説明

船舶のリモコン装置及び船舶

【課題】複数の推進機の出力調整及びチルト・トリム角調整を行うための操作がし易いように、本体部の形状と各種スイッチの配置等を改善した船舶のリモコン装置を提供する。
【解決手段】複数の推進機を有する船舶の推進機の出力調整及びチルト・トリム角調整をするためのリモコン装置1において、箱形をした本体部2の左側面3と右側面4には推進機のシフト操作及びスロットル操作をするための前後に回動自在な操作レバー5,5がそれぞれ立設されており、本体部2の天面6に指先を前方に向けて手を載せた場合に、指先で操作できる位置に各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sを有すると共に、掌に接触する部分にはスイッチを配置しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶用推進機の遠隔制御装置に関するものであり、より詳しくは、複数の推進機の出力調整及びチルト・トリム角調整をするための船舶の遠隔制御装置のリモコン装置とそのリモコン装置を備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機等の船舶に使用される推進機では、その推進機の遠隔操作を、操縦席に設けた機械式の遠隔操作装置の一本の操作レバーで、シフト操作とスロットル操作の両操作を行うのが一般的であった。この遠隔操作装置は、操作レバーの中立位置から所定範囲の間の領域のいわゆるシフト領域では、スロットル弁の全閉状態を保持したままシフト操作のみを行い、操作レバーの前記所定範囲を超えた領域のいわゆるスロットル領域では、シフトした状態を保持したままスロットル弁のみを全閉から全開までの開閉操作をするように構成されている。
【0003】
また、従来の機械式の遠隔操作装置は、主操縦席及び上部操縦席に設置された遠隔操作装置と、船尾付近に配置された電動アクチュエータと、遠隔操作装置及びスイッチ盤上の各種スイッチ類と電動アクチュエータの間を電気的に結線する電線と、電動アクチュエータと船外機との間を機械的に結合するスロットルケーブル、シフトケーブル等で構成されている。
【0004】
また、従来の機械式の遠隔操作装置では、押圧操作しているときだけ空吹かしができる空吹かしボタンを操作レバーの回動軸の側面に配置しており、空吹かしボタンを一方の手で押圧操作しながら他方の手で操作レバーを回動させるスロットル操作を行うことで適正な空吹かし操作ができるようになっている。
【0005】
ところで、一般に、小型船舶の場合、特定の船外機が故障した場合であっても航行できるように、その船尾には二機又は三機といった複数の船外機を取り付ける場合もある。
【0006】
さらに、最近では、船舶の中央部には主操縦席が配置され、主操縦席の上方には、見晴らしのよい位置に上部操縦席が配置され、主操縦席及び上部操縦席から遠く離れた船外機を操作するため、各操縦席には、船外機に設けられた電子制御装置に接続されている、それぞれ別個のリモコン装置を配置した、いわゆるデュアルステーションタイプの電子式遠隔制御装置が採用されている。
【0007】
そして、電子式遠隔制御装置のリモコン装置としては、例えば、図7に示したように、前後方向に円弧状をした天面50を有する半円柱体の平面部を下にした形状の本体部51の左側面と右側面には推進機のシフト操作及びスロットル操作をするための前後に回動自在な操作レバー52,52がそれぞれ立設されている。そして、いずれか一方の操作レバー52の上部に設けられている水平ハンドル53の上面には、三つのチルト・トリム角調整スイッチ54P,54C,54Sが設けられている。(特許文献1を参照のこと)。
【特許文献1】米国特許第6280269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の機械式の遠隔操作装置では、操作レバーの回動軸の側面に押し続けている間だけ機能する機械式の空吹かしボタンが配置されていたため、操作レバーの回動操作に伴って空吹かしボタンが一緒に回動することになっていたから、空吹かしボタンを押している指も操作レバーの動きに合わせて一緒に回す必要がある。
【0009】
また、従来の電子式遠隔制御装置のリモコン装置では、各推進機に対応した複数のチルト・トリム角調整スイッチが操作レバー上面に集合して配置されていた。
【0010】
また、従来の電子式遠隔制御装置のリモコン装置では、限られた面積に複数の機能を実現させるスイッチをまとめて配置しているため、特定のスイッチに複数の機能を実現させることが行われており、操縦者は異種のスイッチの組み合わせ操作等の各種機能実現のための複数の態様からなる操作方法に習熟しなければならなかった。特に、左右一対の操作レバーで三機以上の推進機を制御する場合には、天面部に配置したスイッチと操作レバーとの対応関係が複雑でわかり難くかった。
【0011】
