説明

航空機内で測定した大気中の水分量を使用して天気を予報する方法及びシステム

【課題】少なくとも1つの大気データと水分含有量に基づいて天気を予測する方法を提供する。
【解決手段】飛行中に航空機106のガスタービンエンジン102、104のコンプレッサーの第1位置において第1気温及び第1気圧を測定し、コンプレッサーの第2位置において第2気温及び第2気圧を測定し、第1及び第2気温と第1及び第2気圧から比熱比を計算し、そして比熱比から大気の水分含有量を決定するステップを含み測定された水分含有量を天気予報モデルへ伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、大気の状態を測定する方法及びシステムに関し、より具体的には、航空機を利用して大気中の気象データを収集する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
予報を改善するのに大きな障害物となるのは、対流圏における水分含有量についてのデータ不足である。気団の水分含有量は、嵐の間、湿潤土上、あるいは海等の水塊上において急激に変化する可能性がある。これら及び他の地域における水分含有量の変化を追跡することができないと、天気予報が不正確になる。
【0003】
水蒸気を検知し数値化する既存の方法は、陸上の局所的規模においてのみ実行可能であり地球規模の気象連続性との間に大きなギャップができるため、不十分である。このギャップが一番大きいのは、ほとんどの大気状態の源となる海上である。下に挙げる既存の大気検知システムは、局所的規模で高い分解能を発揮するが、このようなシステムを地球規模で展開するのは、地球規模における実行又は維持に高い費用がかかることと、これらのシステムは地球規模における実際的な使用に十分な時間的及び/又は空間的分解能がないために、現実的ではない。
【0004】
現在、水蒸気測定の主要源は地上の湿度センサ及び「ラジオゾンデ」と呼ばれる気球搭載センサである。ラジオゾンデデータは高品質であるが、比較的低い空間的及び時間的分解能を有する。気温、湿度及び気圧のデータを無線信号による地上受信に依存する、使い捨ての気球搭載装置一式であるラジオゾンデは、世界中の何百もの場所における1日2回の観測を通じて世界的規模で使用できる気象分析及び予測システムの従来の基盤となっている。しかしながら、ラジオゾンデの1日2回の観測は主に陸上においてであり、コスト上の配慮からまばらに分布している。ラヂオゾンデの飛揚と飛揚の合間又はラジオゾンデの飛揚ポイントから遠く離れた場所における地上測定値は入手できない。これらの理由から、ラジオゾンデデータは高分解能の世界的規模の気象学の支柱となるには費用が高く、局所的すぎるといえる。
【0005】
現在少数の民間航空会社によって航空通信情報交換システム(ACARS)と呼ばれるシステムの一部として世界中のリアルタイムの風、気圧、温度、及び湿度測定値を得ている。ACARSシステムによりラジオゾンデにかかる費用の約百倍未満の費用で世界中で1日に約10000もの測定値を得ることができるが、ACARSによる測定値の大部分は空港周辺と共通の飛行経路に沿って決まった巡航飛行高度において取得したものであり、貴重であるはずのデータの空間的範囲を限定してしまう。
【0006】
地球ベースの差分吸収ライダー(DIAL)及びラマンライダーシステムは、辺鄙な地域における風及び水蒸気のプロファイルを得るために使用される。しかしながら、上記システムは取り付け及び維持するのに実用的でなく、雲の層を突き抜けず、使用されるレーザーは高電圧を使用しているため目に安全ではない。
【0007】
水蒸気のラジオメーターは、大気によって発生した電磁エネルギーを測定し、天頂積分水蒸気量を推定する機器である。積分水蒸気量とは、一カラム量の水蒸気が液体水に凝縮されたときの液体水の深さの測定値である。降水可能水蒸気量(PWV)とも呼ばれる天頂積分水蒸気量(IWV)は、地球ベースの測定装置の真上の垂直方向の一カラム量の積分水蒸気量である。地球ベースの上向きの水蒸気ラジオメーターにより、低温の背景空間に対する放射輝度温度を測定することによってPWVを推定する。しかしながら、上向きの水蒸気ラジオメーターは個別に得たPWVデータを使用して局地的条件に「同調」させなければならず、ラジオメーターは概して比較的澄んだ大気状態においては良好な時間的分解能を呈示するが、陸上の局所的なPWVしか得ることができない。さらに、適切に装備されていない限り、上向きのラジオメーターは雨が降ると事実上役に立たない。代替として、衛星ベースの下向きのラジオメーターは水上及び気温が一定の陸塊では、大気及び下部の地表から放射される電磁波を観測することにより良好に機能する。下向きのラジオメーターは概して優れた空間的分解能を呈するが、時間的分解能が劣り、ほとんどの陸塊上では機能が不十分である。いずれの場合においても、水蒸気ラジオメーターは全体として、これにかかる費用、観測限界、及び性能特性のために、世界的規模の気象学には実用的ではない。
