説明

船尾波干渉フィン

【課題】フルード数0.30以上の高速の船舶及びフルード数0.28以下の中速の船舶で、造波抵抗が低減され、造波抵抗低減による馬力低減効果がある船尾波干渉フィンを提供する。
【解決手段】フルード数0.30以上の高速またはフルード数0.28以下の中速で、船尾にバトックフロー部を有する船舶において、船尾バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅、所定長、所定頂角を有する断面くさび型のフィン3a,3bを配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バトックフロー船尾を有するRORO船等の比較的高速船舶や自動車運搬船等の比較的中速船に取り付ける船尾波干渉フィンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランサム型(バトックフロー)船尾を有する船舶の造波抵抗低減を目的としたトランサムスターン型船尾形状としては、例えば、特開2002−154475号公報に開示のものが知られている。
特開2002−154475号公報に開示のものは、発明名称「トランサムスターン型船尾形状」に係り、図16に示すように、「トランサムスターンを有する船舶の船尾端に近い位置で流場を変化させて船尾造波を低減させることを目的(当該明細書段落番号0007)」として、「トランサムスターンを有する、航海速力がフルード数0.2以上0.4以下の排水量型船舶の船尾部の船体中心線における船底面形状であって、船尾端から一定距離前方の位置において変曲点を設け、この変曲点を境に前方に流速の遅い領域を形成すると共に、該変曲点から後方へ流れを加速する領域を形成することにより該変曲点の前後で流場を変化させたうえ、船尾端の下端を満載計画喫水線付近に位置せしめ(同明細書段落番号0008参照)」ることにより、「船尾から上昇してきた遅い流れが変曲点から後方へ向かって加速されて船尾端まで流れていくことから、波崩れの発生が抑制される上に、船尾端下端から加速された流れが下方へ流れ出ていくため船尾造波も抑制され、これらから船体抵抗が大幅に低減する」等の効果を奏するものである(同明細書段落番号0009以下参照)。
【0003】
なお、図16は、前記特開2002−154475号公報開示の図1(a)であり、同公報開示の発明の抵抗低減の技術原理を説明するための図であって、船体中心線における船尾船体の断面形状を示すものである。ここでは、従来のバトックフロー船尾における船尾造波抵抗低減の状態を示している。なお、図16において、101は、船尾船体であり、102は、変曲点、103は、前方船底面、104は、後方船底面、105は、船尾端であり、LWLは喫水線を、矢印は、それぞれの船底箇所に沿う水面線を示す。
このように、特開2002−154475号公報に開示のトランサムスターン型船尾形状では、船尾船体101が前方すなわち右方向に移動するに従って、船底面に接する海水が船底面に沿って後方すなわち左方向に移動し、その際に、船底における水圧は、前記前方船底面103近辺では圧力が高まり、前記変曲点102に至る箇所付近から圧力が低減するという問題点がある。
また、前記特開2002−154475号公報に開示のトランサムスターン型船尾形状では、バトックフロー船尾の船体自体を変更しなければならず、さらには、図16に示すように、喫水線(LWL)がバトックフロー船尾に接していなければ造波抵抗低減効果はない。
【特許文献1】特開2002−154475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願発明は、従来技術上の問題点に鑑み、所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型の単純な構造のフィンを船尾バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付け、フルード数(Fn)0.30以上で、造波抵抗が低減され、造波抵抗低減による馬力低減効果がある船尾波干渉フィンを提供することを目的とする。
また、フルード数(Fn)0.28以下の中速船(例えば自動車運搬船など)にも、造波抵抗が低減され、造波抵抗低減による馬力低減効果がある船尾波干渉フィンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本願請求項1に係る発明は、船尾にバトックフロー部を有するFn(フルード数)0.30以上の船舶において、当該バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型のフィンを配置し、前記船舶船尾に発生する波を当該フィンで発生する波で干渉させたことを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に係る船尾波干渉フィンにおいて、前記フィンの幅・長さ及び頂角が、それぞれ幅B=0.03×Bmld、長さL=0.33×Bmld、頂角30度の断面くさび形状を有するフィンであることを特徴とする(ただし、Bmldは船幅)。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1に係る船尾波干渉フィンにおいて、前記逆ハの字に取り付けられる前記フィンの起点及びその角度は、前記APと船尾端の1/2、舵の縦方向中心からb=0.06×Bmldだけ離れた点を起点として、かつ、船首に対する縦方向角度55度で逆ハの字に取り付けられたことを特徴とする(ただし、Bmldは船幅)。
