説明

船舶のフラップ舵の舵装置

【課題】過剰な舵力や、後進時の進路不安定を生じることがなく、海中に在るフラップのリンク機構による推進効率の低下やキャビテーションおよび電気腐蝕を防ぐことができるフラップ舵を提供する。
【解決手段】外板31と舵取機甲板32間に設置した舵ホルダー3で内包したクラウン2に舵1を垂下し、一対の回転体とし、舵ホルダー3とクラウン2の間に旋回軸受4a・4bを配装し、舵ホルダー3で、フラップ舵1・クラウン2を回動自在に保持する。クラウン2の頂板2c上に、フラップ駆動機20を設置し、この駆動機20とフラップ1bの頂部をフラップ駆動軸5で連結し、フラップ1bを主舵1aに対し±35°〜±40°の範囲で回動出来るようにする。上部旋回軸受4aの上部位置におけるクラウン2に、歯車付き円環9を巻着固定し、この円環と舵取機甲板32に設置した舵取機21とを接続し、フラップ舵1・クラウン2を360°回動出来るようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶のフラップ舵のフラップを独立駆動とする舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラップリンク駆動舵が中小型船に採用され、船の旋回半径を小さくし、出入港時の操船をし易くするなどの効果を挙げている。しかし、この舵は、通常の運航時に過剰な舵力を発生させたり、後進時に進路を不安定にしたりする。又、フラップのリンク機構が海中に在るため、船の推進効率を下げ、リンク機構をキャビテーションや電気腐蝕により損耗させたりする。
1930年代にFlettner Rudderが発明されている。フラップ舵の先駆けで、主舵とその後尾に付加されたフラップから成り、主舵とフラップは夫々個別に駆動される。この舵の操縦性は高く、前述のフラップリンク駆動舵の持つ欠点もない。しかし、この舵は、どのような仕組みで主舵とフラップが作動されるのか明らかでなく、又実際にこの舵が稼動したかどうかの確認もされていない。フラップリンク駆動舵が次善の舵として中小型船に採用されているのが現状のようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 実願60−103270号 公報
【特許文献2】 公開実用平成3−40195
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】 大串雅信著 理論船舶工学(下巻)(p46、p245)海文堂出版 昭和48年8月20日七版
【非特許文献2】 船舶の舵装置 出願(申請)番号 特願2010−277445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、現状のフラップリンク駆動舵は、利点と欠点を併せ持つ舵で、現在のところ大型船への採用は見られない。一方、Flettner Rudderは操縦性において紙上での評価が高いものの、稼動実績に疑問があるうえ、主舵とフラップの駆動機構の仕組みがよく分かっていない。
【0006】
この発明は、上述のような問題点を解決するためになされたもので、フラップ舵のフラップリンク駆動機構を廃し、Flettner Rudderと同様のアイディアによりながらも、独自に考案した機構により、主舵とフラップを駆動する、操縦性の高い舵装置を得ようとするものである。具体的には、主舵を360°自在に回動させ、その上に、フラップを独立して単独に、主舵に対し±35°〜±40°自在に回動させる機構を備え、大型船にも採用されるフラップ舵の舵装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
外板と、その直上の舵取機甲板間に設置された舵ホルダーに内包され、且つ、主舵と、フラップのヒンジの延長線上に在る、フラップ駆動軸及びその付属金物を包含する、円筒とその底板及び頂板より成るクラウンに、主舵の後尾にフラップをヒンジで回動自在に結合して成るフラップ舵を垂下し、この両者を、回動中心軸を同一線上に置いて結合し、一対の回転体と成し、フラップの回動に関し、クラウンの頂板上にフラップ駆動機を設置し,この駆動機とフラップの頂部とを、フラップ駆動軸で連結し、フラップ駆動機により、フラップを主舵に対して±35°〜±40°の範囲で自在に回動出来るようにする。