また、上述した従来のような、各種スイッチや表示ランプ等を本体部の天面にまとめて配置した電子式遠隔制御装置のリモコン装置では、チルト・トリム角を調整していないときに手を本体部の天面に載せた場合には、他のいずれかのスイッチや表示ランプ等に指や掌が触れることとなり、本体部の天面で手休めができなかった。
【0012】
この発明は、以上のような従来の船舶の機械式の遠隔操作装置や電子式遠隔制御装置の問題点を解消すべく、複数の推進機の出力調整及びチルト・トリム角調整を行うための操作がし易いように、本体部の形状と各種スイッチの配置等を改善した船舶のリモコン装置及びそのリモコン装置を備えた船舶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の推進機を有する船舶の推進機の出力調整及びチルト・トリム角調整をするためのリモコン装置であって、箱形をした本体部の左側面と右側面には前記推進機のシフト操作及びスロットル操作をするための前後に回動自在な操作レバーがそれぞれ立設されており、前記本体部の天面に指先を前方に向けて手を載せた場合に、指先で操作できる位置に各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチを有すると共に、掌に接触する部分にはスイッチを配置していないことを特徴としている。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記複数のチルト・トリム角調整スイッチは、前記天面の後方から前方に向けて放射状に開拡するように並列配置されていることを特徴としている。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記天面は平面から見て後方の幅が前方の幅より狭い略扇状をしており、前記天面の後方で前記本体部の左右側面を親指と小指とで挟み込める大きさであることを特徴としている。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記複数のチルト・トリム角調整スイッチと前記本体部との境界部で前記チルト・トリム角調整スイッチが前記本体部の天面より突出しており、推進機のチルト・トリム角調整時には前記チルト・トリム角調整スイッチを前記本体部の天面より下方に押し込むことで前記本体部内に組み込まれている接点部材が作動できるようにしていることを特徴としている。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の構成に加えて、前記本体部の天面の後方には、前記複数の推進機に対応する正常作動状態を示す作動表示ランプと異常作動状態を示す警告表示ランプを設けていることを特徴としている。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の構成に加えて、前記左右一対の操作レバーで三機の推進機を制御する場合において、左舷側推進機と右舷側推進機を制御する場合に対応する左右制御スイッチと中央推進機を制御する中央制御スイッチとを、前記本体部の後面側に設けていることを特徴としている。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の構成に加えて、前記本体部の左右側面のいずれか一方に、空吹かしスイッチを設けていることを特徴としている。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の構成に加えて、同一船舶に設けられている複数のリモコン装置のステーション切替スイッチは、各リモコン装置の近傍に配置されるメインスイッチ盤等の別個独立したスイッチ盤に設けていることを特徴としている。
【0021】
請求項9に記載の発明に係る船舶は、請求項1乃至8のいずれか一つに記載のリモコン装置を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
以上のような構成により、請求項1に記載の発明は、各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチを操作しようとして本体部の天面に掌を下に向けて手を載せた場合に、指先にチルト・トリム角調整スイッチが接触する状態にあり、掌には他のスイッチが配置されていないため、チルト・トリム角を調整しない状態での手休めとして本体部の天面を使用できる。
【0023】