また、本願請求項4に係る発明は、船尾にバトックフロー部を有するフルード数(Fn)0.28以下の船舶において、当該バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型のフィンを配置し、前記船舶船尾に発生する波を当該フィンで発生する波で干渉させたことを特徴とする。
さらに、本願請求項5に係る発明は、前記請求項4に係る船尾波干渉フィンにおいて、前記フィンの幅・長さ及び頂角が、それぞれ幅B=0.03×Bmld、長さL=0.50×Bmld、頂角30度の断面くさび形状を有するフィンであることを特徴とする(ただし、Bmldは船幅)。
そして、本願請求項6に係る発明は、前記請求項4に係る船尾波干渉フィンにおいて、前記逆ハの字に取り付けられる前記フィンの起点及びその角度は、舵の縦方向中心からb=0.08×Bmldだけ離れた船尾端を起点として、かつ、船首に対する縦方向角度40度で逆ハの字に取り付けられたことを特徴とする(ただし、Bmldは船幅)。
【発明の効果】
【0006】
単純な構造のフィンではあるが、船尾流線が盛り上がり、水面近傍に設けられたフィンに接することにより、波が形成され、その波が船尾端から発生する波と干渉し、その結果、造波抵抗が低減され、造波抵抗低減による馬力低減効果がある。特に、フルード数(Fn)0.30以上の高速船の船舶において、造波抵抗低減による馬力低減効果がある。
また、同フィンの取り付け位置によっては、フルード数0.28以下の中速船型においても、造波抵抗低減による馬力低減の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を船尾に配置した船側面図、
【図2】図2は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を船尾に配置した船を船尾方向からみた図、
【図3】図3は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を船尾に配置した船を船底から見た図、
【図4】図4は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の断面形状図、
【図5】図5は,本実施例1に係る船尾波干渉フィン3a、3bによる船尾波の干渉イメージを示す図、
【図6】図6は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の取り付け角度と造波抵抗との関係を示す実験データを示すグラフ図、
【図7】図7は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の長さ/Bmldと造波抵抗との相関を示すグラフ図、
【図8】図8は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を様々なフルード数(具体的には、フルード数(Fn)0.28から0.38までの船型について、横軸にフルード数(Fn)、縦軸に造波抵抗係数(rW×10)をとったグラフ図、
【図9】図9は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を船尾に配置した船について横軸に船速を縦軸に有効馬力(BHP(ps))をとった場合の相関グラフ図、
【図10】図10は、本実施例2に係る船尾波干渉フィンを船底から見た図、
【図11】図11は、本実施例2に係る船尾波干渉フィンによる船尾波の干渉イメージを示す図、
【図12】図12は、本実施例2に係る船尾波干渉フィンの取り付け角度と造波抵抗との関係を示す実験データを示すグラフ図、
【図13】図13は、本実施例2に係る船尾波干渉フィンの長さ/Bmldと造波抵抗との相関を示すグラフ図、
【図14】図14は、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13において、様々なフルード数の船型について、横軸にフルード数(Fn)、縦軸に造波抵抗係数(rW×10)をとったグラフ図、
【図15】図15は、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13を船尾に配置した船について、横軸に船速を縦軸に有効馬力(BHP(ps))をとった場合の相関グラフ図、
