説明

航空機の飛行パラメータを決定する方法およびシステム

【課題】航空機の飛行パラメータを決定するための方法およびシステムを提供する。
【解決手段】航空機の飛行中に航空機の飛行パラメータをリアルタイムで決定するためのシステムは、前記航空機の推定されるべき少なくとも2個の事前選択された飛行パラメータ間の相互依存関係を定める飛行力学方程式に基づき構成されて、前記航空機の飛行中に、選択された前記飛行パラメータの合同推定値を供するように形成された拡張カルマンフィルタ10を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛行中における航空機の飛行パラメータを決定するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気飛行制御の導入ならびに最新の輸送機の自動化レベルの一層の進展は輸送機の安全性を著しく改善することを可能にした。こうした飛躍的な技術の進歩によって、特に、異常な状況時、飛行システムの障害発生時、危険な周囲環境条件等に際する航空機の安全確保に積極的に関与する、特に自動操縦装置によって実施される、より安全な航法を定めることが可能になった。
【0003】
但し、多数の航法の使用は、航空機の状態パラメータの測定に対する飛行システムの依存度を高めることになった。とりわけ、今や、航空機の飛行の安全確保にとって特定の飛行パラメータが不可欠であることが判明していることから、これらのパラメータについて信頼できる値を得ることが必要となっている。これらの不可欠なパラメータとは、特に、風速および慣性パラメータであると共に、当該航空機の速度、高度および慣性データ(特にトリム)に関係する情報を供するADIRS(「Air Data and Inertial Reference System」を意味する頭字語)によって実施されるそれらのパラメータの処理を含む。
【従来技術の説明】
【0004】
現在、飛行パラメータの値は適合化されたセンサに由来する測定値に基づき定められていることから、これらの値の妥当性は、基本的にこれらのセンサによって実施された測定の妥当性に依存している。しかしながら、外部センサにあっては、外乱(例えば、センサの着氷あるいは汚損)によって、これらの外部センサによって行われる測定の精度ならびに正確性が損なわれることがある。
【0005】
それゆえ、航空安全当局によって課される規制上ならびに安全上の義務を満たすため、飛行パラメータの値の信頼度、精度および可用性を確かなものとすることが必要である。
【0006】
したがって、現在行われている公知の解決方法の1つはハードウェア重複に基づく。これは、所定の飛行パラメータの値を得ることを可能にするセンサおよびコンピュータの数の増強を伴うことになる。
【0007】
但し、所定の飛行パラメータの不整合なおよび/または誤りのある値の検出は、ある種の極端な場合にあっては、センサによって得られた値がまったく顧慮されない結果になることがあり、そのため、こうした場合には上記の当該飛行パラメータと関連した値はまったく得られないことになる。こうした値の欠如は搭載飛行システムによって使用される航法の変化を招くことがある。
【0008】
こうしたことから、1つまたは複数のパラメータの値が完全に欠如しているような極端なケースを回避すべく、カルマンフィルタを用いて不可欠な飛行パラメータのうちの少なくともいくつかを推定することが知られている。例えば、迎角は飛行中の迎角の発展を定義する飛行力学方程式に基づき構成されたカルマンフィルタによって推定可能であることは公知に属する。こうした推定を実施するため、カルマンフィルタは入力として、搭載センサによって得られた、対気速度の測定値(迎角は後者と密接に関係している)を受け取り、出力として、迎角の推定値を供する。
【0009】
但し、対気速度の測定値に(例えば、センサの障害に起因して)誤りがあれば、迎角の推定値も欠陥があることになる。したがって、カルマンフィルタリングによって行われる固有の飛行パラメータの推定は、当該飛行パラメータの推定に必要な入力パラメータの測定または測定値の欠陥の回避を可能とするものではない。というのも、そうした場合には、得られた推定値も誤りがあり、したがって使用不能だからである。
【0010】
本発明の目的は、これらの欠陥を解消し、とりわけ、カルマンフィルタの1つまたは複数の入力パラメータの測定欠陥を回避して、カルマンフィルタの出力による当該飛行パラメータの信頼できる値の可用性を保証することである。
