説明

船舶のバラスト水の処理装置

【課題】簡単な構成で、バラスト水中の微生物などを高速水流の剪断作用や高速回転体による衝撃によって微粉砕して死滅させる。
【解決手段】船のバラスト水の処理装置1は、バラストタンク2に一方の港の海からバラスト水を供給するポンプPの上流側と下流側に各々供給弁V1U、V1Dを備えた供給管路や、他の港でタンク2からバラスト水をポンプPで海に排出するようにポンプ上流側と下流側に各々排出弁V2U、V2Dを備えた排出管路や、タンク2からバラスト水をポンプPで吸引後にタンク2に戻すように上流側排出弁と下流側供給弁を備えた循環管路で、ポンプPの下流側部分管路の隣接したバラスト水処理部100によって、その円筒壁で限定された環状流路内にポンプでバラスト水を8m/秒以上の高速度で供給し、円筒壁近傍での剪断作用や内部の150rpm以上の高速度の回転体による衝撃力によってバラスト水中の微生物や細菌を微粉砕して死滅させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラスト水の処理装置、特に船舶のバラスト水に含まれる微生物や細菌などを衝撃力などで微粉砕して死滅させるようにした船舶のバラスト水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ばら積み貨物船やタンカーなどの船舶において、荷降ろし後に船舶のバランスを取るために積み込んだバラスト水が寄港先で荷積み時に捨てられる。この際にバラスト水に含まれていた微生物や細菌などが一緒に放出され、生態系への悪影響や病原体の拡散などが憂慮されていた。これに対処するために、国際海事機関(IMO)の委員会は新たな国際条約を採択し、バラスト水とバラストタンクの底の泥の中の生物を一定以下に抑えることを義務付けることになった。
【0003】
このような国際的なバラスト水に対する条約採択に対応できるバラスト水の処理方式として、バラスト水の供給管路に高電圧パルスを印加してバラスト水中の微生物や細菌などを損傷・無害化する処理装置を設けたもの(例えば、特許文献1参照)や、バラストタンクの気相部において酸素濃度が2%以下になるように窒素ガスを供給してタンクの防食を兼ねてバラストタンク内の微生物や細菌などを死滅させるもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開2002−19216号公報の明細書。
【特許文献2】特開2002−234487号公報の明細書。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の前者のバラスト水処理方式は、処理水中に臨む電極間でアーク放電を発生させるために先ず被処理バラスト水を100℃に加熱し、1000ナノ秒以下のアーク放電で水蒸気にして体積膨張率を1244とし、引き続きアーク放電で100℃の水蒸気を8000℃前後に加熱して体積膨張率を36とするものであり、これらの大きな体積膨張によって強力な衝撃波を発生するようにしている。従って、流れている大量のバラスト水を処理するには大きなエネルギが必要になると言う短所があった。後者のバラスト水処理方式は、バラスト水の供給排出管路とは別に液体窒素製造装置と液体窒素タンクと蒸発器と窒素ガス供給管路とバラストタンク内圧制御システムなどを必要とし、付帯設備として大がかりな窒素ガス供給設備を必要とすると言う短所があった。
本願発明の目的は、バラスト水の供給及び排出の管路に組み込んで剪断作用や衝撃力と言った機械力によってバラスト水中の微生物などを死滅させることができるもので、バラスト水ポンプも利用し得てエネルギー消費が少なく、また付帯設備も少なく、構造が極めて簡単で保守の容易な船舶のバラスト水の処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の船舶のバラスト水の処理装置は、
船舶のバラストタンクと、
該バラストタンクへ船舶外の一方の水源からバラスト水を供給するポンプを備えると共に、該ポンプの上流側と下流側とに各々供給弁を備えた供給管路と、
上記バラストタンクからバラスト水をポンプによって船舶外の他方の水源に排出するように該ポンプの上流側と下流側とに各々排出弁を備えた排出管路と、
上記供給用ポンプの下流側の部分管路にポンプに隣接して配置されたバラスト水処理部と、を有しており、
そこで、上記バラスト水処理部は、円筒壁で限定された環状流路内にポンプによってバラスト水を少なくとも8m/秒の高速度で環状流路に供給して高速水流を発生し、少なくとも円筒壁近傍での剪断作用と、内部で150rpm以上の高速度で回転する回転体による衝撃力とによってバラスト水に含まれている微生物や細菌を微粉砕して死滅させることを特徴としている。
