説明

船体構造の保守管理システム及び保守管理プログラム

【課題】 疲労亀裂進展解析の自動化及びその解析結果に基づく余寿命判定の自動化を図り、効率的な構造疲労寿命管理が可能な船体構造の保守管理システム及び保守管理プログラムを提供する。
【解決手段】 各種画面を表示する表示装置102と、実航海中に船舶上でモニタリング取得された実遭遇海象データを衛星通信を介して受信する通信装置101と、受信した実遭遇海象データを記憶するとともに、船舶の複数の所定の構造部位それぞれの疲労強度データと、船舶が将来遭遇する予測短期海象モデルデータとを予め記憶する記憶装置104と、記憶装置104内の各データに基づいて疲労亀裂進展解析を行い、各構造部位それぞれの亀裂進展量を推定し、各構造部位それぞれの余寿命を推定する余寿命評価手段105bと、余寿命評価結果を含む診断カルテ画面230を作成して表示装置102に表示させる表示制御手段105cとを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
船体構造の余寿命評価による保守管理に関する装置のシステム化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、船体構造の疲労(亀裂)損傷撲滅を目的として特定の航路に就航する個々の船舶が遭遇する海象の相違を定量的に予測・追跡し、また、疲労亀裂の成長(伝播)履歴を逐次シミュレートする手法について提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】(社)日本造船研究協会「二重船殻タンカーの船体構造寿命に関する研究 成果報告書」、平成15年3月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記先行技術文献では、解析手法について提案されているものの、疲労亀裂進展解析を自動的に行う装置の開発には至っていないのが現状である。
【0004】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、疲労亀裂進展解析の自動化及びその解析結果に基づく余寿命判定の自動化を図り、効率的な構造疲労寿命管理が可能な船体構造の保守管理システム及び保守管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る船体構造の保守管理システムは、各種画面を表示する表示装置と、実航海中に船舶上でモニタリング取得された実遭遇海象データを衛星通信を介して受信する通信装置と、受信した実遭遇海象データを記憶するとともに、船舶の複数の所定の構造部位それぞれの疲労強度データと、船舶が将来遭遇する予測短期海象モデルデータとを予め記憶する記憶装置と、記憶装置内の各データに基づいて疲労亀裂進展解析を行い、各構造部位それぞれの亀裂進展量を推定し、各構造部位それぞれの余寿命を推定する余寿命評価手段と、余寿命評価結果を含む診断カルテ画面を作成して表示装置に表示させる表示制御手段とを備えたものである。
【0006】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、記憶装置が、予測短期海象モデルデータを、船舶に与える影響に応じて複数パターン記憶しており、その複数パターンの予測短期海象モデルデータの中から何れか一つまたは二以上のパターンを選択設定する設定手段を備え、余寿命評価手段は、設定手段で設定されたパターンの予測短期海象モデルデータを用いて疲労亀裂進展解析を行うものである。
【0007】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、予測短期海象モデルデータが、船舶の航路に応じて予め作成された複数の短期海象データを所定の順序で並べたものであり、複数のパターンは、最悪/平均/最良の3パターンで構成され、最悪遭遇短期海象パターンは、各短期海象データを波高の大きい順、波高が同じ場合には波角度順に並べた順とし、最良遭遇短期海象パターンは、最悪遭遇短期海象の逆とし、平均遭遇短期海象パターンは、複数の短期海象データをランダムに並べた順であるものである。
【0008】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、余寿命評価手段が、予め設定された検査時期毎の亀裂進展量を各構造部位それぞれについて推定し、表示制御手段は、その推定結果を疲労亀裂進展解析結果として診断カルテ画面に表示するものである。
【0009】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、表示制御手段が、各構造部位それぞれの亀裂進展解析結果を、亀裂進展量が板厚に達するのが早い順番に並べて表示するものである。
