説明

船舶及び推進装置

【課題】オーバーラッピングプロペラ方式を用いた二軸船において、前方プロペラで発生するチップボルテックスキャビテーションによる後方プロペラのエロージョンを防止することができる船舶の推進装置を提供する。
【解決手段】左舷プロペラ120と、船長方向における左舷プロペラ120の前方又は後方の位置で、翼115の一部が左舷プロペラ120の翼125とオーバーラップするように設けられた右舷プロペラ110とを具備する。左舷プロペラ120と右舷プロペラ110のうち、前方に位置する前方プロペラ120は後方に位置する後方プロペラ110よりチップボルテックスキャビテーションが発生しにくい翼形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶に関し、特に船舶の推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の推進装置の一例として、1機一軸(1機の主機と1基のプロペラ)の方式、及び2機二軸(2機の主機と2基のプロペラ)の方式が知られている。一般商船の推進装置としては、これら1機一軸方式、又は2機二軸方式を採用することが多い。それぞれ、前者を採用した船舶は一軸船、後者を採用した船舶は二軸船とも呼ばれている。
【0003】
また、近年の船舶の大型化に伴い、一軸船ではプロペラの荷重度の増加に伴う推進効率の低下、キャビテーション範囲の拡大に伴う船体振動の増加及びエロージョンの発生が問題となるケースがある。それら問題は船舶を二軸船とすることで解決できることが知られている。二軸船とすると、1基当たりのプロペラ荷重度が低減され、プロペラ効率が向上し、キャビテーション発生範囲が低減できるからである。
【0004】
船尾に2基のプロペラを配置する例としては、オーバーラッピングプロペラ(OLP;Overlapping Propellers)の方式、インターロックプロペラの方式、及び、プロペラを左右並列する方式などがある。OLP方式では、2基のプロペラを前後にずらして配置し、船尾から見た場合に2基のプロペラが重なるように配置する。OLP方式を採用することで推進性能が一軸船から5〜10%程度改善できる。また、インターロックプロペラ方式では、一方のプロペラの翼と翼との間に他方のプロペラの翼が入るように配置する。プロペラを左右並列する方式では、プロペラを船長方向の同じ位置に並べて配置する。
【0005】
ここで、一軸船型の船尾構造(スケグ方式の船尾であり、船尾中央部分を薄くしてプロペラ軸を近づけた船尾)に2基のプロペラを配置する際のプロペラの位置関係は、船体中心線付近の遅い流れやビルジ渦のような船尾の縦渦との関係から船体中心近傍に配置することが好ましい。船尾において、通常の一軸船のプロペラの位置では船体中心線に対称な1組の内回りに回転するビルジ渦のような遅い流れの縦渦が発生する。プロペラは流れの遅い場所で効率がよくなるように設計されているため、その縦渦付近にてプロペラを回転させ、船体中心線付近の遅い流れや縦渦を回収することで、推進効率を向上させることができるからである。OLP方式の場合では、船体中心近傍の縦渦を効率良く回収して推進性能向上が図られるよう、プロペラ回転方向は外回りが採用されることが多い。
【0006】
例えば、特許文献1(WO2006/095774号公報)には、一軸船型の船尾構造
にOLPを採用した場合のプロペラ荷重度やキャビテーションの発生を低減させる技術が
記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/095774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、OLP方式を用いた二軸船の場合、前方プロペラの翼端で発生するチップボルテックスキャビテーション(TVC)が後方プロペラに当たって後方プロペラ翼面上にエロージョンが発生する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、OLP方式を用いた二軸船において、前方プロペラで発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0011】
本発明による船舶の推進装置(101)は、左舷プロペラ(120)と、船長方向における前記左舷プロペラの前方又は後方の位置で、翼(115)の一部が前記左舷プロペラの翼(125)とオーバーラップするように設けられた右舷プロペラ(110)とを具備する。前記左舷プロペラと前記右舷プロペラのうち、前方に位置する前方プロペラ(120)は後方に位置する後方プロペラ(110)よりチップボルテックスキャビテーションが発生しにくい翼形状を有する。
【0012】
上記推進装置において、前記前方プロペラの翼数は前記後方プロペラの翼数より多い。
【0013】
上記推進装置において、前記前方プロペラの翼面積は前記後方プロペラの翼面積より大きい。
【0014】
上記推進装置において、前記前方プロペラの翼端ピッチは前記後方プロペラの翼端ピッチより小さい。
【0015】
上記推進装置において、前記前方プロペラの翼端(125a)近傍における翼幅(W2)は前記後方プロペラの翼端(115a)近傍における翼幅(W1)より広い。
【0016】
上記推進装置において、前記前方プロペラのスキューはフォワードスキューであり、前記後方プロペラのスキューはバックワードスキューである。
【0017】
上記推進装置において、前記前方プロペラの翼端(125a)にウィングレット(127)又は翼端板(128)が設けられ、前記後方プロペラの翼端(115a)にウィングレット又は翼端板のいずれも設けられない。
【0018】
本発明による船舶(100)は、上記推進装置を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、前方プロペラで発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される船舶の推進装置及び船舶が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る船舶の船尾部分の底面図である。
