説明

航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法および装置

【課題】駐機した航空機から機外へレーザ光を放射して航空機搭載レーザ装置の機能確認を行う際に、放射されたレーザ光を安全且つ効率的に所望の方向に反射させることが出来る航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置を提供する。
【解決手段】少なくとも自身の面内水平軸IN_HAを中心として自転可能な反射鏡1に対し、反射鏡1の面内垂直軸IN_VAおよび面内水平軸IN_HAの回りに回転可能に支持環2を反射鏡1に取り付ける。さらにスリーブ管にレーザポインタが差し込まれたレーザポインタ部3を反射鏡1の面内を指向する形態で支持環2に取り付ける。また、自身の光軸がレーザポインタ部2の光軸と一致する形態でガイドスコープ4を支持環2に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法および装置、特に駐機した航空機から機外へレーザ光を放射してレーザ装置の機能確認を行う際に、レーザ放射方向に正対させて反射鏡を設置することが出来ると共に、反射鏡において反射したレーザ反射方向の水平方向に対する仰角を正確・簡易的に測定することができ、さらに放射された実レーザ光を安全且つ効率的に所望の方向に反射させることが出来る航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機事故の主要因として近年乱気流が注目されており、航空機に搭載して乱気流を事前に検知する装置として、レーザ光を利用したドップラーライダーが研究開発されている(例えば、非特許文献1を参照。)。なお、ライダー(LIDAR)とは、光を利用した検知手法で「Light Detection And Ranging」を略したものである。また、照射された光線が、大気中に浮遊する微小なエアロゾルによって散乱され、その散乱光を受信してドップラー効果による周波数変化量(波長変化量)を測定することによって風速を測定することからドップラーライダーとも呼ばれている。このライダーはレーザ放射軸方向の距離を150m程度ごとに分割して、十数km程度遠方までの局所的な風速を同時に観測することができる。レーザ光としては距離による減衰が少ない近赤外線領域の波長が主に用いられ、レーザ光の安全性は高い。しかし、距離による減衰が少ないこと、遠方での予期せぬ集光の可能性を考慮すると、レーザ光を放射する際はレーザ放射方向に人員がいないことを確認して放射する必要がある。
【0003】
ドップラーライダーを地上で機能試験を実施する場合、装置単体であれば安全を確認しながらレーザ放射部の方向を自由に設定して機能試験をすることができる。他方、装置が一旦航空機に搭載されてしまうとレーザ放射部が固定されてしまい、固定されたままレーザ光を放射する場合、地面、建造物等の安全性が確認できない方向を放射してしまうおそれがある。例えば、宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」という。)が実施したライダーの飛行実験では、飛行中にレーザ光がほぼ水平方向に放射されるように、レーザ放射部は機体軸に対して2.5度下向きに取り付けられている。なお、機体軸は駐機時に水平より1度下向きであることが予め実測されているため、駐機時においてレーザ光は水平に対して3.5度下向きに放射されることになる。そのため、ライダーを機体に搭載した後、レーザ光を放射するとレーザ光は地面に当たってしまうため、このままの状態ではライダーの機能確認をすることが出来なかった。
そこで、本願発明者は反射鏡を三脚上の雲台に固定してレーザ光の放射方向を変更することを試みた
なお、反射鏡を雲台に固定する技術は広く知られており、例えば雲台に取り付けられた反射鏡で太陽光を反射させて日陰部を照射するように構成された太陽光照射装置に係る発明が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−288565号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Inokuchi, H.Tanaka, and T.Ando, ” Development of an Onboard Doppler LIDAR for Flight Safety," Journal of Aircraft, Vol. 46, No. 4, pp. 1411-1415, July-August 2009.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に三脚上の雲台に固定された反射鏡を使用してレーザ光の放射方向を反射させてみると以下に記す3点の問題が発覚した。