【図16】図16は、前記特開2002−154475号公報開示の図1(a)に示される同公報開示の発明の抵抗低減の技術原理を説明するための図であって、船体中心線における船尾船体の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明に係る船尾波干渉フィンを実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1ないし図4は、本願発明を実施するための最良の形態である船尾波干渉フィンの一実施例の概略を示す図であり、図1は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を船尾に配置した船側面図であり、図2は、これを船尾方向からみた図であり、図3は、船底から見た図である。また、図4は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の断面形状図である。これらの図1ないし図4において、1は、船底船尾、2は、舵、3は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン、4は、プロペラである。また、APは、後部垂線、CLは、縦方向船体中心線を示す。
【0010】
図4に示すように、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3(右舷船尾波干渉フィン3a、左舷船尾波干渉フィン3b)は、幅B=0.03×Bmldで頂角30度の断面くさび形状を有するフィンであって、図3に示すように、APと船尾端の1/2、舵2の縦方向中心からb=0.06×Bmldだけ離れた点を起点として、船首に対する縦方向角度55度で、長さL=0.33×Bmldの本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を両船底に配置したものである。ここで、Bmldは、船幅を示す。
【0011】
すなわち、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3a、3bは、幅B(0.03×Bmld)、長さL(0.33×Bmld),頂角30度の断面くさび型のフィン3a、3bのものを使用し、このサイズのフィン3a、3bを船尾のバトックフロー部の前方、舵2の両側に逆ハの字に配置したものである。
【0012】
このように配置した船尾波干渉フィン3a、3bによる船尾波の干渉イメージを図5に示す。図5において、符号1は、船尾船体、2は、舵、3aは、右舷船尾波干渉フィン、3bは、左舷船尾波干渉フィン、実線で示すのが、当該フィン3a、3bで造波された波であり、波線で示されるのが、船体からの発生する船尾波である。図5に示されるように、船体1が高速で移動する際には、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3a、3bによって、押し下げられるが、船体1の進行にに伴って、その反作用として、船体1を離れた後方において、逆位相に造波される。そうすると、船体1で発生する船尾波(波線)は、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3a、3bによって作られた逆位相の干渉波(実線)によって打ち消されることとなる。その結果、造波抵抗が低減することとなる。
本実施例1に係る船尾波干渉フィン3a、3bによれば、船体1の走行中は、当該フィン3a、3bと水面が接しておれば干渉波は必ず発生するので、喫水線の位置の制限は無くなった。
【0013】
次に、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の最適取り付け位置について、水槽試験により決定した。
図6は、フィン3の取り付け角度と造波抵抗との関係を示す実験データである。横軸に取り付け角度を縦軸に造波抵抗を示し、同図(b)に示すように、船首側に対する取り付け角度を様々に変更して、2mの船舶模型を用いて水槽試験を繰り返した。
その結果、図6に示すように、船首に対して55度の取り付け角度のものが最適な取り付け角度であることが判明した。しかしながら、船型との関係でこれに限られるものではない。
【0014】
また、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の長さについても検討した。すなわち、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3の長さを様々に変更して、上記同様水槽試験を実施した。図7は、フィンの長さ/Bmldと造波抵抗との相関を示す図であり、横軸にフィンの長さ、縦軸に造波抵抗をとった前述の船型模型を用いた水槽試験の実験データである。図7から知りうるように、フィンの長さ0.33×Bmldの長さのときが最も造波抵抗が小さいことが知りうる。
【0015】
これらの結果から、舵2の縦方向中心からb=0.06×Bmld、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3a、3bの長さL=0.33×Bmld、幅B=0.03×Bmldとすることが最も適切であることを知り得た。
