説明

船外機の推進装置

【課題】ロワケースの大型化を招くことなく、プロペラ軸の傘歯車機構装着部及び軸受部の潤滑油の循環を行なうことができる船外機の推進装置を提供する。
【解決手段】プロペラ軸14に、該プロペラ軸14の傘歯車機構13が装着された傘歯車機構装着部分14bから軸受43により軸支されたプロペラ軸軸支部分の近傍まで軸方向に延び、さらに径方向に延びて該軸受43近傍に開口するオイル通路49cを形成し、潤滑油bを上記オイル通路49cを介して上記傘歯車機構装着部14bの上流側開口49a′と上記軸受43の近傍の下流側開口49b′との間で循環させるオイル循環系49を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸と、該プロペラ軸及びドライブ軸を収容保持するロワケースとを備えた船外機の推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶等に搭載される船外機は、エンジンの回転力をドライブ軸から傘歯車機構を介してプロペラ軸に伝達することにより推進力を発生させるようになっている。
【0003】
この種の船外機において、上記ドライブ軸,傘歯車機構及びプロペラ軸を収容保持するロワケースは、航走中の水の抵抗を直接受けることから、その船幅寸法をできるだけ小さくすることが要求されており、従って上記傘歯車機構等の配設スペースは限られたものとなる。
【0004】
このようなロワケース内の限られたスペースに配設された傘歯車機構の噛合部やプロペラ軸の軸受部の寿命をできるだけ延長するために、潤滑油を循環させることにより冷却するようにしている。
【0005】
例えば、特許文献1では、プロペラ軸に、傘歯車機構装着部の前端から軸方向に延びた後、該装着部の後端部にて径方向に開口するオイル通路を形成し、潤滑油をオイル通路を介して上記傘歯車機構装着部の前端部と後端部との間で循環させる構造を採用している。
【特許文献1】特許第2863601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の船外機のように、潤滑油をプロペラ軸の傘歯車機構装着部の前端部と後端部との間で循環させる構造とした場合には、プロペラ軸の後端部を軸支する軸受部分の潤滑油が循環されずに停滞したままとなり易く、上記後端部の軸受の寿命が短くなるという懸念がある。
【0007】
ここで、上記プロペラ軸の傘歯車機構装着部と後端部の軸受部とにそれぞれ循環系を設けることが考えられるが、ロワケース内の限られたスペースのなかでプロペラ軸に複数の循環系を設けるとロワケースが大型化するおそれがあり、結局、複数の循環系を設けるのは困難である。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、ロワケースの大型化を招くことなく、プロペラ軸の傘歯車機構装着部及び軸受部の間で潤滑油を循環させることができる船外機の推進装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸と、該プロペラ軸及び上記ドライブ軸を収容保持するロワケースと、上記プロペラ軸の該ロワケースから後方に突出する突出部に装着されたプロペラとを備えた船外機の推進装置において、上記プロペラ軸の上記突出部近傍部分は、軸受を介して上記ロワケースにより軸支されており、上記プロペラ軸に、該プロペラ軸の上記傘歯車機構が装着された傘歯車機構装着部分から上記軸受により軸支されたプロペラ軸軸支部分の近傍まで軸方向に延び、さらに径方向に延びて該軸支部分に開口するオイル通路が形成され、潤滑油を該オイル通路を介して上記傘歯車機構装着部の上流側開口と上記軸支部の下流側開口との間で循環させるオイル循環系が備えられていることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、上記傘歯車機構は、上記プロペラ軸に装着された前進用傘歯車と後進用傘歯車を有し、上記オイル通路の上流側開口は、上記プロペラ軸の、上記前,後進用傘歯車の間の部分に開口していることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1において、上記オイル循環系は、上記オイル通路の上記下流側開口から流出した潤滑油を、上記プロペラ軸と上記ロワケースのプロペラ軸収容穴との隙間を通って上記傘歯車機構装着部に戻す戻り通路を備えていることを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1において、上記オイル循環系は、上記オイル通路の上記下流側開口から流出した潤滑油を、上記ドライブ軸が軸受を介して上記ロワケースにより軸支されたドライブ軸軸支部に導くバイパス通路と、該軸支部に導かれた潤滑油を上記ドライブ軸の上記傘歯車機構装