【0010】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、余寿命評価手段が、各検査時期のうち、構造部位が使用限界状態に達する検査時期を、推定した亀裂進展量と板厚との関係から判定するとともに、使用限界状態に達する前に実施しておくべき検査方法を判定する判定手段を更に備え、表示制御手段は、判定結果を診断カルテ画面に表示するものである。
【0011】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、判定手段が、亀裂進展量の板厚に対する割合が所定の割合を超える場合又は亀裂進展量が板厚を超える場合に、使用限界状態に達すると判定するものである。
【0012】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、表示制御手段が、診断カルテ画面上に、少なくとも現在から将来の亀裂進展量の推移をグラフ化して表示するものである。
【0013】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、通信装置が、船舶から定期的に実遭遇海象データを受信しており、表示制御手段は、診断カルテ画面の表示を余寿命評価手段の余寿命評価結果に基づいて逐次更新するものである。
【0014】
また、本発明に係る船体構造の保守管理システムは、記憶装置が、点検履歴情報及び損傷履歴情報を更に記憶しており、表示制御手段は、表示要求に応じて診断カルテ画面に、点検履歴情報に基づく点検履歴画面又は損傷履歴情報に基づく損傷履歴画面を表示するものである。
【0015】
また、本発明に係る保守管理プログラムは、コンピュータを、上記の何れかの船体構造の保守管理システムの各手段として機能させるための保守管理プログラム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、将来の予測亀裂進展量を自動的に推定して診断カルテとして表示し、余寿命判定の自動化を図ることが可能となり、効率的な構造疲労寿命管理が可能な船体構造の保守管理システムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態の船体構造の保守管理システムを示す図である。
船舶には、高度モニタリングシステム10が搭載されており、その高度モニタリングシステム10により、船舶が実際に遭遇した実遭遇海象データ(波高、波周期、波角度等)の計測が行われている。また、高度モニタリングシステム10では、船舶の航海情報/性能情報/主機情報/船上点検データ(船員によって船上で適宜行われる点検結果のデータ)を記憶管理しており、これらの各種データが衛星通信を介して船体構造の保守管理システム100に定期的に送信されるようになっている。
【0018】
船体構造の保守管理システム100は、船舶の航行を管理する例えば陸上センターに設置されるシステムで、船舶から衛星通信を介して送信されてくる各種情報を受信する通信装置101と、各種表示を行う表示装置102と、各種入力を行うための入力装置103と、記憶装置104と、船体構造の保守管理システム100を統括して制御する制御装置105とを備えている。
【0019】
記憶装置104には、統合データベース104aと、保守管理データベース104bと、本発明に係る処理を行うための保守管理プログラム104cとが記憶されている。統合データベース104aには、船舶から衛星を介して取得した各種データが格納されている。また、保守管理データベース104bには、船舶の各重要構造部位それぞれの疲労強度データと、後述の疲労亀裂進展解析処理の際に必要な将来予測短期海象モデルデータとが予め格納されているとともに、点検履歴情報、損傷履歴情報、余寿命評価結果(疲労亀裂進展解析結果を含む)及び点検マニュアルが格納されている。なお、保守管理データベース104b内の点検履歴情報及び損傷履歴情報は、船舶から送信されて統合データベース104aに特定の形式で格納されたものが、保守管理システム100内で処理しやすいデータ形式に定期的に変換されて格納されたものである。
【0020】
なお、重要構造部位とは、船舶の設計段階における疲労強度条件(主として想定就航航路に依存)と、疲労寿命予測結果及び疲労強度に影響する建造時工作精度情報とを基にして、船舶のクリティカル構造部位として抽出された部位である。
【0021】
