説明

航走体検出装置および航走体検出方法

【課題】水中航走体の検出精度を向上させることが可能な航走体検出装置を実現する。
【解決手段】音響センサ1は、航走体で発生する音波を検出して音波信号として出力する。制御部10は、音波信号から、雑音に対する音波の比率がいき値未満となる周波数成分の信号を、水上航走体が波を切ったときに発生する砕波音有無信号として抽出し、その砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成する。表示器9は、その表示情報を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航走体を検出する航走体検出装置に関し、特には、水上航走体および水中航走体を別々に検出する航走体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
潜水艦及び潜水艦から発射される魚雷等の水中航走体は、船舶にとって大きな脅威である。水中航走体を検出する技術としては、高速回転しているスクリューから発生する音波を検出し、その音波の発信源を水中航走体として検出する技術が実用化されている。しかしながら、モーターボート等の高速航走可能な水上航走体においても、スクリューが高速回転することがあるので、上記の技術では、高速航走可能な水上航走体を誤って水中航走体として検出してしまうことがあった。
【0003】
これに対して特許文献1には、航走体の種類を判定することが可能な航走体監視装置が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の航走体監視装置は、磁気、音響、水圧および水中電界等のシグネチャの時間変化を波形信号として検出する。また、航走体監視装置では、航走体から放射されるシグネチャに関するシグネチャ情報が、航走体の種類ごとにデータベース化されている。航走体監視装置は、検出した波形信号を上記のデータベースに基づいて分析して、航走体の種類を特定する。
【0005】
したがって、特許文献1に記載の航走体監視装置では、水中航走体に応じたシグネチャ情報が適切にデータベース化されていれば、水中航走体の検出精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−290626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の航走体監視装置では、シグネチャ情報を予めデータベース化しなければならないため、水中航走体の検出精度を向上させるためには、水中航走体に応じたシグネチャ情報を予め知っておく必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1には、水中航走体に応じたシグネチャ情報に対する具体的な記載はない。また、水中航走体には様々な種類があるため、それらの水中航走体に応じたシグネチャ情報を予め全て知っておくことは困難である。したがって、特許文献1に記載の技術では、水中航走体の検出精度を向上させることは難しい。
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、水中航走体の検出精度を向上させることが可能な航走体検出装置および航走体検出方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による航走体検出装置は、航走体で発生する音波を検出して音波信号として出力する音響センサと、前記音波信号から、雑音に対する前記音波の比率がいき値未満となる周波数成分を、水上航走体が波を切ったときに発生する砕波音の有無を示す砕波音有無信号として抽出し、当該砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成する制御部と、前記表示情報を表示する表示部と、を有する。
【0011】
また、本発明による航走体検出方法は、航走体で発生する音波を検出して音波信号として出力し、前記音波信号から、雑音に対する前記音波の比率がいき値未満となる周波数成分を、水上航走体が波を切ったときに発生する砕波音有無信号として抽出し、前記砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成し、前記表示情報を表示する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水中航走体の検出精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の水中航走体判別装置の構成を示す図である。
【図2】音響センサの設置場所および検出音波の一例を示す図である。
【図3】表示器の表示画面の一例を示す図である。
