説明

航空機または宇宙機の衝突の場合のエネルギー吸収のための繊維複合部品、航空機または宇宙機の機体構造部、及び、航空機または宇宙機

航空機または宇宙機の衝突の場合のエネルギー吸収のための繊維複合部品について、繊維複合部品は、CFRP層(4、5、7)、及び、このCFRP層(4、5、7)に対して耐食性のある少なくとも1つの結合された金属箔層(6)からなる積層構造として形成される。航空機または宇宙機の機体構造部(10)は、このタイプの少なくとも1つの繊維複合部品を用いて形成される。航空機または宇宙機は、このタイプの機体構造部(10)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機または宇宙機の繊維複合部品、機体構造部、及び、航空機または宇宙機に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明及び本発明の起点となる問題点は、いかなる繊維複合部品にも適用可能であるが、繊維複合部品に関して、より特定的には、例えば航空機の機体構造のフォーマ(formers)または支持部材などの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に関して、以下に詳しく説明する。
【0003】
航空機構造物の機体構造は、現在、補強外板領域(例えば縦通材を用いて補強される)、フォーマ、客室の床及び、貨物室の床のクロスバーまたは格子戸のためのクロスバーからなる。個々の部品は、一般的に金属から製造され、リベット及びボルトを用いて接続される。着陸時における機体構造の一部の垂直衝撃または衝突、つまり“機体バーレル(fuselage barrel)”の場合、乗客の安全を保障するために、金属部品の弾性のあるプラスチックの挙動により、衝撃エネルギーの大部分が吸収される。
【0004】
繊維複合部品の使用は、例えば外板領域及び縦通材を用いた補強外板領域のように、航空機構造に広がっている。それらは、例えば、繊維半製品に例えばエポキシ樹脂などのマトリックスを導入するための真空注入プロセス、及びその後の硬化により、製造される。注入プロセスは、より安価な繊維半製品を用いることができるので、プリプレグプロセスのような繊維複合部品の他の既知のプロセスに比べて安価である。
【0005】
将来の航空機において、新規で軽量の材料、より特定的にはCFRPは、機体構造の支持の用途として、ますます重要になってきている。このように、繊維複合材料の使用は、外板及び縦通材、フォーマ及びクロスバーの中の全ての本質的な部品のために提供される。繊維部品材料は高い強度を有しているが、衝撃中の力の作用を受けて突然低下することがある。衝突した場合に、この脆性挙動により、十分な範囲まで衝撃エネルギーを吸収せずに機体の広い範囲が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえ、本発明の目的は、航空機または宇宙機の衝突の場合にエネルギーを吸収するための繊維複合部品、それを伴う機体構造部、及び、上述した欠点がない、または大幅に低減され、さらに利点を提供する航空機または宇宙機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本課題は請求項1の特徴を有する繊維複合部品、請求項11の特徴を有する機体構造部、及び請求項12の特徴を有する航空機または宇宙機によって達成される。
【0008】
したがって、航空機または宇宙機の衝突の場合のエネルギーを吸収するための繊維複合部品が提供される。繊維複合部品は、CFRP層と、このCFRP層に対する耐食性がある、少なくとも1つの結合された複合金属箔層からなる積層構造として形成されている。
【0009】
航空機または宇宙機の機体構造部も提供される。機体構造部は、衝突または衝撃領域として、少なくとも1つの上述した繊維複合部品を備える。
【0010】
本発明の有利な実施形態及び改善点は従属請求項で提供される。
【0011】
本発明の基本的な思想は、少なくとも1つの金属箔層を結合するためのものであり、金属箔層は繊維複合部品のCFRP層のCFRPに対して耐食性がある。
【0012】
したがって、最初に言及したアプローチと比較すると、金属層とCFRP層とからなる積層板の使用により2つの材料の利点、すなわち、金属の延性と、CFRP層の強度及び軽量とを兼ね備えるという顕著な利点を本発明は有する。
【0013】
CFRP層に対して耐食性のある少なくとも1つの金属箔層は、少なくとも2つのCFRP層及びそれらと接続されたものとの間に配置される。これにより、少なくとも2つのCFRP層は、それらを取り囲む金属箔層と密接に結びつく。そうでない場合、繊維補強材料が脆性挙動を示すにも関わらず、このタイプの積層板中に組み込まれた比較的高い弾性および延性のある金属板または層との組み合わせにより所定の弾性プラスチック挙動を示すことになる。
【0014】