【発明の概要】
【0011】
上記目的のため、本発明によれば、航空機の飛行中における航空機の飛行パラメータのリアルタイム決定を改善するための方法は、以下のステップ、即ち、
− 上記航空機の推定されるべき少なくとも2個の飛行パラメータが選択されるステップと、
− 選択された上記飛行パラメータとそれぞれ関連していると共に、選択された上記飛行パラメータ間の相互依存関係が存在する当該飛行力学方程式が特定されるステップと、
− 選択された上記パラメータと関連した上記特定された飛行力学方程式に基づき、少なくとも選択された上記飛行パラメータを含んだ入力パラメータの値を受け取る拡張カルマンフィルタが構成されるステップと、
− 上記航空機の飛行中に、上記拡張カルマンフィルタが実行されて、該フィルタが、出力として、選択された上記飛行パラメータの合同推定値を供するステップと
が遂行されることを特徴としている。
【0012】
こうして、本発明により、特別に特定された飛行力学方程式によって相互に関係付けられた少なくとも2個の飛行パラメータは適切に構成された拡張カルマンフィルタによって同時に推定される。上記入力パラメータの1つまたは複数の値の誤りはこうして回避される。実際、選択された飛行パラメータの推定中に使用される、上記拡張カルマンフィルタの入力パラメータの誤った値は、本発明により、とりわけ、特定された上記飛行力学方程式の媒介によって結合された、選択された他方の飛行パラメータの推定に基づき、選択された上記飛行パラメータの推定を再構成することができるために、もはや必ずしも選択された飛行パラメータの誤った推定を招来するものではない。
【0013】
換言すれば、本発明は、フィルタの1つまたは複数の入力値に誤りがあっても、飛行力学方程式によって相互に関係付けられた、前もって選択された少なくとも2個の飛行パラメータの共同推定を可能にするものである。これによって、航空機航法で使用される選択された上記飛行パラメータの値の可用性が保証される。したがって、本発明は、上記航空機のセンサがもはや通常の方法でそれを可能としない場合に、選択された上記飛行パラメータのバックアップ推定値の提供を可能とするものである。
【0014】
好ましくは、上記カルマンフィルタは以下の行列、即ち、
− 測定ノイズに関係すると共に測定ノイズVの対角行列と関連した共分散行列Rと、
− 展開ノイズに関係すると共に展開ノイズWの対角行列と関連した共分散行列Qと
によって定義され、
以下の付加的ステップ、即ち、
− 上記入力パラメータの値が許容し得るものである旨が検証されるステップと、
− 入力パラメータの値に欠陥が検出された場合に、上記共分散行列RおよびQの少なくともいずれか一方の少なくともいずれか1つの要素の現在値がリアルタイムで適合化されるステップと
が遂行される。
【0015】
こうして、ゲインの適合化を通じて上記拡張カルマンフィルタの設定を修正して、上記入力パラメータの値に影響する−上記搭載センサによって得られた−一定の測定値の(万一、外部の現象が上記航空機に搭載のセンサの作動に影響を及ぼす場合の)誤りを斟酌することが可能である。上記共分散行列RおよびQの値を適合化することにより、上記搭載センサによって行われる測定または上記拡張カルマンフィルタの推定に、より多くの信頼が置かれることになる。
【0016】
好ましくは、
− 予備的ステップにおいて、それぞれ測定ノイズと展開ノイズとに関係する上記共分散行列RおよびQの複数の設定値が定義され、こうして定義された上記設定値はそれぞれ上記入力パラメータのうちのいずれか1個のパラメータの欠陥がある値に関連し、かつ、
− 入力パラメータの値に欠陥が検出された場合、測定ノイズと展開ノイズとに関係する上記共分散行列QおよびRの現在値を適合化すべく、検出された欠陥がある値に対応する所定の設定値が測定ノイズと展開ノイズとに関係した上記共分散行列RおよびQに割り当てられる。
【0017】
さらに、変形例としてまたは補足例として、上記航空機搭載の1つまたは複数のセンサによって測定された上記入力パラメータのうちのいずれか1個のパラメータの値に欠陥が検出された場合、欠陥がある当該測定値は上記拡張カルマンフィルタの出力として供された対応する推定値によって置換される。
【0018】
こうして、欠陥がある当該測定値は、選択された上記飛行パラメータの推定にあたり上記拡張カルマンフィルタによってもはや考慮されることはない。
【0019】
さらに、以下のステップ、即ち、