【0008】
フーリエ変換赤外線ラジオメーター(FTIR)システムにより、高分解能の、衛星ベース及び地球ベースの温度及び水蒸気量のプロファイルを放射伝達方程式の再帰的解法を利用して取得し、地上から上方向の垂直プロファイルを得ることが可能である。この方法により低い対流圏において数百メートルから1キロまでの垂直方向の分解能を得ることができるが、このシステムは雲の層及び対流圏オゾン等の赤外活性ガスがある場合に能力不足となる。
【0009】
無人飛行体(UAV)により、上述した他のシステムがアクセスできない領域の高分解能データを得ることができる。ただし無人航空機は連続的な地球規模の検出には費用がかかりすぎ、十分な空間的及び時間的分解能がないため、通常、特定の研究用途においてのみ実施可能である。
【0010】
更なる水分含有量の測定値が、対流圏機上気象データ情報(TAMDAR)と呼ばれるNASAプログラムにおいて運用されている、衛星から及び少数の専門設備を備えた旅客機から入手可能である。衛星データは、特に雲が出ているときに水蒸気プロファイルの正確な高度を衛星が判定するのが難しいため信頼性が低い。TAMDARは、規模の小さい地域的な旅客機の外側に取り付けた湿度センサを使用する。これらのセンサは航空機が対流圏内を上昇及び下降する際に湿度及び温度を連続的に測定する。これによりラジオゾンデよりも優れた空間的及び時間的分解能が得られる。この方法は、米国北東部における天気予報を向上させるのに技術的に効果があることが分かっているが、更なる重量及び抵抗、そして各種の航空機上の各種類のセンサ一式に対してFAA許可証を得る必要があるため、この解決法は費用がかかり、既存のシステムの他の領域への拡大が限定される。
【発明の概要】
【0011】
一実施形態においては、大気の水分含有量の測定方法は、コンプレッサーの第1位置において第1気温及び第1気圧を測定し、コンプレッサーの第2位置において第2気温及び第2気圧を測定し、第1及び第2気温と第1及び第2気圧から比熱比を計算し、そして比熱比から大気の水分含有量を決定するステップを含む。
【0012】
別の実施形態においては、大気監視システムはコンプレッサーと、コンプレッサーに接続された少なくとも1つのコンプレッサーセンサを含み、このセンサはコンプレッサーを通って流れる空気から大気データを取得するように構成されている。
【0013】
さらに別の実施形態においては、天気を予報する方法は、飛行中に機内のガスタービンエンジンから大気データを取得し、大気データを処理して大気中の水分含有量を決定し、少なくとも1つの大気データ及び水分含有量を天気予報モデルに伝達していずれか1つあるいは両方のデータセットに基づいて天気を予測するステップを含む。
【0014】
さらに別の実施形態においては、天気を予報する方法は、ガスタービンエンジンの第1位置における一容量の空気の比熱を決定し、ガスタービンエンジンの第2位置における一容量の空気の比熱を決定し、第1位置及び第2位置における一容量の空気の比熱を使用して、その一容量の空気の水分含有量を決定するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は気象に関するデータを収集し航空機に取り付けられたガスタービンエンジンの性能を監視するシステムの例示の実施形態のブロック図である。
【図2】図2は本発明の例示の実施形態によるガスタービンエンジンの断面図である。
【図3】図3は図1に示すシステムで使用可能な、絶対湿度対比熱比のグラフである。
【図4】図4はガスタービンエンジンからの測定パラメータを使用して空気中の水分含有量を決定するためのデータフロー図である。
【図5】図5は図1に示すシステムによる気象データ用収集ポイントとして使用可能な、様々な空港との間の例示の飛行経路を図示した米国地図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は気象に関するデータを収集し航空機106上に取り付けられたガスタービンエンジン102、104の性能を監視するためのシステム100の例示の実施形態のブロック図である。図1に2つのエンジン102及び104を示したが、航空機106は追加のエンジンを取り付けることができる。したがって、上記追加のエンジン用のデータ収集はエンジン102及び104用のデータ収集とほぼ同様の方法で実施される。このため、エンジン102及び104とこれに接続する機器のみを本明細書において説明する。さらに、システム100は例示目的のためだけに航空機と関連させて説明する。航空用途のほかに、本発明は海洋及び工業用を含むガスタービンエンジンの他の用途に適用することができる。