【0006】
船舶のバラスト水の処理装置は、更に上記バラストタンクから上記上流側排出弁を備えた部分排出管路を経てバラスト水を上記供給用ポンプによって取り込み、微粉砕処理して上記下流側供給弁を備えた部分供給管路を経てバラストタンクに戻すように循環管路を形成している。
【0007】
上記供給用ポンプと上記排出用ポンプとは、同一ポンプで構成される。
また上記バラスト水処理部のポンプは、上記供給用ポンプ及び上記排出用ポンプを構成すると共にバラスト水を取り込む第一ポンプと、上記環状流路内に高速水流を発生する第二ポンプとから構成される。
【0008】
上記バラスト水処理部は、上記供給管路において開閉弁を備えたバイパス管路によってバイパスされる。
また上記バラスト水処理部は、バラスト水中に含有された微生物や細菌を微細化して死滅させる装置であって、ほぼ同心状態で2層以上の円筒壁を有し、隣り合う円筒壁間に連絡部を介して互いに連通した環状流路を設けると共に上記環状流路に連絡部を介して連通する流路を最内部の円筒壁内に有し、頂壁と底壁とで囲まれた円筒容器と、上記環状流路及び上記流路の少なくともいずれか一つに微生物などを含有したバラスト水を被処理流体として供給する供給手段と、上記環状流路及び上記流路の少なくともいずれか一つから超微細化された微生物などを溶融した流体を排出する排出手段と、上記供給手段と上記環状流路及び上記流路の少なくともいずれか一つから被処理バラスト水を吸引して、上記環状流路の少なくともいずれか一つに加圧して供給して円周方向に8m/s以上の高速流を発生させ、その高速流による剪断作用などの機械力によって微生物などを超微細化する噴射手段と、上記円筒容器内において150rpm以上で高速回転して被処理バラスト水に衝撃力を作用させる回転体とを有している。
【0009】
上記円筒容器は、ケーシングを成す最外部の円筒壁と、該ケーシング内において底壁を有し、ケーシング頂壁の上方に突出した頂壁を有すると共に上記連絡部をケーシング頂壁の近くの内部に有した突出内部円筒壁とを有し、
上記噴射手段は、上記内部円筒壁の底壁に被処理流体の吸引部を有すると共に、吸引した被処理流体を最外部環状流路内に接線方向に噴射する噴射部を上記ケーシングの最外部円筒壁に有し、
上記回転体は、上記突出内部円筒壁の突出部の内部に設けられる。
【0010】
上記円筒容器は、ケーシングを成す最外部の円筒壁と、該ケーシング内において底壁を共用し、ケーシング頂壁に対して間隔を取った内部円筒壁とを有し、
上記噴射手段は、上記内部円筒壁の底壁に被処理流体の吸引部を有すると共に、吸引した被処理流体を最外部環状流路内に接線方向に噴射する噴射部を上記ケーシングの最外部円筒壁に有し、
上記回転体は、上記間隔部に設けられる。
【0011】
上記回転体は、垂直、斜め、横向きのいずれかで一個又は複数個、又はそれらを組み合わせて複数個設けられ、また回転平板に多数の羽根やピンを取り付けて構成され、それら羽根やピンと対向した固定羽根や固定ピンを設けた固定体と対向される。
更に上記回転体は、上記円筒容器の内部上部に、又は上記ケーシングの内部上部において回転駆動されるように配置され、また上記排出手段は、上記回転体のレベルに排出口を有することができる。
【0012】
上記噴射手段は、渦巻きポンプとエジェクター部とから構成され、該エジェクター部には空気を吸入する空気吸入部を有することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、本発明の船舶のバラスト水の処理装置では、一方の荷降しの寄港地でバラストタンクへ船舶外の水源からバラスト水を供給するポンプを備えると共に該ポンプの上流側と下流側とに各々供給弁を備えた供給管路において供給用ポンプの下流側の部分管路にポンプに隣接してバラスト水処理部を配置しているために、荷降し港でのバラスト水の積み込み過程でバラスト水を処理することができ、また荷積み港で各弁の開閉操作によって供給用ポンプ等のポンプを利用してバラスト水を排出管路から排出する排出過程でも処理することができる。その場合、バラスト水処理部は、供給用ポンプの下流側の部分管路に該ポンプに隣接して配置されているために該ポンプを利用してバラスト水が供給され、ポンプの共用が可能で設置数を減らすことができる。バラスト水処理部では、円筒壁で限定された環状流路内にポンプによってバラスト水が少なくとも8m/秒の高速度で環状流路に供給され、少なくとも円筒壁近傍での層流間の剪断作用や、内部で150rpm以上の高速度で回転する回転体による衝撃力とによってバラスト水に含まれている微生物や細菌などが微粉砕されて死滅させることができる。その場合にバラスト水中に溶融している空気から生じる気泡の破裂によるキャビテーション作用による衝撃力によっても微生物などを死滅させることも期待できる。かくして処理部でもバラスト水供給ポンプを共用でき、また付帯設備も複数の円筒壁によって環状流路を形成すると共に内部に回転体を備えた簡単な構成の処理部だけであり、構造が極めて簡単で保守の容易な船舶のバラスト水の処理装置を提供できる。