着部に戻す戻り通路とを備えていることを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4において、上記バイパス通路は、上記ロワケースの、排気ガス排出通路内を通るように配置されたパイプ部材により構成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項6の発明は、請求項4において、上記バイパス通路は、上記ロワケースの、排気ガス排出通路を構成する壁部内に形成された連通穴により構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る推進装置によれば、プロペラ軸に、傘歯車機構装着部分からプロペラ軸軸支部分まで軸方向に延び、かつ径方向に延びて該軸支部分に開口するオイル通路を形成し、該オイル通路を介して上記装着部と軸支部との間で潤滑油を循環させるようにしたので、プロペラ軸の遠心力により上記開口から流出した潤滑油は、該プロペラ軸の軸支部を潤滑した後、傘歯車機構装着部に流れて該装着部を潤滑し、上記オイル通路に戻ることとなる。これにより潤滑油を傘歯車機構の噛合部及びプロペラ軸の軸受部の両方を通るよう循環させることができ、噛合部及び軸受部の磨耗を抑制でき、寿命を延長することができる。
【0016】
本発明では、オイル通路を、上記プロペラ軸に傘歯車機構装着部からプロペラ軸軸支部まで延び、プロペラ軸軸支部分に開口させるという構成にしたので、ロワケースの大型化を招くことなく、簡単な構造でオイル循環系を構成できる。
【0017】
請求項2の発明では、オイル通路の上流側開口を前,後進用傘歯車の間に開口させたので、前,後進用傘歯車の歯面を確実に潤滑できる。
【0018】
請求項3の発明では、オイル通路の下流側開口から流出した潤滑油を、プロペラ軸とロワケースのプロペラ軸収容穴との隙間に形成された戻り通路を通って傘歯車機構装着部に戻すようにしたので、上記プロペラ軸とロワケースのプロペラ軸収容穴との隙間を有効利用して潤滑油を循環させることができ、ロワケースの大型化を招くことなく、簡単な構造でかつ低コストでオイル循環系を構成できる。
【0019】
請求項4の発明では、オイル通路の下流側開口から流出した潤滑油を、バイパス通路によりドライブ軸軸支部に導き、該軸支部に導かれた潤滑油を戻り通路により傘歯車機構装着部に戻すようにしたので、傘歯車機構装着部,プロペラ軸軸支部,及びドライブ軸軸支部というロワケース内の略全被潤滑油を通るように潤滑油を循環させることが可能となる。
【0020】
請求項5の発明では、上記バイパス通路を、排気ガス排出通路内に配置されたパイプ部材により構成したので、排出通路内の空間を有効利用してバイパス通路を形成できる。
【0021】
請求項6の発明では、上記パイパス通路を、ロワケースの壁部内に形成された連通穴により構成したので、排気ガス排出通路を構成するロワケースの壁部を有効利用してバイパス通路を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1及び図2は、本発明の第1実施形態による船外機の推進装置を説明するための図であり、図1は船体に搭載された船外機の側面図、図2は船外機の推進装置の断面図である。
【0024】
図において、1は船体2の船尾2aに搭載された船外機を示している。この船外機1は、上記船尾2aに固定されたクランプブラケット3によりスイベルアーム4を介して上下に揺動可能に支持され、かつピボット軸5を介して左右に操舵可能に支持されている。
【0025】
上記船外機1は、推進装置6が収容されたロワケース7の上面にアッパケース8を結合し、該アッパケース8の上面にエンジン10を搭載するとともに、該エンジン10の外周部を囲むようにカウリング11を装着した概略構造を有している。このエンジン10は、水上走行時にクランク軸10aが略垂直をなすよう縦置きに配置されている。
【0026】
上記推進装置6は、上記クランク軸10aに同軸をなすよう連結され、該エンジン10により回転駆動されるドライブ軸12と、該ドライブ軸12に直交するよう略水平方向に向けて配置され、上記ドライブ軸12により傘歯車機構13を介して回転駆動されるプロペラ軸14と、該プロペラ軸14及びドライブ軸12を収容保持する上記ロワケース7と、上記プロペラ軸14の該ロワケース12から後方に突出する突出部14aに装着されたプロペラ15とを備えている。
【0027】
上記傘歯車機構13は、上記ドライブ軸12の傘歯車機構装着部である下端部12aに共に回転するよう装着された駆動傘歯車17と、該駆動傘歯車17に常時噛合し、上記プロペラ軸14の傘歯車機構装着部である前端部14bに相対回転可能に装着された前進傘歯車18及び後進傘歯車19とを有している。
【0028】
