説明

航空機用排熱システム及び航空機用排熱方法

【課題】航空機における操舵用のアクチュエータの性能を落とすことなく、アクチュエータにおいて生じた熱を効果的に排熱することが可能な航空機用排熱システムを提供することである。
【解決手段】航空機用排熱システムは、補助発電機及びエンジンの少なくとも一方を有する航空機に搭載される。この航空機用排熱システムは、ラジエータ及び熱伝送部を備える。ラジエータは、前記補助発電機及び前記エンジンの少なくとも一方に流入する空気の流路又は前記流路からの分岐路に設けられる。熱伝送部は、前記航空機の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を前記ラジエータに伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、航空機用排熱システム及び航空機用排熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機では、尾翼を操舵するために電気油圧式アクチュエータ(EHA: Electro-Hydrostatic Actuator)が用いられている。EHAでは熱の抑制が重要な課題である。そこで、熱の抑制のための様々な対策が講じられている。例えば、低電流で駆動するサーボモータにより、高圧力の油をEHAの油圧シリンダに供給することによってサーボモータの発熱量を抑える技術が用いられている(例えば特許文献1参照)。また、EHAの流体圧ポンプに備えられるピストンの位置を調整するための斜板の傾き角を制御することによってモータの発熱量を抑制する技術も考案されている(例えば特許文献2参照)。そして、EHAにおいて生じた熱は、作動油によって排熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−264525号公報
【特許文献2】特開2005−240974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のEHAでは、発熱量が制限されるため、EHAの性能を十分に発揮させることができないという問題がある。特に、超音速航空機では、大きな空気抵抗が舵面にかかるため、EHAの一層の性能発揮が望まれる。すなわち、より大きな空気抵抗が舵面にかかってもEHAにより十分に対抗できるようにすることが重要である。
【0005】
また、次世代の旅客機では、尾翼の操縦用のアクチュエータが電気式となることが予想される。しかし、アクチュエータが電気式になると、作動油による熱の排熱ができなくなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、航空機における操舵用のアクチュエータの性能を落とすことなく、アクチュエータにおいて生じた熱を効果的に排熱することが可能な航空機用排熱システム及び航空機用排熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る航空機用排熱システムは、補助発電機及びエンジンの少なくとも一方を有する航空機に搭載される。この航空機用排熱システムは、ラジエータ及び熱伝送部を備える。ラジエータは、前記補助発電機及び前記エンジンの少なくとも一方に流入する空気の流路又は前記流路からの分岐路に設けられる。熱伝送部は、前記航空機の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を前記ラジエータに伝送する。
【0008】
また、本発明の実施形態に係る航空機用排熱方法は、補助発電機及びエンジンの少なくとも一方を有する航空機に使用される。この航空機用排熱方法は、前記補助発電機及び前記エンジンの少なくとも一方に流入する空気の流路又は前記流路からの分岐路にラジエータを設け、前記航空機の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を前記ラジエータに伝送して排熱するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態に係る航空機用排熱システム及び航空機用排熱方法によれば、航空機における操舵用のアクチュエータの性能を落とすことなく、アクチュエータにおいて生じた熱を効果的に排熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る航空機用排熱システムを搭載した航空機の構成図。
