説明

船体形状

【課題】 パラメトリック横揺れの発生を防止する船体形状を提供する。
【解決手段】 船体11は、中央部7の前後において、垂線間長さLの約1/2の長さにわたり、計画満載喫水線2よりも上部の船幅が船体幅方向に広がっている拡幅部Wによって水線面積が増加した部分を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船体形状に関するものであり、特に、パラメトリック横揺れの発生を未然に防止するための船体形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンテナ船等において、搭載しているコンテナが多数流出したり損傷するという事故が多発しており、その原因の一つがパラメトリック横揺れと呼ばれる横揺れの発生であると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
パラメトリック横揺れは、横揺れ運動方程式中のパラメータである復原力係数が時間とともに変化することにより引き起こされる横揺れである。復原力係数が時間とともに変化する主な要因は、縦波中又は横波中において相対水位変化により水線面積2次モーメントが増減することにある。
【0004】
該パラメトリック横揺れは、船首尾(船首及び船尾)のフレアーなど舷側勾配の変化が長手方向に変化する一般船舶においては、縦波中で出現しやすい。とりわけ、搭載コンテナ数を最大限に増やすため、著しい船首フレアー及び極端なトランサムスターンをもつ最近のコンテナ船ではこの傾向が顕著である。
【0005】
このような船型の変化に伴って、パラメトリック横揺れの発生の可能性が増え、それによって受ける影響も大きくなっている。
【0006】
【非特許文献1】梅田 直哉、外1名、「第3−2章 パラメトリック横揺れ」、日本造船学会・試験水槽委員会シンポジュウム、平成15年12月、p.217−236
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、コンテナ等の貨物積載量の増大を優先する貨物船にとって、船首フレアーが大きく、且つ、トランサムスターンの張出しが大きく、甲板貨物積載量を大きく取れる近年の船型は、多大な海上物流を効率良く行うために必要である。すなわち、パラメトリック横揺れが発生することに対処するため、船首尾にフレアーが無く甲板貨物の積載効率が悪い過去の船型を採用することは、時代の要求に逆行し、現実的な解決策ではない。そこで、船首フレアー及びトランサムスターンの張出しを大きいまま残し、貨物の積載量を減少させずにパラメトリック横揺れの発生を防止可能な船体形状の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、船舶のパラメトリック横揺れを的確に防止することができる船体形状を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、パラメトリック横揺れは、復原力が時間とともに変化することにより引き起こされる横揺れであり、復原力が時間とともに変化する主な要因は、縦波中において相対水位変化により水線面積2次モーメントが増減することであり、相対水位変化により発生する水線面積2次モーメントの増減を一定以下に抑えれば、パラメトリック横揺れを的確に防止することができるという観点に立っている。
【0010】
すなわち、本発明は、前記の課題を解決するために、以下の特徴を有する。
[1]船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部付近において、計画満載喫水線よりも上部の船幅が船体幅方向に広がっていることを特徴とする船体形状。
[2]船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部の前後において、前記垂線間長さLの約1/2の長さにわたり、計画満載喫水線よりも上部の船幅が船体幅方向に広がっていることを特徴とする船体形状。
[3]船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部付近において、計画満載喫水線よりも上部の船側外板またはその外方に付加物が設けられていることを特徴とする船体形状。
[4]船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部の前後において、前記垂線間長さLの約1/2の長さにわたり、計画満載喫水線よりも上部の船側外板またはその外方に付加物が設けられていることを特徴とする船体形状。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、パラメトリック横揺れは、相対水位変化、つまり、ホギング状態とサギング状態とにおける水線面積2次モーメント(復原力GMと関連する)の増減が、時間とともに繰り返し変化することにより引き起こされるとの考えに基づいている。すなわち、ホギング状態の水面状態においては、水線面積及び水線面積2次モーメントが増加するような船体形状としている、もしくは、船体に付加物を取付けている。また、サギング状態の水面状態においては、当該部位が水面下に水没しないような形状としてあるので、水線面積及び水線面積2次モーメントが増加しない。このような構成により相対水位変化を生じた場合であっても、ホギング状態とサギング状態とにおける水線面積2次モーメントの値の差が減少するので、復原力の変化も小さくなり、パラメトリック横揺れを的確に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
