説明

船外機の冷却水路構造

【課題】一の水取入部と他の水取入部とを配置するに際してレイアウトの自由度を確保できるようにした船外機の冷却水路構造を提供する。
【解決手段】ロアユニットのケーシング19内でドライブシャフトとプロペラシャフトとをギアを介して接続した船外機において、ケーシング19の左右に設けられたメイン水取入部32Lと、メイン水取入部32Lで取り込んだ水を冷却水ポンプへと導く冷却水路33と、ケーシング19に前後方向に弾丸状を呈するように配置されたギアケース部20の尖端部の左右に配置されたサブ水取入部37Lとを備え、左側のサブ水取入部37Lを左側冷却水路38Lを介して左側のメイン水取入部32Lに連通し、右側のサブ水取入部を右側冷却水路を介して右側のメイン水取入部に連通する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機外部の水中から水を取り込むのに好適な船外機の冷却水路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機の冷却水路構造として、例えば特許文献1に開示された船外機では、ギアケースの側面に主吸水口が設けられ、主吸水口から主水路に水が導かれるようにしている。また、ギアケースのプロペラ上方に位置する部分に水溜め室を形成し、水溜め室から主水路にパイプを介して水が導かれるようにしている。これにより、主吸水口が水中の藻等によって閉塞された場合でも、エンジンを冷却するために主吸水口から取水される冷却水の取水量不足を補うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−55000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された船外機では、プロペラ上方の水溜め室から主水路に水を導くパイプを設置している。しかしながら、主給水口とは別の給水口をギアケースのプロペラ上方と異なる箇所に配置することを考えた場合、そこから主水路に水を導くパイプや水路を設置することがギアケースの構造上困難であることもありうる。
【0005】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、一の水取入部と他の水取入部とを配置するに際してレイアウトの自由度を確保できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の船外機の冷却水路構造は、下部ケーシング内でドライブシャフトとプロペラシャフトとをギアを介して接続した船外機の冷却水路構造であって、前記下部ケーシングの左右に設けられた第1の水取入部と、前記第1の水取入部で取り込んだ水を冷却水ポンプへと導く冷却水路と、前記下部ケーシングに設けられ、前記第1の水取入部よりも前方に配置された第2の水取入部と、前記第2の水取入部を前記左側の第1の水取入部に連通する左側冷却水路、及び前記第2の水取入部を前記右側の第1の水取入部に連通する右側冷却水路とを備えたことを特徴とする。
また、本発明の船外機の冷却水路構造の他の特徴とするところは、前記下部ケーシングは、前後方向に弾丸状を呈するように配置されたギアケース部を有し、前記第2の水取入部は、前記ギアケース部の尖端部に配置される点にある。
また、本発明の船外機の冷却水路構造の他の特徴とするところは、前記第2の水取入部は、前記ギアケース部の尖端部の左右に配置され、前記左側の第2の水取入部を前記左側冷却水路を介して前記左側の第1の水取入部に連通し、前記右側の第2の水取入部を前記右側冷却水路を介して前記右側の第1の水取入部に連通する点にある。
また、本発明の船外機の冷却水路構造の他の特徴とするところは、前記第1の水取入部は、前記ギアケース部の側面であって、前記ギアケース部内の前記ギアを収容する収容室よりも上方に配置される点にある。
また、本発明の船外機の冷却水路構造の他の特徴とするところは、前記左側冷却水路及び前記右側冷却水路は、側面視において前記ギアケース部内の前記収容室とオーバーラップする点にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2の水取入部が左側冷却水路を介して左側の第1の水取入部に直列につながり、また、第2の水取入部が右側冷却水路を介して右側の第1の水取入部に直列につながる構成としたので、第1の水取入部と第2の水取入部とを配置するに際してレイアウトの自由度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る船外機の左側面の一部断面図である。