次に、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を配置した様々な船型についても検討した。図8は、様々なフルード数(具体的には、フルード数(Fn)0.28から0.38までの船型について、前記同様水槽試験を実施し、その結果を示した図であり、横軸にフルード数(Fn)、縦軸に造波抵抗係数(rW×10)をとった図である。図8において、太線はフィンのない場合の相関値であり、細線はフィンを設けた場合の相関値である。図8から容易に知りうるように、本実施例1に係る船尾波干渉フィン3を設けた場合には、フルード数0.3以上の船型において、造波抵抗低減の効果があることが知れる。すなわち、フィンによって造られた波と船体から発生した船尾波が干渉することにより、造波抵抗が約12%低減する(図8参照)。
【0016】
また、この造波抵抗低減により、同じ速力で航行するときの所要馬力の比較を同様の水槽試験により検討した。図9は、横軸に船速を縦軸に有効馬力(BHP(ps))をとった場合の相関データである。図9において、同様に太線はフィンのない場合の相関値であり、細線はフィンを設けた場合の相関値である。図9から知りうるように、船速が23ノット以上の領域では、同じ速力で 航行するときには、所要馬力が低減する効果が認められ、また、高速になるに従い、その所要馬力低減効果の度合いが増加することが分かる。すなわち、この実験例に基づけば、25.3ノット近辺では約5%の所用馬力低減の効果が認められ、27ノット近辺では、所用馬力は約10%低減できる。
【0017】
これらのことから、比較的構造が簡単な断面がくさび型のフィンをバトックフローの前方、舵の両側に逆ハの字に配置することにより、船尾造波抵抗を低減させた。また、走行中にフィンと水面が接しておれば良いので、喫水線の位置の制限は無くなった(図5参照)。
【実施例2】
【0018】
前述してきたように、本実施例1に係る船尾波干渉フィンは、RORO船等の高速船に対して有効であるが、本実施例1に係る船尾波干渉フィンの形状や取り付け位置等を変更することにより、自動車運搬船等のいわゆる中速船に対しても造波抵抗が低減する等の効果があることを見いだした。
【0019】
すなわち、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13は、バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型のフィンを配置し、前記船舶船尾に発生する波を当該フィンで発生する波で干渉させるようにした本実施例1に係る船尾波干渉フィンの形状及びその取り付け位置等を変更することにより、船尾にバトックフロー部を有するFn(フルード数)0.28以下の中速船の船舶においても、その取り付け位置を工夫することにより、造波抵抗低減の効果があることを発見し、本実施例2に係る船尾波干渉フィンを案出するに至った。
【0020】
本願発明を実施するための最良の形態である船尾波干渉フィンの一変形実施例である実施例2に係る船尾波干渉フィン13を図面に基づいて詳細に説明する。
図10は、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13を船尾に配置した本実施例2に係る船尾波干渉フィン13を船底から見た図であり、船尾取り付け位置が若干変更される外は、前記実施例1に係る船尾波干渉フィン3と同じ形状のものを以下のようにその船尾に配置したものである。
【0021】
なお、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13を船尾に配置した船側面図(図1)や、船尾方向からみた図(図2)や、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13の断面形状図(図4)は、前記実施例1に係る船尾波干渉フィン3の概略を示す図1、図2、図4と同じように表れるので、その配置概略や該当する図面を省略する。また、同様に、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13の概略を説明するに当たっても、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13の配置以外は、同様に表れるので、図1ないし図4において使用した同じ部材は同じ符号を用いて説明する。すなわち、図10において、1は、船底船尾、2は、舵、13は、本実施例2に係る船尾波干渉フィン、4は、プロペラである。また、APは、後部垂線、CLは、縦方向船体中心線を示す。
【0022】