船舶が該船舶の垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、波面における船体中心線に対する水線面積2次モーメント(以下、水線面積二次モーメントという。)が変化増減する。これは図1に示すごとく、船舶の船首尾形状の変化と相対水面の変化とにより発生するものである。つまり、波の山が船体中央部に位置するホギング状態の場合、波の谷が船首尾部に位置し、平坦な水面状態の場合の水線面積2次モーメントに比べて、ホギング状態の水線面積2次モーメントは減少する。一方、船首フレアーを大きくし、大きなトランサムスターンを有し、貨物積載量を大きくした近年の船体形状においては、波の谷が船体中央部に位置するサギング状態の場合、波の山が船首尾部に位置し、大きな船首フレアー及び大きなトランサムスターンが没水するため、平坦な水面状態の場合の水線面積2次モーメントに比べてサギング状態の水線面積2次モーメントは増加する。
【0013】
パラメトリック横揺れが発生する限界となる、この水線面積2次モーメントの増減量については、運動方程式の解の存在条件から、メタセンタと重心との距離GMと、船体排水容積と、横揺れ減衰のa係数との相乗積に1.273を乗じることで計算できる。ここで、横揺れ減衰のa係数とは、横揺れ減滅曲線における横揺れ角の一揺れ毎の減少量とそのときの平均横揺れ角との間の比例係数である。
【0014】
従って、ホギング状態とサギング状態との水線面積2次モーメントの変動片振幅をその値未満とすることによりパラメトリック横揺れの発生が防止可能となる。
【0015】
そこで、以下に述べる本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態においては、ホギング状態とサギング状態との水線面積2次モーメントの変動片振幅が、例えば、メタセンタと重心との距離GMと、船体排水容積と、横揺れ減衰のa係数との相乗積に1.273を乗じた値未満となるように、すなわち、ホギング状態とサギング状態との水線面積2次モーメントの変動片振幅<(メタセンタと重心との距離GM×船体排水容積×横揺れ減衰のa係数×1.273)となるように、ホギング状態における水線面積2次モーメントの値を増加させることにより、パラメトリック横揺れの発生を防止している。
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を、図1、図2.a〜c、図3を参照して説明する。図1は、本発明実施前の従来型船舶、すなわち、船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化によりホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶の船体1と、ホギング状態水位3における水線面積5及びサギング状態水位4における水線面積6を、船体の側面図及び平面図によって示す説明図である。図2.aは、第1の実施形態に係る船体側面図、図2.bは、図1に示す従来型船舶の中央部の横断面図、図2.cは、第1の実施形態に係る船舶の中央部の横断面図である。
【0017】
図2.a、cにおいて、船体11は、図1に示す船体1と同じ船体形状を有し、ただし、垂線間長さLを有する船体11は、船体中央部(船体中央線)7の前後において、垂線間長さLの約1/2の長さ(L/2)にわたり、計画満載喫水線より上部の船幅を船体幅方向に広げた部分W(以下、拡幅部Wという)を含んでいる。図3は、船舶の垂線間長さLと同一長さの波長L、波高がL/20の波によるホギング状態水位3における水線面積51を示す平面図である。図3において斜線部5Wは、ホギング状態の場合において拡幅部Wによって水線面積が増加した部分である。
【0018】
この実施形態に係る拡幅部Wの設定方法は、先ず図1に示す水線面積5及び水線面積6からそれぞれの水線面積2次モーメントの値を求める。次にパラメトリック横揺れを生じないために必要な、ホギング状態とサギング状態との間での水線面積2次モーメントの差が、例えば、メタセンタと重心との距離GMと、船体排水容積と、横揺れ減衰のa係数との相乗積に1.273を乗じた値として算出可能となる。算出した値(ホギング状態とサギング状態との間での水線面積2次モーメントの差)から、船体中央部7の前後において、ホギング状態において水線面下に没する拡幅部の長さを求めると共に、拡幅部Wの幅を決定する。
【0019】
なお、拡幅部Wの長さについては、船長(垂線間長さ)L=1波長、を前提にしているので、拡幅部Wの長さ=L/2が最も効果的である。
【0020】
また、拡幅部Wを計画満載喫水線より上部に配置するのは、船舶の通常の航行中に抵抗にならないようにするためである。
【0021】
このようにして、船体中央部7の前後において約L/2の長さにわたり計画満載喫水線2より上部の船幅を広げ(拡幅部W)、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値とサギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値との差を一定値以下に抑えることにより、パラメトリック横揺れの発生が防止される。
【0022】
なお、拡幅部Wの決定方法に関する上記事項は、後述する付加物Fにも同様に適用される。
【0023】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を、図1、図4.a〜c、図5を参照して説明する。図4.aは、第2の実施形態に係る船体側面図、図4.bは、図1に示す従来型船舶の中央部の横断面図、図4.cは、第2の実施形態に係る船舶の中央部の横断面図である。
【0024】
図4.a、cにおいて、船体12は、図1に示す船体1と同じ船体形状を有し、ただし、垂線間長さLを有する船体12には、船体中央部の前後において、垂線間長さLの約1/2の長さ(L/2)にわたり、計画満載喫水線より上部の船幅を広げるための付加物F(以下、付加物Fという)が船側外板またはその外方に設置されている。図5は、船舶の垂線間長さLと同一長さの波長L、波高がL/20の波によるホギング状態水位3における水線面積52を示す平面図である。図5において斜線部5Fはホギング状態の場合において付加物Fによって水線面積が増加した部分である。