上記傘歯車機構13は前後進切替機構20を備えている。この前後進切替機構20は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に配置され、該プロペラ軸14に軸方向に移動可能にかつ共に回転するようスプライン嵌合されたドッグクラッチ21と、上記プロペラ軸14の前端部14bに軸方向に摺動自在に挿入されたシフトスリーブ22と、該シフトスリーブ22にシフトカム23を介して連結されシフト軸24と、該シフト軸24に連結され、上記船体2側に配置されたシフトレバー(不図示)とを備えている。上記シフトスリーブ22はピン25により上記ドッグクラッチ21に連結されている。該ピン25は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に形成されたピン穴14e内に配置されている。
【0029】
上記ドッグクラッチ21は、前,後進傘歯車18,19の何れにも噛合しないニュートラル位置と、前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する前後進クラッチイン位置との間で移動可能となっている。
【0030】
シフトレバーをニュートラル位置から前後進クラッチイン位置の何れかに切り換え操作を行なうと、シフト軸24が回動し、該シフト軸24の回動をシフトカム23がシフトスリーブ22の前後方向移動に変換させ、該ドッグクチック21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する。これによりドライブ軸12の回転力がプロペラ軸14に伝達される。
【0031】
上記ロワケース7はドライブ軸12と直交する断面視で略砲弾形をなすよう形成されている。該ロワケース7の前後方向略中央部には、上下方向に延び、かつ上方に開口するドライブ軸収容室7aが形成され、該ドライブ軸収容室7a内に上記ドライブ軸12が収容配置されている。
【0032】
上記ドライブ軸収容室7aの下端部には、前後方向に延び、かつ後方に開口する傘歯車機構収容室7bが形成され、該傘歯車機構収容室7b内に上記傘歯車機構13が収容配置されている。
【0033】
上記ドライブ軸収容室7aの上端開口部には、該収容室7aとの間を油密にシールする円筒状のベアリングハウジング30が挿着されている。該ハウジング30には、上記ドライブ軸12との間を油密にシールする上下一対のシール材31,31が配置されている。
【0034】
上記ドライブ軸12のロワケース7内における上端部12bは、ニードル軸受32を介して上記ハウジング30により軸支されており、下端部12aは、上記ドライブ軸収容室7aの下端開口部に配置されたニードル軸受33により軸支されている。
【0035】
上記傘歯車機構収容室7bの前端部には、前進傘歯車18を軸支する円錐ころ軸受35が配置され、後端開口部には、後述するギヤハウジング36を介して後進傘歯車19を軸支する玉軸受37が配置されている。
【0036】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの前側にはシフト室収容室7cが、該ドライブ軸収容室7aと平行に延びるよう形成され、該シフト軸収容室7c内に上記シフト軸24が収容配置されている。該シフト軸収容室7cの下端部は上記傘歯車機構収容室7bに連通している。このシフト軸収容室7cの上端開口部には、シフト軸24との間を油密にシールするシール部材38が挿着されている。
【0037】
上記シフト軸収容室7cの前側には、該シフト軸収容室7cと平行に延びる冷却水吸込通路7dが形成されており、該冷却水吸込通路7dには、ロワケース7の左,右側壁部に形成された吸込口7gから冷却水が流入するようになっている。
【0038】
上記ロワケース7には、ドライブ軸収容室7aの外周部を囲む冷却水ジャケット7hが形成されており、該冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水によりドライブ軸収容室7a内の潤滑油が冷却される。また上記シフト軸収容室7c内の潤滑油は冷却水吸込通路7d及び冷却水ジャケット7hを流れる冷却水により冷却される。
【0039】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの後側には、排気ガス排出通路7eが形成されており、該排気ガス排出通路7eとドライブ軸収容室7aとの間に上記冷却水ジャケット7hが配置されている。また上記排出通路7eはロワケース7の後端面に形成された排出口(図示せず)に連通しており、上記エンジン10からの排気ガスはアッパケース8内から上記排気ガス排出通路7eを通って上記排出口から水中に排出される。
【0040】
上記ロワケース7の傘歯車機構収容室7b内には、上記排気ガス排出通路7e内を通るよう配置された上述のギヤハウジング36が挿入されている。このギヤギヤハウジング36により排気ガス排出通路7eと傘歯車機構収容室7bとは画成されている。