【0014】
船舶のバラスト水の処理装置が、更に上記バラストタンクから上記上流側排出弁を備えた部分排出管路を経てバラスト水を上記供給用ポンプによって吸引し、上記下流側供給弁を備えた部分供給管路を経てバラストタンクに戻すように循環管路を形成すると、各弁の開閉操作によって供給用ポンプを利用してバラストタンクからのバラスト水を循環管路を利用して処理することで時間的に余裕のある航海中に処理することもでき、バラスト水処理形態の選択の幅を広げることができる。
【0015】
上記供給用ポンプと上記排出用ポンプとは、同一ポンプで構成され、ポンプの共用で構造を簡便化できる。
また上記バラスト水処理部のポンプは、上記供給用ポンプ及び上記排出用ポンプを構成する第一ポンプと、環状流路に高速水流を発生する第二ポンプとから構成され、専用の第二の高速水流発生ポンプによって環状流路に高速水流を発生してバラスト水中の微生物などを効果的に死滅させることができる。
【0016】
上記バラスト水処理部は、上記供給管路において開閉弁を備えたバイパス管路によってバイパスされ、それらの弁の開閉操作で保守点検を適時行うことが可能になる。
また上記バラスト水処理部では、ほぼ同心状態の2層以上の隣り合う円筒壁間に連絡部を介して互いに連通した環状流路か、最内部の円筒壁内の流路のいずれか一つに供給された微生物などを含有した被処理バラスト水は、供給部とは別の吸引部から噴射手段によって吸引され、上記環状流路に加圧して供給されて円周方向に8m/s以上の高速流が発生され、その高速流による剪断作用などの機械力によって微生物などがミクロンのレベルに超微細化されると共に、上記円筒容器内において150rpm以上で高速回転する回転体によって衝撃を受けて同様にミクロンのレベルに超微細化されることになり、微生物などの細胞膜が破壊されて確実に死滅させられる。その場合、作動構成要素としては、ポンプ等の噴射手段と、モータ等で回転駆動される回転体が使用されているだけであり、長期間に渡って殆ど保守無しで安定した連続運転が可能である。
【0017】
上記円筒容器は、ケーシングを成す最外部の円筒壁と、該ケーシング内において底壁を共用し、ケーシング頂壁の上方に頂壁を有すると共に上記連絡部をケーシング頂壁の近くの内部に有した突出内部円筒壁とを有した簡単な構成とし、上記噴射手段は、上記内部円筒壁の底壁に被処理バラスト水の吸引部を有すると共に、吸引した被処理流体を最外部環状流路内に接線方向に噴射する噴射部を上記ケーシングの最外部円筒壁に有することで、被処理バラスト水に含有された微生物などが最外部環状流路内で壁面上の流体と高速移動する流体と間の流速差による剪断作用を受け、また内部円筒壁の底壁からの吸引による底壁への衝突によって超微細化が促進され死滅される。更に、最外部環状流路内で剪断作用を受けてきた被処理バラスト水は、連絡部を経て流入した上部の突出内部円筒壁の突出部内において、その比較的大きな空間で気液混合状態となり、回転抵抗が比較的小さく高速回転する回転体による衝撃を受けて更に超微細化が促進され微生物などが死滅される。
【0018】
上記円筒容器は、ケーシングを成す最外部の円筒壁と、該ケーシング内において底壁を共用し、ケーシング頂壁に対して間隔を取った内部円筒壁とを有した簡単な構成とし、上記噴射手段は、上記内部円筒壁の底壁に被処理バラスト水の吸引部を有すると共に、吸引した被処理バラスト水を最外部環状流路内に接線方向に噴射する噴射部を上記ケーシングの最外部円筒壁に有することで、被処理バラスト水に含有された微生物などが最外部環状流路内で壁面上の水流層と高速移動する水流層との間の流速差による剪断作用を受け、また内部円筒壁の底壁からの吸引による底壁への衝突によって超微細化が促進される。更に、最外部環状流路内で剪断作用を受けてきた被処理バラスト水は、上部の間隔部において回転体による衝撃を受けて更に超微細化が促進され、バラスト水中の微生物などが確実に死滅される。
【0019】
