説明

船推進機

【課題】構造を複雑にすることなく簡単な操作で後進モードへの切り替えおよび出力の大きさの設定が可能となりかつ推進機本体を船体にロックすることができる、船推進機を提供する。
【解決手段】船推進機10は推進機本体12およびロック手段を備える。推進機本体12は、電動モータ16、スロットルグリップ36、スロットルグリップ36による指示を検出するポテンショメータ46、ポテンショメータ46の出力に基づいて電動モータ16の運転モードおよび出力を制御するコントローラ28、ならびにスロットルグリップ36による指示に基づいてロック手段を制御する第2制御手段を備える。スロットルグリップ36の後進モード域への回動操作に応じて、コントローラ28が電動モータ16を後進モードに切り替えるとともに第2制御手段がロック手段を動作させて推進機本体12を船体84にロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船推進機に関し、より特定的には電動型の船推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術が特許文献1および2において開示されている。
特許文献1では、レバーの回動操作だけで前後進モードを切り替えることができる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、スイッチによって前後進モードを切り替えることができ、スイッチによる後進モードの設定に連動して電磁ソレノイドが作動し、船推進機本体のチルトアップ側への跳ね上がりを阻止する所謂リバースロックを行う技術が開示されている。
【特許文献1】米国特許第5340342号
【特許文献2】米国特許第6832939号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、レバー操作に連動してリバースロックされず、リバースロックを行うためには別途手段を設けなければならず、操作および構造が複雑になってしまう。
【0005】
また、特許文献2では、スイッチによる後進モードの設定に連動してリバースロックを行うことができるが、各運転モードにおける出力の大きさを設定するには別途手段を設けなければならず、操作および構造が複雑になってしまう。
【0006】
それゆえにこの発明の主たる目的は、構造を複雑にすることなく簡単な操作で後進モードへの切り替えおよび出力の大きさの設定が可能となりかつ推進機本体を船体にロックすることができる、船推進機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の船推進機は、船体に取り付けられるべき推進機本体、および前記推進機本体のチルトアップ側への揺動を阻止するためのロック手段を備え、前記推進機本体は、電動モータ、回動可能でありかつその位置によって少なくとも前進モードと後進モードとを有する運転モードの種類および出力の大きさを指示可能な指示手段、前記指示手段による指示を検出する検出手段、前記検出手段の出力に基づいて前記電動モータの運転モードおよび出力を制御する第1制御手段、ならびに前記指示手段による指示に基づいて前記ロック手段を制御する第2制御手段を備え、前記指示手段の回動域は、少なくとも前記前進モードを指示するための前進モード域と前記後進モードを指示するための後進モード域とを含み、前記推進機本体が前記船体に取り付けられているとき、前記指示手段の前記後進モード域への回動操作に応じて、前記第1制御手段が前記電動モータの前記運転モードを前記後進モードに切り替えるとともに前記第2制御手段が前記ロック手段を動作させて前記推進機本体を前記船体にロックすることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記運転モードはさらに停止モードを含み、前記指示手段の回動域において、前記停止モードを指示するための停止モード域は中立点を含む所定範囲を有しかつ前記前進モード域と前記後進モード域とに挟まれ、前記指示手段が前記後進モード域方向にかつ前記停止モード域の所定位置以上回動されると、前記第2制御手段が前記ロック手段を動作させて前記推進機本体を前記船体にロックすることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記指示手段が前記前進モード域から前記後進モード域まで回動されると、前記第1制御手段が前記電動モータを前記後進モードに切り替えたのち前記第2制御手段が前記ロック手段を動作させて前記推進機本体を前記船体にロックすることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記検出手段は前記指示手段が指示する位置を検出するためのポテンショメータを含み、前記第1制御手段は前記ポテンショメータの出力に基づいて前記電動モータを制御することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の船推進機は、請求項4に記載の船推進機において、前記推進機本体は、前記ポテンショメータを収納するハウジングをさらに含むことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の船推進機は、請求項4に記載の船推進機において、前記指示手段が前記停止モードを指示しているか否かを検出するための停止モードセンサをさらに含み、前記第1制御手段は前記停止モードセンサの出力をも参酌して前記電動モータを制御することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記ロック手段は、前記推進機本体に設けられる係止部と前記推進機本体を前記船体にロックするために前記係止部が係止可能な受け部とを含むことを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の船推進機は、請求項7に記載の船推進機において、前記第2制御手段は、前記受け部に対して前記係止部を係止または係止解除させるために前記係止部に作用可能な押し部、および前記指示手段の回動量に応じて前記押し部の動作を機構的に制御する制御機構を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の船推進機は、請求項7に記載の船推進機において、前記第2制御手段は、前記受け部に対して前記係止部を係止または係止解除させるために前記係止部に作用可能な電磁アクチュエータからなる押し部、前記指示手段が指示する位置を検出するためのポテンショメータ、および前記ポテンショメータの出力に基づいて前記押し部を制御する制御部を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の船推進機は、請求項8または9に記載の船推進機において、前記係止部は、前記推進機本体近傍のうち前記船体とは反対側に設けられるレバー部と、前記レバー部から前記船体側に延びかつ前記推進機本体にチルト可能に設けられ前記受け部に係止可能なアーム部とを含み、前記押し部は前記レバー部に対して作用可能に配置されることを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載の船推進機では、指示手段を前進モード域から後進モード域へ回動する一動作だけで、運転モードが後進モードに切り替えられるとともにその出力の大きさが設定され、さらにロック手段によって推進機本体が船体にロックされる。したがって、リバースロックや運転モードの出力設定のために別途の手段や処理を要することなく、簡単な構造および操作で、後進モードおよびその出力の大きさを設定できるとともに、リバースロックによって推進機本体のチルトアップ側への揺動を阻止することができる。
【0018】
請求項2に記載の船推進機では、指示手段が前進モード域から停止モード域の所定位置まで回動されると、ロック手段によって推進機本体が船体にロックされる。このとき、停止モード域の当該所定位置すなわちリバースロックが掛かる位置を中立点より後進モード域寄りに設けておけば、運転モードを前進モード→停止モード→後進モードと切り替える場合には、リバースロックを掛けた直後に後進モードに切り替えることができる。その一方、運転モードを前進モード→停止モード→前進モードと切り替えるような場合には、不必要なリバースロックが掛かることはなく円滑に運転することができる。
【0019】
請求項3に記載の船推進機では、指示手段が前進モード域から後進モード域まで回動されると、まず電動モータが後進モードに切り替えられ、その後ロック手段によって推進機本体が船体にロックされる。これによれば、後進モードに入った場合にのみ確実にリバースロックを掛けることができ、誤ってリバースロックが掛かることはない。なお、リバースロックは、電動モータが後進モードに切り替えられたのち推力が発生する前に掛かることが好ましい。
【0020】
請求項4に記載の船推進機では、指示手段が指示する位置ひいては指示手段の回動操作の状態をポテンショメータによって簡単に検出することができ、第1制御手段によって電動モータを簡単に制御することができる。
【0021】