【0017】
システム100は、全自動デジタルエンジン制御(FADEC)等の電子エンジンコントローラ(EEC)108を含むが、各エンジン102、104及び機内搭載のデータ保存装置110に接続された他のコントローラも使用可能である。従来のエンジンデータセンサ112及び航空機データセンサ114は、エンジン102、104及び/又は航空機106の操作及び性能に関する選択されたデータパラメータを検知するために配設されている。エンジンデータセンサ112と航空機データセンサ114は、対象のデータパラメータを監視するすべてのグループのセンサを含むことができる。大気温度、気流速度及び高度等の航空機のパラメータに加えて、エンジンパラメータは通常排気ガス温度、オイル温度、高圧タービンシュラウド温度、エンジン燃料流、コア速度、エンジン入口においてファンの上流で測定されるエンジン入口圧力(P0)及びエンジン入口温度(T12)、エンジン高圧コンプレッサーの下流で測定されるコンプレッサー排出口温度(T3)及びコンプレッサー排出口圧力(P3)等の部品温度、タービン排気圧、ファンの速度、及び他のエンジンパラメータを含む。
【0018】
各ECU108は、従来技術で周知のように対応のエンジンデータセンサ112及び航空機データセンサ114から信号を受信する。これらの及び他の入力に反応して、ECU108はエンジン102、104それぞれの燃料流を測る流体機械力学的ユニット(図示せず)等のエンジンアクチュエータを操作するためのコマンド信号を発信する。各ECU108はまた、データ信号を航空機データ保存装置110へ送る。フライトデータレコーダ、クイックアクセスレコーダ、又は他のすべてのタイプの飛行中データ保存装置等のいずれの従来装置であってよい航空機データ保存装置110は、データ信号を保存するための比較的大きいデータ保存容量を有している。航空機データ保存装置110は、飛行中にデータを分析する処理機能を備え、必要なメンテ情報のみを航空機中央メンテナンスコンピュータ(図示せず)に送ることもできる。航空機データ保存装置110はまた、航空機データセンサ114からの信号も受信する。
【0019】
システム100は、エンジン性能特性を監視するためにデータ信号を処理するアルゴリズムを含む。監視アルゴリズムは複数の方法で実行することが可能である。例えば監視アルゴリズムはECU108で実行することができ、ECU108がデータ信号を受信すると処理が行われる。あるいは、監視アルゴリズムは航空機データ保存装置110で実行することができる。この場合は、データ信号は航空機データ保存装置110に転送された後に処理される。別の代替形態としては、パーソナル又はワークステーションコンピュータ等の地上局コンピュータ116で監視アルゴリズムを実行することである。飛行中に航空機データ保存装置110に保存されたデータ信号は、地上局コンピュータ116にダウンロードされて処理される。この転送は、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM又は他の光媒体、磁気テープ等の取り外し可能な、コンピュータ可読の媒体の使用を含む通信リンク118、又は無線部分を含み得る多重モード通信リンクを介して飛行後に実施することができる。また、飛行操作中に遠距離から地上局コンピュータ116に直接データ信号を伝送してリアルタイムに処理することも可能である。この信号はまた、他の航空機120、船122、及び衛星124等の他の車両及び/又は設備にもリンク118を介して送ることができる。加えて、各航空機120、船122、及び衛星124は、別々の通信リンク126を利用して互いに通信できる。航空機106、地上局コンピュータ116、他の航空機120、衛星124及び船122、又は他の海洋ベースの船舶及び構造体の間の大気情報の連続及び同時中継は、ある程度世界的に複数のユーザーがアクセス可能な大気データネットワークを構成している。実施の際には、監視アルゴリズムは例えばECU108、航空機データ保存装置110、又は地上局コンピュータ116等の一ユニットに保存しそこからアクセスされる、あるいはユニットの適切なドライブに挿入される取り外し可能なコンピュータ可読媒体からアクセスすることができる。監視アルゴリズムはまたインターネット又は別のコンピュータネットワークを介してアクセスすることも可能である。本明細書に使用されている、「コンピュータ可読媒体」という用語は概してそこに保存されたデータがコンピュータ又は同様のユニットによって読取可能である全ての媒体を指している。これには前述したフロッピーディスク及びCD−ROM等の取り外し可能な媒体だけでなく、各ECU108、航空機データ保存装置110、又は地上局コンピュータ116のハードディスク又は集積回路メモリ装置等の着脱不能の媒体も含まれる。