上記回転体は、垂直、斜め、横向きのいずれかで一個又は複数個、又はそれらを組み合わせて複数個設けられ、被処理流体の処理量に応じて造られる円筒容器の大きさに適した高速回転の可能な回転体の配置が可能になる。また上記回転体は、回転平板に多数の羽根やピンを取り付けて構成され、それら羽根やピンと対向した固定羽根や固定ピンを設けた固定体と対向されると、対向した同士の羽根やピンによって被処理バラスト水は、剪断作用や衝撃作用やキャビテーション作用などの複合した機械力を受けて超微細化が促進され、微生物などがより効果的に死滅される。
更に上記回転体は、上記円筒容器の内部上部に、又は上記ケーシングの内部上部において回転駆動されるように配置されることで、回転体は比較的回転に対する抵抗の少ない気液混合状態の個所で少ない動力で高速回転ができ、大きな衝撃力を流体中の微生物などに与えることができ、更に超微細化を促進して死滅させることができる。また上記排出手段は、上記回転体のレベルに排出口を有することで、ケーシング内部での流体レベルをほぼ排出口レベルに維持でき、被処理バラスト水を回転体により確実に接触させることができる。
【0020】
上記噴射手段は、渦巻きポンプとエジェクター部とから構成され、特に高圧ポンプなどの高価なポンプを必要とせずに微生物などの微細化が達成される。即ち、該エジェクター部には空気を吸入する空気吸入部を有することで、バラスト水中に空気を多く含有させて、強いキャビテーション作用を剪断作用や衝撃作用に併合させることができ、微生物などの微細化を促進させて微生物などの死滅を促進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の代表的な実施形態に係る船舶のバラスト水の処理装置を図面によって説明する。
図1において、本発明の代表的な実施形態の船舶のバラスト水の処理装置10は、荷降ろしを終えて空荷状態でスクリューを水中に沈めたり船体のバランスを取るために船舶1の外周部や船底に設けられたバラストタンク2と、該バラストタンク2へ一方の停泊港での荷降ろし中に海から吸入口3を経てバラスト水を供給するポンプPと、該ポンプPの上流側と下流側とに各々供給弁V1U、V1Dを備えた供給管路11(供給水流を矢印F1で示す)と、別の遠隔の停泊港で荷積みのためにバラストタンク2からバラスト水をポンプPによって船舶外の海に排出するように該ポンプPの上流側と下流側とに各々排出弁V2U、V2Dを備えた排出管路21(排出水流を矢印F2で示す)と、バラストタンク2からバラスト水をポンプPによって吸引後に該バラストタンク2に戻すように該ポンプPの上流側と下流側とに上記上流側排出弁V2Uと上記下流側供給弁V1Dを備えた循環管路31(循環水流を矢印F3で示す)と、ポンプPの下流側で直近の部分中間管路部12に配置されたバラスト水処理部100とを有しており、そこで、バラスト水処理部100は、ポンプPによって供給されてくる被処理バラスト水を円筒内壁で限定された環状流路内に第二ポンプP2によって少なくとも8m/秒の高速度で供給して、内円筒体内への落下による衝撃力や、円筒内壁近傍での水流層間での剪断力やバラスト水中の空気の気泡破裂によるキャビテーション作用によってバラスト水に含まれている微生物や細菌を微粉砕して死滅させるようにしている。
【0022】
ポンプPは、供給用ポンプと排出用ポンプと循環用ポンプとを兼ねており、またインバータ電動モータで駆動する方式を取ることでバラスト水処理部40への高速水流の供給にも使用され得るが、配管を簡便化するために高速水流発生用に第二ポンプP2を用意している。高速流による部材の損耗を防止するために、ポンプPの下流側において吸入口3と上流側供給弁V1Uとの間に砂などを捕捉するフィルター(図示省略)が適宜設けられる。更に、バラスト水処理部100の点検や修理のために、図2に示すようにバラスト水処理部100をバイパスするバイパス管路19と、バイパス管路19の開閉弁VBと、バラスト水処理部100の前後の開閉弁VBU、VBDが設けられる。
【0023】
バラスト水供給(吸入)過程での処理運転:
吸入口3からポンプPまで延びて上流側の供給弁V1Uを備えた吸入管路部11Aと、ポンプPとバラスト水処理部100まで延びてそれらを備えた中間管路部12と、バラスト水処理部100からバラストタンク2まで延びて下流側の供給弁V1Dを備えた吐出管路部13とから構成された供給管路11において、バラストタンク2にバラスト水を供給する過程でポンプPを運転し、上記供給弁V1U、V1Dを開放すると共に排出弁V2U、V2Dを閉鎖してバラスト水の処理運転を行う。この処理運転は、航海が短い場合に実施され、航海が長い場合は省くこともできる。
【0024】
バラスト水排出過程での処理運転:
バラストタンク2から延びていて上流側排出弁V2Uを備えて吸入管路部11Aに上流側供給弁V1UとポンプPとの間で接続された排出上流側管路部22と、共有の中間管路部12と、吐出管路部13から船外まで延びた排出下流側管路部23とから構成された排出管路21において、バラストタンク2から船舶外にバラスト水を排出する過程でポンプPを運転し、上記排出弁V2U、V2Dを開放すると共に供給弁V1U、V1Dを閉鎖してバラスト水の処理運転を行う。比較的短い航海で、荷積み港のバラスト水の規制が厳しい場合に効果を発揮する。
【0025】
航海中でのバラスト水循環過程での処理運転:
上記排出上流側管路部22と上記中間管路部12と上記吐出管路部13とから構成された循環管路31において、バラストタンク2の底部から引き出して上部へ戻す循環過程でポンプPを運転し、上流側の排出弁V2Uと下流側の供給弁V1Dを開放すると共に上流側の供給弁V1Uと下流側の排出弁V2Dを閉鎖してバラスト水の処理運転を行う。この処理運転は、比較的長い航海中において適宜顕微鏡等でバラスト水中の生息微生物や細菌をチェックして効果的に行われる。
【0026】
代表例のバラスト水処理部100は、図3に示すように、被処理バラスト水中に含有された微生物などを数ミクロンレベルまで超微細化して死滅させるもので、頂板110aと底板110bとを有した外部円筒体110と、該円筒体110にその中央部で上下に貫くように結合され、頂板130aと底板130bとを有した内部円筒体130と、それら隣り合う円筒体110、130の間に設けられ、内部で頂板110a近くに内部円筒体130の上部に形成された複数の連絡開口部150を介して互いに連通した外部環状流路120と、内部円筒体130内の内部流路160とを有したケーシングの円筒容器100Aと、内部円筒体130の下部内に微生物などを含有したバラスト水をポンプ(図1のP)で供給する供給パイプ210と、内部流路160から超微細化されて死滅した微生物などを含む処理済み水を排出するために内部円筒体130の上部に接続された排出パイプ220と、内部流路160における底部から吸引パイプ260を介して被処理水を吸引して加圧し、環状流路120の下部に吐出パイプ270を介して接線方向から供給して円周方向に、例えば30m/s程度の高速度の水流F10を発生させ、その高速水流による剪断作用やそれに伴うキャビテーションなどの機械力によって微生物などを超微細化する渦巻きポンプなどの噴射ポンプP2と、内部円筒体130内の上部突出部において、例えば1000rpm程度の高速度で回転して環状流路120を旋回して上昇して来て複数の連絡開口部150から流入して来る被処理水中の微生物などに衝撃を与えて数ミクロンレベルに超微細化する回転体300とを有している。内部流路160でも、被処理水が噴射ポンプP2によって底部から吸引されるために底板130bに激突し、滝壷効果のような衝撃とキャビテーションとによって被処理水中の微生物などが超微細化される。そのような衝撃は、環状流路120における頂板110aと底板110bへの高速水流の衝突によっても起こされている。
【0027】
このバラスト水処理部100では、排出パイプ220の排出口を回転体300のレベルにして、被処理水を回転体300に接触させるように内部円筒体130内での流体レベルLをほぼ排出口レベルに維持するようにしている。また噴射ポンプP2の吐出パイプ270にベンチュリー部280を形成して空気をパイプ290から吐出高速水流中に混入させることができ、上記のようなキャビテーションの作用を強めることができる。空気の供給量はパイプ290の弁290aによって加減される。
【0028】
また回転体300は、図5(a)に示すように、インバータモータなどの電動可変速モータ(図示は省略)によって回転駆動される垂直な回転軸310と、これの下端に直交して結合された円盤320と、その下面に放射状に配列された多数の横長の短冊状板や突起などの突出体330とから構成されている。図5(b)に示すように、突出体340は上下方向に長い形状も取ることができる。更に、図5(c)に示すように、回転体300は、突出体350として円盤320の下面に放射状にピンを配列し、これら移動ピンに対向した固定ピン360を円盤370に設けた固定体380と対峙した構成を取ることができる。固定体380は、内部円筒体130の上部に固定され、その円盤370には中央開口370aや、適宜多数の孔370bが形成される。また、回転体300は、規模やスペースに応じて複数配置され、更に図4に仮想線で示すように斜め回転体300Aや、横向き回転体300Bとしても配置される。
【0029】