請求項5に記載の船推進機では、ポテンショメータをハウジングに収納することによって、ポテンショメータを保護できポテンショメータの劣化や破損を防止でき、ポテンショメータの性能を保つことができる。
【0022】
請求項6に記載の船推進機では、検出精度の高い停止モードセンサの出力をも参酌して電動モータを制御することによって、ポテンショメータの検出誤差を補正することができ、電動モータをより精度よく制御することができる。また、ポテンショメータの断線を検出することができる。
【0023】
請求項7に記載の船推進機では、たとえば船体自体や船体に固定された部材(たとえばブラケット部)などの船体側構造に受け部を設けると、推進機本体に設けられた係止部を当該受け部に係止するだけで簡単にリバースロックできる。
【0024】
請求項8に記載の船推進機では、制御機構によって押し部の動作を機構的に制御できるので、押し部の制御ひいてはリバースロックの制御に電気的手段が不要となる。
【0025】
請求項9に記載の船推進機では、ポテンショメータの出力に基づいて電磁アクチュエータからなる押し部の動作を制御できるので、押し部の制御ひいてはリバースロックの制御が簡単になる。
【0026】
請求項10に記載の船推進機では、推進機本体近傍のうち船体とは反対側に設けられるレバー部に押し部が作用することによって、てこの原理でアーム部を簡単にチルトでき受け部に係止させることができる。したがって、リバースロックのオン/オフがより円滑になる。また、推進機本体近傍のうち船体とは反対側はスペース上の自由度が大きいので、レバー部を長く形成でき、舵を切った状態でも押し部によってレバー部を操作できる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、リバースロックや運転モードの出力設定のために別途の手段や処理を要することなく、簡単な構造および操作で、後進モードおよびその出力の大きさを設定できるとともに、リバースロックによって推進機本体のチルトアップ側への揺動を阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
図1を参照して、この発明の一実施形態の船推進機10は電動型の船推進機である。なお、船推進機10は、船外機として構成されても船の一部として構成されてもよい。
【0029】
船推進機10は推進機本体12を含む。推進機本体12は、上ハウジング14aと下ハウジング14bとを有するハウジング14を含む。上ハウジング14a内には電動モータ16が設けられ、電動モータ16のロータ18にはドライブシャフト20が連結される。ドライブシャフト20は、上ハウジング14aから下ハウジング14bに亘って設けられ、ドライブシャフト20はかさ歯車22を介してプロペラシャフト24に接続され、プロペラシャフト24の端部にはプロペラ26が接続される。プロペラ26の回転方向は、電動モータ16の回転方向によって決定される。
【0030】
また、上ハウジング14a内にはコントローラ28やバッテリ30が設けられ、上ハウジング14aの側部には操舵ハンドル32の一端部が取り付けられる。操舵ハンドル32は略水平方向に延びるように設けられ、操舵ハンドル32を左右方向に揺動することによって推進機本体12の向きを変えて船体84(後述)の操舵を行うことができる。
【0031】
図2〜図4をも参照して、操舵ハンドル32内には軸方向に伸びる伝導シャフト34が設けられ、操舵ハンドル32の他端部には、伝導シャフト34に接続されるスロットルグリップ36が設けられる。スロットルグリップ36を周方向に回動することによって、電動モータ16の運転モードおよびその出力の大きさを調整することができる。
【0032】
伝導シャフト34の先端部にはプーリ38が取り付けられ、プーリ38と上ハウジング14a内のプーリ40とは2本のケーブル42によって連結される。プーリ40はプーリ38の回動に伴って回動する。
【0033】
プーリ40には回転軸44が取り付けられ、回転軸44の端部にはポテンショメータ46が設けられる。ポテンショメータ46によってプーリ40,38およびスロットルグリップ36の回転量ひいてはスロットルグリップ36が指示する位置を検出することができる。ポテンショメータ46の出力はコントローラ28に与えられる。
【0034】
また、プーリ40とポテンショメータ46との間において回転軸44には、略円板状のカムプレート48が取り付けられる。カムプレート48はプーリ40の回動に伴って回動する。
【0035】
図5をも参照して、カムプレート48の外周縁には停止モード検出用の切欠き50が形成される。また、カムプレート48には、カムプレート48を貫通する円弧状の溝52aおよび52bが溝52cを介して連続的に形成される。溝52a,52cは溝50bよりカムプレート48の中心部寄りに形成される。