− 上記カルマンフィルタがそのために推定値を供する選択された上記飛行パラメータのうちの少なくともいずれか1個のパラメータが考慮されるステップと、
− 上記カルマンフィルタの入力パラメータの値のうち、上記航空機に搭載のセンサに由来する、上記当該飛行パラメータに対応するものが選択されるステップと、
− 選択された上記の値の少なくともいずれか1つと結びついた不整合が検出されるステップと、
− 選択された上記飛行パラメータの現在値が、残りの選択された1つまたは複数の値と選択された上記飛行パラメータの推定値とに基づき決定され、他方、検出された不整合な1つまたは複数の値は除外されるステップと
が遂行可能であるのが有利である。
【0020】
こうして、選択された上記飛行パラメータの現在値の決定は、不整合な1つまたは複数の測定値を参照することなく行われることができる。情報の1項目つまり選択された当該飛行パラメータの推定が加えられ、こうして、1つまたは複数の対応する測定値が使用不可もしくは不整合な場合にあっても、上記パラメータの現在値の可用性が高められる。こうして、選択された飛行パラメータの決定を可能とする値のタイプが多様化され、こうして、上記パラメータと関連した現在値の供給が保証される。関連するすべてのセンサに障害が生じた場合にあっても、選択された上記飛行パラメータの現在値の供給を確かなものとすることにより(この場合、上記拡張カルマンフィルタによって行われる推定を使用することが可能である)、上記当該飛行パラメータを含む航法の変化のリスクが低減される。それゆえ、いわゆる標準航法の可用性が高められ、こうして、上記航空機の制御パフォーマンスの継続性が確保される。
【0021】
さらに、本発明による方法の実施にあたり、上記拡張カルマンフィルタと関連した状態ベクトルは以下の12個の状態、即ち、
−迎角αと、
−地球座標系における速度νと、
−対地速度Vと、
−縦揺れ割合qと、
−姿勢θと、
−高度hと、
−有効原動推力Tと、
−縦加速度nxに対応する方向に投射されたバイアスbnxと、
−横加速度nyに対応する方向に投射されたバイアスbnyと、
−地球座標系(x、y、z)のx軸に沿った風速Wxと、
−地球座標系(x、y、z)のy軸に沿った風速Wyと、
−地球座標系(x、y、z)のz軸に沿った風速Wzと
によって定義される。
【0022】
さらに、この実施態様によれば、上記拡張カルマンフィルタの上記入力パラメータは、慣性パラメータと、風速パラメータと、上記航空機に固有のパラメータと、搭載モデリングから生ずる中間パラメータとを含む。
【0023】
さらに、本発明はまた、航空機の飛行中における航空機の飛行パラメータをリアルタイムで決定するための、入力パラメータの値を受け取ることのできる拡張カルマンフィルタを含んだ注目すべきシステムであって、
− 上記拡張カルマンフィルタは、上記入力パラメータに属する上記航空機の推定されるべき少なくとも2個の事前選択された飛行パラメータ間の相互依存関係を定める飛行力学方程式に基づき構成され、かつ
− 上記拡張カルマンフィルタは、上記航空機の飛行中に、選択された上記飛行パラメータの合同推定値を供するように形成されている
ことを特徴とするシステムに関する。
【0024】
好ましくは、上記カルマンフィルタは以下の行列、即ち、
− 測定ノイズに関係すると共に測定ノイズVの対角行列と関連した共分散行列Rと、
− 展開ノイズに関係すると共に展開ノイズWの対角行列と関連した共分散行列Qと
によって定義され、
かつ、上記システムは以下の手段、即ち、
− 上記拡張カルマンフィルタの上記入力パラメータの値が許容し得るものであるか否かを検証するための手段と、
− 上記検証手段によって入力パラメータの値に欠陥が検出された場合、共分散行列RおよびQの少なくともいずれか一方の現在値をリアルタイムで適合化するための手段と
を含む。
【0025】
さらに、上記システムは、欠陥がある1つまたは複数の値を、上記拡張カルマンフィルタによって推定されたそれらの値が得られる場合に、該推定値によって置換するための手段を含む。
【0026】
本発明は、さらに、上記に説明した少なくとも1つのシステムを含んだ航空機に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
添付図面は本発明が実施され得る態様を説明したものである。これらの図中、同一符号は同一要素を示す。
【図1】本発明に係る飛行パラメーターを決定するためのシステムを示す、航空機の空力操縦表面のための制御系の概略構成図ある。