【図4】表示器の表示画面の他の例を示す図である。
【図5】水中航走体判別装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【図6】音響センサの設置場所および検出音波の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同じ機能を有するものには同じ符号を付け、その説明を省略する場合がある。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態の航走体検出装置である水中航走体判別装置の構成を示す図である。図1において、水中航走体判別装置は、音響センサ1と、LPF(Low Pass Filter)2と、A/D変換部3と、FFT(Fast Fourier Transform)処理部4と、雑音平均化部5と、いき値検出部6と、砕波音抽出部7と、逆FFT処理部8と、表示器9とをする。また、A/D変換部3、FFT処理部4と、雑音平均化部5と、いき値検出部6と、砕波音抽出部7および逆FFT処理部8は、制御部10を構成する。
【0016】
音響センサ1は、水中の音波を検出し、その検出結果を電気信号に変換し、音波信号としてLPF2に出力する。ここで、音波信号は、時間領域のアナログ信号である。
【0017】
図2は、音響センサ1の設置場所および検出音波の一例を示す図である。図2に示すように、音響センサ1は、水中に設けられ、通信ワイヤ11を介して船舶12と接続されている。また、通信ワイヤ11の所定の位置には、海面13に浮かぶブイ14が備え付けられており、音響センサ1の位置が深くなり過ぎないように調整されている。表示器9および制御部10は、図2では図示されていないが、船舶12の内部に設けられているものとする。また、制御部10は、通信ワイヤ11を介して音響センサ1と通信可能に接続されている。
【0018】
音響センサ1が検出する音波は、航走体で発生する航走体音波である。航走体音波には、海面13を航走する海上航走体15で発生する海上航走体音21と、海中を航走する水中航走体16で発生する水中航走体音22とがある。海上航走体15は、モーターボート等の船舶であり、水上航走体と呼ばれることもある。水中航走体16は、潜水艦や魚雷等である。
【0019】
海上航走体音21は、海上航走体15の機械音と、海上航走体15が海面13の波に衝突して、その波を切るときの発生する砕波音とを含む。また、水中航走体16は通常、海面13の波を切ることがないので、水中航走体音22は、水中航走体16の機械音を含むが、砕波音を含まない。なお、機械音とは、エンジンや推進器(スクリューなど)のような、航走体に備わった機械類から生じる音である。
【0020】
機械音は、通常、ほぼ一定の周波数を有し、また、連続的に発生する。一方、砕波音は、通常、様々な周波数を有し、海上航走体15が断続的に波を切るので、断続的に発生する。
【0021】
図1の説明に戻る。制御部10は、音響センサ1から音波信号を受け付ける。制御部10は、その音波信号から、雑音に対する航走体音波の比率である信号対雑音比(S/N比:Signal/Noise比)が所定のいき値未満となる周波数成分を、砕波音の有無を示す砕波音有無信号として抽出する。そして、制御部10は、砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成する。より具体的には、制御部10の各部が以下の処理を行う。
【0022】
LPF2は、音響センサ1から音波信号を受け付け、その音波信号に対してLPF処理を行う。LPF処理は、後述のA/D変換処理の前処理であり、音波信号から高周波成分を除去する処理である。
【0023】
A/D変換部3は、LPF処理が行われた音波信号に対してA/D変換処理を行い、音波信号をディジタル信号に変換する。A/D変換処理は、アナログ信号の電圧をディジタルの数値に変換することで、アナログ信号をディジタル信号に変換する処理である。
【0024】
FFT処理部4は、単に変換部とも呼ばれ、A/D変換処理が行われた音波信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行い、音波信号を周波数領域の信号である周波数信号に変換する。
【0025】
雑音平均化部5は、算出部とも呼ばれ、FFT処理で変換された周波数信号の各周波数成分について、信号対雑音比を求める。
【0026】
ここで、一つの周波数成分に着目すると、雑音平均化部5は、その着目した周波数成分である対象成分の近傍にある周波数成分の平均値を、対象成分に含まれる雑音として求め、その雑音に基づいて、対象成分の信号対雑音比を求める。そして、雑音平均化部5は、この処理を、全ての周波数成分に対して行うことで、各周波数成分の信号対雑音比を求める。対象成分の近傍の周波数成分は、対象成分を含む所定周波数領域内の周波数成分のことである。また、対象成分の近傍の周波数成分は、所定周波数領域内の周波数成分から対象成分を除いた周波数成分であってもよい。