【図2】図1に示すポンプコントローラによるポンプの制御方法を説明するブロック線図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る航空機用排熱システムを搭載した航空機の構成図。
【図4】図3に示すラジエータの設置位置を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る航空機用排熱システム及び航空機用排熱方法について添付図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る航空機用排熱システムを搭載した航空機の構成図である。
【0013】
航空機用排熱システム1は航空機2に搭載される。航空機2は、垂直尾翼3及び2つの水平尾翼4を有する。垂直尾翼3及び各水平尾翼4には、それぞれ操舵用のEHA5が備えられる。各EHA5は、油圧シリンダ6をモータ7で駆動させる構成である。また、航空機2の尾翼近傍には、機内の電力を補うための補助発電機(APU: Auxiliary Power Unit)8が備えられる。
【0014】
航空機用排熱システム1は、ラジエータ(放熱器)9、熱伝送部10、入力装置13及び排熱動作制御部14を備えている。また、排熱動作制御部14は、第1の温度計15、第2の温度計16、信号線17及びポンプコントローラ18を有する。
【0015】
ラジエータ9は、APU8に流入する空気の流路19に設けられる。そして、ラジエータ9は、APU8に流入する空気との熱交換によって放熱できるように構成される。尚、APU8への空気のインレット用の流路19からの分岐路を設け、分岐路にラジエータ9を設置してもよい。
【0016】
熱伝送部10は、各EHA5のモータ7においてそれぞれ生じた熱をラジエータ9に伝送する機能を有する。熱伝送部10は、熱の伝送効率に鑑みて、冷却水等の冷却液Fを封入した配管11と、配管11内における冷却液Fを循環させるポンプ12とによって構成することができる。従って、冷却液Fの往路と復路を形成する各配管11が各モータ7とラジエータ9との間にそれぞれ敷設される。
【0017】
入力装置13は、航空機2の操縦室等の任意の位置に設置される。入力装置13からは、航空機用排熱システム1に動作指示情報等の指示情報を与えることができる。
【0018】
排熱動作制御部14は、入力装置13からの航空機用排熱システム1の動作指示情報に従って熱伝送部10における伝送動作のON/OFFの切換を行うための制御装置である。また、排熱動作制御部14は、熱伝送部10における伝送動作を、APU8に流入する空気の温度及び各EHA5の温度の少なくとも一方に基づいて制御するように構成されている。熱伝送部10における伝送動作は、冷却液Fを循環させるためのポンプ12の動作のON状態とOFF状態とを切換えることによって制御することができる。
【0019】
そのために、排熱動作制御部14の第1の温度計15はAPU8に流入する空気の温度をラジエータ9よりも下流において計測することが可能な位置に設置される。従って、APU8に流入する空気のラジエータ9よりも後方の流路19の任意の位置又はAPU8内に第1の温度計15が設置される。
【0020】
また、第2の温度計16は各EHA5の温度を計測することが可能な位置に設置される。EHA5における主要な熱源はモータ7である。このため、図1に示す例では、複数の第2の温度計16が、対応するモータ7の温度を各EHA5の温度としてそれぞれ計測できるようにモータ7に接触する位置に配置されている。
【0021】
ポンプコントローラ18は、入力装置13、第1の温度計15の出力側、各第2の温度計16の出力側及び熱伝送部10の各ポンプ12の制御入力側とそれぞれ信号線17によって接続される。そして、ポンプコントローラ18は、入力装置13から入力される動作指示情報、第1の温度計15から入力されるAPU8のインレットにおける空気の温度の計測値及び各第2の温度計16から入力されるEHA5の温度の計測値に基づいて、熱伝送部10の各ポンプ12のON/OFF動作を制御できるように構成されている。
【0022】
より具体的には、ポンプコントローラ18は、第1の温度計15から出力されるAPU8へのインレット気流の温度の計測値が第1の閾値よりも高い場合には、稼働しているポンプ12の動作を停止するように構成されている。第1の閾値は、APU8に流入させたとしてもAPU8に悪影響を及ぼさないと考えられる、安全率を考慮した空気の最大温度に設定することができる。従って、第1の閾値はシミュレーションや試験によって理論的又は経験的に決定することができる。