排出パイプ220が内部円筒体130に接続している部分では、気液混合状態になっているために、図4(a)に示すように、水にセットリングしてから排出するようにダム構造部230が設けられている。ダム構造部230は、内部円筒体130の上部の排出開口130cに向き合い、上下に通孔を設けて該上部内面に取り付けられた邪魔板230aと、開口130cに連通して内部円筒体130の外部に設けられ、溶解された有機物を含んだ水を混合状態の気体から分離してセットリングする略直方体の箱230bと、箱230bに接続された排出パイプ220とから構成されている。箱230bの内部のダム部230cには、頂板の外部からハンドル230dによって上下動される堰板230eが設けられている。
【0030】
図4(b)に示すダム構造部230’も基本的には図4(a)に示すものと同じであるが、邪魔板230aに代えて回転体300を取り囲む構造物230gが設けられている。構造物230gは、内部円筒体130の上部に回転体300と向かい合って固定された多孔円盤240hと、この上に回転体300の周囲を取り囲むように取り付けられた多孔円筒壁240iとを有しており、セットリングの他に超微細化を強化する。
【0031】
バラスト水処理部の変形例500を図6によって説明すると、上記代表例よりも簡単な構造を有しており、ケーシングを成す外部円筒体510と、これに半径方向に間隔を置くと共にケーシング頂板510aに対して間隔を取った内部円筒体530の2つの同心状態の円筒体510、530を有し、それら隣り合う円筒体510、530の間に連絡間隔部550を介して互いに連通した外部環状流路520と内部円筒体53内の内部流路560とを設け、外部円筒体510と頂板510aと底板510bとで囲まれた円筒容器500Aと、環状流路520にフレーク状の汚泥を含有した被処理バラスト水をポンプ(図1のP2)で供給するように外部円筒体510の下部に接続された供給パイプ610と、内部流路560から超微細化された微生物などを含んだ処理済み水を排出するために内部円筒体530の上部に接続された排出パイプ620と、内部流路560における底部から吸引パイプ260を介して被処理水を吸引して加圧し、環状流路520の下部に吐出パイプ270を介して接線方向から供給して円周方向に、例えば30m/秒程度の高速度の水流F10を発生させ、その高速水流による剪断作用やそれに伴うキャビテーションなどの機械力によって微生物などを超微細化する渦巻きポンプなどの噴射ポンプP2と、円筒容器500A内の上部において、具体的には内部円筒体530の上方で、例えば1000rpm程度の高速回転して環状流路52を旋回して上昇して来る被処理バラスト水中の微生物などに衝撃を与えて数ミクロンレベルに超微細化する回転体300とを有している。内部流路560でも、被処理水が噴射ポンプP2によって底部から吸引されるために底板510bに激突し、滝壷効果のような衝撃とキャビテーションによって被処理バラスト水中の微生物などが超微細化される。排出パイプ620の接続部のダム構造部は、上記代表実施例と同じである。
【0032】
[実施例1]
バラスト水処理部100、500は、供給パイプ210、610から供給される被処理水量と排出パイプ220、620から排出される排出量とが同じになった段階で定常運転状態になる。内部円筒体130、530の一定容積に対して供給量及び排出量を増やすと、被処理水が噴射ポンプP2を通過して繰り返し超微細化作用を受ける繰り返し数が減って超微細化程度が下がり、反対に供給量及び排出量を減らすと、被処理水が噴射ポンプP2を通過して繰り返し超微細化作用を受ける繰り返し数が増えて超微細化程度が上がる。従って、内部円筒体130、530の一定容積に対して供給量及び排出量を設定することが重要である。発明者の実施テストでは、噴射ポンプP2の後に流量計を設けて幾つかの所定時間内での繰り返し通過の合計流量を測定し、その合計流量を内部円筒体130、530の一定容積で割って繰り返し通過回数を算定し、例えば150通過回数と300通過回数と1000通過回数における被処理水の状態を観察し、最も良い状態の通過回数を決める。汚泥などの生物分解に最も良い状態は、300通過回数で得られ、微生物などが良く超微細化されて24時間静置しても水と超微細化された微生物などが分離せず溶融ができており、温度上昇も20℃から45℃までで、汚泥などの生物分解に活躍する大腸菌や他の細菌の生存数が最大であった。因みに、150通過回数では24時間静置すると水と超微細化されたものとが分離し、超微細化度が不足しており、1000通過回数では24時間静置しても水と超微細化されたものとが分離しないが、温度上昇も52℃に達して超微細化作用と共に大腸菌の生存数を激減させており、他の細菌の生存数も減少させており、1000通過回数以上がバラスト水処理に適している。従って、1000通過回数以上の超微細化状態が達成されるように、噴射ポンプの容量と内部円筒体130、530の容積が決められ、またそれらに対して被処理水の供給量(排出量)が決められる。