先ず、第1の問題として、レーザ光として赤外線を使用しているため目視することが出来ず、レーザ放射方向の中心に反射鏡を正しく設置することが出来なかった。
第2の問題として、レーザ光が反射鏡において反射した結果どの方向に反射されるのか分からないため、レーザ反射方向に対する安全確認が出来なかった。
第3の問題として、エアロゾルの密度は高度によって大きく異なるため、どの程度の高度の風速を観測をしているかを算出するためにはレーザ反射方向の水平方向に対する仰角値が必要であるが、レーザ反射方向が分からないためレーザ反射方向の水平方向に対する仰角値を算出することが出来なかった。
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、駐機した航空機から機外へレーザ光を放射してレーザ装置の機能確認を行う際に、レーザ放射方向に正対させて反射鏡を設置することが出来ると共に、反射鏡において反射したレーザ反射方向の水平方向に対する仰角を正確・簡易的に測定することができ、さらに放射された実レーザ光を安全且つ効率的に所望の方向に反射させることが出来る航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための請求項1に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法は、レーザポインタを反射鏡の面外垂直軸上かつ該反射鏡の面外方向を指向する形態で該反射鏡に対する仰角が調整可能に配設し、次に前記レーザポインタの投光点が航空機のレーザ放射窓に設けられた実レーザ光の通過部を走査するように前記反射鏡の地上面に対する仰角、方位、水平度または高さを調節し、次に前記レーザポインタを前記反射鏡の面内方向を指向する形態に反転し、次に前記レーザポインタの前記反射鏡に対する仰角を目標仰角に設定し、次に前記反射鏡の地上面に対する仰角を前記目標仰角の半分になるように設定し、その後実レーザ光を前記反射鏡に放射し実レーザ光を該反射鏡において反射させることを特徴とする。
本願発明者は、反射鏡の面外垂直軸(鏡面の法線)とレーザ放射方向が一致した状態(すなわち鏡面の法線=レーザ放射方向=レーザ反射方向の、いわゆる正対状態)から、反射鏡の仰角をθだけ変化させた時のレーザ放射方向に対するレーザ反射方向の仰角はその2倍の2θになること、逆に上記正対状態からレーザ放射方向に対するレーザ反射方向の仰角を所望値(2θ)に設定したい場合は、反射鏡の仰角をその半分の値(θ)に設定すればよいことに着目し本願発明に想到した。
そこで、本願発明者は、実レーザ光と同じ直進性を有しながら出力が小さく且つ投光点が可視化であるレーザポインタを地上面に対する仰角、方位、水平度または水平度が調節可能である反射鏡に対し上記形態で配設し、尚かつその指向方向が反転可能(面内から面外あるいは面外から面内)に配設し上記方法を実施することにより、航空機から放射される実レーザ光の放射方向と反射鏡の面外垂直軸が一致した状態をレーザポインタによって正確に模擬・形成し、更には実レーザ放射方向に対する実レーザ反射方向をレーザポインタによって正確に模擬・形成することが可能となることを見出した。そして後述する本発明に係る機構を利用することにより、反射鏡において反射した実レーザ反射方向の水平方向に対する仰角を正確・簡易的に測定することができ、さらに放射された実レーザ光を安全且つ効率的に所望の方向に反射させることが出来るようになった。
【0008】
前記目的を達成するための請求項2に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置は、少なくとも自身の面内水平軸を中心として回転可能であり尚かつ地上面に対する水平度が調整可能に構成されている反射鏡を利用したレーザ光反射装置であって、
前記反射鏡の面内水平軸または面内垂直軸または両軸の回りに回転可能であり該反射鏡に交差して設けられるリング状もしくは半リング状の環状フレームと、前記反射鏡の面内を常時指向する形態で該環状フレームに設けられるスリーブ管と、該スリーブ管に差し込まれるレーザポインタと、光軸が前記レーザポインタの光軸と一致するように前記環状フレームに設けられるガイドスコープとを備えたことを特徴とする。
上記航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、レーザポインタのレーザ光(以下、「ダミーレーザ光」という。)を利用して、航空機から機外へ放射される実レーザ光の放射方向と反射鏡の面外垂直軸(以下、「反射鏡中心線」という。)が一致した正対状態を正確に模擬・形成することが出来るのと同時に、その反射鏡において反射した実レーザ光の反射方向を正確に模擬・形成することが出来るように構成されている。