請求項2に記載の発明は、複数のチルト・トリム角調整スイッチが天面の後方から前方に向けて放射状に開拡しているので、各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチを操作しようとして本体部の天面に掌を下に向けて手を載せた場合に、より自然に指先にチルト・トリム角調整スイッチが接触することになり、無駄な動きをせずに各推進機のチルト・トリム角を調整することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、天面は平面から見て後方の幅が前方の幅より狭い略扇状をしており、天面の後方で本体部の左右側面を親指と小指とで挟み込める大きさとしているので、本体部の天面に掌を下に向けて手を載せた場合に、本体部に対して親指と小指で手を支えることができるから、体勢が不安定な航行中であっても容易に各推進機のチルト・トリム角を調整することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明は、複数のチルト・トリム角調整スイッチと本体部との境界部でチルト・トリム角調整スイッチが本体部の天面より突出しており、推進機のチルト・トリム角調整時にはチルト・トリム角調整スイッチを本体部の天面より下方に押し込むことで本体部内に組み込まれている接点部材が作動できるようになっているため、チルト・トリム角調整スイッチの天面に指先や掌を載せただけでは各推進機のチルト・トリム角が変更されることがない。
【0026】
請求項5に記載の発明は、本体部の天面の後方には、複数の推進機に対応する正常作動状態を示す作動表示ランプと異常作動状態を示す警告表示ランプを設けているので、各推進機毎の正常作動状態又は異常作動状態を直感的に認識することができるから、異常事態が発生した場合でも操縦者は的確な対応が行えることとなる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、左右一対の操作レバーで三機の推進機を制御する場合において、左舷側推進機と右舷側推進機を制御する場合に対応する左右制御スイッチと中央推進機を制御する中央制御スイッチとを、本体部の後面側に設けているので、操作レバーの操作と左右制御スイッチと中央制御スイッチとの使い分けが同時に行えるから、どの推進機に対してどのような操作をするかといった操縦者の意思に従った操縦が行える。
【0028】
請求項7に記載の発明は、本体部の左右側面のいずれか一方に、空吹かしスイッチを設けているので、機械式の遠隔操作装置のように、操作レバーの回動操作を行っても空吹かしスイッチが操作レバーの動きに伴って回動することがないから、空吹かしスイッチを押している
指が連れ回りすることはないと共に、機械式の遠隔操作装置と同じ配置を採用しているため、操作レバーと空吹かしスイッチを同時に操作する際に違和感を感じることがない。
【0029】
請求項8に記載の発明は、同一船舶に設けられている複数のリモコン装置のステーション切替スイッチは、各リモコン装置の近傍に配置されるメインスイッチ盤等の別個独立したスイッチ盤に設けているので、チルト・トリム角調整スイッチ等の運転中の操作頻度の高いスイッチのみを本体部に配置し、運転中の操作頻度の低いステーション切替スイッチを本体部から排除されているから、複数のスイッチの実現できる機能の判別が容易となり、より操作性が向上する。
【0030】
請求項9に記載の発明に係る船舶は、請求項1乃至8のいずれか一つに記載のリモコン装置を設けているので、各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチを操作しようとして本体部の天面に掌を下に向けて手を載せた場合に、指先にチルト・トリム角調整スイッチが接触する状態にあり、掌には他のスイッチが配置されていないため、チルト・トリム角を調整しない状態での手休めとして本体部の天面を使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
まず、この発明の実施の形態の構成について説明する。
【0033】
図1は、この発明の実施の形態に係るリモコン装置の斜視図であり、図2は、同実施の形態に係るリモコン装置の平面図であり、図3は、同実施の形態に係るリモコン装置の一部を省略した左側面図である。
【0034】
この発明の実施の形態に係るリモコン装置1は、箱形をした本体部2が、船舶の操縦席の前面にある操作盤の前のテーブル上や操縦席の近くのデッキ上に取り付けられる。図示した本体部2は、略截頭四角錐の形状をしており、その稜線部に当たる角部は、人の手等に外傷を加えることのないように十分な丸みが施されている。
【0035】
本体部2の左側面3と右側面4には、複数の船外機等の推進機のシフト操作及びスロットル操作をするための前後に回動自在な操作レバー5,5がそれぞれ立設されている。
【0036】
図3に示したように、略垂直位置の操作レバー5の中立位置Aから所定範囲の間の領域のいわゆるシフト領域Sでは、スロットル弁の全閉状態(アイドリング状態)を保持したままシフト操作のみを行い、操作レバー5の所定範囲を超えた領域のいわゆるスロットル領域Tでは、シフトした状態を保持したままスロットル弁のみを全閉から全開までの開閉操作ができるように構成されている。
【0037】
図4には、この発明に係る電子式遠隔制御装置の構成を示す概略図を示している。