本実施例1に係る船尾波干渉フィン3(右舷船尾波干渉フィン3a、左舷船尾波干渉フィン3b)を示す図4に示されるように、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13(右舷船尾波干渉フィン13a、左舷船尾波干渉フィン13b)も、前述するように実施例1に係る船尾波干渉フィン3の形状と同じ形状のものであり、幅B=0.03×Bmldで頂角30度の断面くさび形状を有するフィンである。前記実施例1に係る船尾波干渉フィン3との違いは、その取り付け位置(配置位置)において、図10に示すように、船尾端から舵2の縦方向中心からb=0.08×Bmldだけ離れた点を起点として、船首に対する縦方向角度40度で、長さL=0.50×Bmldの本実施例2に係る船尾波干渉フィン13を両船底に配置したものである。ここで、Bmldは、船幅を示す。
【0023】
すなわち、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13a、13bは、幅B(0.03×Bmld)、長さL(0.50×Bmld),頂角30度の断面くさび型のフィン13a、13bのものを使用し、このサイズのフィン13a、13bを船尾端からバトックフロー部の前方、舵2の両側に逆ハの字に配置したものである。
【0024】
このように配置した船尾波干渉フィン13a、13bによる船尾波の干渉イメージを図11に示す。図11において、符号1は、船尾船体、2は、舵、13aは、右舷船尾波干渉フィン、13bは、左舷船尾波干渉フィン、実線で示されるのが、当該フィン13a、13bで造波された波であり、波線で示されるのが、船体からの発生する船尾波である。図11に示されるように、船体1が高速で移動する際には、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13a、13bによって、押し下げられるが、船体1の進行にに伴って、その反作用として、船体1を離れた後方において、逆位相に造波される。そうすると、船体1で発生する船尾波(波線)は、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13a、13bによって作られた逆位相の干渉波(実線)によって打ち消されることとなる。その結果、造波抵抗が低減することとなる。
【0025】
本実施例2に係る船尾波干渉フィン13a、13bによれば、船体1の走行中は、当該フィン13a、13bと水面が接しておれば干渉波は必ず発生するので、喫水線の位置の制限は無くなった。
次に、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13の最適取り付け位置について、前記実施例1のと木と同様に水槽試験により決定した。
【0026】
図12は、フィン13の取り付け角度と造波抵抗との関係を示す実験データである。横軸に取り付け角度を縦軸に造波抵抗を示し、同図(b)に示すように、船首側に対する取り付け角度を様々に変更して、2mの船舶模型を用いて水槽試験を繰り返した。
その結果、図12に示すように、船首に対して40度の取り付け角度のものが最適な取り付け角度であることが判明した。しかしながら、船型との関係でこれに限られるものではない。
【0027】
また、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13の長さについても検討した。すなわち、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13の長さを様々に変更して、フルード数(Fn)0.28以下の中速船の船型について、上記同様の水槽試験を実施した。図13は、フィンの長さ/Bmldと造波抵抗との相関を示す図であり、横軸にフィンの長さ、縦軸に造波抵抗をとった前述の船型模型を用いた水槽試験の実験データである。図13から知りうるように、フィンの長さ0.50×Bmldの長さのときが最も造波抵抗が小さいことが知りうる。
これらの結果から、舵2の縦方向中心からb=0.08×Bmld、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13a、13bの長さL=0.50×Bmld、幅B=0.03×Bmldとすることが最も適切であることを知り得た。
【0028】
すなわち、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13は、船尾にバトックフロー部を有するFn(フルード数)0.28以下の船舶において、当該バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型のフィンを配置し、前記船舶船尾に発生する波を当該フィンで発生する波で干渉させるようにしたものである。
【0029】
そして、前記フィンの幅・長さ及び頂角は、それぞれ幅B=0.03×Bmld、長さL=0.50×Bmld、頂角30度の断面くさび形状を有するフィン13としたものである(ただし、Bmldは船幅)。
また、前記逆ハの字に取り付けられる前記フィン13の起点及びその角度は、舵の縦方向中心からb=0.08×Bmldだけ離れた船尾端を起点として、かつ、船首に対する縦方向角度40度で逆ハの字に取り付けられるようにしたものである(ただし、Bmldは船幅)。
【0030】