一方、フラップ舵の回動に関し、外筒と内筒と底板及び頂板によって構成された記首の舵ホルダーに於いて、クラウンとの間に空環を形成せしめ、この空環の上部と下部に旋回軸受を配装し、フラップ舵・クラウンを、この旋回軸受を介して、舵ホルダーで回動自在に保持をし、上部旋回軸受の上部位置におけるクラウンに、歯車付円環を巻着固定し、この円環と、舵取機甲板上に設置した舵取機とを接続し、舵取機によりフラップ舵・クラウンを360°自在に回動出来るようにする。
【0008】
フラップ舵のフラップは、高さ方向を複数個に分割した構造とする。
【0009】
フラップ舵とクラウンの結合は、フラップ舵をクラウンに挿入して結合する方法とする。
【0010】
このように構成されたフラップ舵の舵装置においては、主舵とフラップは、舵取機により共に360°自在に回動される。フラップはこれに加えて、フラップ駆動機により、主舵に対し±35°〜±40°の範囲で自在に回動される。それ故、このフラップ舵は、主舵とフラップによって様々な翼形を作り出すことが出来る。
【発明の効果】
【0011】
従ってこの舵装置においては、主舵とフラップを自動制御することにより、船の運航状況に応じた最適な舵力を発揮する可能性を有する。この発明の効果には多様なものがあると予想されるが、これは今後の研究に待つこととして、現時点においては、下記の効果が期待出来る。
a)自動操舵時にフラップによる微調整が効くから、航走中の蛇行を最小限に止め、経済的な運航が出来る。
b)ヨーイング(理論船舶工学・下巻p46)を少なくすることが出来る。
c)フラップを主舵と反対方向に回動すれば舵軸に対するトルクは相反する形となるから舵全体のトルクを小さく出来る。(理論船舶工学・下巻p245)
d)右から左・左から右に転舵するとき前項の理屈から転舵速度を上げることが出来る。
e)大型船におけるオーバーシュートを抑制することが出来る。
f)舵は360°回動出来るから90°転舵すれば制動器の役割を果たす。
g)後進時に180°転舵すれば舵は前進時の形態をなし、舵は前進時と同様の効果を発揮する。(理論船舶工学・下巻p245)
h)この発明になる舵はシンプルである。在来舵の様な突起物は全くなく推進抵抗による船速のロスやキャビテーショや電触による損傷も大きく軽減される。
i)フラップリンク舵の様に複雑な機構を有しない、故障のリスクから逃れられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】 この発明の実施の形態を示すフラップ舵の舵装置の側面図である。
【図2】 図1の線A−Aに沿う断面図である。
【図3】 図1の線B−Bに沿う平面図である。
【図4】 図1の線C−Cに沿う切断図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
図1は、この発明の実施の形態を示すフラップ舵の舵装置の側面図である。図2は、図1の線A−Aに沿う断面図である。図3は、図1の線B−Bに沿う平面図である。図4は、図1の線C−Cに沿う切断図である。
【0014】
図において、1はフラップ舵、2はクラウン、3は舵ホルダー、4a・4bは旋回軸受である。この4群に、フラップ1bの回動のためのフラップ駆動機20とフラップ駆動軸5、及び、フラップ舵1・クラウン2の回動のための舵取機21と歯車付円環9が、フラップ舵の舵装置の構成メンバーに数えられる。このメンバーで構成される舵装置の概要は、次の通りである。
【0015】
クラウン2にフラップ舵1が垂下されて、一対の回転体に構成されている。一方、クラウン2を内包する形で、外板31とその直上の舵取機甲板32の間に、舵ホルダー3が設置されている。そして、舵ホルダー3とクラウン2の間に空環8が形成され、この空環8に旋回軸受4a・4bが配装され、フラップ舵1・クラウン2は、この旋回軸受4a・4bを介して、舵ホルダー3により回動自在に保持されている。このような形態の元、フラップ舵1・クラウン2は舵取機甲板32上に在る舵取機21で360°自在に回動され、その上に、フラップ1bは、クラウン2の頂板2c上に在るフラップ駆動機20によって、主舵1aに対し±35°〜±40°の範囲で自在に回動される。
この概要の説明に続いて、以下各部の構成・機能の詳細について説明する。
【0016】