【0020】
地上局コンピュータ116の別の実施例は、国際気象サービス、米国海洋大気庁(NOAA)、国家軍事気象サービス、NATO及び他の連合体等の国際軍事気象サービス、国家気象サービス、及び他の気象情報の商用ユーザーを含む。
【0021】
操作中に、センサ112が少なくとも1つのエンジン102、104から大気情報を収集し、例えばデータを全体的又は部分的に地上局コンピュータ116、他の航空機120、衛星124及び船122に転送することによってデータの処理を開始して、航空機106周囲の大気の湿度状態を決定する。システム100の一部である航空機の様々な飛行経路に沿った複数の位置における大気情報の時間及び位置を刻印することにより、大気の大部分の湿度プロファイルを決定することができる。航空機106は大気情報の少なくとも一部に予備処理を行うことが可能であり、機内に情報を保存する、又は地上局コンピュータ116、他の航空機120、衛星124、及び船122が使用できるようにリアルタイムに情報を伝達することが可能である。
【0022】
例示の実施形態では、アルゴリズムは一以上のエンジン102及び104をセンサとして使用して既存の航空機エンジンで収集されたデータから大気の気象パラメータ値を割り出して連続的に大気の気象パラメータを決定する機能を含む。例えば、例示の実施形態ではエンジン102及び/又は104は湿度センサとして使用され、この湿度センサによりエンジンに流入する大気の水蒸気含有量が決定され、この結果、航空機106周囲の大気の水蒸気含有量が決定される。例示の実施形態では、タービンエンジン入口及びコンプレッサーステージから取得した圧力(P)及び温度(T)の測定値を使用して大気の水蒸気含有量が決定される。決定した水分含有量の値と、測定を行った時間及び位置は、例えば地上局コンピュータ116に伝達されて、湿度の測定値が気象予報に取り入れられる。
【0023】
図2は本発明の例示の実施形態によるガスタービンエンジン102の断面図である。エンジン102は容器204と複数の羽根206を含むファンアセンブリ202を備えている。出口案内翼(OGV)208は後部ファンケース210と内部車室211との間に延在している。ファンフレーム212によって後部ファンケース210が半径方向に支持されている。4段階直交ブースター214は羽根206と同時に回転する。可変バイパス弁(VBV)はファン支柱216の間に延在している。エンジン102は、エンジン入口におけるファンの上流でそれぞれのエンジン処理パラメータを測定するエンジン入口圧力センサ(P0)及びエンジン入口温度センサ(T12)と、高圧コンプレッサー218の上流に位置するコンプレッサー入口温度(CIT)プローブT25及びコンプレッサー入口圧力ポートP25を備えている。
【0024】
コンプレッサー218の後部フレーム231は、コンバスター230及び燃料ノズル234を有する点火プラグ232と出口案内翼(OGV)236を備えている。後部フレーム231は、通気口シール部238と4R/A/Oシール240と4Rベアリング242と4Bベアリング244を含んでいる。後部フレーム231はまた、5Rベアリング246及び5R/A/Oシール248、ディヒューザー250及び圧力バランスシール252も備えている。コンプレッサーの後部フレーム231はまた、タービンステージ1ノズル254も備えている。コンプレッサー排出口温度(T3)センサ及びコンプレッサー排出口圧力(P3)ポートによってコンプレッサー排出口の状態にアクセス可能になる。エンジン102は、高圧タービン260及び360°ケース264、出口ガスから渦流を除去する空気力学的支柱266及び一体成形されたタービン後部フレーム268を備える低圧タービン262を備えている。
【0025】
稼働中は、空気がファンアセンブリ202を通って流れ、空気流の第1部分がブースター214を通って流れる。ブースター214から排出される圧縮空気はコンプレッサー218を通って流れ、ここで空気流はさらに圧縮されコンバスター230へ送られる。コンバスター230からの高温の燃焼生成物(図示せず)はタービン260及び262を駆動させるのに利用され、タービン262はシャフト270を介してファンアセンブリ202とブースター214を駆動させるのに利用される。