【0027】
いき値検出部6は、特定部とも呼ばれ、検出信号の各周波数成分のうち、雑音平均化部5にて求められた信号対雑音比がいき値以上の周波数成分を、砕波音外信号として特定する。
【0028】
砕波音抽出部7は、FFT処理で変換された周波数信号から、いき値検出部6にて特定された砕波音外信号を取り除くことで、周波数信号から砕波音有無信号を抽出する。
【0029】
機械音は、上述のようにほぼ一定の周波数を有するので、大きな機械音が発生した場合、航走体音波内の特定の周波数成分が大きくなり、その周波数成分における信号対雑音比が高くなる。一方、砕波音は様々な周波数を有しているので、大きな砕波音が発生しても、通常、特定の周波数成分における信号対雑音比が高くなることはない。
【0030】
このため、信号対雑音比がいき値以上の周波数成分である砕波音外信号は、比較的大きな機械音を示す信号となる。したがって、砕波音有無信号は、周波数信号から砕波音外信号が取り除かれた信号なので、航走体音波が海上航走体音21の場合、砕波音と、比較的小さな機械音とを示す信号となり、航走体音波が水中航走体音22の場合、比較的小さな機械音を示す信号となる。このため、砕波音有無信号は、砕波音の有無を示すことになる。
【0031】
逆FFT処理部8は、生成部とも呼ばれ、砕波音抽出部7で生成された砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成する。より具体的には、逆FFT処理部8は、砕波音有無信号に対して逆高速フーリエ変換(逆FFT)処理を行い、砕波音有無信号を時間領域の信号に変換した信号を表示用情報として生成する。
【0032】
表示器9は、表示部とも呼ばれ、逆FFT処理部8にて生成された表示用信号を表示する。例えば、表示器9は、横軸を時間、縦軸を方位とし、表示用信号の信号強度を濃淡で表すグラフを用いて、表示用信号を表示する。方位は、音響センサ1から航走体を見た方位である。
【0033】
方位は、例えば、それぞれ異なる位置に設けられた複数の受波器によって音響センサ1が構成される場合、各受波器の出力信号の時間差から求めることができる。しかしながら、このような音響センサ1の具体的な構成や方位検出のための具体的な処理は、本発明とは直接関係せず、また、当業者にはよく知られているので、その詳細な説明は省略する。
【0034】
図3および図4は、表示器9の表示画面の一例を示す図である。
【0035】
図3では、音響センサ1が水中航走体音22を検出した際の表示画面例31が示されている。水中航走体16は砕波音を発生しないので、表示用信号は、比較的小さな機械音のみを示す信号となる。したがって、機械音は連続的に発生するので、表示画面例31では、連続的な濃部32が現れる。
【0036】
図4では、音響センサ1が海上航走体音21を検出した際の表示画面例41が示されている。海上航走体15は砕波音を発生するので、表示用信号は、砕波音と、比較的小さな機械音とを示す信号となる。したがって、砕波音は断続的に発生するので、表示画面例41では、機械音に対応する連続的な濃部42に加えて、砕波音に対応する断続的な濃部43が現れ、横縞模様が見られる。
【0037】
図3および図4で示されたように、ユーザは、表示画面に横縞模様が見られない濃部が現れていれば、水中航走体16が船舶の近くに存在することが分かり、表示画面に横縞模様が見られる濃部が現れていれば、海上航走体15が船舶の近くに存在することが分かる。
【0038】
次に、水中航走体判別装置の動作について説明する。
【0039】
図5は、本実施形態における水中航走体判別装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0040】
先ず、音響センサ1は、水中の音波を検出し、その検出結果を電気信号に変換し、音波信号として通信ワイヤ11を介してLPF2に出力する(ステップS501)。音波信号は、LPF2で高周波成分が除去され(ステップS502)、A/D変換部3でディジタル信号に変換されてFFT処理部4に入力される(ステップS503)。ディジタル信号の音波信号は、FFT処理部4で周波数領域の周波数信号に変換され、雑音平均化部5および砕波音抽出部7のそれぞれに入力される(ステップS504)。
【0041】
雑音平均化部5は、周波数信号の各周波数成分について信号対雑音比を求め、各周波数成分の信号対雑音比をいき値検出部6に入力する(ステップS505)。
【0042】
いき値検出部6は、各周波数成分のうち、信号対雑音比がいき値以上の周波数成分を砕波音外信号として特定し、その特定した砕波音外信号を砕波音抽出部7に入力する(ステップS506)。