制御装置105は、記憶装置104に記憶された保守管理プログラム104cに従って動作する手段で、予測短期海象パターン設定手段105aと、余寿命評価手段105bと、表示制御手段105cとを備えている。予測短期海象パターン設定手段105aは、予め用意された複数パターンの予測短期海象モデルデータの中から、入力装置103からの入力に応じて何れか一つまたは二以上のパターンを選択して設定するものである。余寿命評価手段105bは、船舶から定期的に送信されて統合データベース104aに格納された最新の実遭遇短期海象データと、船舶の重要構造部位の疲労強度データと、予測短期海象パターン設定手段105aで設定されたパターンの予測短期海象モデルデータとに基づいて疲労亀裂進展解析を行い、船の一生(20年と仮定)にわたる各重要構造部位それぞれの亀裂進展量を推定し、その亀裂進展量が板厚に達するまでの余寿命を評価するものである。余寿命評価手段105bは、このようにして推定した各重要構造部位それぞれの亀裂進展量の推定結果を疲労亀裂進展解析結果として保守管理データベース104bに記憶させる処理を行う。なお、余寿命評価手段105bは、予測短期海象パターン設定手段105aで二以上のパターンが選択設定された場合、そのそれぞれのパターンを用いて疲労亀裂進展解析を行い、それぞれの疲労亀裂進展解析結果を保守管理データベース104bに記憶させるようにしている。
【0022】
この疲労亀裂進展解析に際して用いる短期海象データは、0年(航行開始)から現在までに関しては実遭遇短期海象データを用い、現在から将来(航行後20年まで)に関しては予測短期海象パターン設定手段105aで設定された予測短期海象モデルデータを用いる。この疲労亀裂進展解析は、製造時点における潜在的で検知/完全除去が不可能な微細きず(初期亀裂)を想定し、その微細亀裂が応力(遭遇海象による応力)の繰り返しによって成長伝播していく状態を刻々シミュレーションすることにより将来の亀裂進展量の推定するもので、各重要構造部位それぞれの疲労強度データ、工作情報(フランク角、止端半径)及び予測短期海象モデルデータ等を用いて演算処理するものである。この手法は、従来公知の手法を用いて行うものとし、詳細説明はここでは省略する。また、余寿命評価手段105bは、統合データベース104aに格納された最新の実遭遇海象データを用いて定期的に疲労亀裂進展解析を行っており、保守管理データベース104b内の余寿命評価結果を逐次更新している。
【0023】
ここで、現在から将来(航行後20年まで)の疲労亀裂進展解析を行うに際しての始点の亀裂進展量には、実際の実遭遇短期海象データを用いた亀裂進展解析による亀裂進展量を用いている。また、上述したように最新の実遭遇海象データを用いて定期的に疲労亀裂進展解析を行うようにしているため、運行開始から現在までの亀裂進展状況を反映した精度の高い亀裂進展推定を行うことが可能となっている。
【0024】
ところで、船舶が遭遇する海象による荷重とその荷重によって受けるダメージは、本来、航路次第の面がある。つまり、航路毎にその航路で発生する海象が異なる傾向があるため、その航路で発生する海象に応じて船舶が受けるダメージも異なってくる。このことから、重要構造部位の疲労亀裂進展解析を行うに際し、本例では、船舶が実際に航行する航路に対応した予測短期海象モデルデータ(将来の想定航路の短期海象データ群)を用いて解析を行うようにしている。航路に対応した予測短期海象モデルデータは、その航路に発生した過去の海象に関する統計データに基づき生成された短期海象データ群で構成され、公知の技術より求められるものである。
【0025】
また、疲労亀裂伝播の観点からすると、海象が船舶に与える影響は、その船舶への遭遇順序によっても異なることが知られている。すなわち、遭遇する短期海象の順番によって疲労亀裂の進展速度が変わってくる。このことから、予測短期海象モデルデータでは、前記短期海象データ群の各々の順序が定められており、本例では、その順序に応じて3パターン設けている。その3パターンは、具体的には船舶に与える影響に応じて最悪/平均/最良の3パターンとしており、最悪遭遇短期海象は、各短期海象データを波高の大きい順、波高が同じ場合には波角度順に並べた順とし、最良遭遇短期海象は、最悪遭遇短期海象の逆とし、平均遭遇短期海象は、短期海象データ群をランダムに並べた順としている。
【0026】
表示制御手段105cは、保守管理データベース104b内の余寿命評価結果や履歴情報に基づいて後述の図2〜図6に示すような各種画面を作成し、表示装置102に表示させる。ここで、保守管理データベース104b内の余寿命評価結果は上述したように逐次更新されているため、図2〜図6に示す各種画面も逐次更新されるようになっている。
【0027】
以下、船体構造の保守管理システム100の動作について説明する。
まず、入力装置103を操作して保守管理プログラム104cを起動するとともに、診断カルテの表示指示入力を行う。すると、表示制御手段105cは記憶装置104内のデータに基づいて保守管理画面200を作成し表示装置102上に表示させる。
【0028】
図2は、保守管理画面の一例を示す図である。