【0038】
この発明に係る船舶には、その中央部に配置されている主操縦席と、この主操縦席の上方に配置されている上部操縦席とが設けられている。そして、主操縦席及び上部操縦席には、それぞれ同一構成、同一機能を有する別個のリモコン装置1,1が配置されている。
【0039】
そして、各リモコン装置1の本体部2の内部には、操作レバー5の回動位置を検出することのできるレバー位置検出器6が設けられている。操作レバー5の位置は逐次、レバー位置検出器6で検出され、その検出値はリモコン側電子制御装置7を介して、船外機Eの制御装置Cの船外機側電子制御装置8に送られようになっている。
【0040】
図示した実施の形態に係るリモコン装置1では、本体部2の天面9に指先を前方に向けて手を載せた場合に、指先で操作できる位置に各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sを有すると共に、掌に接触する部分にはスイッチを配置しておらず、左右一対の操作レバー5,5で三機の推進機を制御する場合を示している。
【0041】
三つのチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sは、手の形に合わせて天面9の後方から前方に向けて放射状に開拡するように並列に配置されており、本体部2の天面9に指先を前方に向けて手を載せた場合に、より自然に人差し指、中指、薬指の指先に各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sが接触するようにしている。
【0042】
これにより、各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sを操作しようとして本体部2の天面9に掌を下に向けて手を載せた場合に、指先にチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sが接触する状態にあり、掌には他のスイッチが配置されていないため、誤って他のスイッチを操作してしまうようなことないから、各推進機の正しいチルト・トリム角の調整が行えると共に、チルト・トリム角を調整しない状態での手休めとして本体部2の天面9を安心して使用できる。さらに、各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sを操作しようとして本体部2の天面9に掌を下に向けて手を載せた場合に、より自然に指先にチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sが接触することになり、無駄な動きをせずに各推進機のチルト・トリム角を調整することができる。
【0043】
天面9は平面から見て後方の幅が前方の幅より狭い略扇状をしており、リモコン装置1が操縦席の右側に配置した場合には、天面9の後方で本体部2の左側面3を親指で支え、右側面4を小指で支えるようにして、親指と小指で本体部2の左側面3と右側面4とを挟み込める大きさとしている。当然に、リモコン装置1が操縦席の左側に配置した場合には、天面9の後方で本体部2の左側面3を小指で支え、右側面4を親指で支えるようになる。
【0044】
これにより、本体部2の天面9に掌を下に向けて手を載せた場合に、本体部2に対して親指と小指で手を支えることができるから、体勢が不安定な航行中であってもより正確に各推進機のチルト・トリム角を調整することができる。
【0045】
なお、本体部2は、合成樹脂材料を使用した射出成形品を組み合わせて組み立てられることが一般的であるが、少なくとも本体部2の左側面3と右側面4との親指又は小指が接触する部分にはシボ加工を施して表面に小さな凹凸11を設けることで、滑り止め効果を発揮できるようにするとよい。
【0046】
操作レバー5,5の上部には水平ハンドル12,12が設けられており、そのいずれか一方の側面には、三機の推進機のチルト・トリム角を一緒に調整するための主チルト・トリム角調整スイッチ13が設けられている。
【0047】
図5は、チルト・トリム角調整スイッチと本体部の天面との関係を示した要部拡大断面図である。
【0048】
三つのチルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sと本体部2との境界部では、各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sが本体部2の天面9より僅かに突出しており、目視で確認しなくとも手で触ればその位置がわかるようにしている。また、推進機のチルト・トリム角を調整するときには、各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sを本体部2の天面9より下方に押し込むことで本体部2内に組み込まれている接点部材14が作動できるように、本体部2の天面9から突出させている突出寸法h1と各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sの内側の下端面15,15と接点部材14,14の接触子16の先端面との間隙の間隙寸法h2とを決定している。図示した実施の形態では、突出寸法h1と隙間寸法h2とはほぼ同じ値としている。