【図2】図1の飛行パラメーターを決定するためのシステムの推定ユニットの概略構成図である。
【好ましい実施形態の説明】
【0028】
図1には、概略的な形で、航空機(図示せず)の空力操縦翼面2(例えば補助翼)の制御チェーン1が表されており、該制御系において、操縦翼面2の作動にかかわる航空機の飛行パラメータをリアルタイムで決定するためのシステム3が実行される。
【0029】
同図によって示すように、制御系1は以下を含む:
− 測定された航空機のパラメータ値(例えば、迎角、縦揺れ角、横揺れ角、対気速度、高度等)を標準的な方法で供することのできる、複数の測定センサおよびコンピュータによって形成される搭載情報ユニット4、
− 情報ユニット4によって測定された値を、リンクL0を経て、入力値として受け取る、飛行パラメータをリアルタイムで決定するためのシステム3。これについては以下に詳述する、
− 飛行制御系、即ち、深度、補助翼、方位、エンジンによって供されるパワー等を管理するための多数の航法を実行する航空機の自動操縦装置5。この自動操縦装置5の特定の自動操縦モードは、自動操縦モードの採用が対応する航法を起動するように、それぞれの航法と関連させられている。自動操縦装置5は、決定システム3によって決定されて、リンクL2を介して接続されたスイッチング手段Cを経て伝送される飛行パラメータ値を受け取ることかできる。自動操縦装置はさらに、出力として、操縦翼面2の制御システム7(アクチュエータを含む)向けの制御コマンドを供することができる、
− 飛行中に航空機を制御するための、特に操縦設備(例えば、操縦桿)を含んだ手動操縦手段6。これらの設備は、決定システム3によって決定されて、リンクL3を介して接続されたスイッチング手段Cを経て伝送される飛行パラメータ値を受け取ることができる。手動操縦手段6はさらに、出力として、操縦翼面2の制御システム7向けの制御コマンドを供することができる、
− 決定システム3、自動操縦装置5および手動操縦手段6にそれぞれリンクL1、L2およびL3を介して接続されたスイッチング手段C。このスイッチング手段Cによって、自動操縦モードと手動操縦モードとの切り換えが可能である。このスイッチング手段Cは、決定システム3によって決定された飛行パラメータ値を自動操縦装置5または手動操縦手段6に伝送することができる、および
− 操縦翼面2のポジション調節を行うための制御システム7。この制御システム7は、リンクL4を経て、自動操縦装置5または手動操縦手段6に由来する制御コマンドを受け取り、続いて、操縦翼面2の傾きを調節することができる。
【0030】
本発明によれば、本発明の決定システム3は以下を含む:
− あらかじめ選択された飛行パラメータと、測定ベクトルZ(t)を定義するこれらの選択された飛行パラメータのセットとを推定するためのユニット8、および
− 測定ベクトルZ(t)の推定値

(記号“^”は推定を意味する)を受け取ることのできる、航空機の現在の飛行パラメータ値を決定するためのユニット9。
【0031】
図2に示すように、推定ユニット8は、状態ベクトルX(t)、測定ベクトルZ(t)および制御ベクトルU(t)と関連した拡張カルマンフィルタ10を含む。このカルマンフィルタ10は以下の方程式によって定義される:


式中、
−Fは状態行列である、
−Hは測定ノイズと関連した行列である、
−W(t)は展開ノイズベクトルである、
−V(t)は測定ノイズベクトルである、そして
−記号“・”は時間に関する導関数を意味している。
【0032】
カルマンフィルタ10の代表的な実施形態において、状態ベクトルX(t)は以下の12個の飛行パラメータによって定義される:
− 迎角αと、
− 地球座標系(x、y、z)における航空機の速度νと、
− 航空機の対地速度Vと、
− 縦揺れ割合qと、
− 縦方向姿勢θと、
− 高度hと、
− 有効原動推力Tと、
− 縦加速度nxに対応する方向に投射されたバイアスbnxと、
− 横加速度nyに対応する方向に投射されたバイアスbnyと、
− 地球座標系(x、y、z)のx軸に沿った風速Wと、
− 地球座標系(x、y、z)のy軸に沿った風速Wと、
− 地球座標系(x、y、z)のz軸に沿った風速W
【0033】
測定ベクトルZ(t)は、その一部につき、以下の9個の飛行パラメータによって定義される:
− 空力迎角αaと、
− 空力横滑り角βaと、
− 空気の速度Vaと、
− 縦揺れ割合qと、
− 縦方向姿勢θと、
− 高度hと、
− 垂直速度Vと、