保守管理画面200は、画面選択部210と、画面表示部220とから構成されている。画面選択部210には、診断カルテ画面を表示させるための診断カルテ表示ボタン211、診断結果画面240を表示させるための診断結果画面表示ボタン212、点検履歴画面を表示させるための点検履歴画面表示ボタン213、損傷履歴画面を表示させるための損傷履歴画面表示ボタン214が設けられている。画面表示部220は、画面選択部210で選択された画面が表示される部分で、図2には診断カルテ画面230が表示された状態を示している。
【0029】
診断カルテ画面230は、船舶の設計寸法等の基本情報が表示される基本情報表示部231と、航行開始からの経過年、過去の定期点検日の履歴や航行開始から現在まで受けた損傷の確認日の履歴等が表示される履歴表示部232と、疲労亀裂伝播解析の解析結果及び解析結果に基づくコメントが表示される診断結果表示部233とから構成されている。
【0030】
なお、履歴表示部232の定期点検結果テーブル232a及び診断結果表示部233の診断結果テーブル233aにおける「#1 INT.」は、船級協会が実施する就航後1回目の中間検査(約2.5年毎に実施)を示しており、「#2 INT.」,「#3 INT.」は2回目、3回目の中間検査を示している。また、「#1 SPE.」は、就航後1回目の本検査(約5年毎に実施)を示しており、同様に「#2 SPE.」,「#3 SPE.」は2回目、3回目の本検査を示している。図2の例では、1回目の中間検査を1997年3月31日に実施したことが示されている。
【0031】
診断結果表示部233には、疲労亀裂伝播解析概要として、重要構造部位(CHECK PARTS)毎に、板厚と、各検査時期毎の亀裂進展量(深さ方向/幅方向)とを一覧表示する診断結果テーブル233aが表示されている。この診断結果テーブル233aにより、ユーザは、今後の各検査時期において亀裂がどの程度進展しているのかを知ることができる。また、診断結果テーブル233aでは、板厚に対する亀裂進展量の割合が所定の割合(ここでは1/3)を超える検査時期に対応するセル部分が、色を変える等して識別表示され、また、亀裂進展量が板厚を超える検査時期に対応するセル部分が、先の場合とはまた別の異なる色で表示されて識別表示されている。この表示により、ユーザは、疲労亀裂伝播が進んで使用限界状態に達すると推定される時期及び使用限界状態を超えて板厚を貫通すると推定される時期を一瞥して知ることが可能となっている。図2の例では、例えばBC_31の部位において「#3 INT」の検査時において使用限界状態に達し、「#4 INT」の検査時には使用限界を超えることが示されている。
【0032】
また、コメント部分には、各重要構造部位毎に重点的に検査が必要な時期と、そのときに推奨する検査方法とが表示される。この例では、1行目には、2回目の本検査(「#2 SPE」)時にBC_31の部位に関し、磁粉探傷検査を推奨することが示されており、2行目にはBC_12に関しては今後特に重点的な検査が必要ないことが示されている。
【0033】
上記の診断カルテ画面230の表示に際し、船体構造の保守管理システム100内で行われる処理は以下の通りである。
表示制御手段105cは、保守管理データベース104b内の点検履歴情報及び損傷履歴情報に基づいて履歴表示部232を構成する。また、保守管理データベース104b内に格納された疲労亀裂進展解析結果に基づいて診断結果表示部233を構成する。この際、表示制御手段105cは、各重要構造部位毎且つ各検査時期における深さ方向の亀裂進展量の板厚に対する割合が所定値(ここでは、1/3)を超える検査時期に対応するセルを例えば黄色で塗りつぶして識別表示し、深さ方向の亀裂進展量が板厚を超える検査時期に対応するセルを例えば赤色で塗りつぶして識別表示する。
【0034】
また、最終検査時期までの間に、深さ方向の亀裂進展量の板厚に対する割合が所定値(ここでは1/3)を超える重要構造部位に関しては、その所定値を超える時期の1つ前の検査時期を重点検査時期としてコメント部分に提示するとともに、その重点検査時期に実施するのに最適な検査方法を提示する。この最適な検査方法は、重要構造部位毎に最適な検査方法を予め記憶しておき、その中から該当の検査方法を選択して提示するものである。かかる処理によりコメント部分が構成される。
【0035】
