を分散可能な表面緩衝部とで構成され、
前記坐骨被覆部分は、前記左右一対の坐骨結節を保護する左右一対の第一の表面緩衝部が前記薄肉部による溝部によって区切られ、
前記恥骨被覆部分は、前記恥骨結合を保護する第二の表面緩衝部が、前記薄肉部による溝部によって区切られ、前記一対の第一の表面緩衝部とも前記溝部により区切られ、
前記補助被覆部分は、前記恥骨結合の前方部位を保護する左右一対の第三の表面緩衝部が、前記薄肉部による前記溝部によって区切られるとともに、前記溝部によって前記第二の表面緩衝部とも区切られて設けられていることを特徴とする自転車用パンツ。
【請求項8】
前記本体を構成する複数枚の生地は、股間部に位置する股間部用生地が前記パッドと同等の大きさに形成され、前記股間部用生地の内側に前記パッドが重ねられて位置し、前記パッドの端縁部は、前記股間部用生地の端縁部と共に、隣接する他の生地の端縁部に縫合されている請求項7記載の自転車用パンツ。
【請求項9】
前記各第一の表面緩衝部の外周側に連接した第四の表面緩衝部が、前記薄肉部による溝部によって区切られて設けられ、前記第一及び第四の表面緩衝部を区切る前記溝部は、前記運転者が自転車のサドルに乗車した状態で前記坐骨結節の上方であって前記サドルの直上に位置する請求項7記載の自転車用パンツ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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