好ましい配置において、CFRP層に対して耐食性のある少なくとも1つの金属箔層は、繊維複合部品の長手方向に延びる。その結果、延性のある金属層が変形され、高弾性力により繊維複合層の破壊または破損を抑制するという点において、衝撃中に生じ得る力は吸収される。
【0015】
一実施形態において、CFRP層に対する耐食性のある少なくとも1つの金属箔層は、0.2mm〜0.3mm、好ましくは0.15mm〜0.2mmの厚みを有する金属箔板であってもよい。CFRP層に対して耐食性のある金属箔層は、高い延性、好ましくは少なくとも20%を有する金属を備える。
【0016】
このタイプの金属は、例えば、適したステンレス鋼を用いることができる。さらなる実施形態において、例えば航空機に適した純度2のチタンなどの高純度の金属チタンがこの目的のためには好ましい。
【0017】
さらなる実施形態において、CFRP層に対する耐食性のある少なくとも1つの金属箔層は、予備成形された形状を有していてもよい。このことにより、例えば、複雑な形状を有する繊維複合部品に応じて製造することも可能にする。予備成形された形状は、例えば、ZフォーマのためのZ形状に形成されたものを用いてもよい。
【0018】
繊維複合部品の目標とされた損傷挙動を提供するために、CFRP層に対する耐食性のある少なくとも1つの金属箔層は、例えば、繊維複合部品の形状における適切な所定の点に配置されるように、ミシン目や打ち抜きなどで形成されていてもよい。ミシン目または打ち抜きの代わりに、例えば、予備成形されたキンク(kink)/線が金属箔層に導入されていてもよい。
【0019】
さらに別の実施形態において、少なくとも2つのCFRP層は、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、BMI樹脂などのような硬化性合成樹脂を備え、従来の製造方法の知見を利用して有利にすることが可能である。さらなる複合層がCFRP、及び、例えばガラス繊維のような他の材料からなり、あるいは異なるマトリックスを有する他の材料のみからなっていることも可能である。
【0020】
本発明にしたがった繊維複合部品は、フォーマまたはフォーマ部、コネクタまたは接続部材、または支持部材として形成されることが好ましい。このタイプの部品は衝突の場合の高い力を吸収し、その後の変形作用のかなり大きな吸収を提供することができる。
【0021】
上述した繊維複合部品は機体構造部に結合されてもよい。しかしながら、このタイプの機体構造部は同様の大きな部材及び/または上述したタイプの繊維複合部品からなっていてもよく、これにより“衝突領域”が目標とされる態様で構成され得る。
【0022】
航空機または宇宙機は、上述したタイプの機体構造部を備えることができる。
【0023】
以下、本発明について、図面を参照して、基本的な実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にしたがった繊維複合部品の第1の実施形態の斜視図である。
【図2】図1にしたがった第1の実施形態のAの概略図である。
【図3】本発明にしたがった繊維複合部品の第2の実施形態の斜視図である。
【図4】図3にしたがった第2の実施形態のBの概略図である。
【図5】図2及び図4にしたがった領域Xの概略拡大図である。
【図6】本発明の航空機または宇宙機にしたがった機体構造部の実施形態の概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面において、特に指定のない場合には、同様の参照符号は同様または機能的に均等な部品を意味する。座標系x、y、z、及びx1、y1、z1は方向を理解するために図面に示されている。
【0026】
図1は、本発明にしたがった繊維複合部品1の第1の実施形態の斜視図である。図1にしたがった第1の実施形態のAの概略図である図2に示すように、この繊維複合部品1は、U形状の外形を有する。側部2は、いずれの場合にも繊維複合部品1の長手方向(y方向)に延びる腹部3に対して実質的に垂直に形成されている。側部2は長手方向y、及び繊維複合部品1のz方向に延びる。腹部3のx方向の幅は、繊維複合部品の長手方向、つまり図1の下から上に向けて、減少している。
【0027】
繊維複合部品1の腹部3は、この場合には粗いハッチングにより示されるように、長手方向yに延びる少なくとも1つの金属層を備える。繊維複合部品1の構造及び使用は、以下にさらに詳細に述べる。
【0028】
図3は、本発明にしたがった繊維複合部品1’の第2の実施形態の斜視図である。図2と同様に、図4は繊維複合部品1’の概略図Bの断面図である。この部品1’はフォーマ部であり、腹部3’はxy平面に伸び、その長手方向において曲がっている。この場合、腹部3’の上端は側部2’で提供され、その幅は腹部3’に対して実質的に垂直である−z方向に延びる。側部2’は腹部3’の下端に一体的に形成され、その側部の幅は同様に腹部3’に対して実質的に垂直であるz方向に延びる。図3における方向Bの図4で示される断面図は、繊維複合部品1’のZ形状の輪郭を描く部分を示し、その腹部3’は、図1にしたがった第1の実施形態と同様に、少なくとも1つの金属層が提供される。この金属層は腹部3’の長手方向にも延び、粗いハッチングで示されている。