【0041】
上記ギヤハウジング36は、プロペラ軸収容穴36aが形成された筒体部36bと、該筒体部36bの前端部に形成された碗状の大径部36cと、上記筒体部36bの後端部に軸直角方向外方に放射状に延びるよう形成された複数のリブ36dと、該リブ36dの外周端部に形成されたフランジ部36eとを有している。この上記フランジ部36eが、後方から挿入された複数のボルト40により上記ロワケース7の排出口の周縁部に固定されている。
【0042】
上記大径部36cの外周面は、上記傘歯車機構収容室7bの後端開口部に油密に挿着されており、該大径部36cの内周面と上記後進傘歯車19のボス部との間に上記玉軸受37が挿着されている。
【0043】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36a内に上記プロペラ軸14が挿入配置されている。該プロペラ軸14の前端部14bは、上記前,後進傘歯車18,19の軸穴18a,19aを挿通しており、該前進傘歯車18の軸穴18aに配置されたメタル軸受42を介して相対回転自在に支持されている。プロペラ軸14と後進傘歯車19の軸穴19aとの間には隙間が形成されている。
【0044】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aの後端部には、上記プロペラ軸14との間を油密にシールする前後一対のシール材44,44が配置されている。
【0045】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aのシール材44の前側には、上記プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43が配置されている。
【0046】
上記推進装置6は、ロワケース7内に充填された潤滑油を循環させるオイル循環系47を備えている。このオイル循環系47は、上記潤滑油をドライブ軸収容室7a,傘歯車機構収容室7b,シフト軸収容室7c,及びプロペラ軸収容穴36a内を循環させるようになっている。上記潤滑油の油面は、ドライブ軸収容室7a内の上側のニードル軸受32部分に位置しており、該油面はシフト軸収容室7c内においても同じ高さ位置となっている。
【0047】
上記オイル循環系47は、潤滑油をドライブ軸12の駆動傘歯車17の装着部から上,下のニードル軸受32,33を経て前後進切換機構20を通るように循環させるドライブ軸循環系48と、潤滑油をプロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の装着部14bから該プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43を通るよう循環させるプロペラ軸循環系49とを備えている。
【0048】
上記ドライブ軸循環系48は、上記ドライブ軸12とロワケース7のドライブ軸収容室7aとの隙間に形成された軸方向に延びるオイル通路48aと、ドライブ軸12の軸方向中央部とドライブ軸収容室7aの内周壁とで形成されたねじポンプ部48bと、上記オイル通路48aの上端部のニードル軸受32部分とシフト軸収容室7cとを連通する戻り通路48cとを有している。
【0049】
上記ねじポンプ部48bは、ドライブ軸12の外周面に形成された上向き右回りに延びる螺旋溝12cと、ドライブ軸収容室7aの内周壁との間に僅かな隙間を設けることにより形成されたものであり、これによりオイル通路48a内の潤滑油を加圧して上方に移送するようになっている。
【0050】
上記ドライブ軸12が回転すると、ねじポンプ部48bが潤滑油を加圧しつつオイル通路48a内を上方に移送する。該オイル通路48aを上昇した潤滑油aは、ニードル軸受32を潤滑し、ここから戻り通路48cを通ってシフト軸収容室7c内に流入し、前後進切換機構20の各摺動部及び円錐ころ軸受35を潤滑した後、傘歯車機構収容室7b内に戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油aは、上記ねじポンプ部48bにより傘歯車機構13の噛合部及び下側のニードル軸受33を潤滑しつつ上方に移送される。
【0051】
上記ドライブ軸収容室7a,シフト軸収容室7c内を流れる潤滑油aは、冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水により冷却される。
【0052】