ここで、診断結果テーブル233aに示されているように、今回の現時点(「#2 INT」引渡し後約7.5年)での疲労亀裂は深さ1.5mm、幅2.8mm程度であり板厚貫通までにかなりの余裕がある。そして、次回の定期点検時(「#2 SPE」)の予測結果は、深さ3.0mm、幅5.6mm程度でこの時点でもまだ余裕がある。したがって、今回の検査では詳細な点検を実施する必要はないと思われる。一方、3回目の本検査(「#3 SPE」)が行われる時点で推定される深さ方向の亀裂は6mmであり、板厚(18mm)の1/3に達している。更に次の4回目の中間検査(「#4 INT」)の際には板厚の半分を超え、4回目の本検査(「#4 SPE」)の際には板厚を超える。この結果から、3回目の本検査(「#3 SPE」)の際に、仮にこの疲労亀裂を発見できずにそのままにしていた場合、亀裂進展速度が非常に速くなることが分かる。よって、本例では、深さ方向の亀裂進展量が板厚の1/3に達する1つ前の検査時期を重点検査時期と判断し、上述したようにコメント部分に提示してユーザに通知するようにしている。これにより、将来、板厚貫通という重大な事態を引き起こす亀裂を未然に発見することが可能となる。
【0036】
なお、表示制御手段105cは、診断カルテ画面230の表示中は保守管理データベース104b内の最新のデータに基づいて定期的に診断カルテ画面230を更新しており、最新の診断結果が表示されるようになっている。
【0037】
そして、保守管理画面200において、診断結果画面表示ボタン212が押下されると、画面表示部220の表示が、次の図3に示すような診断結果画面240に切り替わる。診断結果画面240は、診断カルテ画面230のうち診断結果表示部233に表示されている内容を更に詳細表示した画面であり、図2に示した診断結果テーブル233aと同様の内容の診断結果テーブル241と、図2のコメント部分に記載の内容を示す検査提案テーブル242とが表示される。これらの各テーブル233a,241においては、診断結果が危険な順(より早く板厚貫通に達する順番)に上から表示される。これにより、ユーザは、危険な構造部位を一瞥して知ることが可能となる。また、診断結果画面240には更に、各重要構造部位の識別子(BC_31等)とその図面上の位置とを図示した重要構造部位説明図243が表示される。かかる構成の診断結果画面240における、診断結果テーブル233a及び検査提案テーブル242において、所定の重要構造部位がマウスなどによりクリックされると、新たに次の図4に示すような部位詳細画面250が診断結果画面240に重ねて表示される。
【0038】
図4は、部位詳細画面を示す図である。ここでは、重要構造部位(BC_31)の部位詳細画面250を示している。
部位詳細画面250には、選択された重要構造部位に関する診断結果をまとめた部位別診断結果テーブル251が表示され、その下には亀裂進展量の推移を示すグラフ(疲労亀裂進展解析結果をグラフ化したもの)252が表示される。
【0039】
グラフ252は、横軸に船舶の船齢、縦軸に累積亀裂進展量を取って示したもので、図4には亀裂の深さ方向の進展曲線を示している。なお、幅方向の進展曲線も必要に応じて適宜表示可能となっている。図4中の実線で示す進展曲線のうち0年から現在までの間は実遭遇海象データに基づく進展曲線であり、現在から20年までの間は実遭遇海象データによって求められた現在の亀裂進展量の値を始点として、予測短期海象パターン設定手段105aで設定されたパターンの短期海象データ(すなわち現実のものではなく想定されたもの)を用いて求められた亀裂進展量に基づく進展曲線である。また、点線は、0年から20年までの全ライフサイクルにおいて、設計段階において想定された海象データを用いて解析した結果に基づくグラフである。すなわち、実際に遭遇した海象(実遭遇海象)が反映されておらず、あくまでも想定の海象データに基づく結果である。なお、ここでは、平均遭遇短期海象モデルデータを用いて解析した結果の例を示している。
【0040】
このグラフ252より、亀裂深さの結果では、引渡し後約4年までは実遭遇海象に基づく亀裂伝播解析結果と、設計時に推定した亀裂伝播解析結果とほぼ同一の結果となっている。しかし、就航後5年付近において大きな嵐に遭遇したことにより、設計時の推定結果に比べて亀裂進展速度が速くなり、引き渡し後約16年で板厚を貫通する予測結果となっている。
【0041】
また、保守管理画面200において、点検履歴画面表示ボタン213が押下されてユーザから点検履歴画面の表示要求があると、表示制御手段105cは、保守管理データベース104bから点検履歴情報を読み出して図5に示すような点検履歴画面213aを表示する。点検履歴画面には、検査履歴と船上点検結果が表示される。また、損傷履歴画面表示ボタン214が押下された場合には、同様に保守管理データベース104bから損傷履歴情報を読み出して図6に示すような損傷履歴画面214aを表示する。損傷履歴画面214aには、損傷部分の画像と図面とが表示される。
【0042】
このように本実施の形態によれば、将来の予測亀裂進展量を自動的に計算して診断カルテとして表示するので、診断カルテから余寿命を把握することが可能となる。また、就航中にモニタリングシステムによって船舶が遭遇した実遭遇海象データを用いて疲労亀裂進展解析を行うので、正確な解析結果を得ることができる。すなわち、例えば遭遇海象によって実際に損傷を受けた場合、その損傷を直ちに反映した正確な結果を知ることが可能となる。このように損傷を正確に把握することが可能となるため、事故を未然に防ぐことが可能となり、安全な運行管理が可能となる。
