説明

船舶の船首形状

【課題】船体の長さを増すことなく波浪中抵抗増加量を低減できる船舶の船首形状を提供すること。
【解決手段】船舶の船首形状において、オリジナル形状の船体形状をえぐり取って船首11の船体幅を平水水面位置H1付近から航行時の水面上昇範囲H2まで略同一にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型船舶に適用される船舶の船首形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の航行時においては、水から船体に受ける抵抗が航行速度や燃料消費量等に影響することが知られている。この水中抵抗には、波浪のない状態で船体が水から受ける平水中抵抗と、波浪中を航行する時の波浪中抵抗があり、平水中抵抗からの増加量を波浪中抵抗増加量という。
波浪中抵抗増加量は、(1)船体動揺に基づく成分(動揺によるエネルギの消費)と、(2)船首部の反射波に基づく成分(波の衝突による反作用)との和によって与えられる。波の発現頻度を考えると、海域にもよるが、波周期10秒程度で累積確率は90%を超える。これは、波長としては100〜150mに相当するため、特に、船体の長さ(以下、「船長」と呼ぶ)が200mを超えるような大型船では、波長船長比(波長/船長)が1より小さな値となる。このような大型船は、特に波長船長比が0.7程度(波長≪船長)より小さくなるような大型船は、通常航海において遭遇頻度の高い波の波長が船長と比較してかなり短いものとなる。このため、大型船の船体動揺は小さくなり、従って、船首反射波による成分が支配的となる。すなわち、図6に示すように、波長船長比が1付近の領域では船体動揺による抵抗増加が支配的となるため抵抗増加係数も大きくなるが、波長船長比が1以下に小さくなればなるほど、反射波による抵抗増加が支配的となって抵抗増加係数は小さくなることが知られている。
【0003】
図5に示す通常の船首形状(オリジナル形状)では、船体1の船首部推進抵抗を小さくするため、波浪のない平水水面付近の船体幅を細くし、さらに、甲板スペースを確保するため、平水水面付近から上方になるほど船体幅を広げたフレアー形状に設計される。
このため、航行時に船体へ向けて入射する波が船体前面のフレアー2に当たって反射され、この影響を受けて波浪中抵抗増加量が増大する。このような傾向は、特にフレアー2の部分の幅が大きく、船首部の反射波による成分が支配的となる大型船でより顕著となる。
【0004】
そこで、航行中に水から受ける抵抗、特に上述した波浪中抵抗増加量を低減できる肥大船の船首形状として、船首部分を前方に延長してできるだけ尖らせたものが提案されている。(たとえば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2000−142553号公報(図5参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の従来技術の場合、船首先端を延長して長くするものであるから、荷室等の有効空間を増すことなく単に船体の全長が増大する。このため、たとえば入出港時の船体取り回しが困難になるだけでなく、船舶の全長で定められる入港料の増大を招くという問題を有している。
このような背景から、船首先端を前方へ延長することなく、反射波による抵抗増加を抑制して波浪中抵抗増加量を低減できる船舶の船首形状の開発が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、船体の長さを増すことなしに波浪中抵抗増加量を低減できる船舶の船首形状を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る請求項1は、船舶の船首形状において、オリジナル形状の船体形状をえぐり取って船首の船体幅を平水水面位置付近から航行時の水面上昇範囲まで略同一にしたことを特徴とするものである。
【0007】
上述した本発明によれば、オリジナル形状の船体形状をえぐり取って船首の船体幅を平水水面位置付近から航行時の水面上昇範囲まで略同一とした船首形状にしたので、波浪中の抵抗増加量は、船首部の反射波に基づく成分を低減することができる。
【0008】
本発明に係る請求項2は、船舶の船首形状において、オリジナル形状の船体形状をえぐり取ってステム形状を波浪の入射波に対して傾斜させたことを特徴とするものである。
【0009】
上述した本発明によれば、オリジナル形状の船体形状をえぐり取ってステム形状を波浪の入射波に対して傾斜させたので、波浪中の抵抗増加量は、船首部の反射波に基づく成分を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明によれば、オリジナルの船体形状をえぐり取ることにより、船首の船体幅を平水水面位置付近から航行時の水面上昇範囲まで略同一としたり、あるいは、ステム形状を波浪の入射波に対して傾斜させることにより、船体の長さを増すことなく船首部の反射波に基づく成分を低減し、波浪中の抵抗増加量を小さくすることができる。従って、港湾への入出港時の取り回しや入港料等に関する問題を生じることがなく、しかも、航行速度や燃費の向上に貢献するという顕著な効果が得られる船舶の船首形状を提供することができる。