上記プロペラ軸循環系49は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の装着部(前端部)14bから上記ニードル軸受43の近傍まで軸方向に延びる軸穴49aと、該軸穴49aの端部から直径方向に延びてニードル軸受43の近傍に開口する軸直角穴49bとを有するオイル通路49cと、上記プロペラ軸14とギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aとの隙間で構成された戻り通路49dとを有している。
【0053】
上記オイル通路49cの軸穴49aの上流側開口49a′は、上記プロペラ軸14の、上記前,後進傘歯車18,19の間に形成されている上記ピン穴14eに開口しており、上記軸直角穴49bの下流側開口49b′はニードル軸受43の前側近傍に開口している。
【0054】
シフトレバーの切り換え操作によりドッグクラッチ21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合するとプロペラ軸14が回転し、該プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの軸直角穴49bから潤滑油bが噴出し、該噴出した潤滑油bは、ニードル軸受43を潤滑し、ここから戻り通路49dを通って玉軸受37,傘歯車機構13の噛合部を潤滑し、傘歯車機構収容室7bに戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油bは、プロペラ軸14の回転によりオイル通路49cの軸穴49a内に流入することとなる。このプロペラ軸循環系49の潤滑油bは、ロワケース7の外表面を流れる走行水により冷却される。
【0055】
本実施形態によれば、プロペラ軸14の前端面から傘歯車機構装着部14bを通ってニードル軸受43の近傍まで軸方向に延びる軸穴49aと、該軸穴49aの端部から直径方向に延びてニードル軸受43の前側近傍に開口する軸直角穴49bとを有するオイル通路49cを形成し、該オイル通路49cを介して上記装着部14bとニードル軸受43との間で潤滑油bを循環させるようにしたので、プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの開口から噴出した潤滑油bは、該プロペラ軸14のニードル軸受43を潤滑した後、傘歯車機構装着部14bに流れて該傘歯車機構13の噛合部を潤滑し、傘歯車機構収容室7bからオイル通路49cに戻ることとなる。これにより潤滑油bを傘歯車機構13の噛合部及びプロペラ軸14の後端部を軸支するニードル軸受43の両方を通るよう循環させることができ、傘歯車機構13及び軸受43の磨耗を抑制でき、寿命を延長できる。
【0056】
本実施形態のオイル通路49cは、上記プロペラ軸14にこれの前端面から傘歯車機構装着部14bを通ってニードル軸受43の近傍まで軸方向に延びる軸穴49aを形成し、さらに軸直角穴49bをニードル軸受43の近傍に開口させるというものであり、ロワケース7の大型化を招くことなく、簡単な構造でプロペラ軸循環系49を構成できる。
【0057】
本実施形態では、上記プロペラ軸14と、該プロペラ軸14を軸支するギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aとの隙間に、オイル通路49cの開口から流出した潤滑油bを傘歯車機構装着部14bに戻す戻り通路49dを形成したので、上記プロペラ軸14とギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aとの隙間を有効利用して潤滑油bを循環させることができ、ロワケース7の大型化を招くことなく、簡単な構造でかつ低コストでプロペラ軸循環系49を構成できる。
【0058】
図3は、本発明の第2実施形態による船外機の推進装置を説明するため図である。図中、図2と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0059】
本実施形態は、プロペラ軸14の傘歯車機構装着部14bから該プロペラ軸14の後端部を軸支するニードル軸受43の近傍まで軸方向に延びるオイル通路49cを形成し、潤滑油cをニードル軸受43と上記傘歯車機構装着部14aとの間で循環させるオイル循環系50を備えている。
【0060】
上記オイル循環系50は、上記プロペラ軸14の遠心力により上記オイル通路49cの下流側開口49b′から流出した潤滑油cをドライブ軸12の上側に配置されたニードル軸受32に導くバイパス通路50aと、該ニードル軸受32に導かれた潤滑油cを該ドライブ軸12の下側のニードル軸受33及び傘歯車機構13に戻す戻り通路50bと、該戻り通路50b内の潤滑油cを下方に移送するねじポンプ部50cとを備えている。
【0061】
上記ねじポンプ部50cは、ドライブ軸12の外周面に形成された下向き右回りに延びる螺旋溝12c′と、ドライブ軸収容室7aの内周壁との間に僅かな隙間を設けることにより形成されたものであり、これにより潤滑油cを加圧しつつ下方に移送するようになっている。