【0025】
この実施形態に係る付加物Fの設定方法は、先ず図1に示す水線面積5及び水線面積6からそれぞれの水線面積2次モーメントの値を求める。次にパラメトリック横揺れを生じないために必要なホギング状態とサギング状態との間での水線面積2次モーメントの差が、例えば、メタセンタと重心との距離GMと、船体排水容積と、横揺れ減衰のa係数との相乗積に1.273を乗じた値として算出可能となる。算出した値(ホギング状態とサギング状態との間での水線面積2次モーメントの差)から、船体中央部7の前後において付加物Fの長さを約L/2に設定し、そして、ホギング状態において水面下に没する付加物Fの幅を決定する。
【0026】
このようにして、船体中央部7の前後において約L/2の長さにわたり計画満載喫水線2より上部の船側外板またはその外方に付加物Fを設置し、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値とサギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値との差を一定値以下に抑えることにより、パラメトリック横揺れの発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明実施前の従来型船舶のホギング状態水位及びサギング状態水位における水線面積を船体の側面図及び平面図によって示す説明図である。
【図2.a】本発明の第1の実施形態に係る船体形状を示す側面図である。
【図2.b】従来型船舶の船体中央部の横断面図である。
【図2.c】本発明の第1の実施形態に係る船体形状を示す船体中央部の横断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るホギング状態の水線面積を示す平面図である。
【図4.a】本発明の第2の実施形態に係る船体形状を示す側面図である。
【図4.b】従来型船舶の船体中央部の横断面図である。
【図4.c】本発明の第2の実施形態に係る船体形状を示す船体中央部の横断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態におけるホギング状態の水線面積を示す平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 船体
2 計画満載喫水線
3 ホギング状態水位
4 サギング状態水位
5 ホギング状態の水線面積
6 サギング状態の水線面積
7 船体中央部
11 拡幅部を含む船体
W 拡幅部
51 ホギング状態にける拡幅部Wを含む水線面積
5W ホギング状態において拡幅部Wによって水線面積が増加した部分
12 付加物が設置された船体
F 付加物
52 ホギング状態にける付加物Fを含む水線面積
5F ホギング状態において付加物Fによって水線面積が増加した部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部付近において、計画満載喫水線よりも上部の船幅が船体幅方向に広がっていることを特徴とする船体形状。
【請求項2】
船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部の前後において、前記垂線間長さLの約1/2の長さにわたり、計画満載喫水線よりも上部の船幅が船体幅方向に広がっていることを特徴とする船体形状。
【請求項3】
船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部付近において、計画満載喫水線よりも上部の船側外板またはその外方に付加物が設けられていることを特徴とする船体形状。
【請求項4】
船舶が垂線間長さLとほぼ同等の波長を有する波浪中を航行する場合、ホギング状態とサギング状態との相対水面変化により、ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントが、サギング状態の波面における水線面積2次モーメントに比べ大きく減少するような船体形状を有する船舶において、前記ホギング状態の波面における水線面積2次モーメントの値を増大するために、船体中央部の前後において、前記垂線間長さLの約1/2の長さにわたり、計画満載喫水線よりも上部の船側外板またはその外方に付加物が設けられていることを特徴とする船体形状。

【図1】
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【図2.a】
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【図2.b】
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【図2.c】
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【図3】
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【図4.a】
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【図4.b】
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【図4.c】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−69355(P2006−69355A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254751(P2004−254751)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(591079188)JFEソルデック株式会社 (9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)