次に、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13について、様々な船型に配置して、その造波抵抗の低減についても検討した。図14は、自動車運搬船などのフルード数(Fn)0.28以下の中速船の船型について、前記同様水槽試験を実施し、その結果を示した図であり、横軸にフルード数(Fn)、縦軸に造波抵抗係数(rW×10)をとった図である。図14において、太線はフィン13のない場合の相関値であり、細線はフィン13を設けた場合の相関値である。図14から容易に知りうるように、本実施例2に係る船尾波干渉フィン13を設けた場合には、フルード数0.21以上の船型において、造波抵抗低減の効果があることが知れる。
【0031】
すなわち、フィン13によって造られた波と船体から発生した船尾波が干渉することにより、例えば、フルード数(Fn)0.25の場合には、造波抵抗が約14%低減することが知りうる(図14参照)。
【0032】
また、この造波抵抗低減により、同じ速力で航行するときの所要馬力の比較を同様の水槽試験により検討した。図15は、フルード数(Fn)0.28以下の中速船の船型について、横軸に船速を縦軸に有効馬力(Vs(Kt))をとった場合の相関データである。図15において、同様に太線はフィンのない場合の相関値であり、細線はフィン13を設けた場合の相関値である。図15から知りうるように、船速が18.5ノット以上の領域では、同じ速力で 航行するときには、所要馬力が低減する効果が認められ、また、高速になるに従い、その所要馬力低減効果の度合いが増加することが分かる。すなわち、この実験例に基づけば、21ノット近辺では約5%の所用馬力低減の効果が認められる。
【0033】
これらのことから、比較的構造が簡単な断面がくさび型のフィン13を船尾端からバトックフローの前方で、舵の両側に逆ハの字に配置することにより、船尾造波抵抗を低減させた。また、走行中にフィンと水面が接しておれば良いので、喫水線の位置の制限は無くなった(図11参照)。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、フルード数(Fn)0.30以上の高速船の船舶やフルード数(Fn)0.28以下の中速船の船舶に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 船体
2 舵
3 3a 3b 船尾波干渉フィン
4 プロペラ
13 13a 13b 船尾波干渉フィン
101 船尾船体
102 変曲点
103 前方船底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾にバトックフロー部を有するFn(フルード数)0.30以上の船舶において、当該バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型のフィンを配置し、前記船舶船尾に発生する波を当該フィンで発生する波で干渉させたことを特徴とする船尾波干渉フィン。
【請求項2】
前記フィンの幅・長さ及び頂角が、それぞれ幅B=0.03×Bmld、長さL=0.33×Bmld、頂角30度の断面くさび形状を有するフィンであることを特徴とする請求項1に記載の船尾波干渉フィン(ただし、Bmldは船幅)。
【請求項3】
前記逆ハの字に取り付けられる前記フィンの起点及びその角度は、前記APと船尾端の1/2、舵の縦方向中心からb=0.06×Bmldだけ離れた点を起点として、かつ、船首に対する縦方向角度55度で逆ハの字に取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の船尾波干渉フィン(ただし、Bmldは船幅)。
【請求項4】
船尾にバトックフロー部を有するフルード数(Fn)0.28以下の船舶において、当該バトックフロー部の舵の両舷に逆ハの字に取り付けられる所定幅・所定長・所定頂角を有する断面くさび型のフィンを配置し、前記船舶船尾に発生する波を当該フィンで発生する波で干渉させたことを特徴とする船尾波干渉フィン。
【請求項5】
前記フィンの幅・長さ及び頂角が、それぞれ幅B=0.03×Bmld、長さL=0.50×Bmld、頂角30度の断面くさび形状を有するフィンであることを特徴とする前記請求項4に記載の船尾波干渉フィン(ただし、Bmldは船幅)。
【請求項6】
前記逆ハの字に取り付けられる前記フィンの起点及びその角度は、舵の縦方向中心からb=0.08×Bmldだけ離れた船尾端を起点として、かつ、船首に対する縦方向角度40度で逆ハの字に取り付けられたことを特徴とする前記請求項4に記載の船尾波干渉フィン(ただし、Bmldは船幅)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−47248(P2010−47248A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168482(P2009−168482)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)