そのため、レーザポインタの指向方向を反射鏡の反射鏡中心線上に一致させることが出来るように、レーザポインタが差し込まれるスリーブ管は、例えば反射鏡の面内水平軸および面内垂直軸の回りに回転することができる環状フレームに反射鏡の面内(例えば反射鏡中心点)を指向する形態で取り付けられている一方、その環状フレームが取り付けられる反射鏡は、少なくとも自身の面内水平軸の回りに回転可能であり且つ地上面に対する水平度および高さが調整可能に構成されている。
従って、例えば、スリーブ管が反射鏡の真上に位置するように設定し(つまり、スリーブ管の指向方向を反射鏡の反射鏡中心線に一致するように設定し)且つレーザポインタの指向方向を面外とし、さらにダミーレーザ光が航空機のレーザ放射窓に取り付けられたキャップ上の実レーザ通過部に投光するように反射鏡の仰角、方位角、水平度または高さを調整することにより、実レーザ放射方向と反射鏡中心線が一致した正対状態を模擬・形成することが出来るようになる。
他方、実レーザ放射方向と反射鏡中心線が一致した模擬正対状態において、レーザポインタの指向方向を180°反転した面内とし(単にレーザポインタの差し込み方向を逆にし)、反射鏡の仰角を変えることにより、実レーザ光が反射鏡において反射した場合の実レーザ光の反射方向を正確に模擬した状態を簡易的に形成することが出来るようになる。この場合、予め光軸がレーザポインタの光軸に合わされたガイドスコープをユーザが覗いてダミーレーザ光の投光点を目視にて確認することにより、ダミーレーザ光の反射方向に障害物、人員がいないこと等の、実レーザ光が反射鏡において反射した場合の実レーザ光の反射方向に対する安全性の確認を容易に行うことが出来るようになる。
【0009】
請求項3に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、前記反射鏡は、地上面に対する水平度及び高さが調整可能な水平台上に直交して取り付けられたU字状フレームの間に前記面内水平軸を中心として回転可能に取り付けられていることとした。
上記航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、環状フレームが取り付けられる反射鏡を上記構成のU字状フレームに取り付けることにより、反射鏡は少なくとも自身の面内水平軸を中心として回転可能であり且つ地上面に対する水平度および高さが調整可能に構成され、その結果、ダミーレーザ光の指向方向について高い自由度を有するようになる。これにより、航空機から機外へ放射される実レーザ光のレーザ放射方向と反射鏡中心線が一致した正対状態を正確に模擬・形成することが出来るようになると共に、その反射鏡において反射した実レーザ光の反射方向を正確に模擬・形成することが出来るようになる。
【0010】
請求項4に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、前記スリーブ管は前記環状フレームに沿ってスライド可能に構成されていることとした。
上記航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、上記構成とすることにより、環状フレームの機構を簡略化させることが可能となると共に、レーザポインタの仰角および方位を独立に調整することが可能となる。
【0011】
請求項5に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、航空機のレーザ放射窓に取り付けられる実レーザ光の実際の通過部がマーキングされたキャップを備えることとした。
航空機から機外の反射鏡へ放射される実レーザ光のレーザ放射方向を正確に模擬するためには、レーザ放射部の水平度と反射鏡の水平度が一致していることが必要である。
そこで上記航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、上記キャップをレーザ放射窓に取り付け、レーザ放射部と反射鏡が正対した状態から反射鏡の仰角および方位を変化させた際に、ダミーレーザ光が実レーザ光の通過部(例えば十字線)をトレースすることを以てレーザ放射部の水平度と反射鏡の水平度が一致していることとした。
【0012】
請求項6に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、前記環状フレームに備わる仰角分度器の目盛は、実目盛の2倍に設定されていることとした。