【0043】
砕波音抽出部7は、FFT処理部4から入力された周波数信号から、いき値検出部6から入力された砕波音外信号を取り除くことで、砕波音有無信号を抽出し、その砕波音有無信号を逆FFT処理部8に入力する(ステップS507)。
【0044】
逆FFT処理部8は、砕波音有無信号を時間領域の表示用情報に変換し(ステップS508)、その表示用情報を表示器9に入力して、表示器9に表示させる(ステップS509)。
【0045】
以上説明したように本実施形態によれば、音響センサ1は、航走体で発生する音波を検出して音波信号として出力する。制御部10は、音波信号から、雑音に対する音波の比率である信号対雑音比がいき値未満となる周波数成分の信号を砕波音有無信号として抽出し、その砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成する。表示器9は、その表示情報を表示する。
【0046】
したがって、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報が、信号対雑音比がいき値未満となる周波数成分である砕波音有無信号に基づいて生成されるので、水中航走体に応じたシグネチャ情報をデータベース化しなくても、航走体が水中航走体か否かを判断することが可能になり、水中航走体の検出精度を向上させることが可能になる。
【0047】
以上説明した各実施形態において、図示した構成は単なる一例であって、本発明はその構成に限定されるものではない。
【0048】
例えば、表示情報は、航走体が水上航走体か水中航走体かを表しさえすれば、図3や図4で示した情報に限らず、適宜変更可能である。
【0049】
また、音響センサ1は海中に設けられていたが、水中に設けられていればよく、例えば、河川や湖の中に設けられてもよい。また、音響センサ1は、図6で示すように船舶12の船底に取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 音響センサ
2 LPF
3 A/D変換部
4 FFT処理部
5 雑音平均化部
6 いき値検出部
7 砕波音抽出部
8 逆FFT処理部
9 表示器
10 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航走体で発生する音波を検出して音波信号として出力する音響センサと、
前記音波信号から、雑音に対する前記音波の比率がいき値未満となる周波数成分を、水上航走体が波を切ったときに発生する砕波音の有無を示す砕波音有無信号として抽出し、当該砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成する制御部と、
前記表示情報を表示する表示部と、を有する航走体検出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記音波信号を周波数領域の信号である周波数信号に変換する変換部と、
前記周波数信号の各周波数成分について、前記比率を求める算出部と、
前記周波数信号の各周波数成分のうち、前記比率が前記いき値以上となる周波数成分を砕波音外信号として特定する特定部と、
前記音波信号から前記砕波音外信号を取り除いて、前記砕波音有無信号を抽出する砕波音抽出部と、
前記砕波音有無信号に基づいて、前記表示情報を生成する生成部と、を有する、請求項1に記載の航走体検出装置
【請求項3】
前記算出部は、各周波数成分について、当該周波数成分を含む所定周波数領域内の周波数成分の平均値を前記雑音として求め、当該雑音に応じて前記比率を求める、請求項2に記載の航走体検出装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記砕波音有無信号を時間領域の信号に変換して、前記表示情報を生成する、請求項2または3に記載の航走体検出装置。
【請求項5】
航走体で発生する音波を検出して音波信号として出力し、
前記音波信号から、雑音に対する前記音波の比率がいき値未満となる周波数成分を、水上航走体が波を切ったときに発生する砕波音有無信号として抽出し、
前記砕波音有無信号に基づいて、航走体が水上航走体か水中航走体かを表す表示情報を生成し、
前記表示情報を表示する、航走体検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106613(P2012−106613A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256795(P2010−256795)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(599161890)NECネットワーク・センサ株式会社 (71)