【0023】
また、ポンプコントローラ18は、第2の温度計16から出力されるEHA5の温度の計測値が第2の閾値よりも高い場合には、対応するEHA5とラジエータ9との間における冷却液Fを循環させるためのポンプ12を稼働させるように構成されている。第2の閾値は、EHA5の性能に悪影響を及ぼすと考えられる、安全率を考慮したEHA5の最低温度に設定することができる。従って、第2の閾値についてもシミュレーションや試験によって理論的又は経験的に決定することができる。
【0024】
次に航空機用排熱システム1の動作および作用について説明する。
【0025】
図2は、図1に示すポンプコントローラ18によるポンプ12の制御方法を説明するブロック線図である。
【0026】
航空機2の飛行前又は飛行中において入力装置13の操作によって航空機用排熱システム1を動作させる動作指示情報を航空機用排熱システム1に入力することができる。そうすると、航空機用排熱システム1の動作指示情報が入力装置13からポンプコントローラ18に入力される。そして、ポンプコントローラ18は、第1の温度計15からAPU8へのインレット気流の温度の計測値を入力する。また、ポンプコントローラ18は、各第2の温度計16からそれぞれ対応するEHA5の温度の計測値を入力する。
【0027】
すなわち、ポンプコントローラ18には入力装置13からの動作指示情報、第1の温度計15からのAPU8へのインレット気流の温度の計測値及び第2の温度計16からのEHA5の温度の計測値が入力される。次に、ポンプコントローラ18は動作指示情報が動作の開始を指示する情報であるのか動作の停止を指示する情報であるのかを判定する。
【0028】
例えば、動作指示情報が動作の開始の指示であるときに1、動作の停止の指示であるときに0の値をとるパラメータIで表される場合には、ポンプコントローラ18により、式(1)の成立可否が判定される。
I = 1 (1)
【0029】
動作指示情報が動作の開始を指示する情報であると判定された場合には、ポンプコントローラ18は、APU8へのインレット気流の温度の計測値TAPU_measuredが第1の閾値TH1以下であるか否かを判定する。つまりポンプコントローラ18により、式(2)の成立可否が判定される。
TAPU_measured ≦ TH1 (2)
【0030】
また、ポンプコントローラ18は、EHA5の温度の計測値TEHA_measuredが第2の閾値TH2を超えたか否かを判定する。つまりポンプコントローラ18により、式(3)の成立可否が判定される。
TEHA_measured > TH2 (3)
【0031】
尚、式(1)、式(2)及び式(3)で示される判定処理の順序は任意に変えることができる。そして、式(1)、式(2)及び式(3)の全てが成立すると判定される場合には、ポンプコントローラ18がポンプ12に動作制御信号を出力することによってポンプ12を駆動させる。逆に、式(1)、式(2)及び式(3)の少なくとも1つが満足されていない場合には、ポンプコントローラ18はポンプ12を駆動させない。
【0032】
図1に示す例では、尾翼毎にポンプ12が設けられているため、尾翼毎に独立してポンプ12を制御することができる。すなわち、尾翼毎に2つのEHA5が設けられているため、2つのEHA5の温度の計測値TEHA_measuredに対して式(3)に示す閾値処理が実行される。そして、一方又は双方のEHA5の温度の計測値TEHA_measuredが式(3)を満足した場合にポンプコントローラ18がポンプ12を駆動させるようにすることができる。但し、一方のEHA5の温度の計測値TEHA_measuredが式(3)を満足した場合にポンプ12を駆動させるようにすれば、EHA5の温度をより確実に所定の温度以下に保つことができる。
【0033】
図1に示す例の他、任意の数のポンプ12を任意の配管11の経路上に設けることができる。例えば、EHA5毎に1つのポンプ12を設ければ、EHA5毎に独立してポンプ12を制御することができる。すなわち、EHA5毎に式(3)に示す閾値処理を実行してポンプ12を駆動させることができる。逆に、全てのEHA5に共通のポンプ12を設けるようにしてもよい。この場合には、少なくとも1つ、全部或いは過半数等のように所定の数のEHA5の温度の計測値TEHA_measuredが式(3)を満足した場合にポンプコントローラ18がポンプ12を駆動させるようにすればよい。