【0036】
そして、カムプレート48の外周縁近傍には、切欠き50を検出できるように停止モードセンサ54が配置される。また、カムプレート48のポテンショメータ46側主面近傍には、支持軸56に支持された略短冊状のアーム部58が配置される。
【0037】
アーム部58のやや先端側にはカラー60が取り付けられ、カラー60はカムプレート48の溝52a〜52cに挿入される。
【0038】
また、アーム部58の先端部62には図示しないばね部材が取り付けられ、アーム部58はそのばね部材によって常時上方に付勢される。これによって溝52a〜52cに対するカラー60の相対的摺動が円滑になり、追随性が正確になる。また、カムプレート48の溝52cにカラー60が入り込むときのクリック感が大きくなり、使用者がニュートラル位置を認識しやすく、操作フィーリングが良くなる。
【0039】
さらに、アーム部58の基端部には棒状の押し部64が取り付けられる。
【0040】
図1に戻って、下ハウジング14bの側面上部には、下ハウジング14bを支持する取り付け部(スイベルブラケット)66が形成される。取り付け部66は、その両側に配置される一対のブラケット部(クランプブラケット)68にチルト軸70を介して上下方向にチルト可能に接続される。ブラケット部68はクランプ部72を有する。また、推進機本体12が下限位置までチルトダウンした状態(図1の状態)で取り付け部66が当接するストッパ部(不図示)が、ブラケット部68に設けられる。
【0041】
また、下ハウジング14bの外周やや上寄りには、押し部64によって作用される略π字状の係止部74がチルト可能に支持される。図2〜図4をも参照して、係止部74は、下ハウジング14bの外周に沿うように湾曲しかつ船体84(後述)とは反対側に設けられる板状のレバー部76と、レバー部76から延びるアーム部78とを含む。アーム部78は、下ハウジング14bに支持軸80によって上下方向にチルト可能に接続され、図示しないばね部材によってアーム部78の先端部側が常時下方向に付勢される。一方、ブラケット部68には、アーム部78の先端部が係止される受け棒82が取り付けられる。
【0042】
そして、ブラケット部68を船体84のトランサム86に取り付け、クランプ部72を締めることによって、船推進機10が船体84に取り付けられる。
【0043】
このような構成において、スロットルグリップ36の回動に伴ってカムプレート48が回動すると、カラー60は溝52a〜52cを相対的に摺動し、溝52aと溝52bとは高さが異なることからカラー60が上下動する。カラー60の上下動に応じて支持軸56を支点にアーム部58が揺動し、それに伴って押し部64が上下動し、レバー部76に作用する。たとえば、図5(a)に示すように、カラー60が溝52aの位置にあるときには、押し部64は下降しており、受け棒82に対するアーム部78の係止が解除される。これによってリバースロックが解除される。一方、図5(b)に示すように、カラー60が溝52bの位置にあるときには、押し部64は上昇し、アーム部78が受け棒82に係止する。これによってリバースロックがセットされる。なお、カラー60の挿入位置が溝52aから52bまたはその逆方向に移動するとき、溝52cを経由する。このように溝52cを経由することによって、リバースロックのオン/オフが切り替えられることを使用者に報知でき、操作性をさらに向上できる。
【0044】
ついで、図6を参照して、船推進機10の電気的構成について説明する。
コントローラ28には、ポテンショメータ46や停止モードセンサ54からの出力が与えられる。また、コントローラ28には、リレー88を介してバッテリ30が接続され、リレー88のスイッチング動作はメインスイッチ90によって制御される。図1に示すように、メインスイッチ90は操舵ハンドル34に設けられる。
【0045】
また、コントローラ28は、ポテンショメータ46の出力に基づいてモータドライバ92ひいては電動モータ16を制御する。さらに、コントローラ28によって、操舵に関する情報等が表示される表示部94が制御される。図1を参照して、表示部94は上ハウジング14aに設けられる。
【0046】
さらに、図7(a)〜(e)に、スロットルグリップ36の回動に対する、ポテンショメータ46の出力、停止モードセンサ54の出力、モータ電流およびリバースロック動作を示す。
【0047】