【図2】図2は、第1の実施形態に係る船舶が備える前方プロペラ及び後方プロペラを船尾から見た図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る前方プロペラ及び後方プロペラを船尾から見た図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施形態に係る前方プロペラのピッチと後方プロペラのピッチとを比較するグラフである。
【図5】図5は、本発明の第4の実施形態に係る前方プロペラ及び後方プロペラを船尾から見た図である。
【図6】図6は、本発明の第5の実施形態に係る前方プロペラ及び後方プロペラを船尾から見た図である。
【図7A】図7Aは、本発明の第6の実施形態に係る前方プロペラの翼端部分の形状の一例を示す断面図である。
【図7B】図7Bは、第6の実施形態に係る前方プロペラの翼端部分の形状の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明による船舶及び推進装置を実施するための形態を以下に説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る船舶100は、OLP方式を用いた二軸船である。船舶100は、推進装置101と、舵105とを備える。推進装置101は、右舷主機131と、左舷主機132と、右舷プロペラ軸112と、左舷プロペラ軸122と、左舷プロペラ110と、右舷プロペラ120とを備える。右舷主機131及び左舷主機132は船尾船体103内に配置されている。右舷プロペラ110は複数の翼115を備える。左舷プロペラ120は複数の翼125を備える。右舷プロペラ110は、船長方向における左舷プロペラ120の後方の位置で、翼115の一部が翼125とオーバーラップするように設けられている(OLP方式)。舵105は、右舷プロペラ110及び左舷プロペラ120の後方、船体中心線C上に設けられている。右舷プロペラ110は右舷プロペラ軸112を介して右舷主機131に接続される。左舷プロペラ120は左舷プロペラ軸122を介して左舷主機132に接続される。右舷主機131は右舷プロペラ110を回転中心線S1まわりに回転させる。左舷主機132は左舷プロペラ120を回転中心線S2まわりに回転させる。回転中心線S1は船体中心線Cより右側に位置し、回転中心線S2は船体中心線Cより左側に位置する。右舷プロペラ110及び左舷プロペラ120は外回りに回転する。すなわち、右舷プロペラ110は、翼115が船体中心線Cを横切るときに上向きに移動するように回転し、左舷プロペラ120は、翼125が船体中心線Cを横切るときに上向きに移動するように回転する。右舷プロペラ110のプロペラ半径R1は、回転中心線S1と翼端115aとの距離に一致する。左舷プロペラ120のプロペラ半径R2は、回転中心船S2と翼端125aとの距離に一致する。プロペラ半径R1はプロペラ半径R2と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0023】
以下、右舷プロペラ110が左舷プロペラ120より後方に位置する場合を説明するが、右舷プロペラ110と左舷プロペラ120の前後は逆でもよい。以下の説明では、右舷プロペラ110を後方プロペラ110と呼び、左舷プロペラ120を前方プロペラ120と呼ぶ。
【0024】
前方プロペラ120と後方プロペラ110は翼形状が異なり、前方プロペラ120は後方プロペラ110よりチップボルテックスキャビテーション(TVC)が発生しにくい翼形状を有している。例えば、後方プロペラ110の翼形状は推進効率を優先して設計される。前方プロペラ120の翼形状は、推進効率が多少犠牲になってもTVCが発生しにくくなるように後方プロペラ110の翼形状を小変更することで設計される。したがって、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。
【0025】
図2を参照して、前方プロペラ120及び後方プロペラ110の翼形状を具体的に説明する。前方プロペラ120の翼125の枚数は後方プロペラ110の翼115の枚数より多い。したがって、前方プロペラ120ではTVCが発生しにくく、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。図2において、前方プロペラ120の回転方向142及び後方プロペラ110の回転方向141が外回りであることが示されている。
【0026】
図2においては前方プロペラ120のスキュー及び後方プロペラ110のスキューの両方がバックワードスキューであるが、前方プロペラ120のスキュー及び後方プロペラ110のスキューの両方がフォワードスキューであってもよい。
【0027】
(第2の実施形態)
図3を参照して、本発明の第2の実施形態に係る前方プロペラ120及び後方プロペラ110の翼形状を説明する。前方プロペラ120の翼125一枚の面積は後方プロペラ110の翼115一枚の面積よりも大きい。したがって、前方プロペラ120ではTVCが発生しにくく、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。
【0028】
図3においては前方プロペラ120のスキュー及び後方プロペラ110のスキューの両方がバックワードスキューであるが、前方プロペラ120のスキュー及び後方プロペラ110のスキューの両方がフォワードスキューであってもよい。
【0029】
(第3の実施形態)