【0034】
ポンプ12が動作する前には冷却液Fが循環しないため、ラジエータ9からは熱が放出されない。従って、APU8に流入する空気の温度は上昇せず、通常は式(2)が満たされることとなる。一方、舵面の制御量が小さい場合や舵面の制御時間が短い場合には、EHA5の負荷が小さく発熱量も小さい。従って、式(3)が満たされず、ポンプ12は動作しない。
【0035】
これに対して舵面の制御量が大きくなった場合や舵面の制御時間が長くなった場合には、EHA5の負荷が大きくなり発熱量が増加する。この結果、第2の温度計16から出力されるEHA5の温度の計測値TEHA_measuredが第2の閾値TH2を超える場合がある。この場合、式(1)、式(2)及び式(3)の全てが満足しているとポンプコントローラ18により判定される。
【0036】
そうすると、ポンプコントローラ18は、対応するポンプ12に動作制御信号を出力することによってポンプ12を駆動させる。また、ポンプコントローラ18は、EHA5の温度の制御値TEHA_targetを第2の閾値TH2以下のマージンを考慮した値に設定し、式(4)に示すように、EHA5の温度の計測値TEHA_measuredと制御値TEHA_targetとの制御偏差ΔTEHAを計算する。
ΔTEHA = TEHA_measured-TEHA_target (4)
【0037】
そして、ポンプコントローラ18は、式(5)により示される、制御偏差ΔTEHAに比例する時間Δt1だけポンプ12を動作させる。
Δt1 ∝ ΔTEHA (5)
【0038】
ポンプ12が動作すると対応する配管11内の冷却液Fが循環する。このため、EHA5において生じた熱が冷却液Fによってラジエータ9に伝送される。そして、ラジエータ9においてAPU8に流入する空気と冷却液Fとの熱交換によって排熱が行われる。この結果、EHA5の温度が低下する。一方、APU8に流入する空気が加熱されて温度が上昇する。
【0039】
式(5)により示される時間Δt1が経過すると、ポンプコントローラ18は、ポンプ12を停止させる。その後、ポンプコントローラ18は、式(6)により示される、制御偏差ΔTEHAの逆数に比例する時間Δt0だけポンプ12の動作停止状態を継続させる。
Δt0 ∝ 1/ΔTEHA (6)
【0040】
その後、ポンプコントローラ18は、再び式(1)、式(2)及び式(3)の全てが満足しているか否かの判定処理を実行する。例えば、ポンプ12の動作による冷却液Fの循環によってEHA5の温度が第2の閾値TH2以下となった場合には、式(3)が満たされない。従って、EHA5の温度が再び第2の閾値TH2を超えるまでポンプ12の停止状態が継続される。
【0041】
一方、冷却液Fの循環によっても依然としてEHA5の温度が第2の閾値TH2よりも高い場合には式(3)が満たされる。従って、式(1)及び式(2)が成立していれば、再び式(4)及び式(5)で示される各時間Δt1, Δt0だけポンプ12が動作及び停止する。
【0042】
但し、ラジエータ9からの排熱によってAPU8に流入する空気が著しく加熱された場合には、APU8に流入する空気の温度が第1の閾値TH1よりも高くなる場合がある。この場合には、式(2)が成立しないためポンプ12の停止状態が継続される。すなわち、APU8に流入する空気の温度が第1の閾値TH1以下となり、かつEHA5の温度が第2の閾値TH2よりも高い状態となるまでポンプ12が停止する。
【0043】
従って、式(1)、式(2)及び式(3)の全てが満足していると判定されるまでは、第1の温度計15及び第2の温度計16からそれぞれポンプコントローラ18に連続的に時系列の温度の計測値が入力される。一方、式(1)、式(2)及び式(3)の全てが満足していると判定され、ポンプ12が動作した後は、断続的に第1の温度計15及び第2の温度計16からポンプコントローラ18に温度の計測値が入力される。
【0044】
このような制御アルゴリズムに従ってポンプ12を制御すれば、制御偏差ΔTEHAが徐々に小さくなるように適切にポンプ12を制御することができる。換言すれば、EHA5において生じた熱を、EHA5の温度が適切な目標温度に徐々に近づくように、断続的にラジエータ9に導いて排熱することができる。
【0045】