上記航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置では、実レーザ放射方向と反射鏡の反射鏡中心線が一致した状態(レーザ放射部と反射鏡が正対した状態)において、反射鏡の仰角をθだけ変化させると、反射鏡における実レーザ反射光の仰角の変化量はその2倍の2θであることに着目して、環状フレームに備わる仰角分度器の目盛を実目盛の2倍に設定しておくことにより、目盛の読み値と初期仰角θ0との加算によって、実レーザ光が反射鏡において反射した場合の実レーザ反射方向の水平面に対する仰角を算出することが出来るようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法および装置によれば、実レーザ放射方向と反射鏡の反射鏡中心線が一致した正対状態をレーザポインタによって正確に模擬・形成することが出来ると共に、反射鏡の仰角を所望の角度に設定した時のその反射鏡に入射する実レーザ光の実レーザ反射方向を正確に模擬・形成することが出来る。従って、光軸がレーザポインタの光軸と一致するように調整されたガイドスコープによってユーザがダミーレーザ光の反射方向を目視にて確認することにより、その反射鏡において反射した場合の実レーザ光の反射方向の安全性の確認を行うことが出来るようになる。また、実レーザ反射方向の地上面に対する仰角、あるいは実レーザ反射方向の実レーザ放射方向に対する仰角を加算のみによって容易に算出することが出来るようになる。さらに航空機から放射された実レーザ光を安全且つ効率的に所望の方向に反射させることが出来るようになる。
また、本発明の上記レーザ光反射装置が航空機搭載のレーザ機器確認用に使用されることによって、そのレーザ装置の焦点位置や出力等、各種調整が地上整備で可能となる。その結果、飛行中の不具合や調整不足を未然に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置を示す説明図である。
【図2】図1のA部詳細図である。
【図3】航空機搭載レーザ装置の機能確認試験のセットアップを示す説明図である。
【図4】レーザ放射部から放射される実レーザのレーザ放射方向と反射鏡の反射鏡中心線が一致した正対状態(レーザ放射方向=反射鏡中心線)を示す説明図である。
【図5】レーザ放射部から放射される実レーザのレーザ放射方向と反射鏡の反射鏡中心線が一致した正対状態から反射鏡の仰角を変化させた時のレーザ反射方向の仰角を示す説明図である。
【図6】本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置の使用手順を示す説明図である。
【図7】本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置の使用手順を示す説明図である。
【図8】本発明の他の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置を示す説明図である。
【図9】図8のC部及びB部詳細図である。
【図10】本発明に係る簡易レーザ反射方向確認機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
図1−2は、本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置100の構成を示す説明図である。なお、図2は図1のA部詳細図である。
この航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置100は、自身の面内水平軸IN_HAを中心として回転可能な反射鏡1と、反射鏡1の面内水平軸IN_HAおよび面内垂直軸IN_VAの回りにそれぞれ回転可能なリング状の支持環2(環状フレーム)と、ダミーレーザ光を照射するレーザポインタが棒状のスリーブ管に差し込まれる形態で構成されているレーザポインタ部3と、ダミーレーザ光または実レーザ光の投光点を確認するガイドスコープ4と、反射鏡1の面内水平軸IN_VAを受けながら反射鏡1を支持するU字フレーム5と、U字フレーム5が直交して取り付けられる地上面に対する水平度を規定する水平台6と、反射鏡1の基準面・線(例えば水平面、地上面、レーザ放射方向)に対する仰角を測定する仰角分度器7と、反射鏡1の姿勢を固定する仰角固定ネジ8と、全体を支持する三脚9と、支持環2をスライド可能に支持する支持環押さえ10(図2)と、支持環2の姿勢を固定する支持環固定ネジ11(図2)と、支持環2の反射鏡1に対する方位を測定する方位分度器12(図2)とを具備して構成されている。
【0017】
反射鏡1を面内水平軸IN_HAを中心として回転させることにより、水平面(地上面)に対する仰角を調整することが出来ると共に、反射鏡1を水平台6の面外垂直軸OUT_VAを中心として回転させることにより、或いは三脚9を回転させることにより方位を調整することが出来る。更に、昇降クランク6-2によって水平台6に対するU字フレーム5の高さを調整することによって、反射鏡1の水平面に対する高さを調整することが出来る。
【0018】
他方、支持環2は反射鏡1の面内水平軸IN_HAまたは面内垂直軸IN_VAを中心として回転させることにより、反射鏡1の鏡面に対する仰角または方位を調整することが出来る。更に、レーザポインタ部3は棒状のレーザポインタが同じく棒状のスリーブ管に差し込まれる形態で構成されているため、その差込方向を逆にすることによってレーザポインタの面内指向または面外指向を択一的に容易に調整することが出来る。従って、レーザポインタ部3から照射されるダミーレーザ光は放射方向について高い自由度を有している。