【0029】
繊維複合部品1及び1’の構造は、図2及び図3の領域Xの概略拡大図である図5を参照してさらに詳細に説明される。
【0030】
CFRP複合8において、多くの層4、5、6、7はz方向に特定の順序で配置されている。その長手方向は、繊維複合部品1、1’のそれぞれのy方向に延びる。その例に示すように、2つの金属箔層6は、繊維複合層、この場合にはCFRP層4、5、7の間に結合されている。2つの金属箔層6は、CFRP層4、5、7に対して耐食性がある。これらのCFRP層4、5、7の繊維は実質的にy方向に延びる。金属箔層6の各々は、CFRP被覆層5によって外見上最初に被覆され、CFRP複合8の外表面に形成された自由表面であるCFRP外層4にCFRP被覆層5は取り付けられている。このCFRP複合8の中心に向けて、金属箔層6の各々はCFRP内層7に被覆されており、この場合には2つの金属箔層6は互いに反対に置かれている。当然ながら、層の多くの他の組み合わせ及び数が可能である。
【0031】
この例において、図5に示されるタイプの混合積層板は、好ましくは、CFRP層4、5、7に対して耐食性のある金属箔層6を備え、航空機のための高純度2のチタンからなり、高い弾力性がある。この例において、CFRP層4、5、7に対して耐食性のある金属箔層6は、ほぼ0.2mmから0.3mm、好ましくは0.15mmから0.2mmのz方向の厚みを有するチタン薄板である。
【0032】
金属箔層6は、平面状の金属シートから、または、例えばU及び/またはZ形状に対応した形状(図1及び図3参照)において予備成形された金属シートから形成され得る。もちろん、他の形状も可能である。製造コストを低く維持するためには、繊維複合部品1、1’の腹部3、3’のみが混合積層構造である平面金属シートのみが好適に用いられる。
【0033】
CFRP層4、5、7は、例えばエポキシ樹脂または熱可塑性樹脂などを用いたCFRP複合材料から製造され、金属層6は製造中にこの積層構造に結合される。製造は、湿式化学プロセスを含む。
【0034】
図6は、本発明の航空機または宇宙機にしたがった機体構造部の実施形態の概略部分断面図である。座標系x1、y1、z1(繊維複合部品1、1’のぞれぞれに関連付けられた座標系x、y、zとは異なる)は、航空機または宇宙機(図示せず)の幅方向x1と、長手方向y1と、高さ方向z1とを備える。衝突領域19を備える機体下部は、概略的に示され、オーバーロードから上方に位置する客室(図示せず)を保護し、生存空間を保護するために、衝突の場合に可能な限り衝突エネルギーを吸収することが意図される。
【0035】
この場合、衝突領域19は、実質的に円弧状であり、貨物室9の貨物室床18の床接続部材12の2つの各端で接続されている床フォーマ部11を備えている。多くの支持部材16は、貨物室床18と床フォーマ部11との間で接続されている。床支持部材16は、例えば、図1及び2にしたがったU形状の繊維複合部品1として形成され、金属箔層6及びCFRP層4、5、7を含む図5にしたがったCFRP複合8を備えている。それらは、その長手方向(それぞれの部品と関連付けられた座標軸のy方向)に配置され、一部分はz1方向に放射状に延びている。床フォーマ部11及び床接続部材12は、例えば、図5にしたがった金属箔層6及びCFRP層4、5、7を有するCFRP複合8を備えた、図3及び図4にしたがった繊維複合部品1’と同様に、Z形状のフォーマとして、構成されている。これらのフォーマ部材11、12の長手方向は、機体構造の周辺方向に延びる。
【0036】
この例において、本発明にしたがった繊維複合部品1、1’及びCFRP複合のさらなる適用分野が提供される。この例は、いずれの場合にも、接続部材12に取り付けられ、図3、4及び5にしたがった上述した構造を有しているコネクタフォーマ部13であってもよい。支持接続部材14、及び、さらに連続したフォーマ側部15もまたここに取り付けられ、繊維複合部品1、1’として同様に構成されることが可能である。支持部材17もまた図1、2及び5にしたがった繊維複合部品1として可能であり、その上端は客室床キャリアを支持し、その下端はそれぞれの支持接続部材14を留めている。フォーマ部材13から15の長手方向は機体構造の周辺方向に延び、この例では支持部材17の長手方向は機体構造のz1方向に延びる。
【0037】
ここでは本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらに制限されず、非常に多数の異なる方法の組み合わせ及び変更が含まれる。
【0038】
例えば、金属層6は、先立って決定することが可能な損傷挙動を提供するためにある特定の点、例えば好ましい点で特定の方向に曲げるように、前処理が施されてもよい。ミシン目、打ち抜き、変形、キンクなどは、この目的で用いられることが可能である。