尚、ポンプ12の制御アルゴリズムは、上述した例に限らず、様々なアルゴリズムとすることができる。例えば、EHA5の温度の計測値TEHA_measuredと制御値TEHA_targetとの差に変えて比に応じた時間だけポンプ12を作動又は停止させるようにしてもよい。すなわち、EHA5の実際の温度とEHA5の制御温度との差又は比に応じた時間だけ熱伝送部10の伝送動作を作動又は停止させる制御を行うことができる。
【0046】
また、EHA5の実際の温度とEHA5の制御温度又は第2の閾値TH2との差又は比と、APU8に流入する空気の実際の温度と第1の閾値TH1との差又は比との重み付け加算値に対して第3の閾値を設定し、第3の閾値を用いた重み付け加算値の閾値処理によってポンプ12を作動又は停止させるように制御アルゴリズムを作成することもできる。すなわち、APU8に流入する空気の温度の計測値TAPU_measuredの第1の閾値TH1からの超越量及びEHA5の温度の計測値TEHA_measuredの第2の閾値TH2からの超越量の重み付け加算値を最小にするようなポンプ12の最適制御を行うこともできる。
【0047】
以上のような航空機用排熱システム1は、航空機2の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を、航空機2の尾部に存在するAPU8に吸気される気流を利用して排熱するようにしたものである。
【0048】
このため、航空機用排熱システム1によれば、EHA5において生じる熱を排熱できるため、EHA5の性能を十分に発揮させることができる。換言すれば、EHA5における発熱量の上限を引き上げることができる。従って、EHA5の性能を向上させることが可能である。このため、超音速機であってもEHA5により空気抵抗に対抗することが可能となる。
【0049】
尚、典型的な舵面の仕事率から推定されるEHA5の発熱量及びAPU8に流入する空気の流量等に基づく熱計算によれば、EHA5において生じた熱をAPU8に流入する空気により冷却すると、APU8に流入する空気の温度の上昇が1℃未満になるという結果が得られた。従って、APU8に流入する空気に熱を排出することに起因するAPU8への影響は、多くの場合、無視できると考えられる。
【0050】
しかしながら万一、APU8に流入する空気の温度が著しく上昇し、APU8の性能に悪影響を及ぼす恐れが生じても、排熱動作制御部14による熱伝送部10の伝送動作の制御によって、APU8への過剰な負荷を回避することができる。これにより、APU8の性能を維持することができる。一方、EHA5の発熱量が少ない場合には、排熱動作制御部14による熱伝送部10の伝送動作の制御によって、EHA5の無用な冷却及び過剰な冷却を防止することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
図3は本発明の第2の実施形態に係る航空機用排熱システムを搭載した航空機の構成図である。
【0052】
図3に示された航空機用排熱システム1Aでは、ラジエータ9を航空機2Aのエンジンに流入する空気の流路20からの分岐路21に設けた点が図1に示す第1の実施形態における航空機用排熱システム1と相違する。他の構成および作用については図1に示す航空機用排熱システム1と実質的に異ならないため同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0053】
航空機2Aの種類によっては、APU8が設けられない。例えば、通常の旅客機にはAPU8が設けられるが、軍用機にはAPU8が備えられない。そこで、ラジエータ9をエンジンに流入する空気の流路20からの分岐路21に設けることによって航空機用排熱システム1Aを構成することができる。
【0054】
図4は、図3に示すラジエータ9の設置位置を説明するための概念図である。
【0055】
航空機2Aが超音速機である場合には、図4に示すようにエンジンへのインレット気流の流路20が、内径が一旦狭くなった後に広くなる構造を有している。これにより、超音速の気流を亜音速の気流としてエンジンに導くことができる。
【0056】
そこで、図4に示すようにエンジンへの気流が亜音速となる任意の流路20の位置に分岐路21を設け、亜音速の空気が流れる分岐路21にラジエータ9を配置することができる。これにより、ラジエータ9に安全に所望の流量の亜音速の空気を流入させて熱交換することができる。
【0057】
このため、第2の実施形態における航空機用排熱システム1Aによれば、APU8が搭載されていない航空機2Aにおいて第1の実施形態における航空機用排熱システム1と同様の効果を得ることができる。尚、第2の実施形態において、エンジンへのインレット気流の流路20に直接ラジエータ9を配置するようにしてもよい。