【0043】
また、予測短期海象モデルデータとして最悪/平均/最良の3パターンを用意しておき、任意に選択設定して疲労亀裂診断解析を行えるようにしたので、例えば、航行予定航路の気候状態に応じたパターンを選択して解析に用いることにより、現実に即した解析結果を得ることができる。なお、本例では、解析結果を表示するに際し、最悪/平均/最良の3パターンのうち何れか一つに基づく一つの解析結果を表示するようにしたが、例えば最悪パターンと最良パターンのそれぞれに基づく二つの解析結果を同時表示し、両結果の範囲内に入るような疲労損傷状態になる旨を提示するようにしてもよい。
【0044】
また、各構造部位の診断結果を危険な順(より早く板厚貫通に達する順番)に並べて表示するようにしたので、ユーザは、危険度の判断を直ちに行うことができる。
【0045】
また、亀裂進展量を推定するに際し、フランク角や溶接止端形状といった工作情報を加味しているので、余寿命評価を精度良く行え、信頼性の高いシステムを構築できるようになっている。
【0046】
また、船舶の検査履歴や損傷履歴、船上点検の結果を記載した文書は、従来、紙面の状態で管理されており、必要な情報を探す際に手間を要していたが、本例ではこれらの文書をデータベース化したので、効率良く検索して表示させることが可能となる。
【0047】
また、航路に応じた運航実績を考慮した個別船舶の余寿命評価が可能となる。同型船であっても就航している航路によって疲労状態が異なるため、余寿命評価結果を考慮することによりきめの細かい運行管理が可能となる。
【0048】
また、運航実績を考慮し、さらに航路も考慮した余寿命評価を行うため、同型船であっても就航している航路によって疲労状態が異なることが反映された正確な余寿命評価が可能で、船舶毎にきめ細かな運行管理を実施できる。また、船舶に対して適切な点検時期が提示できるようになるため、コストメリットの高い点検が可能となる。
【0049】
また、亀裂が発見された場合、その亀裂が今後どのように成長していくかを本システム100を用いて解析することができるため(すなわち、その発見された亀裂量を初期亀裂量として疲労亀裂進展解析処理を行えば良い)、例えば10mmの亀裂が発見され、板厚を貫通するまであと10mmであるとした場合に、緊急に修理をする必要があるのか、次の点検まで放置しておいて大丈夫なのかの判断が可能となり、今後の運航管理を行う上で有効である。
【0050】
また、本システムは、上述したように実際の運航中の船舶を管理する用途に使用される以外に、以下のような船舶の設計を行う際の支援システムとして使用することもできる。
(1)工作情報(フランク角や止端半径)を考慮した疲労亀裂伝播解析を行うので、溶接部分に発生する溶接ビードの整形等の疲労強度向上策の効果が定量的に評価できるようになり、疲労強度の観点から、費用対効果の高い設計が可能となる。
(2)航路毎の余寿命評価が可能となるため、その評価結果を参考に、その航路を航行する上で最低限必要な安全性を備えた設計を行うなど、コストと安全性との兼ね合いから建造船舶の合理的な仕様を設定可能となり、合理的でコスト競争力のある船舶の仕様の設定の支援が可能となる。
(3)現状では、疲労強度の観点から個別船舶の航路を特定して疲労設計を行うことは、まだ受け入れられる状況にない。しかし、航路毎の疲労寿命が推定できるため、航路に関する一般化された疲労設計条件を満足した船舶が、特定の航路を航行した際の疲労強度上の余裕を客観的に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態の船体構造の保守管理システムを示す図である。
【図2】保守管理画面の一例を示す図である。
【図3】診断結果画面の一例を示す図である。
【図4】部位詳細画面の一例を示す図である。
【図5】点検履歴画面の一例を示す図である。
【図6】損傷履歴画面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
100 保守管理システム
101 通信装置
102 表示装置
103 入力装置
104 記憶装置
104c 保守管理プログラム
105 制御装置
105a 予測短期海象パターン設定手段
105b 余寿命評価手段
105c 表示制御手段
200 保守管理画面
213a 点検履歴画面
214a 損傷履歴画面
230 診断カルテ画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種画面を表示する表示装置と、