【0026】
エンジン102の多数の構成要素は、最初の離陸、水平飛行及び着陸を含む様々な飛行状態において信号を発信するプロセスセンサと構造力センサによって監視される。上記信号はEEC108を介して地上の整備員及び/又は独自のプロセッサを有する個別のリモートエンジンデータコントロールセンターに伝達される。
【0027】
例示の実施形態では、エンジン入口圧力(P0)及びエンジン入口温度(T12)、コンプレッサー排出口温度(T3)センサ及びコンプレッサー排出口圧力(P3)を使用して大気の水分含有量を予測することもできる。空気がエンジンのコンプレッサーステージを横切ると、気圧及び気温が上昇する。わずかに水蒸気を含む空気の比熱値cは低い。より多くの水蒸気を含む空気の比熱値cは比較的高い。この結果、コンプレッサーを通って流れる湿った空気の温度上昇は、コンプレッサーを通って流れる乾いた空気の温度上昇よりも小さい。水滴又は氷晶を含む空気の全体的な比熱値cは、気温が上昇すると氷が解けて水分が蒸発するため、さらに高くなる。上記相転移により多量の熱が吸収され、コンプレッサーの温度上昇は、多量の水蒸気を有する空気の温度上昇よりもさらに小さくなる。
【0028】
気圧及び気温の測定値を水分含有量に変換するには、本発明の方法の種々の実施形態では、例えば等エントロピー圧縮方程式を使用して、当業者に周知のcp(一定圧力における比熱)のcv(一定容積における比熱)に対する比を意味する比熱比を計算する。本方法は、比熱比を使用し空気の水分含有量を例えば参照テーブルを使用して決定する。
【0029】
図3はシステム100(図1に示す)で使用可能な絶対湿度対比熱比のグラフ300である。グラフ300は、絶対温度の単位の目盛りが振られたx軸302と比熱比の単位の目盛りが振られたy軸304を含む。図300は、気温約180℃及び気圧0.5MPaにおける絶対湿度と比熱比との間の関係を図示する第1波形306を含む。第2波形308は、気温約200℃及び気圧0.5MPaにおける絶対温度と比熱比との間の関係を示す。第3波形310は、気温約240℃及び気圧0.5MPaにおける絶対温度と比熱比との間の関係を示す。第4波形312は、気温約280℃及び気圧0.5MPaにおける絶対温度と比熱比との間の関係を示し、第5波形314は、気温約320℃及び気圧0.5MPaにおける絶対温度と比熱比との間の関係を示す。
【0030】
例示の実施形態では、エンジン102は圧縮ステージが等エントロピーであるブレイトンサイクルを使用して稼働する。等エントロピー圧縮には圧力と絶対温度との間の下記の関係が適用され、ここでγは比熱比である(γ=c/c):


(1)
式(1)からγが導き出され、湿度と比熱比との間の関係を適用して圧力及び温度の測定値から湿度を決定することができる。


(2)
【0031】
比熱比と相対湿度との間の定性的関係は、湿度が上がるとγが下がるということである。この関係は式(3)に示す比熱比の定義から導出することができる。


(3)
理想気体に対して、エンタルピーh及び内部エネルギーuはそれぞれ下記のように表すことができる。


(4)
したがって、比熱比は下記のように再定義することができる。


(5)
【0032】
気温の項は相殺され、式は空気/水蒸気の混合物における比エンタルピーと比エネルギーに対して下記の関係を使用して再定義することができ、ここでωは絶対湿度である。


(6)
γと絶対湿度との関係は下記のようになる。


(7)
上記式は絶対湿度ωを下記のように導き出すことができる。


(8)
【0033】
空気及び水蒸気に対して、理想気体テーブルからhair、uair、hvapor、及びuvaporの値を得ることができる。図3は、代表気圧値0.5MPaに対する式7の計算結果を示す。実際には、式2を使用して気温及び気圧からγを算出する。それからγを使用して式8を介してωを計算する。
【0034】
図4は、ガスタービンエンジンからの測定パラメータを使用して空気中の水分含有量を決定するデータフロー図400である。処理過程では、例えばガスタービンエンジン周囲の外気の気温と静圧の測定パラメータが入力402される。外気の温度及び圧力の入力は、例示の実施形態では、既存のT12温度センサ及びP0圧力センサから測定パラメータから得られる。これら特定のパラメータが直接測定されない場合には、他の測定パラメータからこのパラメータを計算することによって導出することができる。処理過程ではまた、既存の圧縮空気、例えば高圧コンプレッサー218の気温及び静圧の測定パラメータも入力402される。上記パラメータはまた、既存のエンジン性能センサT3及びP3をそれぞれ使用して測定される。既存のエンジン性能センサを使用することにより、航空機に新たな追加のセンサを加える必要がなくなり、航空機周囲の気流上に取り付けられ航空機の抵抗をさらに増やすことがなくなる。