図7(a)に示すように、スロットルグリップ36を停止モードの状態(ニュートラルの状態)から、反時計廻りに回転すると前進モードとなり、一方、時計廻りに回転すると後進モードとなる。この実施形態では、スロットルグリップ36を最大±80°まで回動でき、中立点を含む±15°までの範囲が停止モードを指示する停止モード域、−15°〜−80°の範囲が前進モードを指示する前進モード域、15°〜80°の範囲が後進モードを指示する後進モード域となる。
【0048】
ポテンショメータ46の出力は、図7(b)に示すように、スロットルグリップ36が指示する位置に応じて直線状に変化する。したがって、ポテンショメータ46の出力に基づいてスロットルグリップ36が指示する位置を検出できる。
【0049】
停止モードセンサ54の出力は、スロットルグリップ36が停止モードを指示するときハイレベルとなる。図7(c)からわかるように、停止モードセンサ54がハイレベルとなる期間をスロットルグリップ36の停止モード域よりやや狭くしておく。このようにすれば、停止モードセンサ54の出力がハイレベルのときにはスロットルグリップ36が停止モードを指示していることを高精度に検出することができる。なお、停止モードセンサ54のハイレベル期間およびそのタイミングは、停止モードセンサ54の配置や切欠き50の長さ等で決められる。コントローラ28はポテンショメータ46の出力だけではなく停止モードセンサ54の出力をも参酌して電動モータ16を制御する。したがって、たとえポテンショメータ46に検出誤差があっても停止モードセンサ54の出力を参酌することによって、コントローラ28はスロットルグリップ36による停止モードの指示を精度よく認識できる。
【0050】
電動モータ16を流れるモータ電流は、図7(d)に示すように、スロットルグリップ36の位置に基づいて制御される。すなわち、電動モータ16の運転モードは、スロットルグリップ36の位置に基づいてコントローラ28によって制御される。なお、スロットルグリップ36が停止モードを指示しているときモータ電流はゼロであり、電動モータ16は停止する。
【0051】
リバースロックの動作については、図7(e)に示すように、スロットルグリップ36が中立点から時計廻り方向に略10°回転した時点でロック状態となる。すなわち、スロットルグリップ36が中立点から時計廻り方向に略10°回転した時点で、カラー60がカムプレート48の溝52bに位置し、それに応じて押し部64が上昇し、アーム部78の先端部側が下降し受け棒82に係止する。このようにしてリバースロックがセットされる。
【0052】
この実施形態では、ロック手段は、係止部74、指示軸80、受け部となる受け棒82およびばね部材(図示せず)を含む。指示手段はスロットルグリップ36を含む。検出手段はポテンショメータ46を含む。第1制御手段はコントローラ28を含む。第2制御手段は、押し部64と制御機構とを含み、制御機構は、カムプレート48、支持軸56、アーム部58、カラー60およびばね部材(図示せず)を含む。また、伝達手段は、伝導シャフト34、プーリ38,40、ケーブル42および回転軸44を含む。
【0053】
このような船推進機10によれば、スロットルグリップ36を前進モード域から後進モード域へ回動する一動作だけで、コントローラ28によって運転モードが後進モードに切り替えられるとともにその出力の大きさが設定され、さらに押し部64が上昇して係止部74が受け棒82に係止し推進機本体12が船体84にロックされる。したがって、リバースロックや運転モードの出力設定のために別途の手段や処理を要することなく、簡単な構造および操作で、後進モードおよびその出力の大きさを設定できるとともに、リバースロックによって推進機本体12ひいては船推進機10のチルトアップ側への揺動を阻止することができる。
【0054】
また、スロットルグリップ36が前進モード域から停止モード域の所定位置まで回動されると、押し部64が上昇して係止部74が受け棒82に係止し推進機本体12が船体84にロックされる。このとき、停止モード域の当該所定位置すなわちリバースロックが掛かる位置が中立点より後進モード域寄り(中立点から時計廻り方向に略10°回転した位置)であるので、運転モードを前進モード→停止モード→後進モードと切り替える場合には、リバースロックを掛けた直後に後進モードに切り替えることができる。その一方、運転モードを前進モード→停止モード→前進モードと切り替えるような場合には、不必要なリバースロックが掛かることはなく円滑に運転することができる。
【0055】
さらに、スロットルグリップ36が指示する位置ひいてはスロットルグリップ36の回動操作の状態をポテンショメータ46によって簡単に検出することができ、コントローラ28によって電動モータ16を簡単に制御することができる。