また、このような効果は、船首の船体幅を平水水面位置付近から航行時の水面上昇範囲まで略同一とし、かつ、ステム形状を波浪の入射波に対して傾斜させることにより、より一層顕著になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る船舶の船首形状の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示す船体10の船首形状は、図5に示したオリジナル形状の船体1をえぐり取ることにより、船首11の船体幅が、平水水面位置H1付近から航行時の水面上昇範囲H2まで略同一幅W(図2参照)の細い断面形状とされる。すなわち、船体が水を切って水中を進む船首11の先端部分は、船体幅を細い断面形状とする領域が、平水水面位置H1付近から最大喫水線よりも高い位置となる水面上昇範囲H2まで延長されている。そして、水面上昇範囲H2を超えた位置から上方の船体幅は、徐々にオリジナル形状の船体1と一致するように広げられている。
【0012】
この結果、船体幅をWまで細くした領域はオリジナル形状より上方へ長くなり、航行中の波浪により水面が上昇する領域においても水を切る推進抵抗の小さな船首形状となる。このような船首形状では、波浪の影響で水面上昇した水中を航行する部分の推進抵抗が小さいだけでなく、フレアー12が波浪を受けて反射する波の抵抗も小さくなるため、波浪中の抵抗増加量は船首部の反射波に基づく成分が低減される。
【0013】
また、図1及び図2に示す船体10の船首形状は、図5に示したオリジナル形状の船体1をえぐり取ることにより、ステム13の形状を波浪の入射波に対して傾斜させた形状、すなわち、水面側へ近づける方向へ傾斜を増して寝かせた形状とされる。
この結果、入射波に対して傾斜した船首形状となって反射波を小さくすることができるので、波浪中の抵抗増加量は、船首部の反射波に基づく成分が低減される。
【0014】
図3は、本発明による改良船型と従来のオリジナル船型とを重ねて示したものであり、(a)は船首先端近傍における船体幅を規定するフレームライン、(b)は船体軸中心位置におけるステムラインである。
図3(a)に示すフレームラインによれば、実線で示す改良船型は、想像線で示すオリジナル形状の船体1をえぐり取って船体幅を細くした様子が分かる。
また、図3(b)に示すステムラインによれば、実線で示す改良船型は、想像線で示すオリジナル形状の船体1をえぐり取ってステムラインを後退させ、水面との角度を小さくするように傾斜を増している、すなわち、水面と平行になる方向へ傾斜を増している様子が分かる。
【0015】
このように、オリジナル形状の船体1をえぐり取ることにより、船首11の先端側で航行時の水面上昇範囲まで船体幅を狭め、かつ、ステムラインを入射波に対して小さくした船首形状とした改良船型は、図4に示す水槽試験結果のように、オリジナル船型と比較して抵抗増加係数が低下することを確認できた。このような抵抗増加係数の低減は、波浪中を航行する船舶の速度を向上させ、燃料消費量を低減する効果がある。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る船舶の船首形状の一実施形態を示す図で、(a)は外観形状を示す斜視図、(b)は(a)の側面図である。
【図2】図1に示す船首形状の正面図である。
【図3】本発明による改良船型と従来のオリジナル船型とを重ねて要部形状を示したもので、(a)は船首先端近傍における船体幅を規定するフレームライン、(b)は船体軸中心位置におけるステムラインである。
【図4】本発明の効果を示す水槽試験結果であり、波長船長比(波長/船長)と抵抗増加係数との関係を示している。
【図5】従来の船舶の船首形状(オリジナル形状)を示す図で、(a)は外観形状を示す斜視図、(b)は(a)の側面図である。
【図6】船舶における波長船長比(波長/船長)と抵抗増加係数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0017】
10 船体
11 船首
12 フレアー
13 ステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船首形状において、
オリジナル形状の船体形状をえぐり取って船首の船体幅を平水水面位置付近から航行時の水面上昇範囲まで略同一にしたことを特徴とする船舶の船首形状。
【請求項2】
船舶の船首形状において、
オリジナル形状の船体形状をえぐり取ってステム形状を波浪の入射波に対して傾斜させたことを特徴とする船舶の船首形状。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−224811(P2006−224811A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40944(P2005−40944)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)