− 標準荷重倍数Nと、
− 航空機の対地速度V。
【0034】
本発明によれば、測定ベクトルZ(t)を定義する飛行パラメータが選択されるが、それはこれらのパラメータが特別に特定された飛行力学方程式によって相互に関係付けられるからである。このようにして、この特定の飛行力学方程式によって、測定ベクトルZ(t)を形成する選択されたさまざまな飛行パラメータ間の相互依存関係を定めることが可能になる。
【0035】
拡張カルマンフィルタ10は、測定ベクトルZ(t)を形成する選択された飛行パラメータと関連した特定の飛行力学方程式に基づいて構成されている。フィルタ10の初期パラメータ化も実施される。
【0036】
さらに、制御ベクトルU(t)は以下の16個の飛行パラメータによって形成される:
− 横揺れ割合pと、
− 縦揺れ割合qと、
− 偏揺れ割合rと、
− 横揺れ角φと、
− 姿勢θと、
− 縦加速度nxと、
− 横加速度nyと、
− 迎角αと、
− 横滑り角βと、
− 空気の速度Vaと、
− 航空機の質量Mと、
− 慣性Iyyと、
− 揚力FZaと、
− 横揺れモーメントMaと、
− 実有効静原動推力TBSと、
− 有効原動推力によるモーメントMTB
【0037】
測定ベクトルZ(t)と制御ベクトルU(t)とのパラメータ値のセットは拡張カルマンフィルタ10の入力値を定義する。
【0038】
決定システム3は、リンクL5を経て受け取った情報ユニット4に由来する測定値のうち、推定ユニット8特に拡張カルマンフィルタ10の入力値を形成するものを選択するための第1のモジュール11を含む。換言すれば、第1の選択モジュール11は、出力として、選択された入力パラメータの測定値を供する。第1の選択モジュール11は制御ベクトルU(t)の測定値を、リンクL8を経て直接に、拡張カルマンフィルタ10に供する。
【0039】
図2に図示されているように、カルマンフィルタ10の演算は2つの異なった相を呈する。それらは以下の通りである:
− 推定値

および

が得られる予測相(ブロック12によってシンボリックな形で表示)、および
− 測定ベクトルZ(t)を形成する、リンクL9を経て受け取られ、測定されたパラメータ値を使用して、推定相(ブロック12)中に供された推定値

および

が補正される更新相(ブロック13によってシンボリックな形で表示)。
【0040】
本発明によれば、拡張カルマンフィルタ10は、上記航空機の飛行中に、測定ベクトルZ(t)を形成する選択された飛行パラメータの合同推定値(例えば、空力迎え角αaおよび対気速度Va)をリアルタイムで供するために形成されている。
【0041】
代表的な当該実施形態において、拡張カルマンフィルタ10は以下の方程式によって定義される:

および

式中、
− インデックスmは対応するパラメータの測定値を表している、
− (u、v、w)はそれぞれ地球座標系(x、y、z)における速度、例えば

である、
− (u、v、w)はそれぞれ地球座標系(x、y、z)における対気速度、例えば

である。
【0042】
決定システム3はまた、入力として、測定ベクトルZ(t)のパラメータの測定値を受け取って、受け取った測定値が所定の許容基準の関数として許容し得るものであるか、あるいは逆に、(例えば、誤りがあるかまたは不整合であるために)欠陥があるものと見なされるか否かを検証する第1の検証モジュール14を含む。この第1の検証モジュール14は、例えば、コンパレータとボーターで形成される(図2には図示せず)。これは、出力として、欠陥がある測定値がログされる信号を供することができる。
【0043】
本実施例において、第1の選択モジュール11ならびに検証モジュール14は推定ユニット8の外部に配置されているが、これらは、変形実施例として、ユニット8に組み込むことも可能であろう。
【0044】
さらに、推定ユニット8は、第1の選択モジュール11によって選択された測定値と、第1の検証モジュール14の出力信号と、フィルタ10によって出力として供された測定ベクトルZ(t)の推定値 とを、それぞれリンクL10、L11およびL12を経て、入力として受け取る、拡張カルマンフィルタ10のパラメータ化を適合化するためのモジュール15を含む。
【0045】