【0035】
例示の実施形態では、上述した等エントロピー圧縮404の方程式にT12、P0、T3、及びP3を使用して、代表的な圧力及び温度における比熱比406及び絶対湿度を決定する。EECのプロセッサによって上記の計算を行うことができる、あるいは、T12、P0、T3、及びP3を第2プロセッサに伝達して比熱比及び/又は絶対湿度を決定することができる。機内のプロセッサ又は機外のプロセッサを使用して比熱比及び絶対湿度が決定され、航空機100周囲の空気の水分含有量がリアルタイムで決定408されて気象設備に伝達され、ここで決定した水分含有量が気象予測アルゴリズムに入力410されて、未来の気象パターンの予報モデル412が作成される。
【0036】
上述の計算は幾つかの場所のいずれかにおいて行うことが可能である。これらの場所は、電子エンジン制御装置内、機内の別の計算装置内、または航空機100に伝達されるセンサデータを受信する機外の計算装置である。センサデータは、航空機のナビゲーションシステムから送られる時間及び位置データと共に機内に保存することができ、航空機が着陸した後に検索して水分含有量を計算するのに使用できる。
【0037】
上の説明は等エントロピー方程式を参照したが、当然ながら本発明の様々な実施形態の範囲は、気体の非理想的挙動、又はエンジンコンプレッサ内の熱伝導を説明するために実験的補正を計算値に適用することを含むため、この処理過程はあまり等エントロピー的ではない。本発明の他の実施形態では、検知された水分含有量が環境条件において100%の相対湿度を超えるときに、固体から液体及び液体から気体への相転移に対する補正も含んでいる。
【0038】
図5はシステム100(図1に示す)による気象データの収集箇所として使用できる様々な空港506間の例示の航空経路504を示す米国502の地図500である。上記経路504は、空気の水分含有量を決定するのに可能なデータ収集範囲を示している。例示の実施形態では、民間の航空機によって上昇、下降、及び米国502の飛行経路504に沿った低費用での水分含有量の連続測定が可能になり、これは世界的に見ても同様である。航空機は所定の時間、上記経路を複数回行き来するため、現在の気球観測に比べて水分含有量の収集が数桁増加する。水分含有量の測定を向上させることによって、特に、例えば湿った空気における気体−液体間の相転移によって放出された熱から起きる対流的な天気によって発生した暴風雨の予測を向上させることにより、天気予報を実質的に向上させることができる。
【0039】
本発明の様々な実施形態により、天気予報モデルに役立つ、特に現在少数のセンサしか利用できない海及び陸上における空気の水分含有量のリアルタイム及びほぼリアルタイムの測定が容易になる。航空会社、連邦政府又は他の官公庁、研究機関、外国軍事同盟、及び国家軍事空軍等の様々な航空機オペレータは、航空機の稼動において正確な天気予報の利点を受けることができる。海軍又は民間の船舶業経営者等の海洋オペレータにとって、不正確な天気予報は船舶を危険な状態に陥れる、又は船舶が非能率的な経路を取る原因となり得る。
【0040】
航空機のタービンエンジンを湿度センサとして利用して大気の水蒸気を連続的に測定する上述した方法及びシステムは費用効果があり信頼性が高い。エンジンのコンプレッサーの圧力及び温度センサにより流入空気がより高圧に圧迫されるとどのくらい温度が上昇するかが明らかになる。より多くの水蒸気を含む空気の場合、温度の上昇は少ない。エンジンコンプレッサの2つの箇所において温度及び圧力を測定することによって、空気の湿気含有量を計算することが可能になる。現在のタービンエンジンにはすでに適切なセンサが備わっているため、既存の航空機エンジンの機械システムを変更する必要はなく、必要なのはソフトの変更のみであり、重量又は抵抗における不利点が実質的に取り除かれる。したがって、本方法及びシステムにより、気象に関するデータの取得が費用効果のある信頼性の高い方法で容易に実行できる。
【0041】
本発明を様々な特定の実施形態の観点から説明してきたが、当業者には請求項の範囲内で本発明に変更を加えて実行することが可能であることが分かるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行中に航空機内のガスタービンエンジン(102、104)から大気データを取得するステップと(402)、