【0019】
水平台6は水準器6-1を備え、地上面に平行な水平面を形成する。また、水平台6はU字フレーム5を上下に変位させる昇降クランク6-2を備えている。従って、昇降クランク6-2を操作することにより反射鏡1の上下方向の高さを調整することが出来る。
【0020】
反射鏡1の水平面に対する仰角は仰角分度器7で読み取るようになっており、仰角を決めたら仰角固定ネジ8でずれないように固定する。
【0021】
図2に示すように、支持環2は支持環固定ネジ11をピボット中心として支持環2の反射鏡1に対する方位を調節することができる。支持環固定ネジ11の中心は、厳密には反射鏡1の反射面上にあるべきであるが、本実施例のように若干ずれていても実用上は大きく方位を回転させることはないので問題ない。支持環固定ネジ11を締めると支持環押さえ10が支持環2を固定するようになっており、方位分度器12で支持環2の反射鏡1に対する方位角を読み取ることができる。支持環2にはレーザポインタ部3を固定することができ、レーザポインタ部3のレーザポインタを内側に向ける場合には、常に反射鏡1の中心を指向するように固定する。外側に向ける場合には、それとは反対向きであり、スリーブ管に差し込むような構造が簡便である。
【0022】
図1に示すように、ガイドスコープ4は支持環2のどの部分にも取り付けることができるが、事前にレーザポインタ部3とガイドスコープ4との光軸合わせを実施しておく。支持環2はレーザポインタ部3とガイドスコープ4を伴って、仰角方向に回転する構造になっており、仰角についても方位角と同様に支持環押さえ10と支持環固定ネジ11を使って固定する。ただし反射鏡1に対する仰角変化量は、支持環2の目盛(図2の仰角目盛ω)で読み取る。支持環押さえ10の工作がしっかりしていれば、原理的には支持環固定ネジ11は反射鏡1の上部1ヶ所で機能するが、実際上は反射鏡1の下部にも支持環固定ネジ11と支持環押さえ10を取り付け、上下同様に操作する。
【0023】
詳細については後述するが、本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置100は、実レーザ放射方向と反射鏡の反射鏡中心線が一致した正対状態で反射鏡を設置することが出来ると共に、反射鏡において反射した実レーザ反射方向の水平方向に対する仰角を正確・簡易的に測定することができ、さらに放射された実レーザ光を安全且つ効率的に所望の方向に反射させることが出来るように構成されている。以下、本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置100について更に詳細に説明する。
【0024】
図3に示すように、航空機に搭載されるレーザ装置では、レーザ放射部110からウィンドウ140を通して機外にレーザ光が放射される。必要に応じてレーザ放射部110を格納するフェアリング130を機体160に取り付けたり、レーザ装置の制御部120をレーザ放射部110から分離して与圧キャビン内に搭載することもある。また、レーザ光を下向きに放射するようにレーザ放射部110を搭載することもある。
【0025】
図4は、レーザ放射部110から放射される実レーザのレーザ放射方向と反射鏡1の反射鏡中心線が一致した正対状態(レーザ放射方向=反射鏡中心線)を示す説明図である。
レーザ放射部110から放射されるレーザの光軸上(レーザ放射方向)に反射鏡の反射面中心(反射鏡中心線)を合致させるために、反射鏡1の仰角(反射鏡中心線と水平面との成す角度)を、レーザ放射方向が水平方向と成す既知の角度θ0に調整し、さらに反射鏡中心線外向きに固定したレーザポインタ部3がウィンドウ140の中心を照射するように反射鏡1または支持環2の位置(反射鏡1に対する仰角または方位)を調整する。機体側のウィンドウ140上には実レーザ光が通過する領域にマーキング(例えば、実レーザ光の水平走査線および垂直走査線から成る十字線)が施されたキャップ150を被せるようにしておく。
【0026】
図4の正対状態から、支持環2の固定を解除し反射鏡1の仰角を変化させると、図5に示すようにレーザ反射方向は反射鏡1の仰角変化量(=θ)の2倍変化する。このとき、反射鏡中心線と該レーザポインタの指向方向とのなす角をθとすれば、反射鏡中心線とレーザ放射方向とのなす角もθとなり、レーザ反射方向の水平面に対する仰角γは、γ=2θ+θ0により求めることができる。このときθの角度目盛を実角の2倍のωで表示しておけば、γ=ω+θ0となり、単純な加算のみでレーザ反射方向の水平面に対する仰角γを求めることができる。レーザ反射方向の水平面に対する仰角γが求められれば、ライダーの観測高度Hは観測レンジをRとして、H=Rsinγで算出することができる。