【図2】実施形態に係る船外機のロアユニットを前方から見た図である。
【図3】メイン水取入部の構成を示す斜視図である。
【図4】メイン水取入部、サブ水取入部及びそれらをつなぐ冷却水路の位置関係を説明するための図である。
【図5】図4のV-V線の位置での断面図である。
【図6】図4のVI-VI線の位置での断面図である。
【図7】船外機を揺動させたときの作用を説明するための図である。
【図8】他の実施形態に係る船外機のロアユニットを前方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る船外機10の左側面の一部断面図である。本願において前後左右の方向は、船外機を船体に装着した状態での方向をいうものとし、必要に応じて船外機10の前方を矢印Frにより、後方を矢印Rrにより示す。
【0010】
船外機10の全体構成において、上部から下部へエンジンユニット11、ミッドユニット12及びロアユニット13が順に配置構成される。
【0011】
エンジンユニット11において、ケーシング14内には、クランクシャフトが鉛直方向を向くように縦置きにエンジン15が搭載支持される。エンジン15としては、例えばV型多気筒エンジンが採用可能である。
【0012】
ミッドユニット12において、ケーシング16内には、エンジン15のクランクシャフトに連結するドライブシャフト17が上下方向に貫通配置され、このドライブシャフト17の駆動力が、ロアユニット13内のギア22を介してプロペラシャフト18に伝達されるようになっている。また、ミッドユニット12には、エンジンユニット11を潤滑するためのオイルを貯留するオイルパンが配設される。
【0013】
ロアユニット13において、ケーシング19は、前後方向に弾丸状を呈するように配置されたギアケース部20を有し、このギアケース部20内の収容室20aにプロペラシャフト18及びプロペラ21を回転駆動する複数のギア22等を収容する。ミッドユニット12から下方へ延出したドライブシャフト17はそれ自体に取り付けたギアが、収容室20a内のギア22と噛合することでプロペラシャフト18を回転させ、最終的にプロペラ21を回転させる。また、エンジン15側から上下に延伸する不図示の上部シフトロッドと、ギアケース部20の尖端部側に上下に挿通支持される下部シフトロッド23とからなるシフトロッドの作用で、ギアケース部20内のギア装置の動力伝達経路を切り換える、即ちシフトするようになっている。
【0014】
このようにした船外機10は、ブラケット24により左右に揺動可能に支持されるとともに船体の後尾板に固定され、チルト軸25のまわりに上下方向に回動可能とされる。
【0015】
以下、本実施形態に係る船外機10の冷却水路構造について説明する。
図2は、ロアユニット13を前方から見た図である。ロアユニット13のケーシング19は、本発明でいう下部ケーシングに相当するものであり、ミッドユニット12との合せ面付近にて上下に配置されたアンチスプラッシュプレート26及びアンチキャビテーションプレート27を有する。そして、下方へ延出した脚部28の下部には、前後方向に弾丸状を呈するように配置されたギアケース部20が設けられる。ギアケース部20内には、図5、図6にも示すように、プロペラシャフト18及びプロペラ21を回転駆動する複数のギア22等を収容する収容室20aが形成されている。
【0016】
図1に示すように、ロアユニット13のケーシング19の上面においてドライブシャフト17に軸着するかたちで冷却水ポンプ29が取り付けられる。冷却水ポンプ29は、ドライブシャフト17の回転により駆動して、船外機10外部の水中から水を取り込んで、エンジンユニット11側に冷却水を供給する。
【0017】
ここで、ケーシング19の左右であって、ギアケース部20が脚部28につながる位置にメイン水取入口30L、30Rが形成される。図3に示すように、メイン水取入口30L、30Rにはそれぞれカバー31L、31Rが被着する。カバー31L、31Rに多数形成された水取入穴にはフィルタが設けられ、異物等に対するフィルタ機能を有する。メイン水取入口30L、30Rは内側に凹むかたちに形成されており、カバー31L、31Rはそれぞれメイン水取入口30L、30Rを閉塞するように被着して、本発明でいう第1の水取入部に相当するメイン水取入部32L、32Rを構成する。すなわち、メイン水取入部32L、32Rは、カバー31L、31Rとメイン水取入口30L、30Rとが相まって、水を取り込む空間を形成するように構成される。