【0033】
[実施例2]
バラストタンク2では、上記バラスト水処理部100によって処理されたバラスト水に対して発酵菌が添加される設備が設けられる。発酵菌を添加する設備として、ラクトバチルス菌などの発酵菌種を収容した種菌槽と、糖蜜を含む栄養物を収容した糖蜜栄養槽と、水槽から水が供給されると共に種菌槽から発酵菌種を、糖蜜栄養槽から糖蜜栄養分をそれぞれ供給されて発酵菌を大量に培養する培養槽と、水槽に隣接されて水の供給を受けると共に培養槽から培養された発酵菌の供給を受けて水増した発酵菌を一時保管しておき、水中ポンプによってバラストタンク2に送り出す発酵菌供給槽とを備えた発酵菌培養部が用意される。水としては上記バラスト水処理部100と同じ原理で水のクラスターを微粉砕した処理水を利用できる。因みに、バラスト水処理部100、500において、高速水流速度を30m/秒とし、1000通過回数で得られた回転体230の回転速度とミクロンレベルへの微細化度の関係を図7に示す。微細化度は、回転体230の運動量(mv2)に、即ち回転速度の2乗に比例するものと考えられる。従って、バラスト水中の微小生物を完全に死滅させるには回転体230の回転速度を1000rpmよりも高く且つ通過回数を1000回よりも多くすることで達成可能である。
【0034】
類似テストによって試料液体中の原生動物に対するバラスト水処理部と発酵菌の効果を観察した。
バラスト水とは異なるが、富山食肉センターの汚泥槽から採取した微生物や細菌などが生息した試料液体に対して処理部40と発酵菌の効果を確認した(2004年2月9日)。汚泥槽から採取した1m3 の汚泥を水に解き、処理部45によって7時間に渡って微粉砕してから濃度20%の発酵菌液をいれて撹拌して15℃で昼夜発酵させた。
【表1】

テスト結果:試料液体中の原生動物に対するバラスト水処理部と発酵菌の殺傷効果が
確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の代表的な実施形態の船舶のバラスト水の処理装置の説明図。
【図2】同装置のバラスト水処理部のバイパス構成を示す部分説明図。
【図3】代表実施例のバラスト水処理部の一部切り欠き縦断面図。
【図4】同バラスト水処理部の排出パイプの排出部の縦断面部分図であり、(a)は排出部の第一例を、(b)は排出部の第二例を示している。
【図5】(a)、(b)及び(c)は、バラスト水処理部置の三つの形態の回転体をそれぞれ示した説明図。
【図6】変形例のバラスト水処理部の一部切り欠き縦断面部分図。
【図7】同装置におけるバラスト水処理部の回転体の回転速度とミクロンレベルへの微細化度の関係を示したグラフ。
【符号の説明】
【0036】
1 船舶
2 バラストタンク
10 船舶のバラスト水の処理装置
11 供給管路
11A 上流側供給管路部
12 部分管路
19 バイパス管路
21 排出管路
22 上流側排出管路部
31 循環管路
100 代表例のバラスト水処理部
500 変形例のバラスト水処理部
100A 円筒容器
110、130 円筒壁(円筒体)
110a 頂壁(頂板)
110b 底壁(底板)
120 環状流路
150 連絡部(開口)
160 流路
210 供給手段(供給パイプ)
220 排出手段(排出パイプ)
250 噴射手段(噴射ポンプ)
260 吸引部(吸引パイプ)
270 噴射部(吐出パイプ)
280 エジェクター部
300 回転体
300A 斜め回転体
300B 横向き回転体
330 羽根
350 ピン
360 固定ピン
380 固定体
500A 円筒容器
510 外部円筒壁(外部円筒体)
510a 頂壁
530 内部円筒壁
510a 頂壁(頂板)
510b 底壁(底板)
550 連絡部
560 流路
610 供給手段(供給パイプ)
620 排出手段(排出パイプ)
P 第一のポンプ(供給用ポンプ、排出用ポンプ、循環用ポンプ)
P2 第二のポンプ
V1U 上流側供給弁
V1D 下流側供給弁
V2U 上流側排出弁
V2D 下流側排出弁
VB 開閉弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラストタンクと、
該バラストタンクへ船舶外の一方の水源からバラスト水を供給するポンプを備えると共に、該ポンプの上流側と下流側とに各々供給弁を備えた供給管路と、
上記バラストタンクからバラスト水をポンプによって船舶外の他方の水源に排出するように該ポンプの上流側と下流側とに各々排出弁を備えた排出管路と、