図4を参照して、本発明の第3の実施形態に係る前方プロペラ120及び後方プロペラ110の翼形状を説明する。図4のグラフにおいて、横軸はプロペラの回転中心線からの無次元距離r/Rを示し、縦軸はプロペラ翼のピッチPを示す。曲線P1は翼115のピッチと無次元距離r1/R1との対応関係を示し、曲線P2は翼125のピッチと無次元距離r2/R2との対応関係を示す。ここで、記号r1は回転中心線S1からの距離を示し、記号r2は回転中心線S2からの距離を示す。翼端125a(r2/R2=1)におけるピッチは翼端115a(r1/R1=1)におけるピッチより小さい。したがって、前方プロペラ120ではTVCが発生しにくく、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。尚、翼端125aにおけるピッチが翼端115aにおけるピッチより小さければ、曲線P1及び曲線P2は図4に示す形状に限定されない。
【0030】
(第4の実施形態)
図5を参照して、本発明の第4の実施形態に係る前方プロペラ120及び後方プロペラ110の翼形状を説明する。前方プロペラ120の翼端125a近傍における翼125の翼幅W2は、後方プロペラ110の翼端115a近傍における翼115の翼幅W1より広い。例えば、回転中心線S2からの距離をr2で表し、回転中心線S1からの距離をr1で表したとき、翼幅W2はr2/R2=0.95の位置における翼125の翼幅であり、翼幅W1はr1/R1=0.95の位置における翼115の翼幅である。したがって、前方プロペラ120ではTVCが発生しにくく、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。
【0031】
図5においては前方プロペラ120のスキュー及び後方プロペラ110のスキューの両方がバックワードスキューであるが、前方プロペラ120のスキュー及び後方プロペラ110のスキューの両方がフォワードスキューであってもよい。
【0032】
(第5の実施形態)
図6を参照して、本発明の第5の実施形態に係る前方プロペラ120及び後方プロペラ110の翼形状を説明する。前方プロペラ120のスキューはフォワードスキューであり、後方プロペラ110のスキューはバックワードスキューである。したがって、前方プロペラ120ではTVCが発生しにくく、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。
【0033】
(第6の実施形態)
図7Aを参照して、本発明の第6の実施形態に係る前方プロペラ120の翼端部分の形状の一例を説明する。前方プロペラ120の翼端125aにウィングレット127が設けられている。ウィングレット127は、前方に向かって突き出していてもよく、後方に向かって突き出していてもよい。
【0034】
図7Bを参照して、本発明の第6の実施形態に係る前方プロペラ120の翼端部分の形状の他の例を説明する。前方プロペラ120の翼端125aに翼端板128が設けられている。
【0035】
本実施形態においては、前方プロペラ120の翼端125aにウィングレット127又は翼端板128が設けられるのに対し、後方プロペラ110の翼端115aにはウィングレット又は翼端板のいずれも設けられない。したがって、前方プロペラ120ではTVCが発生しにくく、前方プロペラ120で発生するTVCによる後方プロペラのエロージョンが防止される。
【0036】
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態に様々な変更を行うことが可能であり、上記実施の形態どうしを組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
100…船舶
101…推進装置
103…船尾船体
105…舵
110…右舷プロペラ
112…右舷プロペラ軸
115…翼
115a…翼端
120…左舷プロペラ
122…左舷プロペラ軸
125…翼
125a…翼端
127…ウィングレット
128…翼端板
131…右舷主機
132…左舷主機
141、142…回転方向
C…船体中心線
S1、S2…回転中心線
R1、R2…プロペラ半径
P1、P2…曲線
W1、W2…翼幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左舷プロペラと、
船長方向における前記左舷プロペラの前方又は後方の位置で、翼の一部が前記左舷プロペラの翼とオーバーラップするように設けられた右舷プロペラと
を具備し、
前記左舷プロペラと前記右舷プロペラのうち、前方に位置する前方プロペラは後方に位置する後方プロペラよりチップボルテックスキャビテーションが発生しにくい翼形状を有する
船舶の推進装置。
【請求項2】
前記前方プロペラの翼数は前記後方プロペラの翼数より多い
請求項1の船舶の推進装置。
【請求項3】
前記前方プロペラの翼面積は前記後方プロペラの翼面積より大きい
請求項1又は2の船舶の推進装置。
【請求項4】
前記前方プロペラの翼端ピッチは前記後方プロペラの翼端ピッチより小さい
請求項1乃至3のいずれかに記載の船舶の推進装置。
【請求項5】
前記前方プロペラの翼端近傍における翼幅は前記後方プロペラの翼端近傍における翼幅より広い
請求項1乃至4のいずれかに記載の船舶の推進装置。
【請求項6】
前記前方プロペラのスキューはフォワードスキューであり、
前記後方プロペラのスキューはバックワードスキューである
請求項1乃至5のいずれかに記載の船舶の推進装置。
【請求項7】
前記前方プロペラの翼端にウィングレット又は翼端板が設けられ、
前記後方プロペラの翼端にウィングレット又は翼端板のいずれも設けられない
請求項1乃至6のいずれかに記載の船舶の推進装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の船舶の推進装置を備える船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2012−86667(P2012−86667A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234853(P2010−234853)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)