【0056】
ポテンショメータ46をハウジング14に収納することによって、ポテンショメータ46を保護できポテンショメータ46の劣化や破損を防止でき、ポテンショメータ46の性能を保つことができる。
【0057】
また、検出精度の高い停止モードセンサ54の出力をも参酌して電動モータ16を制御することによって、ポテンショメータ46の検出誤差を補正することができ、電動モータ16をより精度よく制御することができる。また、停止モードセンサ54をも用いることによってポテンショメータ46の断線を検出することができる。
【0058】
さらに、船体84に固定されたブラケット部68に受け棒82を取り付け、推進機本体12に設けられた係止部74を受け棒82に係止するだけで簡単にリバースロックできる。なお、受け部を船体84自体に設けてもよい。
【0059】
また、制御機構によって押し部64の動作を機構的に制御できるので、押し部64の制御ひいてはリバースロックの制御に電気的手段が不要となる。
【0060】
さらに、推進機本体12近傍のうち船体84とは反対側に設けられるレバー部76に押し部64が作用することによって、てこの原理でアーム部78を簡単にチルトでき受け棒82に係止させることができる。したがって、リバースロックのオン/オフがより円滑になる。また、推進機本体12近傍のうち船体84とは反対側はスペース上の自由度が大きいので、レバー部76を長く形成でき、舵を切った状態でも押し部64によってレバー部76を操作できる。
【0061】
なお、上述の実施形態では、停止モードでリバースロックをかけた後に後進モードに入ったが、これに限定されない。
【0062】
スロットルグリップ36が後進モード域まで回動された後に、電動モータ16を後進モードに切り替え、その後リバースロックをかけるようにしてもよい。これは、たとえばカムプレート48の溝52aを長くすることによって容易に実現できる。
【0063】
これによれば、後進モードに入った場合にのみ確実にリバースロックを掛けることができ、誤ってリバースロックが掛かることはない。
【0064】
また、図6および図8を参照して、第2制御手段は、電磁アクチュエータからなる押し部96、ポテンショメータ46、およびポテンショメータ46の出力に基づいて押し部96を制御する制御部となるコントローラ28を含んで構成されてもよい。
【0065】
これによれば、既存のコントローラ28によって既存のポテンショメータ46の出力に基づいて電磁アクチュエータからなる押し部96の動作を制御できるので、押し部96の制御ひいてはリバースロックの制御および構成が簡単になる。
【0066】
この場合、カムプレート48aは停止モードセンサ54によって停止モードを検出するために使用される。
【0067】
上述の船推進機10は、図9に示すように釣り船で用いることができる。
【0068】
また、この発明は、図10に示すようにポンツーン船で利用可能な船推進機10aに適用できる。船推進機10aでは、指示手段であるスロットルレバー100を用いてワイヤケーブル98を介して遠隔操作される。なお、船推進機10aはワイヤケーブル98を用いないで無線リモコンによって操作されてもよい。
【0069】
また、指示手段は足で操作可能なペダルタイプであってもよい。
【0070】
さらに、ポテンショメータ46に代えて、光学的な位置検出センサや磁気センサが使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の一実施形態の船推進機を示す図解図である。
【図2】図1の実施形態の主なリンク構造を示す斜視図である。
【図3】図1の実施形態の主なリンク構造を示す斜視図である。
【図4】図1の実施形態のロック手段付近を示す斜視図である。
【図5】(a)はリバースロックが解除されているときの制御機構を示す図解図であり、(b)はリバースロックが掛かっているときの制御機構を示す図解図である。
【図6】この発明の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】スロットルグリップの回動に対する各部出力等を示すグラフである。
【図8】この発明の他の実施形態の主なリンク構造を示す斜視図である。
【図9】この発明を釣り船に適用した場合を示す図解図である。
【図10】この発明をポンツーン船に適用した場合を示す図解図である。
【符号の説明】
【0072】
10,10a 船推進機
12 推進機本体
14 ハウジング
16 電動モータ
26 プロペラ
28 コントローラ
30 バッテリ
34 伝導シャフト
36 スロットルグリップ
38,40 プーリ
42 ケーブル