上記供給用ポンプの下流側の部分管路にポンプに隣接して配置されたバラスト水処理部と、を有しており、
そこで、上記バラスト水処理部は、円筒壁で限定された環状流路内にポンプによってバラスト水を少なくとも8m/秒の高速度で環状流路に供給して高速水流を発生し、少なくとも円筒壁近傍での剪断作用と、内部で150rpm以上の高速度で回転する回転体による衝撃力とによってバラスト水に含まれている微生物や細菌を微粉砕して死滅させることを特徴とする船舶のバラスト水の処理装置。
【請求項2】
船舶のバラスト水の処理装置は、更に上記バラストタンクから上記上流側排出弁を備えた部分排出管路を経てバラスト水を上記供給用ポンプによって取り込み、微粉砕処理して上記下流側供給弁を備えた部分供給管路を経てバラストタンクに戻すように循環管路を形成している請求項1記載の装置。
【請求項3】
上記供給用ポンプと上記排出用ポンプとは、同一ポンプで構成されている請求項1記載の装置。
【請求項4】
上記バラスト水処理部のポンプは、上記供給用ポンプ及び上記排出用ポンプを構成するとぷ共にバラスト水を取り込む第一ポンプと、上記環状流路内に高速水流を発生する第二ポンプとから構成されている請求項1記載の装置。
【請求項5】
上記バラスト水処理部は、上記供給管路において開閉弁を備えたバイパス管路によってバイパスされている請求項1記載の装置。
【請求項6】
上記バラスト水処理部は、バラスト水中に含有された微生物や細菌を微細化して死滅させる装置であって、
ほぼ同心状態で2層以上の円筒壁を有し、隣り合う円筒壁間に連絡部を介して互いに連通した環状流路を設けると共に上記環状流路に連絡部を介して連通する流路を最内部の円筒壁内に有し、頂壁と底壁とで囲まれた円筒容器と、
上記環状流路及び上記流路の少なくともいずれか一つに微生物などを含有したバラスト水を被処理流体として供給する供給手段と、
上記環状流路及び上記流路の少なくともいずれか一つから超微細化された微生物などを溶融した流体を排出する排出手段と、
上記供給手段と上記環状流路及び上記流路の少なくともいずれか一つから被処理バラスト水を吸引して、上記環状流路の少なくともいずれか一つに加圧して供給して円周方向に8m/s以上の高速流を発生させ、その高速流による剪断作用などの機械力によって微生物などを超微細化する噴射手段と、
上記円筒容器内において150rpm以上で高速回転して被処理バラスト水に衝撃力を作用させる回転体とを有している請求項1記載の装置。
【請求項7】
上記円筒容器は、ケーシングを成す最外部の円筒壁と、該ケーシング内において底壁を有し、ケーシング頂壁の上方に突出した頂壁を有すると共に上記連絡部をケーシング頂壁の近くの内部に有した突出内部円筒壁とを有しており、
上記噴射手段は、上記内部円筒壁の底壁に被処理流体の吸引部を有すると共に、吸引した被処理流体を最外部環状流路内に接線方向に噴射する噴射部を上記ケーシングの最外部
円筒壁に有しており、
上記回転体は、上記突出内部円筒壁の突出部の内部に設けられている請求項6記載の装置。
【請求項8】
上記円筒容器は、ケーシングを成す最外部の円筒壁と、該ケーシング内において底壁を共用し、ケーシング頂壁に対して間隔を取った内部円筒壁とを有しており、
上記噴射手段は、上記内部円筒壁の底壁に被処理流体の吸引部を有すると共に、吸引した被処理流体を最外部環状流路内に接線方向に噴射する噴射部を上記ケーシングの最外部円筒壁に有しており、
上記回転体は、上記間隔部に設けられている請求項6記載の装置。
【請求項9】
上記回転体は、垂直、斜め、横向きのいずれかで一個又は複数個、又はそれらを組み合わせて複数個設けられる請求項6から8のいずれか一つに記載の装置。
【請求項10】
上記回転体は、回転平板に多数の羽根やピンを取り付けて構成され、それら羽根やピンと対向した固定羽根や固定ピンを設けた固定体と対向される上記請求項のいずれか一つに記載の装置。
【請求項11】
上記回転体は、上記円筒容器の内部上部に、又は上記ケーシングの内部上部において回転駆動されるように配置されており、また
上記排出手段は、上記回転体のレベルに排出口を有している請求項6から8のいずれか一つに記載の装置。
【請求項12】
上記噴射手段は、渦巻きポンプとエジェクター部とから構成され、該エジェクター部には空気を吸入する空気吸入部を有している請求項6から8のいずれか一つに記載の装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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