【0018】
本実施形態では、カバー31L、31Rをメイン水取入口30L、30Rに組み付けると、カバー31L、31Rに設けられたボス部34L、34Rが当接するようになっている。この状態で、不図示のボルトによりボス部34L、34Rを共締めすることにより、両カバー31L、31Rが固定される。
【0019】
メイン水取入部32L、32Rは、図1に示すように、側面視においてドライブシャフト17と下部シフトロッド23との間に配置される。ケーシング19内には、側面視においてドライブシャフト17と下部シフトロッド23との間に上下に延びる冷却水路33が形成されており、この冷却水路33によってメイン水取入部32L、32R及び冷却水ポンプ29間が接続される。
【0020】
また、ギアケース部20の尖端部の左右には、サブ水取入口35L、35Rが形成される。サブ水取入口35L、35Rも内側に凹むかたちに形成されており、そこに異物等に対するフィルタ機能を有するカバー36L、36Rが被着して、本発明でいう第2の水取入部に相当するサブ水取入部37L、37Rを構成する。すなわち、サブ水取入部37L、37Rは、カバー36L、36Rとサブ水取入口35L、35Rとが相まって、水を取り込む空間を形成するように構成される。
【0021】
そして、図3〜図5に示すように、ギアケース部20内の左側部には、左側のサブ水取入部37Lを左側のメイン水取入部32Lの空間に連通する左側冷却水路38Lが形成される。同様に、ギアケース部20内の右側部には、右側のサブ水取入部37Rを右側のメイン水取入部32Rの空間に連通する右側冷却水路38Rが形成される。メイン水取入部32L、32Rはギアケース部20の側面であって収容室20aよりも上方に配置される一方、サブ水取入部37L、37Rはギアケース部20の尖端部に配置されることから、各冷却水路38L、38Rは、側面視において後ろ上がりに形成されることになる。この場合に、側面視において左側冷却水路38L及び右側冷却水路38Rは収容室20aとオーバーラップすることになるが、収容室20aの左右を通るようにした独立の水路として、収容室20aと干渉するのを避けるようにしている。
【0022】
以上のようにした船外機の冷却水路構造では、船体走行時の水の流れに対して上流側にサブ水取入部37L、37Rが、下流側にメイン水取入部32L、32Rが位置する。そして、左側のサブ水取入部37Lが左側冷却水路38Lを介して左側のメイン水取入部32Lに直列につながり、また、右側のサブ水取入部37Rが右側冷却水路38Rを介して右側のメイン水取入部32Rに直列につながる。かかる構成により、ドライブシャフト17の回転により冷却水ポンプ29が駆動すると、メイン水取入部32L、32Rから水を取り込んで、冷却水路33を介してエンジンユニット11側に冷却水を供給することができる。また、サブ水取入部37L、37Rから水を取り込んで、冷却水路38L、38Rを介して室状のメイン水取入部32L、32Rに導入し、メイン水取入部32L、32Rで取り込んだ水と合流させて、冷却水路33を介してエンジンユニット11側に冷却水を供給することができる。
このように、左側のサブ水取入部37Lが左側冷却水路38Lを介して左側のメイン水取入部32Lに直列につながり、また、右側のサブ水取入部37Rが右側冷却水路38Rを介して右側のメイン水取入部32Rに直列につながる2系統とすることで、サブ水取入部37L、37Rから冷却水路33に直接水を導くパイプや水路を設置しなくてもよく、レイアウトの自由度を確保することができる。
【0023】
そして、冷却水路構造を2系統とすることで、給水異常に対して被害を最小限に抑えることができる。例えば図7に示すように、操舵に際して船外機10を左右いずれかに揺動させると、メイン水取入部32L、32Rのうち一方において水を取り込みにくくなる。図示例では水流(矢印Sを参照)に直面する左側のメイン水取入部32Lでは効率よく水を取り込むことができるが、水流に対して裏側に位置する右側のメイン水取入部32Rでは効率よく水を取り込むことができなくなる。この場合にもサブ水取入部37L、37Rから水を取り込むことができるので、水量不足を補うことができる。