【0027】
水平方向の方位角についても同様に求めることはできるが、一般的に方位角を数値で求める必要性はないので、機体の左右対称性などを考慮して反射鏡1をレーザ光軸上に慎重に設置する程度で充分である。
【0028】
ライダーの中にはレーザ光を機体から直下に放射して飛行高度よりも下層の大気状態を観測する方式のものがあるが、本反射鏡を用いて同様に地上機能確認試験を行うことができる。
【0029】
図4,6,7は、本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置100の使用手順を示す説明図である。
図4に示すように、使用に先立ち、ガイドスコープ4を支持環2の適当な位置に取り付け、レーザポインタ部3に対する光軸合わせを行なっておく。光軸合わせはレーザポインタ部3で遠方の物体を照射し、その投光点をガイドスコープ4で目視することにより実行できる。照射点はそれほど遠方でなくとも、レーザポインタ部3とガイドスコープ4との取り付け位置のずれを補正すれば精確な光軸合わせが可能である。
【0030】
前記の光軸合わせができたら、まずウィンドウ140に十字線付きのキャップ150をかぶせる。レーザポインタ部3は、反射鏡1の反射鏡中心線上に外向きで固定する。すなわち、支持環2の上部目盛(図2の仰角目盛ω)を0に合わせる。同時に方位分度器12を見ながら支持環固定ネジ11を締め付け、支持環2を反射鏡1と垂直に固定する。前述したとおりJAXAが実施したライダーの実験では、駐機中にレーザ光は水平面(地上面)に対して3.5度下向きに放射されるので、仰角分度器7を見て、レーザ放射仰角の3.5度に反射鏡1の反射鏡中心線を設定する。次に、おおよそのレーザ放射方位に三脚9の中心を置き、水準器6-1を使って三脚9を水平に設置する。次にレーザポインタ部3の投光点がキャップ150の十字線の中心に合うように昇降クランク6-2で反射鏡1の高さを調節する。同時に反射鏡1を水平面内で回転して方位も合わせる。反射鏡1の仰角を変化させ、該十字線の縦線に沿うことを確認し、ずれるようであれば、三脚9の位置をずらし水準調整からやり直す。この操作はウィンドウ140が鉛直線に対して相当な角度で取り付けられている場合に有効なもので、JAXAが実施した実験では53.5度であった。この角度が小さい場合には方位の設置精度が低下するので、別の目標指標を設ける必要がある。
【0031】
前記手順により、反射鏡1がレーザ放射方向に正対したら、図6(a)に示すようにレーザポインタ部3を内向きにセットする。次に図6(b)に示すように支持環固定ネジ11を緩めて支持環2を仰角方向に回転させ、大体の予定仰角値に目盛を合わせる。このとき支持環2の角度目盛ωは実角の2倍となっているため、レーザポインタ部3の実際の仰角は目盛の半分である。次に図7(a)に示すように反射鏡1の仰角を調節して、レーザポインタ部3の投光点がキャップ150の十字線の中心に合うようにする。必要に応じて、支持環2の方位と反射鏡1の方位を調節してレーザ放射予定方位を決める。最後にガイドスコープ4を使って、レーザ放射方向の障害物等を目視確認し、問題なければ図7(b)に示すように実レーザを放射する。必要に応じて前述した式を用いて、観測高度を算出する。
【0032】
図8は、本発明の他の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置200を示す説明図である。
この航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置200は、上記レーザ光反射装置100と異なり支持環2Aは反射鏡1の面内垂直軸IN_VAの回りのみ回転可能に構成され、その代わりレーザポインタ部3が支持環2Aをスライド可能に構成されている。そのため、ガイドスコープ4に代わり、照門14がレーザポインタ部3に固定されている。
ドップラーライダーは、高高度観測ではエアロゾルが減少して、観測能力が低下するという特徴があるため、実行上は、レーザ放射仰角を10度以下に設定することが多い。このため、図9(a)のように構成を単純化して照星13を反射鏡1に固定する方式でも仰角の目視誤差は無視できる範囲である。本実施例では、支持環2Aを反射鏡1の反射面側のみの半円形(半リング形)とし、照星13が支持環固定ネジを兼ねている。この結果、支持環2Aの回転部の工作が容易となり、方位と仰角とを独立して調整しやすくなっている。基本的は使用手順は上記レーザ光反射装置100と同じであるが、レーザポインタ部3の反射鏡1に対する仰角を調整する方法は、支持環2A自体を回転させるのではなく、図9(b)に示すようにレーザポインタ部3をスライドレール15を介して支持環2Aに沿ってスライドさせ、支持環2Aに記された実角の2倍の角度目盛ωを利用する。レーザ放射方向は、照星13と照門14を合うように目視すれば確認できる。