【0039】
CFRPに対して耐食性のある金属箔層6が、ステンレス鋼または高い延性を有する同様の材料からなっていてもよい。
【0040】
もちろん、CFRP複合8は、例として示され、異なる構造及び形状、及び異なる適用分野を有するなど、説明されたもの以外の繊維複合部品1、1’で形成されることも可能である。
【0041】
航空機または宇宙機の衝突の場合のエネルギー吸収のための繊維複合部品については、繊維複合部品はCFRP層4、5、7、及び、CFRP層4、5、7に対して耐食性のある少なくとも1つの結合された金属箔層6からなるように、繊維複合部品は形成される。
【符号の説明】
【0042】
1,1’ 繊維複合部品
2,2’ 側部
3,3’ 腹部
4 CFRP外層
5 CFRP被覆層
6 金属箔層
7 CFRP内層
8 CFRP複合
9 貨物室
10 機体構造部
11 床フォーマ部
12 床接続部
13 コネクタフォーマ部
14 支持接続部材
15 フォーマ側部
16 床支持部材
17 支持部材
18 貨物室床
19 衝突領域
x、y、z;x1、y1、z1 座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機または宇宙機の衝突の場合のエネルギー吸収のための繊維複合部品であって、
該繊維複合部品は、CFRP層(4、5、7)、及び、該CFRP層(4、5、7)に対して耐食性のある少なくとも1つの結合された金属箔層(6)からなる積層構造として形成され、該少なくとも1つの金属箔層(6)は、少なくとも2つのCFRP(4、5、7)の間に配置及び接続され、該繊維複合部品(1、1’)の長手方向(y)に伸び、該少なくとも1つの金属箔層(6)は、高延性、好ましくは少なくとも20%を有する金属からなる、繊維複合部品。
【請求項2】
該少なくとも1つの金属箔層(6)は、0.2から0.3mm、好ましくは0.15mmから0.2mmの厚みを有する金属薄板であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維複合部品。
【請求項3】
該少なくとも1つの金属箔層(6)は、高純度チタン材料、例えば航空機に適した純度2のチタンからなることを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維複合部品。
【請求項4】
該少なくとも1つの金属箔層(6)は、予備成形された形状を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維複合部品。
【請求項5】
該少なくとも1つの金属箔層(6)は、目標とされた損傷挙動のためのミシン目または打ち抜きを備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維複合部品。
【請求項6】
該CFRP層(4、5、7)は、硬化性合成樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、BMI樹脂などを備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維複合部品。
【請求項7】
該繊維複合部品は、フォーマまたはフォーマ部(11、13、15)、コネクタまたは接続部材(12、14)、または支持部材(16、17)として形成されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の繊維複合部品。
【請求項8】
航空機または宇宙機の機体構造部(10)において、機体構造部(10)は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維複合部品を備えた衝突または衝撃領域として形成されることを特徴とする、機体構造部。
【請求項9】
請求項8に記載の機体構造部を備える、航空機または宇宙機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−504075(P2012−504075A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528279(P2011−528279)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061264
【国際公開番号】WO2010/034594
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(311014956)エアバス オペレーションズ ゲーエムベーハー (54)
【氏名又は名称原語表記】Airbus Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Kreetslag 10,21129 Hamburg,Germany