大気データを処理(404、408)して大気中の水分含有量を決定するステップと、
少なくとも1つの大気データと水分含有量を天気予報モデル(412)へ伝達(410)するステップと、
少なくとも1つの大気データと水分含有量に基づいて天気を予測するステップ
を含む、天気を予報する方法(400)。
【請求項2】
大気データを取得するステップが、ガスタービンエンジンの処理パラメータを監視するセンサ(112)を使用して大気データを取得するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
大気データを取得するステップが、ガスタービンエンジンに流入する周囲空気の少なくとも一部から大気データを取得するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
大気データを取得するステップが、コンプレッサー入口温度、コンプレッサー入口圧力、コンプレッサー排出口温度、及びコンプレッサー排出口圧力の少なくとも1つを取得するステップを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
大気データを処理するステップが、ガスタービンエンジンを通って流れる空気の比熱比(406)を決定するステップを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
大気データを処理するステップが、比熱比から絶対湿度を決定するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
絶対湿度を決定するステップが、空気の水分含有量を決定するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
空気の水分含有量を決定するステップが、参照テーブルを使用して空気の水分含有量を決定するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
データが取得されたときに時間と航空機の位置を大気データに刻印するステップをさらに含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
今後のダウンロード用に機内においてデータが取得されたときに時間と航空機の位置とともに大気データを保存するステップをさらに含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ガスタービンエンジン以外の発信源から天気予報モデルにおいて大気データを受信するステップをさらに含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
天気予報モデルに少なくとも1つの大気データと水分含有量を伝達するステップが、マルチモードネットワーク(116、120、122、124)を通して航空機から天気予報モデルに少なくとも1つの大気データと水分含有量を伝達するステップを含む、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ガスタービンエンジン(102、104)において一容量の空気の比熱(406)を決定するステップと、
一容量の空気の比熱を使用して一容量の空気の水分含有量(408)を決定するステップ
を含む、天気を予報する方法(400)。
【請求項14】
一容量の空気の比熱を決定するステップが、第1位置で第1気温及び第1気圧を測定するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
一容量の空気の比熱を決定するステップが、第2位置で第2気温及び第2気圧を測定するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
一容量の空気の水分含有量を決定するステップが、第1及び第2気温と第1及び第2気圧から比熱比を計算するステップを含む、請求項13乃至15に記載の方法。
【請求項17】
比熱比から大気の水分含有量を決定するステップが、参照テーブルを使用するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
コンプレッサー(218)、及び
前記コンプレッサーに接続され、前記コンプレッサーを通って流れる空気から大気データを取得する少なくとも1つのパフォーマンスセンサ
を備える、大気監視システム。
【請求項19】