【0049】
各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sの前方側を押し込むと推進機のチルト・トリム角を大きくするように作動し、後方側を押し込むと推進機のチルト・トリム角を小さくするように作動するように構成されている。また、図示した実施の形態では、各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sの前方側の天面に凸部17を形成し、後方側の天面に凹部18を形成することで、チルト・トリム角を大きくするように作動するか、又はチルト・トリム角を小さくするように作動するかは、手で触って判別できるように工夫されている。また、各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sに対応する本体部2の内部に組み込まれている接点部材14は水分に触れることがないように、弾性を有する合成樹脂材料で接点部材14を外気から遮断できる下面が開口した箱形の一体成形品で覆われている。
【0050】
本体部2の背面19側には、左舷側推進機と右舷側推進機を制御する場合に対応する左右制御スイッチ20と中央推進機を制御する中央制御スイッチ21とを設けている。
【0051】
本体部2の天面9の掌が接触するの後方には、左舷側推進機、中央推進機、右舷側推進機のそれぞれに対応する正常作動状態を示す作動表示ランプ22P,22C,22Sと異常作動状態を示す警告表示ランプ23P,23C,23Sを設けている。
【0052】
図示した実施の形態では、本体部2の天面9から背面19にかけて断面略L字形に成形した一枚の半透明の化粧板24で覆われており、作動表示ランプ22P,22C,22Sと警告表示ランプ23P,23C,23Sとは、この化粧板24の内側に配置され、外部からその光を目視できるようになっている。これにより、各推進機毎の正常作動状態又は異常作動状態を直感的に認識することができる。
【0053】
実施の形態に係るリモコン装置1は、主操縦席と上部操縦席にそれぞれ一台配置されるが、両者のリモコン装置1,1は、同一構造、同一機能を有しており、使用時にはどちらか一方が作動状態になるようにしている。
【0054】
図4に示したように、同一船舶に設けられている複数のリモコン装置1のいずれかのリモコン装置1を作動状態にするためのステーション切替スイッチ25は、各リモコン装置1の近傍に配置されるメインスイッチ盤等の別個独立したスイッチ盤26に設けている。つまり、チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10S等の運転中の操作頻度の高いスイッチのみを本体部2に配置し、運転中の操作頻度の低いステーション切替スイッチ25を本体部2から排除しているから、複数のスイッチの実現できる機能の判別が容易となり、より操作性が向上する。
【0055】
リモコン装置1が作動状態でない場合は、表示ランプ22P、22C、22Sが消灯する。
【0056】
なお、図示した実施の形態は、三機の推進機を備えた船舶に使用されるリモコン装置について説明したが、二機又は四機の推進機を備えた船舶の場合には、本体部2の天面9に設けるチルト・トリム角調整スイッチの数をそれらの推進機の数に対応させて二つ又は四つ設けるようにすればよい。
【0057】
リモコン装置1には、船外機Eに設けられた船外機側電子制御装置8を介して船外機Eのシフト操作、スロットル操作及びチルト・トリム角の調整をするための制御機構28が接続されている。
【0058】
これにより、操作レバー5を操作した場合に、その操作位置に応じたレバー位置検出器6からの信号を受けたリモコン側電子制御装置7の命令信号が船外機側電子制御装置8を介して制御機構28に伝達され、船外機Eのプロペラの正回転、逆回転或いは中立位置とを切り替えるシフト装置(図示せず)が作動されることになる。また、操作レバー5によってスロットル操作をした場合には、その操作位置に応じたレバー位置検出器6からの信号を受けたリモコン側電子制御装置7の命令信号が船外機側電子制御装置8を介して制御機構28に伝達され、船外機Eのエンジンのスロットル弁(図示せず)の開度が決定されることになる。
【0059】