【0062】
上記パイパス通路50aは、上記ロワケース7の排気ガス排出通路7e内を通るよう配置された金属パイプ部材51により構成されている。
【0063】
上記パイプ部材51は、上記ギヤハウジング36を貫通してオイル通路49cの下流側開口49b′に対向するよう連通接続され、ドライブ軸12と平行に垂直上方に延びる縦パイプ51aと、該縦パイプ51aの上端部に接続され、ドライブ軸12と直角方向に延びてドライブ軸収容室7aの上側のニードル軸受32部分に連通接続された横パイプ51bとを有している。
【0064】
シフトレバーの切り換え操作によりドッグクラッチ21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合するとプロペラ軸14が回転し、該プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの下流側開口49b′から潤滑油cが噴出し、該噴出した潤滑油cは、ニードル軸受43を潤滑しつつバイパス通路50a内に流入し、ドライブ軸12の上側のニードル軸受32を潤滑する。該ニードル軸受32に導かれた潤滑油cは、ねじポンプ部50cにより加圧されてオイル通路50b内を下方に移送され、下側のニードル軸受33を潤滑し、傘歯車機構13の噛合部,円錐ころ軸受35及び玉軸受37を潤滑して傘歯車機構収容室7b内に戻り、プロペラ軸14のオイル通路49c内に再び流入することとなる。
【0065】
本実施形態によれば、プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの下流側開口49b′から噴出した潤滑油cを、プロペラ軸14の後端部に配置されたニードル軸受43を導きつつ、バイパス通路50aを介してドライブ軸12の各ニードル軸受32,33に導き、該軸受33に導かれた潤滑油cを戻り通路50bにより傘歯車機構13に導いた後、傘歯車機構収容室7bに戻すようにしたので、傘歯車機構13の噛合部,プロペラ軸14の軸受43,及びドライブ軸12の上,下の軸受32,33といったロワケース7内の略全被潤滑部を通るように潤滑油を循環させることが可能となり、ロワケース7の大型化を招くことなく、噛合部,軸受部の寿命を延長することができる。
【0066】
本実施形態では、上記バイパス通路50aを、排気ガス排出通路7e内に配置されたパイプ部材51により構成したので、排出通路7e内の空間を有効利用してバイパス通路50aを形成できる。
【0067】
図4は、本発明の第3実施形態による船外機の推進装置を説明するための図である。図中、図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0068】
本実施形態のオイル循環系50は、プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの下流側開口49b′から流出した潤滑油cを、ドライブ軸12の上側のニードル軸受32に導くバイパス通路50aと、該ニードル軸受32に導かれた潤滑油cを該ドライブ軸12の下側のニードル軸受33及び傘歯車機構13に戻す戻り通路50bと、該戻り通路50b内の潤滑油cを下方に移送するねじポンプ部50cとを備えており、基本的な構成は第2実施形態と略同様である。
【0069】
そして本実施形態では、上記バイパス通路50aは、ロワケース7の排気ガス排出通路7eを囲む周壁部内に連通穴53を形成することにより構成されている。
【0070】
上記プロペラ軸14とギヤハウジング36との間には、ニードル軸受43の外側を通ってシール材44近傍まで延びるオイル通路54が形成されている。
【0071】
上記連通穴53は、上記オイル通路54に連通し、該オイル通路54からギヤギヤハウジング36のリブ36d内を通ってロワケース7の排気ガス排出通路7eの後壁部7i内を垂直上方に延びる第1連通穴53aと、該第1連通穴53aの上端部からロワケース7の排気ガス排出通路7eの側壁部7j内を前方に延びる第2連通穴53bと、該第2連通穴53bの前端部から船幅方向内側に延びてニードル軸受32の下側の戻り通路50bに連通する第3連通穴53cとを有している。
【0072】
プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの下流側開口49b′から潤滑油cが噴出し、該噴出した潤滑油cは、オイル通路54を通ってニードル軸受43を潤滑しつつバイパス通路50a内に流入し、ドライブ軸12の上側のニードル軸受32を潤滑する。該ニードル軸受32を潤滑した潤滑油cは、ねじポンプ部50cにより加圧されてオイル通路50b内を下方に移送され、下側のニードル軸受33を潤滑し、傘歯車機構13の噛合部,円錐ころ軸受35及び玉軸受37を潤滑して傘歯車機構収容室7b内に戻り、ここからプロペラ軸14のオイル通路49c内に流入する。