第1の検証モジュール14によって、測定ベクトルZ(t)の1つまたは複数の測定値に欠陥が検出された場合には、適合化モジュール15は、出力として、リンクL13を経て、欠陥がある測定値に対応する、カルマンフィルタ10によって供された推定値だけでなく、測定ベクトルZ(t)の許容可能な測定値も供する。したがって、欠陥がある測定値は、拡張カルマンフィルタ10への入力として、対応する推定値によって置換される。但し、欠陥がある測定値が再び許容可能なものになるや直ちに、適合化モジュール15は対応する推定値に代えて、新たな測定値を供することができることは言うまでもない。
【0046】
さらに、拡張カルマンフィルタ10は以下の行列、即ち、
− 測定ノイズに関係すると共に測定ノイズVの対角行列と関連した共分散行列Rと、
− 展開ノイズに関係すると共に展開ノイズWの対角行列と関連した共分散行列Qによって定義される。
【0047】
測定ノイズに関係した共分散行列Rは以下の関係式

[式中、Eは数学的期待値を示す]によって定義される。同様に、展開ノイズに関係した共分散行列Qは以下の関係式

によって定義される。行列RおよびQはそれぞれ、情報ユニット4に由来する測定値および拡張カルマンフィルタ10によって供された推定値に置かれた信頼度を担っている。
【0048】
こうして、第1の検証モジュール14によって、測定ベクトルZ(t)の1つまたは複数の測定値に欠陥が検出された場合には、適合化モジュール15は、フィルタ10と関連して、共分散行列RおよびQの現在値をリアルタイムで適合化することができる。
【0049】
測定値に誤りが出現すると、欠陥によって影響される行列Rの1行または複数の行に高い値が設定され、欠陥によって影響される行列Qの1行または複数の行に低い値が設定されることに注目すべきである。実際、行列Rの高い値は、カルマンフィルタ10に達する測定値により多くの信頼が置かれ、そのため、推定値にさらなる信頼が与えられることを示している。
【0050】
さらに、適合化モジュール15は、共分散行列RおよびQに関するプリセットペアが保存される記憶装置16を含む。代表的な実施形態において、各々のプリセットペアは、測定ベクトルZ(t)の所定の欠陥がある測定値に関連させられている。各々のプリセットペアは、リンクL14を経て、共分散行列RおよびQの選択的適合化を、例えば、欠陥がある測定値が影響を及ぼすこれらの行列の係数に限って調整することによって可能とすることができる。
【0051】
代表的な実施形態において、2つの共分散行列RおよびQは同時に適合化される。但し、変法として、行列Rのみの適合化または行列Qのみの適合化を思料することも可能であることはいうまでもない。
【0052】
行列QおよびRは、拡張カルマンフィルタ10の初期パラメータ化中に、所定の値によって初期化されることに注目すべきである。
【0053】
さらに、決定システム3は以下を含む:
− 情報ユニット4(リンク6)から受け取った飛行パラメータの測定値のうち、そのために拡張カルマンフィルタ10によって対応する飛行パラメータが推定されるものを選択するための第2のモジュール17(従って、これは、測定ベクトルZ(t)を形成するパラメータを必要とする)と、
− 入力として、リンクL15を経て、第2の選択モジュール17によって選択された測定値を受け取る第2の検証モジュール18で、例えば、コンパレータとボーターで形成されるこの第2の検証モジュール18は、受け取った測定値が所定の許容基準の関数として許容し得るものであるか、あるいは逆に、(例えば、誤りがあるかまたは不整合であるために)欠陥があるものと見なされるか否かを検証することができる。選択された測定値の少なくともいずれか1つに欠陥が検出される場合には、第2の検出モジュール18は、出力として、欠陥がある1つまたは複数の測定値がログされる信号を供することができる。
【0054】
本実施例において、第2の選択モジュール17および検証モジュール18は決定ユニット9の外部に配置されているが、これらは、変形実施例として、ユニット9に組み込むことも可能であろう。
【0055】
さらに、変形実施例として、第1の選択モジュール11と第2の選択モジュール17は単に単一の選択モジュールを形成することもできる。同様に、第1の検証モジュール14と第2の検証モジュール18は、変形実施例として、互いに統合されて単に単一の検証モジュールを形成することもできる。
【0056】