フラップ舵1は、側面形状が台形の吊舵で、主舵1aとその後尾に、次項に記す、フラップ1bが付加されている。
【0017】
フラップ1bは主舵1aの後尾に、ヒンジ1cで回動自在に結合されている。そのフラップ1bは、高さ方向に4分割されている。夫々のフラップ1bはその両端にヒンジ1cが設けられ、主舵1aに結合されている。フラップ1b同士の両側面にはフラップ継手ピース1dが差し渡され、その片方はフラップに溶接され、他の片方はフリーに置かれている。
従って分割されたフラップ1b同士の構造上の強度的連続性はない。夫々のフラップ1bに発生する舵力はヒンジを介し主舵1aに伝達される。又、夫々のフラップ1bに発生するトルクは、フラップ継手ピース1dによってフラップからフラップへ伝達され、その集積がフラップ駆動軸5からフラップ駆動機21に及ぶ。
従来のフラップは、舵の全高に亘る一体型の重厚な構造となっている。ヒンジも同様に全高に亘り重厚に構成されている。これ等は舵圧によって発生する主舵・フラップの撓みを抑制しようとする意図によるものであるが、当該部はもともと薄い形状を成し、いくら物量を投入しても、特に高速船においては、舵圧による撓みを抑制することは難しい。
この撓みは主舵とフラップが同一の面内にあるときは、問題は起こらないが、両者が偏角を作るときには、お互いが引っ張り合い、ヒンジとその近傍に構造上のトラブルを発生させることがある。
因みに、二枚の板の両端を支持して、これを曲げながら両者に偏角を与えると、両者は中央部を最大に離れていく。この現象が主舵とフラップの間に発生する。殊に高速船の吊舵においては、撓み量も大きく、従来のフラップを固める構造では、この問題を解決することは出来ない。
この問題を解決するには、舵とフラップの撓みの発生を必然とし、この撓みに馴染むフラップ構造にする必要がある。それは、フラップを主舵の撓みに沿うようにし、且つ、主舵とフラップに相反する力の発生を極力抑制するように、フラップを短く分割し、その両端にヒンジを設け、加えて、フラップ同士の接続はトルクのみを伝達する構造にすることである。ここに提供するフラップ構造、即ち冒頭に述べたフラップの構造はこの考えに基づくものである。
【0018】
クラウン2は、後述の舵ホルダー3に内包され、主舵1aと、ヒンジ1cの軸中心線上に配設されるフラップ駆動軸5及びその付属金物の包含を可能とする大きさの、外筒2aとその底板2b及び頂板2cによって構成されている。底板2bは二重構造とされ、主舵1aを挿入するためのコーミング付舵挿入孔2dが設けられている。
【0019】
フラップ舵1とクラウン2との結合に関し、フラップ舵1は、クラウン2に挿入結合され、一対の回転体に構成されている。
その形態は、主舵1aは、その頂部からクラウン頂板2cまでの間伸長され、又、主舵1aの後部に在る、フラップ駆動軸5のトランク6が主舵1aに付加結合されている。
主舵1aは、この状態でクラウン2の下方より、底板2bのコーミング付舵挿入孔2dを通し、クラウンの頂板2cまで挿入され、この頂板2cに締結冶具とボルト7で着脱自在に結合されている。
この結合の特徴は、両者の結合を確かなものにするために、クラウン2に支持される主舵1aを出来るだけ拡幅して、主舵1aとクラウン2の接触部を広範に取るようにし、加えて,主舵1aの曲げ強度が高められるように配慮されていることである。
【0020】
フラップの回動に関し、クラウン2の頂板2c上にフラップ駆動機20が設置され、この駆動機20と、フラップの頂部がフラップ駆動軸5によって連結されている。
この機構によれば、フラップ1bに発生したトルクは、フラップ駆動軸5を介してフラップ駆動機20に伝播される。フラップ1bはフラップ駆動機20により、主舵1aに対し±35°〜±40°の範囲で自在に回動される。
【0021】
舵ホルダー3は、内外二重の円筒3a・3bと底板3c及び頂板3dにより構成され、外板31とその直上にある舵取機甲板32の間に、クラウン2を内包する形態で設置されている。
【0022】
フラップ舵1とクラウン2の回動に関し、ホルダー3とクラウン2の間に空環8が形成され、この空環8の上部と下部に旋回軸受4a・4bが配装されている。
この旋回軸受4a・4bには、フラップ舵1・クラウン2・フラップ駆動機20等の質量がアキシアル荷重として、舵圧による横向きの力がラジアル荷重として、又、夫々の荷重によるモーメントが働く。