前記コンプレッサーが、タービンエンジン及びスーパーチャージャーの一部のうちの少なくとも1つである、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1つのセンサが、温度センサ及び圧力センサのうちの少なくとも1つからなる、請求項18又は19に記載のシステム。
【請求項21】
前記少なくとも1つのセンサが、コンプレッサー入口温度センサ及びコンプレッサー入口圧力センサのうちの少なくとも1つからなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記少なくとも1つのセンサが、コンプレッサー排出口温度センサ及びコンプレッサー排出口圧力センサのうちの少なくとも1つからなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記少なくとも1つのセンサに通信可能に接続されたプロセッサをさらに備える、請求項18乃至22のいずれか1項に記載のシステムであって、前記プロセッサが、
取得した大気データから比熱比を計算し、
比熱比から大気の水分含有量を決定する
ように構成されている、システム。
【請求項24】
前記プロセッサが、理想の気体挙動と、エンジンを通って流れる空気の等エントロピー圧縮を推測するように構成されている、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記プロセッサが、エンジンを通って流れる空気の非理想的な気体挙動を補正するように構成されている、請求項23又は24に記載のシステム。
【請求項26】
前記プロセッサが、参照テーブルを使用して比熱比から大気の水分含有量を決定するように構成されている、請求項23乃至25のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項27】
前記プロセッサが、比熱比と絶対湿度の関係を示す参照テーブルを使用して比熱比から大気の水分含有量を決定するように構成されている、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記少なくとも1つのセンサに通信可能に接続されており、非等エントロピー圧縮を補正するように構成されているプロセッサをさらに備える、請求項18乃至27のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項29】
前記少なくとも1つのセンサに通信可能に接続されており、コンプレッサーの上流である第1位置で測定された第1気温及び第1気圧を受信するように構成されているプロセッサをさらに備える、請求項18乃至28のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項30】
前記プロセッサが、コンプレッサー及びコンプレッサーステージの少なくとも1つの下流である第2位置において測定された第2気温及び第2気圧を受信するように構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記プロセッサが、
ほぼ同時に測定される第1気温、第2気温、第1気圧、及び第2気圧のうちの少なくとも1つを測定した時間及び位置を記録し、
各測定値、それぞれの時間、及びそれぞれの位置を天気予報モデルに伝達する、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
第1気温、第2気温、第1気圧、及び第2気圧、そしてこれらから算出される比熱比及びこれらから算出される絶対湿度のうちの少なくとも1つの測定値を使用して天気予報を作成する天気予報モデルをさらに備える、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記天気予報モデルが、複数の時間及び位置から大気測定値を受信するように構成されており、追加の大気測定値はコンプレッサー以外から取得される、請求項32に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40950(P2013−40950A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−208352(P2012−208352)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【分割の表示】特願2009−548243(P2009−548243)の分割
【原出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company