さらに、決定ユニット9は、第2の選択モジュール17によって選択された測定値と、第2の検証モジュール18によって供された欠陥信号と、推定ユニット8によって供された測定ベクトルZ(t)の推定値 とを、それぞれL16、L17およびL7を経て受け取って、測定ベクトルZ(t)を形成する飛行パラメータの現在値を決定するためのモジュール19を含む。こうして、測定ベクトルZ(t)の当該飛行パラメータにつき、上記当該飛行パラメータと関連した少なくともいずれか1つの測定値に欠陥がある場合、モジュール19は、この飛行パラメータと関連した残りの選択された非欠陥値と前記当該飛行パラメータの推定値とに基づき、前記当該飛行パラメータの現在値を決定し、それを、出力として、L2およびL3を経て、自動操縦装置5および手動操縦手段6に供することができる。したがって、決定モジュール19もコンパレータおよび/またはボーターを組み入れることが可能である。
【0057】
このようにして、本発明により、測定ベクトルZ(t)を形成する上記飛行パラメータのうちのいずれか1個のパラメータに関連した測定値が全面的に利用不能な場合にあっても、推定ユニット8による上記パラメータの推定値に対応する現在値が自動操縦装置5または手動操縦手段6に供されることができるため、それらの装置または手段が入力値を欠くことはない。
【0058】
さらに、本発明による飛行パラメータ決定システムは空力操縦翼面に関する制御系に関連して説明したが、こうしたシステムはその他の制御系、例えば、エンジンスピードの制御系にも等しく組み込むことが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の飛行中における航空機の飛行パラメータのリアルタイム決定を改善するための方法であって、
以下のステップ、即ち、
− 前記航空機の推定されるべき少なくとも2つの飛行パラメータが選択されるステップと、
− 選択された飛行パラメーターにそれぞれ関係しているとともに、選択された前記飛行パラメーター間に依存性関係が存在する飛行力学方程式は特定されるステップと、
− 選択された前記パラメータと関連した前記特定された飛行力学方程式に基づき、少なくとも選択された前記飛行パラメータを含んだ入力パラメータの値を受け取る拡張カルマンフィルタ(10)が構成されるステップと、
− 前記航空機の飛行中に、前記拡張カルマンフィルタ(10)が実行されて、該フィルタが、出力として、選択された前記飛行パラメータの合同推定値を供するステップと
が実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
− 前記カルマンフィルタは以下の行列、即ち、
・ 測定ノイズに関係すると共に測定ノイズVの対角行列と関連した共分散行列Rと、
・ 展開ノイズに関係すると共に発展ノイズWの対角行列と関連した共分散行列Qと
によって定義され、かつ
− 以下の付加的ステップ、即ち
・ 前記入力パラメータの値が許容し得るものである旨が検証されるステップと、
・ 入力パラメータの値に欠陥が検出された場合に、前記共分散行列RおよびQの少なくともいずれか一方の少なくともいずれか1つの要素の現在値がリアルタイムで適合化されるステップと
が実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 予備的ステップにおいて、それぞれ測定ノイズと展開ノイズとに関係する共分散行列RおよびQの複数の設定値が定義され、こうして定義された前記設定値は前記入力パラメータのうちのいずれか1個のパラメータの欠陥がある値に関連し、かつ、
− 入力パラメータの値に欠陥が検出された場合、測定ノイズと展開ノイズとに関係する前記共分散行列QおよびRの現在値を適合化すべく、検出された欠陥がある値に対応する所定の設定値が測定ノイズと展開ノイズとに関係した共分散行列RおよびQに割り当てられる
ことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記航空機に搭載の1つまたは複数のセンサによって測定された前記入力パラメータのうちのいずれか1個のパラメータの値に欠陥が検出された場合、前記欠陥がある測定値は前記拡張カルマンフィルタ(10)の出力として供された対応する推定値によって置換されることを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
− 前記拡張カルマンフィルタ(10)がそのために推定値を供する選択された前記飛行パラメータのうちの少なくともいずれか1個のパラメータが考慮されるステップと、
− 前記拡張カルマンフィルタ(10)の入力パラメータの値のうち、前記航空機に搭載のセンサに由来する、前記当該飛行パラメータに対応するものが選択されるステップと、