本体部2の左側面3又は右側面4のいずれか一方には、空吹かし状態と通常状態とを切り替えることのできる空吹かしスイッチ29を設けている。この空吹かしスイッチ29は、電気的な回路の開閉によって空吹かし状態と通常状態とを切り替えるものであって、空吹かし状態に切り替えた場合には、通常状態に切り替えるための押圧操作をしない限り、空吹かし状態が維持できるものであるから、機械式の空吹かしボタンのように常時押していなくとも空吹かし状態を保つことができる。そのため、機械式の遠隔操作装置のように、操作レバー5の回動操作を行っても空吹かしスイッチ29が操作レバー5の動きに伴って回動することがないから、空吹かしスイッチ29を押している指が連れ回りすることはないと共に、機械式の遠隔操作装置と同じ配置を採用しているため、操作レバー5と空吹かしスイッチ29を同時に操作する際に違和感を感じることがない。
【0060】
次に、この発明の実施の形態に係るリモコン装置の使用方法を説明する。
【0061】
スイッチ盤26には、複数のリモコン装置1のうち、どのリモコン装置1の作動を制御器8で採用するかを決定するために設けられたステーション切替スイッチ25が設けられている。すなわち、例えば主操縦席のリモコン装置1を作動状態にするには、主操縦席に設置されたステーション切替スイッチ25を作動状態にすることにより、その信号が主操縦席に設置されたリモコン装置1のリモコン側電子制御装置7に送られる。
【0062】
その結果、上方操縦席に設置されたリモコン装置1のリモコン側電子制御装置7から発せられる信号は主操縦席に配置されたリモコン装置1のリモコン側電子制御装置7にて遮断され、主操縦席に配置されたリモコン装置1の信号のみが船外機Eに設けられている船外機側電子制御装置8に発信され、制御機構28に伝達されてシフト操作、スロットル操作及びチルト・トリム角の調整が実行される。
【0063】
図3に示したように、操作レバー5はAの位置で中立、Bの位置で前進、B′の位置で後進の各位置にある。操作レバー5をBの位置からCの位置まで回動操作すると、シフト装置(図示せず)はそのままの状態を保持したまま、通常モードの場合では、スロットル弁が全閉(アイドリング)から全開に、低速モードの場合では、スロットル弁が全閉(アイドリング)から中開度に、シフトモードの場合では、スロットル弁が全閉(アイドリング)の状態を保持しままになるように、リモコン側電子制御装置7と船外機側電子制御装置8とによって制御される。
【0064】
一方、操作レバー5をB′の位置からC′の位置まで回動操作すると、シフト装置はそのままの状態を保持したまま、スロットル弁が全閉(アイドリング)から全開になるように、リモコン側電子制御装置7と船外機側電子制御装置8とによって制御される。
【0065】
操作レバー5の位置は逐次、レバー位置検出器6で検出され、その検出値は電線を介して、リモコン側電子制御装置7と船外機側電子制御装置8に送られる。操作レバー5をA位置方向に戻す場合は、上記の逆の動作となる。
【0066】
各チルト・トリム角調整スイッチ10P,10C,10Sの前方側の天面の凸部17を下方へ押し込むと、その信号がリモコン側電子制御装置7を介して、操作したスイッチに対応する船外機Eの制御装置Cの船外機側電子制御装置8に送られ、制御機構28の中の一つであるチルト・トリム角を調整するアクチュエータ(図示せず)が作動しその船外機Eのチルト・トリム角が大きくなる。また、後方側を天面の凹部18押し込むと、その信号がリモコン側電子制御装置7を介して、操作したスイッチに対応する船外機Eの制御装置Cの船外機側電子制御装置8に送られ、その船外機Eのチルト・トリム角が小さくなる。
【0067】
次に、左右制御スイッチと中央推進機を制御する中央制御スイッチの二つのスイッチで三機の推進機を切り替えて使用する方法について説明する。
【0068】
初期状態では、図6(a)に示したように、左舷側推進機30P、中央推進機30C、右舷側推進機30Sのすべてが作動状態にあるから、作動表示ランプ22P,22C,22Sはすべて点灯している。
【0069】
次に、初期状態から左右制御スイッチ20を押すと、図6(b)に示したように、中央推進機30Cが停止し作動表示ランプ22Cが消灯し、左舷側推進機30Pと右舷側推進機30Sとが作動状態となり作動表示ランプ22Pと22Sが点灯する。この状態から左右制御スイッチ20を押すと中央推進機30Cが作動し作動表示ランプ22Cが点灯し、左舷側推進機30P、中央推進機30C、右舷側推進機30Sのすべてが作動状態となり、作動表示ランプ22P,22C,22Sはすべて点灯する。
【0070】
初期状態から中央制御スイッチ21を押すと、図6(c)に示したように、左舷側推進機30Pが停止し作動表示ランプ22Pが消灯し、中央推進機30Cと右舷側推進機30Sとが作動状態となり作動表示ランプ22Cと22Sが点灯する。この状態から中央制御スイッチ21を押すと左舷側推進機30Pが作動し作動表示ランプ22Pが点灯し、左舷側推進機30P、中央推進機30C、右舷側推進機30Sのすべてが作動状態となり、作動表示ランプ22P,22C,22Sはすべて点灯する。
【0071】