【0058】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0059】
例えば、上述した各実施形態では、EHA5により尾翼を操舵する航空機2、2Aに航空機用排熱システム1、1Aを搭載する例を示したが、電気式のアクチュエータにより尾翼を操舵する航空機に航空機用排熱システム1、1Aを適用することも可能である。また、ラジエータ9をAPU8及びエンジンの双方へのインレット気流の流路又は分岐路に設けることによって、一層排熱性能を向上させるようにしてもよい。すなわち、航空機のAPU8及びエンジンの少なくとも一方に流入する空気の流路又は流路からの分岐路にラジエータ9を設置することによって、航空機の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を排熱することが可能である。
【0060】
また、熱伝送部10を、スポンジ等の保護材でコーティングした銅等の金属を用いて構成してもよい。熱伝送部10における熱の媒体として金属を用いれば、熱伝送部10の構造を簡易にすることができる。この場合には、棒状の金属がモータ7とラジエータ9との間に敷設される。そして、ポンプ12の代わりにスイッチ等の金属媒体の着脱機構を設けることによって熱伝送部10の動作を制御することができる。
【0061】
一方、アクチュエータにおいて生じた熱を冷却液Fにより伝送する場合において、冷却液Fを循環させるための配管11にバルブを設けるようにしてもよい。そして、ポンプ12の動作制御に代えて、或いはポンプ12の動作制御に加えて、バルブの開度制御及び開閉制御によって熱伝送部10における伝送動作を制御することもできる。この場合、バルブの開度制御による冷却液Fの流量の調整により、APU8に流入する空気の温度及び/又は各EHA5の温度に応じた航空機用排熱システム1、1Aの排熱性能の制御が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、1A 航空機用排熱システム
2、2A 航空機
3 垂直尾翼
4 水平尾翼
5 EHA
6 油圧シリンダ
7 モータ
8 APU
9 ラジエータ
10 熱伝送部
11 配管
12 ポンプ
13 入力装置
14 排熱動作制御部
15 第1の温度計
16 第2の温度計
17 信号線
18 ポンプコントローラ
19、20 流路
21 分岐路
F 冷却液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助発電機及びエンジンの少なくとも一方を有する航空機に搭載される航空機用排熱システムにおいて、
前記補助発電機及び前記エンジンの少なくとも一方に流入する空気の流路又は前記流路からの分岐路に設けられるラジエータと、
前記航空機の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を前記ラジエータに伝送する熱伝送部と、
を備える航空機用排熱システム。
【請求項2】
前記熱伝送部における伝送動作を、前記空気の温度及び前記アクチュエータの温度の少なくとも一方に基づいて制御する排熱動作制御部を更に備える請求項1記載の航空機用排熱システム。
【請求項3】
前記排熱動作制御部は、前記アクチュエータの温度と前記アクチュエータの制御温度との差又は比に応じた時間だけ前記熱伝送部の伝送動作を作動又は停止させるように構成される請求項2記載の航空機用排熱システム。
【請求項4】
前記熱伝送部は、冷却液を封入した配管と、前記配管内における前記冷却液を循環させるポンプとを有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の航空機用排熱システム。
【請求項5】
補助発電機及びエンジンの少なくとも一方を有する航空機に使用される航空機用排熱方法において、
前記補助発電機及び前記エンジンの少なくとも一方に流入する空気の流路又は前記流路からの分岐路にラジエータを設け、前記航空機の操舵用のアクチュエータにおいて生じた熱を前記ラジエータに伝送して排熱する航空機用排熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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