− 選択された前記値のうち少なくともいずれか1つと結びついた不整合が検出されるステップと、
− 選択された前記飛行パラメータの現在値が、残りの選択された1つまたは複数の値と選択された前記飛行パラメータの推定値とに基づき決定され、他方、検出された不整合な1つまたは複数の値は除外されるステップと
が実行されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記拡張カルマンフィルタ(10)と関連した状態ベクトルは以下の12個の状態、即ち、
− 迎角αと、
− 地球座標系で速度νと、
− 対地速度Vと、
− 縦揺れ割合qと、
− 姿勢θと、
− 高度hと、
− 有効原動推力T
− 縦加速度nxに対応する方角に投影されたバイアスbnxと、
− 横加速度nyに対応する方角に投影されたバイアスbnyと、
− 地球座標系(x、y、z)のx軸に沿った風速Wと、
− 地球座標系(x、y、z)のy軸に沿った風速Wと、
− 地球座標系(x、y、z)のz軸に沿った風速Wと、
によって定義されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記拡張カルマンフィルター(10)の入力パラメータが、慣性パラメータ(q、p、r、φ、θ、h、Vz、V、nx、ny、Nz)と、風速のパラメータ(α、β、α、β、Va)と、前記航空機に固有のパラメータ(M、Iyy)と、搭載モデリングから発生する中間パラメータ(FZa、Ma、TBS、MTB)を含むものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の航空機の飛行パラメータの決定方法。
【請求項8】
航空機の飛行中における航空機の飛行パラメータをリアルタイムで決定するための、入力パラメータの値を受け取ることのできる拡張カルマンフィルタ(10)を含んだシステムであって、
− 前記拡張カルマンフィルター(10)は、前記入力パラメータに属する前記航空機の推定されるべき少なくとも2個の事前選択された飛行パラメータ間の相互依存関係を定める飛行力学方程式に基づき構成され、かつ、
− 前記拡張カルマンフィルタ(10)は、前記航空機の飛行中に、選択された前記飛行パラメータの合同推定値を供するように形成されている
ことを特徴とするシステム。
【請求項9】
− 前記カルマンフィルターが以下の行列、即ち、
・ 測定ノイズと関係するとともに、測定ノイズVの対角行列に関連した共分散行列Rと、
・ 展開ノイズと関係するとともに、展開ノイズWの対角行列に関連した共分散行列Qと、によって定義され、
− かつ、そのシステム(3)は以下の手段、即ち、
・ 前記拡張カルマンフィルター(10)の前記入力パラメーター値が許容しうるものであるか否かを検証するための手段(14)と、
・ 前記検証手段(14)によって入力パラメータの値に欠陥が検出された場合、共分散行列RおよびQの少なくともいずれか一方の現在値をリアルタイムで適合化するための手段(15)と
を含む
ことを特徴とする、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
さらに、欠陥がある1つまたは複数の値を、前記拡張カルマンフィルタ(10)によって推定されたそれらの値が得られる場合に、該推定値によって置換するための手段(15)を含むことを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載された飛行パラメータの決定システム(3)を少なくとも1つの具備する航空機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49408(P2013−49408A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−169183(P2012−169183)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【出願人】(509347273)エアバス オペラシオン ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ (33)
【出願人】(512096539)オネラ (オフイス ナシオナル デチュード エ ドゥ ルシェルシュ アエロスパシヤル) (2)
【氏名又は名称原語表記】ONERA (Office National d’Etudes et de Recherches Aerospatiales)