実航海中に船舶上でモニタリング取得された実遭遇海象データを衛星通信を介して受信する通信装置と、
前記受信した実遭遇海象データを記憶するとともに、前記船舶の複数の所定の構造部位それぞれの疲労強度データと、前記船舶が将来遭遇する予測短期海象モデルデータとを予め記憶する記憶装置と、
前記記憶装置内の各データに基づいて疲労亀裂進展解析を行い、前記各構造部位それぞれの亀裂進展量を推定し、各構造部位それぞれの余寿命を推定する余寿命評価手段と、
前記余寿命評価結果を含む診断カルテ画面を作成して前記表示装置に表示させる表示制御手段と、
を備えたことを特徴とする船体構造の保守管理システム。
【請求項2】
前記記憶装置は、前記予測短期海象モデルデータを、船舶に与える影響に応じて複数パターン記憶しており、その複数パターンの予測短期海象モデルデータの中から何れか一つまたは二以上のパターンを選択設定する設定手段を備え、前記余寿命評価手段は、前記設定手段で設定されたパターンの予測短期海象モデルデータを用いて疲労亀裂進展解析を行うことを特徴とする請求項1記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項3】
前記予測短期海象モデルデータは、前記船舶の航路に応じて予め作成された複数の短期海象データを所定の順序で並べたものであり、前記複数のパターンは、最悪/平均/最良の3パターンで構成され、最悪遭遇短期海象パターンは、前記各短期海象データを波高の大きい順、波高が同じ場合には波角度順に並べた順とし、最良遭遇短期海象パターンは、前記最悪遭遇短期海象の逆とし、平均遭遇短期海象パターンは、前記複数の短期海象データをランダムに並べた順であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項4】
前記余寿命評価手段は、予め設定された検査時期毎の亀裂進展量を各構造部位それぞれについて推定し、前記表示制御手段は、その推定結果を疲労亀裂進展解析結果として前記診断カルテ画面に表示することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項5】
前記表示制御手段は、各構造部位それぞれの亀裂進展解析結果を、亀裂進展量が板厚に達するのが早い順番に並べて表示することを特徴とする請求項4記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項6】
余寿命評価手段は、各検査時期のうち、構造部位が使用限界状態に達する検査時期を、前記推定した亀裂進展量と板厚との関係から判定するとともに、使用限界状態に達する前に実施しておくべき検査方法を判定する判定手段を更に備え、前記表示制御手段は、判定結果を前記診断カルテ画面に表示することを特徴とする請求項4又は請求項5記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項7】
前記判定手段は、亀裂進展量の板厚に対する割合が所定の割合を超える場合又は亀裂進展量が板厚を超える場合に、使用限界状態に達すると判定することを特徴とする請求項6記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項8】
前記表示制御手段は、前記診断カルテ画面上に、少なくとも現在から将来の亀裂進展量の推移をグラフ化して表示することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項9】
前記通信装置は、前記船舶から定期的に実遭遇海象データを受信しており、前記表示制御手段は、前記診断カルテ画面の表示を前記余寿命評価手段の余寿命評価結果に基づいて逐次更新することを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項10】
前記記憶装置は、点検履歴情報及び損傷履歴情報を更に記憶しており、前記表示制御手段は、表示要求に応じて前記診断カルテ画面に、点検履歴情報に基づく点検履歴画面又は前記損傷履歴情報に基づく損傷履歴画面を表示することを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れかに記載の船体構造の保守管理システム。
【請求項11】
コンピュータを、請求項1乃至請求項10の何れかに記載の船体構造の保守管理システムの前記各手段として機能させるための保守管理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−78376(P2007−78376A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263192(P2005−263192)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】