【0033】
図10は、本発明に係る簡易レーザ反射方向確認機構を示す説明図である。
この機構は、実レーザ放射方向を指向する第1指向片16と、反射鏡中心線を指向する第2指向片17と、レーザポインタ部3を指向する第3指向片18と、第1指向片16と第2指向片17をリンクする第1リンク片19と、第2指向片17と第3指向片18をリンクする第2リンク片20と、固定ピンA,B,B',Cとから成る。なお、AB=AB'、BC=CB'となるように設定されている。
従って、例えば実レーザ放射方向と反射鏡中心線が一致した正対状態(図4)において、実レーザ放射方向に第1指向片16を固定して、反射鏡1の仰角と「第2指向片17と第1指向片16との成す角」をリンクさせることによって、第3指向片18の指向方向によって、実レーザが反射鏡1で反射した時の実レーザのレーザ反射方向を予測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置は、航空機に搭載されたレーザ装置の機能確認が安全且つ効率的に実行できるので、実験用だけでなく、実用レーザ装置の点検整備にも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 反射鏡
2 支持環
3 レーザポインタ部
4 ガイドスコープ
5 U字フレーム
6 水平台
7 仰角分度器
8 仰角固定ネジ
9 三脚
10 支持環押さえ
11 支持環固定ネジ
12 方位分度器
13 照星
14 照門
15 スライドレール
16 第1指向片
17 第2指向片
18 第3指向片
19 第1リンク片
20 第2リンク片
110 レーザ放射部
120 制御部
130 フェアリング
140 ウィンドウ
150 キャップ
160 機体
100,200 航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザポインタを反射鏡の面外垂直軸上かつ該反射鏡の面外方向を指向する形態で該反射鏡に対する仰角が調整可能に配設し、次に前記レーザポインタの投光点が航空機のレーザ放射窓に設けられた実レーザ光の通過部を走査するように前記反射鏡の地上面に対する仰角、方位、水平度または高さを調節し、次に前記レーザポインタを前記反射鏡の面内方向を指向する形態に反転し、次に前記レーザポインタの前記反射鏡に対する仰角を目標仰角に設定し、次に前記反射鏡の地上面に対する仰角を前記目標仰角の半分になるように設定し、その後実レーザ光を前記反射鏡に放射し実レーザ光を該反射鏡において反射させることを特徴とする航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射方法。
【請求項2】
少なくとも自身の面内水平軸を中心として回転可能であり尚かつ地上面に対する水平度が調整可能に構成されている反射鏡を利用したレーザ光反射装置であって、
前記反射鏡の面内水平軸または面内垂直軸または両軸の回りに回転可能であり該反射鏡に交差して設けられるリング状もしくは半リング状の環状フレームと、前記反射鏡の面内を常時指向する形態で該環状フレームに設けられるスリーブ管と、該スリーブ管に差し込まれるレーザポインタと、光軸が前記レーザポインタの光軸と一致するように前記環状フレームに設けられるガイドスコープとを備えたことを特徴とする航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置。
【請求項3】
前記反射鏡は、地上面に対する水平度及び高さが調整可能な水平台上に直交して取り付けられたU字状フレームの間に前記面内水平軸を中心として回転可能に取り付けられている請求項2に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置。
【請求項4】
前記スリーブ管は前記環状フレームに沿ってスライド可能に構成されている請求項2に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置。
【請求項5】
航空機のレーザ放射窓に取り付けられる実レーザ光の実際の通過部がマーキングされたキャップを備える請求項2に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置。
【請求項6】
前記環状フレームに備わる仰角分度器の目盛は、実目盛の2倍に設定されている請求項2に記載の航空機搭載レーザ装置用レーザ光反射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−78978(P2013−78978A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219196(P2011−219196)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)