また、例えば左側のメイン水取入部32L及びサブ水取入部37Rのうちいずれか一方において、水中の異物によりフィルタ詰まりを起こしたとしても、他方から水を取り込むことができるので、水量不足を補うことができる。右側のメイン水取入部32L及びサブ水取入部37Rについても同様である。
【0024】
また、ギアケース部20の尖端部にサブ水取入部37L、37Rを配置することにより、動圧により給水効率を高めることができる。特に高速域においては、ケーシング19の側面のメイン水取入部32L、32Rでは、剥離する水流に影響され給水効率が低下する。一方、高速域において、ギアケース部20の尖端部のサブ水取入部37L、37Rでは、動圧により給水効率はピークを迎えるので、高速域で給水効率が低下するのを避けることが可能になる。
【0025】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば上記実施形態では、ギアケース部20の尖端部の左右に相互に独立したサブ水取入部37L、37Rを構成するように説明したが、図8に示すように、ギアケース部20の尖端部に一つのサブ水取入部37を構成するようにしてもよい。この場合に、サブ水取入部37を左側のメイン水取入部32Lに連通する左側冷却水路38L、及びサブ水取入部37を右側のメイン水取入部32Rに連通する右側冷却水路38Rを形成することは上記実施形態と同様である。なお、ギアケース部20の尖端部に一つのサブ水取入部37を設ける場合、図8に示すように、サブ水取入部37がギアケース部20の尖端部の左右に跨ぐように配置するのが好適である。
【符号の説明】
【0026】
10:船外機、11:エンジンユニット、12:ミッドユニット、13:ロアユニット、17:ドライブシャフト、18:プロペラシャフト、19:ケーシング、20:ギアケース部、20a:収容室、22:ギア、29:冷却水ポンプ、30L、30R:メイン水取入口、31L、31R:カバー、32L、32R:メイン水取入部、33:冷却水路、35L、35R:サブ水取入口、36L、36R:カバー、37L、37R:サブ水取入部、38L、38R:冷却水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部ケーシング内でドライブシャフトとプロペラシャフトとをギアを介して接続した船外機の冷却水路構造であって、
前記下部ケーシングの左右に設けられた第1の水取入部と、
前記第1の水取入部で取り込んだ水を冷却水ポンプへと導く冷却水路と、
前記下部ケーシングに設けられ、前記第1の水取入部よりも前方に配置された第2の水取入部と、
前記第2の水取入部を前記左側の第1の水取入部に連通する左側冷却水路、及び前記第2の水取入部を前記右側の第1の水取入部に連通する右側冷却水路とを備えたことを特徴とする船外機の冷却水路構造。
【請求項2】
前記下部ケーシングは、前後方向に弾丸状を呈するように配置されたギアケース部を有し、
前記第2の水取入部は、前記ギアケース部の尖端部に配置されることを特徴とする請求項1に記載の船外機の冷却水路構造。
【請求項3】
前記第2の水取入部は、前記ギアケース部の尖端部の左右に配置され、前記左側の第2の水取入部を前記左側冷却水路を介して前記左側の第1の水取入部に連通し、前記右側の第2の水取入部を前記右側冷却水路を介して前記右側の第1の水取入部に連通することを特徴とする請求項2に記載の船外機の冷却水路構造。
【請求項4】
前記第1の水取入部は、前記ギアケース部の側面であって、前記ギアケース部内の前記ギアを収容する収容室よりも上方に配置されることを特徴とする請求項2又は3に記載の船外機の冷却水路構造。
【請求項5】
前記左側冷却水路及び前記右側冷却水路は、側面視において前記ギアケース部内の前記収容室とオーバーラップすることを特徴とする請求項4に記載の船外機の冷却水路構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−107537(P2013−107537A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255293(P2011−255293)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)