フラップ舵1・クラウン2は、この旋回軸受4a・4bを介して、回動自在に舵ホルダー3によって保持されている。
歯車付円環9が、上部旋回軸受4aの上部に設けられた、クラウン下がりとめ10の位置におけるクラウン2に巻着固定されている。
舵取機甲板32上に、旋回モータにピニオンギヤを装着した形式の舵取機21が設置され、これに歯車付き円環9が接続されている。フラップ舵1・クラウン2は、歯車付円環9を介し、舵取機21よって360°自在に回動される。
【0023】
このように構成されたフラップ舵の舵装置においては、フラップ舵1・クラウン2は、フラップと共に舵取機21により360°自在に回動される。フラップ1bはその上に、主舵1に対し独立して、フラップ駆動機により±35°〜±40°の範囲で自在に回動される。
【符号の説明】
【0024】
1 フラップ舵、1a 主舵、1b フラップ、1c ヒンジ、1d フラップ継手ピース、2 クラウン、2a 外筒、2b 底板 2c 頂板、2d コーミング付舵挿入孔、3 舵ホルダー、3a 外筒、3b 内筒、3c 底板、3d 頂板,4a 上部旋回軸受、4b 下部旋回軸受、5 フラップ駆動軸、6 フラップ駆動軸のトランク、7 締結冶具とボルト、8 空環、9 歯車付円環、10 クラウン下がり止め、20 フラップ駆動機、21 舵取機、31 外板、32 舵取機甲板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外板と、その直上の舵取機甲板の間に設置された舵ホルダーに内包され、且つ、主舵とフラップ駆動軸及びその付属金物の包含を可能とする、外筒とその底板及び頂板とによって構成されたクラウンに、主舵の後尾にフラップをヒンジで回動自在に結合して構成されたフラップ舵を垂下し、この両者の回動中心軸を同一線上に置いて結合し、一対の回転体に形成し、一方、「外筒と内筒と底板及び頂板によって構成された記首の舵ホルダーと、クラウンとの間に空環を作り出し、この空環の上部と下部に旋回軸受を配装し、前述の如く、一対の回転体に形成されたフラップ舵・クラウンを、この旋回軸受を介して、舵ホルダーで回動自在に保持せしめ、」フラップの回動に関し、クラウンの頂板上にフラップ駆動機を設置し、この駆動機と、フラップの頂部とを、ヒンジの軸中心線上に配設されたフラップ駆動軸で連結し、フラップ駆動機により、フラップを主舵に対して±35°〜±40°の範囲で自在に回動可能と成し、一方、フラップ舵・クラウンの回動に関し、上部旋回軸受の上部位置におけるクラウンに、歯車付円環を巻着固定し、この円環と、舵取機甲板上に設置した舵取機とを接続し、舵取機によりフラップ舵・クラウンを360°自在に回動可能としたことを特徴とするフラップ舵の舵装置。
(注、「……」は既特許出願”船舶の舵装置”出願(申請)番号特願2010−277445から引用したものでである。)
【請求項2】
請求項1のフラップ舵のフラップの構造に関し、フラップの高さ方向を複数個に分割し、し、分割した夫々のフラップの両端を、主舵に回動自在にヒンジで結合し、隣り合うフラップには継手ピースを差し渡し、そのピースの片方はフラップに固着結合し、他方はフラップに接触接合としたことを特徴とするフラップ舵のフラップ構造。
【請求項3】
請求項1のフラップ舵とクラウンとの結合に関し、クラウンに垂下される主舵を、クラウンの底板より頂板までの長さだけ上方に伸長し、且つ、クラウンの後部に配設されるフラップ駆動軸のトランクを、前記の主舵の伸長部に付加結合し、この状態の主舵を、クラウンの底板のコーミング付舵挿入孔よりクラウンの頂板まで挿入し、主舵の頂部とクラウンの頂板とを着脱自在に結合したことを特徴とするフラップ舵とクラウンとの結合法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−196977(P2012−196977A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23306(P2011−23306)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【特許番号】特許第4925022号(P4925022)
【特許公報発行日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(510328146)