44 回転軸
46 ポテンショメータ
48,48a カムプレート
50 切欠き
52a,52b,52c 溝
54 停止モードセンサ
56,80 支持軸
58,78 アーム部
60 カラー
64,96 押し部
66 取り付け部
68 ブラケット部
70 チルト軸
74 係止部
76 レバー部
82 受け棒
84 船体
86 トランサム
92 モータドライバ
98 ワイヤケーブル
100 スロットルレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に取り付けられるべき推進機本体、および
前記推進機本体のチルトアップ側への揺動を阻止するためのロック手段を備え、
前記推進機本体は、
電動モータ、
回動可能でありかつその位置によって少なくとも前進モードと後進モードとを有する運転モードの種類および出力の大きさを指示可能な指示手段、
前記指示手段による指示を検出する検出手段、
前記検出手段の出力に基づいて前記電動モータの運転モードおよび出力を制御する第1制御手段、ならびに
前記指示手段による指示に基づいて前記ロック手段を制御する第2制御手段を備え、
前記指示手段の回動域は、少なくとも前記前進モードを指示するための前進モード域と前記後進モードを指示するための後進モード域とを含み、
前記推進機本体が前記船体に取り付けられているとき、前記指示手段の前記後進モード域への回動操作に応じて、前記第1制御手段が前記電動モータの前記運転モードを前記後進モードに切り替えるとともに前記第2制御手段が前記ロック手段を動作させて前記推進機本体を前記船体にロックすることを特徴とする、船推進機。
【請求項2】
前記運転モードはさらに停止モードを含み、
前記指示手段の回動域において、前記停止モードを指示するための停止モード域は中立点を含む所定範囲を有しかつ前記前進モード域と前記後進モード域とに挟まれ、
前記指示手段が前記後進モード域方向にかつ前記停止モード域の所定位置以上回動されると、前記第2制御手段が前記ロック手段を動作させて前記推進機本体を前記船体にロックする、請求項1に記載の船推進機。
【請求項3】
前記指示手段が前記前進モード域から前記後進モード域まで回動されると、前記第1制御手段が前記電動モータを前記後進モードに切り替えたのち前記第2制御手段が前記ロック手段を動作させて前記推進機本体を前記船体にロックする、請求項1に記載の船推進機。
【請求項4】
前記検出手段は前記指示手段が指示する位置を検出するためのポテンショメータを含み、
前記第1制御手段は前記ポテンショメータの出力に基づいて前記電動モータを制御する、請求項1に記載の船推進機。
【請求項5】
前記推進機本体は、前記ポテンショメータを収納するハウジングをさらに含む、請求項4に記載の船推進機。
【請求項6】
前記指示手段が前記停止モードを指示しているか否かを検出するための停止モードセンサをさらに含み、
前記第1制御手段は前記停止モードセンサの出力をも参酌して前記電動モータを制御する、請求項4に記載の船推進機。
【請求項7】
前記ロック手段は、前記推進機本体に設けられる係止部と前記推進機本体を前記船体にロックするために前記係止部が係止可能な受け部とを含む、請求項1に記載の船推進機。
【請求項8】
前記第2制御手段は、前記受け部に対して前記係止部を係止または係止解除させるために前記係止部に作用可能な押し部、および前記指示手段の回動量に応じて前記押し部の動作を機構的に制御する制御機構を含む、請求項7に記載の船推進機。
【請求項9】
前記第2制御手段は、前記受け部に対して前記係止部を係止または係止解除させるために前記係止部に作用可能な電磁アクチュエータからなる押し部、前記指示手段が指示する位置を検出するためのポテンショメータ、および前記ポテンショメータの出力に基づいて前記押し部を制御する制御部を含む、請求項7に記載の船推進機。
【請求項10】
前記係止部は、前記推進機本体近傍のうち前記船体とは反対側に設けられるレバー部と、前記レバー部から前記船体側に延びかつ前記推進機本体にチルト可能に設けられ前記受け部に係止可能なアーム部とを含み、
前記押し部は前記レバー部に対して作用可能に配置される、請求項8または9に記載の船推進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−201337(P2008−201337A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41833(P2007−41833)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)