【0073】
本実施形態によれば、ロワケース7内の略全被潤滑部を通るように潤滑油を循環させることが可能となり、ロワケース7の大型化を招くことなく、噛合部,軸受部の寿命を延長することができ、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0074】
本実施形態では、上記パイパス通路50aを、ロワケース7の排気ガス排出通路7eを構成する壁部7i,7j内に形成された連通穴53により構成したので、ロワケース7の壁部7i,7jを有効利用してバイパス通路50aを形成でき、排気ガスによる影響を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態による船外機の側面図である。
【図2】上記船外機の推進装置の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態による推進装置の断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態による推進装置の断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 船外機
6 推進装置
7 ロワケース
7e 排気ガス排出通路
10 エンジン
12 ドライブ軸
13 傘歯車機構
14 プロペラ軸
14a 突出部
14b 傘歯車機構装着部
15 プロペラ
18,19 前,後進用傘歯車
36a プロペラ軸収容穴
43 ニードル軸受
47 オイル循環系
49a′上流側開口
49b′下流側開口
49c オイル通路
49d 戻り通路
50 オイル循環系
50a バイパス通路
50b 戻り通路
51 パイプ部材
53 連通穴
b,c 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸と、該プロペラ軸及び上記ドライブ軸を収容保持するロワケースと、上記プロペラ軸の該ロワケースから後方に突出する突出部に装着されたプロペラとを備えた船外機の推進装置において、
上記プロペラ軸の上記突出部近傍部分は、軸受を介して上記ロワケースにより軸支されており、
上記プロペラ軸に、該プロペラ軸の上記傘歯車機構が装着された傘歯車機構装着部分から上記軸受により軸支されたプロペラ軸軸支部分の近傍まで軸方向に延び、さらに径方向に延びて該軸支部分に開口するオイル通路が形成され、
潤滑油を該オイル通路を介して上記傘歯車機構装着部の上流側開口と上記軸支部の下流側開口との間で循環させるオイル循環系が備えられていることを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項2】
請求項1において、上記傘歯車機構は、上記プロペラ軸に装着された前進用傘歯車と後進用傘歯車を有し、上記オイル通路の上流側開口は、上記プロペラ軸の、上記前,後進用傘歯車の間の部分に開口していることを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項3】
請求項1において、上記オイル循環系は、上記オイル通路の上記下流側開口から流出した潤滑油を、上記プロペラ軸と上記ロワケースのプロペラ軸収容穴との隙間を通って上記傘歯車機構装着部に戻す戻り通路を備えていることを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項4】
請求項1において、上記オイル循環系は、上記オイル通路の上記下流側開口から流出した潤滑油を、上記ドライブ軸が軸受を介して上記ロワケースにより軸支されたドライブ軸軸支部に導くバイパス通路と、該軸支部に導かれた潤滑油を上記ドライブ軸の上記傘歯車機構装着部に戻す戻り通路とを備えていることを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項5】
請求項4において、上記バイパス通路は、上記ロワケースの、排気ガス排出通路内を通るように配置されたパイプ部材により構成されていることを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項6】
請求項4において、上記バイパス通路は、上記ロワケースの、排気ガス排出通路を構成する壁部内に形成された連通穴により構成されていることを特徴とする船外機の推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−6970(P2008−6970A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179594(P2006−179594)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)