以上にように、実施の形態に係るリモコン装置1によれば、操作レバー5,5の操作と左右制御スイッチ20と中央制御スイッチ21との使い分けが同時に行えるから、どの推進機に対してどのような操作をするかといった操縦が行える。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】この発明の実施の形態に係るリモコン装置の斜視図である。
【図2】同実施の形態に係るリモコン装置の平面図である。
【図3】同実施の形態に係るリモコン装置の一部を省略した左側面図である。
【図4】この発明に係る電子式遠隔制御装置の構成を示す概略図である。
【図5】同実施の形態に係るリモコン装置のチルト・トリム角調整スイッチと本体部の天面との関係を示した要部拡大断面図である。
【図6】同実施の形態に係るリモコン装置の左右制御スイッチと中央制御スイッチとで三機の推進機を切り替えて使用する方法の説明図である。
【図7】従来のリモコン装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
1 リモコン装置
2 本体部
3 左側面
4 右側面
5 操作レバー
6 レバー位置検出器
7 リモコン側電子制御装置
8 船外機側電子制御装置
9 天面
10P,10C,10S チルト・トリム角調整スイッチ
14 接点部材
22P,22C,22S 作動表示ランプ
23P,23C,23S 異常表示ランプ
29 空吹かしスイッチ
C 制御機構
E 船外機(推進機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の推進機を有する船舶の推進機の出力調整及びチルト・トリム角調整をするためのリモコン装置であって、箱形をした本体部の左側面と右側面には前記推進機のシフト操作及びスロットル操作をするための前後に回動自在な操作レバーがそれぞれ立設されており、前記本体部の天面に指先を前方に向けて手を載せた場合に、指先で操作できる位置に各推進機に対応したチルト・トリム角調整スイッチを有すると共に、掌に接触する部分にはスイッチを配置していないことを特徴とする船舶のリモコン装置。
【請求項2】
前記複数のチルト・トリム角調整スイッチは、前記天面の後方から前方に向けて放射状に開拡するように並列配置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶のリモコン装置。
【請求項3】
前記天面は平面から見て後方の幅が前方の幅より狭い略扇状をしており、前記天面の後方で前記本体部の左右側面を親指と小指とで挟み込める大きさであることを特徴とする請求項1に記載の船舶のリモコン装置。
【請求項4】
前記複数のチルト・トリム角調整スイッチと前記本体部との境界部で前記チルト・トリム角調整スイッチが前記本体部の天面より突出しており、推進機のチルト・トリム角調整時には前記チルト・トリム角調整スイッチを前記本体部の天面より下方に押し込むことで前記本体部内に組み込まれている接点部材が作動できるようにしていることを特徴とする請求項1に記載の船舶のリモコン装置。
【請求項5】
前記本体部の天面の後方には、前記複数の推進機に対応する正常作動状態を示す作動表示ランプと異常作動状態を示す警告表示ランプを設けていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の船舶のリモコン装置。
【請求項6】
前記左右一対の操作レバーで三機の推進機を制御する場合において、左舷側推進機と右舷側推進機を制御する場合に対応する左右制御スイッチと中央推進機を制御する中央制御スイッチとを、前記本体部の後面側に設けていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の船舶のリモコン装置。
【請求項7】
前記本体部の左右側面のいずれか一方に、空吹かしスイッチを設けていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の船舶のリモコン装置。
【請求項8】
同一船舶に設けられている複数のリモコン装置のステーション切替スイッチは、各リモコン装置の近傍に配置されるメインスイッチ盤等の別個独立したスイッチ盤に設けていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の船舶のリモコン装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一つに記載のリモコン装置を備えていることを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−283951(P2007−283951A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115305(P2006−115305)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)